世界が見えた世界・3話 B


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 陽菜と話しながら家の前まで来たところで、後ろから声をかけられた。
「兄貴!? あ、あれ? 何で陽菜さんと一緒にいるの!?」
 振り返るまでもない、美羽の声だ。
「あら、ヒロトさんもお出かけだったんですか?」
「ということは、今はミユが家にひとりだけか?」
 思わず振り返った。
 妹と同居人二人が並んで歩いていた。その手には、なにやら大きめの紙袋がぶら下がっている。
「……ちょっと兄貴、あんでワタシの時には振り返りもしないのよ」
「そんな小さなことを気にするなよ。小さいのは胸だけでいやなんでもないからその拳をおろせ」
 ちょっとからかっただけで物凄い睨まれるわ牙剥かれるわ。
「にしても、学校に何の用事だったんだ? 随分遅かったけど」
 時刻はもう五時を回っている。昨日の学校案内だってもう少し早く終わってたぞ。
 朝から出ていたにしては長すぎると思うんだが。いったい学校に何をしに行ってたんだか。
「ええ、それなんですけど実は……」
「ユリアさんストーップ! それは兄貴には秘密にするって約束でしょ!」
「そうですよ姫様。ここでそれをみせてしまっては計画が台無しです」
 紙袋をごそごそと探るユリアさんを制止した美羽とレンさんが、目の前でナイショ話をしている。
 どうしよう、これ放っといていいのか?
 家の前で繰り広げられる、ひそひそばなし3人組と呆然と突っ立ってる男女の寸劇。
 どうしたもんかと考えていたところ、くいくいと袖が引っ張られる。陽菜だ。
 なぜか、顔が真っ青だった。
「ヒ、ヒロ君……あの人たち、知り合い?」
「知り合い、というかなんというか……同居人」
「どぉっ!?」
 これでもかといわんばかりの驚愕の表情の陽菜。今日の陽菜は百面相だなぁとか思ったが、昔からこんなだった気がするから別に特別なことじゃないのか。
「あら、ヒロトさん。そちらの方は、ご友人ですか?」
「ええ、まあ…………おい、陽菜、しっかりしろ!」
「はっ! あ、ご、ごめんなさい! いやちょっと意識が冥王星辺りまで散歩してまして!」
「いいから落ち着け、えーっと、軽く紹介したほうがいいのかな?」
 そこで少しいたずら心が刺激された。ここで一発ネタをやらずして何が結城大翔か! そんな神の声が、天啓が俺に降り注いだのだ!!
 ふむ。となると、やっぱり一番冗談として面白そうなのは。
「こちら、俺の彼女のユリアさん」
 なーんちゃって。
 そんな事言う暇を誰一人として与えてくれなかった。
「貴様そこへなおれぇぇぇ! そっ首叩き落してくれる!!」
 陽光を受けて眩しく光る刃がすらりと鞘から引き抜かれる。
「のあー!? ヒ、ヒロ君に彼女が!? そ、そんな情報聞いてないよぉ!?」
 三軒隣どころか隣町にまで響きそうなほどの声を張り上げる陽菜。
「こ、このバカ兄貴! たった一日でいきなり手ぇ出したっての!?」
 すでに殺る気満々の拳を振り上げている美羽。
「お、お兄ちゃん……!? お兄ちゃんが結婚しちゃうの…………!?」
 そして驚きの中にどこか期待を織り交ぜた美優。
 とりあえず言わせてもらいたい。レンさん刃物をしまって下さい陽菜情報ってどういうことだ美羽なんだそのいつかやると思ってましたみたいな言い方そして美優はいつからそこにいやがった…………!!
 だがしかしそんな余裕はカケラもなかった。
 ちょっとした冗談の代償はあまりにも大きい。
「えー、皆さん落ち着いてください。とりあえず気分を落ち着けて、どうどうどう。いいですか? あなた達がわたくしに対してどのような印象をお持ちなのかはわかりませんが、はっきり言いましょう。あんたらもっと冗談とかそういうのをって、ああぁぁぁぁぁっ! えええあああああああ!!!!」
 薄紫色に染まっていく空に、悲痛な叫びがこだました。



「……あのう、大丈夫ですか?」
「いいえ、ケフィアです」
「大丈夫みたいですね」
 いや、超グロッキーなんですけど。
 ぼろ雑巾のように庭にうち捨てられた俺を、ユリアさんが少し離れたところから覗き込んでいた。ちなみにどうして距離をとっているのかといえば、俺の周りに有刺鉄線が張り巡らされているからだった。
 超厳重っすねこんちくしょう。
 まったく、冗談が通じるのはユリアさんだけかよ。
「そういえば、私たちって恋人同士なのですか?」
「あんたもか」




 家の前で騒ぐことの30分後。
 ようやくみんなでリビングでくつろぐ事ができた。自業自得といえばそれまでなんだが、みんなもう少しユーモアというものを解したほうがいいと思う。
 まさか妹まで信じちゃうなんてお兄ちゃんびっくりだ。普段どんな目で俺を見てるんだ、特に美優。
「兄貴はたまに突拍子もない事言うからびっくりするの。日によってテンションが違いすぎるのよ」
「俺のテンションが変わるのは周りの連中に引っ張られてるせいだぞ。俺は悪くない」
「十分悪いってーの! もう子供じゃないんだから、もっとしっかりしてよね!」
「…………まともに料理もできないくせに」
「ああん、何か仰いまして!?」
 図星を突かれたからって怒るなよ……。
 あのあと、どうにか場を納めて陽菜とユリアさんたちを互いに紹介した。そのあと、せっかくだからということで陽菜がうちで飯を食っていくことになった。
 ちなみに作るのは、俺一人。
 美羽を除く残りの性別女の子達はみんな向こうで談笑してる。仲良くなるのはいいんだけど、少しは手伝って……いや、やっぱ1人で作ったほうがいいわ。
「兄貴、なんか今すんごい嫌な視線を感じたんだけど?」
「気にするな。んなことより、お前は向こうにいなくていいのか?」
「うん、すぐに行くけど」
 そういいながら、なかなかリビングに行こうとしない美羽。何か言いたいことがあるらしい。下ごしらえをしながらのんびり待つことにする。なに、時間は十分あるんだし、問題ない問題ない。
 和食と言えば見た目の美しさも重要だからな。肉はちょっと扱いが難しいのだが、豪勢にいきたいところもあって今日のメインは肉料理に決定だ。あとは味噌汁……よりは吸い物にするかな、今日のメニューだと。
「あのさ……兄貴は、陽菜さんのこと……忘れてたんだよ、ね?」
 となると、問題はスープの出しだな。コンソメが使いたいところだけど、肉の味付けは結構強めにするから、あっさりした味のほうがいいか? んー、海鮮でダシをとってみるか。
「陽菜さんのこととか、どのくらい忘れてたり、覚えてたりするかなぁって気になって。中学校は別だったし、高校に入ってからもあんまり話してなかったから、もうぜんぜん忘れてたのかな?」
 肉は……ありゃ、牛も豚も余ってやがる。使えるときに使わないと悪くなりそうだしなぁ……肉料理2つ出して、片付くか? 人数はそれなりにいるっていっても俺以外は女の子だもんなぁ……。
 まあいいか。余れば明日の弁当にするか、貴俊にでも食わせれば。あいつなら生でも食べそうだし。
「あっ、いや! 兄貴が陽菜さんのことを覚えててくれたのは嬉しいんだよ! ただ、何で今までぜんぜん話題にもしなかったのに、今日になっていきなり昔みたいな感じになってるのかな~なんて思っただけでね!? …………兄貴? もしもーし、兄貴ー?」
「美羽」
「う、うん。何、そんな真剣な顔して?」
「豚の冷しゃぶと牛のたたきにしようと思うんだが、どうだろう?」
「……………………」
「ん? どうした美羽? なんか気のせいか怒ってるように見えるぞ」
「怒ってんのよ、このバカ! もういい、アタシも向こう行ってる!」
 肩をいからせてリビングへ行ってしまった。
 美羽は苦労性だから、何かを訊ねる時も相手のことをあれこれと考えてしまう。真面目で堅物で、そのくせすぐに怒るけど相手を思いやる。俺と違って単純じゃない性格をしてるから、なかなか聞きたいことをスパッと聞けないんだろうな。
 あんなに気を回すなんてなぁ。それじゃあ、まるで俺の記憶に何かありますよって言っているみたいに聞こえるぞ、美羽?
 どうやら、病院にいく必要はないらしい。まあ、そんなに不都合があるわけじゃないしな。何か不都合が出たときに、美羽に訊ねればいいだろ。ちゃんとした理由があれば、何か教えてくれると思うし。
「ヒロト殿。私も何か手伝いましょう」
「レンさん? 別にかまいませんよ、向こうでのんびりしていてもらっても」
「いや、むしろ何か手伝いたいのだ。見てのとおりメイドなものでな、姫様と同じ場所に座るというのも実は少々居心地が悪い」
 そういって苦笑するレンさん。
「別にユリアさんは構わないんじゃないんですか?」
 それは疑問ではなく確信だったが、レンさんもそれはわかっているらしい。
「うむ。ただ、私が構うというだけの話だ。すまんな、居候の身で我が侭を言ってしまって」
 どこか照れた様子のレンさんに新鮮味を覚える。確かに、家事などをその仕事としているレンさんからしてみたら、俺がその仕事をしているのに自分がのんびりしているのは落ち着かないかもしれない。
「わかりました。あ、それじゃあせっかくだし、レンさんの国の料理を作ってみてくれませんか? ここにある食材で足りるのかわかりませんけど」
「わかった。ただ、調味料がどれがどれだかわからないから教えてもらっても構わないか?」
「調味料ならその右端のほうに大体揃ってますよ。適当に味見してくれて問題ないです」
 レンさんは『かたじけない』と古めかしい礼を述べると、次々に調味料のふたを開けてにおいをかぎ、味をみていった。活き活きした様子を見るに、どうやらこれは相当我慢していたらしい。なれた手つきに期待が持てる。俺も負けてられんな、久々に全力を出させてもらおう。
 なんか料理の鉄人にでもなった気分だった。




 料理が出来上がったのは、日もとっぷり暮れたころだった。我ながらいい出来になったものだと感心しながら、隣のレンさんの料理を見て……いや、ちょっとあんた、ナニソレ?
「ふむ……やはり少々形が悪いな。なれない道具のせいにするつもりはないが、やはり多少は勝手が違うせいか」
 涼しい顔でそんなことを仰るレンさん。え、なに、いやみですか? 横で敗北感に打ちひしがれている俺に対する追い討ちですか……!
「ヒロト殿はやはり随分な腕前だな。男子の身でそれだけの料理が出来るということは、かなり長い間食卓をあずかっているのだろう?」
「まあ、料理は結構やってますけど……楽しいですし……けど、レンさんのほうがどう見ても上手でしょう……」
 レンさんは自分の料理と俺の料理を見比べる。
「いや、確かに私の作ったものは見た目は整っているが、ヒロト殿のものほどそれぞれの食材が調和していない。食べればわかると思うが、ヒロト殿の作ったものの方が味わい深さは上だと思う」
「そうはいっても、料理、特に和食は見た目もその一部になりますしね……。それに、レンさんの場合は他の料理と合わせたときの味わいをメインにおいてあるでしょう。そもそものコンセプトが俺のとは違うんですから、そこで比べるのはどうかと」
「ほう、気がついていたのか。確かに私のは他の料理とのバランスを重視している。だが、今回の場合は一つの皿から各々が好きなようにとる形式なのだから、その点に関してはあまり考えなくてよかったかもしれないな」
「いや、だからこそそこが重要になるんじゃないですか。1つだけじゃなく、全体を平均的に味わってもらうためには有効な味付けになってると思いますよ。俺はメインに力を入れすぎちゃいましたからね……それだけで見ればバランスはいいけど、全体で見るとどうにも浮いている感が」
 レンさんの作った料理は、まるで宮廷料理のように美しかった。ていうかたぶんおそらくそうなんだろうけど。普段作ってるのがそうだってのが原因なんだろうけど、実際に目にするとやっぱり圧倒されるなぁ……。対するレンさんは、庶民的な料理というものに深い興味を持ったらしい。
 食べる人間と環境がまったく違うと、出来る料理もぜんぜん違ったタイプのものになるらしい。考えてみたら当たり前のことなのに、今まで考えもしなかった自分が情けない。
 むう……小さい枠に収まっていたって事か。だがしかし、自分の小ささを知ったからにはさらに上をめざさないとな! 今日はそのいい手本を見れたんだから、よしとしよう。レンさんも同じように考えていたのか、しきりにうなずいている。
「お兄ちゃん、レンさん」
「美優。どうしたんだ」
「その……陽菜さんが、『この香りがまんできない~、おながすいた~』って。ご飯、もう出来たの?」
「ああ、悪い悪い。ちょっとレンさんと料理について話をしてたら、熱くなりすぎた。もう出来てるから準備、手伝ってくれるか?」
「うん、わかったよ。……でもお兄ちゃん、いつもは料理なんて面倒なだけって言ってるのに、やっぱり好きなんだね」
「なっ!? ち、違うぞ美優。俺は単にどうせやるならとことんって考えてるだけで、別に好きだとかそういうんじゃねーんだぞ?」
「そう照れなくてもよいではないか、ヒロト殿。では、私は料理を向こうに運ぼう。ミユは食器を持ってきてくれ」
「わかりました。お兄ちゃん、飲み物、お願いね」
「人の話を聞かないなぁ。……了解。それにしても陽菜のやつめ、そんなに気になるなら自分でくればいいのに」
「え……と、なんか、はしたないって思われるのがいやなんだって」
 そうか、陽菜もそんな事気にするんだな。昔のイメージと今日の印象から、そういうのはぜんぜん陽菜っぽくない感じがするが。っていや、美優?
「……ちょっと待て。じゃあ、お前がそのことばらしたら意味なくならないか?」
「はぁうっ!?」
 とたん、美優が焦りだして、泣きそうな顔になる。なんつーか、こいつも変なところで間が抜けてるな。
「あ、あの、お兄ちゃん……」
 なきそうって言うかもう半泣き!?
「だいじょうぶだって! 別に陽菜に言ったりなんかしねーから! ……それに、どうせあいつのことだから自分でぼろを出すような気がするし」
「…………。お兄ちゃん、それ、酷いよ」
 なんとか笑ってくれた。そんなに焦ることでもないだろうに。……嫌われたくないんだろうな、陽菜に。ずっと忘れてた俺をあっさり許してくれたんだ。ちょっと失敗したくらいで、あいつが怒ったりなんかするわけあるかよ。
 美優の頭を軽くなでると、やわらかな微笑を返してくれた。それを見たおかげなのか、心は少しだけ穏やかになった。ハハ、まったく、我ながら現金なもんだ。
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