ダイジェスト1


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「ここは俺が引き受ける。大翔、お前は先に行け」
沈黙を破ったのは、黒須川の一言だった。
「お前、何を言って──」
「いいから行けって。お前はさっさと行って姫さんを助けて来い」
俺の言葉を遮って黒須川が言う。
「ま、大丈夫。心配はいらんさ。足止めくらいなら俺にだって何とかできる」
「しかし、いくらなんでもお前一人じゃ無茶だ。相手はレンさんだぞ?」
「いいから行け。こうして話してる暇なんてないだろ?」
「……本当に、大丈夫なんだな?」
じっと、黒須川の目を見る。
彼の目は、いつになく真剣だった。
こいつは本気だ。
ここで止めても無駄だろう。
俺は確信した。
「お前……」
「全く、心配性なやつだな」
黒須川が苦笑しながら俺の肩をポンと叩く。
「俺はいいから、お前はお前でやることやってこい」
「……分かった。でも、危なくなったらお前も逃げろよ?」
「いいからいいから。早く行け」
「──すまん、恩に着る」
俺は頭を下げた。
「何言ってんだ、頭なんて下げんな。あ、ちなみにこれ貸しだからな。
お礼は美羽ちゃんと美優ちゃんを俺の嫁にするってことで」
「それは却下だ」
「つれないなぁ」
お互いに笑い合う。
「──じゃあ、頼んだぞ」
「あぁ、任された」
俺は黒須川に背を向けると、そのまま振り返らずに走り出した。
──頑張れよ、親友。
後ろから、黒須川の声が小さく聞こえた気がした。








静かな夜。
空には月が出ている。
昼間は人通りの多い住宅地であるここも、この時間は静かなものだった。
「話は終わったか?」
それまで黙ったまま傍観していたレンが、黒須川へと声をかけた。
塀の壁に預けていた背を離し、ゆっくりと近付いてくる。
「あぁ、悪い。待たせたかな?」
気軽な調子で黒須川が答えを返す。
飄々としたその姿はいつも通り。
まるで気負った様子はなかった。
「わざと、あいつを見逃してくれたんだろ?」
「さぁ、それはどうかな?」
「しっかし、まさかレンさんがノアさん側に付くとはねぇ。 姫さん一筋で忠誠を誓っていると思っていたんだが」
「……この行いが、忠義に反していることは分かっているさ」
「なら、どうして?」
「私にも譲れぬものがある。 成さねばならぬことがある。 死後、この身が冥府魔道に堕ちようと、 私は返さねばならぬ恩に報いる。ただ、それだけのことだ」
自嘲するように、レンが語る。
「そこまでの覚悟とはね……」
「さて、話はここまでだ」
「ありゃ。俺はもっとレンさんとお話したかったのに」
「私には戦場で長話をする趣味はない。そして一度戦場へと立てば、例え相手が素人だろうと関係はない。無駄なく容赦なく殺し尽くすだけだ」
「えーと、つまり、俺を生かしたまま見逃す気は……」
「あぁ。ないな」
冷徹な声。
それは、非情な死刑宣告にも等しかった。
「元々あまり関係のない貴様を殺すのは心が痛むが、これもまた戦場の習いだ。許せ」
レンが背に負っていた大剣を取り出し、構えた。
月光を浴びて輝く銀の鎧と大剣。
一部の無駄も隙もないその姿は美しく、そして力強かった。
威風堂々。
そんな言葉がふさわしい。
「レン・ロバイン、参る。……貴様も早く構えろ」
レンが促す。
殺気を込めた射抜くような視線が、黒須川を貫いている。
「酷いなぁ。ちょっとは手加減とかしてくれたりとかは……?」
黒須川が情けない声を上げて抗議をする。
「くどい! 話は終わりだと言ったはずだッ!」
レンは大剣を大上段に掲げると、凄まじい勢いで突っ込んできた。
そして、風切り音と共に黒須川の脳天へと剣が振り下ろされる。
巨大な剣にまるで重さを感じさせない、疾風の如き動き。
その一太刀に躊躇いはない。
「うわわわ!?」
ほとんど勘だけで慌てて避ける黒須川。
一閃。
コンクリートで出来た地面に、剣との摩擦で赤い火花が散る。
爆発音にも似た、巨大な音。
そして地を揺るがす衝撃。
黒須川が数瞬前まで立っていた場所は、 レンが起こした剣撃により大きく陥没していた。
四散したコンクリートの下からは煙と共に土が覗いている。
「い、いきなり斬りつけるとは……。死ぬかと思った……」
冷や汗を流しながら黒須川が呟いた。
「既に名乗りは上げた。構えを取れとも忠告はした」
淡々とレンが答える。
「はいはい、そうですか。俺が悪いですよ」
「……」
レンは、無言。
下ろしていた剣を再び掲げ、大上段へと構えを戻す。
「参ったなぁ……。俺はこういう場面に似合うキャラじゃないんだが」
黒須川はぽりぽりと頭をかいた。
そのまま、思考する。
──にしても、凄まじい威力だな。これは当たったら死ぬな。
魔法とやらで強化してあるのか、それとも純粋な腕力か。
コンクリートで舗装された地面を軽々と砕く馬鹿みたいな力。
当たれば即死は免れまい。
かすっただけでも衝撃で骨が砕けるだろう。
「行くぞ」
レンが告げる。
それは最後通牒。
黒須川の目を変わらず射抜いている彼女の瞳には、視線だけで人を殺せるかと錯覚させるほどに殺気が宿っている。
──今度は外さない。確実に、殺す。
無言の身は確かにそう語っていた。
「……仕方、ないか」
諦めたように黒須川が天を仰いだ。
その視線の先では、大きな月が煌々と輝いていた。
「あぁ、月が綺麗だな」
穏やかな声。
まるで場違いな感想。
黒須川は夜空を見上げていた顔を戻すと、 しっかりとレンの瞳を見返した。
そしてふらり、と黒須川はレンに向かって無造作に一歩を踏み出す。
黒須川は思う。
確かに彼女の剣は鋭く、破壊力も桁違いだ。
当たれば死ぬ。
間違いなく、死ぬ。
だがそれも、当たればの話。
もしも当たれば、の。
──ならば、当たらなければいいだけのこと。
「──む?」
黒須川の雰囲気が、変わった。
尋常ではないその気配に、レンの体が思わず反応する。
黒須川は誓う。
──今、この瞬間、この場を死地と認識。
──言葉は無粋。
──無用の長物。
──必要なのは、戦うという確固たる意志。
──ならば、その武で己を示すのみ。
「断じて行えば、鬼神もこれを避くと言う」
迷いのない言葉。
迷いのない眼差し。
「──黒須川流宗家が当主、黒須川貴俊。推して参るッ!」
闇を切り裂くように、黒須川が名乗りを上げた。
張り詰めた気配が黒須川を包んでいく。
「はッ!」
咆哮。
黒須川の気合と共に震脚が地を踏み抜く。
それはまさに激震。
コンクリート製の地面が揺れ、足裏の型に抉れる。
「貴様……」
レンの表情が驚愕に染まった。
「実力を隠していたという訳か……」
「……」
今度は、黒須川が答えない。
「フッ、そうでなくては面白くない」
月明かりの下、二つの影が対峙する。
片や白銀の鎧に身を包んだ女。
片や無手のまま立ち向かう男。
黒須川は摺り足で円を描くように移動すると、 ゆっくりと腰を下ろして構えを取った。
──それは奇妙な構えだった。
両足は肩幅。
正中線を隠した半身の胴。
拳を固め、肘から直角に曲げられた右腕。
それとは対照的に、前面へ向けてだらりと下げられただけの左腕と、開いたまま手の平。
「妙な構えだな」
「……」
黒須川は答えない。
またしても、無言。
しかし、黒須川はほんの少しだけ口を歪めて笑顔を見せた。
「まぁいい。相手が何であろうと、関係ない」
レンの殺気が膨れ上がる。
対する黒須川は、その殺気を受け流しつつもレンから目を離さない。
今、宴の幕が上がる。
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