子供の頃、世界の中心は俺だった。
世界は俺のためにあり、全ては自由自在。
根拠のない予感と、意味のない自信。
望めば全てが叶うんだと信じて疑わなかった。
夢は魔法使いになること。
それは、何がきっかけだったのかは思い出せない。
テレビで見た映画だったような気もするし、
親が寝物語に読んでくれた絵本だったような気もする。
ただそれは俺にとって、とても大事なことだった。
必ず魔法使いになる。
そうならなければいけない気がした。
俺は、とにかく魔法使いに憧れた。
妹が買った、魔女っ子変身用のステッキをこっそり拝借して
空き地で1人振り回したりしたこともある。
練習さえすれば、魔法は使えるはずだって思ってた。
いつか、手の平から炎の玉が飛び出したり、
自由に空を飛んだりできるはず。
兎にも角にも自分で思いつく限りの特訓の日々。
同年代の男達が、ヒーローやロボットにうつつを抜かしている時、
俺はひたすら魔法使いになるための行動に没頭していた。
それが最善だと信じていたから。
やがて、こんな俺も少しずつ年を取り、
空き地で1人、妹の魔女っ子変身ステッキや
杖に見立てた棒切れを振ることもなくなり、
サンタクロースの正体が親だったことを知った辺りの頃。
俺の魔法使いへの夢は現実という壁にぶつかった。
当然のように夢は磨耗し、擦り切れていった。
子供の頃の情熱は次第になくなり、
声高に魔法使いになりたいと言わなくなった。
いや、言えなくなったと言った方が正しい。
結局のところ、俺は世間に迎合したのだ。
どうしてかつての俺が魔法使いを目指していたのか、
何でそんなに魔法使いになりたかったのか。
そんなことすらも曖昧になっていた。
そして時は過ぎ、季節は何事もなかったかのように巡る。
初夏。
まだ春の足跡が薄っすらと残る頃。
何が目的かも忘れてしまった俺が、
ただその日その日を無為に過ごしていた時。
──俺の前に、彼女が現れたのだ。
最終更新:2007年06月29日 16:48