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 『あ~た~らし~い、あ~さがっ、きた!き~ぼ~おの、あ~さ~だ!』

 枕元でけたたましくメロディが流れる。
 ニューモーニングが来たぞ豚ども。希望を胸を躍らせ今日も狙うぜ一発逆転。
 そんな安っぽいメロディと歌詞が妙に癇に障るのは、寝起き特有のイラつきによるものか。
 とにかく手探りで携帯を探し、アラームを止めた。

【大翔】「んぉ~」

 めりめりと音を立てる体を捻りながら布団をどかす。
 カーテンから差し込む朝の日差しが目に痛い。

【大翔】「ふぁあああ」

 顎が外れんばかりにあくびを一発。
 朝一番はまずこれから始まるのだ。

 こんこん。

【?/美羽】「兄貴~?起きてる~?」

 ドア越しに誰かの声が聞こえる。
 半分ほど覚醒した脳みそでもわかる、いかにも面倒くさそうな、声。
 ふむ。察するに、今日は美羽のようだ。

【大翔】「起きてませーん」

【美羽】「も~、とっとと起きてよ!美優だって待ってるんだから!」

【大翔】「残念だな妹よ。お前の兄はドリアンの食いすぎで永久の眠りについてしまったのだ」

【美羽】「え、えぇ?どういうこと?」

【大翔】「夜な夜な『ドリアンばんじゃいぃ!ドリアンばんじゃいぃ!』と連呼しながら親の仇のようにドリアンと格闘していたのだよ」

【美羽】「そんな……冷蔵庫のドリアンが無くなってたのって兄貴のせいだったんだ……」

 ちょ、本当にドリアンなんて置いてあったのか。

【大翔】「まぁそういうわけで、あと少しばかりベッドにお世話にならせてもらうぞ。いいな?」

【美羽】「…………」

【大翔】「…………」

 あれれ、声が止まったぞ。

【大翔】「返事がないから肯定とみるぞ。ではあと1時間後くらいにまた頼む―――」

 ―――ドガッ!!

【大翔】「―――ふぼぉぉぉ!!」

【美羽】「……朝っぱらから何ふざけたこと言ってんのよ」

 こ、こいつ……。
 ドアを蹴っ飛ばした挙句手に持っていたしゃもじをぶん投げてきやがった……。

【大翔】「痛いじゃねーか美羽!」

【美羽】「知るかっ!!何がドリアンの食いすぎだ!」

【大翔】「朝からテンプレートな会話をしようという兄の優しさがわからぬか!」

【美羽】「どうやったらテンプレート的な会話にドリアンが出てくるのよ」

【大翔】「北半球辺りにゃあるかもしんねーだろぉ」

 美羽はんなことあってたまるか、というような眼差しで俺を射抜く。

【大翔】「それにだな、ドリアンってのはマレー語なんだよ。トゲのある物って意味だってさ。まんまだよねー」

【美羽】「うっさい。これ以上屁理屈こねたらもっかいぶん殴るよ?」

【大翔】「いやん、しゃもじ痛いのよ。意外と」

【美羽】「んなの知らんわ」

 ちっ、ジョークの通じない奴だ。朝から殺伐とし過ぎじゃないのか?
 まぁ、これ以上続けてもおそらく美羽は一歩身引かないだろう。
 ここは俺が引くのが無難か。

 素直にベッドから身を起こし、美羽の横を通り過ぎる。

【大翔】「さて、今日の飯は何かな~っと」

【美羽】「……バーカ」

 背後で美羽の暴言が聞こえてくるが、これまたいつものことなので、無視して階下に降りた。


 我が家の朝は決まって3人で朝食を取る、というのが日課だ。
 両親がいないからか、はたまた不甲斐ない兄が心配だからなのかは不明だ。
 いや、後者はありえないと思うが。

【美優】「おはよう。お兄ちゃん」

 既に制服に着替えてテーブルに着いているのはもう一人の妹の美優だ。
 元々病弱なせいもあってか、学校を休むことも少なくない。が、今日は元気そうだ。

【大翔】「おはよ」

【美羽】「ほら兄貴、急いで食べてよ」

 そう言って美羽は強引に俺をテーブルに着かせようとする。

【大翔】「ホワァッツ!?まだ俺パジャマだっての!」

【美羽】「うっさいわねー、起きるのが遅い方が悪いんでしょ!?」

 そう言ってスリッパで俺の素足をダイレクトに踏んでくる。

【大翔】「ちょ、ちょい待って!折れる!足折れるってば!」

【美羽】「ご飯、食べるよね?」

【大翔】「…………」

 いや、でも、俺としては薄着一枚(桃色パンツ込み)で飯を食うのはちょっと行儀悪いと思うわけで。
 けど今のピリピリなさせっている美羽に、そんな返答をしたところで結果は目に見えている。
 ……地味に痛い攻撃は御免被りたいので、素直に従っておくか。

【大翔】「ったく、しゃーねぇなぁ……」

 仕方なく席に着く。
 朝から美羽とごたごた騒いだのではこちらの身が持たない。

【美羽】「何が『ったく』よ……」

【大翔】「んあ?」

 俺が席に着くと、美羽は物悲しげな表情で俺を見つめてくる。

【美羽】「朝は一緒に食べるって決めたでしょ……?」

【大翔】「…………!」

 不意に、体の動きが止まった。

【美羽】「……やっぱり忘れてる」

 そして背後に感じるのは、美羽のため息。

 ……そうか。そうじゃないか。
 両親のいない俺たちにとって、食事の時間こそ何よりも大事な時だ。
 家族みんなが揃って、談笑できるこの瞬間が、大事なんじゃないか。

 ―――どんな時でも食事の時は3人一緒で。
 そんなこと、ずっと前に決めたことだったのに。

【大翔】「…………」

 どうして、そんな当たり前のこと忘れていたんだろうか。
 朝っぱらから塞ぎこみたくなる気分だ。

【大翔】「美羽、美優」

【美羽】「何?」

【美優】「……はい」

【大翔】「……悪い。ホントに」

【美羽】「……別に気にしなくていいよ」

 ぶっきらぼうに、でも、しょうがないなという風に答える美羽。
 うう、その口の悪ささえなければ十分だ。十分なのに。

【美優】「大丈夫だよ、お兄ちゃん。間違いは誰にでもあるよ……」

 優しく、でもフォローになってるのかよくわからないことを言う美優。
 ありがとう。でも今度はもう少しうまい言葉を見つけてくれ。

【美羽】「それに、兄貴があたしや美優との約束を忘れるなんてしょっちゅうじゃん」

【美優】「そうだね……」

 なんだか視線が痛い。
 口では許してもらえるようなことを言ってるのだろうが、どうにも不安は感じ得ないわけで。

【大翔】「まぁ、とりあえずは……飯とすっか!」

 ともかく、話題転換と言わんばかりに言い逃れをしておいた。

【美羽】「まったくー、ご飯が冷めちゃうじゃない」

【大翔】「んー?急ぐのか?」

【美羽】「だから兄貴に構ってる暇ないっつったんじゃん。今日ちょっと生徒会の集まりがあるのよ」

 美羽は学校内の生徒会に在籍している。
 うちの生徒会は単に予算管理だとか学校の主軸的な活動だけをこなしているのではないらしい。
 例えば朝の通学指導やら服装の注意など、風紀委員的な活動もしていたり。
 ……いち生徒としては、実に迷惑極まりないことなのだが。

【大翔】「朝からご苦労なこった」

 そんな俺の言葉に、再び心底呆れるように美羽がため息をついた。

【美羽】「兄貴がもっとちゃんとしてくれたらあたしも楽なんだけどね……」

【大翔】「善処しまーす」

【美羽】「朝起こす必要もないしー、ご飯作る必要もないしー」

【大翔】「善処していきまーす」

 やや、善処していく気はある。
 ただなかなかそれを実行に移すのが難しいわけで。
 ……決して、決して面倒くさいとかそういうわけじゃない。多分。

【美優】「あ、あの……」

【美優】「そ、それなら私が……」

 その一言が、場の空気を一気にコキュートスまでに低下させた。

【美羽】「それだけは絶対やめてっ!!」
【大翔】「それだけは勘弁してくれ!!」

 二人して発言がぴたりと一致した。
 いや、それもそうだろう。
 美優の家事能力は低い。絶望的に低い。

 端的に言うなれば、
 炊事:なぜか黒いモノが一品は出てくる。しかも硬い。
 洗濯:機械が苦手なようで、説明書と1時間にらめっこをおっ始める。
 掃除:唯一基準をクリアしているが、ど忘れが激しいのか物の配置が度々変わっていたりする。

 以上の事をふまえればそりゃあ美羽だって引き止めたくもなるわけで。
 さらに、本人にその自覚がないというのだからどうにも改善しにくい。

【美優】「え?え?……ど、どうして?」

【美羽】「そ、それは……その……」

 ぎちぎちと美羽の首がこちらに向く。
 い、いや……俺に振られても困るんだが……。

【美優】「……お兄ちゃん?」

 状況が飲み込めていなさそうな美優の瞳が俺を捉える。
 うう、そんな真摯な目で見るなよ……。

【大翔】「ほ、ほら!飯冷めちゃうだろ!もう食べようぜ!」

 こうなれば強引に話題を転換するしかない!
 あまりに不自然だが、おそらく美羽はわかってくれるはずだ!

【美羽】「あ、あ~そうよね!あたし学校行かなきゃ!あは、あはは!」

【美優】「……え、もう行っちゃうの?」

【美羽】「う、うん!あと少しで電車行っちゃうのよぉ~」

 ウチは全員徒歩通学ですが、そんなことも忘れていらっしゃるのですね美羽さん。

【美羽】「そ、それじゃ!後は頼んだよ兄貴!」

【大翔】「色々頼まれました。ではいってらっしゃいませ」

【美羽】「ちゃんと美優と一緒に学校行ってね?」

【大翔】「わーったっつーんだよ。ええからはよ行け」

 美羽のこめかみに青筋が浮きかけたが、本人はこれ以上会話を続けるのも無駄と思ったのか、すぐさま出て行った。
 ふう。全く朝から慌ただしいもんだね。
 コーヒーを啜りながらそう考えた……。



 朝食を終えると、そのまま部屋に戻り、登校する準備をする。

 教科書おっけー。
 携帯おっけー。
 財布おっけー。
 座薬おっけー。

【大翔】「これはいらんか」

 座薬を机の上に投げ出した。
 というか、なんでこんなもん入れてんだ俺。

 階下に戻ると、玄関では美優が待ちわびていた。

【美優】「お兄ちゃん、そろそろ急がないと……」

【大翔】「おぉ~悪い悪い」

 普段なら、美優は美羽と一緒に登校している。
 実に仲睦まじい姉妹で大変喜ばしい。
 けれども、今日のように美羽だけ先に家を出る、なんていう場合がたまにある。
 そういう時は俺が登校する時間まで待ってもらっているわけで。

【大翔】「――っし!んじゃま、行くか!」

【美優】「うん……」

 俺を気遣ってくれているのか。
 はたまた一人で学校に行くのが寂しいのか。
 どんな理由にせよ、俺としては一人で登校するよりかはいいかと思っていたり。

【大翔】「いってきマラリア」

【美優】「いってきます……」

 そうして、毎日の挨拶を二人で呟く。
 無人の家に二人の声が響き、俺はドアを開けた。



 外に出て扉を施錠すると、見慣れた後ろ姿が目に入った。

【大翔】「…………」

 思わず立ち止まり、人の家の前をうろうろしている人間を凝視する。

【大翔】「美優、ちょい待ってろ」

【美優】「……どうしたの?」

【大翔】「ちょっとなー」

 きょとん、と首を傾げる美優を置いておき、その後ろ姿に歩み寄る。

【?/陽菜】「あっれ~おっかしーなぁ~」

 む~、と何やら深々と唸る少女。
 200メートル距離が空いていても誰だかわかる。

 ……陽菜だった。

【大翔】「何してんだよ」

【陽菜】「ん~?えっとねー、ヒロ君が早く家から出てこないかなーって待ってるの」

 それが間違いなく張り込みだということに俺は突っ込まない。断じて。

【大翔】「ほ~そうかそうかぁ。でもな、アイツ今日は来ねーってさ」

【陽菜】「うへぇ!?どうしてぇ!?」

 凄まじい勢いでこちらに振り返る陽菜。
 興奮しすぎて俺がそのヒロ君ということに気づいていないらしい。

【大翔】「何でもな、全国きしめん選手権に出るらしいぜ。もうマジ気合入ってたぞ」

 面白そうだから適当に嘘をついてみる。

【陽菜】「き、きしめん選手権って……そんなのあったんだ……」

 あるはずがないだろこの馬鹿。

【大翔】「あぁ。もう朝から意気込んでたぜ。全裸で踊り始めるくらいだ」

【陽菜】「う、う~ん……ヒロ君がそこまで打ち込むくらいすごいんだ……」

【大翔】「あ、ちなみにきしめん早食いだから胃薬とか必要かもな」

【陽菜】「本当っ!?」

【大翔】「ああ」

【陽菜】「こうしちゃいらんないっ、家に戻って薬取ってこよ!」

 そう言うや否や、標的を見つけたトマホークミサイルのように爆走する陽菜。
 陽菜の自宅はうちの隣なので、何やら物をひっくり返すような音がここまで聞こえてくる。

【美優】「お兄ちゃん……今の陽菜さん?」

【大翔】「いや、知らんなァあんなストーカーかぶれ」

 陽菜には悪いが、お前と登校するとこっちが疲れるんでな。
 さすがに毎日家の前に張りこまれてはストーカー以外の何者でもない。
 まぁ、別に陽菜自体が嫌いってわけじゃないんだがな……。

 ともあれ、ひとまず陽菜という障壁を突破し、俺たちは学校へ向かった。


 学校に近づくにつれ、段々と生徒の数も多くなっていく。
 すれ違う生徒同士が互いに挨拶を交わしていくのを横目で見た。
 まぁ、無論俺や美優も同じなわけで……。

【男子生徒】「おーっす結城ぃ」

 後ろから自転車にまたがり競輪顔負けのスピードでイガグリ頭の生徒が声をかけてくる。

【大翔】「お~おはよーさん」

 それに軽く手を上げて返答する。うん、朝から元気なこった。
 こういうやり取りは自然に返せるのが普通だ。普通ならば。

 ……。

【女子生徒】「美優ちゃん、おはよう」

 ちょうど横道から歩道に合流してきた女子生徒が美優に声をかけた。

【美優】「~~!え、えと……その……」

【美優】「おっ、おはよお……」

 最初の『お』までは良かったが、それ以降は段々と声が失速してってるぞ。

【女子生徒】「うん、またね~」

【美優】「うぅ~……」

【大翔】「…………」

 そして、歩き続けること数分……。

【女子生徒】「やほ~!みゆみゆ、おはよーっ!!」

【美優】「~~~っ!!」

 別の女子生徒が背後から奇襲するグリーンベレーの如く、美優の背中をばんばん叩きながら叫ぶ。
 対する美優は体をびくりと縮こまるばかりだ。

【女子生徒】「うは~今日もいい天気だねっ、みゆみゆ~」

【美優】「う、うん……とっ、搭状雲だね……」

 待て妹よ。それは雨の前触れの雲じゃないのか。

【女子生徒】「うぬ~それじゃま、また後でね~!」

【美優】「ぅ~……」

【大翔】「相変わらず人見知り激しいのな、お前」

【美優】「だ、だってぇ……」

【大翔】「だって?」

【美優】「だって、目が合うと相手の人意識しちゃうんだもん……」

 あー。これはかなり重症だな。
 というか、改善する方法なんてあるのか?と思える。

【大翔】「全く、別にそんなの気にしなくたっていーんだよ美優は」

【美優】「でも……」

【大翔】「そんじゃあれだ、話すのに困ったらケツ叩きながら『ふぁっくみー!ふぁっくみー!』って言えば万事解決だ」

【美優】「それ絶対勘違いされるよ……」

【大翔】「ま、肩の力抜いてこうぜ。美優らしく振舞っていればみんなわかってくれるさ」

【美優】「う、うん……」

 俺がそう言うと、美優は少しばかり晴れた顔をする。
 やっぱり、美優は落ち込んだ顔よりも、こういう顔をしていた方がいい。
 こういうの、兄バカと言えば……まぁ否定はできないけれども。
 それでも、俺にとってはいつでも目が離せないような、そんな可愛い妹なんだ。
 放っておけという方が無理な話なわけで。

 美優は俺が歩くスピードに歩幅を合わせ、並んで歩く。
 ……本当は俺が歩幅を合わせてるんだけど、そこは黙っておこう。
 美羽や陽菜とは違った登校風景が、穏やかに流れていった。


 学校に着くと、学年の違う美優と別れる。
 教室に向かいながら、ふと置いてけぼりにした幼馴染のことを思い出した。
 ま、アイツはそのうち来るだろう。

 がらがらがら。

【大翔】「ちーす」

 軽く挨拶をし、自分の席に着いた。
 チャイムはまだ鳴らない。5分ほど余裕があるくらいだ。
 俺はあまり遅刻はしない方だ。
 朝は実力行使で起こしてくる妹がいるし、登校中にはストーカーが襲ってくる。
 そういう風な毎日を過ごしてれば、そりゃあ時間ギリギリのタイミングで教室にタッチダウン、なんてことにはならないわけで。
 本当なら、結構感謝すべきことだよなあ。

 がらがらがら。

 と、そんなことを考えていると、誰かが教室に入ってきた。

【?/貴俊】「あ、くろすんインしたぞー」

【?/貴俊】「おいす~」

 いつもの聞きなれた声だ。
 ちなみに、今のセリフ二つとも同じ奴が言っている。

【大翔】「なぁ、一人芝居してて楽しいか?貴俊」

【貴俊】「段々空しくなっていく気がする」

 じゃあなんでやってんだよ。

【貴俊】「このニッポンの荒波の中を生き抜くためにはこれくらいの潤いが必要だと思わんか?」

【大翔】「うるせえよゆとり」

【貴俊】「ゆとりだっていいじゃない。ゆとりだもの」

【大翔】「説得力ねえし。矛盾してるし」

【貴俊】「ゆとりだっていーじゃねーか。人生楽しんだもん勝ちだっつーの」

【大翔】「お前みたいな奴が成人式とかで壇上に立って暴れんだろうな」

【貴俊】「え、何、俺もう成人代表で謝辞読み上げんの?」

【大翔】「……悪い、今のなかったことにしてくれ」

 もはや話が通じないよコイツ。
 これ以上コイツと交信しても俺の一日のテンションをジャミングすることしかないだろう。
 適当に流しておくことにした。

【貴俊】「ところで腹が減ったな」

【大翔】「やや、俺にそれを申されましても。てか、お前朝飯食ってきてないのか」

【貴俊】「あぁ。毎朝忙しいんだ。目が覚めて家を出るまで所要時間3分だからな」

【大翔】「お前それ寝坊してるだけだろうが!」

【貴俊】「何を言うか。この前なんざ困ってる方を見つけたから遅刻したんだぞ」

 お前それでノア先生にこっぴどく叱られたんだろうに。

【大翔】「言い訳なんざいくらでもできるわいな」

【貴俊】「バッカおめぇ、ちげえんだよ。この後ちゃんと続きがあんだよ」

【大翔】「何だよ……言ってみろよ」 

【貴俊】「俺が通りがかった時、彼女は物憂げな瞳で俺を見つめるんだ」

 図書館のお兄さんが子供に絵本を読み聞かせるような声で語り始めた。
 あー。この話長くなりそうだな、と経験上察してみる。

【貴俊】「俺はそれを見て……即座に勘付いた」

【大翔】「カバン忘れたのか」

【貴俊】「んなケアレスミスしてたまるかっ!!」

【大翔】「じゃあ何にだ」

【貴俊】「あぁ。気づいたんだ。本当に、この瞬間は世の中の理に異を唱えたくなった……」

 そこまで言うと、貴俊は深く息を吐いた。
 そして、精神を限界まで集中させ、両目をかっ広げながら……

【貴俊】「ああ――――――彼女は非処女だな、と!!」

 バギッ!!

 実に実に晴れ晴れとしたような貴俊の面に、俺の右ストレートが食いこんだ。

【貴俊】「何すんだボケが!!」

【大翔】「るせえんだよこのド変態が!!あれか、テメーは困ってる人見かけたらいちいち穢れ無き乙女がどうか見分けんのか!?」

【貴俊】「いや、そうでなけりゃフラグが立たんだろ」

 初対面の人とフラグがほいほい立つほど世の中甘かねーよ。

【貴俊】「またまた嘘っぱちを。カノジョ、俺にべったりだったんだぜ?」

【大翔】「そうですか。そうですか」

【貴俊】「本当なら助けた後に俺の桃色空間にモッシュダイヴしようかと画策したんだが……それは叶わなかった」

【大翔】「そうですかそうですか。そりゃまたどうしてですか」




【貴俊】「うん、カノジョは猫だったんだなこれが」





 バゴッ!! 

 ―――本日ニ発目の拳が、貴俊のこめかみにクリーンヒットした。

【大翔】「また無用な時間を過ごしてしまったじゃねーか。ぺっぺのぺ!」

 教室の地べたに突き刺さる貴俊を鎮魂するかの如く、チャイムがけたたましく鳴り響いた。

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