B:水でも飲むか


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B:水でも飲むか

「仕方ない、水でも飲むとしますか」

 体を起こし、美羽達を起こさないように台所へ。
 戸棚からコップを出し、水を注いで口にした。
 どうして水を飲むと急に汗をかくんだろう?
 何てくだらない事を考えていると、

「ヒロト様……?」

 含んだ水を思いっきり噴出した。

「ゴフ、エフ、ケハ!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「コフ、あ、ああ平気っす。えっと、ユリア、姫」

 異国のお姫様がそこにいた。
 忍び足で急に後ろから話しかけるのはやめて欲しい。
 正直、ちょっと怖かった。

「すいません、喉が渇いてしまいまして。皆様を起こさないよう
 にと思ったのですが、逆に驚かせてしまったようですわね」
「あ、何だ姫様も? あー、コップはこちらの物を」
「ユリア、です」
「んあ?」
「ユリア、で構いません。私達は今日から家族ですから。
 家族を姫、って呼ぶのも、なんだかおかしいでしょう?」

 なるほど、姫様だけのことはある。
 どうやら、人の心を掴むのには長けているらしい。

「あいよ、んじゃユリア。コップはこっちのコレを使ってくれ。 それから、家族に様付けも変だよな?
 俺にはそんな風にいちいち畏まらなくても大丈夫だから」
「はい。ヒロト……さん」
「さん、なんてのも別に」
「す、すいません……殿方を呼び捨てにするのは、その……」
「あーそういうことか。んじゃ、さん付けで手を打とう」

 ヒロトさん、だなんて名前で呼ばれたのは何時振りだろうか。
 なんだかこそばゆい感じがする。

「では、私はこれで。お休みなさいませ、ヒロトさん」
「あ、ちょっと待った」

 そういえば、ずっと疑問に思ってたことがあった。

「はい? なんでしょうか?」
「俺達は、家族なんだよな?」
「ええ、先ほども申し上げました通り、私達は家族です」
「じゃあ家族に隠し事は無しだ。正直に答えてくれ、なんで家に
 来たんだ?」
「……気づいて、らしたのですね」
「そりゃな。あんな説明で納得できるほど、俺はバカじゃない」

 そう。先ほどの説明じゃ、ユリア達が家に来た理由としては薄すぎる。
 ホームステイするなら何もこんな一般の家に来ないでも、ノア先生の家でもいいはずだ。
 むしろ、そちらの方が面倒な問題も起きなくて済む。
 それなのに家に来たということは、何か別の理由があるとしか思えない。そう考える方が自然だ。

「わかりました。正直にお話いたしましょう。ここでは何ですね、
 少し外に出ませんか?」
「わかった、ちょっと待っててくれ」


 この時間帯にもなると、外はひんやりと冷たく。火照った体に丁度いい。
 ユリアは中々話し出そうとしなかった。が、やっと決意したのだろう、ゆっくりと重い口を開いた。

「私達の世界は、今崩壊の危機にあります」
「私達の……世界?」
「はい。私の世界と、そして……ヒロトさん達世界」

 信じてくださいね? と前置きして、ユリアは説明を始めた。
 曰く、ユリアは異国の姫様なんかではなく、俺達の世界と対を成す世界からやってきたこと。
 曰く、ユリアの世界は今崩壊の危機にあること。
 曰く、ユリアの世界が崩壊すると、俺達の世界も連鎖崩壊してしまうこと。
 一言で言ってしまえば、わけがわからなかった。

「世界は、後一年足らずで崩壊してしまうでしょう。
 それを止めるために、私はヒロトさんの元に来たのです」

 世界を救ってくれと、彼女は言った。
 まるでどこかのRPGのような話だ。
 世界の崩壊を止める勇者。それを慕うお姫様。
 ゲームの中じゃ当たり前な話も、言われてみると違和感が残る。当たり前だ。ここは現実であって、ゲームの中じゃないのだから。

「理解していただけましたか」
「ああ、大体は。でも、すぐに返事するわけにもいかない。
 まだわからないことも多すぎる。少し、時間をくれないか」
「……そうですよね、こんな話、すぐに信じろと言っても無理な
 話でしたわね……」
「明日には、きっと答を出すと思う。だからそれまで」
「わかりました。明日、もう一度だけヒロトさんの答を聞かせて
 いただきます」
「ん。それじゃ、そろそろ帰るか。
 美羽達に見つかったらうるさいし、いい加減寒くなってきた」
「そうですね。風邪を引いてはいけませんし。
 それに、早く寝ないと明日大変ですから」

 世界の崩壊。一日だけの猶予。考えることが山積みだ。
 家に入るとき、後ろでユリアが呟いた、

「私は、ヒロトさんを信じています」

 という言葉が、やけに強く胸に残った。

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