3章「Iyomante《イヨマンテ》」


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  3章「Iyomante《イヨマンテ》」

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  0 ~クロス~
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反政府ゲリラと言えば聞こえが良いが、やっていることはただの窃盗、強盗、追剥ぎという盗賊まがいのならず者の集団がいた。

道民にも自衛隊にも嫌われている厄介者たち。

それが北海道を拠点とするレジスタンスの風評だった。


学生服を着た若い男が、高台になった丘から双眼鏡を覗き込んでいた。

ほぼ平坦な更地になってしまった北海道《バグネスト》だが、さすがに多少の高低差はある。

北海道解放同盟イヨマンテ。

その幹部である黒須川は、斥候に出た先で、ツーアイズチームを補足した。

クロスカワだからクロス。

進んで危険な任務に赴き、常に成果をあげていた黒須川は、いつの間にはそう呼ばれるようになっていた。

黒須川の右耳には異常な数のピアス穴があけられていた。

難民の証として耳たぶに刷り込まれた発信タトゥーを、ピアス穴をあけることで無効にしたのだ。

それにより、自衛隊が管理する難民マップ上には、黒須川の姿は映らない。

そのような理由もあり、彼は斥候として抜擢され、重宝されていた。

他のレジスタンスにも、彼と同じようにタトゥーを削いだ者は存在した。

だが、最初にそれを実行したのは、他でもない、黒須川その人だった。

「……一六、一七、一八台か。大漁だな。しかしあの数を制圧できるのか? まあ決めるのはオレじゃないしな。とりあえず連絡を入れるとしますか」

脇に伏せてあったバイクを起こし、キックでエンジンを付ける。

常にエンジンの調子が悪いボロボロのバイクであったが、この北海道では貴重な足だった。

黒須川は愛車のGTサンパチに跨ると、アジトに向かってスロットルを回した。

大型トレーラーを筆頭に、延々と連なるトラックの群れ。久々の大物を前に、黒須川は少し興奮していた。

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  1 ~マンイーター~
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配給品の不味い国産たばこを燻らしながら、マンイーターは黒須川の帰りを待っていた。

最後にボランティア団体を襲ったのは一ヶ月前のことで、その時奪った配給品も、そろそろ尽きかけてきていた。

筋骨逞しい体躯に、手入れがまったく行き届いてない長髪は、見る者に不快感を抱かせる。

レジスタンスでもっとも年長で、キレると恐ろしいという理由だけでリーダーになったマンイーター。

その短気で粗暴な黒衣の男は、人望よりも、恐怖でレジスタンスを仕切っていた。

「オッセエなぁ。クロスのヤロウ……」

マンイーターは、たばこをフィルター近くまで吸い尽すと、ヤニ色の唾液と共に床に吐き捨てた。

そんなイライラしているマンイーターを、他のメンバーはオドオドしながらが見守っていた。

だだ一人、アメジストの双眸に、長いストレートの髪を持つ若い女性だけが、冷静にマンイーターの動向を伺っていた。

最後のたばこを吸い尽くして、パッケージを壁に叩き付けたマンイーターのイライラは頂点に達していた。

「バックレやがったのかアノやろう!」

手に持った拳銃のグリップで、コンクリートの壁を叩く。

もろくなったコンクリートの破片が剥離し、パラパラとこぼれ落ちる。

狭く、暑苦しい廃虚ビル内の緊張が高鳴る。

その時である。不規則なサイクルで回転するエンジン音が遠くから聞こえてきた。

黒須川のGTサンパチのエンジン音だった。

「ちっ。ようやく帰ってきやがったか」

黒須川の帰還により、アジトを被っていた緊張感が溶けてゆく。

「ただいま戻りました」

一七歳とまだ若いが、その明晰な頭脳と行動力は、レジスタンスのサブリーダーとして相応しく、皆がそれを認めていた。

なにより黒須川には人望があった。

だが、それこそがマンイーターを不機嫌にしイライラを募らせる原因でもあった。

「オッセエぞクロス! どこで油売ってたんだ!」

「そう怒鳴らんで下さいよリーダー。それよりも大物を見つけましたよ。大型トレーラー一両に、大型トラック一八両。それと装甲車が二両。摩周湖方面に向かって移動してましたよ。ただし相手は自衛隊です。装甲車が護衛していることから武装してると見るのが妥当でしょう。どうしますか?」

黒須川の報告に、マンイーターの目の色が変わった。

ニヤニヤと顔が緩んでいる。すでに略奪後のことを考えているのだ。

前にも一度自衛隊を襲ったが、被害ゼロで略奪できた。

運が良かっただけなのかもしれないが、ロクな武器も持たずにそれをやり遂げた自信がマンイーターにはあった。

そうしてそのときの戦利品が、拳銃や自動小銃がいまは手元にある。

内地で平和に浸った自衛隊になど負ける気がしなかった。

「武装してない自衛隊なんて居るか? モチロンやるさ。急いで仕度しな!」

マンイーターの掛け声で、レジスタンスたちは一斉に立ち上がった。


夕暮れ。もうすぐ日が沈む頃、レジスタンスは移動を開始した。

闇に紛れて奇襲する作戦だった。

これまでもこうやってきたし、これからもそうするだろう。

失敗しない限りずっと繰り返す単調な作業だ。

「どうしたノア、いかねえのか?」

自衛隊から奪ったトラックの運転席から、マンイーターが長髪の女性に声をかける。

「行くわよ。だけどそんな暑苦しいトラックに乗るのはいやよ。今日はクロスのバイクに乗ってゆくから先に行ってていいわ」

防塵用に、ゴーグルとマスクを付けて、ノアは黒須川が跨るバイクに腰掛けた。

「そんなボロバイクの乗るなんて物好きだな。どうでもいいけど遅れんなよ」

レジスタンスたち一二人を乗せたトラックが、黒煙を吐きながらアジトを出発した。

「さてと、アタシたちも行くわよ」

「姐さん、しっかりつかまってて下さいよ」

「はん。このポンコツに、そんなスピードが出るのかい?」

「ひでえな」

黒須川は脅かしてやろうと、スロットルを思いっきり回したが、エンジンはプスンプスンと情けない音を立てて止まってしまった。

「やべっ!」

「やべえじゃないよ。どうすんのさアンタ?」

「……どうしましょう?」

黒須川は慌ててバイクを降り、プラグを掃除したり、交換してみたりと、色々試してみた。

「だめだなこりゃ」

結局バイクは治らなかったので、ふたりは仕方なく虎の子のジープで追いかけることにした。

「急がないとマンイーターにどやされるよ」

「分かってますって、しっかり捕まっててくださいよ」

今度こそ。

黒須川は、慎重にアクセルを踏み込んで、ジープをを走らせた。

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  2 ~報告書~
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レンはかなり苛立っていた。

先日の難民の一件といい、大翔の自分を小馬鹿にしたような態度といい、何もかも気に入らなかった。

思い出す度に、報告書をタイプする指が震える。

なによりも頭にくるのが、命の次に大事にしなければならないはずのゼロのキーアイテムを、あろうことか難民の子供に渡してしまった大翔が、全く反省してないことだった。

思い出すだけでも腹が立った。

「ぐ、軍法会議ものですよっ!」

「予備がいくつかあっただろう? それを出してくれよ」

「あのリストウォッチにはゼロの機密が色々入ってたんですよ? 情報が漏洩したらどうするつもりなんですかっ!」

「情報漏洩? どうやってするんだ? あの娘たちにそんな技術力はないさ」

「あの子供になくても、あれがレジスタンスの手にでも渡ったらどうするんですか」

「プロテクトキーを解除しなきゃ中のコードは見えないんだろ? そんなにセキュリティに自信がないのかい?」

「セキュリティは完璧ですっ。世界中の演算機を使用しても解読には百年以上かかります」

「ベリーグット! じゃ、なんの問題も無いじゃないか。ほんじゃおやすみ」

そういってキャンプに戻っていった大翔を、レンは憤怒の表情で睨み付けていたが、大翔は気にするそぶりも見せない。

レンはいま、その大翔の自衛官としてあるまじき行為を告発すべく、報告書をまとめている最中だった。

「みてなさいよ。絶対にチームから追い出してやるんだからっ」

大翔の素行に対する報告書は、原稿用紙に換算すると、既に五〇頁を越えていた。


哨戒任務はレンの仕事ではないが、特異点発生時の時空歪曲率の波形などは、専門家でない学徒自衛官が見ても判断に困り、少しでもおかしな数値を検出したら、その都度レンに報告があがってくる。

レンも、始めは真面目に波形を分析していたが、こうも頻繁に分析依頼が来ると、その目も多少曇ってくる。

慣れというのもあって、多少の異常波形はノイズとして処理し、問題視することはなくなった。

そうして今日も、哨戒任務にあたっている学徒自衛官から、定期的に報告があがってくる。

「観測所から波形が送られてきましたので転送します。あと、難民マップを確認したところ、数十名単位の難民がこちらに向かっています」

「了解しました。引き続き警戒を怠らないでください」

レンはそれだけいうと、報告書の続きを書き始めた。

それから三〇分くらい経過した時、再び報告があった。

「観測所から警告。時空歪曲率に微力ながら変動発生。チェックお願いします」

「……わかりました。データを送ってください」

報告書作成がノってきたころだっただけに、レンの感心は薄かった。

そうして送られてきたデータをざっと眺めただけで、問題なしと断定した。

そう返答した直後、今度は難民がキャンプ地のすぐ側まで来ていると連絡が入った。

「どうしてここまで放っておいたんですか?」

「さ、三尉殿の言う通り警戒は怠っておりませんでした」

難民マップを見る限り、もう目と鼻の先まで来ており、肉眼でも目視できる距離まで近付いていた。

「ここまで近付かれては意味が無いでしょう? 武装した兵士を連れて追い返してください。移動に従わないようなら難民キャンプまで強制送還してください」

「了解しました」

レンは通信機を置くと、ため息をついた。

「今日は厄日だわ」

書きかけの報告書を保存し、パソコンを閉じると、レンはトレーラーのモニタ画面に難民マップを表示させた。

「一二名。どこへ向かうつもりだったのかしら? この辺のキャンプは阿寒湖くらいしかなかったはずだけど……。釧路キャンプに行くにしてはルートがおかしいわね」

ひとりぶつぶつと呟いていると、突然トレーラーのドアが開いた。

「えっ?」

「なにをボサッとしてんだ。早く各員を戦闘配備につかせろ。連中は難民なんかじゃねえぞ。十中八九レジスタンスだ!」

大翔は、指揮車両であるトレーラーに乗り込むと、学徒自衛官らを叩き起こすサイレンを鳴らし、戦闘配置の命令を下した。

大翔の行動をポカンと見つめていたレンは、言われてみれば確かにその通りだと思った。

そうしてその考えに至らなかった自分の迂闊さが恥ずかしくなり頭を垂れた。

「気にするなよレンくん。キミは技術職なんだから、それに見合う仕事をすればいいんだ。引き続き警戒頼む。俺は護衛チームと共にレジスタンス鎮圧に向かう」

大翔はそれだけ言うと、トレーラーから飛び降りた。

「あー、あと、追い返しに行った連中にレジスタンスかもしれないって連絡入れといてくれよ!」

大翔の怒鳴り声がキャンプ地に響く。

「私にできること……か」

そう呟いたレンの視線の先に、警戒を促す俺ンジ色のLEDが点灯していた。慌ててモニタの画面を切り替えると、そこには警戒レベルを遥かに越えた時空歪曲率の波形が写し出されていた。

「う、うそ! よりによってこんなときに……」

レンは急いで沢井一曹を呼び出した。

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  3 ~浅知恵~
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カモが歩いてきやがる。

マンイーターたちレジスタンスは難民を装って、近付いてくる自衛官を待っていた。

至近距離に達したとき、隠し持った武器で間抜けを取り囲んで身包みを剥ぐ手筈だった。

そうして間抜けから奪った通信機を使って少しずつ応援を呼ばせ、先と同じ手順で無力化してゆく。

マンイーターたちの前に歩いてくる学徒自衛官は三人。

こちらは黒須川とノアがまだ到着していないが、それでも一二人居る。

全員武装しているので確実に勝てる。

「これだけの大部隊なら女もいるかもな。よかったなお前ら」

マンイーターの下卑た言葉が意味するものを汲み取ったレジスタンスたちは、マンイーター同様含み笑いを漏らした。

殺さない。犯さない。

そういう理念を掲げていたが、それは口うるさいノアを牽制したものであった。

彼女が見ていない裏で、マンイーターたちは暴虐の限りをつくしていた。

幸いなことに、いまノアは居なかった。

制圧さえしてしまえばやりたい放題だった。


あと数十メートルで間合いに入るというところで、自衛官の足が止まった。

暗くてよく見えないが、なにやら通信しているようだ。

「チッ!」

マンイーターが舌打ちする。

「どうしたんですかね」

「どうしますボス」

「ウッセーな。いま考えてる」

マンイーターは迷った。

ひょっとしたらバレたかもしれないという疑念がマンイーターの脳裏に浮かんだ。

だが、仮にバレたとしても、目の前の自衛官を捕らえ、人質にして交渉すればいい。

それに相手はみたところまだ子供、少年兵だ。
ちょろいぜとマンイーターは思った。

だとすれば答えはひとつだった。

「バレるまえにやるか!」

マンイーターはダブダブの黒衣をを翻して、自動小銃を剥き出しにした。

「イクぞ!」

マンイーターの号令によって、レジスタンスたちは一斉に自衛官に向かって走った。

向かってくるのがレジスタンスだと連絡を受けていた学徒自衛官らは、多勢に無勢なので逃げ始めた。

「逃がすなよ! 殺しても構わねえが、一人は生きたまま捕らえるんだ!」

暗闇の中。銃声と火花が舞う。

めくら撃ちなので、そうそう当たるものではなかったが、偶然の一発が、学徒自衛官の足を捕らえた。

「ぐわっ」

大腿部を射抜かれた学徒自衛官が地面に突っ伏して倒れ込む。

「斎藤三曹大丈夫か?」

「自分に構うな、逃げろ」

「俺の肩に捕まれ……」

二人の学徒自衛官が斎藤三曹の肩を担いで持ち上げる。

そうしてキャンプ地に向かって逃げようとした時、学徒自衛官の足元に銃痕が走った。

それはマグレや偶然ではなく、正確な射撃によるものだった。

「アハハッ! チェックメイトだ小僧ども!」

学徒自衛官を取り囲むように、マンイーターたちレジスタンスが包囲していた。


「イヤイヤ、投了するのはオッサンの方だよ。早く『ありません』とか『まいりました』とか言ったらどうだい?」

突然、マンイーターの背後から車載スピーカーの音が聞こえた。

驚いて振り返ると、まるで振り向くのを待っていたかのように、強烈なライトが灯った。

「うわっ」

眩しくて目が眩んだレジスタンスの隙をついて、ライトを灯すトラックの両脇から、装甲車が二台突っ込んできた。

慌てて装甲車を避けるマンイーターたち。

その混乱に乗じで、トラックは囲まれた学徒自衛官を回収していた。

「あー、あー、レジスタンスの諸君。武器を捨てて速やかに投降したまえ」

今度はレジスタンスを照らし出すかのように、照明が四方から灯る。前後左右をトラックによって包囲されていた。

そうしてそのトラックからワラワラと武装した学徒自衛官たちが降りてきて、マンイーターたちレジスタンスに銃口を向ける。

「死にたくなかったら五秒以内に武器を捨てるように。はい! いーち、にーい、さーん……」

スピーカーから聞こえる声に、気の弱そうなレジスタンスの一人が武器を捨てた。

それを見たレジスタンスたちは、連鎖反応のように次々と武器を捨てていった。

最後にマンイーターだけが、状況を飲み込めないまま武器を握り締めていた。

「そこの人、死にたいの? よーん、ごー……」

レジスタンスの一人が、マンイーターから武器を奪って、投げ捨てた。

「よろしい。えーと、杉本一曹。あとはまかせたから」

「了解しました」

大翔は隣に座った杉本一曹に事後処理を任せ、トラックから降りた。

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  4 ~初陣~
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「くそガキども! 覚えてやがれっ!」

拘束され、連行されるマンイーターとレジスタンス。
自動小銃を構えてその様子を見送る大翔の元に、伝令が駆け付けてきた。

「結城ニ尉、伝令です。ロバイン三尉より至急連絡してほしいと連絡がありました」

「ん、分かった。通信機借りていい?」

「はい、どうぞ!」

学徒自衛官は大翔に通信機を差し出した。

「もしもし、どうしたのレンくん?」

「た、大変です。時空歪曲率が増大しています。過去のパターンと照合したところ、九割の確率で出現します」

「なにが出るの?」

「なにって、バグリーチャーです。ゼロの着装準備は整ってます。急いでコンテナまで来てください」

「ふう、なんだか今日は色んなことが起こるね」

「感慨に耽ってないで早く来てください」

「はいよ」

大翔は通信機を伝令に放り投げると、駆け足でトレーラーに向かった。


トレーラーコンテナに乗り込むと、既に沢井一曹とメカニックのメンバーが、大翔の到着を待っていた。

「こっちです結城ニ尉。ゼロの方はいつでも出せます」

「五分くれ。着替えて身体を作る」

大翔はインナースーツを掴み、大急ぎで着替えた。

インナースーツを着込んで、インカムのスイッチを入れた矢先、

「キャアアアア!」

と耳をつんさく悲鳴が聞こえた。

「だ、大丈夫ですか?」

「し、レンくん。もう少し静かに悲鳴をあげてよ。鼓膜が破れるかと思ったよ」

「静かに悲鳴なんて、そんな器用なことできません。それより、でました。バグリーチャーの固体と思われる質量を、特異点ゲートから現れるのを観測しました!」

もともと高いレンの声は、緊張で裏返っていた。

「バグリーチャーは一匹だけなの?」

ゼロに乗り込みながら大翔は確認する。

「現在は一体のみです。ですが、まだ特異点ゲートが存在するんため、新たに現れる可能性が、ああっ、来ました。二体目です。続いて三体目も来ました」

レンの声は悲鳴に近かった。

「落ち着こうよレンくん。とりあえずこのゼロは、最大五体までのバグリーチャーと同時に渡りあえる性能を持ってるんだろう?」

「は、はい、ミドル級なら五体まで対応可能です。ただ、ライト級なら二体、ヘビー級なら一体までという理論値が算出されています」

「出現したバグリーチャーのサイズは?」

「ライト級一体、ミドル級二体です」

「続報はある?」

「はい?」

「特異点からまた出てくる気配はあるの?」

「あ、特異点反応減少してゆきます。これまでの観測値から推定すると、これ以上のバグリーチャーの出現確率は極めて低く、このまま特異点は消滅すると思われます」

「上等! なら敵は三体だけだな。えーっと沢井くん。武器は何がいいかな?」

「はい。ライト級ならスタンワイヤで動きを止め、ハンドグレネードでとどめを刺す戦法が有功かと。また、ミドル級にはスタングレネードで動きを止め、リニアカノンでトドメを刺してくださいね」

「レールガンは?」

「アレはヘビー級用です。それに、ライト級やミドル級だと動きが素早くて、その、恐らく当たらないと思いますよ」

「俺の技量じゃ当たらないってか」

「そ、そういう意味ではありませんよ」

「冗談だよ。それじゃあ装備の換装を頼む」

「いま述べたのが標準装備ですので、もうできてますよ」

「流石だね。愛してるよ沢井くん」

「え? そんな……」

「あらら迷惑だった? そりゃすまない」

「そ、そんなことない、ですよ」

「社交辞令でもうれしいよ。それじゃあ出撃する」

「はい。頑張ってくださいね」

「あいよ」

ゼロのハッチがゆっくりと閉じて行く。

中世の甲冑を現代風にスタイリッシュにアレンジし、ボリュームアップしたよう形をしたゼロの姿態、その頭部センサーが作動し、バイザーがグリーンに染まる。

インテリジェンスインパクトスーツ、通称ツーアイズ・ゼロ。

その白銀の騎士が、ハンガーから射出され、大地に解き放たれた。


軽口を叩いてきた大翔だが、バグリーチャーとの戦闘経験は皆無だった。

シミュレーションによる模擬戦なら、百時間以上行っており、八割以上の勝率を収めている。

だが、バグリーチャーに同一固体は存在しない。

類似する個体は居るものの、殆どが一体ごと形状が異なり、その性格や特性も異なる。

生物と考えれば当たり前のことだった。爬虫類や哺乳類が異なるように、人間でも大翔やレンが異なるように、バグリーチャーにも個性がある。

確認された三七体のバグリーチャー全てと模擬戦を行ってきた結城だが、最初に特性を見誤ると、かなりの苦戦を強いられることは、シミュレーションによって実証されていた。

「結城二尉。ライト級の一体がこちらに向かってきています。時速約九〇キロメートルのスピードです。三〇秒後には到達します。キャンプ内に進入させないよう牽制してください」

「了解。他の二体は?」

「こちらに向かってはいますが、ミドル級アルファは四〇キロメートル、ミドル級ブラボーは二〇キロメートルです」

「時速九〇キロか……。ちょっと厄介だな」

「気を付けてください」

「どうしたのレンくん。今日はいつになく優しいんだね」

「ゆ、結城二尉が頑張らないと皆が困るんですっ!」

「そうだった。装甲車両の連中と重装歩兵をバグリーチャーの進行方向に展開よろしく」

「展開まで一分を要します。それまで最初のライト級を足止め願います」

「足止めなんて面倒臭い。撃破してみせるさ」

大翔はフットペダルを踏み込み、ゼロの踵部に仕込まれた極地仕様ホイールホイールローダーを展開させ、砂ぼこりを舞わせながら、バグリーチャーに向かって一直線にゼロを走らせた。

二足歩行だと、走ってもせいぜい時速二〇キロメートルがやっとであるが、このホイールローダーで加速することにより、整地の直線なら最高時速一六〇キロメートルで走破できる。

未整地の荒野の場合、ジャイロバランサーの判断でリミッターがかかり、最大で八〇キロまでしか出すことができない。
バイロットの安全を考えてのことだった。

もっとも未整地の場合、リミッターを解除してもせいぜい一〇〇キロだせれば御の字であろう。

「相手は時速九〇キロか……。車輪なしでこのスピードかよ。まるでチーターかなにかだな。まったくイヤになるぜ」

エネミーハザードが点灯する。バイザースコープにバグリーチャーの姿がロックオンされ、補足した画像が拡大される。

それはまるでカンガルーを凶悪化したような、なんとも言えないデザインをしていた。

太い二本の脚と対照的に痩せた上半身と二の腕。

首から上はなく、胸部に瞳らしきものが確認された。

全身を被う体毛は針ねずみのように太く鋭く、指先もアイスピックのように鋭く尖っていた。

「さてと、どう料理するかな」

大翔はゼロが持つユニークライフルに、散弾を装填した。

「これでも食らえ!」

バグリーチャーに向けて発砲した散弾は、射線上を三五度の角度で拡散する。射線上に居たバグリーチャーはその鉛の玉を避けようとせず突っ込んできた。

散弾とは言え、バグリーチャー用に開発された物で、その一つ一つの威力はアサルトライフルにも匹敵する。

だが、その威力をもってしても、バグリーチャーの進行を止めることは叶わなかった。

僅か一瞬、グラついただけである。

「マジかよ」

バグリーチャーとの距離はもう一〇〇メートルも無かった。次の弾丸を装填している暇はない。

「しゃあねえな」

大翔は沢井一曹の戦術に従い、ゼロの手の甲に仕込まれたスタンワイヤを射出するべく構えた。

もの凄いスピードで、バグリーチャーがゼロに迫る。

それぞれの固体により性格が異なるバグリーチャーだが、唯一共通する特性があった。

それは、一番近くに居る生命体を狙うというものだった。

つまり、ここでゼロに乗った大翔が絶命しない限り、バグリーチャーはゼロに攻撃を加え続ける。

逆にパイロットが死亡した場合、たとえゼロが無傷でも、バグクリーチャは素通りするだろう。

ゼロとバグリーチャーの距離が無くなり、重なり合う。

ゼロに覆い被さるように襲ってきたバグリーチャーがのけぞるように弾き飛ばされる。

ゼロの手の甲より射出されたスタンワイヤが、バグリーチャーの胴体を貫いて一直線に伸びていた。

「電撃浴びてくたばりやがれっ!」

スタンワイヤに高圧電流が流れる。象を一瞬で即死させる電流だ。

「そしてとどめだ」

左手の上腕部に内蔵されたハンドグレネードを射出する。

一発、二発、三発と、立て続けに爆発が起こる。

「どうだ?」

埃が舞い視界が悪くなる。

「ライト級バグリーチャー、仮称ナンバーライトアルファの沈黙を確認しました。後続のバグリーチャー来ます。油断しないで下さい」

視界が晴れないうちに、レンがバグリーチャーの撃破と、再接近の旨を告げる。

「二体同時か……。大丈夫かな?」

「装甲車両《バウンザー》と重装歩兵の展開完了しました。結城二尉は後退しつつ、素早い方のミドルアルファにターゲットを絞ってください」

「そうかい。そりゃ助かる」

大翔は、次に現れるバグリーチャーに備え、ユニークライフルにナパーム弾を装填し、後退を始めた。


通常、戦いにおいては、小型の方が組し易く、大型の方は退治が困難と思われがちだ。しかしバグリーチャーに限っては、そうとは言いきれなかった。

バグリーチャーの最大の脅威は、そのスピードにあった。

時空の歪みにより、バグネスト内では誘導兵器が使用できないという弊害が生じていた。

そのため、速度は強力な武器と成り得た。

高速で移動するバグリーチャーに対する有効な兵器を見出せなかった自衛隊にとって、先ほど見せたゼロの活躍は、大いに喜ばしい戦果であった。

足ののろいバグリーチャーはそれほど脅威ではなかった。

そうして、大型バグリーチャーの殲滅は、マンモスの狩猟に似通っており、距離をおいて地道にダメージを与え続けていれば、なんとか撃退できた。

つまり、最初の高速バグリーチャーを撃退した時点で、ツーアイズチームの勝利は確定したのだ。

「いいか、無理に倒そうと思うなよ。牽制すればいい。早い方を倒したら俺がでかい方もやるから無理だけはするなよ。この状況で万が一にも負けるとは思わないが、無駄な犠牲だけは出したくない」

装甲車両と重装歩兵が並ぶ防衛ラインまで戻ってきた大翔は、インカムでそう指示を出すと、再び迫り来るバグリーチャーに向かって歩き始めた。

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  5 ~勝利と敗走~
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ことの成り行きを一部始終を見守っていたノアと黒須川は、二人そろって大きなため息を吐いた。

「なによあれ?」

「最近噂になってるバケモノじゃないっすか? あんなの相手によく戦えるな。っていうかロボットですよ。信じられます?」

「つまりアタシたちは自衛隊の中でもとびっきりの戦闘集団に喧嘩売ってたってワケ?」

「そうみたいっすね。オレたち素人じゃとても太刀打ちできそうにないっすね」

「それよりどうするの。助けるならこの混乱に乗じた方がいいんじゃない?」

「そうっすけど、このジープは五人乗りだから全員は助けられないないっすよ。どうしましょうか?」

「とりあえずはリーダーを優先して、あとは車を運転できる奴と武器を扱える奴、まあ適当に拾える奴を回収すればいいんじゃない?」

「ですね」

二人はジープに乗り込み、エンジンを始動させた。

かなり混乱していたので、闇夜の中二人が乗ったジープは、自衛隊のキャンプに違和感なく溶け込んだ。


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「撃てーっ!」

護衛チームのリーダー、村雨二尉が号令をかける。

その号令に呼応するように、もの凄い量の弾丸が、雨のようにバグリーチャーに降り注ぐ。

「派手にやってるなぁ。実戦経験が有ると無いとじゃまるで違うね」

大翔は感心したように呟く。

ツーアイズチームの護衛として、バグネスト方面隊、第一三師団、第一三特科大隊より、バグリーチャーとの交戦経験のある村雨二尉を隊長とする、二四名の第二中隊が派遣されていた。

ツーアイズチームと呼ばれる特務四科は五四名の人員で構成されていた。

先の護衛部隊が二四名、技術チームが二〇名。ゼロのパイロットが一名。医師が一名に看護師が二名。運転手、通信などの雑務が六名という内訳になっていた。

大翔と村雨が戦闘している間、技術チームは、その戦闘データを漏らさずモニタしていた。レンもゼロのオペレータとして、結城に指示を出すので精一杯だった。

誰も、彼も、バグリーチャー撃退に忙しく、暇を持て余している人員など居なかった。

そこに、レジスタンスのつけいる隙があった。

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マンイーターたちレジスタンスは、自衛隊のキャンプの隅に後ろ手に手錠をかけられ、その手錠にワイヤを張られ、ひとまとめにされていた。

そうして二人の見張りがマンイーターたちを監視していたが、その感心はその場になく、バケモンの退治がどうなっているのか気になって仕方がないといった感じを受けた。

「とりあえずわたしが注意を引き付けるからヒロはマンイーターたちを救助して」

「引き付けるってノア。一体どうするつもりなんだ?」

「まあみてて」

ノアは黒須川にウインクすると、見張りの学徒自衛官に向かって駆け出した。

「きゃああああぁぁ……」

と、悲鳴を上げながら、ノアは学徒自衛官に向かって走った。

「だ、誰だ!」

「止まれっ!」

学徒自衛官は、悲鳴を上げるノアに対して銃を構えるが、ノアは銃など眼中にないという慌て様で、そのまま走り続けた。

「助けてっ! バ、バケモノがこっちに……」

必死の形相でノアが叫びながら駆けてくる。

その迫力に、見張りの学徒自衛官は一瞬戸惑いを見せた。

「ほらあそこっ!」

ノアは黒須川の方を指差した。

それに気付いた黒須川は、「なんてこった」と悪態を吐いて、慌ててその場を離れようとした。

「早く、早く退治してっ!」

ノアの迫力に気圧された学徒自衛官は、黒須川を確認すると、自動小銃を構えて発砲した。

だが、ノアが学徒自衛官に体当たりしたおかげで、その狙いは逸れ、弾丸はあさっての方向に飛んでいった。

「ちょっと、落ち着いて!」

「いやっ助けてっ!」

ノアは思い切り学徒自衛官の腕を握り、その銃口を黒須川からそらした。

「分かった。分かったから落ち着いて、おい、お前は村雨二尉に報告してこい」

「しかし……」

「いいから行け」

「はいっ」

もう一人の学徒自衛官は、ノアとレジスタンスを残して、その場を後にした。

「もういいですよ。安心し……」

学徒自衛官がノアにそう声をかけた瞬間、彼の後頭部に衝撃が走った。

ノアの持ったスタン警棒が脊椎に命中したのだ。

「ぐはっ!」

「ごめんなさいね」

ノアは学徒自衛官の腰から手錠の鍵を奪い取ると、マンイーターらの戒めを解いてやった。

全員の拘束を解いた頃、黒須川が運転するジープがやってきた。

「いいタイミングだよクロス」

「クソッタレがっ!」

後ろで拳銃の発砲音が鳴り響く。マンイーターが学徒自衛官に向けて発砲したのだ。

「バカッ、殺しは御法度って……」

「コロシちゃいねーよ」

見ると、太股を射抜かれてのた打ち回ってる学徒自衛官の姿があった。

「仲間を呼びに行かれちゃ困るだろ?」

「すでに気絶してたじゃないか! それに、手錠をかけりゃ済むことだろ。それよりもグズグスしてたらまたみんな捕まるよ」

ノアはマンイーターを睨んだまま、ジープの助手席に乗り込む。次いでマンイーターと、その側近二名が、後部座席に乗り込んだ。

「お、おれたちは?」

「置いてかないでくれよー」

残されたレジスタンスが情けない声をあげる。

「オマエラは走ってついてこい。出せよクロス!」

砂塵を巻き上げ、黒須川が運転するジープが発車する。

「ま、待ってくれよ!」

「おーい!」

その後を追いかけるように、レジスタンスたちが走ってついて行く。

しばらくすると、自衛隊キャンプから歓声がが聞こえてきた。バグリーチャーを殲滅した歓喜の声だった。

「クソッタレ! クソガキどもめ。このままじゃ済まさねえぞ。絶対に……」

ジープの車上。マンイーターの呪詛のような呟きが、闇夜に溶けるように響く。

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