2章「Ludimion《ルジミオン》」


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  2章「Ludimion《ルジミオン》」

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  0 ~銀河の中心~
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それは一瞬にして、永遠の出来事だった。

銀河の中心にて、種としての究極の進化を遂げ、繁栄を極めた精神生命体ルジミオン。

永遠に続くと思われた彼らの栄華は、彼ら自身が創り出した技術によって失われようとしていた。

肉体を必要としないルジミオンであったが、その生命活動を維持するには微量の電荷、すなわち電力を必要とした。

その身を機械に寄生させ、巨大な発電機に寄り添って生活する、平温で退屈な日々。思考実験や哲学の探求、闘争本能を持たない彼らは、そのまま平和の中で、悠久の時を過ごすはずだった。

少なくとも、彼と彼女が現れるまでは……。


そのルジミオンは、好奇心が強くて思慮が浅い、若者特有の性急さを持っていた。

まだまだ教育が必要な年頃のルジミオン、彼の名はサフィール。

永遠の時を生きる彼らにとって時間は無限であり、熟成を急ぐ必要はなかった。

ゆっくりと、長い時間をかけて大人になれば良かった。だが、その若きルジミオンのサフィールは、ルジミオンとしては異例な程の探求心と行動力を持っていた。

先人達の頭脳を結集して完成した完璧なシステム。ブラックホールを制御し、電力を安定供給するシステムに、サフィールは興味を示した。

その理論は完璧で、システムのセキュリティも万全だった。

そこに油断があった。成熟した、大人のルジミオンたちは、先人達の遺産に絶対的な信頼を置き、そのシステムを過信していた。

誰も、一人として、サフィールの行動を諌めようとする者はいなかった。

なぜなら、それはすでに自分たちが歩んできた道であり、若い頃特有の熱病みたいなものだったからだ。

サフィールは、果敢にシステムをアタックした。何万回、何億回と、星が生まれ、超新星となって爆発するまで、その執拗な解析作業は繰り返された。

そうして……。

ついにシステムの防壁は破られた。

サフィールは達成感に酔いしれた。その瞬間、彼の好奇心は満たされ、サフィールは再び瞑想を行う日々へと戻った。長い年月が、サフィールを成熟した大人のルジミオンに成長させていたのだ。

だが、基本的な性格だけは変わらなかった。

しばらくして、単調な思考実験に飽きたサフィールは、今度は自らが創り出した相転移エンジンを搭載した船に乗り、宇宙の大海原へと旅立った。

だれもサフィールを止めるものは居なかった。ルジオミンは、たとえ百万光年離れていても、意思の疎通が可能だった。離れていても、近くに居ても、生きている限り、存在する場所はどこでも構わないのだ。

安定した電力が供給されるという理由で、一箇所に留まっているに過ぎない。


それからしばらく。どれくらいの時間が経っただろうか。

再び、システムに挑もうとするルジミオンが現れた。

今回もまた、大人のルジミオンは放っておいた。だが、サフィールの時とは少し条件が異なっていた。

確かにサフィールは悠久の時をかけて、システムのセキュリティを突破した。そうして達成感に満ち足りてそれ以上は何もやらなかった。時が彼を大人にしたからである。

だが、今回は違った。

すでにシステムの防壁は破られているのだ。

サフィールはカギを空けたままにしておいたのだ。

当然の事ながら、その若いルジミオンは、難なくシステムの核にたどり着いた。

そうして、若きルジミオンの姫、ユリア・ジルヴァナの好奇心は微塵も満たされていなかった。

彼女の好奇心の矛先は、そのシステム本体に向けられた。

ユリアはシステムの内容を解析し、その若さゆえの傲慢さによって、自分ならもっとスマートなやり方ができると考えた。

そうしてシステムを書き換えた制御装置は、より洗練されたものとして生まれ変わる筈だった。

だが、ユリアが冗長なコードとして削除した一万箇所に及ぶ項目の一つは、絶対に省いてはならない重要なセキュリティコードだった。

数十億年という長い時間、ルジオミンたちにエネルギーを与え続けていたブラックホールの制御システムは、一瞬にして崩壊した。

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  1 ~ユリア・ジルヴァナ~
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ユリアを乗せたカプセルは、無事に特異点ジャンプを果たしたようだ。

だが、余りにも突然のことだったので、機能に支障が生じており、修理しないと二度とジャンブは出来ないという有り様だった。

(ここはどこだろう……)

ユリアは意識を広げようと周囲にアンテナを伸ばしたが、電波妨害が多くて正確な位置は分からなかった。

それでも、銀河系の隅にある原始惑星に到達したことだけは分かった。

(どうして惑星なんかに特異点が発生するのかしら?)

ユリアは思考した。そうしてこの惑星が貯えている情報を得るべく、働きかけた。

星々が持つ記憶。――プラネットメモリ――

ユリアたちルジミオンは有機生命の思考はおろか、無機物の記憶まで読み取ることが出来た。

むしろ複雑な感情を持たない珪素たちの方が、簡単に情報を読み取ることができる。

そうして、この惑星のメモリを解析することによって、この星には原始的だが生命が発生していることが分かった。

更にメモリを解析すると、この星が文明を持った惑星であることが判明した。

(文明レベルは二から三ってところかしら……)

そうして検索してゆくうちに、ひとつの重大な情報を入手した。

(ここの原住民もブラックホールを作ったのね!)

それは、ルジミオンのユリアたちに比べたら、あまりに稚拙な技術水準で、子供のオモチャのようなものであった。

(制御すらされてないし、野放し状態じゃないの!)

ユリアは少々呆れてしまった。極小のブラックホールとは言え、一度暴走してしまえば、この惑星を飲み込んでしまうことくらいは可能だった。

つまりこの惑星は消滅の危険性が極めて高い状態にあるのだ。

(失敗したかな。もう少しレベルの高い星に到着できるかと思ってたんだけど……)

ユリアは自分の使命を思い出し、少し憂鬱な気分になった。

その時である。ユリアを乗せたカプセルが、何者かの手によって、回収されたのだ。

思考に没頭していたため、原住民の接近に気付かなかった。ユリアは慌てて外界に思考のアンテンアを伸ばした。

原住民は、脊椎を持つ内骨格形をしており、二本足タイプだった。軟らかな外皮はとても脆く、真空中ではとても生存できそうに無かった。

ただ、その姿は、ユリアたちルジオミンの遠い祖先と共通点があり、好感が持てた。

原住民はユリアのカプセルを宝石か何かだと勘違いしているようだった。

ユリアは原住民の思考にアクセスした。


原住民の名は美優というようだ。そうして彼らは雌雄別になっており、彼女は雌、すなわち女性であるようだ。

思考アクセスによって分かったことだが、どうやら原住民には異星人とのコンタクト経験がないらしい。

ユリアは更に原住民の思考を読み、彼女の記憶にある、母親像を模倣するのが最良であると判断した。

実体ホログラフィを作動させ、カプセルをコアとして、美優の母像に少しアレンジを加えた姿にユリアは変身した。

突然現れたユリアに、原住民の美優は慌てた。

(怖がらないで。わたしはあなたのお母さんの遠い親戚にあたるユリアよ)

ユリアは美優の記憶から学んだ日本語を駆使して、美優の脳裏に直接問いかけた。

「ユリア……さん」

(そうよ、ユリアよ。お母さんから聞いてない?)

「よくわからない。でもお母さんに似てるような気がする。でもいままでどこにいってたの? おとうさんは事故でぜんいん死んじゃったって言ってたけど、ユリアさんはどうやって生き残ってたの?」

(この不思議なカプセルが守ってくれたのよ)

「そうなんだ。なんかすごーい! そうだ! みんなにしらせてあげなくちゃ」

美優はユリアをにぎりしめ、廃ビルに向かって駆け出した。

(ちょ、ちょっと待って、わたしのことは秘密にしておいて!)

美優の脚が止まる。

「えー、どうして?」

(大人は怖いの。子供だったらいいわ)

「じゃあ美羽おねえちゃんは子供だから見せていい?」

(構わないわよ。普段はこのカプセルの中に入ってるから、用事があるときに呼んでね。出てこいって念じれば出てくるわ)

美優の母親像を模っていたユリアのホログラフィが消滅し、最初のカプセル、深緑に光る丸い珠に戻った。

「あたしがこのタマ持ってていいの?」

(いいわよ。なくさないでね)

「うん!」

とりあえず原住民との接触は果たした。ユリアはこれからのことを考えるため、しばらく思考に耽った。

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  2 ~深夜の告白~
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深夜。すでに皆が寝静まった寝床にて、美優はむっくりと起き上がり、美羽を揺さぶった。

「おねえちゃん。おねえちゃん起きて。おねえちゃんったら」

なかなか起きない美羽に腹を立てた美優は、美羽の小ぶりな胸をわし掴んだ。

「きゃっ!」

いきなりの急所攻撃で、飛び起きる美羽。もちろん目は覚めた。

「な、なにを!」

「しぃー」

人差し指を口に付け、美優は黙って付いてくるよう美羽に言った。

美羽はブツブツと文句を言いながら、美優の後について外に出た。

外は少し肌寒く、長居したら風邪を引いてしまいそうな気候だった。

「こんな夜中にどうしたの。一人でトイレに行けない歳じゃないでしょう」

「トイレじゃないよおねえちゃん。これを見てよ」

美優は服の中から深緑に光る珠を取り出した。

「毬藻?」

「違うよおねえちゃん。ユリアさんだよ。お母さんの親戚だよ」

「はあ?」

少し頭の弱い子だと思ってはいたが、ここまで酷いとは……。

美羽は美優を不憫に思った。

「あのね……」

美優に親戚なんて居ないと、諭そうとした瞬間。突然、深緑の珠がまばゆく発光した。

(はじめまして)

眩しさに目が眩み、瞬きした直後。そこには確かに、等身大の人間。金髪の女性が立っていた。

「う、嘘……。本当に美羽の親戚なの?」

(もちろん嘘よ。わたしはユリア。ユリア・ジルヴァナ。異星人よ)

「異星人?」

(待って! わたしに話を合わせて。美優はわたしのことを親戚のユリアだと思ってるの。というよりそう思わせた方が良いと判断したの。でもあなたには通用しないみたい。だから本当のことを話すわ。だから黙って聞いて頂戴。お願い)

「わかったわ」

(ありがとう。この会話は美優には聞こえてないわ。あなたとわたしだけ。それから始めに断っておくけど、わたしはあなたたちの思考が読めるの。だからあなたには本当のことを話すの)

「わたしが嘘を信じないと思ったから?」

(正解。飲み込みが早いわね。賢い子は好きよ。じゃあついでに美優に寝るように伝えて頂戴。二人きりで話したいわ)

「わかった。……美優。あなたはもう寝なさい。夜風に当たりすぎると風邪を引くから」

「えー」

「えーじゃない。美優が倒れたら、わたしがシャクシャインに叱られるのよ」

「あ、うん。わかった。おねえちゃんがおこられるのいやだもん。でもユリアさんは?」

(わたしはもう少し美羽とお話するわ。ちゃんと話しが終わったら美優のところに戻るから。ねっ)

「うんわかった。おやすみなさい」

「おやすみ美優」

(おやすみなさい)

美優は不承不承寝床に戻っていった。


ユリアは美羽に自分のことを話した。

精神生命体であること。

銀河の中心からやってきたこと。

何故やってきたのか、その理由をすべて話した。

最低限の教育しか受けてない美羽には、ユリアがいう話の半分も理解できなかったが、嘘を言っているわけではないことは分かった。

それは直接脳裏に響いてくるユリアのテレパシーには、疑いようが無い真実しか見えなかったからだ。

逆に美羽が考えていることも筒抜けで、この脳内で行う会話では嘘をつくことは不可能だった。

「そのユリアがいうベムっていうのは、バグリーチャーって奴のこと?」

美羽は先日会った学徒自衛官の大翔が言っていたことを思い出していた。

(あなたとその男性の会話から推察すると、恐らく間違いないと思うわ。奴等はブラックホールの特異点から出現する悪鬼よ)

ルジミオンであるユリアには、悪鬼という概念などない。

美羽に理解しやすいよう、ユリアは意訳しているに過ぎない。

「見たことはない。だけど、そのバグリーチャーに会った人はみんな殺されたって聞くわ」

(彼らの目的は生物が持つ魂よ。生命元素と言っても良いわ。生物の生命活動を捕食すために殺すの、彼らにとって肉体は入れ物でしかない)

ユリアはまるで唇をかみ締めるかのように思念を発していた。

「気休めしか言えないけど。多分ユリアの仲間は無事よ。みんな賢いんでしょう?」

(でも、目の前で、何億もの意識が消えてゆくのを共感したわ。肉体を捨て、武器も捨てたわたしたちに抗う術はなかった。みんな逃げるのが精一杯で……)

「ここも。この北海道も実験の事故で沢山の人が死んだわ。わたしの本当の両親も死んだと思う。わたしはショックで事故以前の記憶は忘れちゃったけど、知らない方が幸せだってシャクシャインも言ってたし、わたしも知りたいとは思わない。問題はこれから。今後どう生きるかで、人生の価値は決まるって。シャクシャインがそう言ってた」

(ありがとう。優しいのね。そうね。くよくよしても仕方ないわね。わたしは、わたしにできることをやるわ)

「わたしに出来ることがあるなら協力するわ」

(ありがとう。気持ちだけ受け取っておくわ。それよりもあなたは寝た方がいいわ。生命活動が維持できなくなるわよ)

「そうする。ユリアはどうするの?」

(わたしに睡眠は必要ないわ。電力の続く限りずっと……)

「すごいわね」

(それじゃあ行きましょう)

ユリアは、美羽の後について寝床へと歩いて行った。


自分の慢心によって、同胞を危機に晒してしまったユリア。

不要だと思い、制御システムから削除したコードのひとつが引き金となり、ブラックホールが不安定になってしまった。

特異点が急激に増加し、やがてその特異点たちは互いに干渉し合い、特異点の間に安定したゲートを作り出した。

そうしてそのゲートから突如として現れたベム《バグリーチャー》によって、多くの同胞を失った。

まるで長い間封印されてきた魔物が喚起するかのように襲いかかかるベム《バグリーチャ》たち。

その光景はとても筆舌に難しく、思い出すだけで魂が震え、消滅しそうになる。


自責の念に苛まれているユリアを見て、美羽はこの北海道を灰にした人物も、同様に後悔しているのだろうかと考えてみた。

だが、たとえ後悔し、反省していたとしても、とても許せるものではなかった。

そうしてユリアもまた、同胞に怨まれいるのだろう。だが何故か、そんなユリアを可哀相だと美羽は思った。

この矛盾した感情に美羽は戸惑い、なかなか寝付けなかった。

ユリアの目的は、バグリーチャーを殲滅できる兵器を接収することだと言っていた。

肉体を捨て、精神生命体へと進化したルジミオンに武器は必要なかったため、その知識は封印されていた。

争うことを放棄した種族ルジミオン。

美羽にはとても信じられなかった。

その、武装などしなくとも、絶対安全と思っていた彼らに天敵が出現したのだ。

自ら武装することができない彼らの取る道は逃げるか狩られるかの二つに一つだった。

ユリアらにできることは、武器を持つ文明に接触し、その助けを借りることだけ。

そうしてその報奨として、ルジミオンが持つ莫大な知識を分け与える。

そのためにユリアらルジミオンの生き残りは、自分らを救ってくれる文明を探す旅に出たのだという。

ベム《バグリーチャー》を殲滅する兵器。

美羽にはひとつだけ心当たりがあった。

自衛官の大翔が言っていた兵器。それさえあればユリアの願いは叶う。

明日になったらそのことを教えてやろう。

そう思いを馳せながら、美羽は深い眠りについた。


――ユリアは、そんな美羽の幼いが純真で、一点の曇りの無い思考を愛でながら走査していた。
そうして美羽が眠ったと知るや、その想いを、遥か遠い銀河へ向けてとき放った。

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