ABCバッドエンド


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1 逃げる  バッドエンドルート

「記憶を、消してくれ……」
そう告げた瞬間、ユリアは心底落胆したかのような表情を見せた。
「……わかりました。後悔は………………いえ、意味が無い質問はやめましょうか」
ユリアが、影の中をひたひたとこちらに向かってくる。
端から見れば、今の姿勢は姫に跪く従者のように見えるだろうか?
……いや、見えないだろうな。
今の俺なんて、乞食以下の卑しく弱い存在なのだから。
「では、これから記憶を消去する魔法をかけますが……何か言いたいことは?」
「………………厚かましいけど、妹達を……連れて行ってやってくれ。二人が、寝ている間にでも」
人のことを自分勝手だなんて言っておきながらこんなことが言えてしまう自分が、最後の最後で死にたくなる程嫌いになった。
「……わかりました。ヒロトさんがそう言うのなら、そうしましょう」
ユリアの白い手が俺の額にかざされて――。



ジリリリリリ。

「うおあっ!?」
夏にしてはさわやかな朝、俺はセットした覚えのない目ざましに叩き起された。
……なんだか嫌な夢を見ていたような気がするけれど、あくまでも気がするだけという話。
光のエネルギーを充填しようとカーテンを開き、眩しさに目を細めながらも日光を全身に浴びて力をチャージする。
「いよしっ!」
今ならソーラービームも撃てそうだなんて考えながら制服に着替える。
時間を確認すれば七時ぴったりで、無意味にうれしくなったりした。

「よっす!! 皆おはようっ!!」
どたどたと地響きを響かせながら階段を降り、無駄はりきりながらリビングに入った――が。
「……あれ?」
そこには、誰もいない。
朝食を用意する為にキッチンに立っているはずのエプロン姿の美優も、遅いよ兄貴と俺を叱る美羽も、剣の鍛練を終え少し汗をかいているレンも、そんな皆を見てあらあらと笑っているユリアも。
誰も、いなかった。

「先に学校行ったのか……?」
その可能性は限りなく低いし、すぐに否定された。
まだ、美羽と美優の靴は残っていたのだ。レンとユリアは確かでは無いが、妹達は家を出ていない。
「……何だ?」
胸に、言い様の無い不安が募る。
シャツを裏返しで着ているみたいに気持ち悪くて、歯車がずれて軋み、全てが崩れてしまいそうな錯覚を覚える。
……いや、ただの錯覚だ。朝からはしゃぎすぎて調子がずれているのかもな。
「…………」
そう合点をつけようと思ったけれど、不安は拭いきれない。
俺の足は自然と美羽の部屋に向かった。

「美羽、起きてるか?」
控え目なノックをして、返事を待たずにドアを開ける。

――誰もいない。

ベッドのシーツにも乱れた様子は無く、熱も籠っていない。
……つまり、誰も寝ていないということだ。
最初から、誰もいなかったとでも言うのか? 夜に出かけて朝帰り? あの美羽がそんなことをするとは思えない……。

「美優……!」
焦りを隠しきれずに、駆け足で美優の部屋に向かう。
今度はノックもせずに中に転がり込むように入り――結果は、同じだった。

「なんで……! 何で誰もいないんだよ!?」

そして誰もいなくなった。
そんな小説のタイトルを思い浮かべた。内容なんか知らないけれど、名前だけは知っている。
でも、人間が急に消えるわけがないんだ!
俺はポケットから携帯を取り出して二人の番号にかけようとして、すぐにそれが無駄だとわかった。

机の上に、二人の携帯電話が仲良く並んで置かれていたのだ。
「どこに……!」
どこに行ったんだ!?

気がつけば、俺は外に飛び出していた。
警察を呼ぼうかとも思ったのだけれど、それはまだ早計だとも思った。

「そうだ、陽菜にも探すのを手伝ってもらえば……」
寝起きは悪い奴だけれど、事情を説明すれば飛び起きてきてくれるだろう。
友達のピンチは必ず助けてくれる。あいつはそういう奴だ。
アドレス帳から陽菜の携帯に電話をかける、早く出てくれとだけ願いを込めて携帯を握りしめ……。

プツッ
「陽菜か!?」
1コールもしない内に電話が取られたかと思えば、返ってきたのは絶望だった。


「お掛けになられた電話番号は、現在使われておりません――」


「な……」
予想外の事態に、膝を折る。
陽菜も、いなくなった……!?
俺の大切な家族や友人ばかりが消え去り、わけがわからずに混乱だけが重なり、意識していないのに涙が零れた。
何で、何で何で何で何で何で……!
役に立たない携帯を放り出し、街を駆けずり回る。
助けを呼ぼうだなんてもう思えなかった、これ以上他に誰かがいなくなっていたらだなんて考えたくない。

「がっぁっ……!」
そして、無様に転んだ。
……運動不足だったから、足がもつれたんだ。

痛い。
……体以上に、心が。


『最も後悔する道だと思われますけど』


ふと、そんな言葉が心の中に浮かびあがった。

誰が言ったのかわからない、いつ言われたのかもわからない。
もしかしたらどこか本で読んだ文章の一部かもしれない。

でも、そんなのどうでもいい……どうでもいいから……!

「後悔してるかどうかなんて、わかんねえよ……! どこにいるんだよ……! 美羽!!! 美優!!! 陽菜ぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

叫びに反応するかのように、目の前に黒点が浮かびあがった。
「……え?」
虚空に穴を空けたかのように、ぽつんと球体のような穴が浮いているのだ。
「なんだ、こ――」
れ。


最後まで言い切ることも出来ずに、全てが消滅した。
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