世界が見えた世界・7話


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 夜の学校ってほんと怖いのな。
 夜の教室で一人ぽつんと座ってるとあまりの寂しさに身投げしたくなってきた。いやわけわかんない衝動だと思わないでくれ。俺が一番わけわかんない。
 加えて割と本気でこっちの命狙ってるやつがいつ襲ってくるのかわかんないんだ。胃がきりきりと痛んでるのがわかる。あー、何で俺昼にあんなこと言ったんだろ。こんなことならかっこつけてないで乃愛先生の手助け借りればよかった。
 なんて泣き言を言っても仕方がない。俺は自分の席から立ち上がると、音を立てないようにゆっくりと廊下に出る。
 ポーキァとは時間の指定をしていない。時間の指定がないということは、相手がいつ来るかわからないということでもある。同時に、場所の指定も学校としか言っていない。つまり、学校のどこに俺が潜んでいるのかポーキァにはわからない。
 お互いに目隠しの状態からスタートするサバイバル。ポーキァは俺の話を聞いた瞬間にゲームだといったが、確かにゲームの要素が強いかもな。かけるものが自分の命って点を考えなけりゃ、な。
 校内の警報の類はすべてストップしてある。これが、俺が乃愛さんに頼んだことだ。どこに何があるのかもすべて把握してある。それらをうまく使い、圧倒的戦力を誇るポーキァを封じ込めなくてはいけない。
 緊張で喉がからからに渇いている。暗い廊下のその角からヤツが出てくるんじゃないかと、恐怖が背筋をそっとなでる。
 あいつも馬鹿じゃないだろうから、忍び込む形で校舎に入ってくるだろう。もう入っているのかもしれない。俺はそいつを先に見つけ、まずは一撃叩き込む。そのために動かなくてはいけない。
 時計が、10時を刻む。その瞬間!!

大翔「うおぉぉっ!?」

 突如学校全体が揺れたような気がした。地震……じゃない!? これは、昼間のあれと同じ揺れだ!
 かがんで窓をこっそりとのぞく。すると、校舎の一角に煙が上がっていて、たまに電気がばちばちと放電している。どうやら派手に突っ込んできたらしい。
 えーっと。うん、どうやら相手は馬鹿だったらしい。ていうか問答無用で馬鹿だろあいつ。自己主張の強いタイプだな。

ポーキァ「オラァ! どこにいやがるっ!?」

 お馬鹿さんが大声で叫んでいやがる。カルシウム取ってる? なんか調子狂うけど、相手のあの様子も余裕からくるものかもしれないな。事実戦力差は歴然としているんだから、俺が慎重に事を進めることに変わりはない。
 さて、はじめるか。結城大翔、人生二度目の生死のかかったガチ喧嘩だ。




 ポーキァの居場所は離れていてもよくわかった。常に電気を纏っているせいで蛍か何かみたいにピカピカ光ってやがる。とはいえこれは困る。何しろ俺があいつに付け込む唯一の隙が照準から発動までの間しかないのだ。それなのに、常に発動状態で後は照準をつけるだけとなると、付け入る隙が格段に短くなってしまう。
 そこまで考えてポーキァがあの電気を纏っているとは思わないけど。さっきからぎゃあぎゃあ煩い事この上ない。おかげで夜の学校の緊張感なんか皆無だ。

大翔「まあとにかく、うまく仕掛けを使ってどうにかするか。あとは……これだな」

 乃愛さんを通じてエーデルから無理やり借りた例の魔力をためる宝石。聞けば、魔力をためるだけでなく放たれた魔法も多少ならば吸収できるそうだ。もしものために、首から提げておく。魔力の開放に魔力が必要らしいから俺には扱えないので、完全に防御用になるがそれでも隠し玉のひとつになることには違いない。
 ポーキァは学園中を順番にしらみつぶしに回っているから先回りは容易だ。まずは……あそこで仕掛けるか。




 ポーキァは誰も居ない廊下をずんずんと歩いているようだ。全身から怒りや苛立ちといった感情が撒き散らされている。俺は階段に伏せて、壁に隠すようにおかれた鏡からその様子を見ていた。
 あのポーキァの言動から推測されるのは、あいつは頭の回転は悪くないが精神的に未熟だということだ。思考が安定していないし目先の目的にひきつけられやすいようだ。俺と似ているかな、俺はあそこまで突撃思考はしてないけど。
 なのでヤツへの罠は俺がよく引っかかってしまうものを選べばいい。オーソドックスなタイプだ。思考をある一点に集中させ、別の方向からの襲撃をかける。貴俊と喧嘩になったときはよく引っかかる。
 鏡に映った向こうの廊下から明かりが近づいてきている。俺が仕掛けようとしている罠は学校という建物を戦場とすると仮定したとき、おそらく誰でも考え付くタイプのものだ。だがそれだけに、その部屋を警戒する人間は多いだろう。
 この世界の人間ならば、という前提が入るが。
 この世界に来た当初の――いや、今でもそういう場面を見るが、ユリアさんの行動を思い返せば、彼女達の世界と俺達の世界というのはまったく違った文化を持っている。科学の発達の差とでも言うべきか。常識が違う。俺達ならば常識として知っている事柄の危険性を、ヤツは知らない。そこを、突く。
 雷を纏った人影が、角から出てきた――瞬間。

ポーキァ「そこかァー!!」

 閃光。次いでバチンというはじける音が響き、窓ガラスの割れる音も響いた。恐る恐る目を開く。鏡に映った光景は、こちらの意図通りのものだった。

ポーキァ「……なんだ、これ?」

 廊下の真ん中あたりに放置された人型のオブジェ。それは俺があらかじめ置いておいた人体模型に適当な布をかぶせた物だ。それが外側の窓際に置いてあり、固定されていて、ポーキァの電撃を受けて焼け焦げていた。その後ろの窓ガラスが粉々に砕けているのを見て慄然とする。やっぱり、攻撃力が桁外れだ。

ポーキァ「クソッ、変なもの置きやがって……やる気あんのか、アンタは!?」

 人体模型を蹴り飛ばすポーキァ。完全に頭に血が上っている。そうだ、それでいい。俺は素早く立ち上がり、鏡でポーキァの位置がまだ動いていないことを確認し、カッターで背後の窓から伸びている糸を断ち切った。

ポーキァ「なんだっ!?」

 続いて廊下の向こうでガラスの割れる音が連続し、ポーキァが声を上げる。どうやらボウガンは避けたらしい。俺は急いで階段を駆け下り、下の階へ逃げる。その背中に、ポーキァの狂気と歓喜の入り混じった声が届いた。

ポーキァ「そこかああああ!!!!」

 白い閃光が弾け、次の瞬間。

 ドゴォォォォォン!!!!

 激震と轟音。上階から吹き付けてきた激しい熱風と振動に体を煽られ、俺はその場に座り込む。想像以上の衝撃だな、これ!
 揺れは一瞬だったが、轟音のおかげで耳がわんわんと変な感覚を残している。俺は軽く頭を振ると、階段をゆっくりと上っていった。上階の光景は悲惨なものだった。
 炎と黒煙が立ち上り、廊下のガラスのすべてが吹き飛んでいる。熱風が体を舐めて嫌な汗が流れる。自分がやったこととはいえ――いや、だからこそ、目の前の光景に苦いものがこみ上げてくる。さすがに、死んだかもしれない。
 俺の作戦は単純なものだ。ポーキァに対しての最大威力での攻撃を行った。化学準備室そのものを爆弾とすることで。化学準備室のガス栓をすべて開けて教室を密封。ポーキァの電撃で引火させ爆発を引き起こす。誘導のために人形を置いてポーキァの意識を固定し、そこに不意を打つ形で準備室の中からボウガンを発射することで反撃を誘う。小道具の準備に手間はかかったが、それだけにまさしく必殺の威力を備えた罠になる。
 さすがに、これほどの威力になるとは思いもしていなかったが。

大翔「にしても、ひどい有様だな……これで俺も、人殺しか、くそ」

 覚悟はしていた。だが、実際にそうなると……なんだか、自分というものが酷く醜悪なものに感じる。
 けど、目をそらすのはもっと醜悪だ。とにかく、どんな状態になっているのかだけでも確認を――、

ポーキァ「オイオイ、勝手に殺すなよオニーサン。そりゃ、かなりびびったけどさぁ!」

 ぞくり、悪寒が体の芯を貫く。懐から取り出し放り投げた金属塊に閃光がぶつかる。おいおい、マジか……。
 煙の向こうからゆっくりと歩いてきたのは、ポーキァだった。多少衣服が焼け焦げていたりするが、怪我をしているようにも見えない。あの爆発を、どうやって防いだんだ、こいつ……。

ポーキァ「ったく、なんだよ今の爆発。もうちょっとシールドを張るのが遅かったら死んでたぜ? まあ、それくらいやってくれねーと俺もやりがいがないけどさぁ」

 くっくと嗤うポーキァ。余裕。あのタイミングの攻撃を……自爆を誘発させる攻撃を、余裕で防いだのか!
 あの罠の最も重要なポイントは、相手に発火させるという点だ。こちらが爆発させるのでは、相手は防御に集中するタイミングを得るかもしれない。だが、この場合ポーキァは攻撃の最中に目の前から大火力の攻撃を受けることになるのだ。
 恐るべきはその反応の速さと意識の切り替えの早さ! 攻撃を受け、反撃。そこから反撃を受け、防御。わずか数秒の間に連続する必殺のやり取りを見抜く、その思考。こいつ……馬鹿だが愚かじゃない。

ポーキァ「あん? なにオニーサンその顔、ひょっとして俺が生きてて安心してんの?」
大翔「……そうかもな。あいにく俺は、人を殺したことなんかないしこれからも殺したくはないしな」

 俺の言葉をポーキァは嘲る。

ポーキァ「はああぁぁ。じゃあなに、アンタ俺を殺すつもりナッスィン? おいおい、それじゃ俺のワンサイドゲームになるじゃん、それつまんねーぜ」

 あいにくと俺には目の前のクソガキを楽しませる義務も予定もさらさらないので問題なし。そんなことするくらいなら今日の晩飯になに作るかでも考えてるほうが億千万倍マシだ。

大翔「やかましい。別にお前に殺されるつもりもないし、お前に負けるつもりもない」

 殺す殺さないだけが全部だと決め付けてるヤツに負けるつもりはない。
 現金な話だが、ポーキァが生きているとわかって体に活力が戻ってきている。ほっとした。ポーキァが生きていたことじゃなく、俺が人を殺していないことに。さっき一瞬脳裏をよぎった、妹達の姿を思い浮かべる。
 さすがに、人殺しの兄は嫌だろうなぁ。
 だから、俺は誰も殺したらいけない。その上で、妹達を、ユリアさんたちを守らないといけない。家族を、守らないと。

大翔「覚悟はいいか、ポーキァ。本気を出した俺は、悪いが結構手ごわいぜ?」
ポーキァ「やってみろよへたれオニーサン。全身の血液沸騰させて血煙吹かせるぜ」

 ポーキァは今は雷を纏っていない。あれはあれで準備に時間がかかるのか、それとも別の理由があるのか、はたまた別に理由なんかないのか。それにさっきシールド張ったとか言っていたし通常魔法もどんな風に使うのか。
 不利だが――退く理由には、ならない、足りない、なり得ない!
 床を強く踏みしめ、低い姿勢のまま駆け出す。ポーキァの両腕が光を帯び、こちらに駆け出してくる。距離は一瞬で詰まる。格闘技の心得があるのか、ポーキァの動きは滑らかで隙がない。鋭く突き出された左の手刀を右腕で弾く。パチンと小さな弾ける音がして、右腕に痺れが走る。
 なるほど、両腕の雷は放つためじゃなくて打撃の補助か! 厄介な真似を!
 続いて繰り出される右の手刀を、今度は受けることなく体を右によじってかわす。そのままポーキァの右に旋回し、腰の回転を利用して拳を肩に打ち込む。

ポーキァ「ってぇ! はっはぁ、やるじゃん、オニーサン!」

 手ごたえはあった。ポーキァの顔が一瞬歪み、それでも狂気の笑みを浮かべてこちらめがけて突進してくる。俺は構えなおし、迎え撃つ形で拳を打ち出す。ポーキァは体を屈めて懐にもぐりこんでくると、床を蹴り鋭く俺の胸めがけて両腕を突き上げてきた。
 そんなもの、受けてたまるか! 左ひざでポーキァの右腕を蹴り飛ばし、体を左手で倒す。ぐっ! 脇腹が焼けるような痛みに襲われる。かわし切れなかったか!
 いったん距離を離す。いつの間にか場所は入れ替わり、俺は瓦礫の中に立っていた。足元に、焼け焦げた溶けた人体模型が転がっていた。
 さらに追い討ちをかけてくるポーキァとの応酬。くそ、格闘ならどうにかなると思ったが、相手の両腕に触れられないからどうしても深く踏み込みきれない!

ポーキァ「ほらほらぁ、どうした!? そのままじゃあ俺に殺されるか負けるかしちまうぜっ!?」

 黙ってろ今すぐぶっ飛ばしてやる! 今すぐ無理でもそのうちぶっ飛ばす! てめえのその顔がどこかの馬鹿とかぶるからな、普段できないっつーか二度とあいつとはやりあいたくない分本気でぶっ飛ばす!!

ポーキァ「な、なんかアンタいきなり顔つきが凶悪になってねーか?」
大翔「うるせえヤクザ顔のガキが! お前の目つきに比べたらミシシッピアリゲーターのがまだ可愛げがあるわ!」
ポーキァ「あぁ!? なんかよくわかんねーけど馬鹿にしやがっただろ、アンタ!」

 俺はカッターを素早く取り出し、刃を最大まで伸ばして投擲する。高速で回転する刃をポーキァは身をのけぞらせてかわす。続いて足元の瓦礫を蹴り飛ばす。何度も何度も蹴り飛ばす!

ポーキァ「うざってんだよ!」

 ポーキァが大きく距離をとり、両腕を交差させる。エーデルと打ち合った、あの大技か! 全身が恐怖と悪寒に締め上げられる。だが、俺もこの対策を考えていなかったわけじゃない!
 転がった人体模型に飛びつくと、股から裂いて中から絶縁体の包みを取り出す。包みの中には、ガソリン入りの瓶。熱ですでに気化しているはずだ。巨大な電気のドームの中にたたずむポーキァ。余裕の面、崩してやるよ!
 放り投げた瓶はまっすぐに電気のドームにぶつかり――爆発。今日のうちに何度爆発を起こすんだろうな、この学校は。
 爆風で吹き飛ばされた俺は素早く立ち上がり――おい、こら。

ポーキァ「ったく、ほんとアンタ小細工好きだよなぁ……油断出来ねえじゃねぇか」

 ポーキァは立っていた。その周りに、炎の槍を従えて。こいつ、あの爆発で生まれた炎をそのまま利用したのか、防御と攻撃を同時に行うために!
 ニヤニヤと嫌味たらしい顔がむかつくが、そんなことを言っている場合じゃない。

ポーキァ「ほんじゃあ、そろそろ終わらせるぜ?」

 ポーキァが腕を振り下ろすと同時、数条の赤い輝きが襲い掛かってくる! しかも早い!
 炎の合間をぎりぎりでかわす。が、そのとき俺は致命的なミスに気づいた。ポーキァが、いない!?
 ふと、背後から白い輝きと不吉な放電を感じた。絶望さえ感じる、悪寒。まず――

ポーキァ「吹き飛べええあああああ!!」

 がっ!? 振り向こうとした俺の胸の中央に、衝撃。同時に、全身の筋肉が破裂したような痛みに襲われる。
 がくがくと揺れる意識。気づけば、俺は床に力なく横たわっていた。

大翔「がっ……は、く。げぇっ!」

 吐き気と眩暈。喉が焼ける。く、そ。意識が、まとまら、ない! 俺は今、どう、なって!?

ポーキァ「おぉ、生きてる生きてる! いやー、なにアンタ、頑丈だなぁ……ま、それももう終わりだけど」

 冷たい廊下に反響する足音。震える腕で体を起こそうとするが、力がうまく入らずにすぐに倒れてしまう。くそ、立てこのポンコツが! こんなところでへばってる場合じゃないだろうが、結城大翔! 俺は何のために、ここにいんだよ。俺が帰らないと、あいつらの日常に穴が開くだろうが!!

大翔「ふぅううぅ、ぐ。あ、ぐ……お、れ。ぐぁっ」

 全身が痺れて舌もうまく回らない。ふざけんな、このくらいで、倒れてる場合じゃないんだ!

ポーキァ「はいはい、もう諦めなって」

 すぐそばで気配がとまる。残酷な無邪気さが、牙をむき出しにしている。まだだ、まだどうにかして――、

ポーキァ「面白かったけどな、アンタを生かしとくのはあぶねーわ。つわけで、死ね」

 何か、何か手段は、方法は――!

貴俊「ひぃぃぃあうぃぃぃぃぃぃ、ごぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 妙に聞き覚えのある馬鹿っぽい声が、ガラスを突き破る音とともに登場した。なんだよ、おい、どういうことだ!?

貴俊「愛に呼ばれて、俺参上! 悪いけど、こいつはいただいてくぜ、俺の好みじゃねぇクソボーズ!」
ポーキァ「おい、なんだおま――うわっ!?」

 その声の主は俺を担ぎ上げると、煙幕のようなものをばら撒いてその場をあっという間に退散した。見事な手際だ。
 いや、ていうかさ……なんでお前がこのタイミングで出てきやがるんだ、貴俊。




 全身の痺れはある程度回復した。まあそれでも普段より体の動きにぎこちなさが残るけど。それでもこの程度で済んだのは、エーデルから借りた宝石のおかげだろう。事実、胸の辺りには火傷はできていない。
 はぁ。自分の油断が招いたこととはいえ、さすがにしんどいな。
 それにしてもポーキァのやつ、センスありすぎるだろ。攻撃の最中に防御どころか、攻撃の最中に別の攻撃にシフトするとか。俺にはできないぞそんな芸当。通常魔法のことを意識していなかった俺が一番馬鹿だけどさ。
 そんなことよりも、今は目の前にいる二人だ。

大翔「今日は校内には誰も残っていないと思ってたんだけど」
貴俊「俺のお前への愛はこのくらいじゃ引き裂けねーって事……はいはいわかったわかった。説明するから落ち着け」

 睨む俺に苦笑を浮かべる貴俊と、それをあくびしながら見ている沙良先生。危機を救ってくれたのはありがたいが、乃愛先生に頼んで今日は誰も学校に残らないようにしてもらっていたはずなのだ。
 だが、貴俊の説明を聞くと頭痛を覚えた。相変わらずむちゃくちゃなヤツだな、おい。
 貴俊は海での俺とエーデルの会話を見ていたらしい。そして読唇術で会話の内容を推察し、俺の行動に気を払っていたのだ。そこで今日の騒動で俺がなにやらあわてている様子を見て、何かあると感じたらしい。そこで校内の情報を集めていると、今日は学校に誰も残さないという話になっているのをつかんだという。
 これに不信感を覚えた貴俊は、保健室に泊まりこむことにしたらしい。当然、そこの主である沙良さんに許可をもらって。そこでエーデルが保健室に住み込んでいることを聞き、さらに今日はやはりどこかへ行ってしまっていることを聞いて不信感を募らせたらしい。
 あとは、ポーキァが突っ込んできたり俺が化学準備室を爆破したりの騒動をどこかから眺めていたらしい。

沙良「まあウチは乃愛が何か企んどるなぁ位にしか思ってなかったけどな。アンタがここまで無茶するとは思ってなかったわ」

 そういう沙良先生はどうやら呆れているらしい。やはり、大人から見たら俺の行動は無謀なんだろう。いや、誰から見ても、そうなんだろうな。

貴俊「俺としてはお前が勝つならずっと見ててもよかったんだけどな。さすがにヤバげだったんで割り込んだぜ」
大翔「それは……まあ、助かったよ。けどアイツがやばいのはわかっただろ、お前さっきので目をつけられてるかもしれないぞ」

 けど貴俊はそんなことどこ吹く風。沙良さんは俺の背中を触って体の状態を確かめている。

沙良「ま、こんなもんやろな。あんまりウチの魔法で干渉すると影響残るし、とりあえず治療はこれで終わりや。んで、今からどうするん? まだ続けるんやろ、どうせ」

 沙良先生の質問というより確認の言葉に、苦笑がもれる。脱いでいた上着を着て、腰掛けていたベッドから立ち上がる。

大翔「ですね。このままアイツを帰すわけにもいかないんで」

 沙良先生はため息をついた。その頭に大福がぴょんと乗っかる。今日の大福は小さいほうだな。それともあのくらいが普通なのか?

沙良「ならしゃあないな。黒須川もどうせ手伝うんやろ。生徒だけにんなことさせるわけにもいかんからな。ウチも手伝ったる」

 沙良先生の頭の上でぴょんと大福が跳ねた。貴俊も俺のほうをじっと見ている。
 どれだけいってもこの二人が引かないのは一目瞭然だった。そして、俺一人でポーキァに勝つ算段は、ほぼゼロに等しい。
 俺は卑怯だと思う。こうやって、相手の厚意を一方的に受けて危険に引っ張り出し、そして何も返さない。それがわかっていて、自分のために協力を頼むんだから、卑怯ここに極まれりだ。
 そして俺が考える策も卑怯なことこの上ない。そのうち唇が青紫になっちまうんじゃないか俺。たまねぎ頭の友人はいないけど。

大翔「じゃあ、今から言う作戦をお願いします。特に貴俊には危険な役割になるけど……よろしく頼む」
貴俊「おう、任されたぜ。お前の愛のためにもな」




 俺は電灯で照らし出された廊下のど真ん中に仁王立ちしている。炎と電撃によるやけどの治療はすんでいるが、皮膚がひりひりと痛むのはどうしようもない。疲労も激しい。すぐにでも倒れてしまいたいくらいだ。
 だからさっさと終わらせよう。そして帰って寝る。何しろ明日は終業式だ。夏休みが始まるんだ。
 おそらく、ユリアさんたちとの最初で最後の、夏休みが。

ポーキァ「よう、オニーサン。さっきのお友達はどーしたんだ?」

 ポーキァは警戒しているらしい。確かに、さっきからの俺の罠を思えばこの部分にだけ電灯がついているのは怪しく思うだろう。そして当然、これは罠だ。ここに俺がいることをアピールすると同時に、ポーキァの動きを封じるための。

大翔「教えるわけがないだろ。それに、そんな余裕があるのか、お前に。今お前の前に立ってるのは、お前の敵だぜ?」

 挑発的な視線を向ける。ポーキァの表情が狂気を内包した歓喜へと変わる。やっぱりだ、こいつは戦いを好む性質にある。
 つまるところ、あれだ。俺と貴俊が混ざったらこんな風になるんだろうな。あるいは、俺や貴俊が馬鹿なまま成長していたら、こうなっていたのかもしれない。
 自分の見たくもない面を無理やり見せつけられている気分だ。なるほど、ムカつく。自分勝手な意見で悪いがムカつくぞポーキァ。

ポーキァ「だからなんでアンタはいきなり邪悪な顔になるんだよ!?」
大翔「やかましい! 四六時中邪悪な顔してるヤツに文句言われる筋合いねえよ!」

 バチン! 足元で電撃がはじける。体をねじるのが遅かったら直撃していた。

大翔「さあ、もう夜も遅いし、さっさと終わりにしようか!」
ポーキァ「上等だ。心臓止めてやるから一生寝てやがれ!」

 直撃しない電撃を飛ばす攻撃はやめ、ポーキァも肉弾戦主体にしたのか、今度は四肢に電気を纏わせている。厄介なことこの上ないし予想外のことだが、これはこれで、好都合!
 正面から激突する寸前に体を屈め、水面蹴りを放ち、直撃。次いで、掌打を胸に打ち込む。
 チリ、と指先に痺れが走るがたいしたことはない。無視。
 吹き飛ばされたポーキァは素早く立ち、怪訝な顔をする。その理由がわかるので、嫌味な笑顔を浮かべてやる。

大翔「何で俺がお前の電気を恐れずに攻撃したのかわからないんだろ。これだよ、これ」

 ぷらぷらと両手両足を見せ付ける。両足の甲と脛、両手の手の平と甲をそれぞれぐるぐると黒いテープが巻いてある。

大翔「絶縁テープっていってな。電気を通さない素材でできたテープだ。俺達の世界にはいろいろと便利な道具が転がってるんだよ」

 ポーキァは俺の言葉に呆然として――笑みを深めた。どうやら、狩りの難易度が上がったことにやる気を見せたらしい。本当に、こいつ似てるな。

ポーキァ「なるほどなぁ……そりゃあ面白い、面白いぜオニーサン!」

 そうか、よかったな。俺はぜんぜん面白くないっつーの! ポーキァの猛攻をしのぐ。いくらテープで防いでいてもそれは一部の話で、無防備なところに食らえば終わりだ。体の動きを阻害するから小さい範囲にしか張っていないし。
 攻撃のほとんどは避け、どうしても避けきれないものだけを手の平を使って弾く。先ほどよりはやりやすいが、それでもじわじわと追い詰められていく感覚が背中を這い上がる。
 だけど、それでも!

ポーキァ「ちぃっ! しぶてェ!」
大翔「当然だろうがぁっ!」

 打撃、打突。いなし、かわす。打ち込み、捻じ込む。加速する攻防と加熱する意識。体は熱に浮かされたように浮き立ち、更なる先を目指してひたすらに奔り続ける。世界がひたすらに加速し続ける。
 右左、右左。拳の連鎖。進み退き、回り込み潜り込む。ただひたすらに愚直に、己の鍛錬の結果と信念の突き進むままに肉体が鼓動を刻む。
 そして――、

 ガツンッ――!

 俺の掌打がポーキァの眉間を捉え、ポーキァの拳が俺の胸を貫いた。二人同時に弾け飛び、床にごろごろと転がる。
 さすがに……そろそろ、限界がきたか。
 起き上がろうとしても膝が立とうとしない。もはや肉体が限界を訴えてきている。これまでの損傷疲労に加え、たびたび受け流しきれなかった攻撃とともに打ち込まれた電撃。それが確実に、俺の体力を奪っている。
 ここまで、か……。
 俺は力なくうなだれる。ポーキァが、今度は周りを注意しながらゆっくりと歩み寄ってきた。荒い呼吸音は俺のものかポーキァのものか。まあおそらくは両方によるものだろう。

ポーキァ「へへへ……やるなぁオニーサン。けど、これで終わりだ」
大翔「ああ、終わりだな。けどお前も終わりだ――貴俊、やれ!」

 俺の叫びと同時に、世界が暗黒に包まれた。月明かりさえも届かない、完全な暗黒。光はただ、ポーキァの四肢にまきついた電撃の弱々しい明かりのみ。

ポーキァ「な、んだぁ!? いったい何がぁっ!!」

 突如ポーキァの首に何かが巻きつく。それはポーキァの首にしっかりと絡みつき、固定される。さらにそれから伸びた紐が思い切り引っ張られ、ポーキァは俺の体を飛び越えて暗闇に飲まれる。

貴俊「ひゃっはははははぁっ!!!!」

 愉悦のこもった笑い声を上げて紐を引っ張っているのは貴俊。さらに短く持った紐をこの狭い廊下の中でぐるぐると振り回す。振り回されるポーキァが壁やら床に引っかかってもガラスが砕けてもお構いなし。そして仕上げに、分離。

ポーキァ「うおぁぁあぁ!?」

 紐のの途中の金具を魔法で分離。勢いのまま吹き飛ばされたポーキァは廊下の突き当たりの壁にぶつかって停止する。そこでさらに貴俊が分離の魔法で学校の天井の構成を分離。バラリと天井の一部が割れるように抜け落ち、ポーキァの上に落下した。
 貴俊、元気過ぎ。そこまで派手にしろなんていっていない。
 悪態をつきたかったが口はまともに開かない。歯を食いしばり、壁に背を預けてどうにか立てるような状態だ。まったく、情けないな結城大翔。
 壁を支えに足を進める。貴俊はいつもの調子で瓦礫の山に近づく。無用心に見えるが警戒はしているだろうから大丈夫だろう。
 ちろちろと水の音が聞こえる。水がどこかからあふれているんだろう。さて、最後の詰めだ。

貴俊「おーい坊主。俺のハニーを痛めつけてくれたお礼は気に入ったか? だったらそのまま寝ててくれるとお互いにハッピーだぜ」

 その言葉に反応したのか、電撃とともにポーキァが姿を現した。瞳は怒りに塗りつぶされ、殺意が空間に充満する。
 これが、こいつの本気か。ごくりと喉が鳴る。なるほど、これは――勝てる気がしない。
 恐怖を押さえ込む。震えるのは後回しだ。まだやることが残っているんだから。

ポーキァ「へ、へへへへ……いやぁ、やってくれるぜ、アンタ等! いいぜもうこうなったらオッサンのいうことなんざ構うか! この辺いったい焼き尽くしてやるよ!!」

 空気が張り詰め、パチパチとそこらじゅうで電気がはじける。電灯も不規則に明滅を繰り返し、その現象の中心にいるポーキァの全身が鮮烈な光を放つ。どれほどの力を開放しようというのか、俺には予想もできない。いや、予想もできないほどの被害を与えるほどの力を放とうとしているのか!

大翔「貴俊! アイツをとめるぞ!」
貴俊「当たり前だマイハニー! あんなガキに俺達の愛の巣を壊されてたまるかよ!」

 貴俊が腰から抜き放ったのは大振りのナイフ。それを両手に一本ずつ取り、ポーキァへと飛び掛る。

ポーキァ「うぜぇっ!」

 だが、ポーキァの周りで渦を巻く電撃のひとつが貴俊を打ち抜く。弾き飛ばされ、俺の足元にまで転がってくる。今までのどの攻撃とも比べ物にならない。そんなものをあんなに大量に扱うのか! これが、これこそが雷電の特殊魔法!

 け、ど。

大翔「ポーキァ。お前にいい言葉を送ろうか」
ポーキァ「あんだよ、命乞いしたって手遅れだぜ」
大翔「いやいや、いいからこういうんだよ。いいか、バイバイキーン」

 はぁ? とポーキァが怪訝な顔を浮かべた瞬間。
 水柱が俺達の視界を埋め尽くした。轟々と音を立てる水流はポーキァをさらい、天井の穴を抜け、天空へと羽ばたいていった。その姿、まるで天翔る龍が閃くみたいだった。まあ実際、ポーキァの放電のせいでバチバチと光を放っているわけだが。
 水流は大きく上空を回った後、轟音とともに天井を突き破ってきた。はじける飛沫のすべてが俺と貴俊を避けるように流れていく。その中心には、ぐったりとしたポーキァがいた。

大翔「やれやれ、きめ台詞も口にしないくらいびっくりしたらしいな」

 倒れるポーキァを見て苦笑する。どうにか、すべての作戦はうまくいったらしい。ぎりぎりの作戦だったけど、まあよしとするか。
 とにかく、これで貴重な情報源が手に入ったわけに――、

貴俊「大翔、危ない!」

 え――ぐあっ!?
 悲鳴を口にすることもできなかった。唐突に全身を貫いた痛みに、限界寸前だった精神がついに限界を飛び越える。

エラーズ「やれやれ……よもやと思ってきてみれば、まさかポーキァが負けているとは。この世界の魔法使いも、なかなかやるようですね」

 慇懃無礼な言葉。閉じようとする意識を無理やりこじ開け、声の主に視線を向ける。声の主は――変わった姿をしていた。

大翔「へ……変態……っ!」

 どうにか口を開いて感想を述べる。相手の雰囲気がなんとなく悪くなった気がする。なんだよ、正直者のヒロ君ですよ?

エラーズ「この状況でどうにか口を開いたかと思えば、出てくる言葉がそれですか。余裕なんだか怖いもの知らずなんだか」

 いや、むしろ呆れていやがる。

エラーズ「さて、私はポーキァを助けに来たわけですが……できることなら、今ここではあなた方とは争いたくはない。お互いにけが人を抱えているわけですからね。どうです、ここは引き分けというわけにはいきませんか?」

 俺はもう口を開く気力を使い果たしていたため、判断を貴俊に委ねる。貴俊はポーキァにこだわりはないので、その提案をあっさりと受け入れた。仮面の男はポーキァを軽々と抱えると、窓枠に足をかけて飛び出す――と思いきや、振り返る。

エラーズ「そういえば自己紹介をしていませんでした、私はエラーズ、彼の仲間です。お互い、もう出会わないことを祈りましょう。ああそれから、私としては個人の嗜好に口を挟みたくないのですが……同性愛は、道が険しいですよ?」
大翔「うるせえ変態仮面誰が同性愛だ、そこの馬鹿の言葉を真に受けてんじゃねえ! さっさと消えないと真っ赤に塗りつぶしてうどんにのっけるぞ!」

 仮面の男は怖い怖いと嘯き、夜の闇の中へと消えていった。とたんに静かになる。

大翔「貴俊……俺、もう限界らしい。後、頼むわ」

 その言葉だけを残し、俺はその場に仰向けになる。床の冷たさが心地良い。
 結局これだけの破壊と苦労をしても敵を捉えることはできず、新たな敵との遭遇があっただけ。まったく、本当に何もできないな、俺は。
 口元がゆがんだのを感じたのを最後に、俺は意識を閉じた。


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