第2章~永い情景


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本編導入部(2章) 07/08/06




 結局、あれから1時間しか寝られなかった。

【大翔】「むぅ、だるい。」

 短時間の睡眠を繰り返したせいだろうか、妙に体が重い。
 そして、食事当番は俺と決まっている。
 朝食と昼食の準備のためにも、どのみち早起きはしなければならなかったのだ。
 にしたって、いつもよりさらに短い睡眠というのは、こうも体に影響するものだったのか。
 以後気をつけないと。

 そこへ、どたどたと足音を鳴らして、誰かが階段を下りて来る。

【美羽】「んっっ、おーはーよーぅ、兄貴ぃ。」
【大翔】「あぁ、おはよう妹一号。」

 ツインテールに結んだ髪を、大胆に揺らしながら、キッチンに居る俺に朝の定形文を投げる。
 こいつが、二人居る妹のうち、実の妹の結城美羽。 

【大翔】「そういやお前、俺の部屋のクーラーのリモコンを返したまへ。」
【美羽】「イヤ。 兄貴に渡すと、一晩中つけっぱなしなんだもん。 ふあぁ。」

 属性、悪女。
 兄を兄とも思わぬような仕打ちが酷いったらありゃしない。

【大翔】「あのなぁ、リモコンが無かったせいで俺は昨日の夜、変な目にあったんだぞ。」

 とりあえず、昨晩の出来事を簡単に話してみた。

【美羽】「…頭大丈夫?」

 信じろよ。

【美羽】「第一そんなファンタジーな話、信じられると思う?」
【大翔】「しょうがないだろ、実体験なんだから。」

 喋りながらも手を動かし、炒めた野菜をシンプルなステンレスの弁当箱(自分用)と、ピンク色と黄緑色の弁当箱(妹達用)に詰める。
 最後にお新香を添えて、完成。

【大翔】「そのせいであんまり寝てないんだな、これが。」

 ちょっと大げさによろけて、テーブルに手をつく。
 ミシッというちょっと嫌な音が聞こえた気がしたが、ここは無視しておこう。

【美羽】「ちょっと、そんな調子で私達の朝ごはんとお弁当は大丈夫なわけ?」
【大翔】「俺の体より自分の食いモンの心配かよ!」

 ほんの少しでも俺のことを気遣ってくれる言葉があれば、この練りわさびを投下するような自体にはならなかったのだが。
 仕方ないので今回美羽には、わさび風味の野菜炒めを味わってもらうことにしよう。

【大翔】「ほれ、お前の分。」
【美羽】「さんきゅー。」

 うむ、何も気付かずに受け取ってくれた。
 今回の作戦は成功したようだ。

 と、今度はぱたぱたと可愛い足音を立てながら誰かが下りて来る。

【美優】「お早う。 お兄ちゃん、お姉ちゃん。」

 青い三つ編みを小さく揺らしながら、一人の家族がキッチンにひょっこりと顔を出す。

【大翔】「お早う、美優。」
【美羽】「おはよー。 ってちょっと兄貴、私と美優で扱い違うんじゃない?」

 これが二人目の妹の美優。
 美羽とは正反対に、俺を兄として尊敬してくれている…はず。
 血の繋がっていない家族ではあるが、家族になったのは幼少の頃。
 つまり今までほぼ一緒に育ってきたも同然だ。 

【大翔】「ええい、うるさいぞ美羽。 俺と美優の甘い朝のひと時を邪魔しないでくれ。」
【美優】「ふぇっ?! お兄ちゃん?」
【大翔】「ほらほら、こっちに来なさい、俺の可愛い美優。」
【美優】「え? え? お兄ちゃん、なんだか今朝は変だよ?」

 そんなことを言いながらも、美優はじりじりとこちらに寄ってくる。
 結局俺のすぐ隣に到着。

【大翔】「美優はやっぱり可愛いなぁ。」

 「よしよし」と頭を撫でてやると、くすぐったそうに縮こまる美優。

 くそぅ、これが妹でなければ…いや待て、美優とは血の繋がっていない兄妹、つまりまだ道はあるっ!

【美優】「えと、朝からどうしたの? お兄ちゃん。」
【美羽】「あんまりにも暑いんで頭がやられちゃったみたいよ。」
【美優】「そ…そうなんだ。」

 妄想も虚しく、ついに妹二人共に哀れまれ、見下されてしまった。
 俺は本当に兄なんだろうか…。

【大翔】「なんだ美羽、兄妹で仲良くするのが悪いことだとでも言うのか?!」
【美羽】「兄貴のは、酔っ払いのオジサンが絡んでるようなもんでしょうが。」

 的確だ。
 あまりに的確なツッコミだ。
 まさか自分の妹に、こんなツッコミの才能があるとは思ってもみなかった。
 これなら世界も夢じゃないぜ!

 と、勝手な現実逃避に浸ること2秒。

【美優】「あ、そうだ。 これからすぐに学校に行かなきゃならないんだけど…。」

 申し訳無さそうに小声になり、もじもじと上目遣いで俺の表情を伺ってくる。
 大方、俺が朝食を作ったのに食べなくてごめんなさい、ってとこだろう。

 こんなに俺に気を使ってくれている(と信じたい)美優を引き止めるわけにもいかない。
 それが恋…

 ではなく兄心というものだ。
 テーブルで「早く私のメシを作れ。」と命令するような視線を向けている美羽ならまだしも。

【大翔】「あれ? 今日なんかあったっけ?」
【美優】「ううん、ノア先生に呼ばれてるだけだよ。」

 俺が気にしてないと美優も気付いたのだろうか、声色がいつもの調子に戻る。

【大翔】「そっか。 ほら、こっちはお前の分。」

 そう言って、黄緑色の弁当箱を渡す。
 すると、途端に美優の表情が明るく変わる。

【美優】「わわ、ありがとう、お兄ちゃん!」
【大翔】「何、いつものことだろ。」

 そう、毎日家族3人分の料理を作るのは俺なのだ。
 小さい頃はノア先生が面倒を見てくれていたものの、こんな風に俺が料理を始めてから結構経つので、腕はそれなりに自信がある。

 ところで、ノア先生というのは小さくして親を失った俺達の保護者のような人だ。
 今は俺達の通う学校の教師で、フルネームは紫野乃亜。
 基本的には大雑把な性格なのだが、学校での生徒の面倒見は良く、ほとんどの生徒に好かれている。
 ただ一部、彼女の優秀すぎる容姿と性格に嫉妬する女子生徒がいるとかいないとか。

【美優】「でも、お兄ちゃんがせっかく私達のために作ってくれたものだし。」
【大翔】「そう言って貰えれば、作った甲斐があるってもんだよ。 ほれ、時間いいのか?」
【美優】「うわっ、もうこんな時間! 急がないと…ありがとうね、お兄ちゃん!」

 またぱたぱたと可愛い足音を立てて玄関へと急ぐ美優の背中。
 時々、あいつがいつか転んで泣き出すんじゃないかと思う位に心配になったりする。
 …過保護…なんだろうか。
 いや、溺愛と言ったほうがいいのか。
 まぁ、妹を大切に思うのは悪いことではないよな、うん。

【大翔】「達者でなー。」
【美優】「お兄ちゃんもね! じゃ、いってきまーす。」

 キッチンに居る俺にもしっかり届く大きな声で、そう叫ぶ。
 今日も元気だ、なおよし。

【美羽】「あのー…」
【大翔】「よしよし、今日は美優も体調崩してないみたいだし、良い日になりそうだーっ。」
【美羽】「あーのー…」
【大翔】「さてと、そろそろ俺も朝メシ食って学校に向かわないとな。 遅刻はイカン、遅刻は。」
【美羽】「オイコラバカ兄貴!」

 耳をつんざく破壊音。
 デ○ルイヤーならまだしも、デ○ルボイスなんかあっただろうか?
 きっと今の声なら、ご町内元気な声で叫ぼう選手権とかで優勝出来るくらいだ。
 あるかどうかは知らないが。
 で、その出所へ振り向くと

【美羽】「朝っぱらから私を無視なんて、兄貴のくせに良い度胸してるじゃない…。」

 本気モードの美羽が、机に足を乗せて仁王立ちしていた。
 こら、机に足を乗せるなんてみっともないからやめなさい!

【大翔】「なんだ、居たのか美羽。」
【美羽】「ほほぅ。 つまり兄貴は、私が朝ごはんを食べられなくて餓死しようが、関係無いと?」

 朝一食抜いた程度で餓死するほどに弱いのか、お前は。
 俺には、とてもとてもそうは見えないのだが。

【大翔】「水と塩ならやるぞ?」
【美羽】「歯ぁ食い縛れぇっ!」

 鋭い左ストレートが迫る。
 が、そこを俺は、まさに光のような速さで左に受け流…
 …せなかった。

【大翔】「お…お前はお兄ちゃんを何だと思ってるんだ!」
【美羽】「私の召使い。」

 俺の威信は、一体どこへ置いて来てしまったのんだろう。
 もしかしたら、母さんのお腹の中かもしれない。

【美羽】「とにかく、とっとと朝ごはん!」
【大翔】「へいーへい。」

 今朝のメニューは、だし巻き卵に味噌汁、そして白米。
 これ以上の日本の朝食があるだろうか?
 いや、少なくとも、俺の人生の中では無い。
 朝からパンを食べるなんて邪道だ、そして外道だ。

【美羽】「むー。 やっぱり、兄貴の朝ごはんってシンプルよね。」
【大翔】「朝から食い過ぎたくないだろ? これくらいが一番なの。」

 そう言いながら、二人して黙々と箸を進める。
 登校時間まではまだ充分余裕があるが、それでも早く行くに越したことは無い。
 朝っぱらから、少しとはいえ家でじっと待っているよりは、とっとと家を出て、学校でのんびりしようというハラづもりだ。

【美羽】「ごちそーさまでしたっと。」
【大翔】「おそまつさんでした。」

 朝食も済み、用も足した、学校へ行く準備は万全整っている。
 玄関でお気に入りのスポーツシューズを引っ掛け、ドアを開け放つ。
 一気に陽が射し込んで、視界を明るく照らす。

【大翔】「おーい、とっとと来ないと置いてくぞー。」
【美羽】「あぁもう、分かってるわよ!」

 ドタバタと忙しそうな音を立てて、美羽が玄関に突進してくる。
 さしずめそれは王○の群れか、はたまた巨○兵か。

【美羽】「元々時間あるんだし、別にそこまで急ぐ必要無いじゃない。」
【大翔】「家に居ると退屈じゃない?」
【美羽】「んー…ま、それもそうか。」

 納得したのかは微妙だが、一人でウンウンと頷きながら玄関を出る美羽。

【大翔】「戸締りOK。 うっし、今日も張り切って行くとしますか、我が愛しき妹よ。」

 と、芝居率68%くらいの変なセリフを吐き、歩きながら美羽の肩に手を回してみる。

【美羽】「何、いきなり暑っ苦しい。」

 正に一刀両断だった。

【大翔】「何、まだ今朝のこと怒ってんのか。 分かった分かった、悪かったって。」

 いい加減謝っておかないと、後でどんな根も葉もない噂が流れ出るか分からない。

【美羽】「もう、兄貴はすぐに調子乗るんだから。 」
【貴俊】「そうそう、ワタシの時だってヒドかったのよん?」
【大翔】「どっから沸いて出たコノヤロウ!」
【貴俊】「あっこの玄関から。」

 と、自分の家の玄関を指差すコノヤロウこと、黒須川貴俊。
 中学入りたてから計五年間、同じ教室で顔を会わせてきた、いわば腐れ縁の悪友というヤツだ。

【大翔】「ええい、そんなことは分かってる。 なんだ、まさか待ち伏せでもしてたのか?」
【美羽】「マジ…ですか?」

 しかし、そんな皮肉っぽいセリフにも、ニヤリと不気味な微笑を溢しながら

【貴俊】「何を言ってるんだ、朝飯終わって家でじっとしてたら、たまたま外を通る大翔達の声が聞こえただけさ。」

 結局待ってたんかい。

【貴俊】「いやぁ、俺の大翔が別の女でも作って、一緒に登校してるんじゃないかと思うと心配で心配で…。」

 いかにも女には手が早そうに見えるが、何を隠そう、最初に手を出してきたのは俺に対してだった。
 誤解の無いように言っておく、別に何をされたでもない。
 ナニなことも何も無かった。
 ただ、「気が合いそう」という理由で、いきなり話しかけてきた。
 まぁ、そん時はこんなに仲が続くなんて、思ってもみなかったけど。

【大翔】「ふっふっふ、残念だったな貴俊。 今の俺には…女が居るんだぜ。」
【貴俊】「なッ! 何ィ!?」

 そこで、さっきから美羽の肩に回していた腕で、もう一度ガシッと美羽を引き寄せる。

【大翔】「そう、そのまさかさ。 俺の女とは、この美羽だ!」
【美羽】「はぁっ?!」

 美羽は、顔を真っ赤にしながら、俺の方へと焼け付くような視線を送ってくる。
 よせやい、照れるじゃないか妹よ。

【貴俊】「キーッ! ワタシとの関係は、遊びだったのね!」
【美羽】「いや、ちょっ、ちょっと待って下さい! 私達は何も…」
【大翔】「おや、その割にはさっきから俺の腕を解こうとしないじゃないか。」
【美羽】「兄貴はだまらっしゃい!」

 相変わらずの焼け付くような、むしろ胸焼けのしそうな視線…
 …そろそろ止めとくか。

【大翔】「はい、カットカット。」
【貴俊】「どうよ、今の俺は。」
【大翔】「大根だな…。」

 最後のセリフなんて、もうどこの使いまわしか分からないくらい古いネタじゃないか。

【貴俊】「ええい、気難しい監督だ。」
【大翔】「そんなんじゃハリウッドは夢のまた夢だぞ。」
【美羽】「ったく、いつまでバカやってんのよ!」

 さっきのように顔を真っ赤にしたまま、今朝と同じ軌道の左ストレート。
 今度こそ避けてみせ…
 …られなかった。
 貴俊のヤツ、「お兄ちゃんシールド!」とか言って俺を盾にしやがった。
 こんなんだったら、練りわさびを携帯しておくんだったな。
 というか、明日からそうしよう、うん。

【貴俊】「美羽ちゃんも成長したな、こんなに鋭い一撃が放てるようになるとは。」
【美羽】「はいはい分かりました。 ほら、兄貴も倒れてないで、とっとと学校行くよ。」

 …

【美羽】「兄貴?」

 ……

【美羽】「兄貴…?」

 ………

【美羽】「あーにーきー?」
【貴俊】「…7時33分、ご臨終です。」
【美羽】「ちょ、兄貴?! ほら、起きて! 起きてってば!」

 そこへ、一人の少女が近付いてきた。
 赤茶色のセミロングの髪を風になびかせ。
 猛ダッシュで。
 トーストを咥えながら。

【陽菜】「あれに見えるは美羽ちゃんと貴俊君! ということはヒロ君もそこに居るは…ず?」

 彼女の目の前に広がる不思議空間。
 それは、
 1・ヒロ君のお友達の貴俊君
 2・ヒロ君にすがりつく、ヒロ君の妹の美羽ちゃん
 3・ぐったりと倒れるヒロ君本人

【陽菜】「え、あ、えええぇ? えっと、殺人現場?」
【美羽】「はうっ!? ひ、陽菜さん違うんです違うんですこれは…!」

 美羽はテンパりまくってしまい、ご自慢のツインテールが大回転してしまっている。

【貴俊】「ふむ、肺臓への的確な打撃。 …呼吸障害か?」
【美羽】「そ、そ、その! どうすればいいんですかッ?!」

 両手を体の前でぶんぶんと振りながら、貴俊の指示を仰ぐ。
 ちなみに気が動転してしまっている美羽には、どうやらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる貴俊が見えていないようだ。

【貴俊】「ま、人工呼吸ってのが妥当なとこだろうな。」
【美羽】「それって…あ、兄貴とキスしろってことですよね…。」

 この期において、まだキスなんて嫌だとか抜かすんだろうか。

【貴俊】「キスじゃなくて、人工呼吸さ。」
【美羽】「キス…キス…兄貴と…。」

 ついに言葉も耳に入らなくなったようだ。

【美羽】「分かりました、やります…。」

 美羽が、耳まで真っ赤にして顔を近付けてくる。
 しかも美羽さんや、それじゃあ本当に、ただのキスですよ。

【陽菜】「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」

 唇が触れる直前でかけられた静止の言葉に、美羽は、どきっとして後ろ振り返る。
 そこには、彼女と同じくらいに顔を赤く染めた陽菜が立っていた。

【美羽】「なっ、なんなんですか陽菜さん!」
【陽菜】「えっとえっと! 私は前にそういうのやる時の講習みたいなの受けたから、私がやるよ!」

 そしてその場で巻き起こる、人工呼吸権争奪合戦。
 倒れてる側としては、とっとと起きたいから早くして欲しいんだが。

【美羽】「いいですッ! 殴っちゃったのは私なんですから、私が責任を持って治療します!」
【陽菜】「でもでも! こういう時こそ、ちゃんと出来る人がやらないとっ!」
【貴俊】「いやほら、本人も早く起きたいだろうから、ちゃっちゃと決めちゃってくれないかね。」
【美羽】「私がするんです! 私が…私が兄貴に…キスを…。」
【陽菜】「私がした方が、ヒロ君のためにもいいのっ!」

 しまいには、人工呼吸という単語すら忘れ去られてたりしている。
 もはや一触即発かと思った瞬間、誰かが俺の方に飛び掛ってきた。

 結局、俺に人工呼吸という大義の下にキスを果たしたのは、

 >>A・美羽だった。 >>B・陽菜だった。 >>C・貴俊だった。






えーりん!えーりん!まだ少し続きます。
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