Setting sun/1話


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▼注意
まだ前半です
これからまた書き直しがあると思います



●シーン014
俺は家に帰る道を歩いている。特別何かあったわけでもなく、特別何か起こる予定もなく、よくある三百六十五日の内の一日だ。夕日は確かに綺麗だが、もう見慣れている。地平線が見えるわけでもないのに、いちいち夕日に感慨なんか抱かない。
それよりも、手に提げたスーパーの袋の不安定さが気になって仕方がない。俺は鞄の中身の整理が苦手なので、いつもスーパーでは苦戦してしまう。何かの拍子に卵が割れないことを祈るばかりだ。
自分の家のある通りに出た。珍しく人が居ない。基本は住宅地なので、この時間は俺と同じように買い物帰りの人が居るものだが、なぜか今日は誰の姿も見えなかった。夕日が眩しいので若干下を向いて歩く。
今日の夕飯は何にしよう。買ってきた食材からしてシチューか肉じゃががいいが、冷蔵庫の中身を考えるとポトフなんかも作れそうな気がする。しかし俺は一品料理ばっかり作るから、美優に呆れられてるんじゃないだろうか。なんだかんだで美優の料理は美味いしなぁ。
「あの」
ふと前方から声をかけられた。その人の影が長く伸びて俺に軽く重なっている。しかも影は二つあった。
「はい?」

●シーン015
顔を上げると、そこに居たのは…金髪の、美少女だった。
可愛い。
とても可愛い。
素晴らしく可愛い。

…そこで、俺は気付いた。
グシャリという鈍い音と、自分の右手がやたら軽くなっているという事実に。

●シーン016
「あああーっ!!」
やばいっ! 卵! それと豆腐!
俺は慌てて拾い上げると袋をあさって確認をした。どうやらどの食品も一命をとりとめている。良かった良かった。
「あの…」
美少女が不安そうにもう一度声をかけてきた。顔を上げると、美少女の隣には美少年が不機嫌そうな顔で立っている。
なんか変な二人組だな…
まぁ、だからといって無視するのも失礼だな。もしかしたら迷子になった外人かもしれないし。
「なんですか?」
「ユウキヒロトさん、ですよね」
美少女は少し不思議なイントネーションで俺の名前を呼んだ。
「そうですけど」
「ああ、良かった。私、ユリア・ジルヴァナと申します。こちらは騎士のレン・ロバイン。あなたにお話したいことがあって参りました」
美少年は一度丁寧にお辞儀をすると、ピッと背筋を伸ばして真面目な目でこちらを見ていた。何やら気迫で負けそうだ。
…ん、え、騎士? 騎士って、あの騎士?
「あの、騎士って、」
「あなたが居るこの世界は、あと一年で崩壊します」
偶然遮るような形で彼女が言った。
……あれ? え? ん? 何を言われてるんだか、よく分からない、ぞ…
「……ちょっと待って下さいね。…えぇと、…まず、あなたはどこの人ですか?」
もしかしたらこの人は、少し日本語が不自由なのかもしれない。そうだ、きっと遠い異国の地に来て、しかも駅からも遠いこんな場所で、不安になってしまったんだ。夕方は人間の判断力が鈍る時間だと言われているし。騎士というのも、友達とかを間違えて使っているのかもしれない。
「私は、このテラとは別の世界、ケレスから参りました。この世界の崩壊をケレスの予言者が表したのです」
………あれぇ、どう、するか、これは。

 ◆Q.07   A.真面目に話を聞いてみるか。   B.関わるのは止めよう。
   →A(フラグD2発生)
 しかしこんな美少女が嘘をついているはずがない。というか、嘘であってほしいような、ほしくないような…
 「どういう意味ですか?」
 「おそらく、にわかには信じられないと思うのですが、この世界とは別の世界が存在するんです。この世界の思考概念からすると、まったく知らない遠い星から来たと考えてもいいかもしれません。私はその世界、ケレスの王族です。ケレスには予言者が居るのですが、この世界が崩壊するという予言を出しました」
 ふむ、まぁ、分かりやすいといえば分かりやすい説明かもしれない。つまりユリアは俺からすると未知の生物ということになるわけだ。
 「崩壊っていうのは?」
 「具体的には分かりません。ただ世界が崩壊するとしか…」
 ユリアは困った顔をして俺を見上げた。うっ、やはりものすごく可愛い。大きな目に俺が映っているのが嬉しく思える。
 「お願いします、あなたの力でこのことを世界中の人に伝えてください」
 「え、えぇっ! 無理、無理だよ! 俺に何の力もないし!」
 俺がそう言うと、今度はきょとんとした顔をした。それから、「あぁ」と何かを思い出したように俯いた。
 「そうですね、まだ早すぎました…」
 早すぎるも何も、俺は未だにユリアの言っていることの意味が理解できていないわけなんだが。しかしユリアはどうやら少し考え込んでいるらしく、俺の顔など見てもいない。
 「あの、…俺、もう帰っていいですかね?」
 俺が言うと、ハッと顔を上げて、それから深々とお辞儀をした。顔を見せてくれた方がこちらとしては嬉しいんだが。
 「あ、お引き止めして申し訳ございません! また会いに行きますので」
 「いえいえ、困ったことがあればまたどうぞ〜」
 こんなことを言うなんて、きっと大変な環境に居たんだろうな。俺が何かの手助けになってやればいいけど。
   →B
 怪しい人に関わってはいけない、と常日頃から妹達に口酸っぱく言っている兄の身としては、こんな人に関わっているのはよくない。例えそれが美少女だったとしても、だ。
 俺は二人の横をすり抜けて家路へと急いだ。
 「待て」
 美少年が低い声で俺に言った。待てと言われて待つ奴がどこに居るか。大体、人にものを頼むのに、待てはないだろう。
 すると、何かが空を切る音が聞こえた。
 「聞こえなかったか? 待て、と言っているんだ」
 剣が、俺の首のギリギリのところで止まっている。こめかみから汗が一筋垂れるのが分かった。いつの間に移動したのか、俺の前に居る美少年は、俺を殺さんばかりの勢いで睨みつけている。
 …これは、ヤバい。仮にこの剣が偽物だったとしても、この美少年の気迫が怖い。
 「やめなさい、レン! 私達には彼を強制する権利はないのよ!」
 美少女が叫んだ。そ、そうだ、もっと言ってくれ。でないと俺が困る。
 俺の首にかけられた剣は、一度くるりと回されてから、美少年の腰に刺さった鞘に納まった。軽々と扱っているが、もし本物だとしたら、相当すごい奴なんじゃないだろうか。
 「…申し訳ございません。時が来たら、また伺います」
 「え、あ、はぁ…」
 正直二度と来るなと思った。しかし美少女の方は危険度は低そうだし、眼福にはなるわけだし、俺に好意を持っているようだから、まぁ悪くはないかな。

●シーン017
「ただいまー」
しかし変な二人組だったな。何かのごっこ遊びなんだろうか。
俺も小さい頃は美羽とよくやったなぁ。父さんと母さんを強引に混ぜて、俺が勇者、美羽が囚われの姫、父さんが魔王、母さんが…あれ、母さんは何だったっけ。
そんなことを思いながら、重い鞄を下ろし靴を脱いでいると、窓が少し開いているのに気付いた。
滅多に開けない窓なんだがなぁ、なんで開いてるんだろう。

●シーン018
『じゃあ、おかあさんはゆうしゃのなかまのまほーつかいね!』
あぁそうそう、母さんは仲間の魔法使いだった。そしたら美羽が自分が魔法使いになりたいとか言い出したんだよな。
『えー、じゃあみうがまほーつかいやる!』
『なんでだよ、みうがおひめさましたいっていったんだろー!』
『みうもぼうけんしたい! おにいちゃんとぼうけんしたいのー!!』
あの頃は美羽も俺のことをお兄ちゃんって呼んでたなぁ。懐かしい。
……ちょっと待て、なんでそんな具体的な言葉まで、思い出せるんだ?

●シーン019
俺が顔を上げると、不思議な光景が広がっていた。広がっているというか、映っているという感じではあるが。
「な、んだよ、これ…!」
窓にその頃の映像が映っている。小さい俺と美羽、楽しそうに笑っている母さんと父さん。紛れもなく数年前の俺達だ。
俺は咄嗟に窓から手を離した。映像がプツリと途切れる。ゆっくりもう一度触れてみる。また同じ映像だ。俺が新聞紙の兜と刀で父さんに斬りかかっている。
「…父さん…」
美羽も舌足らずながら何かの魔法を唱えている。母さんはニコニコ笑いながら、父さんの傍らで林檎を剥いている。
「かあ、さん…」
やがて父さんが大げさな振りをつけて倒れる。俺と美羽は跳ねて喜んでいる。『お礼です』と言って母さんが出してくれたウサギの形をした林檎を、美味そうに食べている。
俺はゆっくりと手を離してみた。映像が俺の指に吸い込まれるように消えていく。
俯くと涙が出そうだった。なぜこんな映像が現れるのかという疑問もあったが、今はそれより切なさが上回っていた。

●シーン020
「兄貴ーっ!!!!」
唐突に美羽の叫び声が二階から聞こえてきた。俺は荷物もそのままに階段を駆け上がる。
美優の部屋の前に美羽が立っていた。
「どうしたっ!?」
軽く震えながら美羽は部屋の中を指差している。

●シーン021
部屋の中を見ると、パラパラと空間から何かが降ってきた。というより、既に降っていた。
「…お兄ちゃん、どうしよう…」
美優はぐすぐすと泣いている。それはそうだろう。美優の部屋の床は一面花だらけになっていて、今もパラパラと花が降っているのだから。

 ◆Q.08   A.「美優、大丈夫か?」   B.「美羽、どういうことだ?」
 →A(フラグB2発生)
 「美優、大丈夫か?」
 俺がそう言うと、美優は俺に抱きついてきた。それと同時に舞っている花の量も増える。しかも花というより花びらだ。…なんか、まるで花が涙みたいだなぁ。
 「お兄ちゃん……私、変になっちゃったのかなぁ…」
 「何言ってんだ! 大丈夫だ、な?」
 大丈夫か? と自分で聞いたくせに、わりとムシのいいことを言っていると思った。美優を抱きしめると、美優もより一層俺に近づいてきた。
 →B
 「美羽、どういうことだ?」
 「分かんないのよ。美優の部屋に借りた本返しにきたら、なんか花が落ちてて、これ何?って言ったら、どんどんパラパラ落ちてきて…」
 そして叫んだわけだ。俺は恐る恐る美優に近づいた。ポンと頭に触れてみる。柔らかい髪の毛を撫でていると、美優は一層強く泣き始めた。
 「ワタシ…どうなっちゃうんだろう…こんな…こんなことになって…」
 俺がポケットから差し出したハンカチで美優は涙を拭いているが、後から後から溢れてくる。
 俺は美優の頭を撫でることぐらいしかできなかった。

●シーン022
ひとまず泣き止んだ美優を連れて、俺と美羽はリビングへ向かった。緊急家族会議だ。
「実はだな、俺も変なことになっているんだ」
頭の上の花を払うと、俺はリビングの窓へ触れた。窓に今朝の俺達の映像が映る。

●シーン023
『やっべぇ、遅刻しちまうっ!』
『もー、だから早く起きてって言ったじゃない!』
『お兄ちゃん、お弁当忘れてるっ!』
『しまった! 美優、投げてくれ!』
『えぇっ!?』
『時間がないんだ、早く!』
『えっ、えーいっ!』

●シーン024
そうして俺は今朝、頭から弁当をひっかぶり、見事遅刻したわけだが…まぁそれは大した問題じゃない。
問題は俺がその映像を、リビングの窓に映せるということだ。美羽と美優は案の定、信じられないといった顔をしている。
「な、何、これ…?」
「俺にもよく分からない。昔の映像が映せるってことなんだろうが…」
俺がそう言うと、何かの音が聞こえた。ゲームなどでよく聞く、テレポートした時のような、空気を切るような音だ。
妹達はまだ驚いている。そりゃそうだろう。俺だって、映像が映せたりするなんて思ってもみなかった。
「あ、あ、あ、兄貴…うし、後ろ…」
「ん?」
俺が振り返ると、そこに居たのは、先ほどの二人組だった。
「あああーっ!! お、お前ら、どっから入ってきたんだよ!」
「テレポートを使いました」
いや、何を言ってるんだ。俺は玄関の鍵はちゃんと……ちゃんと閉めてない!
「嘘つけ、鍵が開いてるから入ってきたんだろ!」
「い、いや、兄貴、…今、見た」
美羽が口をパクパクさせながら言う。美優もうんうんと頷いている。
「見たって、何を」
「この二人、今一瞬で出てきた…」

 ◆Q.09   A.「ほ、本当か?!」   B.「お前、俺を騙そうとしてるだろ?」
 →A(フラグC2発生)
 「ほ、本当か?!」
 「本当よ!」
 だとしたら、本当に、テレポートしてきたっていうのか? テレポートなんか、どうやってできるって言うんだ。
 美羽は俺に信じてもらおうと強く俺を見つめている。それがなんとなく嬉しくて、俺は少しだけ笑った。
 →B
 「お前、俺を騙そうとしてるだろ?」
 「そんなことないわよ!」
 もしかしたら美羽と美優が結託して俺を騙そうとしているのかもしれない。しかしこの美羽の様子を見ると嘘とは思えない。大体、そうだとして、俺や美優が変なことになるのはどうやるっていうんだ?

「お邪魔します。ヒロトさん、ミウさん、ミユさん。私はユリア・ジルヴァナ。こちらは騎士のレン・ロバインです」
ユリアはお辞儀をした。姿勢がとても綺麗だ、と俺はおかしなことを考えた。
「私はヒロトさんに用があります。しかしミウさん、ミユさんのお二人には、別の用事があります」
「なっ、何よ、勝手に入ってきて! ちゃんと用件言いなさいよ!」
「まぁまぁ、美羽、落ち着け?」
美羽は釈然としない様子だったが、仕方ないという言葉があからさまに顔に出ている状態で、ユリアとレンを睨みつけた。レンもつられて睨み返す。やめてくれお前ら、ハラハラしてしまう…
美優はただただ怯えているようだった。元々人見知りが激しいのに、あんな現れ方をしたら誰でも驚くだろう。
「お話したいことは、沢山あります。ただ、今は一刻を争う事態なのです。そこで、ヒロトさんは私に着いてきていただき、お二人にはレンの方から説明をしたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
どう考えても怪しいとしか思えない話だ。大体、俺はまだユリアのことを完全に信用したわけじゃない。美羽を宥めたのも、喧嘩になるのが恐ろしかったからだ。
しかし俺には、ユリアが嘘をついているようには見えないのだ。真剣味を帯びた視線が俺を刺している。
「…信用していいんだな?」
「私の命にかけても」
俺は頷いた。このおかしな現象を説明してくれると言うのなら、電波でも異世界でも構わない。
今更ファンタジーなんか信じるほど子供じゃないし、警戒心がないと言えば嘘になるが、俺は妙にこの不思議な美少女を信じてみたくなった。
「あ、でもちょっと待ってくれ」
「何か問題が?」
「いや、その…妹達と、レンの仲が、あんまり良くなさそうだから…」
濁らせてはいるが、そんなことは今の状況を見れば分かることだった。レンと美羽はほとんど火花を散らしているような雰囲気だったし、美優はそんな二人にオドオドしていた。心なしかまた花が散っている量が多くなっているような…
「友人を呼んでもいいか?」
「大丈夫です。いずれ、世界中の皆様が知るようになる話ですから」
引っかかりのある言葉だったが、とりあえずスルーすることにしよう。俺は鞄から携帯電話を取り出した。

 ◆Q.10   A.沢井に電話した。   B.黒須川に電話した。
 →A(フラグA2発生)
 やはりこういう時は幼なじみの沢井だろう。能天気だからきっと場を和ませてくれるだろうし。そう思ってアドレス帳を見て気が付いた。俺は沢井の電話番号を知らないのだ。家が隣で叫んで会話していたからか。
 俺は階段の窓に向かうと、いつもの調子で叫んだ。
 「沢井ー、居るかーっ!」
 「はいはーい!」
 沢井の元気な声が聞こえた。やがて窓から顔が出てくる。やっぱり携帯電話より便利だな、これは。
 「ちょっと問題が起こってさ、お前に仲介してほしいんだ」
 「え、ヒロ君は?」
 「俺は出かけなきゃなんなくて。頼むよ」
 「分かったー、じゃあ夕飯よろしくねーっ」
 ものすごく軽いノリで了承してくれた。こういう時に隣人はありがたい。やはり持つべきものは幼なじみだなぁ。
 →B(フラグE2発生)
 こういう時は空気の読める黒須川に頼もう。俺はそう思って黒須川に電話をした。
 「あ、もしもし、黒須川?」
 <誰にかけてると思ってんだよ、ヒロ>
 「あのさ、実は問題が起こって、お前に仲介してほしいんだよ」
 <問題? どんな?>
 「…え〜っと…喧嘩一歩手前、的な」
 <今すぐの方がいいか?>
 「そうだな。結構急を要する」
 <なんで俺に関係があるんだ?>
 「お前が一番いいから」
 ぶふっ、という音が聞こえた。それに続いてげほげほと咳をしている黒須川の声。
 「おい、どうした?」
 <ふ、吹いた…お前、友達居ねぇのかよ>
 「馬鹿言うな、俺は黒須川を信頼して言ってるんだぞ」
 <ああはい、ありがとう。でもな、俺今ちょっと手が離せないんだ>
 「あ、バイト?」
 <そう。ごめんな>
 「いや、俺の方こそいきなり言ってごめん」
 <ん、じゃあなー>
 切られた。…そうだ、黒須川は親の店のバイトとかしてて、平日はそんなに暇じゃないんだった。
 もっと平日が暇そうな奴と言ったら、やっぱり沢井か。
 (Aに移行/ただしA2フラグ不成立)

俺はリビングに戻ると、一触即発な空気をしている美羽と、困って二人の顔を往復する美優の頭に手をかけた。
「じゃ、兄ちゃん行ってくるから。沢井来るから安心しろよ」
「…すぐ帰ってくるのよね?」
「そんなに時間はかからないと思います」
美羽の言葉に、ユリアが答えた。頭をくしゃくしゃと撫で、俺は手を振って玄関へ行った。

●シーン025
あんなに泣きそうな顔しなくてもいいのに。今生の別れじゃないんだから。
そう思いながら俺が靴を履いていると、ユリアが「あっ」と小さく声を上げた。
「どうした?」
「申し訳ございません! 私、まだ作法に不慣れなもので…」
深々と頭を下げている。俺はユリアを見てから、ようやくユリアが言わんとするところが理解できた。靴を履いたまま家に入ってきてしまったのだ。
「いや、いいよ。今度来る時があったら、ちゃんとチャイム鳴らしてから靴脱いでくれれば」
もし何度もテレポートで来られたらかなわない。ユリアはこくんと頷いた。…うーん、やはり可愛い。

●シーン026
俺が玄関のドアに手をかけると、ちょうど目の前に沢井が立っていた。
「わっ!」
タイミングが悪かった。そのまま強い勢いで後ろに倒れ、沢井はしりもちをついてしまう。
「わ、悪い、沢井!」
「いやー、陽菜が悪いからいいんだけどさ…あてて…」
折角来てくれたのに、少し申し訳ない。少しというか全面的に申し訳ない。
「大丈夫ですか?」
ユリアが手を差し伸べた。沢井はぼんやりとユリアを見ていたが、ユリアがにこっと笑うと、つられて笑って立ち上がった。
「ヒロ…大翔君のお友達ですか? 幼なじみの沢井陽菜と言います、よろしくお願いします!」
「ユリア・ジルヴァナと申します。よろしくお願いしますね、ヒナさん」
「はい!」
本当に沢井は、人を見る目があるのかないのか、疑うということを知らないようだ。握った手を沢井はブンブン振っているが、ユリアにしてみたら痛いんじゃないだろうか。
だがユリアは振りほどこうともしていない。粗忽な沢井とは対照的だ。

やがて手を離すと、俺の家の中に入ってこちらに手を振った。
「じゃ、いってらっしゃーい」
明らかに沢井は俺じゃなくてユリアに向かって言っている。なんだこの女子の連帯感ってやつは。



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