まとめ4


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「大翔、無事かっ!」
ノア先生と陽菜が、息を荒くしながら必死な表情でこちらを見つめていた。
それが演技のように見えてきてしまうのは、さっきの話の影響だろうか。
「……白々しい」
姫が嘲るかのように笑った。
「大翔くん、そいつから離れて。そいつは――」
「……あの」
陽菜の言葉を遮って、俺はノア先生に向けて言った。
信じたくない、嘘に決まっている、否定してくれ。そう心の中で願いながら。
「美優をやったのは、ノアさんなんですか?」
「…………っ」
だけれど、ノア先生は。
嘘をつくには、動揺が表に出すぎてしまっていて――。
「そ、そんなわけがないだろう! 私が、そんなことを……!」
逆に、肯定しているも同然の態度だった。
「……なんで……!」
「だから、違うと言っているだろう! 大翔っ!」
「なんで、美優を……!」

「大翔くんを騙す為に決まってるよ」

「……え?」
以外な方向から、最も聞きたくなかった答えが返ってくる。
陽菜が、無機質な心の読めない表情で冷徹な視線をこちらに向けていた。
「陽菜っ! 何を……!」
「ノア様、もうばれているも同然のことをいつまでも隠しても仕方がありません。まだ美優で脅しをかければ可能性は十分にあります」
「…………っ」
ノア先生は唇を噛んで俯いたと思えば、すぐに顔を上げた。
その表情には、諦観の念がありありと出ている。少し前に公園で「どうでもいいと思っている」と話した時にも、こんな表情をしていた気がする。
「吸血鬼とは、真に哀れだな……」
姫の嘲りは止むことを知らず、夜の闇に不快な笑いが溶けて消える。
「そうだよ、大翔。私が美優をやった。そこの魔王の言う通りだ」
――ああ。
この時俺は、正直に言わせてもらうと嘘をついて欲しかったのだと思う。
信じていた人に裏切られるという絶望を、味わいたくなかったのだと思う。
……俺は……。
「我が魔王だということは、気にしないのだな……」
姫の残念そうな呟きに、俺は適当に返事をする。
「…………魔王とか、どうでもいいです」
内心少し驚いていたけれど、虚脱感の方が大きく勝っていて、何のリアクションも出来なかった。
「なんで……」
その虚脱感は、段々と怒りへとすり替わって行く。そしてそれは憎しみへと膨れ上がって、俺はその憎悪を叫びと共に吐きだした。
「なんで、美優をあんな目に合せたんですか! 仲間なんじゃないんですか!? 吸血鬼の結束なんて、上っ面だけのものだったんですか!!」
「……………」
ノア先生は、俺から目を逸らして何も言わない。貝のように口を紡いでいる。
姫も同じように黙って傍観していた。
「何とか言ったらどうなんですか! ノア先生っ!」
「――黙れ」
「え?」
それを言ったのは、ノア先生ではない。
――陽菜だ。

「聞こえなかったのか? 低能な人間が。お前なんて黙って吸血鬼になって私達の種馬になっていればいいんだよ!」
「なっ……!」
陽菜の突然の激昂に気圧され、罵倒に閉口する。
「なんで? はん、そんなもの、シスコンのお前を釣る為に決まってるだろうが! 結束? 笑わせるな、私達には最初から種として生き残ることだけしか考えていない!」
「何、を……」
種としての、生存……?
「ようはこう言うことだよ、大翔」
姫が、言葉の足らない陽菜の補足をするかのように口を開く。
「吸血鬼が増える方法は二つある。それは本人の同意付きの儀式による変異と、単純な生殖行為による出産だ」
「……それが、どう関係があるんですか?」
わからないか? と俺の理解力の無さを責めるような言い草で、姫は続ける。
「この島国には今女の吸血鬼しか残っていない。種としての滅亡を防ぐには、儀式を行うしかない。……だけれど、その儀式を行うことはここでは不可能なんだよ」
「…………あ」
「気付いたな。そう、ここの人間は吸血鬼を親の仇のように憎んでいる。誰が説得しても吸血鬼になろうだなんて思う筈もない。……だけれど、そんな未来の無い吸血鬼の前にぽっと希望が浮いて出た」
「希望?」
姫がすっと白魚のような指を上げ、指した先は俺の顔。
「……俺が?」
「そう、結城大翔は異世界から来てこの世界のことを何も知らなかった。吸血鬼達にとっては非常に都合のいい存在だったのだ」
「そんな……それじゃあ……」

「ああ、そうだよ大翔。お前を今まで保護してきてやったのは、お前を吸血鬼にする為だけだ。他には何もない」

ノア先生が、姫の言葉を継いで、そう言った。


――信頼が、崩壊する。


「我々の本当の目的は、人間を家畜として吸血鬼を未来永劫繁栄させること。その為にはお前をどうしても吸血鬼にする必要があった」


――積み上げられた思い出が、瓦解する。


「じゃあ……俺は、仲間でもなんでも……なかったんですか?」
「人間を仲間だなどと思うわけがないだろう。吸血鬼になるのならともかくな」


――悲しみが、心を包む。

「……っ」
俺には、何の価値もない。
ノア先生達から見れば、俺もただの家畜のようなものだったんだ。

俺は、一方的に仲間だと思い込んで馬鹿を見ただけ。

――今すぐ、この場から消えてしまいたい。

「全部……芝居だったんですか……」

「……………………そうだ。だが大翔は結局美優を救う為に吸血鬼になるしかない、選択肢なんて最初からないんだよ。理解できるか?」
「う……うぅ……」
膝をついて、絶望に打ちひしがれる。

俺は、こんな世界で自分が出来ることなんて何もないと思っていた。
戦う力なんてない。かすり傷を治す程度の力しかない。
そんな俺でも、仲間と言ってもらえて嬉しかったのに。

「人間の結城大翔には価値が無い。吸血鬼の結城大翔には価値がある。これからも仲間でいたいのなら、美優を助けたいなら、私の元に戻って来い」
絶対的なまでの強制。
結局俺には美優を助けることなど出来ない……選択肢なんてないじゃないか。
自分の非力さに、愚かさに、涙が溢れそうになる。

「大翔。わざわざ自分を裏切った者の場所に戻る必要はあるまい」
姫が、蛇のように俺の体に腕を絡ませ、俯く俺を抱きよせる。
まるで体温が感じられず、柔らかさも感じないのは何故だろう。そんな疑問も思い浮かんだけれど、すぐにどうでも良くなった。
「我と共に来い、魔族として覇道を歩め。我らはお前を純粋な戦力として、戦友として迎えよう」
「…………ユリア……さん」
心が、揺らぐ。
支えを失った脆い心に、付け込まれる。


……だけれど、次の瞬間にはそんなしがらみが全て吹っ飛んだ。

「魔族風情が、薄汚い手でその男に触れるな」

美優の登場が、俺の中で全てを吹っ飛ばす程の衝撃を与えてくれた!

「ちっ……!」
流石の姫も感知しきれなかったのか、美優の上空からの不意打ちを転げながら避ける。
美優の動きに、先ほどまでの怪我を感じさせる鈍さは無い。
「美優! お前……大丈夫なのか!?」
「見ての通りです」
美優が、膝をつく俺の両腕を掴んで「しっかり立ってください」と持ち上げる。

「……飛んだ邪魔が入ったな」
姫が舌打ちし、陽菜とノアは驚愕の表情でこちらを見ている。
「美優、お前……何故生きている……!」

「…………さあ、姉さんが生き返るよりは不思議なことでは無いと思いますが?」
「っ……! 美優、口を慎め!」
「姉を殺し、自分まで殺そうとした主に振る尻尾などあるわけがないっ! 私はこの人を守る。この人の中の姉さんを守る!」
俺の中の、美羽?
「それよりも、まずここを一旦離脱します」
美優の手が差し伸べられる。
「……あ、ああ!」
俺は、その手をしっかりと握った。
とても暖かくて小さいけれど力強いその手は、何よりも俺の心を支えてくれる。
「行きます、絶対に手を離さないでください」
「行きますって……、うおあっ!!」
――飛んだ。
単純に、ジャンプした。
足に力を入れているようには見えないが、軽やかな踏切りで軽々と民家の屋根に着地する。

「逃がすかっ!」
「陽菜、追うな」
俺達を追うべく飛び上ろうとした陽菜を、ノア先生が諌める。
「っ! 何故ですか!」
「まもなく朝がやってくる。力の無駄遣いは避けたい」
「……それも、そうですね。捕まえようと思えばいつでも……」



「追って、こないのか?」
「だとしたら、それはそれで好都合です」
――姫の方を見る。
姫は最初から追う気は無いらしく、シニカルな笑みでこちらを見上げていた。
「大翔、今は逃がしてやろう。だが覚悟を決めておくのだな、つぎに会う時が貴様が人間をやめる時だ」
そんな、予言めいた言葉を残して、姫は何の前触れもなくその場から消滅する。
捨て台詞とも取れなくもないが……魔王の言葉だからか、何故か重々しい響きを持って心の中に残った。

「……追撃は予想していましたが……どちらも追って来ないとは……」
美優は、逆に不気味だと言いたげに顔を曇らせる。
だが気にしすぎて逃げる機会を失っては意味がない。
俺達は、残ったノア先生達を気にしながらも逃走を続けた。





――どんなことがあっても、明けない夜は無い。
いつだって東から太陽は昇る、まるで俺達をあざ笑うかのように。
吸血鬼の命を容赦なく奪う日光は、燦々と街を照らし続ける。

「……美優、大丈夫か?」
「大丈夫です」

俺達はゴーストタウンとなった街の都市部、今は機能していない駅の周辺にあるビジネスホテルの一室に潜んでいた。
半年以上放置してあるので埃は溜まっていたが、今更気にする程でもない。
「……ふぅ」
売店に一つだけ転がっていたミネラルウォーター(消費期限については確認済み)を一口飲み、溜息をつく。
当然部屋のカーテンは閉め切ってあり、美優は隅のベッドで布団に入り丸まっている。
どうやら体力の消耗を防ぐ為に昼間は出来るだけ眠るのが良いらしい。
「美優……」
「だから、大丈夫だと言っているでしょう」
しかし、どうも心配で声をかけすぎてしまう。
美優は平気な素振りを見せて傷を見せてくれないが、あれ程重傷だったのに簡単に治るわけがないのだ。
だが美優は理由も話してくれずに鬱陶しそうに返事をするだけ。正直、少し寂しい。
まあ、俺のせいで眠れないからなのかもしれないが。
「じゃあ、俺も少し休むか……」
「それがいいです」

―― 一時間後。


隣のベッドで仮眠を取り、目覚めてからまた水を口に含む。
なにせこれが最後の水だ。
食糧を取りに戻るわけにもいかないし、これが尽きるまでに決着をつけなければならない。
……何を持って決着とするのか、未だにわからないけれど。

「……なあ、美優。起きてるか?」
「起きました」
「…………反応早いな」
「寝ていても神経を張っていますから、何かあればすぐに起きます」
「そっか。……あのさ、じゃあ少しだけ、話いいかな?」
「…………いいですよ」
多少間があったが、肯定の返事に安心する。
俺は天井を仰向けになって見上げながら、慎重に訊いた。
「これから、どうするんだ?」
「……貴方を守り……そして、復讐します」
飽くまで淡々と、感情の色を滲ませないように美優は言う。
「復讐って、美羽のことだよな」
また少しの間があって、「はい」と小さな返事。
確か、昨晩に美優がそう言っていたんだ。あの時は逃げるのに必死で訊けなかったけれど……。

「ノア様……いえ、もう様をつける必要もありませんね」
こほんと一旦言葉を区切る。
「吸血鬼の王であるノアは、この大陸における吸血鬼の血脈を滅亡させない為に、貴方を取り入れようとした」
「……ああ」
そこまでは、知っている。
知りたくなかったけれど、知っている。
「それは、私も殺されそうになる直前になって知ったことです。……今まで、そんな計画が動いていただなんて私は全く知らなかった」
……だから美優は、喉を潰されながらも必死に俺を止めようとしたんだ。
「その時に、ノアが言ったんですよ。どうせ貴方を吸血鬼にしたらすぐにトドメを刺すつもりだったんでしょう。冥土の土産とでも言わんばかりに白状しました」

『美羽は私が殺した。真に友好派である美羽は邪魔になるだろうから、早めにその芽を摘み取っておくに越したことはなかった』

「そう、言ったんです」

……信じてたのに。

美優がぽつりと呟いた言葉が、俺の心に反響する。
それは、俺もずっと心の中で叫び続けていた言葉。決して届かない、叫び。

「許せなかったんです。種として生き残ることを優先するのは理解出来る、だからと言ってまるで保険をかけるかのように姉さんを切り捨てたことが、許せなかった……!」

美優のくるまっている布団が、小刻みに震えている。
それが怒りによるものなのか、姉を思う悲しみから来るものなのか、俺にはわからない。
「……そうだったのか」
俺は、それ以上美羽のことについては踏み込むことが出来ずに、話題を逸らす。
「あのさ……じゃあ、俺を守る意味って、なんだ? 復讐するだけなら……必要、ないじゃないか」
先ほどの会話から派生して生まれた疑問を、そのままぶつける。
美優から返ってきた答えは、至極単純な物だった。
「姉さんを、守る為です」
「……え?」
すぐにはその言葉が理解できない。
……いや、頭の中で何度噛み砕いて考えてみても、わからない。
「私は、貴方の血を吸いました。その時に、貴方の記憶の中が見えたんです」
ああ。ノア先生が、血識とか言ってたアレか……。
「驚きました。……姉さんも、貴方も、私も、ノアも、何故か魔王でさえも、皆楽しそうに幸せそうに暮らしているのだから」
「…………」
それは、俺にとって数日前までは普通だったこと。
だけれど、この世界では望むべくもない尊い日常。
失ってから初めて大切だったと気づくことというのは、正しくこれだと思う。
「だけれど、その中から貴方だけが消えたらどうなる? 皆が……きっと姉さんも、悲しむでしょう」
だから、と一泊置いて。
「私は、姉さんを守れなかったから。……だから、せめて別の世界の姉さんだけでも悲しみから守ってあげたかった」

――それが、貴方を守る理由です。

そこで、理解する。
ああそうかと、胸の中ですとんと何かが落ちるかのように、納得する。

飽くまでも俺の為ではなく、美羽の為なんだ。
別にがっかりしたわけじゃない、そんなおこがましい考えは抱いていない。
自分の身の上は弁えているつもりだし、美優にそんなことを言ってもしょうがない。
しょうがないのに……。

「駄目だな……俺……」
「? 何が駄目なんですか?」
不思議そうに訊き返してくる美優に、俺は自嘲するかのように言った。
「守られてばっかりで、何もできなくて、結局俺が美羽を殺したようなものじゃないか。……本当に、何してるんだろう」
俺がこの世界にやってこなければ、ノア先生は美羽を殺さなかっただろう。
「本当、人間の俺には何の価値もない……。ノアさんの言うとおりじゃないか」
「…………」
こんなのはただの愚痴だ。
話す方も話される方も両方嫌な気分になってしまう。
そんなことは、わかってる……わかってる……のか……?
……俺に、何がわかってるって言うんだろう。
今までこの世界に来て何度も良くわからない目にあって、俺はその度に何をしてきた?

うじうじと悩んでいただけじゃないか。
吸血鬼になると一度決断した時も、すぐに姫の言葉に流されてしまった。
俺には、何も選ぶことは出来ない。
自分の愚鈍さに反吐が出て、悔しさから涙があふれそうになる。

「…………」

やっぱり、こんな愚痴に返事してくれるわけないよな。
美優だって、呆れてるに違いない。
「……貴方は、生きていくのに価値が必要なんですか?」
「え?」
突然返ってきた返事、まるで予想外なその言葉に俺は動揺する。
「誰かから必要とされなければ、何かを役に立つことをしなければ、生きていけないというんですか?」
「…………」
「生きていくのに必要な理由なんて、私には二つくらいしか思い浮かびません」
「……二つ?」
「死にたくないから、やりたいことがあるから」
それは、気持ちの良い程に簡潔な答えだった。
「生きていくのに理由が必要だというのなら、それだけで十分です。
 さっき貴方が言っていたようなくだらないことは、余裕のある人だけが暇な時に考えていればいいんですよ」
「…………」
「それに、姉さんが死んだのは貴方の責任じゃありません。ノアが犯した罪を貴方が背負う必要があるんですか?」
あなたは、深く考えすぎです。もっと単純に生きてもいいと思います。
最後にそう締めて、美優はそれ以降何も言わなかった。
俺も、何も言わなかった。
ビジネスホテルの一室に沈黙が降りて、そのまま時間が流れていく。

――単純でいい、か。

そう簡単に割り切れることではないけれど、美優は真剣に考えてこの言葉を送ってくれたんだと思う。
だったら、俺も真剣に受け止めて、前向きに考えてみよう。
……美優だって、いろいろと悩んでいるに違いないから。

「私は夜まで眠ります……大きな音をたてないでくださいね」
「……ん、じゃあ俺も寝るよ」
夜になれば、また過酷な出来事が待ち受けているに違いない。
休める時に休んでおかないとな。
「そうですか、おやすみなさい」
「…………え?」
「? なんですか?」
「あ、ああいや……。おやすみ」
美優に聞き返されて、焦りが声に出てしまう。
……ただ、美優に、妹におやすみと言ってもらえたのが何だか懐かしくて、嬉しかった。
それだけのことだったのだけれど、とてもかけがえのない物のように感じたんだ。



そして。
――気がつけば、俺はホテルのロビーにいた。

「……え?」

あれ……前にもこんなことがあったような……。
あの時は確か、そうだ。服を乾かしに外に出たんだっけか……?
その辺りの記憶を探ろうとすると、靄がかかってるみたいにあやふやな記憶しか掘り出すことができない。

「……どうして……」

…………ああ、そうだ。
確か、腹が減って食料が残ってないか探しに来た……筈だ。
どうにも何かが喉に引っかかるかのような違和感が拭えないが、悩んでも仕方ない。
俺は目的の厨房を探すべく周りを見渡す。
ここはそれほど大きなホテルじゃない。
小さなシャンデリアが飾ってあって、喫煙所のソファーやテレビは埃をかぶっている。
当たり前だが、フロントには唯一の客である俺達を出迎える人間は一人としていない。まあ、金は払ってないわけだが。

道路沿いはほぼ全面ガラス張りで、普段なら賑わっていたであろう駅前がはっきりと見て取れた。
「…………」
元の世界の風景と重ね合わせようとして、やめた。
そんなことをしても意味は無い、意味の無いのことはやめよう。
今の俺に、そんな余裕はないのだから。

「……余裕は大切だよ。心にゆとりを持て」

――いきなり、いた。
この人の登場はいつだって唐突で、俺はいつだって驚かされて、動揺して、惑わされる。
だけれど、いつまでもそうやって驚いて主導権を握られるのは癪だ。
俺は驚きを胸の内に閉じ込めて平然とした態度で、ソファに悠然と座る姫に言葉を返す。

「残念ながら、俺はゆとり教育の影響でゆとりって言葉が大嫌いなんですよ」
「ふむ? ゆとり教育というのが何だかわからないが。なかなかに素敵そうな教育方針だな」
まあ、その言葉の奇麗さにだまされて子供はどんどんとダメになっていったわけですが。
「それにしても……魔王って、意外と暇なんですね……。俺みたいな人間に会いに来て楽しいですか?」
「……ああ。何故かな、最初は大翔が能力を持つ人間だからという理由だったが……ここまで執着する理由というのは自分にもわからないのだよ」
「わからないんですか?」
「ああ、わからないな。……ただ、何故か惹かれてしまう」
「……惚れましたか?」
ふざけてそう言うと、姫は「そうかもな」と調子を合せてくる。
「ただ……我の魔王になる前の記憶が、君を知っているのかもしれない」
くだらん話だな、魔王はそう言って肩を揺らした。
まるで自分の過去を否定するかのような態度に、少し興味が湧く。
「…………」
いや、待て。相手は魔王なんだぞ?
今度は俺を魔族にするとか言ってたし、悠長に会話している場合じゃないだろう。
……でも、今の姫からは夜と違い威圧感がまるで感じられない。
「そう警戒するな。昼間の我に夜のような残虐さや狡猾さ、敵意は存在しない」
というよりも、無理に抑えられてしまうのだが……。という姫の言葉を、多少の疑念を持ちながら受け止める。
「…………」
確か、姫と会うのはこれで昼間に二回、夜に一回だ。
夜の時は恐ろしい威圧感を与えられたが、今の姫は極めて穏やかで、今すぐ何をどうこうしようという意志は感じ取れない。
少なくとも敵意は無い。それははっきりと確認できる。
俺は安心して、湧いた興味を質問にして姫にぶつけた。
「魔王になる前って……どういうことですか?」
「さあな。記憶はないが、我は多分人間だった……それだけだ。今は生存本能の塊……ただの魔王だよ」
どこか遠い場所を見る目つき。夢を見ることを諦めた大人のような姫の憂い顔に見入ってしまう。
「惚れたか?」
俺の視線に気づいた姫にからかわれ、俺は顔を赤くしながら反論した。
「そ、そんなことないです、誰が魔王なんかに……」
そう、そんなことより気になることを言っていた。
「それよりも、生存本能の塊って……どういうことですか?」
「そのままさ……。我は死にたくいだから生き続ける、それだけだ。ほとんど死んでいるも同然なのだがね」
姫が足を組み直そうとして、長い脚がテーブルにぶつかりそうになり――すり抜けた。
「!?」
「……ああ、大翔は知らなかったか。私はほぼ魂だけの存在だから、普通はこうしてすり抜けてしまうのさ」
「で、でも。この間は普通に蹴ったり投げたり……」
「引力と斥力を利用し、いかにもそこにいるように調整している」
「…………そうなんですか」
だからあの時。姫からは体温も何も感じなかったんだ。
魂には、熱も何もないのだから……。
「しかしこんな体でも私は死にたくない、そう感じている。見苦しいかもしれないがね……。死ぬとはどういうことなんだ?
 何も無いということなのか? いきなり魔王になって、本能のままに人間を狩り歩いていた私には天国も地獄もあるとは思えない。
 無は……怖いよ。私が唯一恐れるものだ。だからこそ私は魔族という軍団を結成した。効率良く魂を集める為に」
「効率良く……魂を」
言葉を繰り返す俺に、姫は頷いた。
「実を言うとな、今世界中に散らばる魔族というのは、我の力の一部が顕現化した物に過ぎない。意思のある存在など、一人としていないのさ」
――全ては、姫一人だけが生き続ける為だけに。
その為だけに、姫は五百憶もの人間を殺し続けてきたというのか。
「ああ……だけれどなぜかな、こうして存在し続けていると、いろいろと余計な感情も湧き出てくる。
 戦いが楽しく感じたり……大翔を仲間にしようとしているのもそうだな……」
「それって、余計って言えるんでしょうか……」
感情があるということは、ただそれだけで素晴らしいことなのではないか。
「無駄かどうかは、我が判断することだ。……余計なことに目を向けすぎると、人の魂を狩るのを忘れてしまうからな」
「……やっぱり、殺さなきゃダメなんですよね」
「言っただろう? 死にたくないと。人間の魂を奪わねば私は消えてしまう。吸血鬼だって同じことだ。
 ……ふん。ただ、あの哀れな王は個体としてより、この島国での種を残すことを優先したようだがな。
 私はただ自分の為だけに、人間を殺す。老人でも、女でも、子供でも……」
「子供……」
その言葉に、俺は姫と最初に出会った公園のことを思い出す。
あの時遊んでいた子供達は、無事なんだろうか?
「…………おい」
姫が突然声のオクターブを下げ、声にドスを利かせてくる。
「何故我が自分語りをしなければいけないのだ」
「そんなこと……」
俺はきっかけを作っただけで、ほとんど自分で話してたじゃないか。
そう言おうとして、やめた。別にいたずらに煽ることもない。
「ああ……やはり昼は駄目だ。思うようにことが運ばない……」
額に手を当て思い悩む姫に、俺はどう反応をしたものか困ってしまう。
「せっかく誘導してここまで連れてきたのには、理由があるんだよ」
「……誘導?」
「なんだ、気づいてなかったのか」
「気付いなかったって……まさか!」
平然と嘯く姫の態度で、ようやく記憶の謎がつながった。
「そう、大翔を地下から外に出したのも、今ここに連れ出したのも、私が大翔を僅かな間操ったからだ。いや、操るというより乗っ取りか」
「だから記憶が飛んでたのか……」
思い出せないわけだ……。
乗っ取るというからには、体は自分の物でも発言や行動は姫が行ったものとなるのだろう。
だとしたら、姫が抜け出た後にはその結果と記憶だけが残るのだから、脳は覚えていても魂が覚えていない……ということでいいのか?
……ちょっと待てよ?
「だったら、その力を使って戦えば楽に勝てたりするんじゃないですか?」
何せ相手の体を乗っ取ることが出来るのだ、うまく使えば誰にでも無傷で勝利できるじゃないか。
「この力は力の消費量が膨大だからな、私でも一分持たせたらすっからかんとなってしまう……って、だから、いつになったら我の話題に戻れるんだ!」
横道に逸れてしまいそうな気になることばかり言うからだ。
というのは言い掛かりだろうか……。
「大翔、これはお前にとっても重要な……。いや、お前にこそ聴かせなければならない話なんだぞ?」
「俺にこそ?」
何を言われるのだろうかと、少し身構える。

「大翔がいた世界は、後一年で滅び去る」

「――え?」
姫の言葉が一瞬宇宙人語のように感じられて、すぐには理解できなかった。
身構えた所で何の意味も無い、横合いから思いっきり殴られたかのような衝撃を受け、俺の思考が停止する。
「大翔の力に似た反応を調べれば、その世界を見つけ出すことは簡単だった。
 ……こういう結果がついてきてしまったのは、お前にとっては残念なことだったがね……」
「ほ、本当なんですか!?」
「本当だ」
真実を告げる姫の声はあくまで冷静で、とても皮肉や冗談を言いだしそうには見えない。
……俺は、その事実に打ちひしがれる。
「そんな……」
「まあ待て、まだ誰も救うことができないとは言っていないだろう」
「出来るんですか!?」
「ああ、我が全力を出せば……な。だがそれには条件がある」
「条件……」
やはり、ボランティアをするような性格ではないとわかっていたが……。
どんな条件を出されるものか、俺は身を固めてそれを待つ。
「大翔が我と同一の存在になることだ」
「…………!」
それは、あまりにも残酷な提案だった。
「大翔、これは我にとっても最大限の譲歩と言っても良い。夜の我ならば有無を言わさずお前を連れて行ったとしても不思議ではないのだ」
「…………」
なんで、揃いも揃って俺に人間をやめさせようとするのだろうか。
俺は、人間のままでいいのに。
普通に生きていられるだけでいいのに……。
「我は、お前の能力についても知りたい。そして、何故大翔に惹かれてしまうのか……その理由も知りたい」
――例えそれが、余計な感情だとわかっていたとしても。
「……………………」
姫の言葉を、俺は押し黙って受け止める。
余程顔に出てしまっていたのだろうか、姫がフォローのような科白を加える。
「……まあ、我が助けずとも助かる道は無いとは言えない。ただ、一番確実だというだけでな……」
「……俺は……」
元の世界のみんなのことを思い浮かべる。


異世界からやってきた姫様達のことを。
元気一杯な幼馴染のことを。
くだらない冗談ばかりを吐く悪友のことを。
頼りになる先生達のことを。

――いつも一緒にいた、妹達のことを。

美羽……美優……。

――――――――迷惑かけることになるけど、許してくれるか?

「ごめんなさい。俺は……魔族にはなりません」
「……そうか」
姫は、まるで最初からその答えを予測していたかのような表情で、言った。
あくまで穏やかで、どこか諦めの混ざったような顔。
「一応、理由を聞かせてもらってもいいか?」
「……確かに、みんなを守りたいとは思う……だけれど、俺は人間でありたい。人として生きていたい。
 そんな単純で……自己中心的な、理由です」
「なるほどな。確かにそれは、単純でいいな。人間でありたい……か……。実に単純でいい答えじゃないか」
心の底からおかしそうに笑う姫に、少し奇妙な印象を受ける。
何故、誘いを断られて笑っているんだ……?
「ならば、こちらもシンプルに行かせてもらうだけさ」
最初から、そうすれば良かったのかもしれないな。
姫は笑いを堪えながらそう呟いてソファーから立ち上がり、すっとした指先で俺を指差しその手を広げて上に向けた。
「真正面から戦い、全てをねじ伏せる」
そして、ぐっと拳を力強く握り込む。

「…………」
その力強さに、圧倒される。
豪胆さと美しさを兼ね備えた魔王に、魅了される。
「あの……美優、だったか? せいぜい気をつけるように伝えておけ。お前を説得するには、奴を追い込むのが最も有効な手段なのだからな」
「俺が守ります」
「さてね、大言壮語を吐いた所で今の大翔にできることなどあるのかどうか……」
姫が、握り込んだ拳からピッと指を一本立てる。
「お前が我との取引に応じなかったのは、まだ世界を救えるかもしれないという未来への希望があるからだろう?
 ……だけれど、目の前で助けを求める者がいた時、今すぐにでも治療しなければならない程の傷を負った者がいた時、お前はどうするのかな?」
「…………」
「私はお前を手に入れる……必ずな。それでは、また夜に会おう」
あまりにも的確に、あまりにも冷徹に、心の隙間を突くような言葉を残し――やはり何の前触れもなく、目の前から消えた。




――吸血鬼の本拠に舞台は移る。

暗く、重苦しい空気の地下の一室に申し訳程度の光が灯される。
その明りの元は小さな裸電球であり、そのスイッチを入れたのは吸血鬼の王であるノアだった。
「……空気が淀んでいるな」
通風口は当然存在するが、地下深くともなれば多少そうなってしまうのも仕方がないものだ。
ノアもそれは理解しているようで、そのことについては特に言及しない。
「……大翔……」
数日前までここにいた人間――結城大翔――が使っていたベッドに腰掛け、過去に思いを馳せる。
「君の血を吸ったのは、失敗だったな……」



そもそも吸血鬼とは決して歴史の表側には出て来ることのない存在だ。
世の中の闇に紛れ、その数を増やすことも減らすこともなく存在し続ける。

別にそれでいいと思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
これからも、ずっとそういった生き方が続くと思っていた。

――魔族が、やってくるまでは。

今まで人間のことは特に何とも思っていなかった。
ほとんどの吸血鬼は人間に興味はなく、ただ血を分けてもらうだけの存在程度にしか考えていなかったのだ。
人間の生き方には不干渉を貫く。故に血識から記憶を読み取っても特には何も感じることはなかった。


しかし、突然やってきた魔族は人間を皆殺しにするつもりでいたらしい。
……それはまずい。血を摂取できねば我々は滅びるのだから、人間を殺されるわけにはいかない。

だが、私達には戦闘能力はあれどその他の蓄えは無いに等しい。
戦闘中に悠長に人間の血を吸いに行くことなど出来ないのだから、どうしても人間の支援が必要だった。
物資その他拠点の提供、つまりは人間との同盟関係を結ぶ為、私達は歴史上初めて表舞台に立つことにした。

人間も自分達の命が大事だろうから、私達の提案を受け入れてくれるだろう。

……そう考えていたのに、人間というのは想像以上に愚劣な生き物だったということを、思い知らされた。
人間は我々のことを化け物と呼び、こちらの望まぬ戦闘を仕掛けてきたのだから。

人間がそのような対応に出た以上、こちらとしても力でねじ伏せるしかない。
そして私達は、当然のごとく人間との戦いには勝利する。
だがその間にも魔族は攻める手を休めてはくれず、長い間両極作戦を強いられていた私達かなりの戦力を消耗してしまった。

……人間はそれ以降シェルターに引きこもり、不干渉を貫くようになる。

その自分勝手な態度に私達は辟易した。
話を聞こうともせずに勝手に戦闘をしかけてきて、仲間の一人を解剖して殺し、それでいて後は不干渉だ。

人間を脅し支援を受けられるようにはしたが、減った吸血鬼はすぐに増やすことが出来るものではない。

この戦いのせいで人間には吸血鬼に対する圧倒的な敵意が芽生え、儀式に応じる人間はほぼ皆無と言って良い程になっただろう。

まだこの時点では男の吸血鬼も残ってはいたが、すぐに生まれるものではない。出産までには人間と同じく十か月程の月日が必要なのだ。
悠長に子育てしている時間は無い……。
ともなれば、早く魔族との戦いを終わらせる他になかったのだが。何故かこの島国を重点的に攻めてくる魔王のせいで、余計に戦況は厳しくなっていった。

(いつか魔族を駆逐したその時、人間に更なる絶望を与えてやる……!)

私はその執念を胸に必死に戦った。
だが魔族の侵攻は苛烈であり、更には戦い好きらしい魔王の直接攻撃により私達の数はどんどんと減らされていき――。

――吸血鬼は、残り四人にまで減っていた。

あれ程のことがありながら、人間との友好派である美羽。
その妹で姉である美羽にべったりの美優。
私が最も信頼していて、人間への復讐心を唯一打ち明けていた陽菜。
そして私。

このままではジリ貧で全滅を待つのみ、例え魔王を討ちとって勝利したとしても。儀式に応じる人間はおらず、男の吸血鬼でさえ一人もいない。
ただ滅亡を待つしかない。

そんな時に、舞い降りた希望。
……それが、結城大翔だった。

都合良くこの世界の事情を忘れた、記憶喪失の人間が現れたのだ。
私は神に感謝した。
吸血鬼が神に祈るというのもどこかおかしい印象を受けるが、この出来すぎな、あまりにも出来すぎな出来事に、笑わずにはいられなかった。

しかし問題は意外な所から湧き出てきた。

保護の報告を受けた時点で私は即座にその男を吸血鬼にする計画を立て、美羽に話したのだ。
能力のことなどどうでもよく、重要なのは記憶喪失の人間だということだけだ。
美羽も友好派とはいえ吸血鬼だ、反対する理由はないだろう。

そう思っていたのに、あいつは言った。

「そんな、人間を騙すようなことはしたくありません。本人が事情を知ったうえで、それでも成ろうと言うのなら私も反対しません。
 ですが、あの人間は何も知らないのです。シェルターに送り届けてやるべきでしょう!」

眩暈がした。
今まで人間への復讐心を陽菜以外に明かしたことはなかったが、美羽の言動は一々鼻につくものばかりだった。
このような状況に追い込まれたのはほとんど人間のせいだと言ってもいいのに、それでも何故人間を擁護するのか?

……私には理解不能だった。

そして、もう限界だった。
美羽が吸血鬼の未来を阻むというのならば、消すしかない。
互いの思想が邪魔をしあって進めないというのならば、排除するしかない。

丁度その直後にあった戦闘に紛れ、美優に気づかれないよう、美羽を殺した。
顔を見られぬよう、一瞬で闇の外まで跳ね飛ばした。

……今思えば先走ったことをしたということは認めよう。
そもそも、魔王に勝てなければ人間への復讐も出来ないのに、戦力を自ら削ぎ落としてしまったのだから。

だがまだ希望が無いわけではない。
魔王とは何度か戦いはしたが、決して倒せない強さではなかったのだ。

今の三人に、あの人間を吸血鬼にすれば、まだ十分に可能性はある。

私はその人間が私を慕うよう、徹底的に寛容で包容力のある態度を見せ付けることにした。
そして私は、美羽の死に様について美優に訊かれた際、嘘の情報を流したのだ。
あの人間のせいで美羽は死んだ、と。
おかげで美優はいい具合に荒み、逆にそれが私の演技による優しさを効果的に演出することになる。

人間と同じ場所で暮らすというのは初めての経験ではあったが、それ程違和感はなかった。
むしろ私達と大して変わらず、その少年の青臭さに好感を抱きそうにもなった。
だがそれはいけない。私情は捨てなければいけないのだ。
我ながら精神の弱さに頭を悩ませながらも計画を続行させ、結城大翔という人間のことを確実に知る為に血を頂くことにした。

好みや記憶などがわかれば、その分懐柔もしやすくなる。
元はそれが目的だった。

……そして、私は驚愕することになる。

実は記憶喪失などではなく異世界から来た人間であることもそうだったが、その世界に私が、陽菜が、美優が美羽が――魔王が、楽しく笑って生きていたことが最も衝撃であった。

このあまりにも衝撃的な情報は、私の結城大翔に関する見方を大きく変えてしまうことになったのだ。


元の世界に戻りたいという回帰の願い。
それは我々も望むこと。
人間に知られずに闇のまま生きられたらどれだけ良かっただろう。

妹や他の皆は無事なのだろうかという他者への思い。
余裕の無い生活に追い込まれても、尚家族を思い続ける信念。

この世界で、ノア先生達に会えて良かったという安堵。
何の説明も無くこんな世界に放り出されて、自分の知る者に出会えた時の安心感は、どれ程のものだっただろう。

今までは、血を吸おうがその人間の記憶についてなど興味はなく、特に考えることもなく思考の片隅におしこんできた。
だがその人間を理解しようとしたうえで考えると、これ程まで悩まされるものだとは思わなかったのだ。

これは今まで人間を見下してきた吸血鬼の傲慢であって、人間も私達と何も変わらないことをやっと理解することになる。

……そして理解して、私は何よりも羨ましかった。

異世界で教師として暮らす自分が、羨ましかった……。




やはり私は、弱いのだ。
今までは、気丈に冷徹に振舞うふりをしてきた。
だけれど、頭に血が昇ると自分でも予想もしない先走った行動にでてしまい。
その後とてつもなく後悔する。……自制の出来ない、情緒不安定と言っても良い。
王としては失格の存在だったのだ。

……ああ、大翔……。
私も、君のいた世界のノアのようになりたいよ。
優しくて本当に頼りになる、君を助ける箱舟になりたいと願ったよ。

…………だけれど、すまない。

私は王だから。
弱くても王だから、吸血鬼の血を絶やすわけにはいかないから……。

美優を犠牲にしてでも、君を吸血鬼にする。

許してほしい、大翔――。

「……ま……ノア様……」
「ん……」
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