世界の中心 > 三日目


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 ジリリリリリリリリリリリリリリr
 ええいうるさい。これだから朝は煩わしい。
 人の安眠時間を少しでも妨げようと騒ぎ立てる目覚まし時計に寝惚けた頭で拳を振り下ろす。
 奴らは起きろ起きろと責め立ててくるくせに、仕事を終えたらすぐに眠ってしまうのだ。
 だったら最初からずっと眠っていろと言いたいね。
 どうせお前が仕事しても俺は起きないんだから。
 ジリリリリリリr……ゲホ、無駄にしぶとい……
 ジリリリリリリリリリイィ!
 あれ? 今俺止めましたよね? 思いっきり壊す勢いで止めましたよね?
 何だ、最近の目覚まし時計はそんなに頑丈なのか。
 それに安眠妨害のための努力を欠かさないらしい。何度ボタンを殴っても止まりやしない。
 仕方なく、本当に仕方なく、電池を抜いてから掴んで壁に叩きつける。
 これで壊れたとしても止まらないお前が悪いんだ。決して俺のせいじゃないからな?
 
「うわ、あぶな! 当たるとこだった……こんのぉ、スーッ!」
「ていうか何をしているんだそこの目覚まし少女」
「ぅっ!? ゲホ、ひ、人が息を吸い込んだ時に急に話しかけない
 でよね! 咽たじゃない!」
「咽たじゃない! じゃねーよ。何をしてんだっつの、美羽」
「何って、兄貴を起こしてやったんじゃない。いつまでも惰眠を
 貪ってる兄貴のために、妹が喉痛めて起こしてやったのよ?」
「ありがとな。ありがとついでに出てってくれないか?」
「アタシを追い出してどうするつもり?」
「二度寝る」
「却下。いい加減起きろっつのバカ兄貴!!」
「ギャフ!?」

 めーでーめーでおーとーをねがいます。
 あさになってこうふんめされていたたいさのむすこがただいまふみつぶされました。ひがいはじんだいです。
 たいさはこえもだせずうつむいております。
 めーでー。めー……でー……
 
「あ、コラ、言ってるそばから寝ようとするなぁ……て、あれ?
 あ、兄貴?」

 新しい家族を迎えた三日目は、こうして散々な出来で始まった。
 
 
「おはようヒロト殿。どうやら顔色が優れないようだが……何か
 あったのか?」
「何かも……何も……ナニもない、いやナニがなければ……」

 レンは頭上に?マークを浮かべて怪訝な顔を見せている。
 が、どうせ説明したところでわかるまい。
 これは人類の半数程度の人種にしか理解できない、深刻な問題だからだ。
 おい、そこの含み笑いしている妹よ。何処の誰がこんな事態を引き起こしたのかを思い出せ。あと可及的速やかに俺に殴られろ。
 そしてそこの妹その2。恥ずかしそうに顔を赤らめるその表情ナイス。でも心配そうな目で息子を見るのはやめなさい。兄さん情けなさで死にたくなるから。
 
「そうだ、ヒロトさん。今日少し付き合ってもらえませんか?」
「ほぇ? いいけど、どこに?」
「この街を知るために少し遠出をしようと思いまして。レンも、よろしいかしら?」
「はっ、畏まりました」

 そこでピンときた。
 なるほど、そりゃ凄い遠出だ。なんてったって別世界へ行くんだもんな。
 昨日の会話で、一度ユリア達の世界も見てみよう、という話になったのだ。
 状況が掴めなければ、明確な目標は立てられない。
 そんなわけで、今日は一日かけて別世界体験ツアーの予定だ。
 その為に働いて壊されかけた目覚まし時計は無かった方向で。
 いいじゃないか、俺だって壊されかけたんだ、体も人生も……


「いってらっしゃーい。兄貴に気をつけてー」
「お兄ちゃん、時々ケモノさんになるから……」
「お前らねぇ」
「はい。では行って参ります、ミウさん、ミユさん」
「ミウ、ミユ。忠告ありがとう。姫に何かあったら某が許さない
 のでご安心を」
「って二人とも素でスルーだし!?」

 あんまりにもほどがある声援に送られる形で家を出た。

 
「で、ユリア達の世界ってのはどうすれば行けるんだ?」
「私達とヒロトさんの世界は、時空を越えた所にあります。
 つまり、通常ではどんなに頑張っても行くことはできません」
「だが、こちらの世界には時空を越える術がある。だからそれを
 利用するということだな」
「ふーん……よくわからんが、本当にここでいいのか?」

 目の前にはどこにでもあるように見える、普通の側溝。そう、学園への通学路がある。
 なるほど、魔法学園は確かに別世界といえなくも無い。普通の人間がここを通ろうとしてもただドブにはまるだけ。魔法学園の生徒でなければこのゲートは開かない。といっても、まさか学園が別世界にあるだなんて露にも思わなかったが。

「今、このゲートは学園へとリンクが張られています。
 そのシステムを利用して、出口を私達の世界に繋げるんです」
「よくわからんが、つまりいつも通りでいいってことか?」
「ええ、遠慮なく」

 説明はよくわからなかったが、つまり要約すると、いつも通り登園すればいいらしい。
 お手軽なもんだなー、と片足を沈めていった。
 途端に起こるいつもと同じ浮遊感。何事も無ければ、目の前に学園が広がることとなる。
 
「姫。そろそろでございます」
「そうね。レン、リンクポータルを」
「ここに」

 懐から何か光る玉のようなものを取り出す。何だあれ?
 リンクなんちゃらと言っていたな。まさかあの回転切りが得意なアイツと関係があるんだろうか?
 何て思ったのもつかの間。体を覆っていた浮遊感が、急に落下感に一変した!
 
「おぉぉぉおおちる落ちるオチルー!? ユリア、なんだこれ!?」
「安心してください、無事、私達の世界と繋がりました」
「情けない声を出すな。このまま落ちていけば、いずれ着く」

 そんなこと言われても、いつ潰れるかもわからない中を落ちていくのは耐え難いものがある。少し気持ちが悪い。初めて学園に行く日も、そういえばこんな気持ち悪さを味わったな……
 
「慣れればどうってことはありませんよ。それより、見えてきました」

 前を見れば、遠くから光が向かってくるところだった。多分、あれが出口だろう。
 光はどんどん大きくなっていって、やがて俺達を包み込むほどの大きさに。そして―――
 

 気づけば、ここに立っていた。
 違う、と本能的に悟る。ここは、俺達が居た世界とは根本的に違う。
 何が違う、と断定することは出来ない。なるほど、景色が違う。空気が違う。でも、そんなことじゃない。
 この身を苛む『拒絶感』。それが、この違和感の正体だった。
 
「さて、ようやく着きましたね。気分はどうですか?」
「あんまりよくないはな。ずっと落ちてた思えば、今度はこんな
 感覚だし」
「えっ? ああ、そうでしたね。ヒロトさんは、この世界に固着
 してないから……」
「固着?」
「あ、いえ。今は関係ないことです。立ち話も何ですし、私の家
 に行きませんか?」
「家? 家なんて、この辺どこもないじゃないか」
「何を言っている。アレが見えないのか?」

 指差した方角には、ずいぶん立派な城しかなかった。
 
 
「す……っげぇ」

 開いた口が塞がらないとは正にこのことか。城に着いた途端、中から数十ものメイドが出てきて歓迎され、この客間に通された。
 が、ここを客間だなんて呼んでいいのか?
 昔教科書で見たルイ14世の部屋が、確かこんな感じだった気がする。ユリアが姫様だとは聞いていたが、まさかこんなに立派な王家の人だったとは……
 
「結城様。お食事の用意が出来ました」
「え、ああハイ。ありがとうございます」
「まずは、こちらの物にお召し変えください」
「って、えぇ!? こ、これに着替えるんすか!?」
「今お召しのその服は少々汚れてございます」
「いや、しかしですねぇ」
「おや、着方がわからない? そうでございましたら私共の手で
 お着せ替え致しますが」
「い、いえ、大丈夫っす、着替えられますから!」
「畏まりました。では服をお召し変えになられましたら、お声を
 かけてください」
「あ、ちょっ……っ」

 言い終わる前にメイドさんは扉を閉めてしまい。残されたのは俺とこの服だけ。
 無論、着替え方がわからないわけでもない。でもなぁ、白のタキシードってどうなのよ? ご丁寧に蝶ネクタイまでありやがる。
 気恥ずかしさを辛うじて堪えながら、タキシードに袖を通した。
 
 
「まぁ、よくお似合いですよヒロトさん!」
「そ、そうか? なんか、恥ずかしさで死にそうなんだけど」
「恥ずかしがることなんて無いですよ。良く似合ってます」

 ユリアにまでそう言われると、さほど悪い気はしない。いや、恥ずかしいのは変わりないが。
 
「ところで、さ。何、これ」
「何、とは?」
「いや、この光景なんだけど……」
「? 普通の食卓ですが」

 いいや、違うね。少なくとも俺の家ではこんなのはみたことがない。
 目の前に広がるのは旨そうな料理の山、山、山。そして数百に届くのではないかというメイドの群れ。それが一同に一つの長いテーブルを囲っているのだ。その光景たるや、まさに圧巻。

「あら、ヒロトさんの家でも一家が一同に食を共にしていたじゃ
 ありませんか」
「ありゃ規模が違うだろうが! 一般家庭にこんな人数は集まら
 ないっての」

 それに、人数がいるからとはいえ、この料理の量は異常だ。
 山盛りなんてもんじゃない。鬼盛り、いやそれ以上だ。
 某中人の近所にはキ○ガイ盛りという、ありえないほどの量を出すパスタ屋があるが、少なくともその倍ほどの量があるだろう。
 ちなみに、そこの店は本当にその大盛りのことをキチ○イ盛りとメニューに載せている。
 ……何言ってんだろう、俺?
 
「では、戴きましょう。皆さん、各自それぞれ祈りを」

 全員が全員、思い思いの形で祈り始める。俺はとりあえず手を合わせ、戴きますと呟いてておいた。
 さて、じゃあ食べようか、って何ぃ!?
 吹き荒れる風、来たるは大嵐。大乱となりて騒乱引き起こさん。
 なんて呪文めいた何かが頭をよぎるような、そんな光景がそこには繰り広げられていた。
 わかりやすく言えば、結城家拡大版ってとこだろうか。道理でユリアの箸捌きがあんだけ向上するわけだ。こりゃ、俺も心してかからないと飯にありつけない可能性すらある。
 箸を大きく振りかぶって、目の前の料理目掛けて
 
「って、ありゃ? なんだ、ユリア全然取ってないじゃんか」
「え、ええ……」
「何だ、食欲ないのか?」
 俺の家でのあの食べっぷりから考えるにユリアも中々の健啖家だと思ったんだが。

「いえ、そうではないんですが、その」
「ふーん。まぁいっか。とりゃ!」

 いくつもの皿の中から料理を掠め取っていく。一品一品の量は少なくても、これだけ料理が並べば充分な量になる。
 そしたら、今度は食べることに専念。いっただっきまーす!
 ングング。ン、グ、ン……グ……?

「……なぁ、ユリア。もしかして……」
「……ハイ。全部、この調子でして……」
「……呼べ」
「は?」
「料理長を呼べぇ!! 俺が直々に指導してやる、こんなもん料理
 じゃねぇ!!」

 うがぁ! と叫び、暴れようとする俺を必死に食い止めようとするユリア。だが、許せん。いや、許しちゃいけない。
 煮詰めすぎて肉の旨味を全て捨てきった物や、芯の残った米を炒めた物。例え見た目がよくても、これでは全て台無しだ。
 そんな物を料理と呼ぶことを、俺の中の料理の血は許さない。決して許すわけには!

「も、物凄く熱血してらっしゃる!? お、落ち着いてください!!」
「りょうりちょぉぉぉおおおおおをおおおおおおおお!!」

 気がついたら、あれだけあった料理は消え去っていましたとさ。
 ……よくあれが食えたな、メイドさん達。

「元々、食に興味がない者達ばかりですから。食られる物なら、
 特にこだわりもなく何でも良いらしくて」
「てことは、俺の家であんだけよく食ってたのは……」
「……実は、あれだけ美味な食事は初めてでした……」

 不憫さに、少し涙が出た。
 
 
 食った気がしない腹を押さえて、城下町をぶらつく。
 食後ユリアから受けた説明を頭の中で整理しがてら、この世界を少し見て回ろうと思ったのだ。
 この世界は、中心にある『核』と呼ばれる物で支えられているらしい。が、数年前からその核が汚染され始めた。おかげで核は今崩壊の危機にある。核が崩壊してしまうと支えられている世界そのものが消滅してしまうのだそうだ。
 それと俺の世界と何が関係するのか。そこに、対世界という概念が関わってくるらしい。
 この世界と俺達の世界は対となる世界なのだという。所謂一つのパラレルワールドのようなものだろうか。
 この世界には、もう1人の俺がいる。無論、もう1人の美羽や美優も。それは、本人でありながら本人でない、本人と対となる別人。これが対存在と呼ばれるものだ。この対存在は例えどんな物であろうとも存在するらしい。
 つまり、この世界の核にも対存在があるということだ。
 俺達の世界のどこかにある核。ユリアは『ユグドラシル』とかって言ってたな。こちらの世界の核が崩壊してしまったら、そのユグドラシルってのも崩壊してしまうわけだ。
 なんとも複雑な話で頭が痛くなる。

 城下町は中々活気に満ちていた。
 見た目はまるで中世時代のそれだ。が、全く機械技術がないというわけでもないらしい。ガスコンロのようなものやスピーカーらしきもの。そういう物がちらほら目に入ってくる。もちろん、形はこちらの世界の物とは形も何も違ってはいるが。
 機械技術が発達した中世世代みたいなものだろうか?
 そこで生活する人達の顔は、誰も彼も輝いて見えた。
 王家の庇護下にあるから、という理由だけではないだろう。皆、人生を楽しんでいるように感じられる。子供も、大人も。そして老人でさえその顔に笑みが耐えない。
 いい世界だと思う。この世界を守るために俺が呼ばれたなら、全力を尽くそうと自然に思えた。
 心の底から、そう思えた。

 

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