本編

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本編」(2007/09/17 (月) 23:47:47) の最新版変更点

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 ――季節は夏、夏休み。地球温暖化で気温が上がっているという話を聞くが、部屋が熱す ぎて特に実感が湧かない。なぜこの部屋に冷房設備がないのだ!  蝉の鳴き声が煩くて眠れやしない。  クーラー、扇風機は妹達の部屋にあるのだが。なぜ俺の部屋にない!  噂をすれば何とやらだ。妹の美羽が部屋に入ってきた。 「兄貴、朝だぞ! はやく起きろ」  どうやら俺を起こしにきたようだ。 「早く起きろよー」  美羽を無視し再度眠りへとつく。いつもならこの後美羽が無理やり起こそうとするのだが。  ――おかしい。なぜ何もしてこない……? 「後10秒で起きないと、アタシの『とっておき』で起きてもらうから」  ――ギリギリまでベッドから出ないぞ!  このろくでもない誓いに後々後悔する事になるとは思いもよらなかった。 「10、9……」  まだまだ大丈夫だ。 「8、7、0」  ――え、いきなり0!? それは卑怯な……。 「ハイ時間切れ!」 「ちょっと待て……」  ――実妹が右ストレートを繰り出してきた。だがしかし、妹の拳ぐらい余裕で避けてこそ 家長!家長の威厳を保つためその拳避けてみせよう!  ――って魔力を練って威力も速度もあげている!?   妹から繰り出された拳を、避けきれずに朝から星になってしまった。  「世界は兄貴中心で回っている訳じゃないからね。他人の事を考えるように」  何事も無かったかのように美羽は、部屋から出て行く。  ――ベッドで倒れている兄は無視ですか。  急いで着替えてリビングへと向かう。  リビングからする香ばしい匂いが鼻を刺激する。今日はパンのようだ。 「おはよう」  二人の妹に朝の挨拶をする。テーブルに着いて食事をはじめているようだ。 「もまもう」  ――美羽、口の中の奴を飲み込んで喋ってくれ……。 「お兄ちゃん、おはよう」  ――美優だけはちゃんと挨拶してくれるな……。  美優は挨拶を終えると、テーブルから立ち冷蔵庫から何かを取り出し、渡してきた。 「お兄ちゃんのね」  そう言うと、美優はテーブルへと戻る。 「納豆……、マジですか?」  ――今日も昨日も一昨日も納豆。体にいいんだけどさ……。 「お兄ちゃん、早く食べないと遅刻するよ」  「二人は先に行っていてもいいぞ」  待ってもらって、学校に遅刻したら意味がないからな。 「え!? 私達今日、学校に何も用事がないから家にいるつもりだけど?」 「プールに行くの」  ――プールに行く!? 「美優の馬鹿、プールに行くなんて言ったら拙いって」  幽鬼のように立ち上がり、二人に近づく。 「変な歩き方でこないで気持ち悪いから」  美羽が俺の歩き方に文句を言ってくる。  ――この歩き方は古武術に通じるものがあってな由緒ある歩き方なんだぞ……。  冗談だが。 「それでプールは二人だけで行くのか?」 「ううん違うよ。黒須川さんと行くの」 「美優の馬鹿ー!」  笑顔で答えた美優とは正反対に美羽の顔が青くなっていく。 「あの黒須川貴俊か?」 「お兄ちゃんの友達の黒須川さんだけど?」  自然と笑みが零れる。何故か解らないが笑みが止まらない。 「アニキガドスクロイエミヲウカベテイル」  美羽は今にも泣き出しそうな表情をしている。  ――ミウサン、ナニオッシャッテイマスカワタシハソンナエミウカベテイマセンヨ……。  絶対零度より低くなったと感じる居間に玄関のチャイム音が鳴り響く。 「ちょっと見てくるね」  この空間を作り出す一端となった美優が玄関へと向かう。  美羽と2人だけになったので、美羽の方へと視線を向ける。  あからさまに美羽は視線をずらしてきた。何度も視線を合わそうとするがその度にずらし てくる。  美羽で遊んでいると、 「お姉ちゃん、黒須川さんが迎えにきたよ」  美優が更なる修羅場を作り出す為に居間へと舞い戻ってきた。  美羽は美優の行動に驚き放心状態のようだ。 「お邪魔します」  と我が宿敵、黒須川が居間へと入ってきた。  1歩踏み入れたが、さらにもう1歩踏み出せないでいるようだ。 「黒須川君、おはよう」  と学校の先生みたいに挨拶をすると、黒須川は敬語で返してきた。 「おはようございます、結城君。どうしてまだここにいるのでしょうか? 速く行かない と1時限の講習の遅れますが」 「別に遅れても構わない。今から言っても間に合わないからな。それより話を聞かせても らおうか?」  黒須川の肩に手を乗せる。 「何の話かな?」  目の前の青年の小刻みに肩が震えている。 「どうして妹達とプールへ行く事になったのか教えてもらおうか?」  理由を聞き出してやる。 「商店街のくじ引きで無料チケットが当たったからな。本当はお前にも渡すつもりだったが 補講だろう? 二人で行くより、三人って事で俺がついていく事した訳よ」 「本当だろうな? 下心はないよな」 「疑うのか? お前がそんな奴だとは知らなかったよ。真実を言ったのにそれを信じない親 友とは。妹さん達に悪い虫がつかないように一緒について行こうとする親切心を理解しない とは。ああ嘆かわしい」  と黒須川はいう。 「おいおい、こんな事で泣くなよ」  何で俺が泣いている黒須川を宥めているんだよ。 「そんな友の為に、そこの二人にお前の青春の一幕を語ろう」  ――泣き止むの早! 一体何を話すつもりだ? 「美羽ちゃん、美優ちゃん、聞いてくれよ」 「何ですか?」 「去年の修学旅行でさぁ」  この話の内容は今後の人生に大きく関係するともう一人の俺が囁いている。  そう思えてしょうがない。黒須川の戯言を止めるためにも後頭部に一撃を。  ――たしか近くに花瓶があったような。花瓶、花瓶と……。  お、発見、発見。  ――花瓶を取るために腕を伸ばそうと……。って腕が動かないし!  これは魔法か。美羽に視線を移すと、何事もないように黒須川を見ている。 「男共が集まって、この学園にいる異性で誰が気になるかって話になってさぁ」 「良くある話ですね」 「ウワァー! ウワァー!」  確かにこの内容は不味い。畜生、腕が動かないなら今度は声で邪魔してやる。 「兄貴五月蝿いよ」 「お兄ちゃん静かに」  一蹴されたが俺はまだ諦めないぞ。必ず阻止してやる。  ――ウワァー! ウワァー! 叫んでいるのに声がでない。  何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。  ――まさか……。  美羽を見る。美羽が胸の前で両手を合わせゴメンとポーズを取っている。 「話を続けていいか?」  黒須川が美羽達に確認を取ると、二人は頷いた。 「ヒロト、お前は反対しないようだな」  ――反対できないんだよ! 「話を本題に戻すけどヒロト、何て言ったと思う?」 「わからない」 「兄貴は色恋沙汰の話しないからなぁ」 「こいつは妹と答えたんだよ」 「にげたわね」  妹二人から冷たい視線を感じられる。 「そこですかさずツッコミを入れてやったさ」  ――嫌な記憶が蘇ってくる……。思い出したくない、思い出したくない! 「それは無しだとね」 「その後こいつ特にいないって言い張るんだよ」 「まさか兄貴!」 「お兄ちゃん」  我が妹達よ。お兄ちゃんは至って普通だから。 「その時回りにいた男共も二人と同じ考えに至ったわけだ」 「ヒロトも皆が考えていることを察したのか、観念したのか遂に白状したんだよ」 「なんて答えたの?」 「ノア先生って答えたんだよ」  妹二人が固まってしまった。  ――こいつ本当に喋りやがって!  いつか痛い目にあわしてやるよ黒須川君。 「あれ? ノア先生ってたしか新任ですよね。おかしくないですか」  いち早く元に戻った美優が疑問に思った事を口にした。 「黒須川さん達が二年生の時ノア先生いたんですか?」 「教育実習生できていたからな」 「しかし予想外な答えね」  ようやく元に戻った美羽は予想外な答えに驚いている。 「そうかぁ?」 「そんな事ないよお姉ちゃん。ノア先生はファン倶楽部ができるぐらい人気があるんだから」 「マジで!?」 「うん」  ――ファン倶楽部が出来るほど人気があったのか……。その倶楽部要チェックだな。 「でも先生が生徒を好きになる事は無いでしょ。常識で考えて」 「お姉ちゃん、もしもって事があるじゃない?」 「生徒と先生が恋人……。ノア先生じゃまずないわね」 「自信満々に答えるね。美羽ちゃん」  黒須川が自信満々に答えうる美羽に興味を持ったようだ。 「私達も修学旅行の時、黒須川さんの時みたいな話になったんですよ」 「ほうほう」 「その時、ノア先生も参加してもらったんですよ」 「ノア先生、美羽ちゃん達のクラスの副担しているんだっけ?」 「はい」 「それで」 「ノア先生っていつも首飾りしているじゃないですか」 「指輪を通しているやつか」  何度か見た事があるような気がするな。 「お姉ちゃんも気付いていたんだ」 「その指輪の話になったんですけど、巧くはぐらされてしまって真相は聞けませんでしたけ ど、指輪を大切そうにしていたからその贈り主が恋人じゃないかって私達のクラスで話題に なっているんですよ」 「ヒロト、残念だったな」  黒須川が笑顔で肩を叩いてきた。 「なに嬉しそうなんだ?」 「ノア先生に恋人がい……」  最後の言葉を言い終わる前に首の頚動脈を押さえる。  ――後、何秒で落ちるかな? 楽しみだな。  黒須川が腕を叩いてきたので頚動脈を押さえるのをやめた。 「ゴメンナサイ。スイマセンデシタ」  黒須川の口から謝罪の言葉が出てきたから許す事にしよう。 「で兄貴、本当に1時限の補講いかないつもり?」  ――行かないなら、一緒についてきて欲しいとの魂胆なのか? 「1時限の講習より現在の状況が大事だ」  補講1日サボったぐらいどうって事はない。 「しかし1時限の先生はノア先生だったな」  黒須川の言葉に今日の補講内容を思い出す。 「やべ」 「今日の帰りは八時だなヒロト」 「ああ」  急いで身支度を整え、家から飛び出す。 「黒須川さん。どうしてお兄ちゃんの帰りが八時なんですか?」  疑問に思った美優が黒須川に聞く。身支度の邪魔をしないように俺には話しかけないよう にしているようだ。 「ノア先生のその日の授業を受けなかったら、放課後から3時間ぐらいみっちりノア先生 の勉強会を受けなければいけないんだよ」 「まさか、お兄ちゃん。そのためにワザと遅れたのかな?」  美優の言葉に黒須川はハッと表情を変える。 「そんな攻略の仕方もありだな」 「どんなギャルゲーだよ」  黒須川のしょうもない話に突っ込んでしまった。時間がない。時間がない。 「もし美優達に何かしたら許さないからな!」  最後に黒須川へ忠告し学校へと向かう。 「いってらっしゃい」 「頑張ってね」 「早く妹離れしろよ! シスコン」  三者三様の見送りの言葉を聞きながら太陽が照らすアスファルトを一歩踏み出す。  商店街を駆け抜け、学校へと最短ルートを通る。  ――このまま行けば何とか間に合うぜ! うぉぉぉぉ! 「あのーすいません」  って誰かが声をかけてきた。今急いでいるのに。  声の方へと体を向ける。 「……」  声の主の姿に驚き言葉が出ない。とても可愛い少女だった。  外人だと思われる顔つき、年は俺と同じぐらいだろう。可愛いのだが、確実に服装がおか しい。なぜ蒸し暑い日中でこの子は科学者が着ているような白衣を羽織っているんだ。 「あのー」 「なんでしょうか?」  何とか正気を取り戻す。 「市民図書館に向いたいのですが道に迷ってしまって……」 「地元の方じゃないんですか?」 「ええ」  どうしたものか。ここまで関わってしまったら図書館の道まで教えないといけないよな。 「駅までの道はわかりますか?」 「駅までなら何とか……」 「そこから市役所に向うバスが出ているのでそれに乗ってもらえばいいんですが……」  これが確実に図書館まで行く道だからな。 「申し訳ないんですけど、そのバス停まで着いてきて貰えませんか? お礼はしますから」  と少女の口から俺からしたらとんでもない言葉がでた。  お礼の中身が気になるが、補講に間に合わないと今日の帰りが遅くなる。ああ、どうすればいいんだ。  少女の顔を見る。今にも泣きそうな顔をしている。 「わかりました。ついてきてください」  ここから駅まで15分。学校から反対の方向だ。バスに乗れば遅刻はするが授業には間に 合うはず。  踵を返し駅の方へと進む。無言で何も会話がないまま駅へと向う。  業を煮やしたのか、 「しかしあなた、とてつもないお人よしですね」  と少女が口を開く。 「そうでしょうか?」 「ええ。あなた以外にも何人か道を尋ねたんですが、無視されていて困っていたんです」 「最近の日本人は薄情ですからね」 「……」 「……」  ――会話が続かないな……。  別にいいか。無理に取り繕ってもしょうがないし。  この後、駅まで俺達は何も話さなかった。市役所まで向うバス停まで案内する。  バスはまだ出発していないようだ。  バス停につくと、 「ありがとうございます」  と少女はお礼と共に、ポケットから小瓶を取り出した。 「それは何ですか?」  中身が気になったので失礼ながら聞いてみる。 「ガラス細工ですよ」  少女は小瓶の中から、色々な形をしたガラス細工一つを選び手渡してきた。 「これは今日のお礼です」 「いいんですか?」  ――変わった形をしているガラス細工なので高いのではなかろうか? 「構いません」 「ありがたく貰います」 「本当にありがとう」  少女は最後にまたお礼を言い、バスへと乗る。  乗るのを確認した俺は、学校の方へと向うバス停へと歩き出す。 「財布財布……」  ポケットを探り財布を取り出し中を広げ確認する。 「さて、運動がてら学校までバスを使わずに行こう」  ――財布の中身を確認すればよかった……。この虚しさをバネに、学校まで走り抜けてや るぜ! うぉぉぉぉぉ! やってやるぜ!  「ハァハァハァ」  最短距離を通り無事学校には着いたが、しかし1時限目の講習は終わっている。  息を切らし、体力は底をつき、根性だけでここまできたのに間に合わなかった。 「無様」  突然の不意打ちに心が砕かれるところだったぜ。 「寝坊して走ってきたが、日頃の運動不足のせいで間に合わなかったかな青少年?」  ――人を小馬鹿にしたような物言いは……。  身長は小学生と間違われるほどの背しかない虎宮沙良先生事、 「虎先生……」  先生の名を呼んだ瞬間、拳がコメカミをかすめる。 「私をその名で呼ぶとはいい度胸ね。保健室のベッド送りにしてあげましょうか?」  どうやら学生間で呼ばれているニックネームで呼んでしまったようだ。  相当参っているようだな。俺自身。 「それともデッドエンドがいい?」 「どちらでも好みじゃないんで」  丁重に断りを入れ教室へと向う。  教室へ入ると中にいたクラスメイトがこっちへと向く。 「ご愁傷様」  とクラスメイトが一斉に同じ言葉を吐いた。 「え、何が?」  背後で何かオーラを感じる。  後ろを振り向くとノア先生が笑顔で立っていた。 「先生どうかしました?」 「放課後、補講ね。結城君」 「はい」  この事で皆ご愁傷様っていったのか。  先生が出て行くのと同時に、2時限の始業のチャイムが教室に鳴り響く。

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