ダイジェスト1

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「ここは俺が引き受ける。大翔、お前は先に行け」 沈黙を破ったのは、黒須川の一言だった。 「お前、何を言って──」 「いいから行けって。お前はさっさと行って姫さんを助けて来い」 俺の言葉を遮って黒須川が言う。 「ま、大丈夫。心配はいらんさ。足止めくらいなら俺にだって何とかできる」 「しかし、いくらなんでもお前一人じゃ無茶だ」 「いいから行け。こうして話してる暇なんてないだろ?」 「……本当に、大丈夫なんだな?」 じっと、黒須川の目を見る。 彼の目は、いつになく真剣だった。 こいつは本気だ。 俺は確信した。 「お前……」 「全く、心配性なやつだな」 黒須川は苦笑しながら俺の肩をポンと叩いた。 「俺はいいから、お前はお前でやることやってこい」 「──すまん、恩に着る」 俺は頭を下げた。 「何言ってんだ、頭なんて下げんな。あ、ちなみにこれ貸しだからな。 お礼は美羽ちゃんと美優ちゃんを俺の嫁にするってことで」 「それは却下だ」 「つれないなぁ」 お互いに笑い合う。 「──じゃあ、頼んだぞ」 「あぁ、任された」 俺は黒須川に背を向けると、そのまま振り返らずに走り出した。 ──頑張れよ、親友。 後ろから、黒須川の声が小さく聞こえた気がした。 ◇ 「話は終わったか?」 それまで黙ったまま傍観していたレンが、黒須川へと声をかけた。 「あぁ、悪い。待たせたかな?」 気軽な調子で黒須川が答えを返す。 その姿はいつも通り。 まるで気負った様子はなかった。 「しっかし、まさかレンさんがノアさん側に付くとはねぇ。 姫さん一筋で忠誠を誓っていると思っていたんだが」 「……この行いが、忠義に反していることは分かっているさ」 「なら、どうして?」 「私にも譲れぬものがある。 成さねばならぬことがある。 死後、この身が冥府魔道に堕ちようと、 私は返さねばならぬ恩に報いる。ただ、それだけのことだ」 自嘲するように、レンが語る。 「さて、話はここまでだ」 「ありゃ。俺はもっとレンさんとお話したかったのに」 「私には戦場で長話をする趣味はない。 そして一度戦場へと立てば、例え相手が素人だろうと関係はない。 無駄なく容赦なく殺し尽くすだけだ」 「えーと、つまり、俺を生かしたまま見逃す気は……」 「あぁ。ないな」 冷徹な声。 それは、まさに非情な死刑宣告。 「元々あまり関係のない貴様を殺すのは心が痛むが、 これもまた戦場の習いだ。許せ」 レンが背に負っていた大剣を取り出し、構えた。 その姿は威風堂々。 一部の無駄も隙もない。 「レン・ロバイン、参る。……貴様も早く構えろ」 レンが促す。 殺気を込めた射抜くような視線が、黒須川を貫いている。 「酷いなぁ。ちょっとは手加減とかしてくれたりとかは……?」 黒須川が情けない声を上げて抗議をする。 「くどい! 話は終わりだと言ったはずだッ!」 レンは大剣を大上段に掲げると、凄まじい勢いで突っ込んできた。 そして、風切り音と共に黒須川の脳天へと剣が振り下ろされる。 巨大な剣にまるで重さを感じさせない、疾風の如き動き。 その一太刀に躊躇いはない。 「うわわわ!?」 慌てて避ける黒須川。 一閃。 コンクリートで出来た地面に、剣との摩擦で赤い火花が散る。 爆発音にも似た、巨大な音。 そして地を揺るがす衝撃。 黒須川が数瞬前まで立っていた場所は、 レンが起こした剣撃により大きく陥没していた。 四散したコンクリートの下からは煙と共に土が覗いている。 「い、いきなり斬りつけるとは……。死ぬかと思った……」 冷や汗を流しながら黒須川が呟いた。 「既に名乗りは上げた。構えを取れとも忠告はした」 淡々とレンが答える。 「はいはい、そうですか。俺が悪いですよ」 「……」 レンは、無言。 下ろしていた剣を再び掲げ、大上段へと構えを戻す。 「参ったなぁ……。俺はこういう場面に似合うキャラじゃないんだが」 黒須川はぽりぽりと頭をかいた。 そのまま、思考する。 ──にしても、凄まじい威力だな。これは当たったら死ぬな。 コンクリートで舗装された地面を軽々と砕く馬鹿力。 当たれば即死は免れまい。 かすっただけでも衝撃で骨が砕けるだろう。 「行くぞ」 レンが告げる。 それは最後通牒。 黒須川の目を変わらず射抜いている彼女の瞳には、 視線だけで人を殺せるかと錯覚させるほどに殺気が宿っている。 ──今度は外さない。確実に、殺す。 無言の身は確かにそう語っていた。 「……仕方、ないか」 諦めたように黒須川が天を仰いだ。 その視線の先では、大きな月が煌々と輝いていた。 「あぁ、月が綺麗だな」 穏やかな声。 まるで場違いな感想。 黒須川は夜空を見上げていた顔を戻すと、 しっかりとレンの瞳を見返した。 そしてふらり、と黒須川はレンに向かって無造作に一歩を踏み出す。 黒須川は思う。 確かに彼女の剣は鋭く、破壊力も桁違いだ。 当たれば死ぬ。 間違いなく、死ぬ。 だがそれも、当たればの話。 もしも当たれば、の。 ──ならば、当たらなければいいだけのこと。 「──む?」 黒須川の雰囲気が、変わった。 尋常ではないその気配に、レンの体が思わず反応する。 黒須川は誓う。 ──今、この瞬間、この場を死地と認識。 ──言葉は無粋。 ──無用の長物。 ──必要なのは、戦うという確固たる意志。 ──ならば、その武で己を示すのみ。 「断じて行えば、鬼神もこれを避くと言う。 ──黒須川流宗家が当主、黒須川貴俊。推して参るッ!」 闇を切り裂くように、黒須川が名乗りを上げた。 張り詰めた気配が黒須川を包んでいく。 「はッ!」 咆哮。 黒須川の気合と共に震脚が地を踏み抜く。 それはまさに激震。 コンクリート製の地面が揺れ、足裏の型に抉れる。 「貴様……」 レンの表情が驚愕に染まった。 「実力を隠していたという訳か……」 「……」 今度は、黒須川が答えない。 「フッ、そうでなくては面白くない」 月明かりの下、二つの影が対峙する。 黒須川は摺り足で円を描くように移動すると、 ゆっくりと腰を下ろして構えを取った。 ──それは奇妙な構えだった。 両足は肩幅。 正中線を隠した半身の胴。 拳を固め、肘から直角に曲げられた右腕。 それとは対照的に、前面へ向けてだらりと下げられただけの左腕と、 開いたまま手の平。 「妙な構えだな」 「……」 黒須川は答えない。 またしても、無言。 しかし、黒須川はほんの少しだけ口を歪めて笑顔を見せた。 「まぁいい。相手が何であろうと、関係ない」 レンの殺気が膨れ上がる。 対する黒須川は、その殺気を受け流しつつもレンから目を離さない。 今、宴の幕が上がる。
「ここは俺が引き受ける。大翔、お前は先に行け」 沈黙を破ったのは、黒須川の一言だった。 「お前、何を言って──」 「いいから行けって。お前はさっさと行って姫さんを助けて来い」 俺の言葉を遮って黒須川が言う。 「ま、大丈夫。心配はいらんさ。足止めくらいなら俺にだって何とかできる」 「しかし、いくらなんでもお前一人じゃ無茶だ。相手はレンさんだぞ?」 「いいから行け。こうして話してる暇なんてないだろ?」 「……本当に、大丈夫なんだな?」 じっと、黒須川の目を見る。 彼の目は、いつになく真剣だった。 こいつは本気だ。 ここで止めても無駄だろう。 俺は確信した。 「お前……」 「全く、心配性なやつだな」 黒須川が苦笑しながら俺の肩をポンと叩く。 「俺はいいから、お前はお前でやることやってこい」 「……分かった。でも、危なくなったらお前も逃げろよ?」 「いいからいいから。早く行け」 「──すまん、恩に着る」 俺は頭を下げた。 「何言ってんだ、頭なんて下げんな。あ、ちなみにこれ貸しだからな。 お礼は美羽ちゃんと美優ちゃんを俺の嫁にするってことで」 「それは却下だ」 「つれないなぁ」 お互いに笑い合う。 「──じゃあ、頼んだぞ」 「あぁ、任された」 俺は黒須川に背を向けると、そのまま振り返らずに走り出した。 ──頑張れよ、親友。 後ろから、黒須川の声が小さく聞こえた気がした。 ◇ 静かな夜。 空には月が出ている。 昼間は人通りの多い住宅地であるここも、この時間は静かなものだった。 「話は終わったか?」 それまで黙ったまま傍観していたレンが、黒須川へと声をかけた。 塀の壁に預けていた背を離し、ゆっくりと近付いてくる。 「あぁ、悪い。待たせたかな?」 気軽な調子で黒須川が答えを返す。 飄々としたその姿はいつも通り。 まるで気負った様子はなかった。 「わざと、あいつを見逃してくれたんだろ?」 「さぁ、それはどうかな?」 「しっかし、まさかレンさんがノアさん側に付くとはねぇ。 姫さん一筋で忠誠を誓っていると思っていたんだが」 「……この行いが、忠義に反していることは分かっているさ」 「なら、どうして?」 「私にも譲れぬものがある。 成さねばならぬことがある。 死後、この身が冥府魔道に堕ちようと、 私は返さねばならぬ恩に報いる。ただ、それだけのことだ」 自嘲するように、レンが語る。 「そこまでの覚悟とはね……」 「さて、話はここまでだ」 「ありゃ。俺はもっとレンさんとお話したかったのに」 「私には戦場で長話をする趣味はない。そして一度戦場へと立てば、例え相手が素人だろうと関係はない。無駄なく容赦なく殺し尽くすだけだ」 「えーと、つまり、俺を生かしたまま見逃す気は……」 「あぁ。ないな」 冷徹な声。 それは、非情な死刑宣告にも等しかった。 「元々あまり関係のない貴様を殺すのは心が痛むが、これもまた戦場の習いだ。許せ」 レンが背に負っていた大剣を取り出し、構えた。 月光を浴びて輝く銀の鎧と大剣。 一部の無駄も隙もないその姿は美しく、そして力強かった。 威風堂々。 そんな言葉がふさわしい。 「レン・ロバイン、参る。……貴様も早く構えろ」 レンが促す。 殺気を込めた射抜くような視線が、黒須川を貫いている。 「酷いなぁ。ちょっとは手加減とかしてくれたりとかは……?」 黒須川が情けない声を上げて抗議をする。 「くどい! 話は終わりだと言ったはずだッ!」 レンは大剣を大上段に掲げると、凄まじい勢いで突っ込んできた。 そして、風切り音と共に黒須川の脳天へと剣が振り下ろされる。 巨大な剣にまるで重さを感じさせない、疾風の如き動き。 その一太刀に躊躇いはない。 「うわわわ!?」 ほとんど勘だけで慌てて避ける黒須川。 一閃。 コンクリートで出来た地面に、剣との摩擦で赤い火花が散る。 爆発音にも似た、巨大な音。 そして地を揺るがす衝撃。 黒須川が数瞬前まで立っていた場所は、 レンが起こした剣撃により大きく陥没していた。 四散したコンクリートの下からは煙と共に土が覗いている。 「い、いきなり斬りつけるとは……。死ぬかと思った……」 冷や汗を流しながら黒須川が呟いた。 「既に名乗りは上げた。構えを取れとも忠告はした」 淡々とレンが答える。 「はいはい、そうですか。俺が悪いですよ」 「……」 レンは、無言。 下ろしていた剣を再び掲げ、大上段へと構えを戻す。 「参ったなぁ……。俺はこういう場面に似合うキャラじゃないんだが」 黒須川はぽりぽりと頭をかいた。 そのまま、思考する。 ──にしても、凄まじい威力だな。これは当たったら死ぬな。 魔法とやらで強化してあるのか、それとも純粋な腕力か。 コンクリートで舗装された地面を軽々と砕く馬鹿みたいな力。 当たれば即死は免れまい。 かすっただけでも衝撃で骨が砕けるだろう。 「行くぞ」 レンが告げる。 それは最後通牒。 黒須川の目を変わらず射抜いている彼女の瞳には、視線だけで人を殺せるかと錯覚させるほどに殺気が宿っている。 ──今度は外さない。確実に、殺す。 無言の身は確かにそう語っていた。 「……仕方、ないか」 諦めたように黒須川が天を仰いだ。 その視線の先では、大きな月が煌々と輝いていた。 「あぁ、月が綺麗だな」 穏やかな声。 まるで場違いな感想。 黒須川は夜空を見上げていた顔を戻すと、 しっかりとレンの瞳を見返した。 そしてふらり、と黒須川はレンに向かって無造作に一歩を踏み出す。 黒須川は思う。 確かに彼女の剣は鋭く、破壊力も桁違いだ。 当たれば死ぬ。 間違いなく、死ぬ。 だがそれも、当たればの話。 もしも当たれば、の。 ──ならば、当たらなければいいだけのこと。 「──む?」 黒須川の雰囲気が、変わった。 尋常ではないその気配に、レンの体が思わず反応する。 黒須川は誓う。 ──今、この瞬間、この場を死地と認識。 ──言葉は無粋。 ──無用の長物。 ──必要なのは、戦うという確固たる意志。 ──ならば、その武で己を示すのみ。 「断じて行えば、鬼神もこれを避くと言う」 迷いのない言葉。 迷いのない眼差し。 「──黒須川流宗家が当主、黒須川貴俊。推して参るッ!」 闇を切り裂くように、黒須川が名乗りを上げた。 張り詰めた気配が黒須川を包んでいく。 「はッ!」 咆哮。 黒須川の気合と共に震脚が地を踏み抜く。 それはまさに激震。 コンクリート製の地面が揺れ、足裏の型に抉れる。 「貴様……」 レンの表情が驚愕に染まった。 「実力を隠していたという訳か……」 「……」 今度は、黒須川が答えない。 「フッ、そうでなくては面白くない」 月明かりの下、二つの影が対峙する。 片や白銀の鎧に身を包んだ女。 片や無手のまま立ち向かう男。 黒須川は摺り足で円を描くように移動すると、 ゆっくりと腰を下ろして構えを取った。 ──それは奇妙な構えだった。 両足は肩幅。 正中線を隠した半身の胴。 拳を固め、肘から直角に曲げられた右腕。 それとは対照的に、前面へ向けてだらりと下げられただけの左腕と、開いたまま手の平。 「妙な構えだな」 「……」 黒須川は答えない。 またしても、無言。 しかし、黒須川はほんの少しだけ口を歪めて笑顔を見せた。 「まぁいい。相手が何であろうと、関係ない」 レンの殺気が膨れ上がる。 対する黒須川は、その殺気を受け流しつつもレンから目を離さない。 今、宴の幕が上がる。

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