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「世界が見えた世界・2話 A」(2007/12/08 (土) 21:10:56) の最新版変更点
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目を覚ますのが、なぜだか酷く億劫に感じた。
……さて、昨日はなにか大きなことがあって、そのことで疲れていた気がするんだけどな。
寝ぼけた頭じゃうまく考えられない。
……まあ、いいか。うん、いいや。
大翔「寝ちまおう」
そう考えて。
美羽「こらー! 寝るんじゃない!」
布団を剥ぎ取られた。
美羽「まったく、ちょっと油断するとすぐこうなんだから」
呆れた顔をする妹。これは少々反撃してみたくなる。
大翔「と、そのときボブの目の前には見たこともない未知の生物が!」
美羽「いきなり元気になった!? ていうか誰よボブって! それに、未知の生物って!?」
大翔「このままではやられてしまう! 慌てるボブ!」
美羽「兄貴? 兄貴ー!? 朝から頭の具合がおかしくなっちゃったのかなー!?」
大翔「と、ここでネタバラシ。実はこの未知の生物、見た目は恐ろしいがただの人間の女の子の美羽ちゃんでし」
美羽「うりゃあっ!!」
大翔「ごふぅっ!」
覚醒したばかりの意識を冥府へといざなう強烈な一撃。どうやら兄に対しての容赦とか優しさとかそういうのはないらしい。バファリンとは言わない。でもその半分くらいは優しさ注入してくれてもいいと思う。
美羽「ほら、早くおきなよみっともない」
大翔「みっともないって、別にいつものことだろ……」
美羽「いつものことだからもっとしっかりしろて言ってんの! 恥ずかしいでしょ、こんなとこ!」
大翔「恥ずかしい? 何が」
美羽「だ、だからぁ……こんなみっともないところ、ユリア様たちに見せられないじゃん」
すねたように唇を尖らせる美羽。ていうか、ちょっとまって。ユリア様……? ダレソレ。
美羽「……ねえ、兄貴。なんかすっごい聞きたくないんだけど、もしかして兄貴ユリア様のこと忘れて……」
大翔「ああうん、ユリア様ね! オッケーダヨオッケーおいおい美羽いくら俺だってそんな簡単に人のこと忘れたりなんかしないって!」
氷点下にまで温度を下げた視線に単純に生命の危機を覚える。
まずい早く思い出さないと! 今の俺ならきっと北斗七星の横に星が見える!!
と、そこで聞きなれない声が割って入ってきた。
ユリア「ミウ様、ヒロト様、どうなさったんですか?」
柔らかな声。上品な言葉遣い。
それと同時に覗いた顔は、これまたこの上ない美しさで、まるで物語の中のお姫様――って。
大翔「あ、ああああぁぁぁああああああ!」
美羽「……兄貴?」
一人で物凄い勢いで納得する俺に明らかに疑ってますよーみたいな視線が向けられる。美羽、その視線、怖い。
大翔「えっと……おはようございます、ユリア様」
どういう態度をとったらいいものか、とにかく、その場で頭を下げる。こうなると、自分のパジャマ姿がすんごい間抜けだった。
ユリア「はい、おはようございます」
その笑顔で一気に目が覚める――というか、脳がはじけ飛ぶ。
今、俺の体に射す朝日。そんなもんを優に越える、暖かで輝く笑顔。異性にこんな笑顔を向けられたら、誰だってその魅力に掴まるに決まってる。
ユリア「ヒロト様、どうかなさいましたか?」
大翔「はいっ! いや、大丈夫です! なんでもないですから!!」
ユリア「そうですか。それでは、ミユ様が呼んでいらっしゃるのでお早めにお越しくださいね」
大翔「はいっ、わかりました!」
笑顔で手を振りながら出て行くユリア様に手を振る。そして、その気配が完全に遠のいたところで、
大翔「さあって、着替えて飯にするか! ん、いつまでそこにいるんだ美羽?」
美羽「うるさい! とろとろしてないでさっさと飯に行く!」
大翔「いや、だから今そうしようとして……」
美羽「いいわけはいいの! 早くしてよね!」
なぜだか不機嫌な様子で出て行く美羽。
何なんだろうね、まったく。
そこには、いつもの朝食風景がなかった。
別に、宇宙人とか未来人とか異世界人とか超能力者が座っているわけじゃない(いや、ある意味超能力者かもしれんが)。
ただ、その場に普段よりも二人、椅子を埋める存在が増えているだけだ。
それが。それだけのことが。
なんとなく、嬉しいと思った。
昨日はぜんぜん実感しなかったけど、『あー、この二人が、これからしばらくはここにいるんだな』って、そう思った。
美優「……お兄ちゃん、なんか嬉しそう」
大翔「ん、そう見えるか?」
美羽「美優、それは兄貴がいやらしいことを考えてるだけなんだからね」
美優「……………………、お兄ちゃん」
大翔「いやいやいやいや、ちょっと待った。そんなあっさり信じるなって言うか、物凄く痛々しいものを見るような視線はやめて下さい! ガン飛ばされるより心にグサグサ来るぞ!?」
美羽「そうやってうろたえるのが、何よりの証拠」
大翔「俺は今、身に覚えのない罪を被せられた通勤途中のサラリーマンの気持ちがよくわかる……!」
美優「なんか、例えがすごく極端……経験者?」
いったい俺にどうして欲しいんだシスターズ……。
と、今後の兄妹関係に一人で悶々と悩んでいる間に食卓に見事な朝食が並んでいた。
レンさんが用意してくれたらしい。
大翔「ありがとうございます、レンさん」
レン「いや、部屋を借りるのだからこのくらいのことはしなければ」
むしろこの家に住んでいる人間で料理がまともにできるほうが少数派です。ていうか俺だけです。
とか言いたいけど後ろの人たちが怖いからやめておいた。仮にも兄に対してマジ殺意を向けるのは正直どうかと思う。
大翔「それにしても、今日は土曜なのになんでこんな時間に起こしたんだ? 別にもう少し遅くてもよかったんじゃ……」
美羽「お客さんがいる前でそんなみっともない発言するなってば。んで、今日はユリアさんたちにあたしたちの学園の案内をするわけ」
大翔「ふーん、学園の案内か……それ、俺はついていかなくていいの?」
美優「……むしろ、お兄ちゃんが行くんだよ?」
……、え?
美羽「アタシは生徒会の仕事があるから学校までは一緒に行けるけど案内はできないし、美優は今日の家事担当だから」
大翔「メシ以外のな」
美優「うーっ!」
美優が涙目でうなりながら俺の皿にプチトマトを次々に放り込んでくる。こいつ、どさくさにまぎれて苦手なのを俺に処理させる気か!
だがそれを簡単に許す俺だと思うな! ふはは! 見ろ、この鮮やかな箸捌きを! ピーマンを次々に敵陣に送り込んでやったわ!! むっ! 次は茄子か! だが甘い、角砂糖よりも甘いぞ美優! その程度の攻撃、この俺の前では――!
美羽「あんたらは、好き嫌いで醜い争いをするなっていつも言ってるでしょうが!!」
美羽の一声で不毛な戦いに幕が下ろされる。
いや、声と一緒におろされた拳骨によって。
とたんにおとなしくなる俺と美優。いつものことだった。いつもの光景で、でも、今日はいつもとは違う。
ユリア「ふふっ……うふふふふ!」
レン「く……あはははは!」
俺たちのやり取りのせいかどうかわからないけど、二人が目じりに水を浮かべながら笑い出した。
ユリア「ご、ごめんなさい。本当に仲がいいんだなって思ったので、つい笑ってしまいました」
レン「君たちは本当に楽しそうに喧嘩をするのだな。なんというか、見ていて羨ましく思うよ」
その二人の言葉に。
兄妹『…………』
顔を見合わせて、なんとなく視線をそらす。美羽も美優もどことなく頬が赤かった。俺も間違いなく赤くなっていると思う。
ユリア「それで、ヒロト様。心苦しいのですが、案内を頼めないでしょうか?」
大翔「え、ああ……そりゃまあ、今日はなにもやることないから別に案内することは問題ないですけど……」
美羽「歯切れが悪いなぁ……何か問題でもあるの?」
大翔「いや、なんていうか、俺でいいんですか? それこそ、生徒会の人間とか、先生なんかのほうがずっと適任なんじゃ……」
俺だって一応学園に所属しているから案内くらいならできるけど、仮にもお姫様だぞ? いくらホームステイ先だからって、俺なんかがでしゃばっていいんだろうか? むしろホームステイ先だから? ホームステイなんて初めての経験だからどうしたらいいものやら判らないな……しかも相手はお姫様だし。
けど、そんな風に考えていたらどうやらユリア様は誤解したらしい。
ユリア「ご迷惑……でしたか……?」
うつむいて、悲しげに顔を曇らせるユリア様。と、その隣に座っていたレンさんがすぅ……と影のように立ち上がり、フォークを構える。
レン「ヒロト殿。短い付き合いだったが楽しかったぞ」
大翔「迷惑なんてそんな事あるわけないじゃないですか! せっかく指名してくれてるんですから張り切って案内させてもらいますよ!」
ユリア「まあ、本当ですか! ありがとうございます、ヒロト様!」
レン「うん、さすがミウ殿、ミユ殿の兄だ。実に広い心を持っている」
心からの笑顔を浮かべるユリア様と満足そうな顔のレンさん。ところでレンさん、今のあなたの行為は世間一般では割と脅迫とかそういうレベルの行為だったように思うのですが。
なんていうか、レンさん。悪い人じゃないのは確かなんだけど、ユリア様に何かあると目先しか見えなくなるらしい。
そういえば、でっかい剣も持ってたし騎士とも言ってたもんな……見た目からは想像つかないけど、武闘派なんだろう。
うん、今後気をつけよう。よくわからないけど、とにかく色々気をつけよう。
美羽「それじゃあ、ご飯食べたら兄貴は制服に着替えてね」
大翔「ん、やっぱり制服じゃないとダメか?」
美羽「生徒会役員の目の前で堂々と校則違反なんかしたらどうなるか、わかってるよね?」
大翔「少なくとも他の生徒会の連中は殴る気満々になったりなんかしないと思う……大体、別にいやなんていってないだろ!」
美優「でも、嫌そうな顔はしてたよね?」
なんか最近俺の周りって敵ばっかりになってない?
ともあれ。
ユリア「今日はよろしくお願いしますね、ヒロト様」
レン「感謝する、ヒロト殿」
今日は楽しい1日になりそうな、そんな気がした。
[[世界が見えた世界・2話 B]]
目を覚ますのが、なぜだか酷く億劫に感じた。
……さて、昨日はなにか大きなことがあって、そのことで疲れていた気がするんだけどな。
寝ぼけた頭じゃうまく考えられない。
……まあ、いいか。うん、いいや。
「寝ちまおう」
そう考えて。
「こらー! 寝るんじゃない!」
布団を剥ぎ取られた。
「まったく、ちょっと油断するとすぐこうなんだから」
呆れた顔をする美羽。これは少々反撃してみたくなる。
「と、そのときボブの目の前には見たこともない未知の生物が!」
「いきなり元気になった!? ていうか誰よボブって! それに、未知の生物って!?」
「このままではやられてしまう! 慌てるボブ!」
「兄貴? 兄貴ー!? 朝から頭の具合がおかしくなっちゃったのかなー!?」
「と、ここでネタバラシ。実はこの未知の生物、見た目は恐ろしいがただの人間の女の子の美羽ちゃんでし」
「うりゃあっ!!」
「ごふぅっ!」
覚醒したばかりの意識を冥府へといざなう強烈な一撃。どうやら兄に対しての容赦とか優しさとかそういうのはないらしい。バファリンとは言わない。でもその半分くらいは優しさ注入してくれてもいいと思う。
「ほら、早くおきなよみっともない」
「みっともないって、別にいつものことだろ……」
「いつものことだからもっとしっかりしろて言ってんの! 恥ずかしいでしょ、こんなとこ!」
「恥ずかしい? 何が」
「だ、だからぁ……こんなみっともないところ、ユリア様たちに見せられないじゃん」
すねたように唇を尖らせる美羽。ていうかちょっとまって。ユリア様……? ダレソレ。
「……ねえ、兄貴。なんかすっごい聞きたくないんだけど、もしかして兄貴ユリア様のこと忘れて……」
「ああうん、ユリア様ね! オッケーダヨオッケーおいおい美羽いくら俺だってそんな簡単に人のこと忘れたりなんかしないって!」
氷点下にまで温度を下げた視線に単純に生命の危機を覚える。
まずい早く思い出さないと! 今の俺ならきっと北斗七星の横に星が見える!!
と、そこで聞きなれない声が割って入ってきた。
「ミウ様、ヒロト様、どうなさったんですか?」
柔らかな声。上品な言葉遣い。
それと同時に覗いた顔は、これまたこの上ない美しさで、まるで物語の中のお姫様――って。
「あ、ああああぁぁぁああああああ!」
「……兄貴?」
一人で物凄い勢いで納得する俺に明らかに疑ってますよーみたいな視線が向けられる。美羽、その視線、怖い。
「えっと……おはようございます、ユリア様」
どういう態度をとったらいいものか、とにかく、その場で頭を下げる。こうなると、自分のパジャマ姿がすんごい間抜けだった。
「はい、おはようございます」
その笑顔で一気に目が覚める――というか、脳がはじけ飛ぶ。
今、俺の体に射す朝日。そんなもんを優に越える、暖かで輝く笑顔。異性にこんな笑顔を向けられたら、誰だってその魅力に掴まるに決まってる。
「ヒロト様、どうかなさいましたか?」
「はいっ! いや、大丈夫です! なんでもないですから!!」
「そうですか。それでは、ミユ様が呼んでいらっしゃるのでお早めにお越しくださいね」
「はいっ、わかりました!」
笑顔で手を振りながら出て行くユリア様に手を振る。そして、その気配が完全に遠のいたところで、
「さあって、着替えて飯にするか! ん、いつまでそこにいるんだ美羽?」
「うるさい! とろとろしてないでさっさと飯に行く!」
「いや、だから今そうしようとして……」
「いいわけはいいの! 早くしてよね!」
なぜだか不機嫌な様子で出て行く美羽。
何なんだろうね、まったく。
そこには、いつもの朝食風景がなかった。
別に、宇宙人とか未来人とか異世界人とか超能力者が座っているわけじゃない(いや、ある意味超能力者かもしれんが)。
ただ、その場に普段よりも二人、椅子を埋める存在が増えているだけだ。
それが。それだけのことが。
なんとなく、嬉しいと思った。
昨日はぜんぜん実感しなかったけど、『あー、この二人が、これからしばらくはここにいるんだな』って、そう思った。
「……お兄ちゃん、なんか嬉しそう」
「ん、そう見えるか?」
「美優、それは兄貴がいやらしいことを考えてるだけなんだからね」
「……………………、お兄ちゃん」
「いやいやいやいや、ちょっと待った。なぜそんなあっさり信じる!?」
「そうやってうろたえるのが、何よりの証拠」
「濡れ衣、冤罪だ……! 今の俺なら痴漢の濡れ衣を着せられたサラリーマンの気持ちがよくわかる!!」
「なんか、例えがすごく極端……経験者?」
何か俺に恨みでもあるのか、君らは。何で妹達に朝っぱらから精神攻撃を受けなきゃならんのだろう。
と、今後の兄妹関係に一人で悶々と悩んでいる間に食卓に見事な朝食が並んでいた。
レンさんが用意してくれたらしい。
「ありがとうございます、レンさん」
「いや、部屋を借りるのだからこのくらいのことはしなければ」
むしろこの家に住んでいる人間で料理がまともにできるほうが少数派です。ていうか俺だけです。
とか言いたいけど後ろの人たちが怖いからやめておいた。仮にも兄に対してマジ殺意を向けるのは正直どうかと思う。
「それにしても、今日は土曜なのになんでこんな時間に起こしたんだ? 別にもう少し遅くてもよかったんじゃ……」
「お客さんがいる前でそんなみっともない発言するなってば。んで、今日はユリアさんたちにあたしたちの学園の案内をするわけ」
「ふーん、学園の案内か……それ、俺はついていかなくていいの?」
「……むしろ、お兄ちゃんが行くんだよ?」
……、え?
「アタシは生徒会の仕事があるから学校までは一緒に行けるけど案内はできないし、美優は今日の家事担当だから」
「メシ以外のな」
「うーっ!」
美優が涙目でうなりながら俺の皿にプチトマトを次々に放り込んでくる。こいつ、どさくさにまぎれて苦手なのを俺に処理させる気か!
だがそれを簡単に許す俺だと思うな! ふはは! 見ろ、この鮮やかな箸捌きを! ピーマンを次々に敵陣に送り込んでやったわ!! むっ! 次は茄子か! だが甘い、角砂糖よりも甘いぞ美優! その程度の攻撃、この俺の前では――!
「あんたらは、好き嫌いで醜い争いをするなっていつも言ってるでしょうが!!」
美羽の一声で不毛な戦いに幕が下ろされる。
いや、声と一緒におろされた拳骨によって。
とたんにおとなしくなる俺と美優。いつものことだった。いつもの光景で、でも、今日はいつもとは違う。
「ふふっ……うふふふふ!」
「く……あはははは!」
俺たちのやり取りのせいかどうかわからないけど、二人が目じりに水を浮かべながら笑い出した。
「ご、ごめんなさい。本当に仲がいいんだなって思ったので、つい笑ってしまいました」
「君たちは本当に楽しそうに喧嘩をするのだな。なんというか、見ていて羨ましく思うよ」
その二人の言葉に。
『…………』
顔を見合わせて、なんとなく視線をそらす。美羽も美優もどことなく頬が赤かった。俺も間違いなく赤くなっていると思う。
「それで、ヒロト様。心苦しいのですが、案内を頼めないでしょうか?」
「え、ああ……そりゃまあ、今日はなにもやることないから別に案内することは問題ないですけど……」
「歯切れが悪いなぁ……何か問題でもあるの?」
「いや、なんていうか、俺でいいんですか? それこそ、生徒会の人間とか、先生なんかのほうがずっと適任なんじゃ……」
俺だって一応学園に所属しているから案内くらいならできるけど、仮にもお姫様だぞ? いくらホームステイ先だからって、俺なんかがでしゃばっていいんだろうか? むしろホームステイ先だから? ホームステイなんて初めての経験だからどうしたらいいものやら判らないな……しかも相手はお姫様だし。
けど、そんな風に考えていたらどうやらユリア様は誤解したらしい。
「ご迷惑……でしたか……?」
うつむいて、悲しげに顔を曇らせるユリア様。と、その隣に座っていたレンさんがすぅ……と影のように静かに立ち上がり、フォークを構える。
「ヒロト殿。短い付き合いだったが楽しかったぞ」
「迷惑なんてそんな事あるわけないじゃないですか! せっかく指名してくれてるんですから張り切って案内させてもらいますよ!」
「まあ、本当ですか! ありがとうございます、ヒロト様!」
「うん、さすがミウ殿、ミユ殿の兄だ。実に広い心を持っている」
心からの笑顔を浮かべるユリア様と満足そうな顔のレンさん。ところでレンさん、今のあなたの行為は世間一般では割と脅迫とかそういうレベルの行為だったように思うのですが。
悪い人じゃないのは確かなんだけど、ユリア様に何かあると目先しか見えなくなるのは注意しないといけないな。
昨日の体捌きにしても俺じゃ文字通り一瞬で三途の川に沈められてしまいそうだし。
「それじゃあ、ご飯食べたら兄貴は制服に着替えてね」
「ん、やっぱり制服じゃないとダメか?」
「生徒会役員の目の前で堂々と校則違反なんかしたらどうなるか、わかってるよね?」
「少なくとも他の生徒会の連中は殴る気満々になったりなんかしないと思う……それに別にいやなんていってないだろ!」
「でも、嫌そうな顔はしてたよね?」
なんか最近俺の周りって敵ばっかりになってない?
ともあれ。
「今日はよろしくお願いしますね、ヒロト様」
「感謝する、ヒロト殿」
今日は楽しい1日になりそうな、そんな気がした。