B:美優がいた

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B:美優がいた」(2007/07/07 (土) 20:28:52) の最新版変更点

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<p>B:美優がいた</p> <p>「お帰りなさい」<br> 「あれ、美優だけか。美羽は?」<br> 「ユリアさん達と一緒に買い物」<br> 「ふーん。て、え? 買い物? ユリアとレンさんが?」<br> 「うん」</p> <p> ナンテコッタイ、嫌な予感しかしやしない。<br>   片や生粋のお姫様。まして、この世界に来て日が浅い。<br>   片や銃刀法を違反どころか無視を決め込む騎士メイドさん。<br>   もし姫の身に何かあれば、天気予報のお姉さんは<br>   『本日の天気は晴れのち血の雨になるでしょう』<br>   と悲しいニュースを読む羽目になる。しかも降水確率90%オーバーときた。<br>  <br> 「な、なんてことを! 誰だそんなバカなこと許可したのは!!」<br> 「美羽お姉ちゃんが、ユリアさんと一緒に買い物行こうって。<br>  そしたらレンさんも着いていくって聞かなくて」<br>  <br>   とんでもねぇ。仮にも、ユリアはお姫様だ。もし何かあったらどうすんだ。<br>   この場合、何かあったらというのはユリアに対してじゃない。<br>   周りの人間に、主に俺に対してだ。<br>  レンさんが何かしらの理由で御用となったら、連帯責任でユリアの経歴にも泥がつく。<br>   仮にも地位の高い人物の経歴に傷をつけたとなっちゃ、ましてや姫だ、王家が黙っていまい。<br>   人生オワタ、と頭の中の誰かが騒ぎ出す。<br>   頭の中のその人は、何とか必死に樹海に行こうとする。<br>   だってのに、周りは罠がいっぱいで、上から下から針に潰されティウンティウンするのだ。<br>   何が言いたいかというと、つまりそれだけ今俺はパニクっている。</p> <p>「おい美優! 美羽はどこに買い物行くって言ってた、何時何分何秒に出てった!?<br>  そもそも、なんで止めなかったんだ!? どう考えたって死亡フラグ立ちまくりだろそれ!」<br> 「お兄ちゃん、落ち着いて。出てったのはお兄ちゃんが家を出てから10分後ぐらい。<br>  止めなかった理由はあれ」<br> 「あれ?」</p> <p> その指差された先には、一着のメイド服と一本の大剣。</p> <p>「……置いてったの?」<br> 「うん。お姉ちゃん、ユリアさんとレンさんが普段着る服を買いに行くって」<br> 「先にいえよなぁ」</p> <p> 一気に肩の力が抜けた。<br>   ったく、同居人が増えると気苦労が増えていけない。<br>   いくら事情があるとはいえ、こういうのは姉妹の分だけで充分である。<br>   今後もこういうのが増えるようなら、対策を考えなきゃ行けないかもしれない。</p> <p>「ま、それなら安心だろ。美優、腹減ってないか? 久しぶりに俺が飯作ってやるよ」<br> 「えっ……い、いいよ。私が作る」<br> 「なんだよ。久しぶりに漢の飯を作ってやろうってんだぞ? 遠慮すんなって」<br> 「べ、別に遠慮じゃなくて」<br> 「あ、でもなんか俺餃子食べたい餃子。よし、今日は中華料理だ!」</p> <p> 後ろで美優が騒いでいるようだが聞いちゃいられん。思い立ったが吉日と言うし。<br>   確か餃子の皮は余っていたはずだよな。それから薄力粉はどこにあったか。<br>   最後に餃子を水で蒸す時に軽く薄力粉を混ぜると、いい感じに羽がつくのだ。<br>   よっしゃ、俄然やる気出てきた。ちょっと本気出して作ろう、うん。<br>  <br> 「ただいまー」<br> 「ただ今戻りました」<br> 「お、おかえりー。随分遅くなったんだな」<br> 「そうなの、レンさんがごねちゃってさ」<br> 「し、しかし、やはりこのような服は騎士としては……」<br> 「ハイハイ、話は後で聞いてやるから、まずは飯食おうぜ。作っといたから」</p> <p> テーブルの上には既に所狭しと料理が並んでいる。<br>   チャーハンにホイコーロー、豚肉が余っていたから雲白肉もセットで。<br>   そしてメインディッシュの餃子等々。中華チックな香ばしい匂いが、部屋中に充満している。<br>  <br> 「げ、兄貴が今日飯作ったの!?」<br> 「あら、いい匂い。ヒロトさんは料理の腕もおありでしたのね」<br> 「だから、問題なのよ……」<br> 「なんだよ、旨けりゃ問題ないだろうに」</p> <p> 何が問題なのか、昔から美優と美羽は俺の料理を嫌う。<br>   昔、悪友の家で徹マーした後腕を奮ってやった時は、悪友に<br>   『頼むから料理人になってくれ。あるいは俺の為だけに飯を作ってくれ』<br>   と頼まれたほどの腕の持ち主なのに。告白っぽくて気持ち悪かったからぶん殴ったけど。<br>   逆に、インスタントやトースト等といった単純な料理は糞がつくほど下手だったりするが。<br>  <br> 「さ、飯だ飯だ。今日は疲れたからな、俺もうハラペコだっつの」<br> 「ええ、では夕飯にしましょう。レン、貴方も隠れてないで席に着きなさい」<br> 「し、しかし」<br> 「しかし、ではありません。夕飯時には王家が一同に会して食を取りました。<br>  なら、ここでも皆が一同に会して食事するのが礼儀というものでしょう」<br> 「う……わかりました、それが姫様の命であれば」</p> <p> 渋々と恥ずかしそうにレンさんが、その後ろからユリアが顔を出す。<br>   ユリアはあの豪華なドレスとは一転して、質素な純白のワンピースを着ている。<br>   それでもオーラ、とでも言うのだろうか、高貴なイメージが抜けない辺り流石だ。<br>   避暑地のお嬢様ってこんな感じなんだろうか?<br>   対して、レンさんはGパンにTシャツとボーイッシュなカジュアル系。<br>   これはこれで、キャラのイメージにあってよく似合っている。<br>   美羽は服のセンスいいからな。俺達兄弟の中で一番おしゃれさんだし。</p> <p>「な、なんだその目は。やはり似合わないと思っているのか?」<br> 「んなまさか。むしろ似合いすぎて驚いたぐらいだ。ユリアも、よく似合ってるぞ」<br> 「ありがとうございます。<br>  衣服のことはよくわからないので、全て美羽さんに選んでいただいたのですが」<br> 「ふっふーん、どうよ兄貴、私のこのチョイス。ぴったりでしょ?」<br> 「ああ、GJだ。よかったマークをやろう」<br> 「よかったマーク? 何それ」</p> <p> 最近読んだ小説の中に出てきたシールのことだが、お前は知らなくてよろしい。<br>  <br> 「その、何だ。ミウには感謝している。<br>  自分の服のことなど無頓着だった故、彼女が居なければどれを選べばいいかわからなかった」<br>   「お、もう呼び捨てするほどの仲になったのか」<br>  <br>  美優とは仲がよくなったと思ったが、美羽とももうそんなに仲良くなっていたのか。<br>   意外と、レンさんも人の心を掴むのが上手いのかもしれない。</p> <p>「ああ。だから、その何だ。お前も私のことをさん付けで呼ぶのはやめてくれ」<br> 「へ? 何で、いいじゃんか別に減るもんじゃなし」<br> 「減る、減らないの問題ではない。<br>  お前が姫様を呼び捨てにするのならば、私も呼び捨てにしろと言うだけの話だ」<br> 「えと、何か関係あるのかそれ?」<br> 「大有りだ。某は姫様のメイド。だというのに、某だけ敬称で呼ばれるのはおかしいだろう。<br>  それに、その、どうにもむず痒いのだ、そのようにさん、等と呼ばれるのは」<br> 「あー、なるほどな。了承、んじゃこれからレンって呼ぶからな」</p> <p> そっちのほうが俺も楽でいい。昨日、ユリアに向かって家族に敬称は変だと言ったのは俺だ。<br>   なら、俺だってそれに習うべきだろう。<br>  <br> 「ま、二人とも腹減ったろ。今日は腕によりをかけたからな。思う存分食ってくれ」<br> 「う、腕によりをかけちゃったわけね……よりにもよって」<br> 「アッハッハー、上手いこと言うなあ美羽は」<br> 「そんなつもりないわよ、バカ兄貴!!」<br> 「あの、何故ヒロトさんが料理をしてはいけないのですが?<br>  匂いも見た目も申し分ないほどなのですが」<br> 「ふ、フフフフフ、ユリアさんも今日の夜辺りにわかるわよ、理由が……」</p> <p> 何だかんだと文句を言いながらも、全員が食卓に着く。<br>   いただきます、の合図が終われば、この場は今朝よりも険しい戦場と化す。<br>   飛び交う箸と怒号。鋭い牽制とフェイント。そして、絡み合う箸と箸。<br>   マナー? 礼儀? 何それ、おいしいの?<br>   ほら、ユリアももっと前に出ろ、じゃないと……ってえぇ!? 何そのすばやい箸捌き!?<br>   コレも淑女のたしなみです、って違う、それ嗜み違う。<br>  <br> 「うぅ……」<br> 「おいおい、どうした美優? 箸が進んでないじゃ、あ、それは俺の!!」<br> 「だって……これ、全部ほうれん草入ってる」<br> 「あったりまえだ。お前低血圧なんだから、ちゃんと鉄分採らないと<br>  ほら、レバニラとってやったから、ってぬわ、追撃!?」<br> 「でも、ほうれん草もレバーも嫌い」<br> 「だーめ。兄貴命令だ。ちゃんと食べなさい」</p> <p> 美優は低血圧な癖に鉄分豊富なものをどうしてか嫌う。<br>   俺の料理の腕が上がったのも、実はそのせいだ。<br>   ピーマン嫌いな子供よろしく、どんなに巧妙に隠しても美優は上手いことそれを取り除く。<br>   そうして俺と美優の戦いは激化し、ついに俺はこの料理の腕を手に入れてしまった。<br>   しかもその戦いは未だ続いている。こいつの好き嫌いはどうにかならんものか?<br>  <br> 「そんなんじゃ、お兄ちゃんみたく強くなれないぞー?」<br> 「お兄ちゃんみたいになりたくないから食べない」<br> 「な、なんという反抗期。あっはっはー、割とショックでかいですよ?」<br> 「いいのよ。美優、それが正解。アンタは、食べちゃダメ」<br> 「どういう意味でしょうか?」<br> 「フッフッフ、ユリアさんも今日風呂に入った後その意味がわかるわ……」</p> <p> そんなこんなで夕食も無事終了。久々に家族の団欒という奴を味わった気がする。<br>   やっぱり、食事は大勢でとるもんだよな。賑やかなのは嫌いじゃない。<br>   ところで、風呂場で『イヤーッ!?』だの『あぁ、これでまた三ヶ月あの地獄を味わうのね』だの『明日から走りこみましょう、ええ是非に!』だの聞こえたけどなんだったんだろう。</p>
<p>B:美優がいた</p> <p>「お帰りなさい」<br> 「あれ、美優だけか。美羽は?」<br> 「ユリアさん達と一緒に買い物」<br> 「ふーん。て、え? 買い物? ユリアとレンさんが?」<br> 「うん」</p> <p> ナンテコッタイ、嫌な予感しかしやしない。<br>   片や生粋のお姫様。まして、この世界に来て日が浅い。<br>   片や銃刀法を違反どころか無視を決め込む騎士メイドさん。<br>   もし姫の身に何かあれば、天気予報のお姉さんは<br>   『本日の天気は晴れのち血の雨になるでしょう』<br>   と悲しいニュースを読む羽目になる。しかも降水確率90%オーバーときた。<br>  <br> 「な、なんてことを! 誰だそんなバカなこと許可したのは!!」<br> 「美羽お姉ちゃんが、ユリアさんと一緒に買い物行こうって。<br>  そしたらレンさんも着いていくって聞かなくて」<br>  <br>   とんでもねぇ。仮にも、ユリアはお姫様だ。もし何かあったらどうすんだ。<br>   この場合、何かあったらというのはユリアに対してじゃない。<br>   周りの人間に、主に俺に対してだ。<br>  レンさんが何かしらの理由で御用となったら、連帯責任でユリアの経歴にも泥がつく。<br>   仮にも地位の高い人物の経歴に傷をつけたとなっちゃ、ましてや姫だ、王家が黙っていまい。<br>   人生オワタ、と頭の中の誰かが騒ぎ出す。<br>   頭の中のその人は、何とか必死に樹海に行こうとする。<br>   だってのに、周りは罠がいっぱいで、上から下から針に潰されティウンティウンするのだ。<br>   何が言いたいかというと、つまりそれだけ今俺はパニクっている。</p> <p>「おい美優! 美羽はどこに買い物行くって言ってた、何時何分何秒に出てった!?<br>  そもそも、なんで止めなかったんだ!? どう考えたって死亡フラグ立ちまくりだろそれ!」<br> 「お兄ちゃん、落ち着いて。出てったのはお兄ちゃんが家を出てから10分後ぐらい。<br>  止めなかった理由はあれ」<br> 「あれ?」</p> <p> その指差された先には、一着のメイド服と一本の剣。</p> <p>「……置いてったの?」<br> 「うん。お姉ちゃん、ユリアさんとレンさんが普段着る服を買いに行くって」<br> 「先にいえよなぁ」</p> <p> 一気に肩の力が抜けた。<br>   ったく、同居人が増えると気苦労が増えていけない。<br>   いくら事情があるとはいえ、こういうのは姉妹の分だけで充分である。<br>   今後もこういうのが増えるようなら、対策を考えなきゃ行けないかもしれない。</p> <p>「ま、それなら安心だろ。美優、腹減ってないか? 久しぶりに俺が飯作ってやるよ」<br> 「えっ……い、いいよ。私が作る」<br> 「なんだよ。久しぶりに漢の飯を作ってやろうってんだぞ? 遠慮すんなって」<br> 「べ、別に遠慮じゃなくて」<br> 「あ、でもなんか俺餃子食べたい餃子。よし、今日は中華料理だ!」</p> <p> 後ろで美優が騒いでいるようだが聞いちゃいられん。思い立ったが吉日と言うし。<br>   確か餃子の皮は余っていたはずだよな。それから薄力粉はどこにあったか。<br>   最後に餃子を水で蒸す時に軽く薄力粉を混ぜると、いい感じに羽がつくのだ。<br>   よっしゃ、俄然やる気出てきた。ちょっと本気出して作ろう、うん。<br>  <br> 「ただいまー」<br> 「ただ今戻りました」<br> 「お、おかえりー。随分遅くなったんだな」<br> 「そうなの、レンさんがごねちゃってさ」<br> 「し、しかし、やはりこのような服は騎士としては……」<br> 「ハイハイ、話は後で聞いてやるから、まずは飯食おうぜ。作っといたから」</p> <p> テーブルの上には既に所狭しと料理が並んでいる。<br>   チャーハンにホイコーロー、豚肉が余っていたから雲白肉もセットで。<br>   そしてメインディッシュの餃子等々。中華チックな香ばしい匂いが、部屋中に充満している。<br>  <br> 「げ、兄貴が今日飯作ったの!?」<br> 「あら、いい匂い。ヒロトさんは料理の腕もおありでしたのね」<br> 「だから、問題なのよ……」<br> 「なんだよ、旨けりゃ問題ないだろうに」</p> <p> 何が問題なのか、昔から美優と美羽は俺の料理を嫌う。<br>   昔、悪友の家で徹マーした後腕を奮ってやった時は、悪友に<br>   『頼むから料理人になってくれ。あるいは俺の為だけに飯を作ってくれ』<br>   と頼まれたほどの腕の持ち主なのに。告白っぽくて気持ち悪かったからぶん殴ったけど。<br>   逆に、インスタントやトースト等といった単純な料理は糞がつくほど下手だったりするが。<br>  <br> 「さ、飯だ飯だ。今日は疲れたからな、俺もうハラペコだっつの」<br> 「ええ、では夕飯にしましょう。レン、貴方も隠れてないで席に着きなさい」<br> 「し、しかし」<br> 「しかし、ではありません。夕飯時には王家が一同に会して食を取りました。<br>  なら、ここでも皆が一同に会して食事するのが礼儀というものでしょう」<br> 「う……わかりました、それが姫様の命であれば」</p> <p> 渋々と恥ずかしそうにレンさんが、その後ろからユリアが顔を出す。<br>   ユリアはあの豪華なドレスとは一転して、質素な純白のワンピースを着ている。<br>   それでもオーラ、とでも言うのだろうか、高貴なイメージが抜けない辺り流石だ。<br>   避暑地のお嬢様ってこんな感じなんだろうか?<br>   対して、レンさんはGパンにTシャツとボーイッシュなカジュアル系。<br>   これはこれで、キャラのイメージにあってよく似合っている。<br>   美羽は服のセンスいいからな。俺達兄弟の中で一番おしゃれさんだし。</p> <p>「な、なんだその目は。やはり似合わないと思っているのか?」<br> 「んなまさか。むしろ似合いすぎて驚いたぐらいだ。ユリアも、よく似合ってるぞ」<br> 「ありがとうございます。<br>  衣服のことはよくわからないので、全て美羽さんに選んでいただいたのですが」<br> 「ふっふーん、どうよ兄貴、私のこのチョイス。ぴったりでしょ?」<br> 「ああ、GJだ。よかったマークをやろう」<br> 「よかったマーク? 何それ」</p> <p> 最近読んだ小説の中に出てきたシールのことだが、お前は知らなくてよろしい。<br>  <br> 「その、何だ。ミウには感謝している。<br>  自分の服のことなど無頓着だった故、彼女が居なければどれを選べばいいかわからなかった」<br>   「お、もう呼び捨てするほどの仲になったのか」<br>  <br>  美優とは仲がよくなったと思ったが、美羽とももうそんなに仲良くなっていたのか。<br>   意外と、レンさんも人の心を掴むのが上手いのかもしれない。</p> <p>「ああ。だから、その何だ。お前も私のことをさん付けで呼ぶのはやめてくれ」<br> 「へ? 何で、いいじゃんか別に減るもんじゃなし」<br> 「減る、減らないの問題ではない。<br>  お前が姫様を呼び捨てにするのならば、私も呼び捨てにしろと言うだけの話だ」<br> 「えと、何か関係あるのかそれ?」<br> 「大有りだ。某は姫様のメイド。だというのに、某だけ敬称で呼ばれるのはおかしいだろう。<br>  それに、その、どうにもむず痒いのだ、そのようにさん、等と呼ばれるのは」<br> 「あー、なるほどな。了承、んじゃこれからレンって呼ぶからな」</p> <p> そっちのほうが俺も楽でいい。昨日、ユリアに向かって家族に敬称は変だと言ったのは俺だ。<br>   なら、俺だってそれに習うべきだろう。<br>  <br> 「ま、二人とも腹減ったろ。今日は腕によりをかけたからな。思う存分食ってくれ」<br> 「う、腕によりをかけちゃったわけね……よりにもよって」<br> 「アッハッハー、上手いこと言うなあ美羽は」<br> 「そんなつもりないわよ、バカ兄貴!!」<br> 「あの、何故ヒロトさんが料理をしてはいけないのですが?<br>  匂いも見た目も申し分ないほどなのですが」<br> 「ふ、フフフフフ、ユリアさんも今日の夜辺りにわかるわよ、理由が……」</p> <p> 何だかんだと文句を言いながらも、全員が食卓に着く。<br>   いただきます、の合図が終われば、この場は今朝よりも険しい戦場と化す。<br>   飛び交う箸と怒号。鋭い牽制とフェイント。そして、絡み合う箸と箸。<br>   マナー? 礼儀? 何それ、おいしいの?<br>   ほら、ユリアももっと前に出ろ、じゃないと……ってえぇ!? 何そのすばやい箸捌き!?<br>   コレも淑女のたしなみです、って違う、それ嗜み違う。<br>  <br> 「うぅ……」<br> 「おいおい、どうした美優? 箸が進んでないじゃ、あ、それは俺の!!」<br> 「だって……これ、全部ほうれん草入ってる」<br> 「あったりまえだ。お前低血圧なんだから、ちゃんと鉄分採らないと<br>  ほら、レバニラとってやったから、ってぬわ、追撃!?」<br> 「でも、ほうれん草もレバーも嫌い」<br> 「だーめ。兄貴命令だ。ちゃんと食べなさい」</p> <p> 美優は低血圧な癖に鉄分豊富なものをどうしてか嫌う。<br>   俺の料理の腕が上がったのも、実はそのせいだ。<br>   ピーマン嫌いな子供よろしく、どんなに巧妙に隠しても美優は上手いことそれを取り除く。<br>   そうして俺と美優の戦いは激化し、ついに俺はこの料理の腕を手に入れてしまった。<br>   しかもその戦いは未だ続いている。こいつの好き嫌いはどうにかならんものか?<br>  <br> 「そんなんじゃ、お兄ちゃんみたく強くなれないぞー?」<br> 「お兄ちゃんみたいになりたくないから食べない」<br> 「な、なんという反抗期。あっはっはー、割とショックでかいですよ?」<br> 「いいのよ。美優、それが正解。アンタは、食べちゃダメ」<br> 「どういう意味でしょうか?」<br> 「フッフッフ、ユリアさんも今日風呂に入った後その意味がわかるわ……」</p> <p> そんなこんなで夕食も無事終了。久々に家族の団欒という奴を味わった気がする。<br>   やっぱり、食事は大勢でとるもんだよな。賑やかなのは嫌いじゃない。<br>   ところで、風呂場で『イヤーッ!?』だの『あぁ、これでまた三ヶ月あの地獄を味わうのね』だの『明日から走りこみましょう、ええ是非に!』だの聞こえたけどなんだったんだろう。</p>

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