セカツナ002

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 夢を見ている。らしい。 「ヒロ君、今日は何して遊ぶ?」  一人の少女と少年が砂場で遊んでいる。  どちらも幼稚園せいぐらいだろうか。  僕はその光景を、ブランコに座っている状態で見てた。  実際にはありえはしない視点。  少女と遊んでいる少年はおそらく、僕なのだから。 「そうだね。――ちゃんはなにがいい? なにがしたい?」  少年――僕が少女に質問を返す。  ――ちゃん……誰だろう。美羽でも美優でもない。らしい。  他の色の一切混じらない漆黒の髪を腰まで伸ばし、髪と同じ色の瞳を持つ少女。  その髪の色とは対照的な白い指を砂だらけにしながら、 「ままごとがいい!」  そう、笑顔で答えた。 「わかったー」少年も無邪気な笑顔で答える。「じゃあ、僕がお父さんだね」 「うん! わたしはおかあさんー」  二人は砂場の上で遊戯を開始する。  この夢はなんだろう。  記憶のなかにはいない少女は、いったい何処から出てきたのだろうか。  夢とはそんなもので、単なる幻想なのだろうか。 「おかあさん。ただいまー」 「あらおかえり。だんなさまー。ごはんにしますか? それともおふろ? それともあ・た・し?」 「おふろで――ちゃんかなー」  幼稚園児のお遊びの範疇を超えているぞ、おい。 「やめてくださいだんなさま。ばんごはんがこげちゃうわ」 「いいじゃないかいいじゃないか」  ……どうやらこれは僕の過去の記憶などではなく妄想らしい。  ひざに頬杖をつきつつ、ため息を吐いた。  ……変な夢を見たような気がする。  ぼさぼさになった頭をかきながら、昨日のレンさんの背中――ではなく昨日の事件を思い出していた。 『明日もまた頼むぞ』  ただでさえばれてはまずいのだが、更に墓穴を掘るようなことになるとは……。もう掘り返す土もない。  楽観的に考えられる要素は深夜であるのでほぼみんな寝ているだろうということぐらいか。美羽も美優も(おそらく姫様も)夜に弱い。  いつかは露呈してしまうことであるし、罪を重ねれば重ねるほど、罰も重くなっていくのだから、早めにカミングアウトしたほうがいいんだろうか――いや、重かろうが軽かろうが、その罰が最終的に死に繋がっているのだから関係ないのか?  朝から暗澹たる気分だ。  こうしていても仕方ないので、顔を洗って学校の準備をするかな。  僕はベッドを抜け出し、洗面所へと向かった。  自室のある二階から一階へ向かう途中、階段を降りようとした僕の目の前に金色の髪がふらふらと揺れていた。ユリア様だ。  片手でぬいぐるみを抱き、片手で手すりをつかみ、一段一段ゆっくりと階段を降りている。 「おはようございます」  後ろから声をかけた。が、一向に反応がない。どうやら寝ぼけているらしい。手すりから手を離し、ごしごしと目をこすっていた。  追いついた僕は横からもう一度声をかける。 「おはようございます。ユリア様」 「……?」  今度は反応があった。よたよたと頭を揺らしながらこちらを向こうとしたユリア様は、 「危ない!」  僕が注意するまもなく、段から足を踏み外していた。  あわてて彼女の身体を抱きとめる。なんとか踏みとどまり、姫の身体を傷つけずにすんだ。 「大丈夫ですか?」  腕の中にいる姫に尋ねる。しかし、一向に返事がない。顔を覗き込んでみると、姫と目が合った。  翠玉(エメラルド)のような澄んだ瞳が、数センチの距離で、こちらを見ていた。  抱きしめた両手から伝わる柔らかな身体の感触。鼻腔をくすぐる甘い香り。小さな息遣い。薄桃色をした小さな唇。  ああ、まずい。かわゆすぎる。  思わず強く抱きよせて、口付けをしてしまいそうになってしまう本能と理性を、どうにかレンさんに対する恐怖心で押さえ込めて、ゆっくりと姫の身体を自分の身体から引き離―― 「きさまああああああああああああああああ!」  斜め上から降ってきた蹴りで、僕の身体は姫から強制的に引き剥がされた。残っていた段を全て飛び越し、一階の廊下に叩きつけられる。 「――っ!」  上下がさかさまになった視界の中、階段の上――さっきまで僕がいた姫の隣に、鬼がいた。いや、よく見ると、レンさんのような鬼だった。 「鬼(レン)さん、おはようございま――」 「黙れ」  朝のさわやかな挨拶は、殺気のみで構成された言葉で返された。 「昨日までの狼藉、姫と貴様の妹たちに免じて許してきたが、今日こそは少々警告をしなければならないようだな」  ゆっくりと、剣を鞘から抜くレンさん。 「その首、胴から切り離してくれる」 「ちょ……まっ……それって警告?」 「痛みはないから安心しろ」  一段一段ゆっくりと近づいてくる鬼。 「まあ、大変」その鬼の背後から、やたらとのんびりとした声がする。「朝から決闘ですか?」  どうやら目を覚ましたらしい。が、論点がずれているのは寝ぼけているからだろうか。いや、この人の場合は多分、素なんだろうな。 「決闘ではございません、姫様」鬼は振り返らず、僕の目を見据え、「一方的な私刑です。極刑ですが」 「そうなのですか」お上品に口に手を添え、あくびをかみ殺しながら、「ふぁ~……失礼――あまり朝からうるさくしてはなりませんよ? まだミウさんもミユさんも寝ていらっしゃるかもしれませんから」  ……代わりに僕が強制永眠させられそうなんだけどな。 「ユリア様! レンさんを止めてください!」  ぽやぁとこちらのほうに緩んだ視線を向け、姫は首をかしげる。 「いったいどうしたのですか? 話がよくわからないのですが……レンがこれだけ怒っているのですから、その相応のことをしたのでしょうけれど……」 「まったくの誤解です! ただ階段から落ちそうになったあなたを抱きとめただけで」 「? 階段から落ちそうになった記憶はありませんよ?」 「ああっ! 話が通じねぇ!」 「ごちゃごちゃとうるさいぞ」姫とやり取りをしている間に、鬼は目の前まで迫ってきていた。「話しは後で聞くから、とりあえず死ね!」  上段の構えから、剣が振り下ろされる。まずい。これは首を刎ねるんじゃなくて、頭から真っ二つにするつもりだ! どっちでも結果的には変わらないが。  走馬灯が頭の隅から広がろうとしたその時――僕と鬼の間に誰かが立ちはだかった。 がいん、と金属と金属がぶつかる音が響く。 「まったく、朝からなにやってるのよ二人とも」  ため息交じりの声――そこに立っていたのはもうすでに制服を着ていた美羽だった。 「なっ――!?」  レンさんが驚愕している――当たり前だ。渾身の一撃を、片手だけで受け止められているのだから。しかも素手で、だ。 「なんかうるさいと思って見に来てみたら、剣もって暴れてるんだから……朝くらい静かにしてよね」  呆れ顔で、肩をすくめる美羽。その間も、レンさんの剣を掴んだままだ。  決してレンさんが手加減をしたわけではない。手にしている剣にしても切れ味が悪いわけでもないだろう。  ただ、そんなもの美羽にとっては関係ない。 「血で床が汚れるから、喧嘩は素手でお願いしますよ、レンさん」  ひょいとレンさんの剣を奪い取る。刃を鷲掴みにしたままで。 「ああ! な、なにをする!! 返せ!」 「家の中では剣はぼっしゅーです。外出するときには返すから心配しないの」 「妹よ……。外で剣持ってるほうがやばいと思うのだがどうか」 「いいのよ。家の柱とかに傷がつかなければ」  ……そうじゃなくて、銃刀法違反とかそういうのは? 「兄貴も。あんまりレンさんを怒らしちゃだめだよ。そのうち殺されても知らないんだからね」  そういうと、美羽は剣の柄を引きずりながらダイニングに行ってしまった。 「……なんなんだ。さっきのは」  ダイニングの扉の向こうに消えた美羽を見つめながら、レンさんはつぶやいた。 「カボチャ頭の直前で止めようとしていたとはいえ――素手で止められるものじゃないぞ。ましてや、王家に伝わる秘宝である『名称未設定』の切れ味をもってしても傷ひとつつかないなんて……」 「あれは美羽の『倍力』だよ」 「……?」 「ああ。簡単に言うと、自分の力の強化する魔法」 「強化だと? 皮膚の硬質化か? それとも筋力増強?」 「どちらも、かな? 拳銃くらい平気とか言ってたし」 「ケンジュウ……? 何だそれは。こちらの国の魔法式かなにかか?」 拳銃も知らないのか。いったいどんな国なんだろう、姫様たちの国って。少し興味がわいた。 「いや、武器だよ。高速で鉄の塊を撃ちだす武器。普通なら人間の身体を貫通するようなもの」 「ふうむ、ストーンバレットの魔法式のようなものか……」 いや知らないし。 「にしても、あれは異常だ……あれだけの剣撃を受けて微動だにしななどありえない……別の魔法でなく本当に自身を強化するだけの魔法だとするならば……いや私と同系統の……」 レンさんはぶつぶつと一人でつぶやきながら考え込んでいるようだ。 「あら。もう喧嘩は終わりなのですか?」 階段を見上げると、姫様が首をかしげて僕らを見下ろしている。 「む」  我に帰ったレンさんがまだ床に転がったままの僕を見下ろした。 「……気が抜けた。今回は警告だけだが、次に姫様へ不埒なまねを働いたらどうなるか――」 「わ、わかってます! なにもいたしません! 前向きに善処いたします!」 「最後の台詞だけなぜか誠意を感じないが――まあいい」僕から目を外し、姫様のほうに歩み寄る。「姫、あのケダモノになにかされそうになったら大声でお知らせください。即座に肉塊に変えますゆえ」  うあお。なんてひどい言われよう。 「はい。そういたしますね」  ……。そんなひどい人間に見えるのか、僕は。

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