プロローグ~遠い幻想

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プロローグ Ver1.0 07/07/08  ここはどこだ?  見たことも無い風景、視界には湖と木々、そして空には黒いカーテンと月。  ここはどこなんだろう。  ……いや、知っている? 俺はこの場所を知っているのか?  …いや違う。 知っているのは俺じゃない。  今ここに立っているこいつだ。  …こいつ? 今見ているのは俺の視点だ。  ならなぜ”こいつ”なんて言う必要があるんだろう?  何も知らないはずなのに、その知らないはずの何かが次々に浮かんでくる。 【”こいつ”】「ちっ、ここもハズレか。」  即座に視線が移る。 【”こいつ”】「残るはあの場所のみ…おあつらえ向きってワケか」  見上げた先には、小高い丘の上に建つ古めかしい聖堂。 【”こいつ”】「急ごう、もう時間も無い筈だ」  聖堂を目指して走り出す。  急な疾走感に、体が震える。  速い。 いつも自分が走っているのなんて、比べ物にならないほど速い。  風を斬り  風を倣い  風を誘い  風を攫い  風を纏い  走る。  さっきまで出ていた月は、雲に隠れてしまっている。  しかし頂上までは一本道らしく、迷うことなくひたすらに走る。  俺は誰かを探している。  何かをその人物に問い質したかった。  今は、それが何なのかハッキリとは覚えていない。  だが、その人物に会えればきっと思い出せるという、根拠の無い確信はある。  …それほどまでに大切な問いなのだろうか?  こんな夜中に”こいつ”を走らせている何かは。  元々目視できた距離だったので、早くも聖堂の全容を目前に捉える。  まるでゲームか何かに出てくる神殿のような様相だ。  決して大きくは無い。 しかし、その荘厳な雰囲気には圧倒されそうになる。  だが、”こいつ”はそれさえ感じていないように、真っ直ぐに前だけを見据えて進む。  距離にして、およそ200メートル。 すでに、到達したも同然だ。  いや待て、誰かが聖堂の門の前に佇んでいる。 【”こいつ”】「やはりここだったか。」  この人がそうなのだろうか…違う、この人じゃない。 頭の中の情報が告げる。 【???/レン】「誰だ、お前は。」  声は女性のものだ。 だとしたら、この人は… 【”こいつ”】「レン・ロバインか。 頼む、あの方に会わせ貰いたい。」    しゅんっ!  先の尖った何かが額に突きつけられる。  生暖かい液体が額を伝って鼻先へ至り、地面へと吸い込まれて行く。  鼻につく鉄の臭い、それは俺の…いや、”こいつ”の血だ。 【レン】「ならん。 姫様はこれより転移法を行使される。 王族の者でも無い者に、これより先へ進む資格は無い。」 【レン】「それにこちらも時間が無いものでな。 早々に来た道を引き返せ。」 【レン】「さもなくば…」  今度は、首に何かを突きつけられる。  そして雲に隠されていた月が姿を現し、暗幕の中にあった聖堂を照らし出す。  目の前にあったのは、淡い月光を鋭く反射する剣。  そして、真っ直ぐに”こいつ”を見つめる漆黒の瞳。 【”こいつ”】「問答無用、ってワケか。」  気付けば、手には二振りの剣を握っている。  一足飛びに距離を取り、両手の剣を構え、レンと呼ばれた女を睨む。  対してレンは、首に剣を突きつけていた時のままの姿勢で、門への道を遮る様に立ち塞がっている。 【”こいつ”】「やれやれだ…!」  一陣の風と共に、一気に突撃をかける。  姿勢を低く屈めて懐へ這入り込み、両手を同時に振り上げる。  だが、レンは飛び退きながらワンテンポ遅れで逆袈裟に切り払い、それを受け流す。  更に飛んだ勢いで背にしていた扉を蹴り、一瞬宙に浮いた状態で体を捻る。  無理矢理剣の軌道を縦から横に変化させ、全体重を乗せて、薙ぐ。  咄嗟にもう一度身を屈めて溜めを作り、剣が頭上を通るタイミングで右手の剣を突き上げる。 【レン】「くっ!」  剣を振り上げる格好になってしまい、レンに大きな隙ができる。 【”こいつ”】「見えた!」  空いた左手の剣を、レンの胸元めがけて振るう。 【”こいつ”】「勝っ…!」 【レン】「詰めが甘いな」  気付いた時には、頭上には銀色の塊が肉薄していた。 【レン】「はぁぁぁぁっ!」  なんとか右手の剣でガードするが、絶対的な質量の差に押しつぶされる。 【”こいつ”】「くぁっ…」  あまりの衝撃に腕が痺れ、唯一の頼りだった二振りの剣もどこかに消えてしまう。  正に、勝負は一瞬だった。 【”こいつ”】「流石は守護の一族…といったところか」  恨み言が口をつく。 【レン】「諦めろ、今の貴方では私という一線を越えることは叶わない。」  そんなこと、痛いほどよく分かった。 それでも、俺は彼女に会わなくちゃならないんだ。 【レン】「どうやらこちらは時間ようだしな。 私は姫様と共に行かなくてはならん。」  いつの間にか聖堂から光が漏れている。 もう…準備は終わったということか。 【”こいつ”】「待て、待ってくれ! せめてほんの数秒でいい、彼女に聞かせてくれ!」  答えることなく、レンは近付いてくる。 【レン】「しばらく眠れ。 ここから先は、貴方の這入り込む領域ではない。」  首筋に鈍い痛みが走り、視界に黒い幕がかかる。  俺の意識は、昏い闇の中へと堕ちて往った―――

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