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『the Grace like a glass or grass』

 騙されたなんて思っていない。
 でも、許すつもりもない。

「行ってらっしゃい」
 扉に手をかけた途端、声をかけられた。
 思わず振り返った。不覚。
 いつも通りの微笑を浮かべたリードが、そこにいた。
 彼がその腕にリヴァを抱いていなかったら、傍らの花瓶でも投げつけてやったものを。
「もう、帰らないわ」そんな言葉を投げるのがやっとだった。
「待ってるよ」いつも通りの笑顔で、そんな風に言う。彼は気付いているだろうか。その笑顔が、あまりにもよく似ている事に。今はもういない、あのひとに。
 名前を貰った。憧れを貰った。だから、私は、どうしてもあのひとを越えなければならない。そうでなければ……あのひとほど賢くもなく、美しくもなく、永遠でもない、数十年で老いて死んでしまう私の存在に、何の意味もなくなってしまうから。
 だから私は自分を騙す。何も持っていないのに、何よりも欲しい物を手に入れてしまった自分を、否定する。
 どうして、彼があの計画を立てたのか。どうして、私に何も言ってくれなかったのか。今なら、聞かなくてもわかる。だから許せない。私の辿りつく先、その全てに先回りしていた彼を。
 だから私は先に進む。道がなくても、先の先に進む。
「……もう、行くわよ」
「レンデ」
 両腕で抱いていたリヴァを、肩の上に抱く体勢に変えて、リードは私に顔を近づけた。鼻が触れ合いそうなほど、近くに。そして、目を閉じる。
「…………」
 引っ叩いてやろうかと思ったが、そうしたところで負けな気がする。ほんの僅かに、背伸びをして、彼の望む通りにする。
 そうした途端に、涙が溢れそうになって、急いで後ろを向く。
 がちゃり、と、扉を開けて、ばたん、と、振りかえらないまま閉める。そして、走り出す。
 白み始めた空に浮かぶ、朝日の色を映した雲が、どうしようもなく綺麗だった。