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『最初から二番目の』

 家を出る前の夢を見た。よりによってグレースの夢だ。まだメアリの夢のほうが救いがある。
 グレース……グレイシア・K・オーガスタス。ボクより5歳年上の、ボクの母親。

 おとーさまは気付いてなかったと思う。自分の利と理以外のことは、目に入らない人だから。
 おにーさまたちは……上の兄は割り切って付き合ってたと思う。あの人もグレースと同類の生き物だから。
 下の兄のほうは、ちょっと危ないハマり方をしていた。もっとも、ほんとに危ないことにはならないと思う。あの人はうちの兄弟で多分一番頭のいい人だし。
 召使いたちは……彼らの考えてることは、ボクには正直わからない。何人かはグレースに誘われてると思うけど、保身を考えれば拒絶するんだろうか。
 でも、メイドにだってメアリみたいな子がいるわけだし……

 メアリはボクの最初の彼女だ。って言っていいのかなあ。遊ばれてたのか利用されてたのかもわからない。
 かわいい子だった。色々なコト教えてくれたし。
 ボクは彼女と本気で結婚しようと思って、おとーさまに訴えようとしたけど。なんだかんだで止められて、そのうち母様が離縁されて、グレースが家に来て……そんなこんなのうちにうやむやになった。鈍いボクでも、メアリに避けられるようになったのだけはわかった。
 メイドをやめてから、メアリがどうしているのかも知らない。実家とかに帰ったのかもしれないし、誰かいい人見つけたのかもしれないし。
 今さらあんまり気にもならない。ボクの恋っていうのも、その程度のものだったのかな。あの時はほんとに本気のはずだったのに。
 メアリに恋したことと、ふられたことは、ボクにとって重大な人生の岐路、だったはずなのに。
 今になって思い出すのは、グレースのことばかりなんだ。本気なんてどこにもない、キケンな誘惑。キケンな遊び。

 でも、その関係を続けようとは思わなかったな。
 ボクはあの家じゃ生きられない。あんなところじゃ息ができない。

 グレイシア・K・オーガスタス。美しく奔放な、若き男爵夫人。
 でも、グレースは多分、すごく不自由に生きている人なんだと思う。
 家を出てから、それがちょっとわかってきた。
 でも、ボクが彼女のことを思い出すのは、多分、恋とか愛とかそんなじゃなくて……

 ああ、彼女よりも綺麗で、彼女とは全然違う、彼女よりずっとステキな人に愛されたい。
 そしたらきっと、彼女のことを忘れられると思う。
 メアリのことを忘れたように。