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a Sorrowful Grievous Tragical Fate

「そこのあなた……かわいそう!」
「はっ!?」
「こんなこととても言えない。でも見料もらったら言わないわけにいかないよね……5ガメルだけど」
「そんなこと言われたら気になるじゃないですか! はい!」
「あのね、お兄さん、女難と水難の相が出てる」
「女難!? ま、まさか! 私はそんな色っぽい話とは無縁ですよ!」
「そう思うのが落とし穴……あなたを待ちうけるのは女の業の深い谷……」
「女性怖いです!」
「そして……谷底には川……」
「ああっ!」
「どぼーん」
「ど、どうしましょう!」
「そんな時はこのお守り。災難に遭わなくてすみます。たった10ガメル!」
「く、ください!」
「ありがとーございまーす」

――――

「そこのあなた……かわいそう!」
「え?」
「こんなこととても言えない。でも見料もらったら言わないわけにいかないよね……5ガメルだけど」
「あはは、そういうこと。何かと思ったよ。はい」
「ありがとうございます。ええとね、女難と水難の相が見えるよ」
「ああ、間違いないね。俺は水も滴るいい男だし、俺の女神は惚れたら負けってタイプだから」
「このお守りがあれば災難は避けられるよ。たった10ガメル」
「いや、いいよ。時には悲劇に巻き込まれるのも面白そうだ……いや、喜劇かな?」
「どう違うの?」
「俺を見た人まで悲しくなるのが悲劇。俺の失敗を見て人が笑うのが喜劇」
「どっちにしろあなたはかわいそうなのね」
「かわいそうじゃない色男なんてムカつくだけじゃないか」
「そういうこと自分で言う人はかわいそう」
「うん、だから君の占いは間違っちゃいないよ。ありがとう」
「えー?」

――――

「そこのあなた……かわいそう!」
「あ?」
「こんなこととても言えない。でも見料もらったら言わないわけにいかないよね……5ガメルだけど」
「露骨だなおい。いいぜ、何があるってんだ。言ってみろよ」
「あのね、女難と水難の相が出てる」
「そりゃ出てるだろうな。道歩いてて女にぶつかったら女難、雨にでも降られたら水難っつうんだろ?」
「えーと、それから仕事上のトラブル」
「トラブルに遭わねえ冒険者がいるかよ」
「そ、それから乗り物難!」
「あー、さすが見てんな。騎乗時用の盾なんざ背負ってんの騎手だけだからな。で、何の乗り物だよ?」
「え……う、馬?」
「……」
「……バイク?」
「言い直すなよ。押し切れよ。そういうの馬脚っつーんだよ」
「え、えーと、それから」
「もうネタ切れかよ。ちったあ考えてから喋れよ仕事だろ」
「うう……あたしかわいそう!」

――――

「そこのあなた……かわいそう!」
「ハイ?」
「こんなこととても言えない。でも見料もらったら言わないわけにいかないよね……5ガメルだけど」
「オーウ、気になりマース。教えてクダサーイ」
「あのね、女難と水難の相が」
「女難デスカー。縁起悪いデスネー。しばらく結婚式はやめときマショウ」
「え、結婚するの?」
「ワタシはまだお相手いまセーン。リルズ神官ですカラ結婚式するのデース」
「ああ、そっちのほう」
「デモ水難は悪くないデスネー。雨降って地固まるといいマシテ」
「はあ」
「アナタにも素敵な出会いがありますヨーニ。デハ!」
「……あれ? 何の話だっけ?」

――――

「そこのあなた……かわいそう!」
「あん?」
「こんなこととても言えない。でも見料もらったら言わないわけにいかないよね……5ガメルだけど」
「おうおうおう、何だってんだ?」
「あのね、女難と水難の相が出てるよ」
「女難……水難! つまりあれだな、ルーフェリアの姐さんが俺に目をかけてくださってるってことだな!」
「え?」
「ありがとよ、いい景気づけになったぜ!」
「あれ? ……あれ?」


Bad boy & Good boy?

「気合い入ってんなおい」
「あんだよ、すかしやがって」
「俺ぁだいたいこんなもんだ」
「へん、気にいらねえ奴だな。俺様の名はアンジェロだ。てめえは何て名だ?」
「イシュマエル」
「なんか聞いたことあんな」
「珍しい名前じゃねえからな。ライフォス神官とかに多いらしいぜ」
「ライフォス様か。水神の神殿にもよく神像が祀ってある」
「神殿とかあんま近づかねえけどそんなもんか」
「信者とかじゃねえのか? どこから名前もらったんだ?」
「親父が付けた、らしいけど、親父の顔も名前も知らねえしな。まあライフォス信者か何かだったんじゃねえか?」
「……そうか、悪いこと聞いちまったな」
「何が悪いんだよ」
「……あー、いや、もっと悪かったな。あんたの人生を勝手に想像して同情するようなこと言っちまった。すまねえ」
「いや、別に気にしねえでも……真面目な奴」


Gin & Rum

「よう、ねーさん。やるかい?」
「瓶ごとよこせ」
「いいけどな、これ甘くてあんまうまくねえし」
「あんた私を酒の廃棄所とでも思ってんの? 思ってていーけど」
「ねーさん味の好みとかねえの?」
「酔えりゃなんでもいーかなー。季節とか気分にもよるしさー」
「俺もだいたい腹壊さねえもんならなんでもいいんだけどな」
「まー選べる状況なら選ぶわよねー」
「そうそう、女と同じだな」
「あに偉そうなこと言ってんのよばーか」
「俺もちょっと今のはねえと思った」
「あんた女っ気あんの?」
「それ本人に聞くことか? まあ今はねえな」
「あによそのいかにも飽きましたみたいな顔。偉そうにしてんじゃないわよばーか」
「ねーさん結構絡み酒だよな」
「なーによ話もしたくないなら瓶だけ置いて帰りなさいよ、相手してやってんのよばーか」
「ねーさんは男っ気ねえの?」
「やだめんどくさいややこしいうっとうしい」
「まあめんどくせえよな」
「だから何偉そうな顔してんのよガキが偉そうに語ってんじゃないわよばーか」
「何が言いてえんだねーさんは」
「あんたの態度が気に入らない」
「そりゃ悪かったな」


Drunkard , Cleaner (& Preacher)

「あー、また! ちょっと! 空いた瓶を床に投げ捨てないでください!」
「いーじゃない、あんたいるんだからすぐ片付くでしょ」
「片付けますが! 貴女それは人としてどうなんですか!」
「だーって捨てにいくのめんどくさいしー。妖精はあんま重いもの運んでくんないしー」
「身の回りをキレイに! 身も心をキレイに! そして世界もキレイに! ですよ!」
「世界がキレイになったら私なんていなくなっちゃうしー」
「だからといって今貴女が気ままに振舞っていいという話にはなりませんから! ちょっとほら、お酒抜いてお風呂にでも入ってきてください! 酒臭さが飽和してますよ!」
「やーだーやーだーまだのむー」
「子供じゃないんですから!」
「ああ、ほれほれ。それに正面からものを言っても無駄よ。なあ」
「うえっ」
「瓶を片付けておけばよいのだな」
「ちょっとそれまだ飲んでるんだけど!」
「冷たい井戸水をもらってきたから飲むとよい。おっと、皿も片付けておこうか」
「それつまみー! チーズー! まだ食べるー!」
「ほれ、冷やした瓜だ。うまいぞ」
「やだー青臭いー嫌いー!」
「仕方がないなあ。おっと、随分髪がほつれておるなあ。梳ってやろう」
「こらちょっと触るなー! あっちいけー!」
「まったく、いつまでたっても可愛いのだから。ああ、マントに酒の染みがついておるよ。洗っておこうか」
「私に触るな、近づくな、構うなー! いーわよもー部屋帰る! 全部自分でやる! 消えろ!」

「……なんというか、お見事ですね!」
「ちょっぴり傷つきはしたがなあ」


Chariot & Death(Colorful Monochrome)

「(すぱー)」
「煙草なんか吸うのか」
「たまにだよ。ちょっとさっぱりしたい時とかさ」
「一本くれよ」
「いいけど」
「じゃ、火よこせ」
「お前、なんか普通にたかってくるよね……いいけど」
「なんだ、普通の火打石じゃねえか。火縄壷とかねえのか?」
「ないよ。たまに吸うだけだし、ランタンの火でも借りれば充分なの」
「じゃあランタンでいいか……(しゅぼぼ)」
「煙草、火ついてなくない?」
「しけってんじゃねえか?」
「こっちのは乾いてるし、一緒にちゃんと保管してたはずだけど」
「……お、ついたかな」
「結構いい煙草なんだよそれ。うちの実家の商店で扱って……」
「……げほ、げほげほっ!」
「……」
「なんだこれ、辛えし苦えしすげえ煙い!」
「……お前さー、ひょっとして煙草吸うの初めて?」
「悪いかよ」
「悪いとか悪いとかじゃなくてさ! 何なの? 何考えてんの? カッコつけてみたかったの? お前、馬鹿なの?」
「うるせーな! ……げほっ」


Knight & Bishop

「あー・ど・ら・あ・か・い・な・あー・あー・あー」
「アードラって赤かったっけ」
「さあ、俺は知らない」
「つうか、何それ。歌?」
「発声練習」
「あー、そういや船乗ってた時、伝令役がそんなのやってたな」
「船乗りだったんだ?」
「ちょっと手ぇ出した仕事の一つだよ。港町の出だからな」
「へえ。俺は内陸で育ったからねー、芝居で海が出てくるとなかなかイメージ湧かなくって。絵図では見せてもらってたけど、実際見たらやっぱり、想像を越えてたね」
「芝居?」
「役者やってたからね。想像力が足りないのは、まあ、挫折した原因の一つかもしれない」
「さすがに役者はやったことねえな」
「面白いよ」
「やらねえよ」
「それは残念。君なら……そうだな、息もちゃんとできてるし、腰もしっかりしてるし、動きに無駄がないから、けっこう舞台映えしそうだけど」
「舞台じゃ本物の馬は走れねえだろ?」
「あははは、そりゃそうだ」


Grace & beau on the backstage

「はい、返しますわ」
「あ、どうも」
 受け取った人形は、とても『いい顔』をしている。
「一日程度で元に戻るわ。安心なさい」
「はは、ちょっと残念」
 初めて会うはずの冒険者だが、どうも彼女には見憶えがある。……彼女に、というか、彼女の雰囲気に?
「あなたは操霊術師?」
「あら、私を知りませんの?」
「これは失礼。俺は、女神のこと以外にはとんと疎くって」
 おそらく、名のある冒険者なんだろうね。この宿にはかなり有名な冒険者もいくらかいるらしく――俺の知っている中だけでも、騎士の位を得たという青年がいる。その彼も今は向こうで、プレゼントの包みを物色しているけど。
「では、私の名乗りを聞くことを許しましょう」
 彼女は、手に持っていた扇をばさりと開き、俺の目の前に差し出した。思わず気圧されて後ずさる。
「――私は"天才"ファーレンディア・ルールシェンク。人呼んで"黄昏の明星"。――レンデ様、と呼ぶことを許可しますわ」
 ……堂に入った高慢な態度。芝居に出てくる女王様のようだ。
 でも、俺は彼女の態度よりも、その『名前』に気を取られていた。
「ファー……レンディア?」
 頭の中でスペルを並べる。途中まで同じ――操霊術師――
「あの、失礼ですが……ああいや、先に俺も名乗らせてもらおう。アステリアの神官の――レウィル、です」
 名字を言うのが、少し躊躇われた。
「レンデ様……だったっけ。出身を聞いても――?」
 そう言うと、彼女はやや躊躇うように、扇で口元を覆った。
「出身は――ミラボア、ティルスティアルの街。操霊術の師匠の名は――」
「……ファールド」
 俺がそう言うと、彼女は扇を閉じて、口元だけをわずかに歪め、笑った。

 "白日の悪夢"魔女ファールド。俺にとっては兄の仇――ではあるのだろうけど、そういう気持ちを持ったことはない。
 俺はあの時、兄貴の死から目を背け続けていた時、恨む権利すら放棄したんだと思う。
 だから、あの魔女にも――ましてやその弟子には何の恨みもないし。というか、あの魔女の後継者は今でもうちの商店のお得意さんだ。この前帰って店番をしてた時にも、子供連れで買い物に来てくれたので普通に応対した。そんなものだ。
 ただ、過ぎ去ったと思っていたものが、突然目の前に現れた時の気分っていうのは――まあ、笑うしかないね。
「奇遇だね、どうにも。こんなところで同郷の人間に会うとは思わなかったよ」
「アステリアの神官と言ったわね。ティルスでは見なかったけれど」
「声を聞いたのはほんの一年くらい前だからね。あの街で布教ができるとも思わないし。家に帰れば、今でもただの放蕩者の次男坊だ」
 まあ、今となっては一人息子なんだけど。
「……レンデ様? あなたは、えーと、その……」
「今は一冒険者ですわ。至って――善良な」
 彼女は再び口元を隠して、くすっと笑った。
「――けれどね、いずれ私は女神になるのよ」
「始まりの剣を手にとって?」
 プレゼントに包んだ模造剣を思い出した。あれは舞台用の小道具で、らしく見える以外の効果はないけれど。
「さぁ……方法など何でも構いませんわ。神になるというのも、力の形容でしかないの。私がしなければならないことは、ただ一つ」
 彼女は扇をぱちんと閉じて、俺のほうに向き直った。舞台の上の女優のように、自信に満ちた表情で。
「あのひとを超えることよ」

 ――その一言で、妙に安心した。
 同時に、緊張していた自分に気付いて、少しおかしくなった。

 昔、俺たちの街では、色々悪いこともあったけれど。
 全てはきっと、なるようになるんじゃないか。そんな気がしたんだ。


Rider & Mechanic

「何やってんだ、さっきから」
「見ればわかるだろう? バイクの構造を研究しているのだ。術式は知っていても、細かい構造は把握しきれていなかったりするものでねー」
「作って消して作って消してやってるだけじゃねえか。乗れよ」
「乗る方にはあまり興味がないのだー」
「作って壊すだけか。何が面白えんだかわかんねえな」
「面白いよ! まあ、でも、技師以外にはあまり興味のあるものではないだろうね」
「乗る方ならいいけどな」
「ああ、そういえば君は乗り手か」
「知ってんのか?」
「"天涯の騎士"だろう? こう見えても私は物知りなのだ」
「あー。よくわかんねえ渾名だけどな」
「カッコいいじゃないか」
「カッコいいけどさ」
「カッコいいのは正義だ。そしてバイクはカッコいいのだ。つまりバイクは正義なのだ!」
「馬もカッコいいだろ」
「じゃあ馬も正義なのだ」
「いいのかそれで」
「正義とは人の数だけあるものだー」
「正義なあ。俺は別にどうでもいいけどな」
「じゃあ、どうでもいいのが君の正義だ」
「そこまで主張するような主義じゃねえよ。どうでもいいし」
「じゃあ、君は悪だな」
「真ん中ねえのかよ」

― ― ― ―

「やあやあ、精が出るねえ」
「暇潰しだよ」
「槍術と馬術かー。戦争にでも行くようだね」
「冒険者なんてそんなもんだろ?」
「私の武器は楽器とマギスフィアなのだ。あと発動体」
「何しに行くんだかわからねえな」
「何をすればいいかなんて、その場に立ってみないとわからないものさー」
「何かをしに行くんだよ」
「男の子だねえ」
「俺も別に目的があるわけじゃねえけどな」
「私には目的があるよー。キカイを自分で作ってみたいのだ。あと整備もしたいし改造も」
「やればいいじゃねえか」
「残念ながら技術も知識も足りないのだよ。だから、そういうものを身に付けたいねー」
「そうか、がんばれ」
「君もてきとーにがんばれー」
「おう」

― ― ― ―

「意外なシュミもあるものだねえ」
「俺も意外だよ。あ、お前打てる?」
「ルールくらいは知ってるのだ」
「ちょっと打ってけよ、どうせ暇だろ」
「いいよー」

「……おい」
「あーもう、話かけないでくれないか! こんがらがっちゃうじゃないか!」
「いや、てめえ一手にどんだけ考えりゃ気が済むんだよ。そんなに読むところねえだろ!」
「君はどう見ても知ってるだけの定石と感覚だけで打ってるからわからないだろうけれどね、チェスというのは本来、高度な演算を以ってすれば必勝不敗のゲームであって」
「知るか、早く打て! 一手に一分以上考えんの禁止!」


― ― ― ―


「私の母は魔動機師で、父は占い師なのだけどー」
「そりゃまた正反対な夫婦だな」
「そうでもないよー。魔動機術も占術も、数字が基本だからね」
「言われてみりゃ、そんなもん、か……?」
「といっても、正反対ではあるねー。モノ相手の商売と、ヒト相手の商売だ」
「つうかドワーフの占い師って珍しいな」
「家系だったんだよー。里に一人はシャーマンがいると安心なのだ」
「ゴブリンにもいるって言うしな」
「その比較はどうかと思うな!」


― ― ― ―


「何これ、うわ、これお前か?」
「ちょ、ちょっと! 返せー返すのだー!」
「魔動機術か何かか、これ」
「マナカメラといって、私の上の姉が……だから返せとー!」
「何がそんなに嫌なんだよ」
「だってーそれはーもう何年も前のあれで……君だって黒歴史のひとつやふたつあるだろう!」
「何だそりゃ」
「若気の至りってやつだよ!」
「んなもん……なくもねえけど」
「だろう! だから返せってば!」
「ほい」
「ああっ、投げるなー! もー恥ずかしいー、お嫁に行けないのだー!」
「嫁に行く気あったのか」
「あんまりないけれどー」
「つか、そんなに嫌ならなんで持ち歩いてんだよ」
「かわいいだろう!」
「女ってわっかんねえ……ドワーフでもわかんねえ」
「君はドワーフに対して実に失礼だな!」


― ― ― ―


「君はなんというかあれだ。退廃的なところがあるよねえ」
「なんだそりゃ」
「不健全というか、不潔というか。あー、いや、悪い意味ではないよ。いい意味でもないけれど」
「そりゃ、いい子いい子されて生きてきたわけじゃねえからな」
「環境かなあ。まあ環境なんだろうねー」
「何か言いたそうだな」
「いやあ、たとえ君がどこかのお坊ちゃんであったとしてもねー、ただのいい子ではなかっただろうと思ってねー」
「知らねえよそんなもん、俺はいいとこの生まれじゃねえんだから」
「まあ仮定の家庭の話をしても仕方ないけれどー。そういえば君、家族とかいるのかい?」
「いねえよ」
「だろうねー。作るつもりは?」
「ねえよ」
「だろうねー。実はいたりしない?」
「ねえよ。……多分」
「おーい」
「や、そっちじゃなくてな。いや、そっちもあるかもしれねえけど。まず父親が誰なのか知らねえし、母親の前歴も知らねえし」
「ああなるほど、恋をしてみたら生き別れの妹だったとかいうドラマが発生するかもしれないんだねー」
「ねえよ!」



Knight & Queen

「えーっと、この駒は別の駒を飛び越えられる……」
「あら。先日の集まりで受け取っていたものね」
「ん? おお」
「中々、苦戦しているようね?」
「まあな。案外ややこしいもんだ」
「最初はプロブレムで遊んでみれば良いのではないかしら」
「問題?」
「こう並べて……」

「えーと……こうだな」
「見事。中々、飲み込みの早い事ね」扇ぱちん
「楽しいもんだな、これ」
「では、一歩先の問題」詰めチェスを並べる
「(基盤を眺めて)……無理だろおい」
「まぁ、今解かなくとも良いのよ。並べ方を憶えておいて、また挑戦なさい」
「そうだな、じっくり考えてみるさ。ありがとな、姐さん」
「……私の名はファーレンディア・ルールシェンク、人呼んで"黄昏の明星"。世にその名を轟かせる天才術師よ。レンデ様とお呼びなさい」
「……は?」
「レ・ン・デ・様」
「……レンデ様」
「宜しい」扇ぱたぱた
「なんだこれ……」

― ― ― ―

レンデ「あらアーニー。丁度良い所に」
イシュ「知り合い?」
レンデ「不肖の弟」
アーニティ「……なんですか、姉上」
レンデ「少し、この子の相手をしておあげなさい」
イシュ「お」
アーニティ「……チェス、ですか? ご存じでしょうけど……」
レンデ「流石に、始めて一月も経たない相手となら良い勝負でしょう? 私では実力差があり過ぎるのよ」
アーニティ「はぁ……」

アーニティ「はい、チェックメイト」
イシュ「…………」
アーニティ「ありませんよね?」
イシュ「やった、こんなに駒残ったまま負けたの始めてだ!」
アーニティ「姉上……どんな大人げない打ち方してたんですか」
レンデ(扇ぱたぱた)


― ― ― ―


「……言っちゃなんですけど、勝ってないのによく続けてますね」ぱちり
「だって勝てるわけねえだろ。こっち初心者だぜ」
「チェスは苦手だし嫌いなんですよ、勝てないから」
「親父さん、すげえ指し手だって聞いたけど」ぱちり
「だから勝てないし嫌いなんですよ」
「まあ、あんた嫌々打ってるよな。時々すげえいい加減な手指してるし」
「わかるんだ。上達したじゃないですか」ぱちり
「あんたも真面目に指せばもうちょっと強いんじゃねえの?」ぱちり
「嫌いだって言ってるじゃないですか」

「よし、チェックメイト」ぱちり
「はい、負けた。お疲れさまでした」
「勝つのも案外虚しいもんだな」
「ま、相手が僕ですからね」