「うらみノート」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

うらみノート」(2012/09/28 (金) 13:07:11) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

p1.自分 「そういうのはチラシの裏に書いとけ」と言われたので、ノートにまとめて書くことにした。確かに、愚痴を辺りに撒き散らすよりは、多少迷惑がかからないと思う。  とりあえず自分の嫌いなものを考えてみる。まあどうしたって最初に来るのは僕自身だ。大して世の中の役に立つわけじゃなし、立つつもりもない。そのくせ人に心配かけたり迷惑かけたり。なんで生きてるのかわからない。何度か死にかけはしたけど、結局まだ生きている。悪運だけは強いから困る。  最初の時に死ななかったのは、運が半分、後は……全く、姉上に容姿が似ていて得をした試しがない。  二度目の時は……死ぬならあの時しかなかったと思うけど、実際は死にかけすらしなかったな。どうしてだか今でもわからない。わからないじゃ進まないので考えてみるが、まあ要するに、あの時僕は死にたくなかったんだろう。多分今も死にたくないから生きてるんだろう。往生際が悪すぎる。  冒険者になってからも一度死にかけたけど、仲間に迷惑かけたりしながら、結局無事に帰って来た。ひょっとしたら、お節介な親友が守ってくれたのかもしれない。船の上でよく酔うのも、あいつが僕の頭だけ余計に揺らしてるんじゃないだろうか。あいつも暇してるだろうし、その程度のイタズラはやってくれても構わない。  って、僕のやったことを考えれば勝手な話だ。あいつが誰かを見守ってるとするなら家族とか、話にだけ聞いた彼女(複数)とかだろう。僕にとってあいつは親友だったけど、交友関係の広かったあいつにとって僕がどれほどのものだったか。向ける好意はそのまま戻ってくるものじゃない。そんなことが他にもあった。  セディが死んでからシェリカさんに会っていない。恋人がいなくなったからって、そこを僕の場所にできるなんて考えるほど厚顔無恥じゃない。それより何より、会うのが怖い。彼が死んで僕はまだ生きている。それで僕を責めるような人じゃないけど、やっぱり今更会ってもお互い傷を深くするだけだと思う。そんなふうにあれこれ言い訳して逃げている。あっちから逃げてこっちから逃げて、でも死ぬのも嫌だ。どれだけ我侭なんだ、僕は。 (追記)  彼女に会った。むしろ気を遣わせてしまった。あぁ、全くどうしようもない。でも、諦めがついたかもしれない。彼女のことも、自分のことも。 (追記)  やっぱりどうしたって自分が駄目だと思うのは変わらないけど、それでも僕のことを大事に思ってくれる人がいるなら、もうちょっと努力しようと思う。 (追記)  かっこ良くなりたい、なんて思ってる自分がすでにかっこ悪くて鏡に頭を打ちつけたくなる。らしくないし無理なのはわかってるけど、分不相応に幸せなんだからもうちょっと、こう……かっこいい……クールな……(ぐしゃぐしゃに塗りつぶしてある)  ああ馬鹿らしい。無理したって違う自分になれないことぐらい知ってる。ならなくていいことも知ってる。でも、もう少し、もう少しって思う。姉上のことは言えない、僕もたいがい見栄っ張りだ。ほんとにどうしようもない。でも、何も望まない自分にもなりたくないんだ。 (p1.残りはまだ空白) p2.姉上  自分について書いてたら死にたくなってきたので、悪いことは姉上のせいにすることにする。こういう所が問題なんだ。でも悪いことは大抵姉上のせいだと思う。  小さいころから姉上にどれだけ振り回されてきたか。僕がこういう性格になったのも、結局姉上のせいだ。  そういえば昔、姉上が乗ってる馬の手綱を引いてたら、うっかり変に引いてしまって馬が暴れて姉上が落馬したことあったな。あの時は焦ったけど、いっそ落とした上で蹴飛ばさせておけばよかったのかもしれない。まあ僕のほうが蹴飛ばされるオチがありありと浮かぶわけだが。人の恋路を邪魔する奴は、か。今となっては本気で妨害しとけばよかったと思わなくもないが、それこそぬいぐるみに蹴飛ばされてたのが関の山だな。  これは本気で理解できない……いや理屈はなんとなくわかるけど感情としてよくわからないしあんまり考えたくもないのだが、本当に姉上あいつのどこがいいんだろう。趣味が悪いとかそういう次元じゃない。最大限好意的に解釈すれば、運命だから仕方ないってところか。書いてて笑えてきたけど。  いやまあ好きならしょうがない。僕だって明らかに合わない人を好きになったこともあるわけだし、その辺りが理屈じゃないことぐらいはわかる。でも好きなら好きで、そもそももう引き返しようだってないようなとこまで来てるんだから、色々諦めればいいのにと思う。というか、諦められないならこうなる前に考えることが色々あったと思うのだが、そのあたりは義兄が一枚上手だったとしか言いようがない。  まあ義兄の話は後だ。とりあえず姉上は裏表使い分けるのやめて欲しい。見てると背筋が寒くなる。そこまでして取り繕う前に自分に正直に生きる努力をして欲しい。認めたくないことを認めないって意味ではこの上なく正直なのかもしれないが。だいたい僕が姉上の見栄に付き合わなきゃいけない理由がわからない。リヴァのこともあるから付き合ってやるけど。  そう、リヴァのことだ。大枚叩いて人形作るくらいなら、本人のことを考えて欲しい。いやまあ義兄上楽しそうだし、義兄上に姉上が加わったところでかえって酷いことになるのは目に見えるのだが、それでも手元で育てたほうが後悔は少ないんじゃないかと思う。今リヴァすごいかわいいし。ほら帰りたくなる。僕が帰りたくなったじゃないか。  まあ冒険者になったことについてはお互い様だし、今更あれこれ言ってもしょうがないので言わない。探し当てたのは僕の方だし。姉上目立つ上にわかりやすい肖像(無論この顔だ、遺憾なことに)があるので楽だった。正直、なんで姉上のことなんか忘れて別の方向に旅に出なかったんだろう、とも思うが、近くにいても遠くにいても胃が痛いのは変わりないし。あとあの手紙一刻も早く本人に突きつけて手放したかった。リヴァの分もあったからこっそり焼き捨てるわけにもいかなかったし。……なんだ、僕、冒険者になってからもやっぱり二人に振り回されてるな。  まあそもそもあの姉の下に生まれたのが間違いだ。生まれ変わるなら一人っ子がいい。何でも知ってる身内ほど手に負えないものはない。僕のほうもある程度わかってしまうから余計そう思う。姉上はそう思わないんだろうか。あれだけ見栄を張る人なのに。  とりあえず僕の持ち物を漁るのやめて欲しい。日記だけに書いておいたことを当たり前のように、しかも人前で話題にしないで欲しい。というか僕が書いてるのなんて大体姉上に関する愚痴なんだから読んだなら反省くらいして欲しい。  で、どうせこれも読んでると思うのでページの残りは開けておく。好きなだけご反論どうぞ。 (p2.わずかな余白に違う筆跡で『付き合っていられない』) p3.義兄上  さて義兄上の話だ。正直『死ね』だけで一頁埋めても構わないくらいだが、それをやったら多分本気で荒むのでやめておく。  正直、どうして今みたいな力関係になったんだか、思い返してみてもわからない。それが彼の恐ろしいところだ。気がついたらこっちの負けが確定している。多分、姉上もそんな感じだったんだろう。何かズルしてるとしか思えない。っていうかズルい。色々とズルい。  多分相性の問題もあるんだろうが、あれほど嫌な奴を他に知らない。何が腹立たしいって何より、僕に構うのを明らかに面白がってることだ。それも多分ある程度限度を計算した上で。そういうギリギリの線での追い詰め合いをやるのは姉上相手だけにして欲しい。姉上相手にやるとしても見せ付けないで欲しい。  なんというか羞恥心とかそういうものないんだろうか。彼の言ってることを自分で言うことを想像したら口が腐りそうだ。いや、でも相手は選んでるな。うちの両親に対しては本当にまともな対応してるし。それも姉上みたいな嘘と本当の裏表じゃなくて、多分彼は常に正直なんだと思う。それが取り柄どころかますます手に負えないことにしかならないところがズルい。  彼が自分の母親に対してやったことについては……まあそれこそほとんど他人事なので何も言う気はないが、もうちょっと周りへの影響とか考えて欲しかったと思う。いや、あれで最小限だったのだろうか。彼に事態を収拾する気がなかったぽいのはあれだが、人的被害としてはあんなもんだろう。彼がやらなくても、いつか誰かがやらなきゃいけないことだったろうし。ただ、そういう……非難のしようがない大迷惑を引き起こすあたりがズルい。それも多分あの一度きりだけだろうから本当にズルい。  なんていうか彼は一度天罰とか受けたほうがいいと思う。でもそうするとリヴァが不幸になるのが難しいところだ。リヴァに対しては本当にちゃんと父親やってるからズルい。いや、いいことだけど、ズルい。  なんだか僻んでるみたいになってきたが、その面は否定しない。存在自体がズルいんだあいつは。その上自覚して最大限に利用してくるから始末に負えない。ほんと撃つくらいしか対抗手段が思い浮かばないんだけど。でもそうしたらリヴァが……そればっかりだな。もう本当どうにもならない。  まあ親戚になってしまった以上はどうにかしていなしていくしかないわけだ。ああ絶望してきた。こんなに人を嫌いになれるなんて知らなかった。断じて言うが嫉妬じゃない、彼自身の性質の問題だ。根は悪い奴なのに社会的には悪い奴でもないから困る。ああいうのを本当の悪人っていうんだ。  ああもう、気が付いたら結局諦めるか諦めるかしか選択肢がないじゃないか。最悪だ。ちょっともうちょっと考えよう。どうにかして……どうにかなるのか? (追記)  やっぱりあれはどうしようもないと思う。出来る限り関わらないのが最善と言うしかない。 (追記)  最近自分が義兄上と同じことしてるような気がして考えるとちょっと本気で死にたくなる。因果は巡るってことなのか。色々次元の違う話ではあるが。 (p3.残りは空白) p4.ティルスティアル  義兄の話をしたので故郷の話についてもしようと思う。とにかくまともな街じゃなかった。出てきた今は余計にそう思う。義兄のやったことで少しはまともになったのか? いや、一級の犯罪者が一人いなくなっただけの話で、あの街そのものの特性は全く変わっていない。  別にナイトメアがどうこう言う気はない(リヴァだってそうだし)けど、あれだけ集まるのはやっぱり何か歪んでる。生まれつきの穢れはどうしようもないし、そんなところで判断はしたくないけど、個人単位ならともかく、社会単位で一度許容すると際限がなくなる。  これまで破綻しなかったのは、彼らがそれでも人族の間で生きていたいから。そして、そんな彼らを許容して得をする者がいたから。他に行き場のない人々だ、利用しようと思えば簡単。彼女が街の成り立ちから関わってたことを考えても……色々考えると本当に怖くなる。僕が見たごく一部の研究成果からしても。ああいうの全部義兄が引き継いだはずだけど……うわ。いや、悪用するとは思ってない。その辺は一応信用というか理解してはいる。でも、人が得ていい知識には限界があると思う。  結局、そういう、際限のない知識欲……姉上や義兄上を見ていても思うけど、好奇心はグラスランナーを殺すだけじゃなく、人を傷つける刃物にだって容易になり得る。それも業ってやつか。今のままでいたくないと思うから、新しい何かを求めるから、線の引き方を間違えればどこまでも行ってしまう。その一つの結晶が、あの街の姿なんだろう。  これからあの街はどうなっていくんだろう。リードは手を加えることを放棄した。あれは本当に無責任だと思うけど、悔しいことに理解もできる。なるようにしかならないのだ。  例え全てが落ち着いたとしても、僕は多分あの街には帰らない。リヴァや両親がいる以上、たまには寄らざるを得ないだろうけど。だけど、今、あの街影を見たら泣きそうな気がする。あの街に残っている、いい思い出は全部…… (追記)  一度帰ってみた。やっぱり居心地悪い。でも、故郷は故郷、か……。 (p4.残りは空白) p5.アンデッド  案外埋まらないものだ。文句はいくらでも出てくるけど、結局何度も同じことを繰り返して言ってるだけなんだな、僕。あー馬鹿馬鹿しい。そりゃ心配もされるよ。  踏み込んで考えるのが怖いのもある。でも、核心を突かずに周辺について文句を言っているだけじゃ、いつまでたっても終わらないのもわかってる。  苦手なものばかりの僕の、多分一番苦手なもの……姉上、と言いたいところだが、いつの間にか順位が入れ替わっていたらしい。  ……アンデッド。  死は、それだけで恐ろしいものだ。それが、さらに……。死者が帰ってくるなんて。それも生前と同じ姿で、生前とはまるで違う――  悪夢だ。覚めない悪夢。出会ったら何も考えずに銃を乱射するしかないくらいの。まあ、後悔は撃った後にやって来るものだが。  同じ相手を二回殺すことになるなんて。  だめだ、整理がつかない。逃げたくないのに。  ごめん、ごめん、ごめん…… (p5.残りは空白) p6.操霊術師  駄目だ、これは駄目だ。ちょっと軽く愚痴って調子を上げよう。  操霊術師が嫌いだ。姉上がそうだからだ。というかあいつもあのひともついでに父上もそうだが。  いや、職業に貴賎はない。別に差別する気はない。個人的に苦手なだけだ。なんか、こう……どこまでが生きてるもので、どこまでが生きてないものなんだかわからなくなる。まあ魔動機術も突き詰めると似た所はあるのだが、魔動機術は技術だ。技術に心が乗るのはそれなりに当然だと思う。操霊術って、始めから心とか魂から操りに行く感じが苦手だ。この辺は姉上あたりに言わせれば色々反論もあるだろうが、感覚の問題なので譲る気はない。  あと人形。正直怖い。動くのはまだいい、視線が怖い。その場にいない誰かが見てるとか反則だろう。片っ端からマナ・サーチ? こっちが持たない。  そりゃまあ、味方の操霊魔法は有難い。でもそれは、それがどんな効果で、何のために使うのかがわかってるからで……それがわからないと本当に怖い。操霊魔法に限った話でもないだろうが。  まぁ、偏見だ。ちょっと極端な部分を見過ぎた。アンデッドとかアンデッドとかゴーレムとかアンデッドとか。  姉上もいつの間にかそれなりの操霊術師になってしまって、いつ道を踏み外すかと不安でしょうがない。とりあえずゴーレム作られる前に戦闘に入らないと高確率で詰む。いやゴーレムなしでもまず詰むのだが。本当どうしよう、物理的に勝てそうもない。  やっぱりもっと腕を上げないと。二丁拳銃よりジェザイルで遠くから射撃するのがいいだろうか。ショットガンとか撃てるようになればまた違うかもしれない。いっぺんに撃てるし。  ……まぁ、言ってるだけだ。本当にやる気はない。その程度は一応、信じている。  それでも、やっぱりどこか恐怖はある。姉上が、本当にあのひとの様になってしまったら、どうしよう、と……。  僕の知っている姉上は、とうにどこかに消えてしまって、今の姉上が何を考えているのか、僕にはまるでわからない。それでも今はまだ、目の前にいる姉上の態度は、昔と何も変わらないけれど……。 (p6.残りは空白) p7.ゴーレム   何と言っても厄介なのがパペットゴーレムだ。アンデッドよりは気分的にましではあるけど、あれも充分気持ち悪い。  物に命が宿る、っていうのはギリギリわからないでもないんだ。でも、宿らせる、ってなんだかなと思うんだ。それで命令に服従させるとか、うーん。ルーンフォークとの主従関係なんかとは何かが根本的に違うと思う。  単純に、相対する敵としても、硬いゴーレムは厄介なものだ。なんせあっちは生身じゃないんだから。銃の効きはだいたいそんなに悪くないとはいえ、頭に穴空けても平気で動くとか気持ち悪い。  敵としてじゃなくても、ちょっと苦手だ。どう接していいのかわからない。道具として使い捨てればいいのか、仲間として頼ればいいのか。これが馬とかなら元手もあるから出来る限り大事に扱うけど。  考えてみると、投影とか感情移入とかそういうのが苦手なのかもしれない。どことなく気持ちが悪い。そこにあるものの本質を見る、多分自分で苦手だからこそ、本質から離れたところに思い入れることに気持ち悪さを感じるんだと思う。もちろん、僕自身こそそういう物の見方から離れられないところはあるのだが、それを肯定してしまうことにはどうしても抵抗が、というか、いいことだとは思えない。  物は物、人は人、目の前にあるそれだけのことを余計な感情を入れずに認識するのは難しい。ある意味、ゴーレム側のほうがそれができているんだろうか。主人、その他、敵、命令……きっと、自動人形の中ではそれくらい物事がシンプルだろう。  でも、ゴーレムみたいになりたいとは思わない。自分の判断で、自分の考えで、自分の目で、世界を認識して動きたい。生きてるってそういうことだと思うし、それくらいできなきゃ生きてる意味がない。その上であらゆる偏見から遠く……  まあ、無理な話だ。特に僕みたいな弱い人間にはさ。 (p7.残りは空白) p8.海  海……初めて見た時はそれなりに感動したんだけど、一時間と持たなかった。  とにかく揺れる、酔う、足元が定まらない、陸が見えない……終わりが見えない……  飛行船にも乗ったけどそっちは結構平気だった。やっぱり何か、波のリズムと体質が合わないんだと思う。  空からは雲に入らなきゃ見下ろせるけど、波の下って見えないし。底がどれだけ深いのか想像してぞっとする。色々いそうだし。  やっぱりあれって人族の領域じゃないんだと思う。海に住むエルフだって、基本は浜辺にいるわけで。まぁ、自分の領域じゃないところに踏み込んでもロクなことはない。そういうことなんだろう。  ただ、そういう場所こそ冒険者の活動領域なわけで。依頼で海に行くことはそこそこある。そのへんは慣れていかないとどうしようもないけど、そのうち帰ってこれなくなりそうだ。ただでさえ街に戻るのが難しい場所だし。  でもどうせ死ぬなら海よりは内陸のほうがいい。死に場所を選べるほど贅沢な身分でもないが。あの波の底に沈むとか考えたくもない。  あぁ、だから、みんなじっくり眠れないから、海って怪談話とかの舞台になりやすいのかもしれない。……嫌なこと考えてしまった。 (追記)  なんだかんだで水着とか買ってしまった。何やってるんだろう僕は。まぁ、泳げないわけじゃないんだ。でも波と遊ぶってのはあんまり……。 (追記)  ちょっと潜って色々考えた。考えがまとまらなかった。 (p8.残りは空白) p9.ティダン  ティダン神官の魔法で死にかけたことがある。あれは本気でもう駄目だと思った。海の上だったし。  まぁ、どんな信仰だって結局信じる人次第だし、敵に回すと怖いのはどの神だろうと同じことだ。でも、こう、実際に食らった身としては、やっぱりちょっと恨んでいいと思う。  ティダンって太陽か。そりゃ、なかったら困るけど、どちらかというと太陽が出てない時間のほうが落ち付く。前世は蛮族だったのかもしれないな。  朝、目が覚めて、まだ暗い時間。陽が昇ってくるのを見ると、憂鬱になる。また今日も一日が始まるのか、って。たまには休んでもいいと思う、太陽。  ……そういえば、あのひとは"白日の悪夢"とかって二つ名で呼ばれていたっけ。実際、悪夢だと思いたいが、間違いなく現実だ。  夜に潜むものよりも、太陽の下を堂々と歩くものの方が往々にして厄介だったりするものだ。そういう連中は自分に自信があって、人に見られても後ろ指を指されない立場にいる。それが善人であれば何の問題もないが、悪人……というか何か間違えた人だと、これが非常に厄介だ。問答無用で撃つってことができないから。本気で実力行使に出られたら勝てないって話もある。  太陽は世界を照らすけど、みんなきっとそれで安心してしまうから悪いんだと思う。光でも焙り出されない真実なんていくらでもあるのに。  まぁ、その程度にファジーなのが世の中ってやつか。基本的にはきっとそれで問題ない。ただ、それで安心していたら、時々思わぬところで転んだりすることがある。誰が悪いわけでもなく、ただ運が悪いってだけの話。  貧乏くじを引いたって仕方ない、そういう星の元に生まれついた。おおらかに太陽の下を歩いている人に恨みがあるわけじゃない。ただの愚痴だ。  まったく、毎日毎日どうして陽は昇るんだろう。どうせ今日もいいことなんてないんだ。 (追記)  ……でも、明日はいいことがあるのかもしれない。 (p9.残りは空白) p10.落下  高い所から落ちると痛い。当たり前だ。  冒険者やってると、どう見ても無茶っていうような崖にも登らなきゃいけないことがある。協力すれば案外登れるものだが、それでも落ちる時は落ちる。幸い命に関わるほどの怪我をしたことはないが、あのみぞおちがヒュッとする感じはもう……。  高い所自体はそんなに苦手じゃない。でもそこまで行くのが大変だ。ロープでとか……便利な魔法もあるらしいけど、それでもなかなか大変だと思う。戻ってこなきゃいけないし。  ……いっそ帰りは飛び下りれば楽かもしれないな。いろんな意味で。やれないけど。  下に下に、吸い込まれるような。海が苦手なのと同じだ。落ちるのは怖い。人間、普通空は飛べないし、水に溺れたら浮き上がれないんだ。  逆らわなければきっと楽で、でもそうするのを怖いと思うのは何故なんだろう。そして、その一方で憧れもする。どこまでもどこまでも、落ちて行けるならきっと、気持ちがいいだろうと。  でも実際にはそうもできずに、ただ滑り落ちて怪我して地べたでのたうち回るだけだ。まったく、中途半端で嫌になる。  僕は生きていたいんだろうか、それとも楽になりたいんだろうか。実のところとっくに答えは出てるんだ、ここにこうして居る以上。だから落ちるのは嫌だ。でも痛いのも嫌だ。ならどうして冒険者なんてやってるんだろう。願望と現実の落とし所ってことか。情けない話だ。  まぁ、いつか果てしなく落ちていくならそれもいいと思う。誰かを道連れにさえしなければ。 (p10.残りは空白) p11.資金難  支出が多いと胃が痛くなる。収入は上がってきたけど、その感覚はあんまり変わらない。まあ命のほうが大事だから、弾込めだって照準だって魔晶石を潰してどうにかするんだけど、その度にかかる金額を考えると……でも使わないで外すともっともったいないし。  費用対効果っていうんだろうか。それで言うとあんまり逸脱したことはしてない、と思う……でも、出費を考えるとどうしても暗くなるのは性分だ。  別に実家だって経済事情が悪かったわけでもないのに(良くもなかったけど)、どうしてこう締まり屋になったんだろう。自警団時代だって、自由に使えるお金こそ少なかったけど、生活に困ってたわけじゃなし。何でも無駄にすることが気になるようになったのは、それこそここ数年な気がする。  でも記録癖は昔からだな……。細かいことを気にする割に、いざって時に勘が鈍いのも。やっぱり性格としか言い様がないかもしれない。姉上と正反対だ。いいんだか悪いんだか。  姉上はちょっと浪費家の傾向があると思う。気が付くと見たことないもの持ってる。冒険者って大抵そういうものではあるけど、姉上の場合……ちょっと使う機会がなさそうなものが多いような。そりゃ、持ってれば便利に使えることもあるかもしれないけど、それにしたってわざわざ買うものかなあ、っていうような。人形とかは置いといても。  もっとも、姉上の場合は資金に余裕があるんだと思う……いや、収入を比較したわけじゃないし、よく知らないけど。  僕の場合とにかく魔晶石と、馬とかのレンタル代、それから拳銃を強化するための貯蓄。揃えておかないといけないものが多すぎて。弾だってタダじゃないし。  出費を惜しむと後でもっと大きな損につながる。だから惜しまない。だから資金繰りが厳しくなる。……あれ、堂々巡りじゃないか。抜け出せるのかこれ。  まったくもって頭が痛い。今日の夕飯は肉なしにしよう。 (p11.残りは空白) p12.命中率 p13.女性 p14.強い香り p15.手持無沙汰な時間 p16.チェス      
p1.自分 「そういうのはチラシの裏に書いとけ」と言われたので、ノートにまとめて書くことにした。確かに、愚痴を辺りに撒き散らすよりは、多少迷惑がかからないと思う。  とりあえず自分の嫌いなものを考えてみる。まあどうしたって最初に来るのは僕自身だ。大して世の中の役に立つわけじゃなし、立つつもりもない。そのくせ人に心配かけたり迷惑かけたり。なんで生きてるのかわからない。何度か死にかけはしたけど、結局まだ生きている。悪運だけは強いから困る。  最初の時に死ななかったのは、運が半分、後は……全く、姉上に容姿が似ていて得をした試しがない。  二度目の時は……死ぬならあの時しかなかったと思うけど、実際は死にかけすらしなかったな。どうしてだか今でもわからない。わからないじゃ進まないので考えてみるが、まあ要するに、あの時僕は死にたくなかったんだろう。多分今も死にたくないから生きてるんだろう。往生際が悪すぎる。  冒険者になってからも一度死にかけたけど、仲間に迷惑かけたりしながら、結局無事に帰って来た。ひょっとしたら、お節介な親友が守ってくれたのかもしれない。船の上でよく酔うのも、あいつが僕の頭だけ余計に揺らしてるんじゃないだろうか。あいつも暇してるだろうし、その程度のイタズラはやってくれても構わない。  って、僕のやったことを考えれば勝手な話だ。あいつが誰かを見守ってるとするなら家族とか、話にだけ聞いた彼女(複数)とかだろう。僕にとってあいつは親友だったけど、交友関係の広かったあいつにとって僕がどれほどのものだったか。向ける好意はそのまま戻ってくるものじゃない。そんなことが他にもあった。  セディが死んでからシェリカさんに会っていない。恋人がいなくなったからって、そこを僕の場所にできるなんて考えるほど厚顔無恥じゃない。それより何より、会うのが怖い。彼が死んで僕はまだ生きている。それで僕を責めるような人じゃないけど、やっぱり今更会ってもお互い傷を深くするだけだと思う。そんなふうにあれこれ言い訳して逃げている。あっちから逃げてこっちから逃げて、でも死ぬのも嫌だ。どれだけ我侭なんだ、僕は。 (追記)  彼女に会った。むしろ気を遣わせてしまった。あぁ、全くどうしようもない。でも、諦めがついたかもしれない。彼女のことも、自分のことも。 (追記)  やっぱりどうしたって自分が駄目だと思うのは変わらないけど、それでも僕のことを大事に思ってくれる人がいるなら、もうちょっと努力しようと思う。 (追記)  かっこ良くなりたい、なんて思ってる自分がすでにかっこ悪くて鏡に頭を打ちつけたくなる。らしくないし無理なのはわかってるけど、分不相応に幸せなんだからもうちょっと、こう……かっこいい……クールな……(ぐしゃぐしゃに塗りつぶしてある)  ああ馬鹿らしい。無理したって違う自分になれないことぐらい知ってる。ならなくていいことも知ってる。でも、もう少し、もう少しって思う。姉上のことは言えない、僕もたいがい見栄っ張りだ。ほんとにどうしようもない。でも、何も望まない自分にもなりたくないんだ。 (p1.残りはまだ空白) p2.姉上  自分について書いてたら死にたくなってきたので、悪いことは姉上のせいにすることにする。こういう所が問題なんだ。でも悪いことは大抵姉上のせいだと思う。  小さいころから姉上にどれだけ振り回されてきたか。僕がこういう性格になったのも、結局姉上のせいだ。  そういえば昔、姉上が乗ってる馬の手綱を引いてたら、うっかり変に引いてしまって馬が暴れて姉上が落馬したことあったな。あの時は焦ったけど、いっそ落とした上で蹴飛ばさせておけばよかったのかもしれない。まあ僕のほうが蹴飛ばされるオチがありありと浮かぶわけだが。人の恋路を邪魔する奴は、か。今となっては本気で妨害しとけばよかったと思わなくもないが、それこそぬいぐるみに蹴飛ばされてたのが関の山だな。  これは本気で理解できない……いや理屈はなんとなくわかるけど感情としてよくわからないしあんまり考えたくもないのだが、本当に姉上あいつのどこがいいんだろう。趣味が悪いとかそういう次元じゃない。最大限好意的に解釈すれば、運命だから仕方ないってところか。書いてて笑えてきたけど。  いやまあ好きならしょうがない。僕だって明らかに合わない人を好きになったこともあるわけだし、その辺りが理屈じゃないことぐらいはわかる。でも好きなら好きで、そもそももう引き返しようだってないようなとこまで来てるんだから、色々諦めればいいのにと思う。というか、諦められないならこうなる前に考えることが色々あったと思うのだが、そのあたりは義兄が一枚上手だったとしか言いようがない。  まあ義兄の話は後だ。とりあえず姉上は裏表使い分けるのやめて欲しい。見てると背筋が寒くなる。そこまでして取り繕う前に自分に正直に生きる努力をして欲しい。認めたくないことを認めないって意味ではこの上なく正直なのかもしれないが。だいたい僕が姉上の見栄に付き合わなきゃいけない理由がわからない。リヴァのこともあるから付き合ってやるけど。  そう、リヴァのことだ。大枚叩いて人形作るくらいなら、本人のことを考えて欲しい。いやまあ義兄上楽しそうだし、義兄上に姉上が加わったところでかえって酷いことになるのは目に見えるのだが、それでも手元で育てたほうが後悔は少ないんじゃないかと思う。今リヴァすごいかわいいし。ほら帰りたくなる。僕が帰りたくなったじゃないか。  まあ冒険者になったことについてはお互い様だし、今更あれこれ言ってもしょうがないので言わない。探し当てたのは僕の方だし。姉上目立つ上にわかりやすい肖像(無論この顔だ、遺憾なことに)があるので楽だった。正直、なんで姉上のことなんか忘れて別の方向に旅に出なかったんだろう、とも思うが、近くにいても遠くにいても胃が痛いのは変わりないし。あとあの手紙一刻も早く本人に突きつけて手放したかった。リヴァの分もあったからこっそり焼き捨てるわけにもいかなかったし。……なんだ、僕、冒険者になってからもやっぱり二人に振り回されてるな。  まあそもそもあの姉の下に生まれたのが間違いだ。生まれ変わるなら一人っ子がいい。何でも知ってる身内ほど手に負えないものはない。僕のほうもある程度わかってしまうから余計そう思う。姉上はそう思わないんだろうか。あれだけ見栄を張る人なのに。  とりあえず僕の持ち物を漁るのやめて欲しい。日記だけに書いておいたことを当たり前のように、しかも人前で話題にしないで欲しい。というか僕が書いてるのなんて大体姉上に関する愚痴なんだから読んだなら反省くらいして欲しい。  で、どうせこれも読んでると思うのでページの残りは開けておく。好きなだけご反論どうぞ。 (p2.わずかな余白に違う筆跡で『付き合っていられない』) p3.義兄上  さて義兄上の話だ。正直『死ね』だけで一頁埋めても構わないくらいだが、それをやったら多分本気で荒むのでやめておく。  正直、どうして今みたいな力関係になったんだか、思い返してみてもわからない。それが彼の恐ろしいところだ。気がついたらこっちの負けが確定している。多分、姉上もそんな感じだったんだろう。何かズルしてるとしか思えない。っていうかズルい。色々とズルい。  多分相性の問題もあるんだろうが、あれほど嫌な奴を他に知らない。何が腹立たしいって何より、僕に構うのを明らかに面白がってることだ。それも多分ある程度限度を計算した上で。そういうギリギリの線での追い詰め合いをやるのは姉上相手だけにして欲しい。姉上相手にやるとしても見せ付けないで欲しい。  なんというか羞恥心とかそういうものないんだろうか。彼の言ってることを自分で言うことを想像したら口が腐りそうだ。いや、でも相手は選んでるな。うちの両親に対しては本当にまともな対応してるし。それも姉上みたいな嘘と本当の裏表じゃなくて、多分彼は常に正直なんだと思う。それが取り柄どころかますます手に負えないことにしかならないところがズルい。  彼が自分の母親に対してやったことについては……まあそれこそほとんど他人事なので何も言う気はないが、もうちょっと周りへの影響とか考えて欲しかったと思う。いや、あれで最小限だったのだろうか。彼に事態を収拾する気がなかったぽいのはあれだが、人的被害としてはあんなもんだろう。彼がやらなくても、いつか誰かがやらなきゃいけないことだったろうし。ただ、そういう……非難のしようがない大迷惑を引き起こすあたりがズルい。それも多分あの一度きりだけだろうから本当にズルい。  なんていうか彼は一度天罰とか受けたほうがいいと思う。でもそうするとリヴァが不幸になるのが難しいところだ。リヴァに対しては本当にちゃんと父親やってるからズルい。いや、いいことだけど、ズルい。  なんだか僻んでるみたいになってきたが、その面は否定しない。存在自体がズルいんだあいつは。その上自覚して最大限に利用してくるから始末に負えない。ほんと撃つくらいしか対抗手段が思い浮かばないんだけど。でもそうしたらリヴァが……そればっかりだな。もう本当どうにもならない。  まあ親戚になってしまった以上はどうにかしていなしていくしかないわけだ。ああ絶望してきた。こんなに人を嫌いになれるなんて知らなかった。断じて言うが嫉妬じゃない、彼自身の性質の問題だ。根は悪い奴なのに社会的には悪い奴でもないから困る。ああいうのを本当の悪人っていうんだ。  ああもう、気が付いたら結局諦めるか諦めるかしか選択肢がないじゃないか。最悪だ。ちょっともうちょっと考えよう。どうにかして……どうにかなるのか? (追記)  やっぱりあれはどうしようもないと思う。出来る限り関わらないのが最善と言うしかない。 (追記)  最近自分が義兄上と同じことしてるような気がして考えるとちょっと本気で死にたくなる。因果は巡るってことなのか。色々次元の違う話ではあるが。 (p3.残りは空白) p4.ティルスティアル  義兄の話をしたので故郷の話についてもしようと思う。とにかくまともな街じゃなかった。出てきた今は余計にそう思う。義兄のやったことで少しはまともになったのか? いや、一級の犯罪者が一人いなくなっただけの話で、あの街そのものの特性は全く変わっていない。  別にナイトメアがどうこう言う気はない(リヴァだってそうだし)けど、あれだけ集まるのはやっぱり何か歪んでる。生まれつきの穢れはどうしようもないし、そんなところで判断はしたくないけど、個人単位ならともかく、社会単位で一度許容すると際限がなくなる。  これまで破綻しなかったのは、彼らがそれでも人族の間で生きていたいから。そして、そんな彼らを許容して得をする者がいたから。他に行き場のない人々だ、利用しようと思えば簡単。彼女が街の成り立ちから関わってたことを考えても……色々考えると本当に怖くなる。僕が見たごく一部の研究成果からしても。ああいうの全部義兄が引き継いだはずだけど……うわ。いや、悪用するとは思ってない。その辺は一応信用というか理解してはいる。でも、人が得ていい知識には限界があると思う。  結局、そういう、際限のない知識欲……姉上や義兄上を見ていても思うけど、好奇心はグラスランナーを殺すだけじゃなく、人を傷つける刃物にだって容易になり得る。それも業ってやつか。今のままでいたくないと思うから、新しい何かを求めるから、線の引き方を間違えればどこまでも行ってしまう。その一つの結晶が、あの街の姿なんだろう。  これからあの街はどうなっていくんだろう。リードは手を加えることを放棄した。あれは本当に無責任だと思うけど、悔しいことに理解もできる。なるようにしかならないのだ。  例え全てが落ち着いたとしても、僕は多分あの街には帰らない。リヴァや両親がいる以上、たまには寄らざるを得ないだろうけど。だけど、今、あの街影を見たら泣きそうな気がする。あの街に残っている、いい思い出は全部…… (追記)  一度帰ってみた。やっぱり居心地悪い。でも、故郷は故郷、か……。 (p4.残りは空白) p5.アンデッド  案外埋まらないものだ。文句はいくらでも出てくるけど、結局何度も同じことを繰り返して言ってるだけなんだな、僕。あー馬鹿馬鹿しい。そりゃ心配もされるよ。  踏み込んで考えるのが怖いのもある。でも、核心を突かずに周辺について文句を言っているだけじゃ、いつまでたっても終わらないのもわかってる。  苦手なものばかりの僕の、多分一番苦手なもの……姉上、と言いたいところだが、いつの間にか順位が入れ替わっていたらしい。  ……アンデッド。  死は、それだけで恐ろしいものだ。それが、さらに……。死者が帰ってくるなんて。それも生前と同じ姿で、生前とはまるで違う――  悪夢だ。覚めない悪夢。出会ったら何も考えずに銃を乱射するしかないくらいの。まあ、後悔は撃った後にやって来るものだが。  同じ相手を二回殺すことになるなんて。  だめだ、整理がつかない。逃げたくないのに。  ごめん、ごめん、ごめん…… (追記)  怖くて触れることもできなかったものについて、少しは考えることができるようになった。辛いけど。  あの時僕がドゥエルを撃ったように……これからも僕は何度だって、自分が生き残るために死者を撃つんだろう。いなくなった人が残していったものを粉々に壊すんだろう。  眠らせる、なんて、そんなこととても言えない。姉上ならきっとそう言うんだろうけど。必要なら起こすことだってするんだろう。そうしてまた葬る、それが責任だと言って。  今の僕は姉上を批判できない。姉上の開き直ったエゴだって、僕の生き残りたいエゴと結局は変わりがないから。  ただ、わだかまる靄をどうにかする方法だけ見つけたい。逃げずに、甘えずに。 (p5.残りは空白) p6.操霊術師  駄目だ、これは駄目だ。ちょっと軽く愚痴って調子を上げよう。  操霊術師が嫌いだ。姉上がそうだからだ。というかあいつもあのひともついでに父上もそうだが。  いや、職業に貴賎はない。別に差別する気はない。個人的に苦手なだけだ。なんか、こう……どこまでが生きてるもので、どこまでが生きてないものなんだかわからなくなる。まあ魔動機術も突き詰めると似た所はあるのだが、魔動機術は技術だ。技術に心が乗るのはそれなりに当然だと思う。操霊術って、始めから心とか魂から操りに行く感じが苦手だ。この辺は姉上あたりに言わせれば色々反論もあるだろうが、感覚の問題なので譲る気はない。  あと人形。正直怖い。動くのはまだいい、視線が怖い。その場にいない誰かが見てるとか反則だろう。片っ端からマナ・サーチ? こっちが持たない。  そりゃまあ、味方の操霊魔法は有難い。でもそれは、それがどんな効果で、何のために使うのかがわかってるからで……それがわからないと本当に怖い。操霊魔法に限った話でもないだろうが。  まぁ、偏見だ。ちょっと極端な部分を見過ぎた。アンデッドとかアンデッドとかゴーレムとかアンデッドとか。  姉上もいつの間にかそれなりの操霊術師になってしまって、いつ道を踏み外すかと不安でしょうがない。とりあえずゴーレム作られる前に戦闘に入らないと高確率で詰む。いやゴーレムなしでもまず詰むのだが。本当どうしよう、物理的に勝てそうもない。  やっぱりもっと腕を上げないと。二丁拳銃よりジェザイルで遠くから射撃するのがいいだろうか。ショットガンとか撃てるようになればまた違うかもしれない。いっぺんに撃てるし。  ……まぁ、言ってるだけだ。本当にやる気はない。その程度は一応、信じている。  それでも、やっぱりどこか恐怖はある。姉上が、本当にあのひとの様になってしまったら、どうしよう、と……。  僕の知っている姉上は、とうにどこかに消えてしまって、今の姉上が何を考えているのか、僕にはまるでわからない。それでも今はまだ、目の前にいる姉上の態度は、昔と何も変わらないけれど……。 (p6.残りは空白) p7.ゴーレム   何と言っても厄介なのがパペットゴーレムだ。アンデッドよりは気分的にましではあるけど、あれも充分気持ち悪い。  物に命が宿る、っていうのはギリギリわからないでもないんだ。でも、宿らせる、ってなんだかなと思うんだ。それで命令に服従させるとか、うーん。ルーンフォークとの主従関係なんかとは何かが根本的に違うと思う。  単純に、相対する敵としても、硬いゴーレムは厄介なものだ。なんせあっちは生身じゃないんだから。銃の効きはだいたいそんなに悪くないとはいえ、頭に穴空けても平気で動くとか気持ち悪い。  敵としてじゃなくても、ちょっと苦手だ。どう接していいのかわからない。道具として使い捨てればいいのか、仲間として頼ればいいのか。これが馬とかなら元手もあるから出来る限り大事に扱うけど。  考えてみると、投影とか感情移入とかそういうのが苦手なのかもしれない。どことなく気持ちが悪い。そこにあるものの本質を見る、多分自分で苦手だからこそ、本質から離れたところに思い入れることに気持ち悪さを感じるんだと思う。もちろん、僕自身こそそういう物の見方から離れられないところはあるのだが、それを肯定してしまうことにはどうしても抵抗が、というか、いいことだとは思えない。  物は物、人は人、目の前にあるそれだけのことを余計な感情を入れずに認識するのは難しい。ある意味、ゴーレム側のほうがそれができているんだろうか。主人、その他、敵、命令……きっと、自動人形の中ではそれくらい物事がシンプルだろう。  でも、ゴーレムみたいになりたいとは思わない。自分の判断で、自分の考えで、自分の目で、世界を認識して動きたい。生きてるってそういうことだと思うし、それくらいできなきゃ生きてる意味がない。その上であらゆる偏見から遠く……  まあ、無理な話だ。特に僕みたいな弱い人間にはさ。 (p7.残りは空白) p8.海  海……初めて見た時はそれなりに感動したんだけど、一時間と持たなかった。  とにかく揺れる、酔う、足元が定まらない、陸が見えない……終わりが見えない……  飛行船にも乗ったけどそっちは結構平気だった。やっぱり何か、波のリズムと体質が合わないんだと思う。  空からは雲に入らなきゃ見下ろせるけど、波の下って見えないし。底がどれだけ深いのか想像してぞっとする。色々いそうだし。  やっぱりあれって人族の領域じゃないんだと思う。海に住むエルフだって、基本は浜辺にいるわけで。まぁ、自分の領域じゃないところに踏み込んでもロクなことはない。そういうことなんだろう。  ただ、そういう場所こそ冒険者の活動領域なわけで。依頼で海に行くことはそこそこある。そのへんは慣れていかないとどうしようもないけど、そのうち帰ってこれなくなりそうだ。ただでさえ街に戻るのが難しい場所だし。  でもどうせ死ぬなら海よりは内陸のほうがいい。死に場所を選べるほど贅沢な身分でもないが。あの波の底に沈むとか考えたくもない。  あぁ、だから、みんなじっくり眠れないから、海って怪談話とかの舞台になりやすいのかもしれない。……嫌なこと考えてしまった。 (追記)  なんだかんだで水着とか買ってしまった。何やってるんだろう僕は。まぁ、泳げないわけじゃないんだ。でも波と遊ぶってのはあんまり……。 (追記)  ちょっと潜って色々考えた。考えがまとまらなかった。 (p8.残りは空白) p9.ティダン  ティダン神官の魔法で死にかけたことがある。あれは本気でもう駄目だと思った。海の上だったし。  まぁ、どんな信仰だって結局信じる人次第だし、敵に回すと怖いのはどの神だろうと同じことだ。でも、こう、実際に食らった身としては、やっぱりちょっと恨んでいいと思う。  ティダンって太陽か。そりゃ、なかったら困るけど、どちらかというと太陽が出てない時間のほうが落ち付く。前世は蛮族だったのかもしれないな。  朝、目が覚めて、まだ暗い時間。陽が昇ってくるのを見ると、憂鬱になる。また今日も一日が始まるのか、って。たまには休んでもいいと思う、太陽。  ……そういえば、あのひとは"白日の悪夢"とかって二つ名で呼ばれていたっけ。実際、悪夢だと思いたいが、間違いなく現実だ。  夜に潜むものよりも、太陽の下を堂々と歩くものの方が往々にして厄介だったりするものだ。そういう連中は自分に自信があって、人に見られても後ろ指を指されない立場にいる。それが善人であれば何の問題もないが、悪人……というか何か間違えた人だと、これが非常に厄介だ。問答無用で撃つってことができないから。本気で実力行使に出られたら勝てないって話もある。  太陽は世界を照らすけど、みんなきっとそれで安心してしまうから悪いんだと思う。光でも焙り出されない真実なんていくらでもあるのに。  まぁ、その程度にファジーなのが世の中ってやつか。基本的にはきっとそれで問題ない。ただ、それで安心していたら、時々思わぬところで転んだりすることがある。誰が悪いわけでもなく、ただ運が悪いってだけの話。  貧乏くじを引いたって仕方ない、そういう星の元に生まれついた。おおらかに太陽の下を歩いている人に恨みがあるわけじゃない。ただの愚痴だ。  まったく、毎日毎日どうして陽は昇るんだろう。どうせ今日もいいことなんてないんだ。 (追記)  ……でも、明日はいいことがあるのかもしれない。 (p9.残りは空白) p10.落下  高い所から落ちると痛い。当たり前だ。  冒険者やってると、どう見ても無茶っていうような崖にも登らなきゃいけないことがある。協力すれば案外登れるものだが、それでも落ちる時は落ちる。幸い命に関わるほどの怪我をしたことはないが、あのみぞおちがヒュッとする感じはもう……。  高い所自体はそんなに苦手じゃない。でもそこまで行くのが大変だ。ロープでとか……便利な魔法もあるらしいけど、それでもなかなか大変だと思う。戻ってこなきゃいけないし。  ……いっそ帰りは飛び下りれば楽かもしれないな。いろんな意味で。やれないけど。  下に下に、吸い込まれるような。海が苦手なのと同じだ。落ちるのは怖い。人間、普通空は飛べないし、水に溺れたら浮き上がれないんだ。  逆らわなければきっと楽で、でもそうするのを怖いと思うのは何故なんだろう。そして、その一方で憧れもする。どこまでもどこまでも、落ちて行けるならきっと、気持ちがいいだろうと。  でも実際にはそうもできずに、ただ滑り落ちて怪我して地べたでのたうち回るだけだ。まったく、中途半端で嫌になる。  僕は生きていたいんだろうか、それとも楽になりたいんだろうか。実のところとっくに答えは出てるんだ、ここにこうして居る以上。だから落ちるのは嫌だ。でも痛いのも嫌だ。ならどうして冒険者なんてやってるんだろう。願望と現実の落とし所ってことか。情けない話だ。  まぁ、いつか果てしなく落ちていくならそれもいいと思う。誰かを道連れにさえしなければ。 (p10.残りは空白) p11.資金難  支出が多いと胃が痛くなる。収入は上がってきたけど、その感覚はあんまり変わらない。まあ命のほうが大事だから、弾込めだって照準だって魔晶石を潰してどうにかするんだけど、その度にかかる金額を考えると……でも使わないで外すともっともったいないし。  費用対効果っていうんだろうか。それで言うとあんまり逸脱したことはしてない、と思う……でも、出費を考えるとどうしても暗くなるのは性分だ。  別に実家だって経済事情が悪かったわけでもないのに(良くもなかったけど)、どうしてこう締まり屋になったんだろう。自警団時代だって、自由に使えるお金こそ少なかったけど、生活に困ってたわけじゃなし。何でも無駄にすることが気になるようになったのは、それこそここ数年な気がする。  でも記録癖は昔からだな……。細かいことを気にする割に、いざって時に勘が鈍いのも。やっぱり性格としか言い様がないかもしれない。姉上と正反対だ。いいんだか悪いんだか。  姉上はちょっと浪費家の傾向があると思う。気が付くと見たことないもの持ってる。冒険者って大抵そういうものではあるけど、姉上の場合……ちょっと使う機会がなさそうなものが多いような。そりゃ、持ってれば便利に使えることもあるかもしれないけど、それにしたってわざわざ買うものかなあ、っていうような。人形とかは置いといても。  もっとも、姉上の場合は資金に余裕があるんだと思う……いや、収入を比較したわけじゃないし、よく知らないけど。  僕の場合とにかく魔晶石と、馬とかのレンタル代、それから拳銃を強化するための貯蓄。揃えておかないといけないものが多すぎて。弾だってタダじゃないし。  出費を惜しむと後でもっと大きな損につながる。だから惜しまない。だから資金繰りが厳しくなる。……あれ、堂々巡りじゃないか。抜け出せるのかこれ。  まったくもって頭が痛い。今日の夕飯は肉なしにしよう。 (p11.残りは空白) p12.命中率 p13.女性 p14.強い香り p15.手持無沙汰な時間 p16.チェス      

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: