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『the Grace like a glass or grass』」(2010/06/28 (月) 02:36:39) の最新版変更点

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『the Grace like a glass or grass』  騙されたなんて思っていない。  でも、許すつもりもない。 「行ってらっしゃい」  扉に手をかけた途端、声をかけられた。  思わず振り返った。不覚。  いつも通りの微笑を浮かべたリードが、そこにいた。  彼がその腕にリヴァを抱いていなかったら、傍らの花瓶でも投げつけてやったものを。 「もう、帰らないわ」そんな言葉を投げるのがやっとだった。 「待ってるよ」いつも通りの笑顔で、そんな風に言う。彼は気付いているだろうか。その笑顔が、あまりにもよく似ている事に。今はもういない、あのひとに。  名前を貰った。憧れを貰った。だから、私は、どうしてもあのひとを越えなければならない。そうでなければ……あのひとほど賢くもなく、美しくもなく、永遠でもない、数十年で老いて死んでしまう私の存在に、何の意味もなくなってしまうから。  だから私は自分を騙す。何も持っていないのに、何よりも欲しい物を手に入れてしまった自分を、否定する。  どうして、彼があの計画を立てたのか。どうして、私に何も言ってくれなかったのか。今なら、聞かなくてもわかる。だから許せない。私の辿りつく先、その全てに先回りしていた彼を。  だから私は先に進む。道がなくても、先の先に進む。 「……もう、行くわよ」 「レンデ」  両腕で抱いていたリヴァを、肩の上に抱く体勢に変えて、リードは私に顔を近づけた。鼻が触れ合いそうなほど、近くに。そして、目を閉じる。 「…………」  引っ叩いてやろうかと思ったが、そうしたところで負けな気がする。ほんの僅かに、背伸びをして、彼の望む通りにする。  そうした途端に、涙が溢れそうになって、急いで後ろを向く。  がちゃり、と、扉を開けて、ばたん、と、振りかえらないまま閉める。そして、走り出す。  白み始めた空に浮かぶ、朝日の色を映した雲が、どうしようもなく綺麗だった。
『the Grace like a glass or grass』  騙されたなんて思っていない。  でも、許すつもりもない。 「行ってらっしゃい」  扉に手をかけた途端、声をかけられた。  思わず振り返った。不覚。  いつも通りの微笑を浮かべたリードが、そこにいた。  彼がその腕にリヴァを抱いていなかったら、傍らの花瓶でも投げつけてやったものを。 「もう、帰らないわ」そんな言葉を投げるのがやっとだった。 「待ってるよ」いつも通りの笑顔で、そんな風に言う。彼は気付いているだろうか。その笑顔が、あまりにもよく似ている事に。今はもういない、あのひとに。  名前を貰った。憧れを貰った。だから、私は、どうしてもあのひとを越えなければならない。そうでなければ……あのひとほど賢くもなく、美しくもなく、永遠でもない、数十年で老いて死んでしまう私の存在に、何の意味もなくなってしまうから。  だから私は自分を騙す。何も持っていないのに、何よりも欲しい物を手に入れてしまった自分を、否定する。  どうして、彼があの計画を立てたのか。どうして、私に何も言ってくれなかったのか。今なら、聞かなくてもわかる。だから許せない。私の辿りつく先、その全てに先回りしていた彼を。  だから私は先に進む。道がなくても、先の先に進む。 「……もう、行くわよ」 「レンデ」  両腕で抱いていたリヴァを、肩の上に抱く体勢に変えて、リードは私に顔を近づけた。鼻が触れ合いそうなほど、近くに。そして、目を閉じる。 「…………」  引っ叩いてやろうかと思ったが、そうしたところで負けな気がする。ほんの僅かに、背伸びをして、彼の望む通りにする。  そうした途端に、涙が溢れそうになって、急いで後ろを向く。  がちゃり、と、扉を開けて、ばたん、と、振りかえらないまま閉める。そして、走り出す。  白み始めた空に浮かぶ、朝日の色を映した雲が、どうしようもなく綺麗だった。      

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