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『兄と、妹』」(2010/06/27 (日) 19:51:23) の最新版変更点

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『兄と、妹』 "殲滅銃姫" あの子は最近、そう呼ばれているんだそうだ。 確かにそれは、あの子の一面だと思う。でも、僕があの子に見たものは……   「SSさん」 「SSたん、でございます」 「それ、恥ずかしいんだよ……」 そんな話をしている僕らを見て。フラットさんが、にっこりと笑った。 「わたしのように、SSたんさん、とお呼びする、とか?」 だが、あの子は、この点にはすごくこだわっている。 「さんもなるべく付けない。【SSたん】りぴーとあふたーみー?」 ついに退路を失って、僕はその呼び名を口にした。 「え、えすえす……たん」 多分、僕は真っ赤になっていたと思う。 あの子は満足したように、小さく頷いた。 「フレッドさんはGJでございますが、フラットさんは……まあ、そのうちでございますね」 そんなあの子に、フラットさんは思いもよらないことを言った。 「うーん……ね、代わりにフラット姉さん、と呼んでみてくれない?」 すると、あの子は、案外あっさりとその案を容れた 「そうですね。私ばかり要求するのもアレでございます。…アーアーアー…フラットおねぇちゃん☆」 突如オクターブ跳ね上がったその声に、仲間たちはみなひっくり返った。 「く……数多くの妹達から姉さんと呼ばれた私を以ってふらつかせるとは……SSたん、やりますね……?」 フラットさんは大ダメージを受けている。   そんな時。 つい、言ってしまったんだ。   「あ、それじゃ僕も、お兄ちゃんって呼んでくれると……」   「……ふう。フレッドさん……セクハラはよくないことでございますよ?」   せ、セクハラ? そんなんじゃない、と否定する間もなく、仲間たちが僕をはやし立てる。 「……お兄ちゃん?」 ルスファが、きょとんと首を傾げて僕を呼ぶ。 「ほら、行くよ兄者~」 アーニャが僕の背中を叩く。   ……あれ?   ふと。 罪悪感が沸きあがってきた。 妹……エレノアに対する。   僕の妹はエレノアだけだ。他の子に兄と言われて、どうしようというんだろう。 ホームシック、なのかもしれない。もう半年も会っていないのだから。 だからといって、誰かを誰かの代わりにするなんて、許されないことだ。 でも、それ以上に……   僕は、混乱していた。     伯父の屋敷は、昔僕ら家族が住んでいた屋敷よりもずっと大きい。 母も妹も、ここで不自由はしていないだろう。 「ここにフレッド兄やんの妹さんがいるんすねっ」 なぜかついてきたヒューイが、にかっと笑う。   ヒューイはさすが、すぐ屋敷に溶け込んだ。 メイド長なんて、息子を見るような目でヒューイを見ていたし。   僕はと言うと…… 馴染みのない屋敷の、与えられた部屋で、小さくなりながら、伯父の言葉を頭の中で繰り返していた。 「……現在、エレノアの立場は、アマーリアの庶子というものにすぎない」 「エレノアが成人するまでに、君かウィルフレッド君の手によって、ジェード男爵家の復興が成らなければ……」 「エレノアは、私の養女として、ベリル伯爵の娘として、社交界に出すことにする」   あと三年。あと三年で、僕か父さんがジェード家を再興すれば…… それは、とてつもなく遠い、けれど、目指さないわけにはいかない道だ。 そうでなければ、僕たちは……家族ではなくなってしまう。   「兄さん」 エレの声。 何も変わらない、エレの声。 僕は、いったい、何を惑っていたのだろう? 僕らは兄妹だ、疑うまでもなく。これまでも、これからも、ずっと。 そう、はっきり望んで、歩いていかなければならないのに。 「……どうしたの、エレ?」 彼女は、後ろ手に何かを隠し持っているようだ。 「あのね、これ、自分で作ったの。……兄さんに、あげるね」 渡されたのは……くまのぬいぐるみ。 「作った、の? エレが?」 貴族の子女だって、裁縫を習うことはあるだろうけど、エレがやっていたのは見たことがない。 実際、そのぬいぐるみは、ところどころ糸がほつれていて…… 糸には、赤く、血が滲んでいた。   「……エレ」   僕は、そんなエレが心底愛しくて。   でも、なんだろう。この違和感は?   (エレノアは、僕の……)     「この子のこと、私だと思って……放さないで」 「かわいがってあげてね。……兄さん」     end        

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