♪五年くらい前のおはなし 「やぁ。飲まない?」 「……見てわからない?」 「本なんて何時でも読める……って事もないか。昨日から頁が進んでいない」 「あなたが何かと邪魔しに来るからでしょう!」 「飲み物を差し入れてあげているだけじゃないか」 「集中が乱れるのよ!」 「本当に邪魔なら、来るの止めるけど?」 「…………」 「まぁ、とりあえず。いいワインだよ?」 「……よく飲むわね、あなた」 「人並みだと思うけど? あ、きみの分は割った方が良いのだった?」 「……えぇ。私はあなたと違って、酒に酔っている暇などないの」 「また頭痛で寝込んでも困るしね?」 「あの時は慣れていなかっただけよ!」 「それなら、そのまま飲んでみる?」 「……いただくわ」 「……よし。それじゃ、乾杯」 「……乾杯」 「僕たちの未来に」 「……たち?」 「はは、酷いな。僕に未来があったら悪い?」 「悪いわ」 「それはどうも」 リヴァはすやすやと寝入っている。朝までぐっすり寝てくれるようになってきたから、楽になった。流石に一人にはできないので、ベッドの傍らで本を読んでいる。 変わった事もないまま、今日も一日は過ぎていく。 ……あぁ、期待していたんだろうか。 落胆している自分が面白い。いや、落胆とは違うかな。ただ単に、会いたいだけだ。 僕がそう思っているという事は、彼女もそう思っているのだろう。それだけで充分だと、常々は思っているのだけれど。 「……会いたい」 口に出して言ってみる。まるで恋に悩む少年のようだ。20歳にもなって。 声を殺して笑っていたら、リヴァが煩がるような声を上げた。 そのまま小さく寝返りを打つ。単なる寝言だったのだろう。 穏やかで幸せそうな寝顔。彼女によく似ている。 今ごろ、彼女も、こんな顔で眠っている? それとも、僕と同じ思いに駆られて懊悩している? 確信を持って言うが、後者だろう。 ――やぁ、ファーレンディア。僕の事を考えてくれてる? ――馬鹿馬鹿しい。貴方の誕生日なんて憶えてもいないわ。 ――また、君に追いついたよ。 ――貴方と私では、過ごしてきた時間の意味が違うわ。 ――まぁね。でも、僕なりに色々あったよ、この一年も。 ――私の知った事ではないわ。 ――プレゼントくらい、くれたっていいと思うな。 ――贈り物なら、もう、あげたでしょう? 一生分。 ――それ以上のものを貰ったよ。でも。 僕は、強欲なんだ。君と同じ位にね。 イメージの中で、彼女は、憮然とした顔をして…… それは、直ぐに微笑みに変わった。 僕たちは笑い合う。鏡のように、そっくりな仕草で。