映画『桜桃の味』アッバス・キアロスタミ監督


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アッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』(1997)

老人────

ひとつわしの思い出を話そう
結婚したばかりの頃だ
生活は苦しくて
すべてが悪くなるばかりだ
わしは疲れ果て
死んだら楽になると思った
もう限界だとね
ある朝 暗いうちに
車にロープを積んで
家を出た
わしは固く決意してた
自殺しようと
1960年のことで
当時はミアネに住んでいた
わしは家の側の果樹園に
入っていった
1本の桑の木があった
まだ辺りは まっ暗でね
ロープを投げたが
枝に掛からない
1度投げてだめ
2度投げてもだめ
とうとう木に登って
ロープを枝に結んだ
すると手に何か
柔らかい物が触れた
熟れた桑の実だった
1つ食べた 甘かった…
2つ食べ 3つ食べ…
いつの間にか夜が明け
山の向こうに日が昇ってきた
美しい太陽!
美しい風景!
美しい緑!
学校へ行く子供たちの声が
聞こえてきた
子供たちが木を揺すれと
わしは木を揺すった
みな落ちた実を食べた
わしは嬉しくなった
それで 桑の実を摘んで
家に持って帰った
妻はまだ眠っていた
妻も起きてから
桑の実を食べた
美味しいと言ってね
わしは死を置き忘れて
桑の実を持って帰った
桑の実に命を救われた
桑の実に命を救われた

主人公────
   桑の実を食べたら
   万事うまくいったと?

老人────

そうとは言わないが
わしが変わった
わしの気持ちが変わったし
考え方も変わった
すべてが変わった

この世の人間は誰でも
悩みを抱えて生きてる
生きてる限り仕方ない
人間が何億いようと──
悩みのない人間はいない

悩みを教えてくれたら
もっと上手く話ができたが
あんただって 病院に行けば
医者に痛む所を
教えるだろ?

あんたはトルコ人じゃないから
一つ 笑い話をしよう

怒らないで

トルコ人が
医者に行って訴えた

“先生 指で体を触ると
あらゆる所が痛い
頭を触ると頭が痛い
足を触ると足が痛い
腹も痛い 手も痛い
どこもかしこも痛い”

医者は男を診察して
こう言った
“体は何ともない
ただ指が折れてる”と

あんたの体は何ともない
ただ考えが病気なだけだ

わしも自殺しに行ったが
桑の実に命を救われた
ほんの小さな桑の実に

あんたの目が見てる世界は
本当の世界と違う

見方を変えれば
世界が変わる

幸せな目で見れば──
幸せな世界が見えるよ