あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのツカイマ ~The Servant~

 ――――Servant
       ・使用人。従業員。奉仕者。
       ・従者。下僕。
       ・使い魔。

 ――――Strait Jacket
       ・拘束服。
       ・成長(発展)を妨げるもの。
       ・――の、俗称。


 ――どうということのない、ごくありふれた一日。
 少なくとも、目が覚めた時点ではそのはずだった。

 ふと思い出して、そろそろ底を尽きかけてきた生活必需品を買い出しに車で町に向かい、
たまたま通りすがった知人と、やはりどうということのない会話を交わし、
ストリートに面したオープンカフェで軽く一服をして、家路についた――その、はずだった。

 起こったことだけ抜き出せば、それはこの様になる。 

 ハンドルを握り。
 車を運転していたら。
 突如、正面に光る"なにか"が顕れ。
 ハンドルを切る間もなくそれに突っ込み。

 そして、気がつけば――――


「あんた誰?」

 一見して桃色のようにも見えるブロンドの髪をした少女が、まじまじと自分を覗き込んでいる光景を目の当たりにしていた。

「……レイオット。レイオット・スタインバーグ」

 自分が地面に横たわっていることにも気づかずに――どこか靄がかかったかのようなはっきりとしない思考の最中。
請われるがままに、男は己の名を告げていた。


 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、眼前に突きつけられた現実に、
感情が爆発しそうになるのを必死に堪えながら、地面に横たわる"それ"を見下ろしていた。
 この目の前に転がっている"これ"が何者であるのかは依然として不明ではあったが――
"これ"が何であるのかは、不幸にも明確に理解できた。すなわち――

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

 わき上がる哄笑。思わず、奥歯をかみしめる――だが、それは見えないように。
 そう。こんな事はいつものことだ。

 ――落ち着け、落ち着け。それこそ呪文のように、ルイズは己に呟いた。

「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」

 怒鳴る――それが、たとえ虚勢であろうとも。
 ……違う、違う。そうじゃない。
 これは間違えただけ、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、間違えてしまっただけなのだ。
 これは失敗じゃない。私はちゃんと"召喚"できている。だから、だから――

「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「さすがは"ゼロのルイズ"だ!」

 そんな風に、呼ばれる筋合いなんて、ない。

「ミスタ・コルベール!」

 私は召喚できたんだ。だから、もう一度やれば、こんな平民の男なんかじゃなくて。

「あの! もう一回召喚させてください!」

 ちゃんとした、私にふさわしい"使い魔を"――
 だが。そんな私のささやかな希望は。コルベール教師の一言で閉ざされた。

「――一度呼び出した"使い魔"は変更することは出来ない」

 それは神聖な儀式なのだから。ミスタ・コルベールはあっさりと宣った。
 分かっている。そんなことは分かっている。だから――だからこそ。
 この神聖な儀式に、人間の"使い魔"なんて、そんなトンデモナイものがまかり通っていいはずが――!

「――これは、伝統なんだ。例外は認められない」

 儀式は、儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
 例えそれが、古今例のない『使い魔として呼び出されたのが人間だった』としても。
 今までに例がないのならば、これがその"前例"になる。言外に、ミスタ・コルベールは言った。

 肩を落とす。分かってはいた。言われずとも、分かってはいた――だが、納得は出来ない。
 当たり前だ。せっかくの使い魔。大切な契約。生涯、恐らくはたった一度の儀式。
 まだ見ぬ己の"使い魔"に期待を馳せていた結末が、この平民だというのだろうか。

 だとしたら――あまりにも、酷すぎる。


「――何度も何度も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから、早く――」

 次の授業の時間、なんてものを気にする教師に、ルイズはただ、惨めな気分を飽くほどに味わっていた。
"お前の使い魔よりも、授業の開始時間の方がよほどに大切"――言葉にはされなかったが、明確にそう言われたも同然だったからだ。
思わず目元が熱くなりかけるが――

「……分かりました」

 意を決し、ルイズは一歩を踏み出す。
 半ば殺意を含んだようなその視線の先には、いつの間にか起き上がって、
 胡乱な表情でこちらを見つめている、平民の姿があった。


「……お話は終わったか?」

 レイオット・スタインバーグは呟いた。

 いきなり、草原に放り出されている。
 その事実を自覚した時、流石に混乱せざるを得なかったが――同時に、傍らで訳の分か
らないことをごちゃごちゃと話している一団に気がつくのにも、そうは時間はかからなかった。

 なにやら込み入った話をしているようではあったが、生憎とその会話の内容は一言たりとも理解できない。
 ただ、なんとなく――ちらちらとこちらに対して向けられる無遠慮な視線から、
 自分のことについて話をしているのだろう、と見当をつけた。
 さて一体どうやって話しかけたものか。そんなことを悩んでいると、話がまとまったのか、
 一番最初に対面した少女が、強面を浮かべてこちらへと歩み寄ってくる。

「――それで。もし知っていたらでいいんだが。いったい何でまた、俺はこんなところに居るんだ?」

 確か車を運転してたはずなんだが――なんてことを付け足してみる。
 だが、少女が返した反応は、意味が分からない、とばかりに眉をひそめた、ただそれだけだった。
 次の瞬間、彼女は不機嫌な――というよりは殺意さえ抱いているような表情で手にした
小さな杖をこちらに差し向けると、それを小さく振りながら、

「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ――」

 朗々と、韻を踏んだ詩を唄う。
 同時に、図案を描いているかのように虚空を踊る杖。その姿に、自然とレイオットは呪文の詠唱、という言葉を連想する。

 だが――と、レイオットは独語した。それはあり得ない。彼女は、"鋳型"を纏っていない。
 鋳型に縛られていない人間は、"魔法を使っては"ならない。
 それが、彼にとっての常識だった。しかし――

 すっ……と、杖が額に触れる。そして次の瞬間、レイオットの視界に飛び込んできたのは――

「――――は?」

 目を瞑り、唇を近づけてくる少女、という、なかなかに衝撃的な光景だった。

「いや、ちょっと待て! 一体なんのつもりで――」
「いいからじっとしてなさいっ!」

 抗議の声を上げるこちらを、まるで射殺さんばかりの眼差しでにらみつける少女に、思わず言葉を飲み込んだ。
 そしてその瞬間。少女の唇が、男の唇へと重ねられ。

「……終わりました」

 不機嫌さを隠そうともしない声音で少女は呟いた。
 ややうつむき加減で、表情はよく見えない。
 その光景に、この場で唯一の大人と言っていい、頭髪の薄い、眼鏡をかけた中年の男が、うれしそうに何かを言っていた。
 さっぱりと、訳が分からなかった。

「……取り込み中のところ、悪いがね」

 こちらの声がようやく届いたのか、少女――ルイズと名乗ったか――と、中年男の視線がレイオットへと注がれる。
それを確認して、レイオットは服についた土汚れをはたきながらゆっくりと立ち上がると、

「……今のはいったい何の真似だ?
 初対面のいい年した男に女の子がキスだなんて尋常じゃないぞ。それに――ここは、一体」

 どこなんだ、と続けようとしたその刹那。
 突如として、左手に激痛が走った。

「が―――!?」

 痛み、だと思ったのは、実際には熱だった。熱い。とてつもなく熱い。
 何の前兆もなく身体の内側から、すべてを焼き尽くすかのような異様な"熱さ"がわき起こり、
 それが痛覚となって脳を駆けめぐっている。
 立ち上がったばかりの膝が再び地面に崩れ落ち、痛みを押さえ込むかのように左手を右手で押さえつける。

 しかし当然と言うべきか、そんな仕業にはなんの意味もなく。
 痛みと熱は、依然として全身を駆けめぐっていた。

「くそっ……たれ! 今のは、いったい何だっ!?」

 まるで幻だったかのように熱はかき消えた。
 時間としては、ほんの一瞬のことだったようだったが。
 しかしながら、刻み込まれた痛みはまるで焼きごてを直接神経に押し当てられたかのようで――待て。

「……なんだ、これは?」

 見下ろした左手の甲に、見たこともないような文様が浮かび上がっていた。
 それこそ――あたかも、"焼きごてで焼き付けられた"かのように。

「『使い魔のルーン』よ。そんなの、当たり前でしょうが」

 苛立ったように、ルイズが吐き捨てる。うずくまるような姿勢のレイオットを忌々しげに見下ろしながら、

「これで――あんたは、私の『使い魔』よ」

 言葉の意味は理解できなかったが――
 なにやら、とんでもないことに巻き込まれたという事実だけは、はっきりと、理解できた。

「――勘弁してくれ」



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