あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『零』の使い魔-8

図書室での惨劇の翌朝。
着替えるルイズは、後ろを向いている双識に尋ねた。

「ねえ、昨日の傷……大丈夫なの?」

「昨日の傷?」

「ほら、ギーシュのワルキューレに殴られた傷よ。あのとき凄い音がしたんだから」

ルイズの声に、心配そうな声色が混じる。

「大丈夫。ルイズちゃんに殴ったり蹴ったりされた傷の方が重傷だよ」

双識は軽い冗談を言ったつもりだった。
だがその軽い冗談は、ルイズの感情をいたく逆撫でしたらしい。
途端にルイズの機嫌が悪くなるのがわかった。

「あんたのことを心配した私が馬鹿だったわ!ソーシキ!あんた、今日食事抜き!」

頭がはっきりしてくるにつれ、双識は寝起きの自分を恨んだが、時すでに遅し。
粗食とはいえ、食事があるありがたみを、切に感じさせられる羽目になってしまった。
断続的に襲ってくる空腹に耐えながら、双識はふらふらと彷徨っていた。


「あの――」

いつの間にか、目の前にメイド服を着た少女が立っていた。双識はその少女に見覚えがあった。

「ああ、きみは……」

「シエスタ、です。ソーシキさん……でよろしかったですよね?」

名前を知っているということは、シエスタは、ヴェストリ広場での決闘を覗いていたのだろう。
それより、シエスタはどうして急に話しかけてきたりしたのだろうか。

「私に何か用かな?」

双識が問いかけると、シエスタは俯いて、話し始めた。

「はい……あのとき、助けてくれたソーシキさんを置いて、私、逃げてしまいました……そのことを謝りたくて……」

シエスタは決闘について、彼女なりの責任を感じているようだった。
それでわざわざ謝りに来た、ということなのだろう。根が律儀な性格のようだ。

「あれは私が酔狂でやったことだよ。きみはきみの職務を果たしただけなのだから、そんなに気に病む必要は無いさ」

なるべくシエスタを安心させるように、双識は励ます。
その甲斐あってか、憂鬱な表情をたたえていたシエスタの顔に、少し笑顔が戻った。

「……もしよろしければ、お礼も兼ねて、厨房でシチューでも召し上がっていかれませんか?
 ミス・ヴァリエールのお食事は量が……その、いささか少ないようですから」

その量がいささか少ない食事すら無く、飢えている双識にとっては、それは願っても無い提案だった。
一も二も無く、双識はシエスタの好意に甘えることにした。


厨房を訪れると、マルトーと名乗る、血色の良さそうな男が双識を喜色満面で出迎えた。
シエスタから聞いたのか、マルトーはヴェストリ広場での決闘のことを知っているようだった。

「シエスタのために、怪我までして貴族に立ち向かってくれたんだって?すまねえなあ」

やはり貴族――メイジというのは、平民にとっては畏怖、嫌悪の対象なのだろう。
マルトーの言葉の端々からは、貴族に対する根強い敵対心が伺えた。

「いやそれは成り行き上、仕方なく、というか――」

「それでも凄え!大した度胸じゃねえか!女のために体張るなんざ、漢の鑑だ!うちの若いもんにも見習わせたいくらいだぜ!」

「いや、だから――」

「ソーシキさん、そんな謙遜なさらないでください」

シチューを運んできたシエスタが、合いの手を入れる。正直、勘弁してほしかった。

「ま、これは心ばかりのお礼だ!たんと食べてくれ!」

豪快に笑うマルトーに苦笑しながら、双識はシチューを啜った。
賄いとは言っていたものの、それは文句のつけようが無いほど美味しかった。
何せ、この世界に着てから始めてのまともな食事である。空腹は最大の調味料、とはよく言ったものだ。
スープ皿は、あっという間に空になった。


満腹になり人心地ついた双識は、背もたれに体重を預けて、久々に味わう満腹感に浸っていた。
厨房ではシエスタがハサミと思しきものを使って、硬いままのパスタを切っている。
双識の中で、違和感が首をもたげる。
――ハサミと思しきもの?

「あああああああっ!」

突然立ち上がった双識に驚いたシエスタが、小さく息を呑んだ。

「そ、それ!」

「ああ、このハサミですか?おととい、広場で拾ったんです。大きくて少し使いづらいけど、よく切れるんですよ」

双識の言わんとするところがわかったシエスタは、嬉しそうに手を動かす。大きな刃が小気味いい音を立てて閉じ、開く。
両刃式の和式ナイフを二振り、螺子で可動式に固定した合わせ刃物。
それは間違いなく、双識が長年愛用している凶器『自殺志願』だった。



「シエスタちゃん。大変言いにくいんだが――それ、私が落とした物だと思う」

「あ……これ、ソーシキさんのだったんですか……勝手に使って、すみませんでした」

申し訳なさそうに、シエスタは言った。

「いやいや、見つかっただけで十分だよ」

シエスタから『自殺志願』を受け取り、握った。驚くほどにしっくりと手に馴染む。
ひとしきり状態を確認すると、双識は『自殺志願』を背広の内ポケットにしまった。

「ありがとうシエスタちゃん。てっきりもう無くなっていたと思ったんだが……おかげで助かったよ」

「いえ、私もソーシキさんに助けられましたし、お互い様です」

シエスタがはにかむように笑うと、すかさずマルトーが厨房から茶々を入れる。

「おうおうお二人さんよ!いい雰囲気じゃねえか!」

途端に白い頬を朱に染め、俯くシエスタ。「若いねえ」としたり顔でマルトーが頷いている。
気恥ずかしくなった双識は、早々に退散することにした。

「おう!もう行っちまうのか!」

「ええ、シチューごちそうさまでした」

マルトーの声を背に厨房を出た双識は、大きく伸びをする。風が心地良い。
こうして、少しずつ自分はハルケギニアに馴染んでいくのだろう。双識は漠然と思った。

(マルトー――合格)
(シエスタ――合格)
(第八話――了)

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