あれからルイズは簡単に医師の問診を受け、問題なしと診断され、朝食前には退室できることとなった。
しかし仮に問診ではなく魔法まで用いた精密検査をしていたなら、大騒ぎになっていた事だろう。
ジェフティのコア、そしてADAと融合したルイズの体内はかなり変質しており、
半OF人間と言っても過言ではないくらいなのだ。
しかし現状、ルイズはそこまで事態の深刻さは把握していなかった。
医務室で彼女の使い魔を名乗る声、「ADA」から、恐らくは自身の有用さについて
説明を受けたが、正直半分も理解する事は出来なかった。
理解できたのは、ADAに実体が無い事。
現状、殆ど何も出来ないという事。
つまりは役立たずであるという事。
ルイズが自らの中で下した結論を率直に告げると、ADAは沈黙した。どうやら拗ねてしまったらしい。
その後、医師と入れ替わるように件の儀式の監督教師であったコルベール師が病室に入って来た。
考えるまでも無く使い魔に関する件だろう。
ルイズは心底不安気に左手のルーンを見せて、ADAの事を説明した。
「――と、言う訳なのですが……」
「……ふぅむ。これは全く前例の無い事象だね」
しきりに首をひねるコルベールだったが、ルイズよりは思考が柔軟そうであると判断したADAが声を発した後、状況は一変した。
最初は飛び上がるほどに驚き、警戒を露わにしていたコルベールだったが、
ADAと言葉を交わすにつれ次第にその声には熱が篭り、最後には感極まって叫びだした。
「素晴らしい! 全く以って信じられん!! いや実に素晴らしい!!」
どうやら彼はADAの意味不明の言語を多少なりとも理解できているようだ。
ルイズにはさっぱり理解出来ず、半ば置いてけぼりな感が漂っていたのだが、
とりあえずコルベール師はADAを使い魔と認めてくれたらしいと判断し、その点だけは心底安堵した。
そして実際にコルベールはルイズの使い魔を十二分に評価し、太鼓判を押してくれたのだった。
しかし仮に問診ではなく魔法まで用いた精密検査をしていたなら、大騒ぎになっていた事だろう。
ジェフティのコア、そしてADAと融合したルイズの体内はかなり変質しており、
半OF人間と言っても過言ではないくらいなのだ。
しかし現状、ルイズはそこまで事態の深刻さは把握していなかった。
医務室で彼女の使い魔を名乗る声、「ADA」から、恐らくは自身の有用さについて
説明を受けたが、正直半分も理解する事は出来なかった。
理解できたのは、ADAに実体が無い事。
現状、殆ど何も出来ないという事。
つまりは役立たずであるという事。
ルイズが自らの中で下した結論を率直に告げると、ADAは沈黙した。どうやら拗ねてしまったらしい。
その後、医師と入れ替わるように件の儀式の監督教師であったコルベール師が病室に入って来た。
考えるまでも無く使い魔に関する件だろう。
ルイズは心底不安気に左手のルーンを見せて、ADAの事を説明した。
「――と、言う訳なのですが……」
「……ふぅむ。これは全く前例の無い事象だね」
しきりに首をひねるコルベールだったが、ルイズよりは思考が柔軟そうであると判断したADAが声を発した後、状況は一変した。
最初は飛び上がるほどに驚き、警戒を露わにしていたコルベールだったが、
ADAと言葉を交わすにつれ次第にその声には熱が篭り、最後には感極まって叫びだした。
「素晴らしい! 全く以って信じられん!! いや実に素晴らしい!!」
どうやら彼はADAの意味不明の言語を多少なりとも理解できているようだ。
ルイズにはさっぱり理解出来ず、半ば置いてけぼりな感が漂っていたのだが、
とりあえずコルベール師はADAを使い魔と認めてくれたらしいと判断し、その点だけは心底安堵した。
そして実際にコルベールはルイズの使い魔を十二分に評価し、太鼓判を押してくれたのだった。
始祖ブリミルと女王陛下に祈りを奉げ、朝食を摂ろうとして、ルイズは視界の端に妙なものを認めた。
それは数字だった。中空にぼんやりと蒼く輝く数字が、幾つも浮かび上がっている。幾つかは何となく覚えのある数字だ。
疲れているのか、或いは寝ぼけているのかと目をこすってみても、数字は変わらずに浮かび上がったままだ。
その数字の存在にはルイズ以外の誰も気付いていないらしい。
腑に落ちないながらも、気にしない事にして、改めて食事の為にナイフとフォークを取り、鶏肉を切り分けて口へ運んだ。
そして良く噛んで飲み込んだ瞬間、浮かんでいた数字の幾つかが、僅かに上昇した。
「――え?」
そこでようやくルイズはその覚えのある数字が何を表すものかに、思い至った。
それはルイズの身長、体重、スリーサイズといった身体的なデータだった。
特にアルファベット一文字で言えばBの数値は、あまりに切ないものであったため、逆に深く記憶してしまっていたのだ。
しばし呆然としていたルイズだが、すぐに心当たりには思い至った。
「ちょっとADA! これ貴女の仕業ね!?」
『はい。その通りですが、何か問題でも?』
ADAに悪気があった訳ではない。
その朝っぱらから豪勢に過ぎる食事に健康を損なう可能性を見て取ったADAは、
自己診断によって得たバイタルデータをルイズの網膜に直接投射して、常時、健康状態を把握できるようにしたのだ。
ルイズには理解できなかったが、身長や体重スリーサイズ以外にも、
血圧や体脂肪、血糖値や合計摂取カロリーに至るまで、実に完璧に網羅されていた。
「余計なお世話よ! 今すぐ消しなさい!!」
公共の場で、いきなり大声で叫びだした(ように見えた)ことにルイズが気付くのは、5秒後のことであった。
それは数字だった。中空にぼんやりと蒼く輝く数字が、幾つも浮かび上がっている。幾つかは何となく覚えのある数字だ。
疲れているのか、或いは寝ぼけているのかと目をこすってみても、数字は変わらずに浮かび上がったままだ。
その数字の存在にはルイズ以外の誰も気付いていないらしい。
腑に落ちないながらも、気にしない事にして、改めて食事の為にナイフとフォークを取り、鶏肉を切り分けて口へ運んだ。
そして良く噛んで飲み込んだ瞬間、浮かんでいた数字の幾つかが、僅かに上昇した。
「――え?」
そこでようやくルイズはその覚えのある数字が何を表すものかに、思い至った。
それはルイズの身長、体重、スリーサイズといった身体的なデータだった。
特にアルファベット一文字で言えばBの数値は、あまりに切ないものであったため、逆に深く記憶してしまっていたのだ。
しばし呆然としていたルイズだが、すぐに心当たりには思い至った。
「ちょっとADA! これ貴女の仕業ね!?」
『はい。その通りですが、何か問題でも?』
ADAに悪気があった訳ではない。
その朝っぱらから豪勢に過ぎる食事に健康を損なう可能性を見て取ったADAは、
自己診断によって得たバイタルデータをルイズの網膜に直接投射して、常時、健康状態を把握できるようにしたのだ。
ルイズには理解できなかったが、身長や体重スリーサイズ以外にも、
血圧や体脂肪、血糖値や合計摂取カロリーに至るまで、実に完璧に網羅されていた。
「余計なお世話よ! 今すぐ消しなさい!!」
公共の場で、いきなり大声で叫びだした(ように見えた)ことにルイズが気付くのは、5秒後のことであった。
結局、いつもより朝食を軽めに済ませたルイズは、教室の中、不機嫌そのものの顔つきで、自分の机についていた。
事情を知らない周囲の生徒は、ルイズの左手に浮かぶルーンを見ると、
何やらひどく痛ましそうな顔をして周囲の者とひそひそと囁き合った。
「無事だったのか……」とか、
「気の毒だが、今度こそクビだな……」とか、
「もうあの爆発は見れないのか……」とか聞こえてくる。
いつもなら真っ先にからかいの声を上げる、ツェルプストーやかぜっぴきまでが、遠巻きに、気遣うように見守っていた。
ぶっちゃけ余計にムカついた。
だが、誤解を解こうとルイズ席を立ちかけたところで、教員がやって来た。
女性教員のシュヴルーズは、ひととおり新入生の使い魔を見て成功を称えると、
一人誰も従えていない(ように見える)ルイズに声をかけた。
「それから、ええと、ミス・ヴァリエール? 貴女に関してはミスタ・コルベールから話を伺っています。
随分風変わりな使い魔を召喚したようですね? ミスタが教員室で大層興奮なさっていましたよ」
「――え」
それを聞いた周囲の生徒が騒ぎ出す。
「失敗じゃなかったんですか!?」
「ゼロのルイズが一体どんな使い魔を喚び出したっていうんだ?」
「でも使い魔のルーンは……」
ルイズの召喚の儀式には皆、立ち会っている。
あの、あまりにも膨大なエネルギーが何なのかはわからなくとも、『とんでもないモノだ』という事くらいわかる。
儀式が失敗でないというなら、一体、彼女は何を呼び出したというのか……?
やにわに騒がしくなった教室に、シュヴルーズ師が魔法で場を沈静させる。
「はいはい、もう授業の時間ですよ。彼女の使い魔に関しては私も良く存じ上げませんが、
姿は見えずとも確かに存在するようです。
興味があるなら、後で個人的にミス・ヴァリエールに尋ねてごらんなさい。では――」
そして授業が始まった。
事情を知らない周囲の生徒は、ルイズの左手に浮かぶルーンを見ると、
何やらひどく痛ましそうな顔をして周囲の者とひそひそと囁き合った。
「無事だったのか……」とか、
「気の毒だが、今度こそクビだな……」とか、
「もうあの爆発は見れないのか……」とか聞こえてくる。
いつもなら真っ先にからかいの声を上げる、ツェルプストーやかぜっぴきまでが、遠巻きに、気遣うように見守っていた。
ぶっちゃけ余計にムカついた。
だが、誤解を解こうとルイズ席を立ちかけたところで、教員がやって来た。
女性教員のシュヴルーズは、ひととおり新入生の使い魔を見て成功を称えると、
一人誰も従えていない(ように見える)ルイズに声をかけた。
「それから、ええと、ミス・ヴァリエール? 貴女に関してはミスタ・コルベールから話を伺っています。
随分風変わりな使い魔を召喚したようですね? ミスタが教員室で大層興奮なさっていましたよ」
「――え」
それを聞いた周囲の生徒が騒ぎ出す。
「失敗じゃなかったんですか!?」
「ゼロのルイズが一体どんな使い魔を喚び出したっていうんだ?」
「でも使い魔のルーンは……」
ルイズの召喚の儀式には皆、立ち会っている。
あの、あまりにも膨大なエネルギーが何なのかはわからなくとも、『とんでもないモノだ』という事くらいわかる。
儀式が失敗でないというなら、一体、彼女は何を呼び出したというのか……?
やにわに騒がしくなった教室に、シュヴルーズ師が魔法で場を沈静させる。
「はいはい、もう授業の時間ですよ。彼女の使い魔に関しては私も良く存じ上げませんが、
姿は見えずとも確かに存在するようです。
興味があるなら、後で個人的にミス・ヴァリエールに尋ねてごらんなさい。では――」
そして授業が始まった。
錬金の実技に指名され、周囲の反対の声を黙殺してルイズが
壇上に進むと、突如ADAの声が脳内で聞こえてきた。
『警告。成功率ほぼ0パーセント。貴女の魔力には他者のそれとは異なる要素が見受けられます。
原因が特定できるまで、正規の魔法を行使すべきではありません』
無論それで止まるルイズではない。ADAの台詞の中に何か引っかかる部分があったような気はしたが、
自分の得体の知れない使い魔にまで駄目出しを出されて、ルイズは更にヒートアップした。
そして教壇の上、殆どの生徒が避難するのを尻目に、
ルイズは杖を掲げ、拳大の石ころに向け、詠唱を開始した。
その瞬間、閃光が教室を埋め尽くし――そして収束した。
生徒達が恐れ、そして既に慣れてしまっていた爆発は、いつまでたってもやって来ない。
恐る恐ると、生徒が少しずつ机の下や教室の外から戻ってくる。
――そして見た。
詠唱の姿勢のまま硬直したルイズの左手のルーンが蒼く輝き、紫電を放っているのを。
やがて発光と放電は徐々に弱まり、収まった。
シュヴルーズ師はどうやら閃光のショックで気を失っているようだ。
ルイズを含め、誰にとっても想定外の現象に静まり返る中、突如、不思議な響きを持つ可憐な声が聞こえてきた。
『対象の完全消滅を確認。昇華でも転移でもありません。原因――特定出来ませんでした』
「だ、誰だ!?」
立て続けに起こる怪現象に一部を除き、再度パニックを起こす生徒達。
そこでルイズが我に返り、自分の使い魔を問い質す。
「……ADA? あんたが何かやったの?」
『ベクタートラップによる圧縮空間を生成。爆発の衝撃を封じ込めました』
またも意味不明の言葉だったが、今回は前半はともかく、後半は理解できた。
と、そこでルイズは、生徒達が左手に話しかける自分に、怪訝な目を向けているのに気がついた。
しかし、どうしたものかと考えるまでもなく、左手が光り、ADAが周囲に聞こえるように声を発した。
『おはようございます。私は当メイジルイズの使い魔、独立型戦闘支援ユニットADAです』
壇上に進むと、突如ADAの声が脳内で聞こえてきた。
『警告。成功率ほぼ0パーセント。貴女の魔力には他者のそれとは異なる要素が見受けられます。
原因が特定できるまで、正規の魔法を行使すべきではありません』
無論それで止まるルイズではない。ADAの台詞の中に何か引っかかる部分があったような気はしたが、
自分の得体の知れない使い魔にまで駄目出しを出されて、ルイズは更にヒートアップした。
そして教壇の上、殆どの生徒が避難するのを尻目に、
ルイズは杖を掲げ、拳大の石ころに向け、詠唱を開始した。
その瞬間、閃光が教室を埋め尽くし――そして収束した。
生徒達が恐れ、そして既に慣れてしまっていた爆発は、いつまでたってもやって来ない。
恐る恐ると、生徒が少しずつ机の下や教室の外から戻ってくる。
――そして見た。
詠唱の姿勢のまま硬直したルイズの左手のルーンが蒼く輝き、紫電を放っているのを。
やがて発光と放電は徐々に弱まり、収まった。
シュヴルーズ師はどうやら閃光のショックで気を失っているようだ。
ルイズを含め、誰にとっても想定外の現象に静まり返る中、突如、不思議な響きを持つ可憐な声が聞こえてきた。
『対象の完全消滅を確認。昇華でも転移でもありません。原因――特定出来ませんでした』
「だ、誰だ!?」
立て続けに起こる怪現象に一部を除き、再度パニックを起こす生徒達。
そこでルイズが我に返り、自分の使い魔を問い質す。
「……ADA? あんたが何かやったの?」
『ベクタートラップによる圧縮空間を生成。爆発の衝撃を封じ込めました』
またも意味不明の言葉だったが、今回は前半はともかく、後半は理解できた。
と、そこでルイズは、生徒達が左手に話しかける自分に、怪訝な目を向けているのに気がついた。
しかし、どうしたものかと考えるまでもなく、左手が光り、ADAが周囲に聞こえるように声を発した。
『おはようございます。私は当メイジルイズの使い魔、独立型戦闘支援ユニットADAです』
――――新たな技能『シールド』を取得しました。