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エデンの林檎 八話

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八話 『いやでも歯茎であってあごではなかろう』


 ルイズは魔法が使えない。正確には魔法がすべて爆発する、その事実を最近では受け入れ始めていた。
 ミョズニトニルンの能力で得られる情報は、信じられないほどにルイズの内面を変えていた。

 狭い偏った知識は人間を小さくする、それは世の真理であるかもしれない。
 シエスタに頼んで調理場で調理の様子を観察したり、料理の内容を完全に言い当ててマルトーを感心させたり。
 シエスタと町に出てさまざまな武器を購入したり、鍛冶屋や彫金・彫刻家を訪ねてその技術を記憶したり。

 かつて彼女の姉は行った、『魔法使いは塩を錬金できるが、塩を使ったおいしい料理はできない』と。
 まさに真理ではなかろうか。どれだけ優れた魔法使いでも、それを活用できないものに何の価値があろう。そう、フーケ討伐での教師たちのように。

 ルイズはキュルケにゲルマニアの話を聞くようになった。
 メイジでなくとも金で地位を買える、と野蛮な国とさげずまれるゲルマニア。
 しかしどうだろう、果たして政治に魔法の力は必要だろうか? 答えは否である。
 能力次第で高い地位を得られるという現実に即した制度、平民だからという理由で高い地位につけないこの国とは大違いだ。
 ゲルマニアの製品の技術の高さを見ながらルイズは思う、もしかしてトリステインの国力って低いんじゃないだろうか?


 キュルケはその小屋の中を見渡していた。
 もともとは机と本棚しかなかった小屋が、気がつけばりっはな錬金炉まですえつけられている。
 て言うかあれは火の秘薬じゃあないのかしら? どこから手に入れたの?
 鉱石の単結晶も増えている。あれはルビーだろうか? あの真っ黒いのは何?
 ていうか今カツ丼が取ってきてかごに放り込んでるキノコは生息地がわからない希少価値の高いやつじゃ……
 何でこんなに銃がたくさん立てかけられてるの?
 ……ルイズはどこ?

 ルイズは木にすえつけた机の上でパーツの整備を行っていた。
 手に持つのは一丁の銃。銃身を六本束ねたもの。
 この世界においても銃は存在するが、その戦略的価値はあまり高いとはいえない。
 戦闘に耐えうる魔法使いはそのほとんどは一、二個の銃創くらいその場で治せてしまうからだ。

 そう考えると学園の教師たちは属性特化した魔法しか使えないため、教職というある意味閑職についているのかもしれない。

 しかし平民にとって銃と剣は非常に有用な武器になる。
 この世界での銃はせいぜいがフリントロック式の先込め単発拳銃までだ。
 軍は元込め式の銃も作っているらしいが、それもしょせんは単発式。
 自分の能力で作り上げた銃は、その製造過程を現在の技術では再現できない。
 それゆえのこれ、その形状から“ペッパーボックスピストル”と呼ばれた銃であった。

 六本の銃身は精度の安定のため長めに作られライフリングが彫られている。引き金を引くことで銃身が回転する六連発拳銃。
 ルイズが苦労したのは弾丸だった。
 この世界には『まったく同じ規格のものを量産する技術』というものが存在しない。少なくともトリステインにはない。
 そのため魔法使いが大手を振るい、平民が縮こまることになっているのだが。
 それゆえ大量生産しやすい弾丸を作るため、ルイズはその銃の威力を犠牲にすることにした。
 剣で斬りつけるまでの足止めになればいいやと、実の影響か徐々に戦闘的になっていく自分の思考に苦笑する。

 薬莢を木屑を押し固めて作り、一端に弾丸を、一端に薄めの油紙をはめ込む。
 油紙のほうを金属板で密閉し、撃鉄の火打ち金を叩き込むことで着火、弾丸を発射するというシステム。
 かつては“早合”と呼ばれた薬莢の原型だが、それが完成したときルイズは思った。

『自分は天才じゃぁなかろうか?』


 後に『ゼロ式拳銃壱型』と呼ばれるようになるそれを、ルイズは嬉々とした表情でぶっ放していた。まさにトリガー・ハッピー。
 横でシエスタがルイズの作った型に煮詰めてどろどろに溶かした木屑を流し込んで薬莢を作っている。

「ルイズ、もしかしてその拳銃連発式?」
「私は天才よ! キュルケ! 魔法が何!? アカデミーが何!? 私のこれほどの価値があるの!?」
「ハイテンションねぇ。私にも撃たせて」
「オッケーオッケー」

 火薬が弱いため大した反動も起こさず、六発の弾丸は吐き出される。
 ガリガリと的を削るその威力を目にし、キュルケは思う。

『これ、もしかしなくてもすごい儲けにならない?』

 ゲルマニア出身のキュルケは父の仕事を手伝っていたためか、こういうことには目が利く自身がある。
 これは間違いなく商売になるだろうし、自分の手を借りなければ量産はできないだろうという根拠もあった。

「ルイズ、これどうするの?」
「まずは改良ね。このままだとちょっと精度が甘いのね」
「なるほど。最終的には売り出すわけ?」
「量産してみようかな、って思ってるけど?」
「なるほど。でも多分無理ね」
「何でよ!」

 自分の作品を否定され、ルイズに目つきが鋭くなる。
 その小動物が威嚇するような可愛らしさにぞくぞくする中、キュルケは銃を持ち上げる。

「トリステインにこの長さの銃身を量産する技術はないわ」
「……あ゛」
「大量生産するならゲルマニアの技術は必要よねぇ?」
「……何が欲しいわけ?」

 ルイズは銃を机に置き小屋を指差す。

「さっき見たルビーの単結晶球とこれを量産することでのマージンかしら」
「量産はまだ先のことよ? それでもいいなら。あとあの結晶は初めから上げる予定だったから問題ないわ」
「初めから?」

 ルイズは銃の整備を再開する。横でルイズがしゃべっていることをシエスタがメモしている。あ、あの子読み書きできたんだ。

「あれはルビーじゃなくて蓄炎鉱石。炎の魔法をためておける魔石よ」
「あんなサイズが見つかった事例はないわ」
「当たり前よ。加工した後のくず部分を集めて固めたんだもの」


 フリッグの舞踏会というパーティのようなものがある。
 貴族の子弟である生徒たちには魔法だけでなく礼儀や作法といったことも学ぶ必要があるからだ。
 男子たちが目当ての女性に声をかける中、主役とも言うべき二人が入場する。

 真っ赤な胸を強調するドレスを着たキュルケは適当に相槌を打ち、その可憐さを際立てるドレスを着たルイズは完全に無視をして誘いを跳ね除ける。

「やあ、ルイズ」

 ギーシュがモンモランシーと共にそこにいた。

「あら、そのレイピア使ってるのね」
「これは最高だよ。何が混ざっているかは知らないが、信じられないほど精神力の通りがいい」
「ヴェルダンデも役に立ってくれてるわ」

 グラスを鳴らす。

「あれから思い直してね、いろいろ研鑽を続けてるんだ」
「らしくないわね。才能の無駄遣いが得意技だったのに」
「……厳しいねぇ。まあ機会があれば披露することもあるだろうさ」
「期待しないで待ってるわ」

 悪友と共にクククとのどから笑い声が漏れる。

「何よ、ゼロのルイズの癖に……」

 恋人が他の女と仲良くしているのが気に入らないのか、テンプレートな侮蔑をもらすモンモランシー。
 ルイズは黙ってその両肩に手を置いた。

「確かに爆発しかしないけどねモンモランシー、あなたを消し飛ばすだけなら十秒いらないわ」

 少しだけ両手に力を入れると、モンモランシーはヒッとしゃくりあげた。

「ルイズ、僕のモンモランシーを脅すのは止めてくれたまえ。僕みたいに耐性がついているわけじゃないんだから」
「くふふふ。ごめんなさい」
「まあどんなものでも使いようということなんだろうね。さあモンモランシー、すねてないで僕と踊ろう」

 足早に去っていくギーシュとモンモランシー。
 二人を見送りながらふと思う、もしかしたら自分は今、誰かと踊っていたのかもしれないと。
 そんな他愛もないことを考えながら、ワインをあける。


 今夜も月は確かに二つ輝いている。
 一つのわけがないのに、二つ輝くこの空に、ルイズは言い知れぬ違和感を感じていた。

 何かが、何かが足りない。
 あるはずの、いるはずの何かが足りない。

 月は二つ、静かに冷たく輝いている。


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