第62話
そのとき、ウルトラマンたちは
そのとき、ウルトラマンたちは
超空間波動怪獣 メザード
渓谷怪獣 キャッシー
宇宙有翼怪獣 アリゲラ
宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール
知略宇宙人 ミジー星人
三面ロボ頭獣 ガラオン
合体侵略兵器獣 ワンゼット 登場!
渓谷怪獣 キャッシー
宇宙有翼怪獣 アリゲラ
宇宙斬鉄怪獣 ディノゾール
知略宇宙人 ミジー星人
三面ロボ頭獣 ガラオン
合体侵略兵器獣 ワンゼット 登場!
「さあ、皆さん。どうもどうも、私の顔は覚えていただけたでしょうか? 今、ハルケギニアで起きている出来事の黒幕でございます」
「さて、さっそくですが先ほどお見せいたしました魔法学院の遠足はいかがでしたでしょうか? 実にみんな楽しそうでしたねえ、人間の寿命はとても短いと言いますが、あれが青春というものなのでしょうか? 私にはちょっとわかりづらいことです」
「うん? そんな怖い顔をしないでくださいよ。私が手を加えなければ、彼らは今頃遠足どころじゃなかったはずですからね。そうでしょう、ウフフフ」
「はい? ああ、どんなトリックを使ったのですかって? 別に隠すようなことではないですが、すんなり教えるのもつまらないですね。というよりも、皆さんはきっとご存知のはずですよ」
「ともあれ、私の目的の第一歩は果たせました。幸先良くてなによりです。んん、おやおや、そんな青筋立てて怒らないでください。怒りっぽすぎる人間は、カルシウムが足りてないそうです。牛乳をもっと飲みましょう、乳酸菌飲料もオススメですよ」
「あらら、もっと怒られちゃいました。せっかく地球のジョークを勉強したというのに残念です」
「しょうがありませんね、では皆さんのご興味ありそうなことをお伝えしましょう。ハルケギニアに散ったウルトラマンたちが、今どうしているのかをお知らせします」
「いえいえ、手など出していませんよ。ただちょっと隠し撮りをしただけです。ウルトラマンに手出しできるほど、私は強くありません。それに、手出しをしないのが彼らとの契約でもありますからね」
「どういう意味ですって? ウフフ、種明かしはじっくりするのが楽しみですよ。では、VTRスタートです」
宇宙人の狂言回しが終わり、舞台はハルケギニアへと舞い戻る。
いったい何がハルケギニアに起きているのか? そして宇宙人の目的とは?
始まったばかりの舞台には、まだ多くの演出が隠されている。
いったい何がハルケギニアに起きているのか? そして宇宙人の目的とは?
始まったばかりの舞台には、まだ多くの演出が隠されている。
才人たちが魔法学院の遠足でアラヨット山に登っているのと同じころ、遠く離れたロマリアでもひとつの戦いが起きていた。
ロマリアの上空を飛ぶ一機の戦闘機、XIGファイターEX。そのコクピットに座る高山我夢は、眼下に広がる景色とレーダー画面を交互に見ながら、サポートAIであるPALの報告を待っていた。
「見つけました、我夢。前方、およそ三万に空間のひずみがあります。ゆっくりと南へ向かって移動中です」
「いたな。ようし、パイロットウェーブ発射準備」
補足した目標に向かって、ファイターEXはまっすぐに飛んでいく。そして一見なにもない空間に狙いを定めると、我夢は一瞬揺らいだように見えた空の一角を凝視してPALに指示した。
「PAL、パイロットウェーブ発射!」
「了解」
ファイターEXの機首から波紋状のパイロットウェーブが放たれ、それを受けた空間の一角が収束して、半透明のクラゲのような生物が現れた。
これは波動生命体。先の決戦でトリスタニアに現れたクインメザードの同種の怪獣であり、さらに数か月前にエースを苦しめたあの個体である。
しかし、無敵に近い波動生命体もパイロットウェーブで現実空間に引き釣り出されたら単なる怪獣と変わりない。波動生命体は紫色のエネルギー弾でファイターEXを狙い撃ってきたが、我夢はそれをかわすと波動生命体に向かって機首を向け、トリガーボタンを押した。
「サイドワインダー発射!」
ファイターEXからのミサイル攻撃を受けて、波動生命体はクラゲのような姿を炎上させながらロマリアの無人の荒れ地に墜落して爆発した。
だが、炎上する炎の中から異形の怪物、超空間波動怪獣メザードが姿を現す。我夢はそれを当然のように見下ろしながら、変身アイテム『エスプレンダー』を掲げて叫んだ。
「ガイアーッ!」
赤い光がほとばしり、土煙を立ててウルトラマンガイアが大地に降り立つ。
対峙するメザードとガイア。しかしメザードは腐敗したクラゲのような胴体と骸骨のような頭部の口から紫色の時空波を吐いてガイアを攻撃してきた。
「デヤッ!」
腕をクロスさせ、メザードの攻撃をしのいだガイアは、きっとメザードを見据えた。以前に地球で戦った時は苦戦させられた相手だが、あのときとは比べ物にならないほどガイアは経験を積んで強くなっている。
メザードが無敵でいられるのは別次元に潜んでいるときだけ。すなわち、蜃気楼を吐くアコヤと一緒であり、居場所を見つけられれば貝を叩き割るのはたやすい。ガイアは頭上にエネルギーを集中させると、アグルから引き継いだ必殺技を放った。
『フォトンクラッシャー!』
青白く輝く光の帯に貫かれ、メザードは断末魔の咆哮を上げると炎上して果てた。巨大なたいまつのように一瞬燃え盛り、黒い消し炭のようになって崩れていくメザードをガイアは憮然として見送った。
以前にエースを苦しめた怪獣のあっけなさすぎる末路。もちろんそのときにガイアはまだこの世界にはいなかったけれど、破滅招来体に遣われて、置き去りにされたようなメザードの末路に一抹の哀れを覚えもするのだった。
ともかく、これで破滅招来体がこの世界に持ち込んだ怪獣は、確認できる限りすべて撃破した。ガイアは変身を解除して我夢に戻り、ファイターEXのコクピットから通信機に呼びかけた。
「こちらファイターEX、波動生命体は撃破したよ。そっちはどうだい?」
すると一呼吸置いてから、通信機から藤宮の声が返ってきた。
「こちらはこれからだ。少し待て、すぐ終わる」
藤宮がいるのはロマリアの別の場所。人里からやや離れた山間部で、そのすそ野に彼は立っていた。
山は一見すると平穏そうに見えなくもないが、あちこちにがけ崩れの跡が新しく残っており、この山が最近になって地殻変動に脅かされていることが見て取れた。
そして藤宮の見ている前で山肌が崩壊し、地底から巨大な怪獣が這い出てくる。
「来たか」
藤宮は短くつぶやいた。ほぼ計算通り、ここに怪獣が現れるのはわかっていた。
現れた怪獣は、身長およそ六十メートル。岩の塊に手足がついたような不格好な姿をしているが、眠そうな目つきにたらこ唇をした顔つきは妙にユーモラスな印象を受ける。
しかし藤宮は特にユーモア感覚を刺激された様子はなく、現れた怪獣を観察した。
「硬い外皮に太い手足、典型的な地底怪獣の一種だな。目が退化していないのは、地上での活動力もあるという証拠」
渓谷怪獣キャッシー。藤宮は知らないが、これがこの怪獣の名前である。一説では怪獣ゴーストロンの仲間とも言われるが、動きは鈍く、大半は眠っているために生態にはまだ謎が多い。
しかし藤宮はざっと怪獣の特徴を分析すると、これが破滅招来体によるものではなく、自然の怪獣が住処の異変で無理に起こされてきたのだということを確信した。
怪獣がのろのろと人里の方向へと歩き出していく。このままでは、怪獣に悪意がなくても被害が出てしまうだろう。藤宮は傍らに持っていたバッグから、バイザー型の装置と拳銃型の発射機を取り出し、怪獣の頭部へ向けて受信機を発射した。
「コマンド、m2m1242m、Enter。住処に戻れ」
装置を介して藤宮が怪獣の頭部に撃ち込まれた受信機に信号を送ると、キャッシーはフラフラと頭を振って、眠そうにあくびをすると元来た山に向かって戻りだした。
これは藤宮の発明品のひとつ、機械語デコーダー。怪獣の頭に信号を送り、ある程度の行動をコントロールすることができる。ただ、怪獣に強い意思があると反抗されて操れなくなってしまうが、寝ぼけて意思の薄弱なキャッシーには効果てき面であった。
キャッシーはまだ全然寝たりなかったらしく、出てきた山の穴に頭を突っ込むと、そのまま地底に潜って帰っていった。藤宮はバイザーを外すと、返事を待っている我夢に向かって結果を知らせた。
「我夢、こっちも終わった。怪獣は無傷だ、周辺の地殻が安定しているのも確認してある。少なくとも数百年は出てくることはないだろう」
「お疲れ様。ごめん藤宮、君にもいろいろ手間をかけさせてしまって」
「気にするな。この世界の安定は、この世界とつながっている俺たちの世界の安定にもつながる。それに、今はとにかく不安要素を少しでも減らしていくほかはないだろう」
藤宮は我夢に答えながら、バッグの中に残っている受信機の残数に目をやった。
この数か月前に怪獣によって地殻が荒らされたため、眠っているだけだった地底怪獣たちが地上に現れる事例が増えてきており、藤宮はその対処に飛び回っていたのだ。
怪獣は人間にとって脅威ではあるが、余計な手出しをしなければ無害であることも多い。何より、怪獣たちもまた自然が生んだ自然の一部なのだ、人間の都合だけで排除していけば、いつか自然のバランスが崩れ、そのしっぺがえしは人間に降りかかってくる。
しかし、我夢と藤宮はそれぞれ順調に目的を果たしているはずなのに、あまりうれしそうな様子はなかった。
「藤宮、そっちのほうはその、平和かな?」
「平和だ、途中にある村々の様子も見てきたが、どこも静かなものだ。我夢、お前は何を見ている?」
「平和だね。空から見下ろす限り、どこの街や村も活気に満ちてるよ。戦争のおもかげなんてどこにもない……いや、傷跡は見えるけど、誰もそれを気にしてない」
「俺たち以外は、な」
意味ありげな言葉を返すと、藤宮は山を下り始めた。そこに、我夢の声が不安そうに響く。
「ねえ藤宮、本当にこれでよかったんだろうか?」
「迷うな、我夢。あのときに、満点の回答を出すことなどは誰にも不可能だった。だがこれからの事態を利用していくことならできる。考えようによっては好都合なことも多い、今はこの好機を生かすことを考えるべきだ」
「わかったよ、僕もこれから戻る。あいつのことは、今はあの人たちに任せよう。もしも、あいつが僕らの世界にまで目をつけたら破滅招来体に匹敵する脅威になる。なんとしても、この世界で野望を断念させないと」
ふたりの胸中には、今この世界に侵食してきている侵略者のことがよぎっていた。いや、本人は侵略行為は否定しているから侵略者とは呼べないかもしれないが、他人の土地に勝手に入ってきて好き勝手をやっている以上、やはり侵略者と呼ぶべきだろう。
以前に一度、立体映像で対峙したときの宇宙人の尊大な姿は忘れられない。奴はふてぶてしくも、自分たちウルトラマンに対しても脅迫じみた要求を突き付けてきたのだ。
そのときに、その宇宙人が突き付けてきた要求の、破滅招来体でもやるかという悪辣さには一瞬冷静さを失いかけた。
しかし、我夢たちの地球では、いわゆる〇〇星人といった宇宙人は現れていないが、ゼブブなどの例から地球外知的生命体の存在は確認されており、その宇宙人が要求の内容を確実に実行できるであろうことは、疑う余地がなかったのだ。
宇宙人の要求を、結局そのとき拒絶することはできなかった。そして今日、我夢と藤宮はささやかな抵抗として、ハルケギニアに内包する災厄の芽を摘んでいっている。あの宇宙人は、自分たちウルトラマンと直接対決する気はないと明言したが、目的のためにこれから暗躍をはじめるとも宣言した。なにを仕掛けてくるか、想像もできないが、少しでもあの宇宙人の悪だくみに利用できるものを減らせば、それだけ救える者を増やすことにつながる。
だが……我夢と藤宮は、それとは別に、ひとりの友人の心配をしていた。
「タバサ……」
あの日以来、彼女も姿を消してしまった。
万一のことがあったとは思わない。しかし、人間である以上、絶対がないということもわかっている。事実、自分たちも過去には何度も過ちを重ねた。
だが、だからこそ信じてもいる。恐らく、今タバサが直面しているのは彼女の人生で最大の壁だろう……そのときに、あちらの世界で経験したことは必ず役立つはずだ。
ロマリアの上空を飛ぶ一機の戦闘機、XIGファイターEX。そのコクピットに座る高山我夢は、眼下に広がる景色とレーダー画面を交互に見ながら、サポートAIであるPALの報告を待っていた。
「見つけました、我夢。前方、およそ三万に空間のひずみがあります。ゆっくりと南へ向かって移動中です」
「いたな。ようし、パイロットウェーブ発射準備」
補足した目標に向かって、ファイターEXはまっすぐに飛んでいく。そして一見なにもない空間に狙いを定めると、我夢は一瞬揺らいだように見えた空の一角を凝視してPALに指示した。
「PAL、パイロットウェーブ発射!」
「了解」
ファイターEXの機首から波紋状のパイロットウェーブが放たれ、それを受けた空間の一角が収束して、半透明のクラゲのような生物が現れた。
これは波動生命体。先の決戦でトリスタニアに現れたクインメザードの同種の怪獣であり、さらに数か月前にエースを苦しめたあの個体である。
しかし、無敵に近い波動生命体もパイロットウェーブで現実空間に引き釣り出されたら単なる怪獣と変わりない。波動生命体は紫色のエネルギー弾でファイターEXを狙い撃ってきたが、我夢はそれをかわすと波動生命体に向かって機首を向け、トリガーボタンを押した。
「サイドワインダー発射!」
ファイターEXからのミサイル攻撃を受けて、波動生命体はクラゲのような姿を炎上させながらロマリアの無人の荒れ地に墜落して爆発した。
だが、炎上する炎の中から異形の怪物、超空間波動怪獣メザードが姿を現す。我夢はそれを当然のように見下ろしながら、変身アイテム『エスプレンダー』を掲げて叫んだ。
「ガイアーッ!」
赤い光がほとばしり、土煙を立ててウルトラマンガイアが大地に降り立つ。
対峙するメザードとガイア。しかしメザードは腐敗したクラゲのような胴体と骸骨のような頭部の口から紫色の時空波を吐いてガイアを攻撃してきた。
「デヤッ!」
腕をクロスさせ、メザードの攻撃をしのいだガイアは、きっとメザードを見据えた。以前に地球で戦った時は苦戦させられた相手だが、あのときとは比べ物にならないほどガイアは経験を積んで強くなっている。
メザードが無敵でいられるのは別次元に潜んでいるときだけ。すなわち、蜃気楼を吐くアコヤと一緒であり、居場所を見つけられれば貝を叩き割るのはたやすい。ガイアは頭上にエネルギーを集中させると、アグルから引き継いだ必殺技を放った。
『フォトンクラッシャー!』
青白く輝く光の帯に貫かれ、メザードは断末魔の咆哮を上げると炎上して果てた。巨大なたいまつのように一瞬燃え盛り、黒い消し炭のようになって崩れていくメザードをガイアは憮然として見送った。
以前にエースを苦しめた怪獣のあっけなさすぎる末路。もちろんそのときにガイアはまだこの世界にはいなかったけれど、破滅招来体に遣われて、置き去りにされたようなメザードの末路に一抹の哀れを覚えもするのだった。
ともかく、これで破滅招来体がこの世界に持ち込んだ怪獣は、確認できる限りすべて撃破した。ガイアは変身を解除して我夢に戻り、ファイターEXのコクピットから通信機に呼びかけた。
「こちらファイターEX、波動生命体は撃破したよ。そっちはどうだい?」
すると一呼吸置いてから、通信機から藤宮の声が返ってきた。
「こちらはこれからだ。少し待て、すぐ終わる」
藤宮がいるのはロマリアの別の場所。人里からやや離れた山間部で、そのすそ野に彼は立っていた。
山は一見すると平穏そうに見えなくもないが、あちこちにがけ崩れの跡が新しく残っており、この山が最近になって地殻変動に脅かされていることが見て取れた。
そして藤宮の見ている前で山肌が崩壊し、地底から巨大な怪獣が這い出てくる。
「来たか」
藤宮は短くつぶやいた。ほぼ計算通り、ここに怪獣が現れるのはわかっていた。
現れた怪獣は、身長およそ六十メートル。岩の塊に手足がついたような不格好な姿をしているが、眠そうな目つきにたらこ唇をした顔つきは妙にユーモラスな印象を受ける。
しかし藤宮は特にユーモア感覚を刺激された様子はなく、現れた怪獣を観察した。
「硬い外皮に太い手足、典型的な地底怪獣の一種だな。目が退化していないのは、地上での活動力もあるという証拠」
渓谷怪獣キャッシー。藤宮は知らないが、これがこの怪獣の名前である。一説では怪獣ゴーストロンの仲間とも言われるが、動きは鈍く、大半は眠っているために生態にはまだ謎が多い。
しかし藤宮はざっと怪獣の特徴を分析すると、これが破滅招来体によるものではなく、自然の怪獣が住処の異変で無理に起こされてきたのだということを確信した。
怪獣がのろのろと人里の方向へと歩き出していく。このままでは、怪獣に悪意がなくても被害が出てしまうだろう。藤宮は傍らに持っていたバッグから、バイザー型の装置と拳銃型の発射機を取り出し、怪獣の頭部へ向けて受信機を発射した。
「コマンド、m2m1242m、Enter。住処に戻れ」
装置を介して藤宮が怪獣の頭部に撃ち込まれた受信機に信号を送ると、キャッシーはフラフラと頭を振って、眠そうにあくびをすると元来た山に向かって戻りだした。
これは藤宮の発明品のひとつ、機械語デコーダー。怪獣の頭に信号を送り、ある程度の行動をコントロールすることができる。ただ、怪獣に強い意思があると反抗されて操れなくなってしまうが、寝ぼけて意思の薄弱なキャッシーには効果てき面であった。
キャッシーはまだ全然寝たりなかったらしく、出てきた山の穴に頭を突っ込むと、そのまま地底に潜って帰っていった。藤宮はバイザーを外すと、返事を待っている我夢に向かって結果を知らせた。
「我夢、こっちも終わった。怪獣は無傷だ、周辺の地殻が安定しているのも確認してある。少なくとも数百年は出てくることはないだろう」
「お疲れ様。ごめん藤宮、君にもいろいろ手間をかけさせてしまって」
「気にするな。この世界の安定は、この世界とつながっている俺たちの世界の安定にもつながる。それに、今はとにかく不安要素を少しでも減らしていくほかはないだろう」
藤宮は我夢に答えながら、バッグの中に残っている受信機の残数に目をやった。
この数か月前に怪獣によって地殻が荒らされたため、眠っているだけだった地底怪獣たちが地上に現れる事例が増えてきており、藤宮はその対処に飛び回っていたのだ。
怪獣は人間にとって脅威ではあるが、余計な手出しをしなければ無害であることも多い。何より、怪獣たちもまた自然が生んだ自然の一部なのだ、人間の都合だけで排除していけば、いつか自然のバランスが崩れ、そのしっぺがえしは人間に降りかかってくる。
しかし、我夢と藤宮はそれぞれ順調に目的を果たしているはずなのに、あまりうれしそうな様子はなかった。
「藤宮、そっちのほうはその、平和かな?」
「平和だ、途中にある村々の様子も見てきたが、どこも静かなものだ。我夢、お前は何を見ている?」
「平和だね。空から見下ろす限り、どこの街や村も活気に満ちてるよ。戦争のおもかげなんてどこにもない……いや、傷跡は見えるけど、誰もそれを気にしてない」
「俺たち以外は、な」
意味ありげな言葉を返すと、藤宮は山を下り始めた。そこに、我夢の声が不安そうに響く。
「ねえ藤宮、本当にこれでよかったんだろうか?」
「迷うな、我夢。あのときに、満点の回答を出すことなどは誰にも不可能だった。だがこれからの事態を利用していくことならできる。考えようによっては好都合なことも多い、今はこの好機を生かすことを考えるべきだ」
「わかったよ、僕もこれから戻る。あいつのことは、今はあの人たちに任せよう。もしも、あいつが僕らの世界にまで目をつけたら破滅招来体に匹敵する脅威になる。なんとしても、この世界で野望を断念させないと」
ふたりの胸中には、今この世界に侵食してきている侵略者のことがよぎっていた。いや、本人は侵略行為は否定しているから侵略者とは呼べないかもしれないが、他人の土地に勝手に入ってきて好き勝手をやっている以上、やはり侵略者と呼ぶべきだろう。
以前に一度、立体映像で対峙したときの宇宙人の尊大な姿は忘れられない。奴はふてぶてしくも、自分たちウルトラマンに対しても脅迫じみた要求を突き付けてきたのだ。
そのときに、その宇宙人が突き付けてきた要求の、破滅招来体でもやるかという悪辣さには一瞬冷静さを失いかけた。
しかし、我夢たちの地球では、いわゆる〇〇星人といった宇宙人は現れていないが、ゼブブなどの例から地球外知的生命体の存在は確認されており、その宇宙人が要求の内容を確実に実行できるであろうことは、疑う余地がなかったのだ。
宇宙人の要求を、結局そのとき拒絶することはできなかった。そして今日、我夢と藤宮はささやかな抵抗として、ハルケギニアに内包する災厄の芽を摘んでいっている。あの宇宙人は、自分たちウルトラマンと直接対決する気はないと明言したが、目的のためにこれから暗躍をはじめるとも宣言した。なにを仕掛けてくるか、想像もできないが、少しでもあの宇宙人の悪だくみに利用できるものを減らせば、それだけ救える者を増やすことにつながる。
だが……我夢と藤宮は、それとは別に、ひとりの友人の心配をしていた。
「タバサ……」
あの日以来、彼女も姿を消してしまった。
万一のことがあったとは思わない。しかし、人間である以上、絶対がないということもわかっている。事実、自分たちも過去には何度も過ちを重ねた。
だが、だからこそ信じてもいる。恐らく、今タバサが直面しているのは彼女の人生で最大の壁だろう……そのときに、あちらの世界で経験したことは必ず役立つはずだ。
我夢と藤宮の活躍で、ハルケギニアは人知れず安定を取り戻しつつある。もしも今の状況がなかったら、とてもこううまくはいかなかったに違いない。
そして、人知れず活躍しているウルトラマンは彼ら二人だけではない。
ハルケギニアは狭いようで広く、しかも電信などがあるわけではないから辺境で事件が起きても伝わりにくい。そこで、もし宇宙人や怪獣が事件を起こしても、助けを呼ぶ声が届くころにはすべてが終わっていることもありうる。
ならばパトロールをするしかない。見回りは大昔から、事件を未然に防ぐためにもっとも基本とされてきたことだ。今でも、ハルケギニアのどこかでは謎の風来坊が旅を続けていることだろう。
そして、ウルトラ戦士がパトロールするのは地上だけではない。ハルケギニアの天空を象徴するふたつの月では、小規模ながらも極めて重大な戦いが起こっていた。
『ビクトリューム光線!』
ハルケギニアの衛星軌道。ウルトラマンジャスティスの放った赤色の光線が、赤い月を背にした赤い怪獣に突き刺さる。始祖鳥にも似たシルエットの中央を射抜かれ、宇宙有翼怪獣アリゲラは目を持たない頭部から断末魔の叫びをあげて爆散した。
アリゲラの最期を、ジャスティスは爆炎が収まるまで黙祷のようにじっと見つめていた。好き好んで倒したわけではないが、異様に凶暴性が高い個体で倒さざるを得なかった。三十年以上も前にも、アリゲラの同族はこの星にやってきたことがあるが、別宇宙ではアリゲラは群れで移動する光景が確認されていることから、そのときのも今回のも群れからはぐれたか追放され、そのために凶暴化した個体だったのかもしれない。
ジャスティスはハルケギニアの星を振り返り、宇宙正義の代行者としての自分の役割としては異例なほどこの星に肩入れするなと思った。本来ならば、コスモスもこの星に来た以上、自分は宇宙の別の問題を解決するために旅立ってもいいはずだが、この星を今狙っている相手は悪質さのレベルでいえばジャスティスの知る限りにおいてもそうはいない。無視して、もしこの星の外にまで手を伸ばされたらまずい。
それに、もしそれによってハルケギニアが宇宙にとって危険な存在になると判断されたら最悪の審判が下されるかもしれない。そうなれば、この星の人々は……ジャスティスは、ジュリとして接したこの星の人間たちのことを思った。
ハルケギニアは狭いようで広く、しかも電信などがあるわけではないから辺境で事件が起きても伝わりにくい。そこで、もし宇宙人や怪獣が事件を起こしても、助けを呼ぶ声が届くころにはすべてが終わっていることもありうる。
ならばパトロールをするしかない。見回りは大昔から、事件を未然に防ぐためにもっとも基本とされてきたことだ。今でも、ハルケギニアのどこかでは謎の風来坊が旅を続けていることだろう。
そして、ウルトラ戦士がパトロールするのは地上だけではない。ハルケギニアの天空を象徴するふたつの月では、小規模ながらも極めて重大な戦いが起こっていた。
『ビクトリューム光線!』
ハルケギニアの衛星軌道。ウルトラマンジャスティスの放った赤色の光線が、赤い月を背にした赤い怪獣に突き刺さる。始祖鳥にも似たシルエットの中央を射抜かれ、宇宙有翼怪獣アリゲラは目を持たない頭部から断末魔の叫びをあげて爆散した。
アリゲラの最期を、ジャスティスは爆炎が収まるまで黙祷のようにじっと見つめていた。好き好んで倒したわけではないが、異様に凶暴性が高い個体で倒さざるを得なかった。三十年以上も前にも、アリゲラの同族はこの星にやってきたことがあるが、別宇宙ではアリゲラは群れで移動する光景が確認されていることから、そのときのも今回のも群れからはぐれたか追放され、そのために凶暴化した個体だったのかもしれない。
ジャスティスはハルケギニアの星を振り返り、宇宙正義の代行者としての自分の役割としては異例なほどこの星に肩入れするなと思った。本来ならば、コスモスもこの星に来た以上、自分は宇宙の別の問題を解決するために旅立ってもいいはずだが、この星を今狙っている相手は悪質さのレベルでいえばジャスティスの知る限りにおいてもそうはいない。無視して、もしこの星の外にまで手を伸ばされたらまずい。
それに、もしそれによってハルケギニアが宇宙にとって危険な存在になると判断されたら最悪の審判が下されるかもしれない。そうなれば、この星の人々は……ジャスティスは、ジュリとして接したこの星の人間たちのことを思った。
一方、青い月でも重大な戦いが終わろうとしていた。
『ナイトシュート!』
ウルトラマンヒカリの放った光線に薙ぎ払われて、十数体の宇宙怪獣が宇宙の藻屑に変えられていく。
青い月の光に照らされる青い戦士と対峙するのは、宇宙斬鉄怪獣ディノゾールの群れ。数にしたら数百体は下らないであろう、それの進行方向に立ちふさがるヒカリの存在は後続のディノゾールたちに明確な警告を与えていた。
「戻れ、ここから先はお前たちの場所ではない」
ディノゾールたちは進撃をやめ、再度進撃を試みたとき、結果は再度同じく展開された。
無理やり道をこじ開けようとして、宇宙の塵となった同族の残骸を後続の生き残りたちは数百の憎悪の眼差しで見つめた。ディノゾールたちは、眼下にある惑星に降りたかった。あの青い星には、ディノゾールが生きるのに必要な水素分子、すなわち水が無尽蔵にあるに違いないからだ。
が、屍となった先鋒たちの犠牲は今度は無駄にはならなかった。ディノゾールたちは、黄金境の境にある激流の大河に身を躍らせる愚をようやくにして悟り、しぶしぶながら群れの進路を来た方向へと切り替えたのである。
名残惜しそうなディノゾールたちを、先頭で率いる一頭が吠えて従わせているのをヒカリは見た。あれが群れの新しいリーダーなのだとしたら、あの群れはなかなかに幸運なのかもしれない。
ディノゾールたちが宇宙のかなたへ去ると、ヒカリはほっと息をついた。
「この星を目指す宇宙怪獣はまだ絶えない。以前にヤプールの配置した時空波の影響が完全に消えるには、まだかかるかもしれないな」
ヒカリは科学者らしく冷静に分析して、その結果には憮然とせざるを得なかった。宇宙は広大である、怪獣や宇宙人を呼び寄せる時空波の元凶はすでに破壊されて久しいが、影響を受けた怪獣がいつ来るかはバラバラだ。すぐ来る奴もいるだろうし、それこそ百年経ってやっと来る奴もいるかもしれない。
余計な仕事を増やしてくれる。ヒカリはヤプールに対して心の中で毒を吐いた。彼は宇宙警備隊の仕事を嫌っているわけでは決してないが、警察や消防は暇であるほうが望ましいのだ。
しかし、今のこれさえも懐かしく思えるような死闘がいずれ訪れるであろうことは、逃れがたい事実なのだ。聖地はいまだ不気味に胎動し、ウルトラマンでさえ容易に近づけないそこからは、邪悪な気配が日々濃くなっている。
必ずその時はやってくる。ならば、備えておく努力を怠るべきではない。ヒカリは宇宙からの接近がこれ以上ないことを確認すると、今度は地上のパトロールをするためにハルケギニアに戻っていった。
『ナイトシュート!』
ウルトラマンヒカリの放った光線に薙ぎ払われて、十数体の宇宙怪獣が宇宙の藻屑に変えられていく。
青い月の光に照らされる青い戦士と対峙するのは、宇宙斬鉄怪獣ディノゾールの群れ。数にしたら数百体は下らないであろう、それの進行方向に立ちふさがるヒカリの存在は後続のディノゾールたちに明確な警告を与えていた。
「戻れ、ここから先はお前たちの場所ではない」
ディノゾールたちは進撃をやめ、再度進撃を試みたとき、結果は再度同じく展開された。
無理やり道をこじ開けようとして、宇宙の塵となった同族の残骸を後続の生き残りたちは数百の憎悪の眼差しで見つめた。ディノゾールたちは、眼下にある惑星に降りたかった。あの青い星には、ディノゾールが生きるのに必要な水素分子、すなわち水が無尽蔵にあるに違いないからだ。
が、屍となった先鋒たちの犠牲は今度は無駄にはならなかった。ディノゾールたちは、黄金境の境にある激流の大河に身を躍らせる愚をようやくにして悟り、しぶしぶながら群れの進路を来た方向へと切り替えたのである。
名残惜しそうなディノゾールたちを、先頭で率いる一頭が吠えて従わせているのをヒカリは見た。あれが群れの新しいリーダーなのだとしたら、あの群れはなかなかに幸運なのかもしれない。
ディノゾールたちが宇宙のかなたへ去ると、ヒカリはほっと息をついた。
「この星を目指す宇宙怪獣はまだ絶えない。以前にヤプールの配置した時空波の影響が完全に消えるには、まだかかるかもしれないな」
ヒカリは科学者らしく冷静に分析して、その結果には憮然とせざるを得なかった。宇宙は広大である、怪獣や宇宙人を呼び寄せる時空波の元凶はすでに破壊されて久しいが、影響を受けた怪獣がいつ来るかはバラバラだ。すぐ来る奴もいるだろうし、それこそ百年経ってやっと来る奴もいるかもしれない。
余計な仕事を増やしてくれる。ヒカリはヤプールに対して心の中で毒を吐いた。彼は宇宙警備隊の仕事を嫌っているわけでは決してないが、警察や消防は暇であるほうが望ましいのだ。
しかし、今のこれさえも懐かしく思えるような死闘がいずれ訪れるであろうことは、逃れがたい事実なのだ。聖地はいまだ不気味に胎動し、ウルトラマンでさえ容易に近づけないそこからは、邪悪な気配が日々濃くなっている。
必ずその時はやってくる。ならば、備えておく努力を怠るべきではない。ヒカリは宇宙からの接近がこれ以上ないことを確認すると、今度は地上のパトロールをするためにハルケギニアに戻っていった。
世界は、見えないところで、見えない敵から、見えないうちに守られている。
しかし、そうしたウルトラマンたちの奮闘も、あの黒幕の星人からすれば冷笑のタネでしかない。
しかし、そうしたウルトラマンたちの奮闘も、あの黒幕の星人からすれば冷笑のタネでしかない。
「さて、ご覧いただきどうでしたか、ウルトラマンの方々のご活躍。いやあ、よく働かれますね本当に、過労死って言葉を知らないんでしょうか? 正義の味方って大変ですね」
「うん? どうしました悔しそうな顔で。ははあ、あの方たちが苦労しているのに自分たちは何もできないのが嫌だと?」
「いやいや感心ですねえ。でもそれじゃ何事も楽しめませんよ? 特に、この星の人間たちはちょっと前まで戦争で大変だったんですから、私が言うのもなんですが、せっかくの休暇を楽しませてあげなくちゃかわいそうですよ」
「では、気分転換にもうひとつ愉快な光景をご覧に入れましょう。私にとっては失敗談ですが、あなたがたには楽しめるでしょう。実はちょっと前、次の計画のために協力者を求めに行ったんですが、いやあ人選ミスでしたねえ……」
宇宙人は肩をすくめて残念そうなしぐさをしながら、しかし声色は自分も笑いをこらえきれないというふうに震わせながら語り始めた。
そう、あの事件はもはや笑うしかないと言うべきだろう。なぜなら、それはあのミジー星人に関わることだからである。
そう、あの事件はもはや笑うしかないと言うべきだろう。なぜなら、それはあのミジー星人に関わることだからである。
知略宇宙人ミジー星人。宇宙人はそれこそ星の数ほど種族がいるが、これほど名前負けしている宇宙人はほかにいないだろう。
「ほしい、私はなんとしてもこの星が、ほしい」
と、侵略宇宙人たちが思っても普通は口にしないことを堂々と言い、ウルトラマンダイナに都合三度も負けている。
その後、どういう経緯をたどったのかハルケギニアにたどり着いた彼らは、生きるために魅惑の妖精亭で住み込みでバイトしながら生活してきたが、いまだに侵略の夢は捨てていない。
しかし、そんなミジー星人たちに、最大のピンチが訪れていた。
「待てーっ! コラーっ! ミジー星人ーっ!」
「うわーっ! お助けーっ!」
アスカに追われて、三人のオッサンが荷物を抱えて町中を逃げていた。
彼らは、ミジー星人が人間に化けたミジー・ドルチェンコ、ミジー・ウドチェンコ、ミジー・カマチェンコ。そして、追っているアスカは言うに及ばずウルトラマンダイナである。
ただ、いくら両者に因縁があるとはいっても、この広い世界で両者が鉢合わせをする可能性はそう高くはなかっただろう。しかし、ミジー星人には運悪く、この世界でアスカは過去に数名の知己を作っていた。その中のひとり、カリーヌはアスカを過去の恩人であり戦友であるとしてすぐに探し出し、もう一人、シエスタの母であるレリアは魅惑の妖精亭のスカロンと親戚だったので、三十年ぶりのつもる話を魅惑の妖精亭でしようということになり……必然的に両者は顔を突き合わせることになったのだ。
「ああっ! お前ら、ミジー星人!」
「あああああああーっ! 逃げろーっ!」
次元を超えて巡り合った因縁の両者。しかし、アスカは都合三回もミジー星人のせいでろくでもない目に合わされ、ミジー星人も連敗が重なった経験から、顔を合わすと即追いかけっこが始まった。
「待てーっ、逃げるな!」
「うわーい! お助けー」
追いかけっこは続く。もしもこのとき、追いかけていたのがアスカひとりだったらミジー星人もここまで逃げなかったかもしれない。しかし、魅惑の妖精亭で鉢合わせをしたとき、大声で叫びあったアスカとミジー星人たちの関係をカリーヌが問い詰め、アスカが「奴らは地球を何度も侵略しようとした宇宙人なんだ!」と、正直に答えたことで、ミジー星人の敵はトリスタニアの官憲にまで拡大してしまったのである。
それでも、ミジー星人たちは捕まらずに逃げ回った。彼らは地球でも指名手配にされたときに逃げ回っていた経験があったし、長いトリスタニアの生活で地形を熟知していた。それに、今のトリスタニアは復興の途中で隠れられる場所がたくさんあったし、取り締まりをおこなう衛士の数も足りなかった。そして何より、小悪党というものは逃げ足が速いと昔から相場が決まっているものだ。
が、時間の経過はミジー星人たちの助けにはならなかった。なぜなら日数を費やすごとに、トリスタニアのあちこちに、ドルチェンコ、ウドチェンコ、カマチェンコの似顔絵が描かれた手配書が貼り付けられ、さらには新聞でもでかでかと記事にされている。
「うーん、ガリアで原因不明の爆発事故多発に、辺境では次々と子供が行方不明に、ぶっそうなことだなぁ。ん? ああ、宇宙人だぁ!」
「わーあ! 逃げろーっ!」
という具合に、どこへ行っても正体がバレてしまうのである。もはやトリスタニアの住人全員がミジー星人を探し回っているといってもいい。
四面楚歌とはまさにこのことだろう。しかし彼らはそれでも逃避行を続け、今日も昼間、なんとか追っ手をまいたミジー星人の三人組は、人気のない空き家でこそこそと夜露をしのいでいた。
「今日でもう何日目かしら。これから、どうなるのかしらねアタシたち?」
「さあねえ、でも街から外には検問で出られないし、妖精亭にも今さら帰れないしなあ。どうなるんだろう」
不安げなカマチェンコに、ウドチェンコも疲れた声で答えた。これまで宇宙人であることを隠して何とかやってこれたのに、まさかダイナまでこっちに来るとは思わなかった。ダイナにはそう、恨まれていないほうがおかしいということをやってきたので、追いかけられるのも当然なのだが、それにしたっていつまで続くのだろうか。
持ち出してきた食料も残り少ない。魅惑の妖精亭の温かいまかない飯が懐かしい……
「妖精亭、どうなったかしらね。宇宙人をかくまってたって、ひどいことになってなければいいけど」
カマが、心配げに窓から夜空を見上げてつぶやいた。いまごろ、スカロンのおじさんやジェシカたちもこの空を見上げているかもしれない。
だが、その心配は杞憂であった。魅惑の妖精亭はこれといって掣肘を受けることもなく、今日も普通に営業に精を出している。
「さーあ妖精さんたち、今日もはりきってお仕事しましょう!」
「お父さん、料理がまだ出来上がってないから、わたし厨房を手伝ってくるね」
「ごめんねジェシカちゃん。んもう、皿洗いが減っちゃったからペースが乱れてしょうがないわね。ドルちゃんたち、いまごろどうしてるのかしら?」
「おなかがすいたらそのうち戻ってくるでしょ。ペットのエサ代は未払いのお給金から引いておくとして、さぁて、今日もがんばらなきゃ!」
魅惑の妖精亭は、元々こういう店だということが公式なので、宇宙人が紛れ込んでいても、あまり驚かれることはなかった。それにこの地域を担当しているチュレンヌが温厚であったことと、なにより店の常連たちが気にも止めなかったことが大きい。男たちにとっては、宇宙人よりかわいい女の子のほうが重要であったのだ。
スカロンやジェシカは、役人の取り調べに対して三人組を特に抗弁はしなかったが糾弾もしなかった。来るものは拒まず、去るのならばそれもよし。夢の世界への門はいつでも開いている、それが魅惑の妖精亭だ。
しかし、そんなことを知る由もないミジー星人たちは、今日も寂しく逃亡生活を送っていた。
しだいに逃げ場がなくなっていくことに元気のないウドチェンコとカマチェンコ。ドルチェンコだけは、まあ性懲りもない様子で吠えている。
「おのれダイナ、我々のハルケギニア侵略の野望をまたしても邪魔しおって。今に見ていろ、次こそは必ずやっつけてやるからな!」
どこからこれだけのやる気が湧いてくるのやら、まさしく揺るぎないファイティングスピリットの持ち主である。ウドチェンコとカマチェンコは、ハァとため息をついているが、ドルチェンコにはまだ切り札があった。
「まだだ、まだ我々にはアレがある。なんとかしてこの街を脱出できれば、森に隠してある秘密兵器でダイナをあっと言わせてやることができるのだ」
そう、ドルチェンコの心にはまだまだ野望の火が赤々と燃えていた。初めて地球にやってきたときから、彼だけはまったく変わらずに侵略宇宙人の本分を保ち続けてきたのだ。
が、手段がなければどんな壮大な計画も絵に描いたモチロンでしかない。ドルチェンコのやる気とは反比例して、もうこのトリスタニアにミジー星人たちが安住できる場所はほとんど残っておらず、もう明日にでも捕まるのは確実と思われた。
だが、そのとき彼らの前に、あの宇宙人が姿を現したのだ。
「ほしい、私はなんとしてもこの星が、ほしい」
と、侵略宇宙人たちが思っても普通は口にしないことを堂々と言い、ウルトラマンダイナに都合三度も負けている。
その後、どういう経緯をたどったのかハルケギニアにたどり着いた彼らは、生きるために魅惑の妖精亭で住み込みでバイトしながら生活してきたが、いまだに侵略の夢は捨てていない。
しかし、そんなミジー星人たちに、最大のピンチが訪れていた。
「待てーっ! コラーっ! ミジー星人ーっ!」
「うわーっ! お助けーっ!」
アスカに追われて、三人のオッサンが荷物を抱えて町中を逃げていた。
彼らは、ミジー星人が人間に化けたミジー・ドルチェンコ、ミジー・ウドチェンコ、ミジー・カマチェンコ。そして、追っているアスカは言うに及ばずウルトラマンダイナである。
ただ、いくら両者に因縁があるとはいっても、この広い世界で両者が鉢合わせをする可能性はそう高くはなかっただろう。しかし、ミジー星人には運悪く、この世界でアスカは過去に数名の知己を作っていた。その中のひとり、カリーヌはアスカを過去の恩人であり戦友であるとしてすぐに探し出し、もう一人、シエスタの母であるレリアは魅惑の妖精亭のスカロンと親戚だったので、三十年ぶりのつもる話を魅惑の妖精亭でしようということになり……必然的に両者は顔を突き合わせることになったのだ。
「ああっ! お前ら、ミジー星人!」
「あああああああーっ! 逃げろーっ!」
次元を超えて巡り合った因縁の両者。しかし、アスカは都合三回もミジー星人のせいでろくでもない目に合わされ、ミジー星人も連敗が重なった経験から、顔を合わすと即追いかけっこが始まった。
「待てーっ、逃げるな!」
「うわーい! お助けー」
追いかけっこは続く。もしもこのとき、追いかけていたのがアスカひとりだったらミジー星人もここまで逃げなかったかもしれない。しかし、魅惑の妖精亭で鉢合わせをしたとき、大声で叫びあったアスカとミジー星人たちの関係をカリーヌが問い詰め、アスカが「奴らは地球を何度も侵略しようとした宇宙人なんだ!」と、正直に答えたことで、ミジー星人の敵はトリスタニアの官憲にまで拡大してしまったのである。
それでも、ミジー星人たちは捕まらずに逃げ回った。彼らは地球でも指名手配にされたときに逃げ回っていた経験があったし、長いトリスタニアの生活で地形を熟知していた。それに、今のトリスタニアは復興の途中で隠れられる場所がたくさんあったし、取り締まりをおこなう衛士の数も足りなかった。そして何より、小悪党というものは逃げ足が速いと昔から相場が決まっているものだ。
が、時間の経過はミジー星人たちの助けにはならなかった。なぜなら日数を費やすごとに、トリスタニアのあちこちに、ドルチェンコ、ウドチェンコ、カマチェンコの似顔絵が描かれた手配書が貼り付けられ、さらには新聞でもでかでかと記事にされている。
「うーん、ガリアで原因不明の爆発事故多発に、辺境では次々と子供が行方不明に、ぶっそうなことだなぁ。ん? ああ、宇宙人だぁ!」
「わーあ! 逃げろーっ!」
という具合に、どこへ行っても正体がバレてしまうのである。もはやトリスタニアの住人全員がミジー星人を探し回っているといってもいい。
四面楚歌とはまさにこのことだろう。しかし彼らはそれでも逃避行を続け、今日も昼間、なんとか追っ手をまいたミジー星人の三人組は、人気のない空き家でこそこそと夜露をしのいでいた。
「今日でもう何日目かしら。これから、どうなるのかしらねアタシたち?」
「さあねえ、でも街から外には検問で出られないし、妖精亭にも今さら帰れないしなあ。どうなるんだろう」
不安げなカマチェンコに、ウドチェンコも疲れた声で答えた。これまで宇宙人であることを隠して何とかやってこれたのに、まさかダイナまでこっちに来るとは思わなかった。ダイナにはそう、恨まれていないほうがおかしいということをやってきたので、追いかけられるのも当然なのだが、それにしたっていつまで続くのだろうか。
持ち出してきた食料も残り少ない。魅惑の妖精亭の温かいまかない飯が懐かしい……
「妖精亭、どうなったかしらね。宇宙人をかくまってたって、ひどいことになってなければいいけど」
カマが、心配げに窓から夜空を見上げてつぶやいた。いまごろ、スカロンのおじさんやジェシカたちもこの空を見上げているかもしれない。
だが、その心配は杞憂であった。魅惑の妖精亭はこれといって掣肘を受けることもなく、今日も普通に営業に精を出している。
「さーあ妖精さんたち、今日もはりきってお仕事しましょう!」
「お父さん、料理がまだ出来上がってないから、わたし厨房を手伝ってくるね」
「ごめんねジェシカちゃん。んもう、皿洗いが減っちゃったからペースが乱れてしょうがないわね。ドルちゃんたち、いまごろどうしてるのかしら?」
「おなかがすいたらそのうち戻ってくるでしょ。ペットのエサ代は未払いのお給金から引いておくとして、さぁて、今日もがんばらなきゃ!」
魅惑の妖精亭は、元々こういう店だということが公式なので、宇宙人が紛れ込んでいても、あまり驚かれることはなかった。それにこの地域を担当しているチュレンヌが温厚であったことと、なにより店の常連たちが気にも止めなかったことが大きい。男たちにとっては、宇宙人よりかわいい女の子のほうが重要であったのだ。
スカロンやジェシカは、役人の取り調べに対して三人組を特に抗弁はしなかったが糾弾もしなかった。来るものは拒まず、去るのならばそれもよし。夢の世界への門はいつでも開いている、それが魅惑の妖精亭だ。
しかし、そんなことを知る由もないミジー星人たちは、今日も寂しく逃亡生活を送っていた。
しだいに逃げ場がなくなっていくことに元気のないウドチェンコとカマチェンコ。ドルチェンコだけは、まあ性懲りもない様子で吠えている。
「おのれダイナ、我々のハルケギニア侵略の野望をまたしても邪魔しおって。今に見ていろ、次こそは必ずやっつけてやるからな!」
どこからこれだけのやる気が湧いてくるのやら、まさしく揺るぎないファイティングスピリットの持ち主である。ウドチェンコとカマチェンコは、ハァとため息をついているが、ドルチェンコにはまだ切り札があった。
「まだだ、まだ我々にはアレがある。なんとかしてこの街を脱出できれば、森に隠してある秘密兵器でダイナをあっと言わせてやることができるのだ」
そう、ドルチェンコの心にはまだまだ野望の火が赤々と燃えていた。初めて地球にやってきたときから、彼だけはまったく変わらずに侵略宇宙人の本分を保ち続けてきたのだ。
が、手段がなければどんな壮大な計画も絵に描いたモチロンでしかない。ドルチェンコのやる気とは反比例して、もうこのトリスタニアにミジー星人たちが安住できる場所はほとんど残っておらず、もう明日にでも捕まるのは確実と思われた。
だが、そのとき彼らの前に、あの宇宙人が姿を現したのだ。
「こんばんわ、ミジー星人の皆さん。お困りのご様子ですねえ」
「うわっ! なんだ、ど、どこの宇宙人だぁ?」
「うわっ! なんだ、ど、どこの宇宙人だぁ?」
すっと、幽霊のように現れたその宇宙人に、ミジー星人たちは腰を抜かして部屋の隅まで後ずさってしまった。
しかし、宇宙人は気にした様子も見せずに、堂々とミジー星人たちに向かって話し始めた。
「これは失敬。私、こういう者で、あなた方がお困りなのをたまたま見かけましてねえ。同じ宇宙人同士、お助けしてさしあげたいと声をかけさせてもらったんですよ」
名刺を差し出しながら宇宙人はあいさつした。しかしミジー星人たちも、見ず知らずの宇宙人から助けてやると言われてすんなり信用するほど馬鹿ではない。
当然、怪しんで、スクラムを組んでひそひそと話し合った。
「怪しい、怪しいぞ。ああいう奴は昔からろくな奴がいないぞ、アパートのボロ部屋を貸しておいて家賃だけはしつこく取り立てるタイプだ」
「そうだそうだ、レンタルビデオをまとめ借りしてから引っ越して逃げるタイプの顔だな、アレは」
「ああいう作ったようなイケメンってろくなのがいないのよ。きっと前世はビール腹のオッサンよ、自分とよく似たペットの自慢とか、お客にするとウザいタイプに違いないわ」
地球での貧乏生活やバイト経験から、無駄に人を見る目が上がっている三人組は言いたい放題を言った。
一方で、宇宙人のほうはといえば、聞こえてはいるけどわざわざ来た以上、ここで怒るわけにはいかない。頭の角あたりをピクピクと震わせて、人間でいえば青筋を立てているというふうな表情であろうが、とにかく気を落ち着かせて話を続けた。
「お、おほん。人を第一印象で判断しないでいただきたいですね。私はただ、同じ宇宙人のあなたがたがみじめな生活をしているのを見かねてお助けしようとしているだけです。それに、小耳に挟みましたが、あなた方もウルトラマンには少々因縁があるみたいですね?」
「お、おうそうだ。あのウルトラマンダイナのおかげで、我々の侵略計画は台無しになって、こんなみじめなことに。おのれぇっ! って、あんたもウルトラマンにやられたことがあるのか?」
「いいえ、私はウルトラマンと戦ったことはまだないですが、同胞が昔お世話になりましたものでね。どうです? もののついでに、因縁のウルトラマンに復讐してみませんか?」
それを聞いて、ドルチェンコの頬がぴくりと揺れた。
「ははあ、なーるほどそれが狙いだなぁ? 我々を、お前の侵略活動の手下に使う気だな。どうだ、当たっているだろう?」
ドヤ顔のドルチェンコに対して、宇宙人はそっけなく答えた。
「どうでしょう? 適当な理由が聞きたいならいくつか言って差し上げられますが、ではどうすれば信用していただけますか?」
「フン、お前が信用できるかなんてどうでもいいわ。偉そうなことを言えるだけの力を持っているか、そこのところどうなんだ? ええ?」
「ほほお、なるほど。あなた方も侵略宇宙人のはしくれではあるようですね。ではひとつ、最近トリスタニアの人間たちが変だとは思っていませんか? 実はあれ、私がやってるんですよ」
「なに? そういえば、最近街の連中がやけに能天気になってるように見えたが……お前、なにを企んでるんだ」
「さあて、でもあなた方には別に害にはなりませんのでご安心を。それより、あなた方には時間がないのでは? 私の話に乗るもよし、ここで夜が明けたら捕まるもよし、私は別にどちらでもかまいませんがねぇ?」
「あっ、そうだった!」
ドルチェンコはそこで、やっと自分たちが追われる身だったということを思い出した。
慌てて円陣を組み、もう一度話し合う三人組。
相手の言う通り、夜が明けて捜査が再開されれば捕まってしまう可能性は高い。そして捕まれば、トリスタニアの人間は以前に起こったツルク星人の大暴れの記憶から宇宙人に対して厳しく、もしかしたら死刑にされるかもしれない。
野望とプライドに、生存本能が勝るのに時間は必要としなかった。
「お、おいお前。一応聞いておくけど……用が済んだら「もうお前は用なしだ」とか言ってきたりしないだろうな?」
「そこはご心配なく、私はそんなにケチなタチじゃありません。なにせ私の種族は太っ腹ですからねぇ。おっと、ミジー星ではケチのほうが誉め言葉でしたっけ。ではケチにふるまって差し上げましょうか?」
「いえいえ、太っ腹で! 太っ腹でお願いします」
嫌味に言い返す宇宙人に、ミジー星人の三人組はなかば土下座で頼み込んだ。もう恥も外聞もあったものではないが、命あっての物種だ。
とりあえずはこれで契約成立。数分後には、三人組はワンゼットの隠してあるトリスタニア郊外の森の中へと飛んでいた。
しかし、宇宙人は気にした様子も見せずに、堂々とミジー星人たちに向かって話し始めた。
「これは失敬。私、こういう者で、あなた方がお困りなのをたまたま見かけましてねえ。同じ宇宙人同士、お助けしてさしあげたいと声をかけさせてもらったんですよ」
名刺を差し出しながら宇宙人はあいさつした。しかしミジー星人たちも、見ず知らずの宇宙人から助けてやると言われてすんなり信用するほど馬鹿ではない。
当然、怪しんで、スクラムを組んでひそひそと話し合った。
「怪しい、怪しいぞ。ああいう奴は昔からろくな奴がいないぞ、アパートのボロ部屋を貸しておいて家賃だけはしつこく取り立てるタイプだ」
「そうだそうだ、レンタルビデオをまとめ借りしてから引っ越して逃げるタイプの顔だな、アレは」
「ああいう作ったようなイケメンってろくなのがいないのよ。きっと前世はビール腹のオッサンよ、自分とよく似たペットの自慢とか、お客にするとウザいタイプに違いないわ」
地球での貧乏生活やバイト経験から、無駄に人を見る目が上がっている三人組は言いたい放題を言った。
一方で、宇宙人のほうはといえば、聞こえてはいるけどわざわざ来た以上、ここで怒るわけにはいかない。頭の角あたりをピクピクと震わせて、人間でいえば青筋を立てているというふうな表情であろうが、とにかく気を落ち着かせて話を続けた。
「お、おほん。人を第一印象で判断しないでいただきたいですね。私はただ、同じ宇宙人のあなたがたがみじめな生活をしているのを見かねてお助けしようとしているだけです。それに、小耳に挟みましたが、あなた方もウルトラマンには少々因縁があるみたいですね?」
「お、おうそうだ。あのウルトラマンダイナのおかげで、我々の侵略計画は台無しになって、こんなみじめなことに。おのれぇっ! って、あんたもウルトラマンにやられたことがあるのか?」
「いいえ、私はウルトラマンと戦ったことはまだないですが、同胞が昔お世話になりましたものでね。どうです? もののついでに、因縁のウルトラマンに復讐してみませんか?」
それを聞いて、ドルチェンコの頬がぴくりと揺れた。
「ははあ、なーるほどそれが狙いだなぁ? 我々を、お前の侵略活動の手下に使う気だな。どうだ、当たっているだろう?」
ドヤ顔のドルチェンコに対して、宇宙人はそっけなく答えた。
「どうでしょう? 適当な理由が聞きたいならいくつか言って差し上げられますが、ではどうすれば信用していただけますか?」
「フン、お前が信用できるかなんてどうでもいいわ。偉そうなことを言えるだけの力を持っているか、そこのところどうなんだ? ええ?」
「ほほお、なるほど。あなた方も侵略宇宙人のはしくれではあるようですね。ではひとつ、最近トリスタニアの人間たちが変だとは思っていませんか? 実はあれ、私がやってるんですよ」
「なに? そういえば、最近街の連中がやけに能天気になってるように見えたが……お前、なにを企んでるんだ」
「さあて、でもあなた方には別に害にはなりませんのでご安心を。それより、あなた方には時間がないのでは? 私の話に乗るもよし、ここで夜が明けたら捕まるもよし、私は別にどちらでもかまいませんがねぇ?」
「あっ、そうだった!」
ドルチェンコはそこで、やっと自分たちが追われる身だったということを思い出した。
慌てて円陣を組み、もう一度話し合う三人組。
相手の言う通り、夜が明けて捜査が再開されれば捕まってしまう可能性は高い。そして捕まれば、トリスタニアの人間は以前に起こったツルク星人の大暴れの記憶から宇宙人に対して厳しく、もしかしたら死刑にされるかもしれない。
野望とプライドに、生存本能が勝るのに時間は必要としなかった。
「お、おいお前。一応聞いておくけど……用が済んだら「もうお前は用なしだ」とか言ってきたりしないだろうな?」
「そこはご心配なく、私はそんなにケチなタチじゃありません。なにせ私の種族は太っ腹ですからねぇ。おっと、ミジー星ではケチのほうが誉め言葉でしたっけ。ではケチにふるまって差し上げましょうか?」
「いえいえ、太っ腹で! 太っ腹でお願いします」
嫌味に言い返す宇宙人に、ミジー星人の三人組はなかば土下座で頼み込んだ。もう恥も外聞もあったものではないが、命あっての物種だ。
とりあえずはこれで契約成立。数分後には、三人組はワンゼットの隠してあるトリスタニア郊外の森の中へと飛んでいた。