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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-55


 第55話
 ブリミルとサーシャ 愛のはじまり

 カオスヘッダー 登場!


 今や、惑星は歯止めの利かない滅亡へのベルトコンベアの上をひた走っていた。
 数え切れないほどの怪獣の群れ。それを強化・凶暴化させる光のウィルスにより、マギ族の文明は壊滅し、マギ族も先住民族も……いや、惑星すべての生命が絶滅の危機に瀕していた。
 光のウィルス、ブリミルたちがヴァリヤーグと呼ぶそれは、マギ族の科学力を持ってしても解析も対抗も不可能であった。正体、目的、知性があるのかすら謎。わかっていることは、こいつに取り付かれると怪獣は手がつけられないほど凶暴化し、たとえ倒してもいくらでも次がやってくるということだけである。
 才人も、過去の戦いで何度もこれに遭遇していたが、才人のいた世界でも記録のないこれらには何も出来なかった。
 ところがである。一同の中で、もっとも話についていけていないと思われていたティファニアが、まるでこれを知っているかのように名前をつぶやいたのだ。
「カオスヘッダー……」
「えっ? テファ、今なんて?」
 皆の視線がティファニアに集まる。今の言葉は何だ? なにか知っているのかという視線にさらされて、彼女ははっとして慌てふためいた。
「あっ、いや、その。わたしは、その、あの、今のはわたしじゃなくて」
 顔を真っ赤にして懸命にごまかそうとはしているものの、皆の怪訝な表情は変らない。さっき、ティファニアは確かに何かを確信してそれをつぶやいたのだ、うやむやにはさせられない。
 しかし、ティファニアが困り果てていると思わぬところから救いの手が延びた。ティファニアの前にサーシャが無遠慮に歩み寄ってきたかと思うと、ティファニアの顔をまじまじと見つめて言ったのだ。
「へー、ふーん。なるほど、あなたがこの時代のそうなのね」
「えっえっ? あの、なんですか?」
「いいえ、なんでもないわ。わかったわ、なぜ彼がこの時代に来れなかったのか。ブリミル、話を進めましょう」
「は? いやしかし」
 突然サーシャに促されてブリミルは戸惑ったが、サーシャはかまわずに告げた。
「いいのよ。今はこれは置いておいて、後で全部わかるから。それよりも、ここからが大切な話でしょ? ヴァリヤーグがやってきて、あなたたちはどうなったのかを」
 サーシャの強い様子に、ブリミルは気圧されるようにうなづいた。他の面々もサーシャに「あなたたちもそちらのほうが大事なんじゃない?」と言われ、やや納得していない様子ながらも引き下がった。
 けれど引っかかる。ティファニアは何を知っているのだ? そして、サーシャは何に気がついたのだ? だが、無理強いしてもサーシャに止められそうな雰囲気ではあった。
 カオスヘッダー……気になる名前だ。才人はなんとなくだが、あの光の悪魔にはヴァリヤーグよりも似合う名前だと思った。英語の成績はさっぱりだが、前に何かのマンガでカオスとは混沌のことだと見た覚えがある。混沌に付け込んで混沌を広げていく、あれにはまさにふさわしい名前ではないか。

 小さな謎を残しつつ、ブリミルは話を再開した。
 マギ族による戦争の混沌を突いて現れたヴァリヤーグによって、マギ族は甚大な被害を被った。各地に築かれた都市は怪獣たちによってことごとく破壊され、地方に散っていたマギ族の多くが死亡し、惑星到着時には千人を数えた頭数もすでに五百人を割ってしまっていた。
 もはや、マギ族にとって安全な場所は最初にサハラに築いた首都のみとなっていた。生き残ったマギ族はここに集結し、ようやく戦争どころではないことを認め合って話し合った。
「今のところは都市の周囲に張り巡らせたバリアーと防衛砲台で怪獣どもの侵入は防げているが、これもいつまで持つかわからん。諸君らには、これから我々がどうするべきか忌憚無く意見を述べていただきたい」
 会議は紛糾したが、もっぱらの課題はヴァリヤーグと名づけた謎の敵に対する方針をどうするかとなった。
 すなわち、ヴァリヤーグに対して、このまま交戦を続けるか、和解の方法を探るか、ひたすら首都にこもって身を守り続けるか、惑星ごと放棄して逃げ出すか。この四つである。
 まず第一の方針は、すでにマギ族の持つ軍事力が疲弊しきっていることから不可能とされた。工場施設と資源はあっても、若い男性のほとんどは地方で自ら軍を率いていたために怪獣たちの餌食となり、残っていたのは大半が女子供や老人ばかりだったのである。
 また、ヴァリヤーグとの和解であるが、これも相手が知性を有するのかすら不明であるため、研究に時間がかかりすぎると却下された。
 首都での篭城は問題外。増え続ける怪獣たちが押し寄せてくれば、あっというまに押し潰されてしまうだろう。
 残った道は、せっかく手に入れた安住の地を捨てて逃げ出すことだけであった。
 もちろん、惑星を放棄することは多くの者が難色を示した。しかし、ほかに有効な手立てもない以上は生存のためには仕方なく、それに何年かすれば怪獣やヴァリヤーグも去っているかもしれないという期待が彼らを決断させた。
「まことに残念ではあるが、我らが生き延びるには他に手が無い。生き残ったマギ族はすべて宇宙船に乗り込むべし」
 それは、ノアの箱舟ともいうべき逃避行であった。ノアと違うところは、神に選ばれたのではなく神に見捨てられたのだというところであるが、マギ族は最初に乗ってきた宇宙船に可能な限りの物資を積み込んで脱出準備に入った。
 まるで夜逃げだ。ウェールズは、レコン・キスタに押されて王党派が何度も撤退を余儀なくされていた頃のことを思い出して重ねていた。あのレコン・キスタの反乱も、事前に防ごうと思えば防げた、早期に鎮圧しようと思えばできたのに、伝統と格式というぬるま湯につかりきっていた王党派はすべてが後手後手の中途半端に終わり、ぼやで済む火事を大火にしてアルビオンを全焼させかけてしまった。皮肉な話だが、自分がヤプールに洗脳されていなければアルビオン王家は滅亡し、今のアルビオンはまったく違った姿に変わり果てていたかもしれない。
 都市から灯が消え、マギ族は脱出準備を整えた。どこへ逃げるかだが、宇宙は今でも宇宙怪獣たちがやってきているために危険すぎるため、聖地のゲートを通って逃れることに決まった。
 宇宙船が離陸し、亜空間ゲートに近づいていく。その光景を、才人すら複雑な表情で見つめていたが、ややすると耐えられずに尋ねた。
「つまりブリミルさんたちはいったんハルケギニアから離れて、ほとぼりが冷めてから戻ってきたってわけですか?」
 しかしブリミルはゆっくりと首を横に振った。
「いや、僕はあの船には乗っていなかったよ」
「えっ? でもそれじゃあ」
 才人が聞き返そうとした、その瞬間だった。今まさにゲートを潜ろうとしていた宇宙船の頭上から三本の稲妻のような光線が降り注いできたかと思うと、宇宙船は大爆発を起こして墜落してしまったのである。
「なっ、なんだとっ!」
 絶叫する才人の網膜に、空から舞い降りてくる巨大な金色の怪獣の姿が映る。その怪獣は墜落した宇宙船に向かって、再び三つの頭から光線を発射すると、炎上する宇宙船を完全に爆破してしまったのだ。
 唖然とする一同。宇宙船は原型をとどめないほど破壊され燃え盛っている。脱出できた人間は、ただのひとりもいなかった。
 勝ち誇るかのように甲高い鳴き声をあげる怪獣。都市を守っていたバリアーは、最後の最後で役割を果たせずに砕け散ってしまっていたのだった。
 怪獣は次に、主を失った都市への破壊を開始した。バリアーが消えたことで、外にいた怪獣たちも都市への侵攻を開始する。ブリミルは、破壊されていく超近代都市の凄惨な光景を悲しげに見ながら言った。
「僕は地方にいて、自分の船を壊されて帰れずにいたおかげで命拾いをした。この光景は、その後に都市の跡地で見つけた記録にあったものだ。首都と母船が破壊されて、マギ族もそのほとんどが死亡した……だが、問題はこれからだったんだ」
 ブリミルが映像の視点を動かすと、都市の郊外で放置されたままになっていた亜空間ゲートが映し出された。しかしなんということか、ゲートはしだいに歪みだし、まるで心臓のように不気味な脈動をしながら黒い球体と化していったのだ。
「開いたままで制御を失ったゲートは暴走を始めた。よその宇宙から流れ込んでいた膨大なエネルギーはゲートの周りに滞留し、どこの宇宙につながっているのかもわからないままで、手のつけようがない時空の特異点となってしまったんだ」
 それはまさに地上に出現した黒い太陽であった。直径百メートルほどの黒い球体は宙に浮かんだままで何も起こさないが、周辺には巨大な力場を形成しているらしく、近づこうとする怪獣でさえこれに捕まると粉々に分解されてしまった。
 とてつもないエネルギー量。マギ族の都市を輝かせていたエネルギーは、まるで出口を閉じられたダムのようにゲートそのものを飲み込んで停止している。ブリミルが手がつけられないと言ったのも当然だ、ひとつの宇宙に匹敵するエネルギー体にうかつに手を出せば、下手をすれば星ごと消滅させられてしまうかもしれない。
 けれど、これでひとつの謎が解けた。なぜヤプールが聖地を奪ったのか? それはまさに、このゲートを手中にしたかったからに違いない。
 才人はルイズに言った。
「そりゃ、こんな冗談みたいなパワーがあるなら、ヤプールでなくたって手に入れたがるだろうぜ」
「ロマリアがマークしてたのもわかるわね。教皇たち、あわよくばこれも手に入れようって思ってたんでしょうね。けど、ヤプールにまだ動きがないところを見ると、使いこなすまでには行っていないんじゃないかしら」
 始祖ブリミルでさえどうしようもない代物だ。いくらヤプールの異次元科学が進んでいるとはいっても、ひとつの宇宙に相当するようなエネルギーを万一にも扱い損ねればヤプールも自滅に直結することはわかっているだろう。ヤプールは人の心につけこんで操るのには長けているが、意思を持たないものを操ることは甘言では不可能だ。
 そしてもうひとつ、エレオノールやルクシャナもひとつの答えを得ていた。
「聖地の向こうから、不可思議なものがやってくる理由もわかったわね。異世界への扉が開きっぱなしになってるなら、どこかの世界と偶然つながることもあるってことかも。ルクシャナ、もう落ち着いたでしょ? あんたなら、わかるわよね」
「ええ、それで偶然つながった先から吐き出されてきたものが、中にはわたしたちの手に入ることもある。ヤプールが目をつけたのはそのへんもあるのかも……」
 いずれにせよ推測だが、ヤプールの手中にとんでもない爆弾があることだけは確かなようだ。ヤプールはいまのところおとなしいが、地震が地底深くでゆっくりと圧力を高めていくように、その侵攻が再開されるときはかつてないものになるに違いない。
 始祖の祈祷書などでも聖地について言及してある理由も、こんな危険なものをそのまま放置しておけば何かのはずみで星ごと滅亡することもあるかもしれないからだ。制御が不能ならば、せめて管理して余計な刺激を与えないようにするしかない。
 ともかく、聖地とは名ばかりの地獄の門であることに変わりは無い。ブリミルは深くため息をつくと、聖地を見つめて言葉を続けた。
「あれを封じることが、僕に課せられた最後の仕事だと思っている。でも、どうやらこの時代でも危険なままのようだね。本当に侘びようがないことだが、僕がこれを知ったときには、もうどうしようもないくらいにひどくなっていたんだ。もっとも、この頃の僕は別の意味でそれどころじゃないことになっていたんだけどね」
 ブリミルは映像を変えた。聖地から再び、地方の戦場へと。しかしそれはもう戦場とは呼べず、一方的な虐殺の場でしかなくなっていた。
 母船の破壊で、マギ族はその人口の大半を失った。そして、地方でわずかに生き残っていたマギ族もまた、次々と命を奪われていたのだ。
 ある者は怪獣の餌食となり、またある者は虐げていた人々の復讐によって殺された。
 ブリミルも例外ではなく、船も領地も領民もすべてを失い、身一つで廃墟の中を逃げ惑っていた。
「どうして、どうしてこんなことになってしまったんだ……?」
 天を仰いで嘆くブリミルに答える者はいなかった。因果応報ではあるが、いざとなってそれを自覚できるものは少ない。
 彼に味方は誰もいない。彼の領民だった者は暴君だったブリミルを皆恨んでおり、マギ族は能力的にはほとんど人間と変わらないため、彼にできることはメイジや亜人からも逃げ回ることだけだった。
 飢えて震えて、行くところも帰るところもない逃避行にブリミルは涙した。しかし、それすらも長くは続かなかった。
「怪獣だぁ! 逃げろぉ」
 彼の元領地の生存者たちの集まっている集落を怪獣が襲撃したのである。
 深夜に、地底からいきなり現れた怪獣の前に、寝入りを襲われたメイジも亜人たちもろくな対応はできなかった。しかもこの怪獣は肉食性らしく、住民たちを次々に捕食し、夜の闇の中でも光る角と敏捷な動きで逃げ惑う人々を捕らえ、集落を全滅に追い込んでしまったのだ。
 ブリミルは集落の外れで食料を盗みに来てこれに遭遇し、集落が全滅するのを後ろに必死に逃げ出した。だが、村一つの人間を食い尽くしてもなお食い足らない怪獣は、大きな耳で足音を捉えて追いかけてきたのだ。
「う、うわぁぁぁっ!」
 その怪獣は、才人から見てパゴスやガボラなどの地底怪獣と似た体つきをしていたが、動きは比べ物にならないほど素早かった。
 ブリミルは夜の道を馬を走らせ、馬が倒れたら馬が食われている間に走り、ひたすら逃げ回った。だがもはやこれ以上は逃げられないとあきらめかけたときである、彼の目の前にマギ族の誰かが乗り捨てて行ったと思われる円盤が姿を現した。
「これは……まだこんな船が残っていたのか」
 着陸している円盤は、マギ族が自家用機として惑星内を移動するときに使用していたもので、直径五十メートルほどの大きさがあった。形は特徴らしいものはなく、強いてあげればイカルス星人の円盤に似ている。見たところ、これといった損傷はなさそうだった。
 動くか? ブリミルは迷ったが、考えている暇は無かった。怪獣はすぐ後ろまで来ている。ブリミルは円盤に乗り込むと、すぐさまコントロールルームに飛び込んだ。
「頼む、動け、動いてくれ」
 一縷の望みを託してブリミルは操縦パネルを起動させた。
 エネルギーが回り、パネルが光りだす。ようし、こいつはまだ生きている、ブリミルはすぐさまエンジンを起動させて離陸しようと試みた、が。
「なんでだ! なんで動かない? 反重力バイパスが烈断? ちくしょう!」
 円盤はすでに飛行能力を失っていた。望みに裏切られて、ブリミルは拳をパネルに叩き付けたが、すぐに円盤を激しい揺れが襲って彼は座席から投げ出された。怪獣が円盤に取り付いて壊し始めたのである。
 怪獣のパワーの前では、多少頑丈なだけの円盤など、立てこもる場所にはならなかった。ブリミルは、この円盤もすぐに壊されてしまうと、外に逃げ出そうとコントロールルームから通路に飛び出した。だがそこへ、怪獣が円盤を横倒しにした衝撃でブリミルはそばの部屋に転がり込んでしまった。
「うう……こ、ここは。生体改造施設、か」
 そこは、この円盤の持ち主が自分の領民をメイジや亜人に改造していたと思われるバイオ設備の部屋であった。人間を作り変えるためのカプセルや、コントロールパネルが半壊の状態で散乱している。
 体を強く打ったらしく、ブリミルはコントロールパネルに這い上がって、やっと立つのが精一杯だった。だが、怪獣はにおいを嗅ぎつけてついにこの部屋まで破壊の手を伸ばしてきた、壁が破られ、その向こうに鋭い牙を生やした怪獣の顔が迫っている。
 もう逃げ場は無い。ブリミルは、自分がこれから食われるのだと、明確に理解した。
「い、いやだ……誰か、誰か助けて」
 目の前に迫ってくる逃げられない死。部屋が破壊されて、怪獣の口が目の前に迫ってくる。
 だが、そのときブリミルの寄りかかっていたコントロールパネルのスイッチが、彼が手を滑らせたことで偶然にも入った。すると、彼が円盤のメイン動力を起動させていた影響でエネルギーを受けていた生体改造設備は、半壊状態でその機能を発動させたのだ。
「なんだ? う、うわぁぁぁぁっ!?」
 改造カプセルが破壊されていたので、エネルギーはすべてブリミルの体に直接流し込まれた。彼の体がプラズマのように輝き、エネルギーとともに、コンピューターに記録されていた膨大な数の超能力のデータも注ぎ込まれていく。
 しかし、改造は本来はカプセルの培養液の中で安定させた上で数時間かけておこなうものだ。こんな無茶な方法で強制的に人間の体にエネルギーと情報を流し込んで無事ですむわけが無く、ブリミルは言語を絶する苦痛の中でのたうった。
「ぎぃあぁぁーーーっ!」
 その凄惨な光景に、アンリエッタやティファニアは思わず目をそむけかけた。まるで電気椅子にかけられた死刑囚のように、ブリミルはそのまま死んでしまうのではないかと思われた。
 いや、ブリミルは死なない。この運命は、すでに経過済みであるからだ。円盤に残っていたエネルギーのすべてを流し込まれて、ブリミルはそのまま床に倒れこんだ。
「う、あ……」
 あと一秒でも苦痛が続いていたらショック死していたかもしれない衝撃に、ブリミルは動くこともできずに床に倒れ付していた。
 しかし、怪獣は突然の出来事に驚いていったんは離れたものの、光が止んだことで安心して再びブリミルを餌食にしようと迫ってくる。ブリミルは逃げられない。だがそのとき、ブリミルの手元に一本の杖が転がり込んできた。
「これ、は……はっ!」
 杖を持った瞬間、ブリミルの頭の中で無数の文字が踊り狂って呪文の形を成していった。現代のメイジは時間をかけて自分の杖と契約を成立させるが、この時代のメイジは杖を持った瞬間にすべての魔法が使えるようにインプットされた状態で作り出される。しかも、秩序無くありとあらゆるデータを流し込まれた影響からか、ブリミルの頭の中に浮かぶ呪文は、これまで使われたことの無い新魔法として彼の口から流れ出た。
「我が名は、ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール。わ、我の運命に、し、従いし」
 途切れ途切れながらもはっきりした呪文がブリミルの口から流れる。そしてその呪文のルーンを聞いたとき、ルイズは……いや、その場にいたメイジ全員がはっとした。それは現代では特別な魔法でもなんでもなく、メイジなら誰もが知っていて当然の、サモン・サーヴァントの呪文だったからだ。
 ブリミルの杖が輝き、彼の傍らに光り輝く召喚のゲートが現れる。怪獣はその光に驚いて離れ、続いてゲートからはじき出されるようにして、ひとりの人影が飛び出してきた。
「うわ、あいったたぁ……え、ここどこよ? わたし、さっきまで森で怪獣に追われてて」
 事態を飲み込めない様子であたりを見回す少女、それが誰かは確かめる必要もなかった。短い金髪、活発そうな眼差し、それはまさにここにいるサーシャに間違いはなかったのだ。
 今のサーシャが不敵に笑い、昔のサーシャはうめき声を聞きつけて足元のブリミルを見つけた。しかし、身なりで彼がマギ族だとわかると、彼女は露骨に嫌悪感を示した。
「あんたマギ族ね。わたしをここに呼んだのはあんたなの?」
 足元のブリミルは答えなかった。いや、答えられなかった。彼自身、はじめて使う魔法の効果を理解できても、使い魔という存在がなんなのかわからなかったのだ。いわば、説明書だけを丸暗記させられたようなものだ。
 ブリミルは、見上げた先にいる女性が自分に敵意を持っていることを知った。しかし仕方ない、今やこの星でマギ族に恨みを抱いていない人間などひとりもいないと言っても過言ではない。
 それでも、ブリミルは一縷の望みにすがった。
「た、助けて……」
 そう言うだけで精一杯だった。くどくどした言い訳や命乞いを思いつく暇も無い、ただ本心の願いだった。
 サーシャはブリミルの頼みに、「なんでマギ族なんかを」と、見捨てて離れようと踵を返したが、ブリミルを餌食にしようと迫ってくる怪獣の口を見て一瞬躊躇した。
「なんでわたしが……もう、しょうがないわね!」
 苛立ちながらもサーシャは倒れているブリミルを抱えて飛び出した。次の瞬間には、ふたりのいた場所は怪獣に噛み砕かれて跡形もなくなる、サーシャは怪獣の頭の横を走って駆け抜けると、そのまま円盤の外に飛び降りた。
 円盤は完全に怪獣に押し潰されて大破し、サーシャはブリミルを背中に背負ったままで円盤に背を向けて全力で走る。
「ここどこなのよ! いったいどっちに逃げればいいの!」
「あ、ありが、とう」
「か、勘違いしないでよ。目の前で食われたらさすがに寝覚めが悪いだけよ、てかやっぱり追ってくるじゃない」
 怪獣はしつこくサーシャの後を追ってきた。サーシャは健脚であるものの、人一人を背負ったままではやはり力が出ない。
 このままではすぐ追いつかれる。映像を見ていた誰もがそう思って息を呑んだときだった。サーシャが……いや、映像の中のサーシャではなくて今ここにいるサーシャがはっとしたようにブリミルに詰め寄った。
「ちょ、ブリミルここカット」
「へ?」
「カットよカット! いいから五分くらい時間を飛ばしなさい! 早く!」
 なんだかわからないけど突然ものすごい剣幕で迫りだしたサーシャに、才人やルイズたちも「なんだなんだ?」と、怪訝な顔をする。
 なんか見られたらまずいものでもあるのか? と、思ったときにはサーシャはブリミルの後ろから羽交い絞めにしてでもイリュージョンの魔法を止めようとしていた。
「飛ばしなさい、い・ま・す・ぐ・に!」
「はっはっはー、なるほどそうはいかないよー。こうなったらもう全部見てもらおうじゃーないか。遠慮しなくてもいいよー」
「誰が! いいからこの、こんなときだけ強情なんだから」
 なんかブリミルもすごく悪い顔をしている。いったい何が始まるというんだ? 一同は考えてみた。えーっと、サモン・サーヴァントの後にするものといえば……なるほど。
 キュルケやアンリエッタが顔を輝かせた。カリーヌはつんとした様子になり、エレオノールは「けっ」と不愉快そうに視線をそらす。
 もちろんウェールズも気づいて、なにやら思い出深そうにうなづいている。ルイズが赤面しているのを才人が脇でつついて殴られた。アニエスははてなという様子だったがミシェルに耳打ちされて納得した。ティファニアがきょとんとしている横で、ルクシャナはこれからがとても楽しみだというふうにニコニコしている。タバサだけは表面上は無表情でいた。
 そして、その瞬間は無情にやってきた。昔のサーシャが走りながら背負ったブリミルの様子を見ようと振り返ったときである。
「ちょっとあなた、どこか逃げ込めるところはないの? さっきからなに背中でブツブツ言って、んんっ!?」
 おおっ! と、ギャラリー一同が興奮し、今のサーシャと昔のサーシャが同時に赤面した。
 そう、サモンサーヴァントの後にすることはコントラクト・サーヴァント。その方法は、人間と動物や幻獣などであればなんてことはないが、人間同士でやるにはすごく恥ずかしい行為、口付けである。
 ブリミルとサーシャの唇がしっかりと触れ合っていた。いや触れ合っているというよりしっかりと押し付けあっている。その熱い光景に、ギャラリー一同は状況も忘れ、キュルケとアンリエッタを筆頭に鼻息を荒くし、ティファニアさえ顔を覆った手のひらのすきまから見入っている。
 が、たまらないのは今のサーシャだ。ものすごく恥ずかしいシーンを大勢に暴露されてしまった。顔から湯気が出そうなくらい赤面し、恥ずかしさをごまかすかのようにブリミルの首を締め上げている。
 当然、当事者である昔のサーシャの反応もぶっ飛んでいた。
「なっ、なっなっ、なっ、なにすんのよこの腐れ蛮人がぁぁぁーーっ!」
 サーシャは思いっきりブリミルを投げ飛ばし、ブリミルの体は近くの立ち木の幹に思いっきり叩きつけられた。カエルのようなうめき声を残し、地面にずり落ちるブリミル。続いて立ち木がメキメキといってへし折れた。
 「ブリミルさん、死んだんじゃないのか?」。才人はありえないとわかっていながらも本気でそう思った。そりゃ、いきなり唇を奪われたら女性は誰だって怒る。ブリミルには悪気は無く、頭の中に浮かんできたコントラクト・サーヴァントの内容を無意識に再現したのだろうが、何も知らないサーシャにそんなことは関係ない。
 けれど、コントラクト・サーヴァントの効果はすぐに表れた。サーシャの左手が輝き、ガンダールヴのルーンが刻まれ始めたのだ。
「なにっ? きゃあっ、あ、熱い! いたぁぁぁいっ!」
 ルーンが刻まれる際には激痛を伴う。サーシャは左手を押さえて悲鳴をあげた。
 しかしルーンが刻まれるのに時間はかからず、すぐに痛みは治まった。それでも、訳がわからないサーシャはブリミルに何かされたのだと思って、腰に差していた短刀を引き抜いてブリミルに詰め寄ろうとした。
「あんた、いったいわたしに何を? えっ? ええっ!?」
 体を動かそうとしたサーシャは、自分の体が思ったよりも何倍も軽く動いたので驚いた。まるで重力がなくなったような抵抗のなさ、見ると剣を握っている左手のルーンが輝いている。面食らっているサーシャに、ブリミルはふらつきながら告げた。
「それが、君に与えられた力だ。なにかしら武器を持ってるあいだだけ、君の身体能力は何倍にも跳ね上がる」
「ええっ! って、人の許可も無しになにしてくれるのよ」
「すまない。それより、後ろだ」
「えっ? うわっ!」
 サーシャがとっさに飛びのいたところを怪獣の口が通り過ぎていった。アホなことをやっているあいだに追いつかれてしまったのだ。
 またも餌を食べ損ねた怪獣は機嫌を損ねた様子で吠え掛かってくる。サーシャが、もうこれまでかと覚悟しかけたそのとき、ブリミルが杖を握りながら彼女に言った。
「頼む、一分。いや、五十秒でいいから怪獣を引き付けておいてくれ、そうしたら後は僕が」
「はぁ? なによそれ。うわああっ!」
 サーシャの問いかけにもブリミルは答えず、彼は杖をかざして呪文を唱え始めた。もちろん、怪獣も遠慮なく襲い掛かってくる。
「ああもうっ! こうなったらもうやけくそだわ」
 完全に吹っ切れたサーシャは、襲い掛かってくる怪獣に短剣を振りかざして立ち向かっていった。
 怪獣の突進をガンダールヴのスピードでかわし、大きくジャンプすると怪獣の顔に飛び乗った。自分でも信じられないくらい体が軽い。ならばパワーはどうか? サーシャは短剣を両手で持つと、渾身の力で怪獣の眉間に突き立てた。
「ええーいっ!」
 刺さった! スピードといっしょにパワーもかなり上がっている。しかし短剣では長さが足りず、怪獣の分厚い皮膚の向こう側にまで通っていない。
 せめて槍、もしくは長剣でもあれば。悔しさをにじませるサーシャだったが、そこにブリミルの魔法の詠唱が聞こえてきた。
「スーヌ・ウリュ・ル……」
 不思議なことに、それを聞いたとたんにサーシャの心から恐怖や焦りが消えていき、代わって勇気と自信と、あの呪文をなんとしても完成させなくてはという使命感が湧いてきた。
「あと三十秒、それだけ時間を稼げばいいのよね!」
 サーシャは飛び降りると、怪獣の注意をブリミルからそらすために怪獣の視線をわざと横切っていった。
 当然、怪獣はサーシャへと襲い掛かる。それはほんの数十秒にしか過ぎないとはいえ、危険極まる行為であったが、才人には彼女の気持ちが理解できた。ガンダールヴとは、主の呪文の詠唱が完成するまで主を守るのが務めの使い魔なのだ。
 素早い動きで逃げ回り、サーシャは要求の五十秒を満たした。そしてブリミルは呪文を完成させ、ルイズにとってもっともなじんだあの虚無魔法を発動させた。
「ベオークン・イル……エクスプロージョン!」
 それは、この世に虚無魔法が誕生した瞬間であった。光とともに爆発が起こり、怪獣を巻き込んで吹き飛ばす。
 サーシャが次に目を開けたときには、怪獣はかなたに飛ばされていったのか、それとも欠片も残さないほど粉砕されたのか、いずれかはわからないが視界のどこにも存在してはいなかった。
 助かった……ほっとしたサーシャが短剣をさやに戻すとルーンの光は消えた。そしてサーシャは木の根元で倒れこんでいるブリミルのもとに歩み寄ると、その顔を見下ろして言ったのだ。
「説明してもらえるかしら。いったい何がどうなってるのよ?」
「ごめん、実を言うと僕にもさっぱりなんだ。ともかく、命を助けてくれてありがとう。ええと、君は」
「サーシャよ。めんどうだから名前くらい教えてあげる。あんたは?」
「ブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」
「ブリミルね。それでもう一度聞くけど、こんなどこだかわかんないとこに連れてきてくれて、いったいどうしろっていうの?」
「わからない。けど……うう、なんだか、とても、眠い、よ」
 ブリミルはそのまま、虚無魔法を使った反動で意識を失ってしまった。
 サーシャは呆れた様子だったが、ふと左手のルーンを見つめると、ため息をついてブリミルを担ぎ上げた。
「勘違いしないでよね。わたしは見も知らない土地を一人で歩き回るほどバカじゃないだけなんだから。それと、わたしの初めてを奪った報いは必ず受けさせてやるわ。それまであんたのことは蛮人って呼ぶから、覚悟しておきなさいよ」
 疲れ果てて寝息を立てるブリミルを背負って、サーシャは雨風をしのげる場所を探すために歩き始めた。この旅立ちが、彼女とその背の男の一生をかけたものになることをまだ二人は知らない。しかし長い夜は明け、しばしの安息を得よと告げるように、ふたりの歩む先から太陽がその姿を見せ始めていた。

 舞台は現代に戻り、ブリミルはそこでイリュージョンの映像を再び止めた。というか、サーシャの首締めで落ちて止まった。
 とはいえ、話を区切るには適当なタイミングだっただけに、一同は息をつくと顔を見合わせた。
「これが虚無の系統の誕生と、始祖ブリミルとミス・サーシャの出会いだったわけなのね」
「なんてドラマチックなのでしょう……」
「いや女王陛下、そこじゃないでしょう、そこじゃ」
 うっとりしているアンリエッタにツッコミを入れると、ルイズは考えを整理してみた。
 簡単にまとめると、マギ族はその文明とともにほとんどが死滅した。始祖ブリミルは、幸運に生き残った最後の一人。
 虚無の系統は、人造メイジを生み出す機械の暴走でイレギュラー的に生み出されたもの。常識はずれの効果を持つのはそれが理由だろう。
 サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは、元々は虚無の魔法だった。しかしコモンマジックとしても使えたので、四系統の中にも組み込まれていった。
 そして、最初の使い魔として選ばれたのがサーシャだった。ある意味、これがハルケギニアの歴史のはじまりだったと言えるかもしれない。
 ほかの面々も感想はそれぞれだろうが、一様になにか深いものを感じたらしくうなづいている。始祖ブリミルは、異邦人であり侵略者であり暴君であり、人間だった。神は地に引きづり下ろされて人になった。
 そのころ、サーシャに締め落とされたブリミルがようやく息を吹き返してきた。
「う、うぅーん。ここは天国?」
「あいにくね、まだ現世よ」
 頑丈だなこの人は、と一同は思った。そういえばさっきもサーシャに思い切り木に叩きつけられていたのになんとか無事だったし、あれから今日まで日々鍛えられていたのだろう。見習いたいとは思わないが。
 目が覚めたブリミルは、首をコキコキと鳴らして脳に血液を送り込むと、一同に問いかけた。
「どうだったかな。僕とサーシャの出会い、たぶん期待したようなものじゃなかったと思うけど、楽しんでもらえたかな?」
 いや楽しむとかそういう類の問題じゃないでしょうが、と一同は思った。なにかスッキリした様子のブリミルはサーシャに軽く意趣返ししたつもりなのだろうが、頬を紅潮させたサーシャにさっそくどつかれている。
 私をさらしものにするとはいい度胸してるじゃないの蛮人、と言ってすごむサーシャと、いいじゃないの歴史は正確に真実を残さなくっちゃとうそぶくブリミル。だがまあいいものは見せてもらえた。それと豆知識がひとつ、蛮人という言葉の由来は「野蛮な人間」ではなく「ブリミルのボケナス」という意味だった。今のエルフたちは、自分たちが使っている蔑称が痴話げんかから生まれたと知ったらどう思うだろうか。
 それでも、まったく見ていて暖かい気持ちになれるふたりだ。けんかしても憎しみはなく、むしろ深い信頼があるからこそ好きなことを言い合える。カリーヌは若いころを思い出し、若い男女たちはそれぞれ「こんな夫婦になりたいな」と思った。約一名を例外として。
 しかし、痴話げんかで話をいつまでも脱線されても困る。才人は、このふたりに割り込める数少ない人間として、しょうがないなと思いつつ腰を上げた。
「あのー、それでブリミルさん。この後でおふたりはどうしたんですか?」
「ん? ああ、しばらくは二人旅が続いたよ。けど、正直このころが一番苦労したかもねえ。なにせサーシャは容赦ないからねえ、君は僕の使い魔になったんだって説明したときはボコボコにされたもんだよ」
 だろうねえ、と全員が思った。サーシャの気性からして、誰かに隷属するなんてありえない。というか、現在でも平気で主人をギタギタにしているんだから、打ち解けていなかった頃は毎日が血の雨だったのだろう。
 けれど、それでも二人は旅を続けたんだとサーシャは言った。
「仕方ないでしょ。見捨てたら確実にこいつ三日と持たずにのたれ死ぬし、こんなのでもいないよりはマシだもの」
 住民が全滅した土地で、生活力がほとんどないブリミルが生き延びるにはサーシャに頼るしかなかった。彼は虚無の魔法を会得はしたが、使いこなすには経験が圧倒的に不足しており、マニュアルを読んだだけで車に触れたこともない新人ドライバーも同然の状態だったのだ。
 ほぼ役に立たないも同然の虚無では食料を得ることもできず、サーシャは毎日方々を駆け回って二人分の食べ物をかき集めてきた。
 それは、ブリミルにとって自分が穀つぶしだと思い知らされるつらい日々であった。なに不自由ない飽食の生活から一転して、食べられるものがあるだけでも幸いな底辺の生活への転落で目が覚めた。子供でもなければ、自分がなにもせずに他人のお情けで食べさせてもらっているんだという境遇には後ろめたさを感じて当然だ。そしてブリミルにも人並みのプライドはあった。
 自分になにができるか、ブリミルは考えた。サーシャの真似事をしても彼女の足手まといになるだけだ、ならできることは、偶然とはいえ手に入れたこの力を役立てられるようにするほかない。
 そのときからブリミルは暇があれば自分の魔法の研究と訓練に明け暮れた。魔法の使い方だけはわかるが、エクスプロージョンひとつをとっても単に爆発を起こすだけから、広域の中の任意のものだけを破壊するまで加減の幅は広い。それに虚無魔法は効果のスケールの大きさゆえに非常に高度なイマジネーションが必要とされる。それを理解し、身に着けるには、ひたすらに数をこなしていく以外の道は存在しなかった。
 ルイズは試行錯誤をしながら訓練を続けるブリミルに、自分の姿を重ねた。失敗と落胆の積み重ねの幼少期、虚無に目覚めてからも、強すぎる系統は楽に言うことを聞いてはくれず、どう手なづけていくか悩み続けた。
 始祖ブリミルにも、人並みに苦労を重ねた時代はあった。そして、努力を続けることと、サーシャの厳しさや優しさに触れていくうちにブリミルの性格にも変化が現れ始めた。支配者時代の傲慢さは消え、謙虚さや思いやりを表に出すようになった。そうするうちにサーシャとも打ち解け、軽口や冗談を言い合うようにもなっていった。
 ある日の夕食。焚き火をはさんで、久しぶりに手に入ったパンをほうばるブリミルとサーシャ。笑いあい、語り合い、その話題には明日からどうしていこうかという希望と期待が満ちている。ふたりを暖める焚き火は、ブリミルが練習の末に最小威力で起こしたエクスプロージョンで着火したものだった。
「サーシャ、僕は最近なんだか毎日がとても楽しいんだ。なんか、充実してるっていうか、魔法がぐんぐんうまくなってるって実感があるんだよ」
「ふーん、あんたの魔法って奇妙だからよくわかんないけどあんたが楽しいならいいんじゃない? エクスプロージョンってのでイノシシの一匹でもとってくれたら助かるし。あ、でもこないだみたいに爆発起こして狼の大群を呼び寄せちゃったなんてのはやめてよね」
「あ、あれはまあ、はははは。でも君だってこないだ「珍しい果物を見つけてきたわよ」って喜んでたら、中から虫が出てきて悲鳴をあげて僕に投げつけたじゃない。痛いわ気持ち悪いわで大変だったんだから」
「う、つまらないことはよく覚えてるんだから。そんなことより、明日は新しくテレポートって魔法で山の向こうまで行ってみるんでしょ。余計なこと考えてないでさっさと寝ちゃいなさいったら」
「はいはい……今度こそ、誰か生き残ってる人に会えたらいいね」
「いるわよきっと、あんたでさえ生きてられるくらいなんだから」
「君のおかげだよ、感謝してる」
「そう思うなら明日はがんばってよ。間違って川にドボンなんてごめんなんだからね」
 いつの間にか、ブリミルとサーシャのあいだに信頼が生まれていた。サーシャはブリミルのがんばりを、ブリミルはサーシャの乱暴な優しさをそれぞれ認めあい、心を許し始めていたのだ。
 ふたりは助け合いながら旅を続けた。向かう先は現在のトリステイン地方から東へ、サハラにあるマギ族の首都の方角へである。人口は当然ながら首都の周囲が一番密度が大きく、そちらなら生存している人も多いだろうと思ったからだ。
 円盤で空を飛べばあっという間の距離も、徒歩ではとほうない遠さだった。しかも主要道路は各所で寸断し、山道は埋まり、橋は落ち、野性化したドラゴンやオークたちがエサを求めてうろついている。当然、まだ怪獣も多数徘徊しており、目立つ移動は極力避けねばならなかった。
 それでもふたりは希望を信じた。この世界はまだ滅んではいない、生き残った人々が集まれば再興のチャンスはきっとある。ヴァリヤーグや怪獣たちだって、永遠にのさばり続けるわけはない。たとえ電灯ひとつなく土にまみれた生活しかなくても、無意味な殺し合いの日々よりはよっぽどましだ。
 旅は何ヶ月も続いた。その間、ふたりは自分たちが信じた希望が間違っていなかったことを見つけることができた。少しずつだが、各地で隠れ潜んで生き延びていた人々と出会うことができたのだ。
 仲間を増やしながらブリミルたちは旅を続けた。そのうちにブリミルの魔法の腕も上がっていき、少しくらいの幻獣の群れくらいならば撃退できるようになっていた。そうするうちにブリミルも頼られることも多くなり、しだいにリーダーとしての役割を果たすようになっていった。
 笑顔を増やしながら旅を続ける小さなキャラバンの誕生。アンリエッタやルイズは、こうしてブリミルが始祖と呼ばれる人物になっていったのだろうと思い、胸を熱くした。

 しかし、旅が終点に近づくにつれて、現在のブリミルとサーシャの表情は険しくなっていく。
 それと同時に、才人も違和感を感じ始めていた。ブリミルが仲間にしていく人々に、六千年前に才人もいっしょに旅をした仲間たちが一人も見当たらないのだ。

 希望を得て旅路を急ぐ六千年前のブリミルとサーシャ。
 だが、ふたりはまだ知らなかった。ヴァリヤーグによって荒れ果てていくこの星の惨状は、終息に向かうどころかこれからが本番だということを。
 さらに、小さな希望などをたやすく押しつぶすほどの巨大な絶望が旅路の先に待っていることをふたりは知らない。

 ブリミルが始祖と呼ばれる存在に生まれ変わるための最大の試練が、やってこようとしていた。
 そしてもうひとつ……破滅が押し寄せる星に向かって急ぐ、澄んだ青い光があった。始祖とその使い魔の伝説は、まだ終わっていない。


 続く




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