あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ウルトラ5番目の使い魔、第三部-54a


 第54話
 ここは夢の星だった

 カオスヘッダー 登場!


 この物語は、地球の少年平賀才人が、ハルケギニアの魔法使いルイズに召喚され、ゼロの使い魔となったことから始まった。
 彼らは数々の冒険や戦いを乗り越え、幾たびもハルケギニアを救ってきた。
 しかし、そもそも……なぜ彼らの冒険は始まらなくてはならなかったのだろうか? なぜ彼らの前に、宇宙を揺るがすほどの危機が次々と訪れなくてはならないのか。
 それは突き詰めれば、ハルケギニアという世界があるためだ。
 この世に、舞台なくして起きる出来事などはない。畑がなければ作物はとれず、空がなければ鳥は飛べず、水がなければ魚は泳げず、大地があるからこそ人は歩ける。
 かつて地球で無数の怪獣が暴れる怪獣頻出期があったのも、地球にそれだけの怪獣が生息できるだけの環境があったからだ。
 ならば、ハルケギニアがこれほどの異変に見舞われるだけの下地とはなんなのだろう? それは、才人とルイズの物語が始まるよりもはるか前。ハルケギニアの起源にさかのぼらねばならない。

 ハルケギニアの始まりのすべてを知る者。すなわちハルケギニアを作った張本人である人物、始祖ブリミル。だが現代にやってきた彼が子孫たちに告げた内容は、天雷の直撃のような衝撃を持って子孫たちの頭上に叩きつけられた。
「この星の住人ではないということは……始祖ブリミル、あなたはまさか……う、ウチュウ、人、なのですか?」
「君たちから見ればそうなるね。もっとも、サイトくんは薄々感づいていたようだけど」
 愕然とするハルケギニアの人々を見渡して、ブリミルは憂鬱そうに言葉を返した。その表情には、だから言いたくなかったんだという色がありありと浮かんでいる。
 この反応になるのは予想できた。ハルケギニアの人々にとって、宇宙人は現在では侵略者と同義語として認識されている。自分たちの敬愛する聖人が、自分たちがもっとも敵視するものと同一と聞かされたときの衝撃は、教皇の正体があばかれたときのそれにも勝るだろう。
 だが、そんなブリミルの様子に、才人は狼狽するハルケギニアの人間に代わって、彼をフォローするように話の続きを促した。
「ブリミルさんは隠し事は下手そうでしたからね。あんだけ長くいっしょにいたら、そりゃいくらおれでもちっとは怪しいって思ってたぜ……でも、おれの見てきた限りじゃあなたは悪い人じゃない。なにか事情があったんでしょ? それを説明してくださいよ」
 するとブリミルは、少しほっとした様子になり、それから何かを吹っ切ったように小さな笑顔を見せた。
「ああ、ありがとう。そうだね、サイトくんの言うとおりだ。まずは、話すべきことを話してからにしよう。少し長くなるけどね……とりあえずは、宇宙のことについてざっと予備知識として説明しておこうか」
 ブリミルはイリュージョンの魔法を併用しつつ、宇宙の基礎知識をまずは語った。この世界は宇宙という広大な空間であり、ハルケギニアはその中のひとつの星の中の一部であることを。
 それだけでも、ハルケギニアの人間にとってのショックは大きかった。彼らにとってはまだ神話のレベルである”この世のしくみ”を説明されたのだから当然である。エレオノールやルクシャナも内容を飲み込むのに必死で、全体として漠然としか伝わっていない。
 そんなブリミルを、才人は複雑な思いで見ていた。ブリミルもまた、ハルケギニアの外からやってきた異邦人。自慢ではないが、地球人の自分がこの世界に与えてきた影響は少ないものではない。増して、地球人よりはるかに進んだ宇宙人のもたらす影響などは想像もつかない。
 聞くことが怖い。しかし、聞かないわけにはいかない。やがて、前知識の解説を終えたブリミルはひと呼吸を置くと、サーシャとうなづきあって話の本題に入った。
「では、僕も覚悟を決めたから話そう。君たちも、少し酷かもしれないがまずは聞いてくれ。僕らマギ族はね、遠い昔から宇宙をさまよい続けてきた、あてどもない流民だったんだ」

 ブリミルはイリュージョンの魔法で記憶の光景を再現しながら、ゆっくりと自分たちの歴史を語り始めた。
 彼らマギ族が、元々どこの星から来た何星人だったのかはわからない。だが、彼らは遠い昔になんらかの理由で母星を失い、それ以来、移住できる惑星を求めて、長い長い宇宙の放浪の旅に出た。
 それがどれほどの時間を費やし、何世代に渡って続いたのかも、もはやわからない。しかし、彼らは自分たちのルーツも忘れてしまうくらいに長い時間を、たった一隻の宇宙船でさすらってきた。
「僕も故郷を知らないで、船の中で生まれた世代さ。いや、僕の生まれたころには、マギ族の本来の故郷を知る人間はひとりも残っていなかった。僕らの寿命は君たちと同じだから、少なくとも数百年は旅を続けていたんだろうね。けど、僕らが移住できるようなところは、なかなか見つからなかった」
 マギ族の宇宙船は宇宙をさまよい続け、移住できる星を探し続けた。しかし、生物が住んでいる星にはたどり着くことはできても、そのすべてが彼らの移住には適さないものばかりだったのだ。
 単純に、人間が住むのに適さない温度や気候条件の星だったことが一番多かったが、ようやく住めるだけの環境を持った星を見つけても、それらのほとんどには先住民がいた。移住はことごとく拒否され、彼らは再び宇宙へと追い出されていった。
 この事に、ルイズやティファニアは「ひどい」と感想を持ったが、アンリエッタが難しそうな様子でそれを否定した。
「たとえ最初は数千人でも、時間が経てば数は増えていくわ。それに、一度受け入れたら、同じような人たちが来たらまたそれを受け入れなくてはいけなくなるの。非情なようだけど、元々住んでいた人の平和を守るためには仕方がないことなのよ」
 ウェールズやカリーヌも、そのとおりだとうなづいている。地球で過去にも、地球に定住した宇宙人はいたが、いずれも少数で、隠れ潜んで住み着いている。たとえ悪意がなくとも、よそ者というそれだけで危険視されるに充分な理由だということを彼らは心得ているのだろう。決して地球人が排他的だというだけではない。
 もう何回目になるかわからない拒絶を受けても、マギ族は旅を続けた。宇宙のどこかには自分たちの永住できる星が、きっとあると信じて。
 しかし、現実は彼らの期待を裏切り続け、移住可能な惑星はどれだけ旅を続けても見つかることはなかった。もはやどれだけ旅を続けても無意味なのではないか? 絶望感が彼らを支配しかけていたときである。船のひとりの技術者が、超空間開門システムを完成させたのは。
「ちょう……なんですの、それは?」
「超空間開門システム。簡単に言えば、まったく違う世界と世界をつなぐことができる門を作り出す機械と思ってくれればいい。この世界に自分たちの住める星はなくても、別の世界にならあるかもしれないという望みが、僕らにとっての最後の希望だったんだ」
 才人は、「なるほど、つまり前に我夢さんが見せてくれたアドベンチャー号に似たもんか」と納得した。そしてルイズは、ブリミルの説明を聞いて、ふとあることに気がついた。
「それって、虚無の魔法にある『世界扉』と似ているわね」
「いいところに気がついたね。その魔法も関係してくるんだが、それは追々説明するよ。ともかく僕らは、一縷の望みをかけて次元の門を開いた。そして、その先にたどり着いたのが、この星の聖地だったというわけなんだ」
 それが始祖降臨の真実なのかと、場を戦慄が支配した。始祖は、神に命じられて降り立ったのではなく、神頼みで流れ着いたのだというのか。
 突きつけられる現実、しかしブリミルの話は続く。
「僕らは狂喜したよ。なにせ、僕らが夢見続けてきた理想の世界がここにはあったんだから。僕らが住むのにちょうどいい気候に、豊富な自然、なによりも発達した文明を持った先住民族がいない。そのころの僕は五歳くらいだったけど、よく覚えているよ。狭い船の中の生活から、無限の広さを持った青空の下で生活できるようになった喜びは、忘れられない」
 しみじみとブリミルは語った。
 マギ族はたどり着いた惑星を丹念に調査し、ここが移住に最適の地だとわかると早速入植を開始した。
 なにせ彼らは宇宙船の中だけで、数百年ものあいだ生活サイクルを続けられたほど高い科学力を持った種族である。それが、広さも資源も無尽蔵な惑星に解き放たれたのだから、開拓は見る見る間に進んでいき、聖地を中心にわずかな期間で、周辺には大都市が建造された。
 そこでは、東京都庁もかくやという巨大ビルディングが並び立ち、その中には王城のようにあらゆる生活設備がかねそろえられていた。マギ族はそこに住み、さらに地下にはオートメーション化された工場が配置されており、豊富な資源を元にあらゆるものが生産され、彼らはなに不自由ない生活を謳歌できた。才人の目から見てさえ、それは科学が生んだ理想郷とさえ言える巨大なメガロポリスであった。
「東京都心どころじゃねえ。ニューヨークやドバイだってここまでいかねえぞ」
 地球のどんな大富豪でさえできないであろう、究極の贅沢がそこにあった。願えばどんなものでもすぐに作り出され、食べ物はどんな珍味も簡単に合成され、その量に際限はなかった。
 これに比べたらトリスタニアなどは子供が砂場に作った城であろう。ハルケギニアの人間たちは圧倒され、エルフの都であるアディールでさえ田舎町にしか見えない規模にルクシャナも開いた口がふさがらないでいる。
 しかし、ついさっきまで宇宙船で流浪の旅を続けるばかりだった彼らが、いくら科学力があろうともここまでの都市を築けるとは行きすぎな気がした。これほどの力があるのならば、不毛の惑星のテラフォーミングもできたであろう。その疑問に、ブリミルはこう答えた。
「僕らをこの星に導いた超空間開門システムは、想定外の恩恵を僕らにもたらしてくれたんだ。つまり、ゲートの向こうの別の宇宙から、まるで雨が高いところから低いところに降るようにして、無尽蔵にエネルギーを取り出せるようになったんだよ」
 それがマギ族の短期間の発展の理由であった。別の宇宙からこの宇宙に流れ込んでくる無限のエネルギーは、マギ族に使いきれないほどの力をもたらしたのだ。
 けれども、彼らはそれだけで満足したわけではなかった。彼らは願い続けた生存権の確立はできたものの、彼らの人数はわずか数千人、都市にいるのは他にはロボットだけ、彼らが孤独感を感じ始めるのは当然であった。
 そこで彼らは生存権を広げるのと同時に、この星の先住民族との交流をはかり始めた。
「当時のこの世界には、発達した文明こそはないが、原始的な狩猟や農業をおこなっている人間たちの集落が点在していた。僕らは彼らを自分たちのコミュニティに加えようと試みたんだ」
 マギ族は事前に先住民族の文化・言語などを分析することで、彼らにもっとも有効なアプローチを用意して接触し、友好的な交流を築き上げていった。
 その様子はブリミルのイリュージョンの魔法で部屋に映画のように映し出され、ルイズたちはその友好的な様子を目の当たりにして、頬をほころばせていた。
 しかし、エレオノールやキュルケの顔はうかない。王家に伝わる、あの伝承が彼女たちの脳裏に蘇っていたからだ。
 そして、現地民に神のごとく敬われ、マギ族は勢力圏を爆発的に拡大していった。
 聖地、現在のサハラ地方を中心に、東方、西方は現ハルケギニアのガリア中部からゲルマニア中部までの村落が早々に影響下に置かれた。生活様式も、それまでは原始的な家屋が少数集まった集落がバラバラに点在したり、遊牧民的な生活を送っていたことから一転して、マギ族の用意した都市に多数が集まる中世的な様式へと変貌していったのだ。
 それはまさに文明の洪水であった。マギ族は現地民たちに自分たちの道具、技術を与え、さらに睡眠学習装置なども併用して知識、制度のレベルまでも高めた。
 ほんの数年で、粗末な小屋やテントしかなかった村は、現代のハルケギニアと見まごうばかりの都市へと変貌し、それが各地に続々と増えていった。その速度はまさに圧倒的で、エルフの技術に自信を持ってきたルクシャナでさえ感嘆として見ていた。
「まさに、人知を超えたこの世ならざる者の所業ね。普通なら、何百年、何千年もかけておこなう変化を、たった数年で。しかも先輩、あの都市の作り方、見覚えがあるでしょ?」
「ええ、アボラスとバニラが封じられていた悪魔の神殿にそっくり、いえ、そのものね。やっぱり、この時代に作られたものだったのね」
 ふたりは、各地でたまに見つかる高度な技術で作られた遺跡が、この時代の遺産であったことを確認してうなづきあった。あれほど高度な技術が用いられた遺跡が、いったいどうやって作られたのかはずっと謎だったのだが、最初から人間の作ったものではなかったというなら当然のことだ。
 マギ族の与える文明は、現代のハルケギニアよりもやや進んだ程度のレベルを基本として、それからもあらゆる方向へと進んでいった。農耕、漁業、牧畜の発展で食料は有り余るほど手に入るようになり、医療は化学工場で作られた薬品とロボットドクターによって病の恐れが消え、文字の普及によって本が作られるようになって娯楽の幅が広がり、さらには半永久電池による照明は焚き火しか明かりを知らなかった人々に爆発的に広がっていった。

 それは、文明が努力と失敗の積み重ねでできていると信じる者からしたら、まさに”反則”としか言いようの無い光景であった。

 地球でも、例えば明治維新のように社会制度と文明の流入による急速な発展の事例はあるが、これはその比ではなかった。例えるならば、明治維新は日本という白黒の下絵の上に文明開化という絵の具で絵を作ったようなもので日本という絵そのものは変わっていないが、マギ族のやったことは題名も決まっていない白紙のカンバスの上に文明のカラーコピーをしたようなものである。
 それでも、先住民族の文明化は止まらなかった。マギ族は先住民族が自分たちを神も同然の存在として受け取るように計算して接触しており、しかもマギ族の与えるものは確実に生活を豊かにしてくれたからである。苦痛には人は耐えられても快楽に耐えられる人間はそうはいないという理屈だ。
 都市化、文明化の波は、やがてこの星から夜の闇を消し去るほどに広まった。それに要した時間は、ほんの十年足らず……ほんの十年で、それまで野で獣を追い、狭い畑で粗末な野菜を育てるだけだった人間たちは、都市で夏は涼しく冬は暖かく、山海の珍味を季節によらず口にし、遊びきれないほどの娯楽に囲まれる生活を手に入れたのだ。
 マギ族は、聖地に建設した近代都市に住まい、世界中を統治した。そこはまさしく神の居城であり、通信を使って都市にいながら支配地に指令を出し、ときおりUFOに乗って支配地に降臨する彼らは神そのものであった。
 広大な支配地と支配都市の数々を、マギ族ひとりが少なくともひとつの都市を所有するようになっていた。その中には十五歳になったブリミルもおり、彼らは自分の支配地をいかに発展させるのかを最大の娯楽とするようになっていた。
「まさに、神の遊び。なにも知らない無垢な人々に、いろいろ吹き込むのはさぞ楽しかったでしょうね」
 サーシャが皮肉げに言うと、ブリミルはばつが悪そうに苦笑いした。
「まったく君はずけずけと言ってくれるね。だが、まったくそのとおりだよ。僕らは最初、友が欲しくて人々に接触していたけれど、いつしか調子に乗りすぎていってしまったんだ……そして君たち、これまでの様子を見てきて、なにか気づいたことはないかい?」
 真顔に戻ったブリミルがそう尋ねると、一同は顔を見合わせあった。
 違和感。そう、今まで見てきた中で、なにか現代のハルケギニアとは決定的に違う何かがあることを一同は感じ始めていたのだが、それが具体的に何かは一部の者を除いてわからなかったのだ。
 すると、一同の中からルクシャナが一歩前に出た。
「エルフの姿を見なかったわ。どの都市にも、住んでいるのは普通の人間ばかりで、わたしたちの同族はひとりも見なかった。いいえ、翼人も獣人も、人間以外のどんな人種も見かけなかった。ねえ、わたしたちの祖先はどこにいるの?」
 言われて皆ははっとした。確かに、これだけの巨大都市が乱立しているというのに、そこに住んでいるのは今で言う平民ばかりで、どこを見てもエルフのような亜人はおらず、それに家畜も馬や牛や豚ばかりで見慣れたドラゴンやグリフォンなどの姿はどこにもなかった。才人がタイムスリップした時にはいたのに、である。
 今のハルケギニアでは当たり前に見られるものが見えない。それになにより奇妙なことに、ハルケギニアならいなければおかしいはずのメイジ……魔法を使う人間が一切見当たらない。それが不自然すぎる。
 ここがハルケギニアの過去なら、この不自然さはいったい? 違和感の正体に一同は首を傾げたが、ふとルイズが思い出したように言った。
「確か、ブリミル教の教義では始祖ブリミルが魔法の力を授けたとあるわ。もしかして、それがこれからなんじゃないの?」
 ルイズのその言葉に、ブリミルはゆっくりとうなづいた。しかしその表情はとても重く、やがて彼は血を吐くように話し出した。
「僕らマギ族は、この星の人々に与えられるものを次々に与えていった。それは、さっきも言ったとおり最初のうちは僕らの仲間を増やしたいという純粋な思いからだったけれど、この星で無垢な人々を相手に神のように力を振るい続けているうちに、いつしか僕らは自分たちが本当の神であるかのように思い上がるようになっていったんだ」
 ブリミルの言葉とともに、繁栄を謳歌していた都市に異変が起こり始めた。それまでは各都市が自由に交流をできていたのが、突然人の行き来が禁止され、それぞれの管理者の都市ごとに隔離されてしまったのだ。
 いったいなにが起きたのか? その答えは困惑する面々の前に、もっとも残酷な形で現れた。

「えっ? 人間同士で……戦いが!?」

 マギ族の支配する都市同士での戦争、それが破局の始まりであった。
 ブリミルは語った。
「人々を支配しきり、星を完全に開拓しきった後のマギ族は、とほうもない”退屈”に襲われたんだ。やるべきことをやりきって、やらなきゃいけないことがなくなってしまったマギ族は、新たな”楽しみ”を探し求めた」

 マギ族は、惑星開拓という大事業に成功した後の喪失感を埋めるための、退屈しのぎを追い求めたのである。
 最初、それはマギ族同士で自分の支配する都市の充実具合を競い合うものであったが、彼らはすぐにそれに飽きて、より直接的な刺激を求めるようになった……
 それがすなわち、自分の都市の住人を兵士に仕立てての戦争ゲームである。
 もちろん最初から殺し合いをさせたわけではない。彼らにもちゃんと良心はあり、武器は殺傷能力のないものを持たせて、様々なルールを作って勝ち負けを競った。サバイバルゲームの大規模なものだと思えばいい。住人たちも、神々の命ずることだからと無抵抗に従った。
 だが、彼らはこの遊びを甘く見すぎていた。この世で、自分が傷つくことがないならば戦争ほど楽しいゲームはほかにない。そしてサバイバルゲームならば、いくら熱中しても社会的制裁を恐れてルールは厳密に守られるが、彼らマギ族をしばる社会的なたがは何もなかった。
 マギ族は、この戦争ゲームに泥沼のようにはまっていった。当初はそれこそ、模造の剣や槍だけを使った中世的な戦争ごっこだったものが、すぐさま銃や大砲を大量に用いて砦を攻め落とすようなものに、規模も複雑さも増して行き、さらに住民たちも強力な武器を用いて傷つくことなく好きなように暴れられるこのゲームに熱中した。
 アンリエッタやウェールズは、ハルケギニアの王族の中にも退廃した享楽に溺れた例はあると聞いたが、ケタが違うと戦慄した。他の面々も、顔色をなくし、冷や汗をかきながらようやく見つめている。

 ただ、この時点で踏みとどまることができれば、まだ遊びで済んでいただろう。しかし、彼らは知らず知らずに超えてはいけないラインへ踏み入り、遊びに入れてはいけない要素を取り入れてしまった。
 賭けの登場である。
 マギ族はお互いに直接戦うだけでなく、他人の勝負をダシにして賭けに興じるようになった。質に使われたのは住民から都市そのものまで幅広い。
 が、賭け事とは愚者の道楽である。しかも、個人がはまる分にはそいつひとりが破滅して他者の冷笑の的にされるだけだが、責任ある立場の者が賭け事にはまるとおおむね他人を巻き添えにする。
 地球の歴史上も、国を担保に賭けをして悲劇を巻き起こした王や軍人は枚挙に暇が無い。そしてその例は、ここでも完全に再現された。
 賭けに負けて、自分の所有する都市や領民を巻き上げられたマギ族の者は、怒りからさらに賭けに没頭した。しかし賭けるものがすでに無い彼らは、賭けの質を自ら作り出し始めた。それはすなわち、戦争ごっこをより魅力的に刺激的に変えることのできる、新たな駒の製造である。
 画像が、マギ族の所有する工場の内部へと切り替わったとき、一同の顔は驚愕と恐怖に彩られた。
「ドラゴンが……グリフォンが……つ、作られている」
 そこでは、大きな水槽の中で様々な生き物が改造されている様が鮮明に映し出されていた。
 トカゲやワニが大きくなってドラゴンになり、鷲とライオンが合成されてグリフォンになり、ただの馬に角が生やされてユニコーン、翼が生やされてペガサスになった。それらの目を疑うばかりの光景を、ブリミルは淡々と説明した。
「バイオテクノロジー。簡単に言えば、猪を飼いならして豚に変え、犬や猫の交配を繰り返して新しい品種を作り出すことを極限まで進歩させた技術だと思ってくれればいい。マギ族はこれを使って、次々に新しいしもべとなる生き物を作り出していったんだ」
 もはや誰も言葉も無かった。ドラゴンやグリフォンの他にも、魔法騎士隊で使われているヒポグリフやマンティコア、火竜や風竜、サハラに生息する水竜や海竜が作られている。また、戦闘用の幻獣の他にも、ただの鳥から極楽鳥が作られて、愛玩用に売却されていくのも映っていた。
 才人はこれで、なぜ地球とほとんど同じような環境をしたハルケギニアで、地球とまったく違う生物が存在しているのかを知った。ハルケギニア固有の生き物は、全部とは言わないがドラゴンのように攻撃性が強くて軍事利用が容易なものか、家畜として利用価値の高いものが多いのは、最初から人間が利用するために作り出した人工種だったからというわけだったのだ。
 地球でも実用化が進んでいる技術だが、マギ族のやるそれは文字どおり次元が違った。小さなものは人語を解する動物から、大きなものは船のような鯨竜まで、それらが粘土細工のように生産されていく様は恐怖でしかない。特に、人語を話す風竜、つまりシルフィードと同じ韻竜が生み出されているのを目の当たりにしたときにはタバサでさえひざを突いて嗚咽した。
「タ、タバサしっかりして!」
「だ、だいじょうぶ……大丈夫だから」
 ルイズとキュルケが慌てて助け起こしたが、タバサの顔は蒼白そのものだった。他の面々も大なり小なり青ざめていて、エレオノールはここにカトレアを連れて来ていなくてよかったと心底思っていた。生命の創生はまさに神の御技だと思ってきたが、まさかこんな遊びの一貫でおもちゃのように作り出されていたとは。
 しかし、これはまだ序の口でしかなかったのだ。作り出されたドラゴンなどの人造生命体は、戦争ごっこに投入されると、その様相を劇的に変貌させた。それはまさにファンタジックかつスリリングな光景で、火を吹くドラゴンに乗って空から舞い降りてくる騎士の姿にマギ族は歓喜し、幻獣同士の肉弾戦に歓声を上げ、さらに激しくのめりこんでいった。
 だがその一方で、戦わされている人間たちは果てしなく続く茶番劇にすでに飽きてしまっていた。彼らにとっては戦勝のたびにもらえる適当なご褒美以外にはうまみがなく、それどころか戦うたびに主人が変わったり、新しい主人のところへ強制的に移らされたりするので、戦闘の興奮に飽きてしまうと後は一気に冷めてしまったのだ。
 マギ族と先住民とのあいだに溝が生まれ、それは急激に開いていった。マギ族は相変わらず戦争ごっこと賭けに狂奔していたが、先住民たちは神に等しいマギ族に逆らう術などなく、仮に逆らう気力があったとしても、かつての貧しい生活に戻ることなどできようはずもなく、ただただ戦いに駆り立てられていった。
 ひたすら繰り返される死なない戦争。武器は派手に見えてもすべて殺傷力はなく、ドラゴンの攻撃に対してもボディスーツに仕込まれたバリヤーが働いて、戦闘不能判定が出るだけで無傷で済む。万一なんらかのアクシデントで負傷しても即座に治療されて再び戦場に舞い戻らされる。その繰り返しにより、ノイローゼになる者も続出した。
 アンリエッタやウェールズは、かの無能王でもここまでむごいゲームはするまいと戦慄に身を震わせる。恵みの神はいつしか、人々を弄ぶ悪魔へと堕落してしまっていた。

 だが、カリーヌやエレオノール、キュルケは知っていた。王家に伝わる伝承、成人した人間しか知ることの許されないほどの危険な秘密が語る六千年前の真実は、まさにこれからが本番だということを。




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