ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場
第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場
精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅に出た才人とゼロ。二冊目は地球防衛軍が
暴走してしまっているウルトラセブンの世界。その世界は現行地球人と地球原人ノンマルトの
対立の真っ最中であった。今の地球人が外宇宙からの侵略者の子孫だという証拠であるオメガ
ファイルの開示を迫り、ノンマルトは怪獣軍団を差し向けてくる。セブンは地球人の手で真実を
明らかにし、今の地球人が地球に留まれる権利を与えるべく行動する。ゼロは彼の助けになる
べく、それまでの時間稼ぎのために怪獣たちに立ち向かう。果たしてこの世界の明日はどの方向へ
向かうのであろうか。
暴走してしまっているウルトラセブンの世界。その世界は現行地球人と地球原人ノンマルトの
対立の真っ最中であった。今の地球人が外宇宙からの侵略者の子孫だという証拠であるオメガ
ファイルの開示を迫り、ノンマルトは怪獣軍団を差し向けてくる。セブンは地球人の手で真実を
明らかにし、今の地球人が地球に留まれる権利を与えるべく行動する。ゼロは彼の助けになる
べく、それまでの時間稼ぎのために怪獣たちに立ち向かう。果たしてこの世界の明日はどの方向へ
向かうのであろうか。
「キイイイイイイイイ!」
ゼロを取り囲む五体の怪獣がいよいよ攻撃を開始してきた。一番手のエレキングが口から
楔状の放電光線を、ゼロの足元を狙って撃ってくる。
『おっと!』
飛びすさってかわしたゼロに向かって、ダンカンが前のめりに飛び出してきた。
「ギャ――――――ア!」
そのまま丸まって転がりながらゼロに突進していく。
しかしゼロはダンカンが迫った瞬間に振り返ってがっしりと受け止めた。
『そんな手は食らうかッ!』
遠くへ投げ飛ばして地面に叩きつけようとするも、そこにサルファスが硫黄ガスを噴出する。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
『うわッ!』
高熱のガスを顔面に浴びせられて視界をふさがれたダンカンを手放してしまった。更に
バンデラスの全身がまばゆく発光し、強力な熱波を繰り出す。
「ウアアアア―――――ッ!」
『ぐッ!』
高熱攻撃の連続にうめくゼロだが、これを耐えてビームゼロスパイクで反撃。
『せいッ!』
「ウオオォッ!」
食らったバンデラスが麻痺して熱波が途切れた。今の内に反撃に転じようとしたゼロであったが、
「グオオォォォ!」
ボラジョが高速できりもみ回転して砂嵐を発生させ、それをぶつけてきたのだ。
『くぅッ!』
足を踏み出しかけたところに砂嵐に襲われ、踏みとどまるゼロ。が、砂嵐が収まった瞬間に
ボラジョの蔦とエレキングの尻尾が伸びてきて、己の身体に巻きつく。
「グオオォォォ!」
「キイイイイイイイイ!」
二体の怪獣は拘束したゼロに高圧電流を食らわせる。
『ぐああぁぁッ!』
二体がかりの攻撃にさすがに苦しむゼロ。更にバンデラスの胸部に並んでいる球体から
撃たれる怪光線も浴びせられる。
『ぐううぅぅぅッ……! さすがに苦しいぜ……!』
五体の怪獣を同時に相手取るのはやはり、ゼロにとっても厳しい戦いだ。しかも怪獣たちは
ノンマルトの現地球人に対する積年の恨みが乗り移っているかのように猛っている。その勢いは、
簡単に抑えられるようなものではない。
ゼロが手を焼いている一方で、ウインダムとミクラスもまたザバンギを相手にひどく苦戦を
していた。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
カプセル怪獣たちは同時にザバンギに激突していくものの、ザバンギの規格外の怪力の前に
弾き飛ばされてしまった。ザバンギはオーソドックスなタイプの怪獣であるが、ノンマルトの
守護神と称されるだけあって、その力の水準は通常の怪獣を大きく上回っているのであった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ザバンギは倒れ伏したウインダムを、無情にも踏み潰そうと足を振り上げる。
「シェアッ!」
だがその時に飛んできたゼロスラッガーがザバンギの身体を斬りつけた!
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ダメージを負ったザバンギは後ずさり、ウインダムから離れた。その間にウインダムと
ミクラスは体勢を立て直す。
今のスラッガーはもちろんゼロが放ったものだ。彼はボラジョとエレキングに捕まりながらも、
カプセル怪獣たちを助けるために力を振り絞ったのだ。
そしてゼロの力はまだそんなものではない!
『あいつらが頑張ってるんだ! 俺がこんくらいで根を上げてちゃいられねぇぜッ!』
拘束されたままストロングコロナゼロに変身すると、跳ね上がった筋力により蔦と尻尾を
振り払った。
「セェアァァッ!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウアアアアァァァッ!」
自由になったゼロにすかさずサルファスとバンデラスが硫黄ガスと怪光線を放ってきたが、
ゼロはその身一つで攻撃を受け止めた。
『どぉッ!』
そして片足を地面に振り下ろすと、凄まじい震動が起こって周囲の怪獣たちのバランスを
崩した。戦いの流れを変えることに成功した!
「ギャ――――――ア!」
ダンカンが転がりながら突進してきたが、ゼロはカウンターとして燃え上がる鉄拳で迎え撃つ。
『せぇぇあああぁぁぁぁぁッ!』
燃える拳がダンカンを一発で破裂させ、遂に怪獣軍団の一角を崩したのであった。
『よしッ!』
ぐっと手を握り締めるゼロだが、その時に超感覚で防衛軍秘密施設の地下に潜行していった
セブンの様子をキャッチした。
ゼロたちが戦っている間、セブンはオメガファイルの真実を確かめるため、棺が封印されている
最奥のシェルターに近づいていたのだが……その前に、最後まで抵抗するカジ参謀が兵士の一団を
引き連れてセブンの前に立ちはだかったのだ。
地球防衛にこだわりすぎて、あくまで強硬姿勢を崩さないカジは、兵士たちに攻撃命令を
下したのだ。
「目標は、ウルトラセブン!」
地球人から放たれる銃弾が、セブンに浴びせられる――。
『ぐッ……!』
それを感じて、ゼロは己が撃たれているかのように胸を痛めた。
超人たるウルトラ戦士にとって、地球人の携行火器など豆鉄砲にも劣る威力。……だが、
あれほど地球人を愛し、命を燃やして戦い抜いてきたセブンが、その地球人から攻撃される
という事実……本人の心はどれほど痛いのだろうか。想像が及ばないほどであろう。
しかしゼロはセブンを信じ、セブンが信じる地球人の心を信じ、戦いに集中する。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
「グオオォォォ!」
ボラジョがまたも砂嵐を発してきたが、ゼロは力ずくでそれを突破。ボラジョに飛びかかって
鷲掴みすると、無理矢理地面から引っこ抜く。
『ウルトラハリケーンッ!』
竜巻の勢いでボラジョを頭上高くに投げ飛ばし、右腕を突き上げる。
『ガルネイトバスターッ!!』
灼熱の光線がボラジョを撃ち、空中で爆散させた。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
体当たりしてきたサルファスをいなし、ブレスレットからウルトラゼロランスを出す。
『どおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』
それをストロングコロナの超パワーで、サルファスに投擲した!
ランスは頑強な表皮を貫いてサルファスを串刺しにし、痙攣したサルファスの眼から光が
消えて爆散した。
「キイイイイイイイイ!」
「ウオオオオオ―――――!」
エレキングの尻尾の振り回しをかわしたゼロだが、バンデラスの念力に捕まって宙吊りにされる。
『はぁッ! ルナミラクルゼロ!』
しかしゼロはルナミラクルになってこちらも念力を発し、バンデラスの力を打ち消して
自由になった。そして振り返りざまにエレキングへゼロスラッガーを投げつける。
『ミラクルゼロスラッガー!』
分裂したスラッガーがエレキングの角、首、胴体、尻尾を瞬く間に切り裂き、エレキングも
たちまち爆裂する。
五体の内、最後に残ったのはバンデラス。ゼロは戻したスラッガーを手に握り締めると、
地を蹴って宙を飛行していく。
『はぁぁぁぁぁッ!』
そうしてスラッガーを構えて高速でバンデラスに突撃する。
「セアァッ!」
すれ違いざまに目に留まらぬ速度でスラッガーを振るい、バンデラスは全身が切り刻まれた。
更に着地したゼロが振り向くと同時にバリアビームを浴びせて、バンデラスを覆う。
内に秘めた太陽のエネルギーに引火し、凄絶な大爆発を起こしたバンデラスだったが、
覆われたバリアが衝撃を封じて被害は外に拡散しなかった。
『残るはあいつだ!』
五体の怪獣を撃破したゼロはすぐに駆け出し、ウインダムとミクラスの救援に回ってザバンギの
前に立ちはだかった。
「シェアッ!」
左右の手のスラッガーを上段、中段に構えてザバンギを威嚇するゼロ。ウインダムとミクラスも
うなり声を発して、それに加勢した。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
さしものザバンギも足を止めて警戒していたが、この時にゼロの意識にノンマルトからの
テレパシーの声が響いたのだった。
『そこまでだ! 真実は白日の下に晒された。正義は我々にある! これ以上の戦いは、
宇宙正義に背くものとなるぞ!』
「!!」
振り向くと、ウルトラセブン……モロボシ・ダンが地上に戻ってきていた。彼はウインダムと
ミクラスをカプセルに戻す。
「ミクラス、ウインダム! 戻れ!」
同時にザバンギも活動を止め、ダラリを腕と尻尾を垂らした。これを見てゼロも、一旦変身を解く。
「ジュワッ!」
才人の姿に戻ってゼロアイを外し、ダンの元へと駆けていく。
「セブン! オメガファイルの真実を確かめたんですね」
「ああ……疑いようのない人の口からね」
オメガファイルの棺の中身は……フルハシ参謀であった。ヴァルキューレ星人事件の際に
殉職したかに思えたフルハシだったが、彼を最も信頼できる証人として選んだノンマルトに
よって、タキオン粒子に乗せられた情報体となって数万年前の地球に送られてそこで再生
されたのであった。
そしてフルハシは見届けた。かつて地上に栄えていたノンマルトを宇宙からの侵略者が
追いやり、その侵略者が徹底的に原住民族に扮して地球人として成り代わったのを。今の
地球人は、確かに侵略者の子孫だったのだ。
真実を知った二人の前に、ノンマルトの女が現れる。
「分かったか! 地球人は、侵略者だった。この地球は我々のものだ!」
そう主張するノンマルトに、ダンは訴えかけた。
「聞いてほしい! この星には、既に百億の民が住んでいる。彼らに、かつての君たちと
同じ悲しみを味わわせたくない!」
しかしノンマルトはダンの訴えを聞き入れようとはしなかった。
「セブン。地球人に味方をすることは、宇宙の掟を破ることになる。それがどういう結果に
なるか、君なら知っているはずだ」
そう告げられても、ダンはあきらめずに説得し続ける。
「彼らを、許してやってほしい。彼らは悔い改め、今宇宙に向かって、真実を発信し始めた!」
地球人のために戦っているのは、ゼロやセブンだけではない。ウルトラ警備隊もまた、
上層部を説得してオメガファイルの情報を宇宙へ発信し、真実を受け入れて地球人を救う
行動を取っているのだ。
だが、ノンマルトの回答は、
「それは出来ない! 故郷に戻ること、それは、我々に認められた権利だ!」
頑ななノンマルトに、ゼロも説得に乗り出した。
「ともにこの星で生きていけばいいじゃないか! 地球人にも過ちを認め、平和を愛する
心がある。どっちかが星を去るとかじゃなく、同じ文明人として同じ土地で共存していく
ことは十分に出来る!」
しかしそれでも、ノンマルトの姿勢に変化はない。
「滅びてしまった仲間たちは、もう蘇らない。彼らの無念を忘れ、地球人との共存など出来ない!」
「過去に囚われて何になる! 仲間の遺志を受け継ぐことも大切だ。けど恨みを継いでも、
何も得るものはない。虚しいだけだ! 本当に大切なのは、今を生きる人間がどうしていくか
だろうが!」
精一杯の感情を込めて説くゼロであったが、ノンマルトは、
「我らが守護神によって、発信装置を壊す! そうすれば、地球人がオメガファイルを解放した
証拠は残らない!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ノンマルトの言葉を合図とするように、ザバンギが再び動き始めた。その足が向けられる先は、
オメガファイルの情報を宇宙に発信しているパラボラ塔。
「やめろッ! それはもう正義じゃねぇ!」
「ああそうだ。復讐のための復讐は、宇宙の掟も許してはいない!」
ゼロとセブンでノンマルトに考え直すよう呼びかけたが、やはりノンマルトは翻意する
ことがなかった。
「たとえ復讐であろうとも、我々は散った仲間の無念を、あの日の侵略者の子孫に思い知らせるのだッ!」
暗い情念に染まり切ったノンマルトの瞳を覗き見て、ゼロは理解した。ノンマルトは既に、
『人間』ではなくなっている。故郷を追い立てられ、滅ぼされた憎悪に取り憑かれた『怨霊』と
化してしまっているのだ。こうなってはどんな言葉が投げかけられようとも、どれだけの血を
吐こうとも、復讐の足取りを止めることはないだろう。
地球人を救うには、ザバンギを力ずくにでも止める以外はない。故にダンは宣言した。
「これ以上力を行使するなら、私はこの星の人々のために戦う!」
するとノンマルトが脅迫してくる。
「同じ星の民族同士の争いに介入すれば、全宇宙の文明人を敵に回すことになる!」
「……!」
それを突きつけられても、ダンの考えは変わらなかった。彼はフルハシと、己が守り続けた
地球人を信じてウルトラアイを取り出す。
その隣で、ゼロも再度ウルトラゼロアイを出した。
「セブン、あなただけに戦わせはしません」
「……下手をしたら、君まで宇宙の漂流者となるかもしれないんだぞ」
「承知の上です」
ダンはゼロの顔に振り向いて問う。
「どうしてそこまで……私の力に」
「……」
ゼロは何も答えないまま、ダンとともに変身を行う。
「「デュワッ!」」
巨大化したセブンとゼロ、二大戦士がパラボラ塔を背にして、ザバンギに対する盾となった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ザバンギは二人を排除しようと肉薄してくるが、ゼロの横拳が返り討ちにした。
「ゼアッ!」
更にセブンのミドルキックが入り、ザバンギは後ろに押し出される。
「デャッ!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
セブンとのコンビネーションで、ゼロが一回転しての裏拳をザバンギに見舞った。
「ハァァッ!」
ノンマルトの守護神ザバンギも、さすがにセブンとゼロの両者を同時に相手できるほどの力を
持ち合わせてはいなかった。
だが、二人はなかなかザバンギにとどめを刺そうとしない。ノンマルトの代表たるザバンギに
それをすることは……侵略者への加担を決定づけることになるのだ。そうなればもう言い逃れする
ことは出来ない。
「……!」
しかしゼロはスラッガーを手にして、ザバンギの頸動脈に目をつける。そんなゼロを才人が
呼び止めた。
『待て、ゼロ! お前の手で決着をつけてしまったら、本の世界が完結しない可能性があるぞ!』
『古き本』を完結させる最低条件は、その本の登場人物によって物語に幕を下ろさせること。
ゼロが本来の主役を差し置いて最後の怪獣にとどめを刺すことは、それに反する行いだ。どうなって
しまうものか、分かったものではない。
しかしそれを承知してなお、ゼロは迷っていた。
『けど、たとえ本の中の存在でも……あのセブンに、暗闇の中を歩かせるのは……!』
ゼロがセブンを、宇宙の全ての光から追放された身に落とさせることなど出来るものだろうか。
……自分の父親なのだ。
『だから……俺はッ!』
ゼロがスラッガーを振り上げる!
『ゼロぉぉぉッ!』
「――デュワーッ!」
ゼロの手が振り下ろされるより早く……セブンの握るアイスラッガーが、ザバンギの首筋を
切り裂いていた。
『えッ……!?』
「ギャアアアアアァァァァァ……!」
裂かれた傷口から血しぶきが噴き出し、ザバンギはがっくりと倒れ伏した。そのまま胸の
模様から光が消え……絶命を果たした。
『セブン……どうして……』
ゼロは呆然としたまま、本物のカザモリをウルトラ警備隊の基地に返還したセブンに叫ぶ。
『どうしてそんなことを! これであなたは、宇宙から居場所を……!』
セブンはゼロに振り向き、答えた。
『いいんだ。私には、このことに関して何ら恥じるところはない。私はこの地球を、地球人を
愛している。愛する地球人のために戦った……何の後悔もない』
語りながら、目を合わせたゼロに告げる。
『君が私を守ろうとしてくれた気持ち、それだけで十分だ。私は心の底から嬉しく思う。
ありがとう。本当に、ありがとう……』
『息子よ』
最後のひと言に、ゼロはハッと息を呑み――。
視界がまばゆい光で覆われていく――。
ゼロを取り囲む五体の怪獣がいよいよ攻撃を開始してきた。一番手のエレキングが口から
楔状の放電光線を、ゼロの足元を狙って撃ってくる。
『おっと!』
飛びすさってかわしたゼロに向かって、ダンカンが前のめりに飛び出してきた。
「ギャ――――――ア!」
そのまま丸まって転がりながらゼロに突進していく。
しかしゼロはダンカンが迫った瞬間に振り返ってがっしりと受け止めた。
『そんな手は食らうかッ!』
遠くへ投げ飛ばして地面に叩きつけようとするも、そこにサルファスが硫黄ガスを噴出する。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
『うわッ!』
高熱のガスを顔面に浴びせられて視界をふさがれたダンカンを手放してしまった。更に
バンデラスの全身がまばゆく発光し、強力な熱波を繰り出す。
「ウアアアア―――――ッ!」
『ぐッ!』
高熱攻撃の連続にうめくゼロだが、これを耐えてビームゼロスパイクで反撃。
『せいッ!』
「ウオオォッ!」
食らったバンデラスが麻痺して熱波が途切れた。今の内に反撃に転じようとしたゼロであったが、
「グオオォォォ!」
ボラジョが高速できりもみ回転して砂嵐を発生させ、それをぶつけてきたのだ。
『くぅッ!』
足を踏み出しかけたところに砂嵐に襲われ、踏みとどまるゼロ。が、砂嵐が収まった瞬間に
ボラジョの蔦とエレキングの尻尾が伸びてきて、己の身体に巻きつく。
「グオオォォォ!」
「キイイイイイイイイ!」
二体の怪獣は拘束したゼロに高圧電流を食らわせる。
『ぐああぁぁッ!』
二体がかりの攻撃にさすがに苦しむゼロ。更にバンデラスの胸部に並んでいる球体から
撃たれる怪光線も浴びせられる。
『ぐううぅぅぅッ……! さすがに苦しいぜ……!』
五体の怪獣を同時に相手取るのはやはり、ゼロにとっても厳しい戦いだ。しかも怪獣たちは
ノンマルトの現地球人に対する積年の恨みが乗り移っているかのように猛っている。その勢いは、
簡単に抑えられるようなものではない。
ゼロが手を焼いている一方で、ウインダムとミクラスもまたザバンギを相手にひどく苦戦を
していた。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
カプセル怪獣たちは同時にザバンギに激突していくものの、ザバンギの規格外の怪力の前に
弾き飛ばされてしまった。ザバンギはオーソドックスなタイプの怪獣であるが、ノンマルトの
守護神と称されるだけあって、その力の水準は通常の怪獣を大きく上回っているのであった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ザバンギは倒れ伏したウインダムを、無情にも踏み潰そうと足を振り上げる。
「シェアッ!」
だがその時に飛んできたゼロスラッガーがザバンギの身体を斬りつけた!
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ダメージを負ったザバンギは後ずさり、ウインダムから離れた。その間にウインダムと
ミクラスは体勢を立て直す。
今のスラッガーはもちろんゼロが放ったものだ。彼はボラジョとエレキングに捕まりながらも、
カプセル怪獣たちを助けるために力を振り絞ったのだ。
そしてゼロの力はまだそんなものではない!
『あいつらが頑張ってるんだ! 俺がこんくらいで根を上げてちゃいられねぇぜッ!』
拘束されたままストロングコロナゼロに変身すると、跳ね上がった筋力により蔦と尻尾を
振り払った。
「セェアァァッ!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウアアアアァァァッ!」
自由になったゼロにすかさずサルファスとバンデラスが硫黄ガスと怪光線を放ってきたが、
ゼロはその身一つで攻撃を受け止めた。
『どぉッ!』
そして片足を地面に振り下ろすと、凄まじい震動が起こって周囲の怪獣たちのバランスを
崩した。戦いの流れを変えることに成功した!
「ギャ――――――ア!」
ダンカンが転がりながら突進してきたが、ゼロはカウンターとして燃え上がる鉄拳で迎え撃つ。
『せぇぇあああぁぁぁぁぁッ!』
燃える拳がダンカンを一発で破裂させ、遂に怪獣軍団の一角を崩したのであった。
『よしッ!』
ぐっと手を握り締めるゼロだが、その時に超感覚で防衛軍秘密施設の地下に潜行していった
セブンの様子をキャッチした。
ゼロたちが戦っている間、セブンはオメガファイルの真実を確かめるため、棺が封印されている
最奥のシェルターに近づいていたのだが……その前に、最後まで抵抗するカジ参謀が兵士の一団を
引き連れてセブンの前に立ちはだかったのだ。
地球防衛にこだわりすぎて、あくまで強硬姿勢を崩さないカジは、兵士たちに攻撃命令を
下したのだ。
「目標は、ウルトラセブン!」
地球人から放たれる銃弾が、セブンに浴びせられる――。
『ぐッ……!』
それを感じて、ゼロは己が撃たれているかのように胸を痛めた。
超人たるウルトラ戦士にとって、地球人の携行火器など豆鉄砲にも劣る威力。……だが、
あれほど地球人を愛し、命を燃やして戦い抜いてきたセブンが、その地球人から攻撃される
という事実……本人の心はどれほど痛いのだろうか。想像が及ばないほどであろう。
しかしゼロはセブンを信じ、セブンが信じる地球人の心を信じ、戦いに集中する。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
「グオオォォォ!」
ボラジョがまたも砂嵐を発してきたが、ゼロは力ずくでそれを突破。ボラジョに飛びかかって
鷲掴みすると、無理矢理地面から引っこ抜く。
『ウルトラハリケーンッ!』
竜巻の勢いでボラジョを頭上高くに投げ飛ばし、右腕を突き上げる。
『ガルネイトバスターッ!!』
灼熱の光線がボラジョを撃ち、空中で爆散させた。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
体当たりしてきたサルファスをいなし、ブレスレットからウルトラゼロランスを出す。
『どおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』
それをストロングコロナの超パワーで、サルファスに投擲した!
ランスは頑強な表皮を貫いてサルファスを串刺しにし、痙攣したサルファスの眼から光が
消えて爆散した。
「キイイイイイイイイ!」
「ウオオオオオ―――――!」
エレキングの尻尾の振り回しをかわしたゼロだが、バンデラスの念力に捕まって宙吊りにされる。
『はぁッ! ルナミラクルゼロ!』
しかしゼロはルナミラクルになってこちらも念力を発し、バンデラスの力を打ち消して
自由になった。そして振り返りざまにエレキングへゼロスラッガーを投げつける。
『ミラクルゼロスラッガー!』
分裂したスラッガーがエレキングの角、首、胴体、尻尾を瞬く間に切り裂き、エレキングも
たちまち爆裂する。
五体の内、最後に残ったのはバンデラス。ゼロは戻したスラッガーを手に握り締めると、
地を蹴って宙を飛行していく。
『はぁぁぁぁぁッ!』
そうしてスラッガーを構えて高速でバンデラスに突撃する。
「セアァッ!」
すれ違いざまに目に留まらぬ速度でスラッガーを振るい、バンデラスは全身が切り刻まれた。
更に着地したゼロが振り向くと同時にバリアビームを浴びせて、バンデラスを覆う。
内に秘めた太陽のエネルギーに引火し、凄絶な大爆発を起こしたバンデラスだったが、
覆われたバリアが衝撃を封じて被害は外に拡散しなかった。
『残るはあいつだ!』
五体の怪獣を撃破したゼロはすぐに駆け出し、ウインダムとミクラスの救援に回ってザバンギの
前に立ちはだかった。
「シェアッ!」
左右の手のスラッガーを上段、中段に構えてザバンギを威嚇するゼロ。ウインダムとミクラスも
うなり声を発して、それに加勢した。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
さしものザバンギも足を止めて警戒していたが、この時にゼロの意識にノンマルトからの
テレパシーの声が響いたのだった。
『そこまでだ! 真実は白日の下に晒された。正義は我々にある! これ以上の戦いは、
宇宙正義に背くものとなるぞ!』
「!!」
振り向くと、ウルトラセブン……モロボシ・ダンが地上に戻ってきていた。彼はウインダムと
ミクラスをカプセルに戻す。
「ミクラス、ウインダム! 戻れ!」
同時にザバンギも活動を止め、ダラリを腕と尻尾を垂らした。これを見てゼロも、一旦変身を解く。
「ジュワッ!」
才人の姿に戻ってゼロアイを外し、ダンの元へと駆けていく。
「セブン! オメガファイルの真実を確かめたんですね」
「ああ……疑いようのない人の口からね」
オメガファイルの棺の中身は……フルハシ参謀であった。ヴァルキューレ星人事件の際に
殉職したかに思えたフルハシだったが、彼を最も信頼できる証人として選んだノンマルトに
よって、タキオン粒子に乗せられた情報体となって数万年前の地球に送られてそこで再生
されたのであった。
そしてフルハシは見届けた。かつて地上に栄えていたノンマルトを宇宙からの侵略者が
追いやり、その侵略者が徹底的に原住民族に扮して地球人として成り代わったのを。今の
地球人は、確かに侵略者の子孫だったのだ。
真実を知った二人の前に、ノンマルトの女が現れる。
「分かったか! 地球人は、侵略者だった。この地球は我々のものだ!」
そう主張するノンマルトに、ダンは訴えかけた。
「聞いてほしい! この星には、既に百億の民が住んでいる。彼らに、かつての君たちと
同じ悲しみを味わわせたくない!」
しかしノンマルトはダンの訴えを聞き入れようとはしなかった。
「セブン。地球人に味方をすることは、宇宙の掟を破ることになる。それがどういう結果に
なるか、君なら知っているはずだ」
そう告げられても、ダンはあきらめずに説得し続ける。
「彼らを、許してやってほしい。彼らは悔い改め、今宇宙に向かって、真実を発信し始めた!」
地球人のために戦っているのは、ゼロやセブンだけではない。ウルトラ警備隊もまた、
上層部を説得してオメガファイルの情報を宇宙へ発信し、真実を受け入れて地球人を救う
行動を取っているのだ。
だが、ノンマルトの回答は、
「それは出来ない! 故郷に戻ること、それは、我々に認められた権利だ!」
頑ななノンマルトに、ゼロも説得に乗り出した。
「ともにこの星で生きていけばいいじゃないか! 地球人にも過ちを認め、平和を愛する
心がある。どっちかが星を去るとかじゃなく、同じ文明人として同じ土地で共存していく
ことは十分に出来る!」
しかしそれでも、ノンマルトの姿勢に変化はない。
「滅びてしまった仲間たちは、もう蘇らない。彼らの無念を忘れ、地球人との共存など出来ない!」
「過去に囚われて何になる! 仲間の遺志を受け継ぐことも大切だ。けど恨みを継いでも、
何も得るものはない。虚しいだけだ! 本当に大切なのは、今を生きる人間がどうしていくか
だろうが!」
精一杯の感情を込めて説くゼロであったが、ノンマルトは、
「我らが守護神によって、発信装置を壊す! そうすれば、地球人がオメガファイルを解放した
証拠は残らない!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ノンマルトの言葉を合図とするように、ザバンギが再び動き始めた。その足が向けられる先は、
オメガファイルの情報を宇宙に発信しているパラボラ塔。
「やめろッ! それはもう正義じゃねぇ!」
「ああそうだ。復讐のための復讐は、宇宙の掟も許してはいない!」
ゼロとセブンでノンマルトに考え直すよう呼びかけたが、やはりノンマルトは翻意する
ことがなかった。
「たとえ復讐であろうとも、我々は散った仲間の無念を、あの日の侵略者の子孫に思い知らせるのだッ!」
暗い情念に染まり切ったノンマルトの瞳を覗き見て、ゼロは理解した。ノンマルトは既に、
『人間』ではなくなっている。故郷を追い立てられ、滅ぼされた憎悪に取り憑かれた『怨霊』と
化してしまっているのだ。こうなってはどんな言葉が投げかけられようとも、どれだけの血を
吐こうとも、復讐の足取りを止めることはないだろう。
地球人を救うには、ザバンギを力ずくにでも止める以外はない。故にダンは宣言した。
「これ以上力を行使するなら、私はこの星の人々のために戦う!」
するとノンマルトが脅迫してくる。
「同じ星の民族同士の争いに介入すれば、全宇宙の文明人を敵に回すことになる!」
「……!」
それを突きつけられても、ダンの考えは変わらなかった。彼はフルハシと、己が守り続けた
地球人を信じてウルトラアイを取り出す。
その隣で、ゼロも再度ウルトラゼロアイを出した。
「セブン、あなただけに戦わせはしません」
「……下手をしたら、君まで宇宙の漂流者となるかもしれないんだぞ」
「承知の上です」
ダンはゼロの顔に振り向いて問う。
「どうしてそこまで……私の力に」
「……」
ゼロは何も答えないまま、ダンとともに変身を行う。
「「デュワッ!」」
巨大化したセブンとゼロ、二大戦士がパラボラ塔を背にして、ザバンギに対する盾となった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
ザバンギは二人を排除しようと肉薄してくるが、ゼロの横拳が返り討ちにした。
「ゼアッ!」
更にセブンのミドルキックが入り、ザバンギは後ろに押し出される。
「デャッ!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
セブンとのコンビネーションで、ゼロが一回転しての裏拳をザバンギに見舞った。
「ハァァッ!」
ノンマルトの守護神ザバンギも、さすがにセブンとゼロの両者を同時に相手できるほどの力を
持ち合わせてはいなかった。
だが、二人はなかなかザバンギにとどめを刺そうとしない。ノンマルトの代表たるザバンギに
それをすることは……侵略者への加担を決定づけることになるのだ。そうなればもう言い逃れする
ことは出来ない。
「……!」
しかしゼロはスラッガーを手にして、ザバンギの頸動脈に目をつける。そんなゼロを才人が
呼び止めた。
『待て、ゼロ! お前の手で決着をつけてしまったら、本の世界が完結しない可能性があるぞ!』
『古き本』を完結させる最低条件は、その本の登場人物によって物語に幕を下ろさせること。
ゼロが本来の主役を差し置いて最後の怪獣にとどめを刺すことは、それに反する行いだ。どうなって
しまうものか、分かったものではない。
しかしそれを承知してなお、ゼロは迷っていた。
『けど、たとえ本の中の存在でも……あのセブンに、暗闇の中を歩かせるのは……!』
ゼロがセブンを、宇宙の全ての光から追放された身に落とさせることなど出来るものだろうか。
……自分の父親なのだ。
『だから……俺はッ!』
ゼロがスラッガーを振り上げる!
『ゼロぉぉぉッ!』
「――デュワーッ!」
ゼロの手が振り下ろされるより早く……セブンの握るアイスラッガーが、ザバンギの首筋を
切り裂いていた。
『えッ……!?』
「ギャアアアアアァァァァァ……!」
裂かれた傷口から血しぶきが噴き出し、ザバンギはがっくりと倒れ伏した。そのまま胸の
模様から光が消え……絶命を果たした。
『セブン……どうして……』
ゼロは呆然としたまま、本物のカザモリをウルトラ警備隊の基地に返還したセブンに叫ぶ。
『どうしてそんなことを! これであなたは、宇宙から居場所を……!』
セブンはゼロに振り向き、答えた。
『いいんだ。私には、このことに関して何ら恥じるところはない。私はこの地球を、地球人を
愛している。愛する地球人のために戦った……何の後悔もない』
語りながら、目を合わせたゼロに告げる。
『君が私を守ろうとしてくれた気持ち、それだけで十分だ。私は心の底から嬉しく思う。
ありがとう。本当に、ありがとう……』
『息子よ』
最後のひと言に、ゼロはハッと息を呑み――。
視界がまばゆい光で覆われていく――。
――気がつけば、才人は一冊目の時と同じように、現実世界に帰ってきていた。初めの時の
ように、ガラQが元気のいい声を発する。
「オカエリー!」
「お帰りなさいませ、サイトさん! ご無事で何よりです!」
シエスタも安堵しながら才人に呼びかけたが、才人は立ったままぼんやりしている。
「サイトさん……? まさか、どこかお怪我をされたのでは!?」
シエスタ、タバサたちが心配すると、才人は我に返って手を振った。
「い、いや、怪我なんてどこにもしてないよ。大丈夫だ、ありがとう」
シエスタたちを落ち着かせると、才人はこっそりゼロに呼びかけた。
「ゼロ……セブンのことは助けられなくて、残念だったな。でも、最後にお前のことを……」
『……なぁ才人』
ゼロは才人に、こう言った。
『俺の親父は、本の世界でも偉大な人だった。……お前も見てくれたよな?』
才人は一瞬虚を突かれ、次いでやんわりと微笑んだ。
「ああ、しっかりとな」
こうして二冊目の『古き本』も終わらせた才人とゼロ。だがルイズはまだ目覚める様子がない。
残る本は四冊。まだまだ彼らの戦いは続くのだ。
ように、ガラQが元気のいい声を発する。
「オカエリー!」
「お帰りなさいませ、サイトさん! ご無事で何よりです!」
シエスタも安堵しながら才人に呼びかけたが、才人は立ったままぼんやりしている。
「サイトさん……? まさか、どこかお怪我をされたのでは!?」
シエスタ、タバサたちが心配すると、才人は我に返って手を振った。
「い、いや、怪我なんてどこにもしてないよ。大丈夫だ、ありがとう」
シエスタたちを落ち着かせると、才人はこっそりゼロに呼びかけた。
「ゼロ……セブンのことは助けられなくて、残念だったな。でも、最後にお前のことを……」
『……なぁ才人』
ゼロは才人に、こう言った。
『俺の親父は、本の世界でも偉大な人だった。……お前も見てくれたよな?』
才人は一瞬虚を突かれ、次いでやんわりと微笑んだ。
「ああ、しっかりとな」
こうして二冊目の『古き本』も終わらせた才人とゼロ。だがルイズはまだ目覚める様子がない。
残る本は四冊。まだまだ彼らの戦いは続くのだ。