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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-51


 第51話
 始祖降臨

 根源破滅天使 ゾグ(幻影)
 超空間波動怪獣 クインメザード
 未来怪獣 アラドス 登場!


 根源的破滅招来体の僕がトリスタニアに張り巡らせた超空間は、ハルケギニアの人間の力では解析も破壊も不可能な代物であった。
 だが、破滅招来体と同格の科学力を持つ者であれば話は別だ。
 別の次元の地球を破滅招来体が襲ったとき、その地球の人間は地球の怪獣たちの力も借りて破滅招来体の侵略を防ぎきった。
 しかし、人類にとってまったく未知の領域からの攻撃を仕掛けてくる破滅招来体との戦いは決して楽なものではなく、防衛組織XIGはその度に綿密な研究解析を行い、対抗する技術を蓄えてきた。
 すなわち、今ハルケギニアで猛威を振るっている破滅招来体の手口も、彼らからしてみれば一度見たものだということだ。
 超空間を張って幻影を投射してくる敵。我夢はそいつに覚えがあった。破滅招来体らしい、人の心に付け入ってくる卑劣な作戦は、何度も送り込まれてきた波動生命体の最後の奴が使っていたものだ。
 当然、対処方法はわかっている。破滅招来体は、この世界では対応策を打たれることはないと高をくくっていたのだろうが、その慢心が命取りだ。

 ファイターEXから放たれた一発の特殊ミサイルが超空間に突き刺さる。我夢はこの世界に渡るに当たって、できる限りの準備をしてきた。戦いは油断したほうが負けるということを知るといい。

 ミサイルの効果で超空間が破壊され、女性の悲鳴のような叫びが轟いた。超空間を作っていたものが空間を維持できなくなってもだえているのだ。
 超空間の崩壊とともに、天使の姿も実体を維持できなくなって崩壊を始めた。画質の劣化した映像のように巨体の輪郭が乱れ、ついには出現したときと同じ金色の粒子になって崩壊してしまったのだ。
 天使の消滅にロマリアの兵たちから「ああっ、天使さまが!?」という悲鳴が次々にあがる。それはまさに、トリステインの最終防衛ラインが破られる寸前の出来事であった。
 さらに、天使の消えた場所に、入れ替わるようにして怪獣が現れた。いびつに組み上げられた骨格のような胴体に、トカゲの骸骨のような頭部を持ち、腹には人間の顔のような紋様を持つ醜悪な姿。超空間波動怪獣クインメザード、こいつが超空間を作り出して、天使の幻影を投影していたのだ。
 だが、ファイターEXの放ったミサイルで超空間は破壊され、クインメザードは現実空間へといぶりだされた。人々の間からそのグロテスクな姿に悲鳴が上がり、特にロマリア側は大混乱だ。
 しかし今がチャンスだ! ウルトラマンコスモスは、経緯はわからないが、あの戦闘機が味方で、怪獣の超能力を破ってくれたのたと理解した。
 今はそれで十分。誰かは知らないが、ありがとうとコスモスは心の中で礼を言うと、赤い光をまとい、戦いをつかさどる次なる姿へと転身を遂げた。
『ウルトラマンコスモス・コロナモード』
 邪悪を粉砕する、太陽の輝きのごとき戦いの巨人の姿。コスモスはクインメザードに対して、共存が不可能な邪悪な知性を感じていた。かつて倒した怪獣兵器スコーピスと同じく、意思はあってもそのすべてが悪意で埋め尽くされているような負の生命体、そう生まれたのではなくそう作られたもの、倒す以外に道はない。
 クインメザードは超空間から引きずり出され、特殊ミサイルの影響で女性の悲鳴のような叫びを上げて苦しみながらも、触手から電撃を放ってコスモスを攻撃してきた。
 爆発が起こり、コスモスの周囲に炎が吹き上がる。しかしコスモスはそんな攻撃をものともせず、両手に赤く燃え上がるエネルギーを集中させ、腕をL字に組んで灼熱の必殺光線を放った。

『ネイバスター光線!』

 超威力のエネルギー流が炸裂し、クインメザードは大爆発とともにあっけなくも四散した。元々からめ手で相手をはめて嬲ることに特化した怪獣だったので、直接的な戦闘力はほとんど割り振られていなかったのだ。
 断末魔の叫びを残し、クインメザードは絶命し、同時に超空間も完全に消滅してトリスタニアは平常に戻った。
 残ったのは、命拾いをして息をつくトリステイン軍と、茫然自失とするロマリアとガリア軍のみ。虚無の魔法が作ったイリュージョンのビジョンで、世界中で見守っていた人々もなにが起こったのかわからないでいる。
 神々しい天使が消えうせ、代わりに醜い怪獣が現れて倒された。なにがどうなっているかを説明できる者などいない、例外はガリアでジョゼフがほくそ笑んでいたくらいだろう。
「さて、どう出る教皇聖下どの? まさかこれで幕引きではあるまい」
 ジョゼフにとってはどちらが勝とうがどうでもいい。しかし、この戦いで生き残ったほうがいずれ自分を殺しに来るのだろうから、見ておく価値はある。なにより、どうせ長くはない命、冥土のみやげは少しでも多く作っておくに越したことはない。
 だが、わずかな例外を除いては、いまやトリスタニアを見つめている数百万の視線は懐疑と困惑の色に染められている。
 なにが正義で、なにが悪なのか? 見守っている人々は信じているものと、信じたいものと、信じたくないものが頭の中で交じり合い、その答えを待つ。
 不気味なまでの沈黙と静寂。だがそれは長くてもほんの数十秒であっただろう。なぜなら、誰もが答えを与えてくれるであろうお方の言葉を心待ちにして沈黙していたのだが、この沈黙をチャンスとしてアンリエッタが教皇に対して切り出したのだ。
「教皇、あなたのトリックは破れました。世界中の皆さんも見ましたね! あの天使は、先ほどの怪獣が作り出していた虚構だったのです。皆さん、天使など最初から存在しません。教皇は、天使の威光を笠に着て我々をだまし、世界を破滅に導こうとしているのです。皆さん、今こそ目を覚ましてください」
 先ほどの失敗を繰り返してなるものかと、アンリエッタは先手を打ったのだった。ロマリアの兵たちが動揺している今ならば、こちらの声も向こうに届く。逆に言えば、今しかチャンスはない。
 アンリエッタの言葉に、ロマリア側の動揺が大きくなる。アンリエッタはこれを見て、しめたと思った。ここから一気に突き崩せれば……だが、その一瞬の油断が彼女の未熟さであった。彼女よりもはるかに老獪な教皇は、アンリエッタが追撃の口弾を撃ちだすよりも早く、よく通る声で割り込んできたのだ。
「親愛なるブリミル教徒の皆さん、惑わされてはなりません! すべては、あの女、アンリエッタが仕掛けた大いなる芝居だったのです!」
「なっ!?」
 なにを言い出すのかと、アンリエッタは言葉を失った。だが、マザリーニやカリーヌなどの政争を知る者たちは、教皇の企みをすぐに看破した。まずい、この手口は!
「ブリミル教徒の皆さん、私はおわびせねばなりません。なぜなら今の今まで、私もあの王冠を冠った魔女にだまされていたのです。あれが悪魔の技で天使を作り出して我々をだまし、自ら倒すことで私に濡れ衣を着せようとしたのです。我々はだまされていたのです!」
 なっ! と、アンリエッタや彼女の傍らに控えていたエルオノールらは思った。
 ふざけるな、あの天使はお前たちの策略だったではないか。それを、なんという言い草だ。
 だが、アンリエッタが言葉を失っているのを見てマザリーニが悲鳴のように進言した。
「いけません、女王陛下。すぐに教皇の言を否定するのです!」
「枢機卿!?」
「詐欺師の手口です。どんなことになっても自分の罪を認めず、すべてを他人に押し付けて自分の潔白を主張し続けるのです。否定しないと、罪を認めたことになりますぞ、大衆は声の大きいほうを信じてしまうものなのです!」
「くっ、どこまでも卑劣な!」
 これが仮にも教皇のやることかとアンリエッタは澄んだ瞳に怒りを燃え上がらせた。
 しかし、有効な手口だというのは認めざるを得ない。迷っていた人々は教皇の言葉を受けて、教皇への支持を取り戻しつつある。相手が不安になったところに救いの道を指し示せば、相手はその言葉に矛盾が混じっているのに気づかずに信じてしまう。詐欺師のやり口は人間の心にアメーバのように浸透してくるのだ。
 アンリエッタは急いで教皇への反論を始めた。
「戯言はやめなさい教皇! あれはどう見ても、あなたたちに都合よく動いていたはず。さんざん天使様を賞賛する言葉を吐いておいて、よくもそんな手のひら返しができますね」
「ああ、悲しいことです。私は神の御前で懺悔せねばなりません。しかし、天使の姿に畏敬の念を抱いてしまうのは私の信仰心からきてしまう行動なのです。私の深い信仰心が罪となるとはなんと恐ろしい。ブリミル教徒の皆さん、我々の信仰心を弄んだ、あの悪魔を許してはなりません」
 必死に食い下がるアンリエッタだったが、舌戦は経験の差がもろに出てしまうものだ。年若いアンリエッタと、海千山千の教皇とでは歴然としていた。
 しかし、アンリエッタはあきらめずに教皇に対抗して人々に訴え続けた。この戦争の意義は勝敗ではない、いずれの大義が真実であるかを世の人に知らしめすことなのだ、そしてそれは自分にしかできないことだ。
”戦いは、トリステインの皆さん、ウルトラマンさんたちのおかげで、ようやくここまでこれました。これで教皇の化けの皮をはぐことさえできれば聖戦は止められる。ルイズ、始祖ブリミル、どうかわたしに力を貸してください!”
 心の中で祈り、アンリエッタはそばに控えたマザリーニの助言も受けつつ教皇の言葉と行動の矛盾を突き続けた。
 舌戦は激烈を極め、人々はそれに耳を傾ける。だが、多くの人々は教皇聖下がアンリエッタを論破するのを期待したであろうのと裏腹に、舌戦は意外な方向へと進んでいった。アンリエッタが押し始めたのだ。
「教皇、先ほどの天使が私の作った偽者と言うのであれば、ロマリアであなたに啓示を授けたというものはいったい何なのですか? それが本物だというのならば、なぜ偽者が暴れているにも関わらず本物は現れないのです? そして、ロマリアに現れた天使もまた偽者だとすれば、あなたは神の啓示など受けていないことになります、違いますか!」
 ヴィットーリオは当初余裕を浮かべていたが、アンリエッタは猛烈な食い下がりで彼を引きずり落としていった。
 もちろん、アンリエッタ自身の言葉のボキャブラリーには限界がある。しかし彼女にはマザリーニやエレオノールらがついて、可能な限りの助言をおこなっていたのだ。マザリーニの理路整然とした論理と、エレオノールの相手を圧迫する口撃力、これらが合わさったときの破壊力はすさまじかった。
 対して、ヴィットーリオに助言できる者はいない。教皇聖下に意見できる者などいるわけがない。
 三人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、今のアンリエッタはまさにそれだった。特に、ヴィットーリオは知識量についてはアンリエッタらを上回ったが、弁説や機転は一人分しか持っていない。アンリエッタが助言を元にアプローチをたびたび変えながら攻めてくるのに対して抗しきるのには限界があった。
 ペンは剣より強しと地球の誰かが言った。その意味がここにある。戦場で万の敵を倒すことは難しくとも、言葉は一度に億の民を動かすことができる。
 そしてこれはトリステインではアンリエッタしかできない仕事だ。武勇を誇るカリーヌも、見守るコスモスや上空を旋回するファイターEXからの映像で見守る我夢たちも、これには何も助力することはできない。
 当初はやはり教皇聖下が正しいと思い始めていた人々も、教皇の話の中の矛盾が暴露されるに従って疑いを抱き始めた。この戦いはおかしいという意識が広がり始め、教皇、そしてジュリオの心にも焦りが生まれ始めた。
『聖下、まずいですよ。このままアンリエッタにいいように言わせては』
『わかっています。むう、あの小娘がここまでやるとは、あなどっていました』
 思念で会話しつつ、ヴィットーリオとジュリオは流れがアンリエッタに移りつつあることを認めざるを得なかった。
 まずい、このままでは全世界の見守る前で聖戦のカラクリを暴露されてしまう。そうなれば、今までの苦労がすべて水の泡だ。
『聖下、ロマリアの兵はまだしもガリアの兵の動揺が大きくなっています。たぶん世界中でも……せめて、イリュージョンのスクリーンだけでも解除されては?』
『いいえだめです。これは、一度発動したら役割を命じた時間が来るまで消えないのです。心配はいりません、まだこちらには切り札があります。ジュリオ、私のそばへ』
 舌戦が一段落し、アンリエッタとヴィットーリオは息継ぎをするように一度押し黙った。
 しかし、沈黙は長くは続かない。この機を逃してはなるまいと、アンリエッタは攻勢を再開した。
「教皇、いい加減に観念するのです。あなたの詭弁は、わたしがすべて打ち砕きます。罪を認め、その正体を現しなさい!」
「アンリエッタ女王陛下殿……私は正直、あなたを見損なっていたようです。確かに私の行動に矛盾があることは認めましょう。ですがそれはハルケギニアに真の平穏をもたらすための、いわば必要悪だったのです。仕方ありません、真に正しいものは動かないという証拠を、ここにお見せしましょう」
 そう言うとヴィットーリオは、ジュリオが傍らに連れてきたドラゴンの背に乗り、ジュリオとともに飛び立った。
 ジュリオの操るドラゴンは速く、あっという間にロマリアの陣地から彼らをトリステインの街を囲む城壁の上へと連れて行った。
 城壁の上はすでにロマリア軍に占拠されており、ここからはどちらの軍からでも教皇の姿を望むことができる。
 そしてヴィットーリオは全軍を見渡すと、杖を掲げて高らかに宣言した。
「皆さん、始祖の残された力のことはご存知でしょう。そう、”虚無”です! アンリエッタ女王がいかに私を糾弾しようとも、虚無の力を持つということは、すなわち始祖に選ばれた者という証拠なのです。先ほど私はイリュージョンの魔法で世界をつなぎました。世界中の皆さん、見ていなさい。皆さんに、虚無のさらなる力をお見せしましょう!」
 虚無? 虚無! 虚無だって!?
 人々の間に動揺が広がるのと同時に、ヴィットーリオは呪文を唱え始めた。誰も聞いたことのないスペルが流れ、メイジたちは膨大な魔法力が集まっていくのを肌で感じ、すぐにそれは平民にもはっきりとわかる激しさで大気を鳴動させ始めた。
「な、なに? 何を始めようというのですか」
 まるで巨大地震の前兆のような地鳴りとともに、トリスタニア全体の大気が揺れている。アンリエッタたちは城の手すりにつかまりながら、これがただの魔法などではないことを悟った。
「本当に虚無? いけない、何をするのかわからないけれど、このままではトリスタニアが危ないわ。カリン様、教皇を止めてください!」
「御意!」
 なにをするにしたってろくなことであるはずがない。アンリエッタに言われるまでもなく、カリーヌは絶好の射点にわざわざやってきてくれた教皇に魔法の狙いを定めていた。
 しかし、魔法の完成は教皇のほうが一歩だけ早かった。

『世界扉』

 完成した魔法が発動した瞬間、空に穴が開いた。
 トリスタニアの上空に直径数百メイルに及ぶであろう巨大な黒い穴が開き、それが巨大な引力を発揮してすべてを飲み込み始めたのだ。
「うわぁぁっ! な、なんだ。吸い込まれる!」
 トリステイン軍は竜巻に巻き込まれたような強風に襲われた。猛烈な風が渦巻き、街の家々から屋根やガラスが引き剥がされて砂塵とともに吸い上げられていく。以前オルレアン邸でタバサを飲み込んだ異次元ゲートに似ているが、規模ははるかに大きい。
 勢いはどんどん強くなっていく。このままでは人間が巻き上げられるのもすぐだ。アニエスや、各軍の部隊長たちは必死に叫んだ。
「いかん! 全員なんでもいいから手近なものに掴まれ! できなければすぐ伏せろ!」
 トリステイン軍はもう戦いどころではなかった。彼らの持っている杖や剣さえも巻き上げられていき、街全体からあらゆるものが吸い上げられていく。
 しかし不思議なことに暴風はロマリアの兵たちは吸い込まず、トリステイン軍ばかりを吸い上げていく。そして、ヴィットーリオは唖然とするロマリア軍にゆるやかに語り始めた。
「驚かれましたか? これは私の持つ虚無の魔法『世界扉』です。世界の理を歪め、冥府への扉を開きます。そして不浄なるものをすべて異界へと連れ去ってしまうでしょう。ただ膨大な精神力を使ってしまうため、本来ならばエルフとの聖戦まで温存したかったのですが、聖戦の大義を証明するためには仕方ありません。さあ、神に歯向かった者たちの最期をともに見届けましょう!」
 ヴィットーリオの呼びかけに、ロマリア軍からうめきにも似たどよめきが流れた。
 人知を超えた天変地異にも匹敵する力、これが虚無なのか。これはもはや魔法と呼べる代物ではない。まるで、悪夢の光景だ。
 本来の世界扉は異世界間のゲートを作り出すだけの魔法だが、根源的破滅招来体の力で強化されたその威力は、地上に開いたブラック・ホールのようにトリスタニアのすべてを吸い込んでいく。
 家が、商店が引き剥がされて舞い上がっていく。人間たちも必死に地面にしがみついているが、体重の軽い者や力の弱い者、傷ついた者は今にも宙に浮き上がりそうである。戦傷者救護所では、野外に寝かされていたけが人たちを魅惑の妖精亭の少女たちが必死に屋内に運び込もうとしていたが、すぐに建物ごと飲み込まれそうだ。
 ならば、魔法を使っている教皇を倒せば。だがそれもだめだった。カリーヌが魔法攻撃を放とうとしても、世界扉の吸引力が勝り、使い魔のラルゲユウスごと引き込まれていく。
「うわあぁぁっ!」
 ラルゲユウスの飛翔力を持ってしてもどうしようもなかった。錐もみ状態ではカリーヌも魔法が使えない。
 カリン様! アンリエッタの悲鳴が響いたとき、コスモスが飛んだ。
「ショワッチ!」
 コスモスは引き込まれかけていたラルゲユウスを掴まえると、そのまま担いで地上に引き戻した。
 だが、世界扉の吸引力はコスモスも引き込もうとしている。カラータイマーの点滅が限界に近いコスモスでは、せめて耐える以外にできることはなかった。
 ファイターEXも影響圏から離脱するのでやっとだ。元素の兄弟は魔法で体を地面に固定して耐えていたが、やがて地面ごと引っぺがされそうな勢いに冷や汗をかき始めていた。
 そして宮殿もまた、トリスタニアごと消滅しようとしていた。尖塔はもぎとられ、煉瓦は舞い上がり、噴水は干上がり、城門が剥ぎ取られていく。
「じ、女王陛下、城内にお入りください!」
「もうどこにいても同じことです。それにわたしは、たとえ死んでもここを離れるわけにはいきません。はっ、ウェールズ様!」
 バルコニーにしがみつくアンリエッタの見上げる前で、アルビオン艦隊も飲み込まれていく。
 もはや、これまでなのかとアンリエッタの目に涙が浮かんだ。トリステインもアルビオンも地上から消え去り、ハルケギニアは教皇の思うがままになってしまう。
 ここまでやったのに、みんな死力を尽くして戦ったのに、最後の勝利は教皇のものなのか。これでは神よ、始祖よ、あんまりではありませんか。
「ルイズ……ごめんなさい」
 涙が暴風に乗り、闇のかなたへ消えていく。
 崩壊していくトリスタニア。もはや誰にも、どうすることもできない。
 あと数秒もすれば、街だけでなく人間たちも塵のように巻き上げられていくだろう。
 すべてが……消える。そしていずれはハルケギニアも消える。努力も、夢も、希望も、なにもかも。
 それでも最後まで、あきらめない心だけは捨てない。地面に必死に食らいつく銃士隊の中で、ミシェルはそれが才人の教えてくれたことだと信じ、繰り返す。
「負けるもんか、負けるもんか……あきらめない奴にだけ、ウルトラの星は見える。そうだろ? サイト」
 どんな絶望の中でも、自分から希望は捨てない。未来は、奇跡はその先にしかない。ミシェルはそれを信じた、なによりも才人を信じた。
 だが、すべてが消滅しようとしているこの時に、いったいどんな奇跡が起こるというのだろう? もう、誰もなにもできない。間に合わない。
 悪の勝利、すべてが消える。教皇がそれを確信し、勝利の宣言をしようと空を見上げた、まさにそのときだった。


「待ってたぜ教皇! てめえがもう一度その、世界扉の魔法を使う瞬間をな!」


 突然、空に開いた世界扉のゲートから声が響いた。
 あの声は、まさか! その声に聞き覚えのあるアニエスやスカロンやエレオノール、そしてミシェルが空のゲートを見上げる。
 さらに、ゲートが突然スパークして不安定に揺らいだ。と、同時に吸引力が消滅し、浮き上がりかけていた人々は再び重力の庇護を受け、なにが起こったのかをいぶかしりながら空を見上げる。
 しかし、一番衝撃を受けていたのは教皇とジュリオだ。ふたりは、突然制御を失ってしまったゲートを見上げながら焦っていた。
「あの声は!? そんな馬鹿な。聖下、なぜワームホールが」
「わかりません。まるで、ワームホールの先から何かが無理矢理やってこようとしているような。まさか!」
 そのまさかであった。彼らも聞いたあの声は、異次元のかなたへと追放したはずの、彼の声。
 ヴィットーリオの開いたワームホールに無理矢理介入し、流れの反対方向からやってこようとしている何者か。それはワームホールの出口を破壊しながら、稲妻のように現れた。

「うわぁぁ、うわおわあぁーっ!?」
「きゃあぁぁーっ!?」

 一部の人間には聞きなれた二名の声。それが響いたと同時に、空に開いていたワームホールは激流の直撃を受けた水門のように爆裂し、代わって中から現れた何かが流星のように教皇のいる場所の傍の城壁の上に墜落した。
 何かが墜落した場所で爆発が起こり、巨大な城壁が落ちてきた大きな何かに押しつぶされて粉塵とともに築材が撒き散らされる。
 何が落ちてきた!? この場にいる人間のすべての視線が舞い上げられた粉塵に注がれ、そして風で粉塵が流された後には、巨大なカタツムリのようで、しかしとぼけた顔をした顔をした怪獣が城壁を押しつぶして寝そべっていた。
 それを見ると、コスモスは「そうか、ついにそのときが来たんだな」と、なにかに満足したように消えた。一体コスモスは何を? 変身を解かれたティファニアは不思議に思ったが、コスモスは何も答えてはくれない。
 だが当面の問題は怪獣だ。人々からは、怪獣!? 怪獣だ! という叫び声が次々にあがる。
 しかし、人々の関心はすぐに怪獣から離れることになった。なぜなら、怪獣の影から複数の人影が這い出してきたかと思ったら、突然がなり声で言い合いを始めたからだ。


「あだだだ……っ。ち、着地のことまで考えてなかったぜ。って、ここは……おお! トリスタニアじゃねえか! てことは、おれはとうとうハルケギニアに戻ってこれたんだ。よっしゃあ、やったぜえ!」

「いてて、よかったねサイトくん。いちかばちかの賭けだったけど、どうやら成功したみたいだね」

「はい、みんなあなたのおかげです……って、なんであなたたちまでここにいるんですかぁぁぁぁぁ!」

「いや、離れるつもりだったんだけど巻き込まれちゃって、仕方なく、ね。へえ、ここが君の時代かぁ、なるほど、僕らが頑張ったかいはこうなるのか。君も、しみじみすると思わないかい?」

「するわきゃないでしょ! なに私まで引きずりこんでくれちゃってるの! さっきサイトに見せちゃった私の別れの涙を返しなさいよ、やっぱりあんたを蛮人と呼ぶのをやめるのをやめるわ、少しは反省しなさいよーっ!」

「ぐぼぎゃ!?」

 青年と少年と少女が言い争いの末に、青年が少女に殴り飛ばされて派手に吹っ飛んだ。
 それだけではなく、別の方向からもう一組の男女が現れて。

「うう、いったぁ……ほんとに、あんたといるとろくなことがないわ! あれ? ここはもしかして、トリスタニアじゃない! やったあ! とうとう、とうとう帰ってこれたんだわ」

「やったなルイズ。うんうん、これもひとえに俺のおかげだな。いや、はっはっはっは」

「あっはっはっは……って、ごまかされるわけないでしょうが! 今回ばかりは本気で死ぬかと思ったんだからねーっ!」

「どわーっ!」

 少女が杖を振るうと爆発が起こり、青年がまともに食らって吹っ飛んだ。


 なんだなんだ、いったいなんなんだ?
 見守っている人々は訳がわからずに唖然とするしかない。
 だが、彼らの声の中で、明らかに明確に確実に実体のあるものが二人分あった。
 ティファニアにとっては友達の声、ミシェルにとっては愛する人の声。
 カリーヌにとっては娘の声、アンリエッタにとっては親友の声、それは。

「サイト!?」
「ルイズ!?」

 紛れもない、長いあいだ行方不明になっていた才人とルイズだったのだ。
 その声が届くと、才人とルイズははっとしてあたりを見回し、互いの姿を見つけるとすぐに駆け寄って手を取り合った。

「ルイズ、ほんとにルイズなのか。無事だったんだな、おれ、お前が撃たれて消えていったの見て、飛び込んだんだけど間に合わなくて」
「サイト、やっぱりあんたはわたしを助けようとしてくれてたのね。ありがとう、ずっとサイトに会いたかったんだから。長かった、ほんとに長かったわ」
「お前もいろいろあったんだな。おれも、今日までずっと冒険を続けてきたんだ。何度もくじけそうになったけど、ルイズもきっとがんばってるって思って、がんばれた」
「わたしもよ。サイトと必ずまた会えるって信じてた。ほんとにいろいろあったんだからね」
「ああ、そういやお互いけっこう髪が伸びたな。お前に話したいこと、山ほどあるんだぜ。おれもルイズから土産話をいっぱい聞きたいな。けど、その前に……」

 才人とルイズはきっと表情を引き締めると、怪獣の背中から城壁の上にいる教皇を睨み付けた。
「あのニヤけた教皇野郎をブっ飛ばさないとな!」
 びしりと才人に指差され、教皇の肩がわずかに震えた。
 ここにいる才人とルイズは夢でも幻でもそっくりさんでもない。間違いなく、ヴィットーリオが世界扉で異次元に飛ばしたあの二人だ。
 しかし、異次元に追放されてどうして? そればかりはさすがに教皇も想定外で、わずかにうろたえた様子を見せつつ問い返してきた。
「あ、あなたたち、いったいどうやって?」
「へっ、聞きたいか? てめえの魔法で、おれは大昔のハルケギニアに飛ばされてたんだ。けど、親切な人たちに助けられて、この未来怪獣アラドスって奴の力を借りてこの時代に帰ってこれたんだ。わかったかバカヤロウ」
 才人はそう言って、足元で眠そうな目をしている怪獣を見下ろした。
 未来怪獣アラドス。幼体で身長一メートル弱から成体の数十メートルにいたるまで、成長途上によって大きさに差がある怪獣だが、ここにいる個体は二十メートルほどの成長しきっていない若い個体である。特筆すべきはその能力で、彼らは非常に進化した細胞で時間の壁を越えて、自由に過去や未来に行き来することができるのだ。
 つまり、才人はアラドスを見つけて助力してもらうことで現代へと帰ってきたわけだ。アラドスは高い知能も持ち、今はタイムワープの疲れで眠っているけれど、才人は感謝してもしきれないほどの恩を感じている。
「ただ、未来に行くことはできても、正確にどれだけ時間を越えればいいかはわからなかった。だから、てめえが世界扉で時空に穴を開けたのを目印にさせてもらったってわけだ。ざまあみろ」
「くっ、私の虚無を逆に利用するとは。しかも、その時空間の干渉でミス・ヴァリエールまでも引き寄せるとは、なんと悪運の強い」
「そうね、サイトの悪運の強さはたいしたものよ。けど、わたしだって負けてないわ。わたしはね、どっか別の宇宙に飛ばされて、あっちの星やこっちの星を散々さまようことになったのよ。もう、何度怪獣や宇宙人を相手に大変な目に会ったことか。それでね、どこかの星の沼地でお化けみたいなトンボの群れに追い回されていたら、突然空に開いた穴に吸い込まれて、気がついたらここにいたわ。教皇聖下、乙女の柔肌を日焼けで真っ黒になるまでバカンスさせてくれたお礼はたっぷりさせてもらいますからね」
 そういえばルイズの顔がこんがり小麦色になっているように才人は思ったが、それ以上に赤鬼みたいだと思ってしまった。
 が、それはともかくルイズの魔法力は怒りのおかげでボルテージがどんどん上がっている。今なら、とんでもない大きさのエクスプロージョンでも撃てそうだ。
 しかし、周りの人々にとっては訳のわからないの自乗になっているのは変わらない。教皇聖下、いったいどういうことなのですかという声が次々と響き、ヴィットーリオは焦ってそれに答えようと手を上げた、だがその瞬間。
『エクスプロージョン!』
 ルイズの魔法が炸裂し、ヴィットーリオは至近で起こった爆発に吹き飛ばされかけた。
 そして、帽子を飛ばされ、顔をすすに汚しているヴィットーリオに向かってルイズは猛々しく突きつけた。
「あんたの小細工は通用させないわよ。どうせ、わたしたちを悪魔に仕立て上げて被害者ぶろうとしてたんでしょう。けど、手口がわかれば対処は簡単よ。どんな詭弁も、しゃべらせなかったらいいんだからね!」
 ヒューっと、才人は口笛を吹いた。さすが、ルイズらしい力技の解決法だ。だが、なるほど、どんな詐欺師でも口を利けなければ人を騙しようがないに違いない。
「わ、私を公衆の面前で殺害しようとして、あなたやあなたの家族がどうなると思っているのですか?」
「そういうことは後で考えるわ。少なくとも、わたしの家族は心配されるほど軟弱じゃないから安心しなさい」
 おどしもまったく効果がなかった。まあともかく、武闘派や隠れ武闘派ばかりのヴァリエール一家に喧嘩を売れるところはそうはないだろう。なお、忘れられていたがルイズの父のヴァリエール公爵は自領の軍を率いて国境でゲルマニアに対して睨みを利かせている。どうやら、隙を見せると隣のツェルプストー家が空気を読まずに茶々を入れに来るらしい。
 ルイズが躊躇を見せないことに、ヴィットーリオは思わず後ずさった。逃げようにも、ジュリオの使っていた竜はアラドスの落ちてきたショックで瓦礫に埋もれてしまい、ロマリアの兵隊たちも大半はトリスタニアの奥まで攻め込んでしまっているし、城壁を占領していた者たちもアラドスを恐れて逃げていてしまい、すぐにヴィットーリオを助けに来れる者はいなかった。
 こうなれば、ヴィットーリオも杖をふるって魔法で対抗するしかない。ルイズもアラドスの背から城壁の上に飛び移り、ふたりの虚無の担い手は杖を向け合う。
『エクスプロージョン!』
『エクスプロージョン』
 互いに長々と詠唱をしている隙はないので、詠唱簡略のエクスプロージョンの撃ち合いが始まった。ルイズとヴィットーリオを狙ってそれぞれ小規模の爆発が起こり、両者は自分に向けられた爆発を回避するために身を躍らせる。
 しかしヴィットーリオは律儀にルイズとの決闘に応じるつもりはなかった。ルイズがヴィットーリオを相手に杖を動かせない死角から、ジュリオが銃を向けてきたのだ。
「今度は一発で心臓を撃ち抜いてあげるよ」
 銃口が正確にルイズを狙う。教皇に意識を集中しているルイズはそれに気づくのが遅れた。
 だが、ジュリオもまたルイズを狙いすぎて死角を作ってしまっていた。ルイズを撃たせてなるものかと、才人が体当たりをかけてきたのだ。
「うおおっっ!」
「うわっ! き、君はぁ!」
「ふざけんなよこの野郎。おれの目の前で二度もルイズを撃たせてたまるかよ。そんでもって、てめえだけはぶん殴ってやるって決めてたんだ!」
 才人のパンチがジュリオの顔面に決まり、ぐらりとジュリオはふらついた。ルイズを狙っていた銃はあらぬ方向を狙って無意味に弾を飛び去らせる。銃さえなくなれば、過去の旅で才人は相当体力をつけてきた。そんじょそこらの奴に負ける気はない。
 しかしジュリオは才人とのタイマンになど付き合ってはいられないと、すぐさま体勢を立て直して剣を抜いてきたのだ。
「て、てめえ」
「あいにくだけど、目的を果たすのを優先させてもらうよ。心配しなくても、君の大切な人たちもすぐに向こうで会えるようにしてあげるさ」
 ジュリオの振り上げた剣が才人を狙ってきらめく。対して才人は丸腰だ。とても剣を持った相手に対抗することはできない。ルイズはそれに気づいていたが、とても今から振り向いてジュリオに魔法をぶつける時間はなかった。
「サイト!」
 ルイズの悲鳴が響く。しかし、ジュリオの剣は才人に届くことはなかった。寸前で乾いた音を立てて、横合いから飛び込んできた別の剣によってさえぎられたのだ。
 ジュリオの剣は止められ、ジュリオは驚愕した表情で割り込んできた剣の持ち主を見た。それは、長剣を小枝のように片手で軽々と持って、不敵な笑みを浮かべる金髪の少女だった。
「素手の相手に剣を向けるとはいい根性してるね。あんた悪者ね、悪者でしょ? サイト、こいつはわたしがもらうけどいいよね?」
「サーシャさん!」
 その細身に見える体からは信じられない力で、少女はジュリオを剣ごと弾き飛ばした。そして、体を覆っていた砂漠の砂よけのフードつきマントを脱ぎ捨てて、少女はその全身を現した。
 たなびく薄い金糸の髪、無駄なく引き締められた肢体に、揺れるほどよい大きさの果実、そして延びる長い耳。
「エルフ!?」
 人々から驚愕の声が響く。しかしジュリオの視線は、彼女の左手に釘付けになっていた。少女の左手の甲にきらめくルーン、それは。
「ガ、ガンダールヴだと!?」
「あら? ガンダールヴを知ってるの。なら話が早いわね、なんかあなたを見てると妙に胸がムカムカしてくるし、サイトに剣を向けた落とし前はつけさせてもらうわよ!」
 宣言すると、サーシャは俊敏な肉食獣のように地を蹴った。光と見まごうような剣閃が走り、反射的に受け身をとったジュリオの剣にすさまじい衝撃が伝わってくる。
「こ、これは本物だ。だが、いや、そういえばさっきサーシャと。エルフのガンダールヴ、ま、まさか!」
「なにぼさっとしてるの? 私は強いよ!」
 サーシャの舞うような剣戟が相次ぎ、剣技には自信のあったはずのジュリオが受けるしかできない。
 剣同士がぶつかり合う金属音と、輝く火花が人々の目を引き、まるで天使が円舞をしているかのような美しさを人々は感じた。エルフといえば、人間にとっては忌むべき、恐れるべき存在であるはずなのに、目の前のエルフの少女からはそうした恐ろしさはまるで感じられずに、逆にたのもしさと胸がすくような興奮が湧き上がってくる。
 さすが元祖ガンダールヴ! 才人は、全盛期の自分よりはるかに強いサーシャの活躍にしびれて、思わずガッツポーズをとりながら応援した。
 けれども、自分の実力ではかなわないと見たジュリオはまたも卑劣な手に出てきた。彼が右手の手袋を脱ぎ捨てると、彼の右手の甲にルーンが輝いたのだ。
「そいつは、私と同じ!」
「そう、僕も虚無の使い魔なのさ。僕は神の右手ヴィンダールヴ、その力を見せてあげるよ!」
 すると、彼らのいる城壁に向かって方々からドラゴンやグリフォン、マンティコアやヒポグリフなどが集まってきた。戦いの中で主人の騎士を失ったそれぞれの軍の幻獣たちだ、皆が正気を失ったように目を血走らせ、凶暴な叫び声をあげている。
「これが僕の力、あらゆる生き物を自在に操ることができるのさ。いくら君がガンダールヴでも、これだけの数の幻獣を相手にするのは無理だろう?」
 チッ、とサーシャが舌打ちするのと同時に、才人はまずいと思った。いくらサーシャが強くても、十数匹のドラゴンやグリフォンにいっぺんに襲いかかられたらかなうわけがない。
「サーシャさん、変身を!」
「あ、ごめん。さっきのでコスモプラックがどっか行っちゃって、変身できないのよね」
「ええーっ!?」
 最悪だーっ! と、才人は叫んだ。まずい、ここは城壁の上で逃げ場がない。やられる! 
 しかし、宙を飛んで襲い掛かろうとしていた幻獣たちに、さらに上空から別の飛行物体が高速で襲い掛かってきたのだ。
「いっけぇーっ、レーザーバルカン発射ぁ!」
 急角度から降り注いできた光線の乱射が幻獣たちを蹴散らし、さらに音速に近い速度で通り過ぎていったことで幻獣たちは衝撃波に吹っ飛ばされて散り散りになってしまった。
 今のは! 才人は城壁の上を飛び去っていった戦闘機を見上げた。あの機体は、どこかで見たような。いつだったっけ、けっこう前だったように思うけど思い出せない。
 しかし、才人の戸惑いとは裏腹に、その戦闘機、ファイターEXは再度反転して残った幻獣たちをあっという間に蹴散らしてしまった。才人やジュリオは呆然として見送るしかない。
 幻獣たちが全滅すると、ファイターEXは上空で調子に乗ったように宙返りをした。そのコクピットでは、メインAIであるPALが乱暴な操縦をしないでくださいと抗議していたが、パイロット席に座る彼、アスカ・シンは楽しそうに答えた。
「悪い悪い、操縦桿握るのなんて久しぶりだからついうれしくってさ。いい飛行機だな、こいつ。気に入ったぜ」
 彼はこちらの世界にルイズと来てルイズの爆発魔法で吹っ飛ばされた後、空を飛んでいるファイターEXを見て、そのコクピットが無人だと知ると「おーい、そこの戦闘機乗せてくれー」と手を振って頼んだのだった。
 もちろん、乗せるかどうかの判断はPALはしていない。アスカを乗せるのを決めたのは我夢だった。むろん、見ず知らずの人間を乗せるのには藤宮が難色を示したが、我夢はなぜか自信ありげに言った。
「大丈夫、彼は……信頼できる」
 我夢にしては根拠のない発言に藤宮は不思議に思ったが、確かにアスカは見事にファイターEXを操縦した。PALだけでは先ほどの機動は不可能だったろう。
 一方の我夢も、なぜか不思議な確信が頭に浮かんだのを感じていた。本当に不思議だ、彼を見るのは今日が初めてなはずなのに、まるで子供のころからの親友だったように感じた。
 この戦いが終わったら、彼と会ってみよう。我夢は静かにそう思った。
 ファイターEXは、周囲を警戒するようにトリスタニアの空を旋回し続けている。その速度に追いつける幻獣はハルケギニアに存在しない。ただ、カリーヌはその優れた視力でファイターEXのコクピットをわずかに覗き、心臓をわしづかみにされたような衝撃を感じていた。
 そして、嵐のように吹き荒れたアスカの乱入によって危機は去った。さあ、ここから再開だと、サーシャは剣を振りかざしてジュリオに飛び掛った。
「なにぼさっとしてるの! 卑怯な手を使わないと、女の子ひとりあしらえないのかな?」
「くっ、なめるなっ!」
 それはある意味ジュリオに対して最大の侮辱だったろう。才人は笑い転げたいのを我慢しながらサーシャの応援に戻った。
 だが、その瞬間、爆音を聞き、才人はエクスプロージョンの炎に弾き飛ばされてルイズが転がされるのを見たのだ。
「ルイズ!」
「だ、大丈夫よ」
 思わずルイズに駆け寄り、才人はルイズを助け起こした。ルイズは見たところたいした傷は負っていないようだったが、強がっている言葉に反して杖を握っている腕は痙攣して、相当に疲労が蓄積しているのが察せられた。
 そんなふたりを見下ろしながら、ヴィットーリオは余裕を取り戻した声で悠然と告げた。
「少し焦りましたが、やはりメイジとしての技量では私に一日の長があったようですね。悔しいですか? ですがあなたの言葉を借りれば、懺悔する時間は与えませんよ。今すぐに、始祖の下に送ってあげましょう」
 時間稼ぎはさせまいと、ヴィットーリオは即座にエクスプロージョンの魔法を完成させた。威力は抑えているが、それでも人間二人を粉々にして余りあるだけの魔法力が才人とルイズの眼前に集中する。
 やられる! 対抗の魔法は間に合わないと、ルイズは死を覚悟した。しかし、その瞬間、ふたりの後ろから別の虚無のスペルが放たれた。
『ディスペル!』
 魔法を打ち消す魔法の光がヴィットーリオのエクスプロージョンを瞬時に無力化した。
 馬鹿な! と、ヴィットーリオは驚愕する。そして、才人とルイズの後ろから散歩に行くような暢気な足取りで、小柄な青年が杖を握りながら現れたのだ。
「始祖の下に送る、か。いやあ、残念だけど多分それは無理だと思うよ」
「な、何者です?」
「ただのサイトくんの友達さ。いけないなあ、その魔法は悪いことに使うもんじゃないと聞いてないかい? これなら、まだ荒削りだけどそっちのお嬢ちゃんのほうがはるかにマシだよ。ねえ」
 そう言って、青年は寝かせた金髪の下の瞳をルイズに向けて優しく微笑んだ。
 すると、ルイズは不思議な既視感を覚えた。この人とは初めて会ったはずなのに、なぜかずっと昔から知っているような暖かな懐かしさを感じる。
「君がサイトくんの主人だね。話はいろいろ聞いているよ。なるほど、確かにどこかサーシャに似た雰囲気を感じるね。涙が出そうだよ……けど、どうやらタチの悪いのも生まれてしまったようだね。ここは僕がやるのが筋だろう、サイトくん、彼女を守ってあげなさい」
 彼はそれだけ言うと、再びヴィットーリオに向き合った。
 すぐさまヴィットーリオの放ったエクスプロージョンの魔法が襲い掛かってくる。だが彼は、即座に呪文を唱えると、なんと相手のエクスプロージョンの収束に自分のエクスプロージョンを当てて暴発させてしまったのだ。
 爆発が爆発で相殺され、爆風があさっての方向へと飛び散っていく。そんなまさかと驚くヴィットーリオに向かって彼は告げた。
「初歩の初歩の初歩、エクスプロージョン。けれど、だからこそ使い勝手はとてもいい。効くかどうかは別にして、望んだすべてのものを爆破できる。ふむ、やったことはなかったけど虚無に虚無をぶつけても効くのか、覚えておこう」
 事も無げに言ってのける彼だったが、それがいかにとんでもないことなのかはルイズがよくわかっていた。虚無を使えるようになってからエクスプロージョンは数え切れないほど撃ってきたが、あんな瞬間に超ピンポイントで当てるような神業はできない。あの青年は、いったいどれほどの虚無の経験を積んできたというのか。
 ルイズは才人に、「あの人はいったい誰なの?」と尋ねようとしたが、それより早く魔法戦は再開された。
 さらに強力なエクスプロージョンにエクスプロージョンがぶつかり、トリスタニアの空に太陽のような光球がいくつも閃いては消える。
 こんな魔法戦、見たことがない。戦いを見守っていた全世界の人々がそう思った。現れては消える、あの光球ひとつだけでも直径数百メイルはあるとんでもない巨大さだ。もしあれがひとつでも戦場で炸裂したら、アルビオンやガリアの大艦隊でも一瞬で消し飛ばされてしまうだろう。
 火のスクウェアメイジが百人、いや千人いたところでこんな光景は作れないに違いない。
 トリスタニアの空に太陽がいくつも現れては消える。アンリエッタやウェールズは、自分たちがヘクサゴンスペルを完成させたとしても到底及ばないと戦慄し、エレオノールやヴァレリーは「こんなの魔法の次元じゃないわ」とつぶやき、ルクシャナは好奇心を塗りつぶすほどの壮絶さに大いなる意思にひたすら祈り、カリーヌさえも唖然として見ている。
 全世界のメイジたちも同様に、一生に二度と拝めないかもしれない壮絶な魔法合戦を見守っている。
 ただ例外は才人で、彼はひとりでサーシャのほうの応援をしていた。
「がんばれーっ、サーシャさん! いけーっ、そこだ、かっこいいーっ」
 同じガンダールヴだった同士で波長が合うのか、才人の応援は熱がこもっていた。
 しかしそれが気に食わないのはルイズだ。あの虚無使いの人は何者なのかと聞こうと思ったら、才人は自分を無視してこのテンション。しかも、せっかく久しぶりに会ったと思ったら、知らない女に熱烈な声援を送っているのも気に入らない。
 そうなると、ガンダールヴとかの問題は思考の地平へ飛び去ってしまい、ルイズの心でメラメラと黒い炎が渦巻いてくる。
「ねぇ、サイト?」
「ん? なんだルイ、ぐえっ!? く、首、首を絞めるなぁぁっ!?」
「ご主人様から目を逸らしてずいぶん楽しそうじゃない。なんなのあの女? あんた、わたしの見てないところでまた新しい女とデレデレしてたんじゃないの?」
 ああ、この嫉妬深さ、これこそがルイズだと才人はしみじみ思ったが酸素を取り上げられてはたまらない。
「ぐえええ、締まる、締まってるって! 誤解、誤解だルイズ。いくらおれでも人妻に手を出すような趣味はないって!」
「人妻?」
 ルイズの力が緩んだ。なるほど、いくら才人でもそこまで節操なしではないだろう。才人はほっとして、胸いっぱいに空気を取り込んだ。
 だが正直に言ったのがサーシャの逆鱗に触れてしまった。
「ちょっ、誰が人妻よ、誰が!」
「あだぁっ!」
 サーシャが投げた剣の鞘が才人の頭に命中して鈍い音を立てた。才人は目を回し、代わってルイズが抗議の声をあげる。
「ちょっとあなた! 人の使い魔に向かって何してくれるのよ!」
「そいつが人妻だなんて言うからよ。私とあいつは、その……まだ……そんなんじゃないんだからね!」
 ルイズは彼女のその反応に、「あれ? なんかどこかで見たような」という感想を抱いたが、答えに思い当たると何かムカつく気がした。
 しかし、ルイズの願望を裏切るように、青年がヴィットーリオと戦いながらも口を挟んできたのだ。
「おいおいサーシャひどいなあ、君と僕との関係は、もう歴史上の既成事実なんだよ。子孫の前で、それはないんじゃないかな」
「う、うるさいうるさいうるさい! 誰があんたなんかと、あんたの赤ちゃんなんか産んでやるもんですか!」
「そうかい? 僕は君に僕の赤ちゃんを産んでほしいと思うけどなあ。僕と君の子供なら、きっとかわいいだろうなあ。そう思わないかい?」
「う、ううううう、バカバカバカ! もう知らないんだから!」
 青年の軽口に、サーシャは顔を真っ赤にして顔を伏せてしまった。だがそうしてじゃれあいながらも、ふたりともヴィットーリオとジュリオ相手に互角に渡り合っているのだからとんでもない。
 いったい何なのよ、この人たち? ルイズはわけがわからずに目を白黒させていたが、才人がやっと目を覚ましてきたので聞いてみた。
「ちょ、サイト。あのふたり、いったい何者なのよ?」
「んん? ああ、大昔の虚無の使い手と使い魔さ。お前の遠い遠いおじいさんとおばあさんだよ」
「大昔の? そっか、そういえばあなたは過去に行っていたって言ってたわね。けど、ほんとどういう人たちなのよ。あの人外の教皇と互角にやりあえるなんて、そんな虚無の担い手なんて、まるで始祖……えっ?」
 そこまで言いかけて、ルイズははっとして固まってしまった。
 まさか……そんな。しかし才人は、言葉が出ないルイズをニヤニヤ笑いながら見ている。ルイズは全身から血の気が引いていくのを感じた。
「ま、ままままま、まさか、ほ、ほほほほ本物の、しし、ししししし」
 そのときだった。教皇と青年の魔法の撃ち合いが、ひときわ大きいエクスプロージョン同士の炸裂で終息した。
 空を覆っていた魔法の光芒が消え去り、教皇と青年が十数メイルの距離を置いてにらみ合う。と、同時にジュリオとサーシャの剣戟も終息し、両者はそれぞれの主人の脇に戻った。
 しかし余力はまるで違う。教皇とジュリオが肩で息をしているのに対して、青年とサーシャは汗ひとつかいていない。
 戦いを見守っていた世界中の人々も、あのふたりはいったい何者なんだと息を飲んでいた。教皇聖下が、伝説の系統である虚無の担い手だということはもはや疑いようがない。その教皇聖下を同じ魔法で圧倒できるとは何者か? 同じ魔法? つまり相手も虚無の使い手。しかし、そんなものが存在するのか?
 人々は沈黙し、疑問の答えを待つ。やがて、穏やかに青年が教皇に対して語りかけた。
「もうやめないかい? 君もなかなかの力を持っているようだが、君の使う虚無の系統なら僕はすべて使えると思うよ」
「こ、これほどまでとは。いったい何者なのですか……いや、あなたの顔はどこかで……はっ!」
 そのとき、ヴィットーリオは記憶の中のひとつと目の前の青年の顔が合致して凍りついた。予期せぬ事態の連続と戦闘の興奮で半ば我を失っていたために気がつかなかったが、ロマリア教皇としてブリミル教の内情に関わった知識の中に、たったひとりだけ目の前の青年に該当する人物がいた。
 そういえば、ジュリオが戦っていたエルフの娘はガンダールヴだった。虚無の担い手は過去に複数存在したが、エルフを使い魔にしたのはたったひとりしか存在しない。
「ま、まさか、あなたの名は……」
「ん? そういえばまだ名乗ってはいなかったね。じゃあ遅くなったけど、自己紹介しておこうか」
「ま、待て!」
 ヴィットーリオは狼狽して止めにかかった。
 まずい、それだけはまずい。もし、目の前の青年があの人物だとしたら、ロマリアの、教皇の、権威も威厳も、そのすべてが塵のように吹き飛ぶ。そして、それを納得させられるだけの材料は、すでに全世界の人間たちの目に示されてしまってている。
 しかし、遅かった。青年はヴィットーリオを無視しているようなのんびりした声色で、全世界に対して自分の名を告げたのだ。

「僕の名はニダベリールのブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」

 その瞬間、全ハルケギニアが凍りついた。
 え? 今、なんて? ニダベリールの……ブリミル? え? 聞き間違いでなければ、その名前を許されているのは、ハルケギニアの歴史上たったのひとり。
 と、いうことは……つまり。
「し、ししししししし、始祖ブリミル、ご本人ーーーーっ!?」
 沈黙から一転して、全ハルケギニアがひっくり返ったような混沌に陥った。
 始祖ブリミル、その降臨。世界中で老若男女がひれ伏し、アンリエッタは気を失いかけ、カリーヌでさえ腰を抜かしそうになった。
 遠方で見守るギーシュたちもトリスタニアのほうを向いてひざを突き、アニエスやミシェルたちも剣や杖を置き、元素の兄弟もさすがに唖然となった。
 もはや、トリスタニアだけ見ても、トリステイン・ガリア・ロマリアどの軍も等しく平伏して身動きひとつしていない。
 例外はガリアでジョゼフが爆笑していることと、彼らの目の前で才人が調子に乗っていることである。
「わっはっはっはっ! どーだ教皇、てめえがいくら偉くても、ブリミル教でこの人より偉い人はいねーだろ! ざまーみやがれ!」
 胸がすっとなるような快感を才人は味わっていた。まるで悪代官に先の副将軍が印籠をかざしたり、将軍様が「余の顔を見忘れたか?」と言い放ったときのようだ。
 だが、調子に乗る才人をルイズが頭を掴まえて床にこすりつけた。
「いってえ! な、なにすんだよルイズ」
「バカ! 始祖ブリミルの御前なのよ。なんて恐れ多い、あわわわわ」
 ルイズもすっかり混乱してしまって目の焦点がぐるぐるさまよっている。しかしそんなルイズに、ブリミルは少し困ったように言った。
「ねえ君、ルイズくんといったよね。サイトくんも痛がっているし、やめてあげてくれないかな」
「い、いえそんな! 始祖ブリミルに対してそんな恐れ多い!」
「僕はそんなに偉い人間じゃないよ。少なくとも今はね。それに、友達に頭を下げられて愉快な人間なんかいないさ。さ、頭を上げて」
 促されて、ルイズが恐る恐る頭を上げると、そこにはブリミルとサーシャが優しく微笑んでいた。
 だが、優しげな表情を一転させて、ブリミルはヴィットーリオを鋭い視線で睨み付けると言った。
「さて、僕の名前を使ってさんざん悪いことをしてくれたみたいだね。僕はね、君たち子孫に争ってもらいたくていろんなものを残したんじゃない。僕らの時代に、世界は荒れ果てた。僕らがやったことはすべて、この世界が平和を取り戻し、僕らの子供たちが幸せに暮らせるようになることを願ってのことだ」
「くっ、し、しかし聖地は」
「それだけは詫びねばいけないね。たぶん、死ぬ前の僕はそれだけは心残りだったんだろう。だけど、聖地は人間だけが目指すべき場所じゃない。エルフも、ほかの亜人たちも、この星の生き物すべてにとって重大な意味があるところなんだ。いや、すべての生命が力を合わせなければ聖地には届かない。君のやろうとしていることは、聖地から遠ざかることだ」
「ぐぐ……」
「この場で偽りを認めればよし。だが、もしこれ以上の戦いを望むなら、僕も容赦はしない。君がよりどころとする虚無の、そのすべてを打ち砕いてあげるよ」
 ブリミルのその一言が、教皇にとってのチェック・メイトであった。
 教皇が正義を騙っていた、そのすべての根拠がひっくり返された。最後に残った虚無も、始祖ブリミルという絶対の存在にはかなわない。

 もはやこれまで……ヴィットーリオは、連綿と続けてきた計略のすべてが失敗したことを認めた。
「数千年をかけて築き上げてきた我々のプランが、こんな形で崩壊させられるとは……ですが、たとえ我々がここで潰える運命だとしても、我々の後に続く者たちのために道をならしておくことにしましょう!」
 ついに本性を隠すことを止めたヴィットーリオとジュリオの周りにどす黒いオーラが渦巻く。
 来る! ついに根源的破滅招来体と、この世界で最後の決着をつける時が来たのだ。
 あのときの借りを今返すと、才人とルイズは視線を合わせて手を握り合った。
 そして、ファイターEXでもアスカが懐からリーフラッシャーを取り出していた。
 闇に包まれたハルケギニアに再び光を。歴史に残る大戦争の、そのクライマックスが今、始まる。


 続く



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