ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十話「ベアトリス南へ!」
健啖宇宙人ファントン星人 登場
第百二十話「ベアトリス南へ!」
健啖宇宙人ファントン星人 登場
「はぁ……」
トリステイン魔法学院の寮塔の一室で、一人の少女が窓の縁に寄りかかりながら物憂げに
ため息を吐いた。と同時に、左右に垂らした金色のツインテール――当たり前だが怪獣の
方ではない――が揺らめいた。
彼女の名はベアトリス。今年の春から学院に留学してきた、アンリエッタの先々代の王から
大公領を賜ったことでトリステインから名目上独立したクルデンホルフ大公国の姫である。
しかし姫と言っても、アンリエッタやクリスらとは大きく違い、己の家の権力と財力、
それから国から連れてきた騎士団の武力を振りかざして学院で我が物顔に振る舞う、
ひと言で言えば生意気で嫌な性格をしていた。しかしクラスにティファニアがやってきてから
状況は一変。学院中の男が彼女の虜になり、己の影が薄くなったことを妬んで、ティファニアを
いびり出した。そしてティファニアがハーフエルフの素性を明かすと、鬼の首を取ったかの
ように強権を振るって、彼女を異端審問に掛けようとまでした。だがこれが己の首を絞める
結果になり、ルイズによってそんな権限はないことを暴かれたことで、それまでの高慢な行いも
祟って、逆に自分が物理的に吊るし上げられる一歩手前までに。
そこを救ったのが、誰であろう自分がいじめていたティファニアであった。その高潔さに
直面したベアトリスは、彼女と比較してのそれまでの自分を反省し、以降は大人しくなったのであった。
さて、現在の物憂げな様子のベアトリスに対して、今もつき従っている取り巻きの少女三人が
何事か尋ねかける。
「ベアトリス殿下、近頃そのようにため息をなさることが多いですね」
「何か悩みごとでしょうか?」
「よろしければ、わたくしどもがご相談を承りますわ」
ベアトリスは三人に振り向くと、次のように告げた。
「実はティファニアのことを考えてたんだけど……。あの子、あれだけやったわたしにことも
あろうにお友達になりましょう、なんて言ったじゃない」
「ミス・ウエストウッドですか? ああ、そうでしたね」
「殿下、彼女とご友人になられるのはお嫌なのでしょうか?」
「違うわよ。むしろ、喜んでと言いたいところなんだけど……あんなことした手前、何もなしに
友達になろうなんてのは気が引けるわ……」
再度ふぅ、とため息を吐くベアトリス。彼女はティファニアに対する仕打ちへの罪悪感を
抱えていて、その感情がティファニアの申し出を素直に受けるのを躊躇わせているのだった。
そのため、ティファニアへの返事は今も保留のままであった。
すっかり覇気をなくしたベアトリスの様子を案じる取り巻き娘たち。
「ベアトリス殿下、そのようにお思いでしたのね……」
「罪悪感という感情がおありだったんですね……」
「あッ! 今ちょっと本音出したわね!」
ポロッと出たつぶやきに目を吊り上げるベアトリスだったが、それ以上は咎めなかった。
他人に対しての寛容さも、ティファニアとの出会いで手に入れたものだった。お陰で、思えば
どこかよそよそしかった彼女たちと本当に親しくなれたと感じている。取り巻き娘たちが
軽口を言えるようになったのも、ベアトリスとの距離が近づいたからであった。
三人目の娘が進言する。
「それでしたら、ミス・ウエストウッドにまっすぐに謝罪されては如何でしょうか?」
「もちろんそれくらいのことは考えたわよ。でも、ただごめんなさいと言っただけで片づけよう
なんて、ティファニアの厚意に甘えるようで嫌だわ。もっと自分で納得できる形でお詫びがしたいの」
「納得できる形でとおっしゃいますと……たとえば、ミス・ウエストウッドにお詫びの品を
お送りするといった感じでしょうか」
「まぁそんなところかしらね。でも、家のお金で軽々と取り寄せたようなものでは駄目だわ」
真剣さを表情に出してそう言うベアトリス。
「ティファニアは自分の力だけで、新しい環境で勉学に励もうとしてる。そんな彼女の心意気に
対して恥ずかしいところのないような……ティファニアが一番喜びそうなものを、紛れもない
自分の力で用意しないと」
「難しいご注文ですね……」
少々困る取り巻き娘たちだったが、わがまま娘だったベアトリスがこんなにも真剣に他人の
ことを考えているのだ。取り巻き娘たちはその変化が嬉しくて、ベアトリスのために自分たちも
真剣に彼女の注文を考えた。
短いツインテールの娘が尋ね返す。
「ミス・ウエストウッドの喜びそうなものとは、どんなものなのでしょうか」
「それが分かってるんだったら、ため息なんて吐いてないんだけど……。ただ、外の世界のことを
学ぶために学院に来たそうだから、まだこの学院の誰も見たことのないような珍しいものなんかが
いいんじゃないかしら。それがどんなものかというのは、思い浮かばないんだけど」
ベアトリスが答えると、ポニーテールの娘が挙手した。
「まだこの学院の誰も見たことのない珍しいものの話、わたし一つ存じてますわ!」
「ほんと!? 言ってみなさいな!」
ポニーテール娘が話したのは、以下の通りだった。
「平民の使用人の間での噂を小耳にはさんだのですが、ガリアの平民の間では現在、『錬金』で
豆から作り出された代用食品が大流行してるそうなのです」
「代用食品? 世の中にはそんなものがあるの」
初めて知った、という顔のベアトリス。彼女は生粋のお姫さまであり、食べるものには
困らない生活をしているので、そんなものを目に掛ける機会などないから当然といえば当然だった。
しかし緑髪の娘がポニーテール娘に反論する。
「けれど平民向けの代用食品なんて、味はたかが知れたものでしょ」
「いいえ、それが他が作ってるものとは出来が段違いで、本物そっくりなんですって! 何でも、
美食家で知られる貴族も代用食で作られた料理を見抜けなかったほどなんだとか! 作成者の
メイジはそれで既にひと財産築いてるそうよ」
「でもそれって、あくまで噂でしょう?」
緑髪娘は半信半疑だが、ベアトリスは俄然興味が湧いてきた。
「面白そうじゃない。続けて」
「あッ、はい。その代用食品ですが、製作者のメイジが現在トリステインを訪れて、この国でも
販売を行ってるそうです。まさに絶好の機会ではないでしょうか」
ポニーテール娘の言葉にうなずくベアトリス。
「そうね。そのメイジのところに訪問して、作ってる品が噂通りのものか確かめさせて
もらいましょう。それに、そこまでのものを作り出したということは、そのメイジは色んな
経験をしてるはずよね」
「はい。何でも家には猛反対されて、それで飛び出して身一つで今に至ってるとか」
「まるでミス・ウエストウッドみたいな足跡ね」
ツインテール娘が感想を述べた。ベアトリスは満足げだ。
「ますます気に入ったわ。そのメイジの体験談もティファニアへのお土産にしましょう。
自分の他に苦労を重ねてる人間の話、きっと喜んでもらえるわ」
「では!」
「決まりよ! 早速次の虚無の曜日に出かけましょう! それまでに情報を集めて、件のメイジの
居場所を突き止めるわよ!」
「かしこまりました!!」
張り切るベアトリスの号令に、取り巻き娘たちはピシッと背筋を伸ばして応答した。
トリステイン魔法学院の寮塔の一室で、一人の少女が窓の縁に寄りかかりながら物憂げに
ため息を吐いた。と同時に、左右に垂らした金色のツインテール――当たり前だが怪獣の
方ではない――が揺らめいた。
彼女の名はベアトリス。今年の春から学院に留学してきた、アンリエッタの先々代の王から
大公領を賜ったことでトリステインから名目上独立したクルデンホルフ大公国の姫である。
しかし姫と言っても、アンリエッタやクリスらとは大きく違い、己の家の権力と財力、
それから国から連れてきた騎士団の武力を振りかざして学院で我が物顔に振る舞う、
ひと言で言えば生意気で嫌な性格をしていた。しかしクラスにティファニアがやってきてから
状況は一変。学院中の男が彼女の虜になり、己の影が薄くなったことを妬んで、ティファニアを
いびり出した。そしてティファニアがハーフエルフの素性を明かすと、鬼の首を取ったかの
ように強権を振るって、彼女を異端審問に掛けようとまでした。だがこれが己の首を絞める
結果になり、ルイズによってそんな権限はないことを暴かれたことで、それまでの高慢な行いも
祟って、逆に自分が物理的に吊るし上げられる一歩手前までに。
そこを救ったのが、誰であろう自分がいじめていたティファニアであった。その高潔さに
直面したベアトリスは、彼女と比較してのそれまでの自分を反省し、以降は大人しくなったのであった。
さて、現在の物憂げな様子のベアトリスに対して、今もつき従っている取り巻きの少女三人が
何事か尋ねかける。
「ベアトリス殿下、近頃そのようにため息をなさることが多いですね」
「何か悩みごとでしょうか?」
「よろしければ、わたくしどもがご相談を承りますわ」
ベアトリスは三人に振り向くと、次のように告げた。
「実はティファニアのことを考えてたんだけど……。あの子、あれだけやったわたしにことも
あろうにお友達になりましょう、なんて言ったじゃない」
「ミス・ウエストウッドですか? ああ、そうでしたね」
「殿下、彼女とご友人になられるのはお嫌なのでしょうか?」
「違うわよ。むしろ、喜んでと言いたいところなんだけど……あんなことした手前、何もなしに
友達になろうなんてのは気が引けるわ……」
再度ふぅ、とため息を吐くベアトリス。彼女はティファニアに対する仕打ちへの罪悪感を
抱えていて、その感情がティファニアの申し出を素直に受けるのを躊躇わせているのだった。
そのため、ティファニアへの返事は今も保留のままであった。
すっかり覇気をなくしたベアトリスの様子を案じる取り巻き娘たち。
「ベアトリス殿下、そのようにお思いでしたのね……」
「罪悪感という感情がおありだったんですね……」
「あッ! 今ちょっと本音出したわね!」
ポロッと出たつぶやきに目を吊り上げるベアトリスだったが、それ以上は咎めなかった。
他人に対しての寛容さも、ティファニアとの出会いで手に入れたものだった。お陰で、思えば
どこかよそよそしかった彼女たちと本当に親しくなれたと感じている。取り巻き娘たちが
軽口を言えるようになったのも、ベアトリスとの距離が近づいたからであった。
三人目の娘が進言する。
「それでしたら、ミス・ウエストウッドにまっすぐに謝罪されては如何でしょうか?」
「もちろんそれくらいのことは考えたわよ。でも、ただごめんなさいと言っただけで片づけよう
なんて、ティファニアの厚意に甘えるようで嫌だわ。もっと自分で納得できる形でお詫びがしたいの」
「納得できる形でとおっしゃいますと……たとえば、ミス・ウエストウッドにお詫びの品を
お送りするといった感じでしょうか」
「まぁそんなところかしらね。でも、家のお金で軽々と取り寄せたようなものでは駄目だわ」
真剣さを表情に出してそう言うベアトリス。
「ティファニアは自分の力だけで、新しい環境で勉学に励もうとしてる。そんな彼女の心意気に
対して恥ずかしいところのないような……ティファニアが一番喜びそうなものを、紛れもない
自分の力で用意しないと」
「難しいご注文ですね……」
少々困る取り巻き娘たちだったが、わがまま娘だったベアトリスがこんなにも真剣に他人の
ことを考えているのだ。取り巻き娘たちはその変化が嬉しくて、ベアトリスのために自分たちも
真剣に彼女の注文を考えた。
短いツインテールの娘が尋ね返す。
「ミス・ウエストウッドの喜びそうなものとは、どんなものなのでしょうか」
「それが分かってるんだったら、ため息なんて吐いてないんだけど……。ただ、外の世界のことを
学ぶために学院に来たそうだから、まだこの学院の誰も見たことのないような珍しいものなんかが
いいんじゃないかしら。それがどんなものかというのは、思い浮かばないんだけど」
ベアトリスが答えると、ポニーテールの娘が挙手した。
「まだこの学院の誰も見たことのない珍しいものの話、わたし一つ存じてますわ!」
「ほんと!? 言ってみなさいな!」
ポニーテール娘が話したのは、以下の通りだった。
「平民の使用人の間での噂を小耳にはさんだのですが、ガリアの平民の間では現在、『錬金』で
豆から作り出された代用食品が大流行してるそうなのです」
「代用食品? 世の中にはそんなものがあるの」
初めて知った、という顔のベアトリス。彼女は生粋のお姫さまであり、食べるものには
困らない生活をしているので、そんなものを目に掛ける機会などないから当然といえば当然だった。
しかし緑髪の娘がポニーテール娘に反論する。
「けれど平民向けの代用食品なんて、味はたかが知れたものでしょ」
「いいえ、それが他が作ってるものとは出来が段違いで、本物そっくりなんですって! 何でも、
美食家で知られる貴族も代用食で作られた料理を見抜けなかったほどなんだとか! 作成者の
メイジはそれで既にひと財産築いてるそうよ」
「でもそれって、あくまで噂でしょう?」
緑髪娘は半信半疑だが、ベアトリスは俄然興味が湧いてきた。
「面白そうじゃない。続けて」
「あッ、はい。その代用食品ですが、製作者のメイジが現在トリステインを訪れて、この国でも
販売を行ってるそうです。まさに絶好の機会ではないでしょうか」
ポニーテール娘の言葉にうなずくベアトリス。
「そうね。そのメイジのところに訪問して、作ってる品が噂通りのものか確かめさせて
もらいましょう。それに、そこまでのものを作り出したということは、そのメイジは色んな
経験をしてるはずよね」
「はい。何でも家には猛反対されて、それで飛び出して身一つで今に至ってるとか」
「まるでミス・ウエストウッドみたいな足跡ね」
ツインテール娘が感想を述べた。ベアトリスは満足げだ。
「ますます気に入ったわ。そのメイジの体験談もティファニアへのお土産にしましょう。
自分の他に苦労を重ねてる人間の話、きっと喜んでもらえるわ」
「では!」
「決まりよ! 早速次の虚無の曜日に出かけましょう! それまでに情報を集めて、件のメイジの
居場所を突き止めるわよ!」
「かしこまりました!!」
張り切るベアトリスの号令に、取り巻き娘たちはピシッと背筋を伸ばして応答した。
そうしてやってきた虚無の曜日。ベアトリスは国に帰らせた竜騎士団の風竜を呼び寄せ、
噂の代用食品を作っているメイジがいるという場所まで飛んでいった。そこは学院から南、
トリステインとガリアの国境付近の平原だった。
それらしい場所はすぐに見つかった。建物らしい建物のない平原のど真ん中に、やたら大きくて
広いテントが張ってあったのだ。
「どうやらここで代用食を作ってるそうです。このテントの大きさ、工場といったところですかね」
テントの入り口の前に並んだベアトリス一行。ポニーテール娘がそう言う。
「確かに噂通り、儲けていそうね。今いるかしら」
「ごめんくださーい! 誰かいらっしゃいますかー?」
緑髪娘が声を張り上げて呼びかけると、テントの中から人の足音がこちらに近づいてきた。
「はーい。行商人さんですかー?」
入り口の布を開いて顔を覗かせたのは、成人するかしまいかという年頃の少女。化粧っ気が
まるでないのでベアトリスたちは一瞬平民の召使いかと思ったが、右手には杖を握っていた。
自己紹介するベアトリス。
「わたしはクルデンホルフ大公国公女、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ。
こちらに魔法で食品を加工している珍しいメイジがいると聞いて、後学のために見学させて
もらいに来たわ。あなたがそうなのかしら?」
「まぁ、そうですか! クルデンホルフといえば、あのトリステインからの独立国の……。
はい、わたしがそうです。リュリュと申します」
リュリュと名乗った少女に、ベアトリスたちは意外に感じた。平民向けの食品を作っている
奇特な貴族というから、コルベールのような歳のいった学者タイプの人間を想像していたのだ。
驚きは表情に出ていたようで、リュリュは苦笑した。
「あはは、皆さんそんな顔をします。どうして君のような若い子が、ともよく聞かれますよ。
でもわたしはこれでも美食家を自負してまして、その嗜好が高じて自分で作る側になったんです」
自身の紹介をしたリュリュは、ベアトリスたちを大きなテントの中へ招く。
「入り口で立ち話も何ですから、どうぞ中へお入り下さい」
「忙しいところ、お邪魔するわね」
「いえ。わたしの活動を他国のお姫さまに興味を持っていただいたこと、望外の喜びです」
テントの中には大量の豆やその他の食料が詰まった袋や木箱がところ狭しと並べられていて、
まるで食料庫のような様相だった。リュリュはやはり噂通りの貴族で、ここは彼女の作業場なのだろう。
リュリュは手始めに、己の経緯を説明し出した。
「家を出てからは各地の美食の研究をしてたのですが、その内に世の中のほとんどの人が
美味しいものを食べられないことに気づきまして、それで魔法で代用食を作ることに思い
至ったのです。最初はそれっぽい出来損ないしか作れませんでしたが、修行の末に形に
なったものを作れるようになったんです」
その修行にはタバサが関わっていたのだが、それはベアトリスたちの与り知るところではなかった。
「それからも努力を積み重ねて……今では、豆からこのような代用肉を作れるようにまでなりました」
リュリュが指した作業台の上に乗っている物を見やったベアトリスたち四人は、そろって驚愕した。
「えッ!? これが『錬金』で作ったお肉なの!?」
それはどの角度から見ても、万人に聞いても全員の答えが一致するであろう、紛れもない
牛肉だった。生肉をさほど見たことがないベアトリスたちでも、そうとしか言いようのない
代物であった。
「こ、これが本当に豆から作ったものなの!?」
「完璧な出来ですよ、ベアトリス殿下!」
「信じられないッ!」
想像をはるかに超える出来栄えに衝撃を受ける四人。
「実際に『錬金』するところを実演致しましょうか」
リュリュは新たに豆をまな板に乗せ、呪文を唱えて『錬金』を掛けた。果たして豆は、
先ほどのものと同じ肉に変化した。
「す、すごい……!」
ベアトリスたちは口が開きっぱなしになった。学院で土系統の授業を担当するシュヴルーズも、
リュリュの『錬金』の見事さには帽子を脱ぐことだろう。
ベアトリスらは思わず拍手までしていた。
「ありがとうございます。この『錬金』の技を、実家が雇った他のメイジの方々に伝えたことで、
実家はすっかり代用食の販売を副業にしてます」
「この『錬金』、わたしにも出来るようになるでしょうか!?」
ツインテール娘が興味を示して尋ねたが、
「ええ、もちろん。ただそのためには、断食をして食のありがたみを心の底からご理解いただくまで
飢えてもらうところから始めていただきますが」
「……やっぱり、遠慮しますわ……」
リュリュの返答にげんなりした。さすがにそこまでして技を身につけようとは思えなかった。
「見事な『錬金』だったけれど、そのためにこんなに大きなテントが必要なの?」
ふとベアトリスが気になって尋ねかけると、リュリュは次のように返答した。
「ああいえ、ここで行ってるのは『錬金』による代用食の生成だけではありません」
「と言うと?」
「実際にご覧になっていただいた方が早いですね。どうぞこちらへ」
リュリュが四人を連れて、仕切りのカーテンを開いた。その奥にあったのは……。
「これは……ブドウ畑?」
テントの中に木々が並んでいて、その木の一本一本にブドウの果実がたわわに実っていた。
天井の布は開閉するようになっていて、太陽光を取り込める手の込んだ仕掛けが施されている。
「へぇ。農業までやってるのね」
リュリュは肯定するも、その次に信じられないようなことを言った。
「でも果実と枝は確かにブドウですが、幹はこの地に元々生えてた別の種類の木なんですよ」
「……えぇぇッ!?」
またも驚愕させられるベアトリスたち。
「う、嘘でしょう!? 違う木に、枝だけくっつけて、果実が育つなんてことッ!」
「『接ぎ木』と言いまして、植物同士の組織を馴染ませれば、違う木に接ぎ合わせても問題なく
果実が出来るんです。本当は近い種類でないと上手く行かないのですが、研究と実験の結果、
水の魔法を用いることで完全に異なる種類の樹木同士での接ぎ木に成功しました。やりように
よっては育成期間の短縮も出来るので、この技術が広まれば世界中でワインの生産量や果物の
収穫量が格段に増加することでしょう」
ハルケギニアでは接ぎ木の概念はまだ確立されていなかった。当然初めて知った知識と、
それを編み出して実用化しているリュリュの仕事に、ベアトリスたちは最早声もない。
リュリュは更に別のスペースに案内する。そこは麦畑になっていた。
「ここの畑の土壌は、あえて痩せた土を使用してます」
「痩せた土って……麦がいっぱいに生えてるんだけど……」
「砂漠のような過酷な環境下でも成長する麦を作る実験です。やがては如何なる作物も、
場所を選ばずに栽培できるようにすることを目標にしてます。わたしの夢は世界中の人の
元に配れるほどの量の食料を作れるようにして、誰もが美味しいものを食べられるように
することなんです」
既に品種改良の領域。リュリュのスケールの大きさに、ベアトリスたちはすっかりと
呑み込まれていた。よもやこれほどの大事業を手掛けていたとは、ここに来るまでは想像も
していなかった。
ポニーテール娘が興奮した声を上げる。
「すごすぎます! ミス・リュリュ、あなたは天才ですわ!」
称賛するも、リュリュはどういう訳か苦笑した。
「いえ、偉そうに説明しましたが、接ぎ木以降のことはわたしの発想ではないんです。ある方から
知恵と技術を貸してもらいまして」
「あら、協力者がいるのね」
自分たちの背後の仕切りの向こうから物音と気配がしたので、ツインテール娘はそちらへ振り返った。
「その方って、こちらにいらっしゃるんですか?」
「あッ! ちょっと待って下さい……!」
リュリュの制止も待たずに、ツインテール娘は勝手にカーテンを開けた。すると彼女たちの目に
飛び込んできたのは、
「ファントーンッ!」
オレンジ色の身体、突き出た目と人を丸呑みに出来そうなほど巨大な口を持った怪人の姿だった!
「きゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
―――――――――――――――――――――――ッッ!!!?」
度肝を抜かれたベアトリスたちは、恐怖に襲われて大絶叫を発した。
怪人は数え切れないほどの歯が並んだ口を開く。すわ食らいついてくるとベアトリスたちは
震え上がったが、
『運命の俺達はひとつきりの傷だらけでシュートを深海に落とします』
怪人が全く意味不明のことを口走ったので、違う意味で硬直してしまった。
「……?」
頭の上に?マークが浮かんでいると、怪人は己の喉元をトントン叩いた。そして言う。
『いやぁ~えらいすまんなぁお嬢ちゃんたち! どうもここんところ、翻訳機の調子が悪ぅてな!
せやけどわては宇宙なまりが強いさかい、訳せるもんがなかなかないんや。まぁ堪忍してや!』
翻訳してもかなりなまっている台詞に、ベアトリスたちは呆気にとられるばかり。
「あ、あの、ミス・リュリュ……こちらの方? はどなたですか……?」
緑髪娘がリュリュに尋ねると、リュリュは怪人の隣に回りながらベアトリスたちに謝った。
「すみません、驚かせてしまいまして。こちらはわたしの夢に協力して下さってる、グルメン博士です」
『ファントン星人グルメンっちゅうもんや。よろしゅうおま』
ベアトリスらはしばし呆然としていたものの、我に返ったベアトリスがファントン星人
グルメンなる者を指差した。
「こ、この亜人、噂に聞くウチュウ人ではないの!? ということは、侵略者ではないのかしら!?」
再度怯えるベアトリスたちだが、グルメンは弁明する。
『確かにわては宇宙人でっせ。けど侵略するつもりなんてこれっぽっちもありまへんわ。
わては研究のために来ただけやで。侵略者はとにかく目立ちよるからなぁ。すぐ同じに
見られて、ほんに迷惑しとりますわ』
「わたしも初めて博士と会った時にはびっくりして腰を抜かしましたけど、悪い人ではないことは
保証しますよ。何を隠そうこの実験農場が、博士のお力添えの賜物なんです」
「そ、そうなの……」
ひとまず適当なところに腰を落ち着かせたベアトリスたちは、グルメンから彼の話を伺う。
『わてらの種族は大食らいでな、慢性的な食料不足に悩んどるんや。そんであちこちの星に
食べもんを探しとってな、わても色んな星の食料の研究を生業にしとるんや。そんでハルケギニアに
来て、このリュリュはんと出会ってな、住む世界は違えど同じ志を持っとるっちゅうことに感動して、
一緒に研究をしとるって訳ですわ』
「博士には本当にお世話になってます。博士なしには、わたしは自分の夢にここまで近づけませんでした」
『わてもリュリュはんの魔法には助けられとるでぇ。その力を再現できるようになれば、
ファントン星の食料問題もぐっと解決に近づくわ。わてもリュリュはんに会えて、ほんに
良かったと思っとるよ!』
「まぁ、博士ったらお上手ですね」
二人で盛り上がっているリュリュとグルメンをながめて、取り巻き娘たちがヒソヒソと
ベアトリスに囁きかけた。
「ベアトリス殿下、どうします……? あのウチュウ人のこと、トリステイン王宮に通報しますか?」
「うーん……でも、確かに悪いことはしてないみたいだし……」
「でもウチュウ人ですよ」
ツインテール娘がそう言うと、ベアトリスは若干達観した目で返した。
「けれど、自分たちの夢のために頑張ってるあのお二方の姿勢……まるでティファニアみたい
じゃない?」
「あッ……言われてみれば」
「見た目は全然違いますけどね……」
内心尊敬の念も抱いているティファニアのことを思い出すと、取り巻き娘たちもグルメンに
対しての警戒心は薄れた。
「二人のやってることは、実に見上げたものだわ。わたしたちが変な茶々を入れるのはよしましょう」
「そうですね……」
「さすが殿下ですわ!」
ベアトリスたちはリュリュとグルメンとの話に戻り、リュリュがベアトリスたちに打診する。
「そろそろお昼の時間ですし、せっかくですから皆さん、わたしたちの作った食品を召し上がって
いきませんか? 貴族の方のお口に合うかはまだ不安ですが……」
「いえ、心配しないで。ありがたくご馳走になるわ」
「本当ですか!? それではお待ち下さい、すぐにご用意しますから!」
リュリュは俄然張り切って厨房に向かっていく。ベアトリスたちは微笑んで彼女の背中を見送った。
噂の代用食品を作っているメイジがいるという場所まで飛んでいった。そこは学院から南、
トリステインとガリアの国境付近の平原だった。
それらしい場所はすぐに見つかった。建物らしい建物のない平原のど真ん中に、やたら大きくて
広いテントが張ってあったのだ。
「どうやらここで代用食を作ってるそうです。このテントの大きさ、工場といったところですかね」
テントの入り口の前に並んだベアトリス一行。ポニーテール娘がそう言う。
「確かに噂通り、儲けていそうね。今いるかしら」
「ごめんくださーい! 誰かいらっしゃいますかー?」
緑髪娘が声を張り上げて呼びかけると、テントの中から人の足音がこちらに近づいてきた。
「はーい。行商人さんですかー?」
入り口の布を開いて顔を覗かせたのは、成人するかしまいかという年頃の少女。化粧っ気が
まるでないのでベアトリスたちは一瞬平民の召使いかと思ったが、右手には杖を握っていた。
自己紹介するベアトリス。
「わたしはクルデンホルフ大公国公女、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ。
こちらに魔法で食品を加工している珍しいメイジがいると聞いて、後学のために見学させて
もらいに来たわ。あなたがそうなのかしら?」
「まぁ、そうですか! クルデンホルフといえば、あのトリステインからの独立国の……。
はい、わたしがそうです。リュリュと申します」
リュリュと名乗った少女に、ベアトリスたちは意外に感じた。平民向けの食品を作っている
奇特な貴族というから、コルベールのような歳のいった学者タイプの人間を想像していたのだ。
驚きは表情に出ていたようで、リュリュは苦笑した。
「あはは、皆さんそんな顔をします。どうして君のような若い子が、ともよく聞かれますよ。
でもわたしはこれでも美食家を自負してまして、その嗜好が高じて自分で作る側になったんです」
自身の紹介をしたリュリュは、ベアトリスたちを大きなテントの中へ招く。
「入り口で立ち話も何ですから、どうぞ中へお入り下さい」
「忙しいところ、お邪魔するわね」
「いえ。わたしの活動を他国のお姫さまに興味を持っていただいたこと、望外の喜びです」
テントの中には大量の豆やその他の食料が詰まった袋や木箱がところ狭しと並べられていて、
まるで食料庫のような様相だった。リュリュはやはり噂通りの貴族で、ここは彼女の作業場なのだろう。
リュリュは手始めに、己の経緯を説明し出した。
「家を出てからは各地の美食の研究をしてたのですが、その内に世の中のほとんどの人が
美味しいものを食べられないことに気づきまして、それで魔法で代用食を作ることに思い
至ったのです。最初はそれっぽい出来損ないしか作れませんでしたが、修行の末に形に
なったものを作れるようになったんです」
その修行にはタバサが関わっていたのだが、それはベアトリスたちの与り知るところではなかった。
「それからも努力を積み重ねて……今では、豆からこのような代用肉を作れるようにまでなりました」
リュリュが指した作業台の上に乗っている物を見やったベアトリスたち四人は、そろって驚愕した。
「えッ!? これが『錬金』で作ったお肉なの!?」
それはどの角度から見ても、万人に聞いても全員の答えが一致するであろう、紛れもない
牛肉だった。生肉をさほど見たことがないベアトリスたちでも、そうとしか言いようのない
代物であった。
「こ、これが本当に豆から作ったものなの!?」
「完璧な出来ですよ、ベアトリス殿下!」
「信じられないッ!」
想像をはるかに超える出来栄えに衝撃を受ける四人。
「実際に『錬金』するところを実演致しましょうか」
リュリュは新たに豆をまな板に乗せ、呪文を唱えて『錬金』を掛けた。果たして豆は、
先ほどのものと同じ肉に変化した。
「す、すごい……!」
ベアトリスたちは口が開きっぱなしになった。学院で土系統の授業を担当するシュヴルーズも、
リュリュの『錬金』の見事さには帽子を脱ぐことだろう。
ベアトリスらは思わず拍手までしていた。
「ありがとうございます。この『錬金』の技を、実家が雇った他のメイジの方々に伝えたことで、
実家はすっかり代用食の販売を副業にしてます」
「この『錬金』、わたしにも出来るようになるでしょうか!?」
ツインテール娘が興味を示して尋ねたが、
「ええ、もちろん。ただそのためには、断食をして食のありがたみを心の底からご理解いただくまで
飢えてもらうところから始めていただきますが」
「……やっぱり、遠慮しますわ……」
リュリュの返答にげんなりした。さすがにそこまでして技を身につけようとは思えなかった。
「見事な『錬金』だったけれど、そのためにこんなに大きなテントが必要なの?」
ふとベアトリスが気になって尋ねかけると、リュリュは次のように返答した。
「ああいえ、ここで行ってるのは『錬金』による代用食の生成だけではありません」
「と言うと?」
「実際にご覧になっていただいた方が早いですね。どうぞこちらへ」
リュリュが四人を連れて、仕切りのカーテンを開いた。その奥にあったのは……。
「これは……ブドウ畑?」
テントの中に木々が並んでいて、その木の一本一本にブドウの果実がたわわに実っていた。
天井の布は開閉するようになっていて、太陽光を取り込める手の込んだ仕掛けが施されている。
「へぇ。農業までやってるのね」
リュリュは肯定するも、その次に信じられないようなことを言った。
「でも果実と枝は確かにブドウですが、幹はこの地に元々生えてた別の種類の木なんですよ」
「……えぇぇッ!?」
またも驚愕させられるベアトリスたち。
「う、嘘でしょう!? 違う木に、枝だけくっつけて、果実が育つなんてことッ!」
「『接ぎ木』と言いまして、植物同士の組織を馴染ませれば、違う木に接ぎ合わせても問題なく
果実が出来るんです。本当は近い種類でないと上手く行かないのですが、研究と実験の結果、
水の魔法を用いることで完全に異なる種類の樹木同士での接ぎ木に成功しました。やりように
よっては育成期間の短縮も出来るので、この技術が広まれば世界中でワインの生産量や果物の
収穫量が格段に増加することでしょう」
ハルケギニアでは接ぎ木の概念はまだ確立されていなかった。当然初めて知った知識と、
それを編み出して実用化しているリュリュの仕事に、ベアトリスたちは最早声もない。
リュリュは更に別のスペースに案内する。そこは麦畑になっていた。
「ここの畑の土壌は、あえて痩せた土を使用してます」
「痩せた土って……麦がいっぱいに生えてるんだけど……」
「砂漠のような過酷な環境下でも成長する麦を作る実験です。やがては如何なる作物も、
場所を選ばずに栽培できるようにすることを目標にしてます。わたしの夢は世界中の人の
元に配れるほどの量の食料を作れるようにして、誰もが美味しいものを食べられるように
することなんです」
既に品種改良の領域。リュリュのスケールの大きさに、ベアトリスたちはすっかりと
呑み込まれていた。よもやこれほどの大事業を手掛けていたとは、ここに来るまでは想像も
していなかった。
ポニーテール娘が興奮した声を上げる。
「すごすぎます! ミス・リュリュ、あなたは天才ですわ!」
称賛するも、リュリュはどういう訳か苦笑した。
「いえ、偉そうに説明しましたが、接ぎ木以降のことはわたしの発想ではないんです。ある方から
知恵と技術を貸してもらいまして」
「あら、協力者がいるのね」
自分たちの背後の仕切りの向こうから物音と気配がしたので、ツインテール娘はそちらへ振り返った。
「その方って、こちらにいらっしゃるんですか?」
「あッ! ちょっと待って下さい……!」
リュリュの制止も待たずに、ツインテール娘は勝手にカーテンを開けた。すると彼女たちの目に
飛び込んできたのは、
「ファントーンッ!」
オレンジ色の身体、突き出た目と人を丸呑みに出来そうなほど巨大な口を持った怪人の姿だった!
「きゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
―――――――――――――――――――――――ッッ!!!?」
度肝を抜かれたベアトリスたちは、恐怖に襲われて大絶叫を発した。
怪人は数え切れないほどの歯が並んだ口を開く。すわ食らいついてくるとベアトリスたちは
震え上がったが、
『運命の俺達はひとつきりの傷だらけでシュートを深海に落とします』
怪人が全く意味不明のことを口走ったので、違う意味で硬直してしまった。
「……?」
頭の上に?マークが浮かんでいると、怪人は己の喉元をトントン叩いた。そして言う。
『いやぁ~えらいすまんなぁお嬢ちゃんたち! どうもここんところ、翻訳機の調子が悪ぅてな!
せやけどわては宇宙なまりが強いさかい、訳せるもんがなかなかないんや。まぁ堪忍してや!』
翻訳してもかなりなまっている台詞に、ベアトリスたちは呆気にとられるばかり。
「あ、あの、ミス・リュリュ……こちらの方? はどなたですか……?」
緑髪娘がリュリュに尋ねると、リュリュは怪人の隣に回りながらベアトリスたちに謝った。
「すみません、驚かせてしまいまして。こちらはわたしの夢に協力して下さってる、グルメン博士です」
『ファントン星人グルメンっちゅうもんや。よろしゅうおま』
ベアトリスらはしばし呆然としていたものの、我に返ったベアトリスがファントン星人
グルメンなる者を指差した。
「こ、この亜人、噂に聞くウチュウ人ではないの!? ということは、侵略者ではないのかしら!?」
再度怯えるベアトリスたちだが、グルメンは弁明する。
『確かにわては宇宙人でっせ。けど侵略するつもりなんてこれっぽっちもありまへんわ。
わては研究のために来ただけやで。侵略者はとにかく目立ちよるからなぁ。すぐ同じに
見られて、ほんに迷惑しとりますわ』
「わたしも初めて博士と会った時にはびっくりして腰を抜かしましたけど、悪い人ではないことは
保証しますよ。何を隠そうこの実験農場が、博士のお力添えの賜物なんです」
「そ、そうなの……」
ひとまず適当なところに腰を落ち着かせたベアトリスたちは、グルメンから彼の話を伺う。
『わてらの種族は大食らいでな、慢性的な食料不足に悩んどるんや。そんであちこちの星に
食べもんを探しとってな、わても色んな星の食料の研究を生業にしとるんや。そんでハルケギニアに
来て、このリュリュはんと出会ってな、住む世界は違えど同じ志を持っとるっちゅうことに感動して、
一緒に研究をしとるって訳ですわ』
「博士には本当にお世話になってます。博士なしには、わたしは自分の夢にここまで近づけませんでした」
『わてもリュリュはんの魔法には助けられとるでぇ。その力を再現できるようになれば、
ファントン星の食料問題もぐっと解決に近づくわ。わてもリュリュはんに会えて、ほんに
良かったと思っとるよ!』
「まぁ、博士ったらお上手ですね」
二人で盛り上がっているリュリュとグルメンをながめて、取り巻き娘たちがヒソヒソと
ベアトリスに囁きかけた。
「ベアトリス殿下、どうします……? あのウチュウ人のこと、トリステイン王宮に通報しますか?」
「うーん……でも、確かに悪いことはしてないみたいだし……」
「でもウチュウ人ですよ」
ツインテール娘がそう言うと、ベアトリスは若干達観した目で返した。
「けれど、自分たちの夢のために頑張ってるあのお二方の姿勢……まるでティファニアみたい
じゃない?」
「あッ……言われてみれば」
「見た目は全然違いますけどね……」
内心尊敬の念も抱いているティファニアのことを思い出すと、取り巻き娘たちもグルメンに
対しての警戒心は薄れた。
「二人のやってることは、実に見上げたものだわ。わたしたちが変な茶々を入れるのはよしましょう」
「そうですね……」
「さすが殿下ですわ!」
ベアトリスたちはリュリュとグルメンとの話に戻り、リュリュがベアトリスたちに打診する。
「そろそろお昼の時間ですし、せっかくですから皆さん、わたしたちの作った食品を召し上がって
いきませんか? 貴族の方のお口に合うかはまだ不安ですが……」
「いえ、心配しないで。ありがたくご馳走になるわ」
「本当ですか!? それではお待ち下さい、すぐにご用意しますから!」
リュリュは俄然張り切って厨房に向かっていく。ベアトリスたちは微笑んで彼女の背中を見送った。