あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ウルトラ5番目の使い魔、第三部-46


 第46話
 深淵への出発

 深海竜 ディプラス 登場!


「一度潜れば、もう二度と浮かんでくることはできない」
 コルベールから告げられた残酷な真実は、それを聞いていた者たちを例外なく絶句させた。
 未完成の東方号。それであと十二時間以内にラグドリアン湖の底へと辿りつくためには、潜るため以外の全て、乗り込む人間の命すらも捨てなくてはいけないのだという。
 定員は六名。その六名は、作戦成功と引き換えに確実に命はなくなる。
 コルベールは、この方法だけは言いたくなかったというふうに、説明を終えるとうつむいて口をつぐんでしまった。この作戦では必ず犠牲が出てしまう。気の優しい彼は決してこれは使いたくなかったのだろう。
 が、ほかに手段があるかといえば否だ。あったとしても準備をしている時間がない。
 その、あまりに悲壮な雰囲気に、ようやく少し気持ちを落ち着かせたギムリが口元を若干引きつらせながら言った。
「やっ、やだなあミスタ・コルベール。そんな大げさな、おどかしっこなしですよ」
「私が冗談でこんなことを言うと思うかね。不完全な状態の東方号でラグドリアン湖の底まで行こうとするなら、もはや捨て身になるしかないのだよ。ほかにいい方法があるなら、私が教えてほしいくらいさ」
 コルベールにしては珍しく投げやりな語りぶりが、彼の苦悩が真実であるということをなにより雄弁に物語っていた。
 なにかを成し遂げるのに、時間をかけて入念な準備をするより大事なことはない。勉強をせずに受験に受かる奴はいないし、食料や防寒具を持たずに冬山登山に望む奴は遭難して死ぬだけだ。
 まして、今回のラグドリアン湖の底へはハルケギニアの何人も成し遂げたことのない前代未聞の冒険なのだ。準備が完璧だったとしても、成功の見込みが高いわけではない。まして帰路というのは行きよりも過酷なものであることもあり、著名な冒険家や登山家が、見事に目的地にたどり着きながらも帰り道で力尽きてしまった例は少なくないのだ。
 だが反面、六人の命を犠牲にすれば目的は達成できてハルケギニアは救われる。ならば、自分たちのやるべきことは……皆が押し黙る中で、ギーシュが意を決して声をあげた。
「ようし、そういうことならぼくが行こう!」
「ギーシュ!?」
 バラの杖を高々と掲げて名乗りをあげたギーシュに、皆の視線が集まった。
「ハルケギニアが滅んではぼくらの命があったって何の意味も無い。元よりトリステイン貴族に生まれたときより、この命は女王陛下にささげると決まっているんだ。やるしかないなら、やるだけじゃないか」
 決意を持ったギーシュの叫びに、ギムリやレイナールたちも、ギーシュの言うとおりだとうなづく。しかし、確実に死ぬとわかっている旅に出ようとするギーシュを、モンモランシーが蒼白になって止めようとした。
「待ってギーシュ、先生の話を聞いてたの? 絶対に生きて帰れないのよ。ラグドリアン湖の底で、溺れ死んじゃうのよ!」
「わかってるさ、モンモランシー。ぼくだって死にたいわけじゃないよ。けど、命を惜しまず名を惜しむのが男の責務……いやいや、そんなんじゃないな。モンモランシー、ぼくは君を守りたいんだ。ぼくがこの世で何が一番つらいかって、愛しい君が傷つくことさ。だから頼む、ぼくに君を守らせてくれ」
「ギーシュ、ばか! じゃあわたしにとって、あなたを失うことが何よりつらいのが何でわからないの。怪我したら治してあげられる。けど、死んだらもうどうしようもないのよ!」
「すまない。けど、他にどうしようもないんだ。君への愛に殉じられるなら、ぼくには怖いものは無い。だから頼むよ、笑って見送っておくれ」
 ギーシュの言葉にうわついたものはなく、真剣そのものであった。水精霊騎士隊の少年たちも、惚れたガールフレンドのためならばとギーシュに続こうとしている。
 だが、大人たちにとっては自分よりもずっと若い者たちが死にに行こうとしている様が納得できるわけがない。けれどもコルベールは代案を出すことは出来ず、銃士隊の面々はメイジではないために代わりに行くと言えないために止めることができなかった。そしてファーティマは、まるで観察しているかのようにじっと見守るのみで、介入はしてこない。
 そんなときだった。話を見守っていたダンが、ギーシュたちに厳しく言ったのだ。
「待つんだ。君たちの気持ちはわかるが、やけを起こしてはいかん」
「ミスタ・ダン!? そんな、ぼくらはやけなんて起こしていません」
 しかしダンはギーシュの抗議にもひるまずに彼らに向かって言う。
「いいや、やけだ。君たちは、もう手段はないと思い込んでいるが、先生に頼るばかりで君たちは限界まで知恵をしぼったかね? 君たちは先生とは違う人生を歩んできた違う人間だ。なら、先生とは違う答えを思いつくこともできるはずだ。確かに時間はない。だが焦って結論を急いでもダメだよ」
 うっ、とギーシュたちは返答に詰まった。確かに、コルベールがもう手立てはないと言ったところで、自分たちは考えるのをやめてしまっていた。
「どうしても手段がないというなら、そのときは私が湖に潜ろう。残りの念力を振り絞れば、片道は持つかもしれん。なにより私はこれでも君たちの千倍は生きている。命を捨てる役には君たちより適任だ」
「そんな! 違う世界から来ているあなたにそこまでさせてしまったら、この世界のぼくらの面目が立ちません!」
「なら、自殺ではない作戦をもう少し考えてみなさい。人間にとって最後の武器は、勇気と、そして知恵であることを忘れてはいかん」
 ダンの言葉は、作戦決行に固まりかけていた少年たちの頭を冷やさせることに成功した。おかげで、モンモランシーたちはほっと胸をなでおろす。
 だが安心はできない。代替案が出なければ、結局特攻しかなくなってしまうのは変わらないからだ。
 気を取り直したレイナールが、改めてコルベールに尋ねた。
「それで先生。他に何か……いや、この言い方は不適切ですね。可能不可能は置いておいて、何の条件を満たすことができたら生還が可能になるんですか?」
 さすがは秀才型のレイナールであった。アプローチを変えて、再検証をできる方向へと誘導したことでコルベールも考え直して答えた。
「潜水と浮上だけなら、元からある機能でなんとかなる。もう一度話すが、問題は人間が乗る部分を中から魔法で補強し続けなければ水圧につぶされてしまうけれども、片道分だけで空気とメイジの精神力が尽きてしまうことだ」
 なるほど、と皆はそれぞれ考えた。
 空気と精神力……それさえなんとかなれば、生還の可能性もある。
 まずは空気だ。酸素ボンベなどないこの世界で、積んでいける空気の量は限られている。が、息を止めていけるわけがないし、息をしないでも大丈夫な魔法なんてないし……いや、待てよ。人間の魔法にはなくても。
「そうだ! 前にミス・ルクシャナから聞いたことがあるけど、エルフの魔法に水中でも呼吸ができるものがあるそうだな。ミス・ファーティマ、あなたもそれができますか?」
 はっと思い出したギムリがそう尋ねると、皆の視線がそれまで黙り続けていたファーティマに注がれた。
「むろん、水軍の士官にとっては基本中の基本だからな」
 おおっ、と喜びの色が流れる。それがあれば、空気の問題は一気に解決できる。
「ただし、効果はそう長くは続かない。かけ直すにしても、わたしの精神力にも限界があることを忘れるな」
「それで十分ですよ。半分は船の中の空気でしのいで、残り半分をその魔法で補えば往復に耐えられますって!」
 ギムリはおろか、銃士隊や水精霊騎士隊も喜びに染まった。人間だけの力ではだめでも、エルフの力を合わせればなんとかなる。
 しかし、コルベールは苦渋に満ちた表情を変えずに、それでも足りないと告げた。
「いや、無理だ。息が続いたとしても、中から魔法で支えるだけの精神力がなくなっては、結局水圧に押しつぶされてしまうよ」
「水圧……くっそっ、たかが水のくせに……でも、中から支える精神力さえ持てば、なんとかできるんですよね!」
「確かに、だが、そのためには膨大な精神力を持ち合わせたメイジでなくてはならない。前々から最悪の状況を考慮して計算はしてきたが、半分潜ったあたりから補強を始めるとして、ラインクラスではどう頑張ったとしても片道が限界で、往復分を持たせるならばスクウェアクラスの、しかも最上級のメイジが最低でも三人はいるんだ」
 ギーシュやギムリたちの顔に悔しさがにじむ。この場の中でスクウェアクラスに相当するのはキュルケただひとりで、水精霊騎士隊は全員がラインクラス以下である。これでは精神力が持たずに、危険深度を突破できない。
 かといって、今からスクウェアメイジを呼びに行っている余裕は無い。第一国中の名だたるメイジはトリスタニアの防衛戦に集まっていて、戦場を突っ切らなくては呼んでこられないのだ。

 あとふたり……スクウェアメイジがいてくれたら、生還の望みはつながる。せめてここにエレオノールとカトレアがいてくれればと思っても、ふたりともカリーヌとともにトリスタニアで戦っている。
 なら、誰か近くにスクウェアメイジの知り合いはいないのか? そんな都合のいい知り合いがいれば誰も苦労しない。

 だが、そうして再び思案が暗礁に乗り上げかけたときだった。
「どうやら、皆さんお困りのようだね」
 突然響いた聞きなれない子供の声に皆が振り向く、見ると、東方号のマストの上から三人の男女が飛び降りてくる。
 誰だ? この乱入者に、皆は相手の正体を知ろうと身構える。銃士隊、水精霊騎士隊の面々には、記憶に一致する者はいなかったが、その中のひとりにベアトリスとエーコたちは見覚えがあった。
「ジャネット!?」
「はーい、お姫さまお久しぶり」
 派手なドレスを着た人を食った笑みを浮かべる少女は、ハルケギニア広しといえども二人といるまい。以前、水妖精騎士団と空中装甲騎士隊の争いに乱入して好き放題し、ベアトリスが即決でスカウトしたジャネットがそこにいた。
「あなた、どうしたの? 話し合いがあるからって出て行って、しばらく戻ってこなかったけど」
「ごめんなさい、こっちにもいろいろと事情があったのよ。だけどちゃんと、こうしてお兄様たちを連れてきたから許して」
 わざとらしくウインクして答えたジャネットを見て、ベアトリスはやれやれといったふうに呆れた。
 そう、ガリア北花壇騎士団に加担して、非合法な行為を金で請け負う元素の兄弟。その末娘のジャネットが、兄のドゥドゥーとダミアンを連れて戻ってきたのだ。
 ベアトリスは、あっけにとられている銃士隊と水精霊騎士隊に事情を話し、一同は半信半疑ながらも警戒を緩めた。
 一方、顔見知りはもう一組。ドゥドゥーはコルベールが自分を見てどう反応するかと、内心少し期待してコルベールに向けて薄笑いを向けたりしたのだが、コルベールの反応は意外なものだった。
「おや君は? ご無沙汰してるね。元気そうでなによりだ」
「はぁ、ぼくの顔を見ても顔色ひとつ変えないとは驚きだね。これじゃ怒る気にもなれないよ、まったく」
 覇気を素通りさせてしまわれて、ドゥドゥーはやってられないよとばかりにため息をついた。うまくすればリベンジマッチをやれるかと思っていたけど、これでは望みは薄そうだ。こちらから仕掛けるのはダミアンに厳禁されているので、つまらないったらありゃしない。
 そして、緊張感のないふたりを従えながら、元素の兄弟の長男であるダミアンが悠然とベアトリスの前に歩み出てきた。
「はじめまして、ミス・クルデンホルフ。先日は僕の妹のジャネットがお世話になったようで、ありがとう。後のもう一人は弟のドゥドゥー、そして僕が元素の兄弟の長男、ダミアンだ。以後、よろしく」
「あっ、は、はい、よろしく」
 見ため十歳くらいの少年に大人びたあいさつをされて、ベアトリスは思わずうなづき返してしまった。
 エーコたちやギーシュたちは、なんだこの偉そうな子供は? とばかりにダミアンを見つめている。しかし、銃士隊の反応は違った。
「全員構えろ! 姫さま、お下がりください」
「な、なんなのよ!?」
 突然剣を抜いて自分の前に立ちふさがった銃士隊の一同に、ベアトリスたちやギーシュたちもあっけにとられた。しかしダミアンの表情は余裕であり、銃士隊は緊張で汗すら流している。
 なにがなんなのだ? ベアトリスは自分に背を向けながら剣を構え続ける銃士隊の隊員に向かって、元素の兄弟とはなんなのかと尋ねた。
「元素の兄弟、ガリアを中心に活動していると聞く、裏社会では名の知られた殺し屋集団です」
「こ、殺し屋!?」
 驚いてベアトリスは思わず後ずさった。ジャネットの実力から、ただものではないにしても精々傭兵あたりだろうと思っていたが、まさかそんな。
 だがダミアンは気にした様子も無く言う。
「へえ、さすが名にしおう銃士隊の方々だ。裏社会のことについてもなかなか詳しいようだね。でも、殺し屋集団とはひどい言い草だなあ、僕らは殺し屋じゃなくて殺しもするだけさ。せめて何でも屋と呼んでくれよ」
 悠然とした様子でダミアンは肩をすくめて見せた。銃士隊の勇士たちに殺気立って剣を向けられているというのに、まるで焦った様子はない。
 しかし、ジャネットの実力を見知っているベアトリスたちはまだしも、ギーシュたちは目の前の自分たちと同じくらいの少年少女や、まして十歳ばかりにしか見えない子供がそんなすごい殺し屋なのだと言われてもピンとこない。
「まあまあお姉さま方、そんなにピリピリしないでも。相手はこんな子供じゃないですか」
「馬鹿! うかつに近寄るんじゃない」
 とことことダミアンに寄っていったギーシュに銃士隊員が怒鳴るが、ギーシュは完全に相手を子供と見くびっているようで、警戒のかけらもなくいつものきざったらしい態度をとっている。
「やあ、騒々しくしてすまないね。このお姉さんたちは怒りっぽくていけない。君たちがその、なんとかの兄弟なんてすごい殺し屋なんて冗談を真に受けちゃってさあ」
「へあ、お兄さんは中々話がわかりそうだね。君とはうまくやっていけるような気がするよ、よろしくね」
「ああよろしく、困ったことがあったら何でもこのぼくに相談してくれたまえ」
 かっこうつけているギーシュは、ダミアンの無邪気そうな笑みの中の冷め切った目に気づいていない。相手をなめきっているのと、この場を借りてベアトリスに売り込みをしようという魂胆で頭がいっぱいなのだ。
 とことん、かっこうつけられる場面を見つけたらかっこうつけずにはいられない、という根っこの部分は変わっていない。そこが愛すべきところでもあるのだが、今回は相手が悪かった。
「ところでお兄さん、悪いけど僕はミス・クルデンホルフに大事な話があるんだよね。ちょっとどいてもらえたらうれしいな」
「こらこら、ぼくらは今大事な相談の真っ最中なんだ。そういう難しい話は後ろのお兄さんたちに任せて、少し待っていてもらえるかな」
「ふう、やれやれ……人の話を聞いてなかったのかい? 僕が長男だって言っただろうに。まあいいさ、今日はビジネスのほうが大事だからね。君にはそれをくれてあげるから黙っていてくれないか? ミスタ・グラモン」
 えっ? と、ギーシュはダミアンの言ったことの意味が理解できずに戸惑った。くれてやるって、何のことだ? だが、青ざめた顔でギムリが叫んできた言葉で、ようやくギーシュも気がつくことができた。
「ギーシュ! お、お前の服の左胸だ!」
「え? ひだ、なんだいこりゃ!?」
 言われたようにギーシュが自分の服を見ると、いつの間にか左胸付近のフリルを貫くようにして、タクト型の杖が突き刺さっていたのだ。
 これは? いったいいつつけられたんだ? いや、それよりも、服に突き刺さった杖は先端を鋭く研ぎ澄ませてある。もし、これがその気になっていたものだったら、まったく気づかないうちに心臓を貫かれていたところだ。
 自分の命が知らないうちにもてあそばれていたと知って愕然とするギーシュ。ダミアンはそんなギーシュを下から見上げつつ、今度は侮蔑を隠さない笑みで告げた。
「君は人柄は悪くないけれども、長生きしたいならもう少し用心深くなったほうがいい。でないと、ただでさえ君の家系は痴情のもつれで恨みを買うことが多いそうじゃないか? その若さで、金も女も必要ない国に行きたくはないだろう。グラモン元帥の四男坊君」
 ギーシュの顔が本格的に青ざめた。この相手は、ぼくの身上のことまで詳細に調べ上げている。こいつは、ただの子供なんてとんでもない……こいつは、こいつはプロの。
 蒼白になって立ち尽くすギーシュを、銃士隊のひとりが襟首を掴んで引きずっていき、平手打ちを喰らわせた。
「バカ者! 相手を見た目で判断してはいかんのは戦いの基本だろうが。幼女の姿をしていた吸血鬼のことをもう忘れたか!」
「す、すみません!」
 ギーシュは、エルザとの戦いの教訓を完全に忘れていたことを反省した。
 弁解の余地無く、調子に乗りすぎてしまった。あのときのことは、強く印象に残っているはずなのに、なぜ忘れてしまったのか自分でもわからないくらいに情けない。
 だがこれは、ある意味では仕方がないことである。人間の記憶力というのは不思議なもので、強烈な体験ほど印象に残りにくかったということがたまにある。数々の戦いを特訓で潜り抜けてきたウルトラマンレオも、以前に特訓で克服した内容とほとんど同じ状況になったのに、そのときに身に着けた能力を使うことをすっかり忘れてしまって大苦戦したことがある。
 ダミアンは、叱られるギーシュを横目で見て薄笑いを浮かべていたが、やがてベアトリスのほうを向き直ると、間に銃士隊員を挟みつつ言った。
「さて、本題に入ろうかミス・クルデンホルフ。心配しなくても、君たちに危害を加えるつもりは一切ないから安心してくれ。僕らの目的は、あくまでビジネスさ」
「ビ、ビジネス?」
「そう、聞けばいろいろと人材を集めてるそうじゃないか。さっきそちらのお姉さんが言ったとおり、僕らは主にガリアで活動していたんだけど、最近になってスポンサーが変わってしまってね。これがどうも信用に欠けそうだから、新しいスポンサーを探していたところで、ジャネットからそのへんのことを色々聞いてね。高給を出してくれるって言うから売り込みに来たのさ」
 ベアトリスは、ダミアンの見た目とはまったく違う底知れない実力と冷酷な物言いに気おされていたが、彼らの具体的な目的を聞くと冷静さを取り戻してダミアンに向き合った。
「そう、わたしの下で働きたいってことなのね。そういうことなら、受けてあげましょう」
 堂々とダミアンとの話し合いに打って出たベアトリスに、エーコたちは「姫さま、こいつは危険です」と止めようとするが、ベアトリスは彼女たちを制して言った。
「下がってなさい。もしわたしたちを始末するつもりなら、もっと簡単な状況はいくらでもあるはずだわ。白昼堂々来たということは、本気で話がしたいということよ。なにより、警戒したからって助かるような相手じゃないわ」
 毅然とした態度のベアトリスに、エーコたちは黙らざるを得なかった。その凛々しい姿に、ダミアンも感心した様子を見せる。
「へえ、これはまた大した状況判断力だ。おまけに、人を見る目も悪くない。これは話が早くて助かりそうだ」
「お世辞はいいわ。それで、わたしの元で仕官したいと受け取っていいのね?」
「いやいや、お世辞なんか言ってないよ。この国の貴族の幾人かに当たってみたことはあるけど、見栄は張りたいけど金払いは渋る愚物ばかりでうんざりしていてね。だが、君は違いそうだ。単刀直入に言おう。ジャネットが提示された額で、僕ら兄弟は君の求人に応じることにするよ、返答を聞いてもいいかい?」
「わかったわ、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフの名において、あなたたち元素の兄弟を召抱えます」
 即決。半瞬ほど遅れて、驚きの叫びが場を包み込んだ。
 早い、売り込む側も売られる側も早過ぎる。これにはさすがのジャネットやドゥドゥーも面食らった様子で、「お兄様にしては珍しく値を吊り上げないんですね」と、問いかけるが、ダミアンは「一見の客なら絞れるだけ絞るけど、長く付き合いたい相手なら逆効果だよ。目先の欲に駆られて、雇い主に嫌われたら次の仕事が来なくなる」と答えた。
 一方でエーコたちも、こんな危険人物を抱え込むなんて本気ですかとベアトリスを問い詰めるが、それに対してダミアンとベアトリスはそれぞれ言った。
「おいおい、僕らは別に裏家業が好きでやってるわけじゃない。儲けが一番いいからやってきただけで、ほかに割のいい仕事があれば移るだけさ。なんでも屋だって言っただろう?」
「彼らの実力は、あなたたちもジャネットを見てわかっているでしょう? 確かにリスクは大きそうだけど、こんな買い物は二度とないわ。逆に考えてもみなさいよ、危険な存在は遠くに離すより、近くに囲っていたほうが安全だわ」
 ぐっ、と、エーコたちは返す言葉に詰まった。しかしそれでも、いつ金のために姫様を裏切って牙をむくかわからないと言うと、ダミアンは笑いながら言ったのだ。
「クク、若いのにこれほどの忠臣に恵まれているとは感心したね。確かに、僕らは金のためにはなんでもやるさ。けど、都合よく裏切り続けて世の中を生きていけると思うほど僕らは楽観主義者じゃないよ。報酬の支払えないところや信用のおけないところは遠慮なく切るけど、ちゃんと契約を守ってくれる相手には給金分の働きは必ずするさ。でないと、いくら腕が立ったって誰も仕事をくれなくなるからね」
 仕事を請け負う者として、最低限の礼儀はちゃんと持っているさとうそぶくダミアンに、エーコたちはそれ以上なにも言えなくなってしまった。
 しかし、ドゥドゥーと交戦した経験のあるコルベールはいぶかしげに言う。
「では、君たちは前に仕えていたところには、もう何の義理も立てる気はないということかね?」
「ああ、君にはドゥドゥーが迷惑をかけてしまったらしいね。兄として詫びるよ。けど、あれはロマリアの甘言に乗ったドゥドゥーたちが勝手にやったことで、僕は関与していない。彼らには、僕を通さずに今後依頼を受けないようにときつく言い聞かせておいたから、どうか許してあげてほしい」
 ちらりと横目でダミアンがドゥドゥーとジャネットを睨むと、ふたりは怯えたように肩をすくめた。
 コルベールもそれで異論はないと黙り、ベアトリスは改めてダミアンと向き合った。
「よろしく、元素の兄弟の皆さん。それで、これで全員でいいの?」
「いや、もう一人体の大きいジャックというのがいるけど、別のところで用があってね。僕らは四人兄弟で覚えておいておくれ。おっと、言い忘れていたが、僕の見た目のことは詮索しないでくれ。訳はまだ言えないが、なにかと仕事の役に立つんでね」
 裏世界で生きる人間にとって、子供の姿というのは敵を油断させやすかったりと都合がいいであろうのは、エルザの例を思い出しても皆理解できた。このあたりのことは、触れないのが身のためだろう。
「わかったわ、余計な詮索はやめておきましょう。で、ここからが肝心なんだけど、あなたたちはわたしのために何をしてくれるのかしら?」
 それを聞いて、ダミアンの顔に無邪気とも作り笑いともとれる奇妙な笑みが浮かんだ。
「それはもちろん、なんでもさ。金さえ用意してくれれば、子守りをしろと言われればするし、街ひとつ皆殺しにして来いと言われればやってくる。完璧に、ね」
 笑いながら答えたダミアンと、うなづいたジャネットとドゥドゥーの表情には一点のかげりも無く、本当に殺戮を命じられたら女子供もかまわずに皆殺しにしてくるだろうことは疑いない。少年たちは冷や汗を流しながらつばを呑み込み、銃士隊員たちでさえ額に脂汗を浮かばせている。
 そしてコルベールも、無表情さの中で、ぐっと拳を握り締めてなにかを考え込んでいる。いや、自分の中のなにかをこらえているようにも見えた。
 ベアトリスやエーコたちも、自分たちとは違う裏世界の人間の冷酷さに触れて喉を凍らせてしまっている。が、ジャネットはそんな彼女たちを見渡して務めて優しげに言った。
「もう、お兄さまったら、あんまり脅かしたらかわいそうじゃない。心配しなくても、可愛いあなたたちにそんなひどいことはしないわ。わたしは可愛いものは大切に愛でるタイプなの。だから安心してね」
 確かに、エーコたちは気まぐれとはいえジャネットに助けられている。完全に信頼はできないが、今のところは過剰に恐れる必要もないようだ。エーコたちは顔を見合わせると、少しだけ緊張を解いた。
「そうそう、それでいいのよ。あなたたちに手取り足取り、いろいろ教えてあげるのを楽しみにしてるんだから、仲良くやりましょう」
「ジャネット、そのへんにしておけ。さて、具体的に仕事の話をすれば、君たちは手だれのメイジを求めているようじゃないか。なら、試用もかねて、この二人を使ってくれたまえ」
 えっ? と、ベアトリスたちは思ったが、次の瞬間にはハッとした。
 ジャネットの実力は自分の目で見知ってよくわかっている。確実にスクウェアクラスの、それも相当な使い手だ。兄弟たちも同等以上の実力を持っているとすれば、今の状況でこれほど望む人材はない。
 コルベールに視線を送ると、よろしい、とでもいう風にうなづいた。
 これで、作戦決行に必要な人数のメイジは揃った。ドゥドゥーは、戦いとは関係ない仕事をしなければいけないことに露骨な不満を見せたが、ダミアンがひと睨みすると震えて背筋を伸ばした。
「契約はこれで成立だね。急場みたいだから、契約書とかは後でいいよ。ドゥドゥー、ジャネット、信用はまず最初の仕事が肝心だ。完璧な仕事をこなすようにね」
「はいはい、わかってますよ」
「安心してください、ダミアン兄さま。わたし、この子たちが気に入ってるから、ちゃんと本気で仕事しますわ」
「よろしい。では、ミス・クルデンホルフ、僕はこのあたりで失礼するよ。話の続きは落ち着いてからにしよう」
「えっ? ちょっと待ちなさい。今はとにかく人手が足りないの。あなたにだってやってほしいことがあるわ」
「あいにくだけど、僕のほうにも少し考えがあってね。心配しなくても、君たちの不利益になるようなことはしない。代わりにドゥドゥーとジャネットをしばらく好きなように使ってやってくれ。じゃあ、仕事の話は次は”本人”と頼むよ。バイバイ」
 そう言ってダミアンがパチリと指を鳴らすと、ダミアンの姿は煙のように掻き消えて、代わりに小さな人形が乾いた音を立てて甲板に転がった。
「えっ? なに? ちょっとあなたたち、ダミアンはどこに行ったのよ?」
 慌てたベアトリスが問いかけると、ドゥドゥーは面倒くさそうに人形を指差して答えた。
「それさ、そいつはスキルニルっていって、使った持ち主と同じように変化する魔法人形なのさ。本物のダミアン兄さんは、遠くの別のところにいる。ああ、先に言っとくけど、ぼくらふたりは本物だし、契約はスキルニルが代行したとおりに履行するから心配しないでくれ」
 なっ!? と、その場のほぼ全員が絶句した。
 今までのダミアンは、魔法人形で作られたコピーだったというのか? コピーで、あの存在感と威圧感を出すとは、いったい本物はどれほどだというのか!
 元素の兄弟の底知れない実力に、銃士隊も水精霊騎士隊も戦慄を禁じえなかった。
 まともに戦えば、とてもじゃないが勝てる相手ではない。だが、逆に言えば、味方にすればこれほど心強い存在はない。
 ベアトリスは心を落ち着かせると、コルベールに向かって最後の確認をおこなった。
「ミスタ・コルベール、これであなたの注文する条件は揃えたわ。水の精霊の都へ行き、そして帰ってくることは、できる? できない?」
「可能性は正直、高くはありません。しかし、一縷の望みは生まれました。私の全身全霊をかけて成功させましょう」
 コルベールも覚悟を決めたことで、作戦を阻む要素は一切なくなった。
 そしてベアトリスは、経過を見守り続けていたダンに向き合って言った。
「ダンさん、これでわたしたちは自殺ではない道を作りました。まかせて、もらえますか?」
「わかった、君たちを信じよう。だが、決して命を粗末にしないようにするんだぞ」
 ダンは、正直に言えば若者たちを危険にさらすのは反対だった。だが、彼らは自分たちの世界を守るために、自分たちの力で困難に挑もうとしている。
 かつて、ウルトラセブンはガッツ星人に敗れたときにウルトラ警備隊の必死の働きで救われることができた。ほかにも人間のがんばりでウルトラマンに勝利をもたらした例は数多い。ウルトラマンは希望であるが、希望を掴み取るためには努力によって希望に歩み寄っていくしかないのだ。

 ダンに認められ、作戦はついに具体的な検討段階へと入った。コルベールは全員を見渡して告げる。 
「東方号に乗り込んでいける人数は六人。いや、ミス・ファーティマに水中呼吸の魔法を付与してもらえれば七人か。その中で、まずは私だ。東方号に一番詳しいのは、私だからね」
 次にティラとティアが前に出る。
「わたしたちも、当然ね。東方号のコンピュータを動かせるのは、わたしたちしかいない」
「それに、水の中ならわたしたちの領域だしね。人間よりかは頑丈だし」
 さらに、ドゥドゥーとジャネットのふたり。
「やれやれ、水の底なんて趣味じゃないんだどなあ。まあ、ダミアン兄さんを怒らせたくないし、仕事はきちんとやるよ」
「あら? 仕事はなんでも楽しむ要素を見つけないと。密室に閉じ込められた若い男女とか、ゾクゾクするシチュエーションじゃない? ティラちゃんにティアちゃんも、そのエメラルドグリーンの髪や澄んだ瞳が素敵だわ。これを機にお近づきになりたいわね」 
 不満げと乗り気、だがこのふたりの力はこの作戦に欠かせない。
 ファーティマも、無表情で前に出る。
「わたしも外せないな。わたしの使命は、これを果たすことで完遂される。ここまでやってこれたのも、大いなる意思のお導き。ならば、最後までやり遂げるだけだ」
 そして最後のひとり、キュルケが歩み出た。
「最後は、わたしね」
「ミス・ツェルプストー……」
「止めても無駄ですわよ、ミスタ・コルベール。わたしはスクウェアメイジですし、装置を使うときも、使い方を直接聞いたわたしが適任でしょう。なにより、これはタバサを助け出すためにも重要な行為でもあるのよ。わたしが黙って見ているだけなんて、絶対にありえないわ」
 キュルケの決意の固さに、コルベールもそれ以上言うことはできなかった。
 しかし、これでメンバーは固まった。コルベール、ティラ、ティア、ドゥドゥー、ジャネット、ファーティマ、キュルケ、この七人が東方号に乗り込んで、ラグドリアン湖の底の水の精霊の都を目指す。
 生還の可能性はこれでもまだ乏しい。しかし、今考えられるだけのベストメンバーを揃えることが出来た。不可能を可能にするのは、いつだって人間の力だ。
 また、メンバーに選ばれなかった水精霊騎士隊や銃士隊の面々も、ならば全力でサポートを果たそうと気合を入れている。後は実行あるのみ!

 ところが、全員がこれから出港の作業に取り掛かろうとした瞬間だった。彼らのいる東方号の甲板に、水精霊騎士隊や、誰よりもキュルケにとって忘れられない声が響いたのだ。

「どうやら、手段は決まったようだな」
 突然響いたその声に、全員がいっせいに振り向く。するとそこには、彼らがよく知る青髪の小柄な少女が、大きな杖を持ってたたずんでいたのだ。
「タバサ!?」
 タバサのことを知る全員の顔が驚愕に歪む。
 なぜ? どうしてこんなところにタバサが? 別人? いや、眼鏡の形といい、魔法学院の制服といい、完全にタバサそのものだ。
 だが、ギーシュたちがわけがわからずにあわあわしている横から、シルフィードが真っ先に声をあげた。
「違う! そいつはお姉さまじゃないのね。そっくりだけど、シルフィがお姉さまから感じてた気配がぜんぜん違うのね! ニセモノなのね!」
 タバサの使い魔であるシルフィードが全力で否定すると、皆もいっせいに警戒の姿勢をとった。特に、以前に一度、タバサそっくりの少女に翻弄されたキュルケは警戒心むき出しで杖を突きつけている。
「そういえば、あのときは慌ててて気づけなかったけど、よく見たら人間らしい暖かさをまるで感じないわ。よりによってタバサに化けるなんて、誰だか知らないけど生かしては帰さないわよ!」
 キュルケは怒りを込めて攻撃呪文の詠唱を始めた。だが、殺気立つ彼女たちを抑えて、ファーティマが言ったのだ。
「待て! あれからは、強い精霊の力を感じる。殺気や邪気は感じられない。敵ではないようだ」
 えっ? と、皆がファーティマの言葉に驚いて武器を下げた。
 すると、タバサにそっくりの何者かは、タバサとまったく同じ声でこう言ったのだ。
「この姿をとれば、お前たちも安心するかもと思ったのだがな。武器は不要だ、単なる者たちよ」
 同時に、タバサそっくりの少女の半身が色を失って透明になり、飴のようにぐにゃりと歪んだ。
 これは。この特徴と、こちらを単なる者と呼ぶ姿勢から、キュルケは相手の正体を知った。
「水の精霊……!」
「そうだ、お前とこの姿で会うのは二度目だな」
 タバサの姿で淡々と、水の精霊は言った。
 元素の兄弟も含めて、唖然とする一同。この中には、水の精霊をはじめて見る者も多い。反対に、水の精霊と関係の深いモンモランシーは愕然としてタバサそっくりに変身した水の精霊を見ている。
「信じられないわ。水の精霊が人間の姿を模倣できるのは知ってたけど、ここまで完全に人間そのものになれたなんて」
「個にこだわるお前たちと触れ合うには、よりお前たちに近いほうがいいと考えただけだ。この姿は、我の知るお前たちの仲間の中から、もっとも我に合うものを選んだ結果だ」
「た、確かにタバサは優れた水のメイジだけど……わたしじゃないのか何か腹が立つわね」
 モンモランシーは少しふて腐れた様子を見せたが、キュルケはまだタバサの姿を勝手に利用されたのが気に入らない様子で、憤然として問い詰めた。
「気を使ってくれてどうもありがとう。けど、呼び出されない限りは滅多に姿を現さないあなたが、どうして前にわたしの元に現れたの? そして、今回現れた理由は何?」
「一度目は警告、空の果てから根源的な悪意が迫ってきているのを感じ、お前たちに告げようと思った。結局、さらに巨大な脅威となって、我は今脅かされている。この世界に満ちる魔の力を使い、我はこの世界であれば少しの力を行使できるが、あれと戦えるような力はない。急げ、単なる者たちよ、我が案内しよう」
 そう言うと、水の精霊はタバサそっくりの仕草でラグドリアン湖のほうを指差した。
 水の精霊も脅威を感じ、急げとうながしている。アークボガールが再来すれば、もはや取り返しのつかない事態になるだろう。
 東方号は工事を中断し、代わって出港準備に入った。作業員が退去させられ、何十本ものもやいが解かれる。
「エンジン始動、桟橋を離れるわ。続けて前進微速、目標ラグドリアン湖」
 船体が不安定なので、ゆっくりと東方号は河をさかのぼってラグドリアン湖を目指し始めた。同行する船は、東方号が潜行する際に不要な人員を収容するための小型船一隻のみ。

 残された時間は、あと半日もない。その間に、なんとかM78のある次元に救援を求めることができるのだろうか。
 だが、アークボガールはダンのウルトラ念力によって異空間に足止めされながらも、その邪悪な野望を片時も休ませてはいなかった。
「あと少しだ、あと少しで我は完全に自由になれる。もはや邪魔者はおらん、食って食って食いまくってくれるわ! だが、その前に生きのいい素材は用意しておかねばな。この地に眠る邪悪な魂よ、目を覚まして暴れるがいい。清潔な世界を、味わい深いカオスに変えてしまうのだ!」
 アークボガールの放った時空波が、ラグドリアン湖の底に眠っていた一匹の怪獣を呼び起こした。
 湖底から土砂と岩を吹き上げながら現れる、巨大な海蛇のような怪獣。深海竜ディプラス、水中を自由自在に泳ぐ能力を持つ、極めて凶暴な怪獣だ。
 ディプラスはアークボガールのマイナスエネルギーにあてられたかのように、湖底でむちゃくちゃに暴れ始めた。目に付いた生き物は小魚の群れだろうがなんだろうが無差別に襲いかかり、そのまま湖の中心部へと泳ぎ去っていく。

 東方号は、まだラグドリアン湖で待つ敵を知らない。
 そして、トリスタニアで繰り広げられている戦いも、いつ急変するか予断を許さない。教皇が、この世ならざる力で一気に解決を狙ってくるのも時間の問題でしかないだろう。
 極論すれば、世界の運命はこの数日で決まってしまうと言ってもいい。
 ラグドリアン湖を目指す東方号の船首の上で、タバサを模した水の精霊は、なにかを思い出すようにぽつりとつぶやいた。
「根源的な悪意に対して、人間たちは戦おうとしている。扉の向こうの、我らの同胞の世界の人間たちと同じように……扉の向こうの同胞たちよ、お前たちに我も習おうとしている。もはや開くことはないと思っていたあの扉も、この単なる者たちならば……」


 続く


新着情報

取得中です。