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第百十話「その名は“邪悪”」


ウルトラマンゼロの使い魔
第百十話「その名は“邪悪”」
邪悪生命体ゴーデス 登場



 ガリア王政府にかどわかされたタバサを救うため、ガリア王国への侵入を果たした才人たち一行。
彼らはまず旧オルレアン公邸に赴き、そこでタバサの母がアーハンブラ城へと移されたという情報を得た。
母と娘を分けておく必要はない。才人たちは一路アーハンブラ城を目指すこととなった。ついでに旅路の
中で、イルククゥの正体がタバサの使い魔、シルフィードの変身したものだということも判明した。
 旅芸人に身を扮しながら情報を集めつつ、砂漠に建つアーハンブラ城前にたどり着いた一行。
やはり、タバサがアーハンブラ城に囚われているらしいことも明らかとなった。一層勇んだ
才人たちは、タバサを救出するために城に侵入する作戦を決行したのだった。ここからがこの
旅路の大詰めであった。

 ……そしてその作戦は、現在のところはほぼ完ぺきな形で進んでいた。
「……相変わらずすごい威力ねウェザリー、あなたの魔法は……」
 周りに転がる、城の警備兵たちを見回したルイズが、若干呆気にとられながらそう呼びかけた。
「これが原因で私は、数奇な人生を歩む羽目になったんだけどね」
 ウェザリーは皮肉げな苦笑を浮かべた。
 三百人以上ものガリア兵で警護されていたアーハンブラ城に入り込むために、一行は一計を案じた。
まずは近隣の店から酒を買い占め、兵たちの楽しみを奪う。そこに旅芸人と偽って接触し、酒と娯楽の
売り込みを建前に城の敷地内に足を踏み入れることに成功した。サハラとの国境線上という僻地に、
ろくな説明もない任務のために派遣された兵士たちはよほど楽しみに飢えていたのか、一行をまるで
警戒しないでのこのこ酒宴の席にやってきた。
 そこからはウェザリーの特殊な催眠魔法が猛威を振るった。ルイズたちの踊りの音楽に乗せられた
ウェザリーの歌声を媒介として兵士たち全員に『時間が来たら一斉に眠る』命令が掛けられ、実際
その通りに全員が深い眠りに就かされたのだ。これで兵士は無力化された。
「丸一日は何があっても、それこそどんなに騒いでも目を覚ますことはないわ。今の内に
タバサとその母親を奪取しましょう」
「う~む……一時はこんなにすごい魔法を操る人と敵対してたなんてね。当時の自分に、
よく無事だったと褒めてあげたいね」
「あんたは何もしなかったでしょうが」
 しみじみと語ったギーシュがモンモランシーに突っ込まれた。
「まぁでも確かに、味方になってくれてよかったって思うよ。お陰で作戦がすごく楽じゃないか」
 マリコルヌが気楽な感じにそう言ったのだが、その時、
「待て」
 短いながらも、とても響く制止の声が天守に続く広い階段の先から聞こえてきた。
 一行がハッとなって顔を上げると、階段の上から自分たちを見下ろす一人の男がいた。
すらりとした長身で髪も長く、一見するとひ弱そうにも見える。だが全身から放たれる
プレッシャーは、離れていても分かるくらいはっきりとしていた。
 そして男の耳は、ティファニアと同じように尖っていた。
「わたしはエルフのビダーシャル」
「エルフ……!」
 男、ビダーシャルの「エルフ」という名乗りに、ハルケギニア人たちは一斉に身体が強張った。
ギーシュ、モンモランシー、マリコルヌなどは「ひッ」と短い悲鳴を漏らした。
 エルフは始祖ブリミル降臨の地に居を構えていて、そこに人間を近寄らせない。そのため
ハルケギニア人と長い歴史の中で何度も戦争を行い、その度に人間を大敗せしめていた。
それ故に人間の間で悪魔のように恐ろしい存在と語り継がれていて、ルイズたちも記憶の
奥深くにエルフの恐怖を植えつけられながら育ったのである。
「やっぱり、私の魔法はエルフには効かなかったみたいね……」
 ウェザリーが額に脂汗をにじませながらつぶやいた。彼女の催眠魔法は、効果が通れば
ほぼ無敵だが、通らなければ完全に無力だという致命的な欠点がある。恐らくビダーシャルは、
音に乗せた魔法の効果をシャットアウトできるのだろう。
 ビダーシャルは静かな迫力を乗せて、声を発した。
「お前たちに告ぐ」
「な、何だよ」
「去れ。我は戦いを好まぬ」
「だったらタバサを返せ!」
「タバサ? ああ、あの母子か。それは無理だ。我はその母子を“ここで守る”という約束を
してしまった。渡す訳にはいかぬ」
 才人はどうにか戦いは避けられないものかと、ビダーシャルの説得を試みる。
「約束ってのは、ガリアとか? あんた、ガリアが何やってるのか知ってるのか? あいつら、
どうやってかは知らないけど怪獣を操って暗躍してるんだ! 俺たちはガリアの差し向けてきた
怪獣に襲われた! あんたは、そんなやばい奴らに手を貸してるってことだぞ!」
 しかし、ビダーシャルの様子に変化はなかった。
「そのような戯言を唱えて我を惑わせようとしても無駄だ。エルフはお前たち蛮人とは異なり、
約束は決して破らん」
「駄目か……!」
 そもそも信じていないようだ。やはり、ガリアが怪獣を操っているという証拠がなければ
他人には信用してもらえそうにない。
 ルイズは才人の袖を引っ張る。
「サイト、一旦あいつの目の届かないところへ退きましょう!」
「けど!」
 退いたらタバサが、と才人は言外に伝えた。
「分かってるわ。でも今戦いになるのはまずい。ギーシュたちがいるのよ。エルフの魔法は、
何を引き起こすのか分からないわ」
 ハッとなる才人。確かに、あのエルフの実力は底が知れないことが、シルフィードがもたらした
情報と旧オルレアン公邸の状況から既に判明していた。邸の戦闘跡にはタバサの魔法の跡しかなく、
ビダーシャルが何をしてタバサを打ち負かしたのかまでも全く掴めなかったのだ。
 ギーシュたちが戦いに巻き込まれたら、命を落とす可能性は高いと言わざるを得ない。
才人はやむなく、皆とともにビダーシャルの目の届かない場所まで下がった。
 ビダーシャルの気配への注意を途切れさせないようにしながら、作戦会議。ギーシュが
おろおろとした声を出す。
「ど、どうするんだね? あのエルフをかわすいい手段はないものだろうか」
「とてもそんなことが出来るような相手には見えないわよ……」
 声を震わせながら反論するモンモランシー。
「こ、ここは一度退却して、機会を窺うというのはどうだい?」
「馬鹿! ここで逃げたって、状況が悪くなるだけだ!」
 臆病風に吹かれたマリコルヌの提案を才人がばっさり両断した。兵隊を全員眠らせてしまった以上、
日を改めたところで警備が厳重になるだけだ。同じ手も通用しなくなる。ここまで来た以上、何が何でも
タバサを取り返さなくては自分たちの敗北が決まるだろう。
「じゃあ、現実問題どうするってのさ……?」
「……俺がどうにかして倒してくる」
 才人はそう返した。彼とルイズは事前に、ルイズが“虚無”の担い手であることを見抜いていた
キュルケに、エルフをかわすことは恐らく不可能、“伝説”の力でエルフを倒してタバサを救い出して
ほしい、と頭を垂れて頼まれていた。
 ヴァリエールの宿敵のツェルプストー家のキュルケが、家名のプライドを捨ててルイズに
頭を下げたこと、それは彼女のタバサへの思いの強さを如実に表していた。それを断れる
ルイズと才人ではなかった。
「き、危険すぎる! いくら不死身のきみでも、エルフは相手が悪すぎるぞ! きみは知らんだろうが、
エルフの力は恐らくきみの想像を凌駕する! 騎士隊の隊長として、隊員がむざむざ死にに行くのは
認可できん!」
 ギーシュが必死の形相で制止した。その顔には、騎士隊隊長としての責任感だけではない、
友としての心配の色もあった。それはモンモランシー、マリコルヌも同じだった。
 才人は彼らの自分に向ける友情に胸を打たれながらも、こう答えた。
「だけど、誰かがやらなきゃいけないことなんだ。お前たちは俺が奴を引きつけてる間に、
どうにかタバサの元へたどり着ける道筋を探しててくれ!」
 それだけ言い残してギーシュたちの元から飛び出して、斜め前の柱へと駆けていく。
その後を追うルイズ。ギーシュたちはなおも止めようとしたが、キュルケがさえぎった。
「あの二人ならエルフ相手でもやってくれるわ。その“可能性”が、ルイズたちにはあるの。
二人と……あたしを信じて、任せてあげて」
 物陰から物陰へ移りながら、少しずつビダーシャルの待つ階段へと近づいていく才人。
それに追いついたルイズは、才人に呼びかける。
「サイト、ゼロになって!」
「何?」
「ゼロの力なら、エルフにだって負けないわ。エルフは見た目は人間だけど、その能力は
怪獣や宇宙人にも引けを取らない、実質人型の怪獣みたいなものよ。ウルトラマンの力を向ける
相手として、間違えてる相手じゃないわ。タバサを確実に助けるためには、こうするのが一番よ」
 と語るルイズだが、才人は静かに首を横に振った。
「俺だって絶対にタバサを助け出したい。でも、それだけは駄目だ」
「どうして?」
 虚を突かれたルイズに、才人はまっすぐ目を見て告げた。
「エルフをウルトラ戦士が相手するような怪物と認めることは……テファのために出来ない。
あいつに流れる血は両方とも、『人間』の血だと俺たちが言えるようにしなきゃ」
 その言葉に、ルイズは思い切り目を見開いた。才人に言われ、ティファニアの存在を思い出したのだ。
 ハーフエルフの少女、ティファニア。世界を見たいと願いながらも、エルフの特徴を持っている
ために人間の前で素の姿を出すことが出来ず、隠れ住んでいるあの子。とても心優しいのに、耳が
尖っているだけで人に恐れられてしまう彼女。……ここでエルフを“怪物”としてしまえば、次に
ティファニアと会った時に、素直な心で向かい合えなくなってしまうだろう。
 ルイズは己の考えを改めた。
「そうだったわね……。ごめんなさいサイト。あいつはわたしたちが、“人間”としてやっつけましょう」
「ああ!」
 才人とルイズはいよいよ元の場所まで舞い戻ってきた。ビダーシャルはその場から一歩も
動かずに、彼らを待ち受けていた。
「やはり去らぬというのか」
「そうだ。戦ってでもタバサを返してもらうって決めたぜ」
「了承した」
 デルフリンガーを手に握り締めた才人は、ビダーシャルの立ち姿を観察する。
 才人のこれまでの戦いの経験が、ビダーシャルは強いことを教えていた。だが今目の前に立つ
ビダーシャルは、どこからどう見ても隙だらけだ。攻撃を誘っているようにも見えない。この差異は
どういうことだろうか?
「相棒、無駄だ。やめろ」
 デルフリンガーが少し焦った調子で警告したが、才人は駆け出した。
「うぉおおおおおッ!」
 ビダーシャルの手前で跳躍し、剣を振り下ろす……が。
 ぶわッ! とビダーシャルの手前の空気が歪み、剣があっさりと弾き返され、才人も後ろに
吹っ飛ばされた。
「蛮人の戦士よ。お前では、決して我には勝てぬ」
 ルイズが倒れた才人に駆け寄る。
「サイト!」
 苦痛をこらえながら立ち上がった才人は、改めてビダーシャルを見やった。
「何だあいつ……身体の前に空気の壁があるみたいだ……。どうなってんだ」
 デルフリンガーが、苦い声でつぶやく。
「ありゃあ“反射(カウンター)”だ。戦いが嫌いなんて抜かすエルフらしい、厄介で嫌らしい魔法だぜ……」
「反射?」
「あらゆる攻撃、魔法を跳ね返す、えげつねえ先住魔法さ。あのエルフ、この城中の“精霊の力”と
契約しやがったな。なんてえエルフだ」
「先住魔法かよ。水の精霊のアレか」
「覚えとけ相棒。あれが“先住魔法”だ。今までの相手はいわば仲間内の模擬試合みてえなもんさ。
ブリミルがついぞ勝てなかったエルフの先住魔法。本番はこれからだけど、さあて、どうしたもんかね」
 ビダーシャルは両手を振り上げた。
「石に潜む精霊の力よ。我は古き盟約に基づき命令する。礫となりて我に仇なす敵を討て」
 ビダーシャルの左右の段石が勝手に持ち上がり、宙で爆発した。散弾のような石礫がルイズと
才人を襲う。
 才人は剣で受け切ろうとしたが、量が半端ではない。ルイズの前に立ち、受け切れない分は
身体で止める。額に当たった一個が皮膚を切り裂き、血が垂れた。
 倒れそうになる才人を、ルイズは支えた。
「ねえデルフ! 一体どうすりゃいいのよ!」
「どうもこうもねえだろが。もう一人の相棒に頼らないってえなら、お前さんの系統だけが、
あいつをどうにかすることができるんだ」
「でも、どんな魔法も効かないんでしょ! 一体何を唱えりゃいいのよ!」
「お前さんはとっくに呪文をマスターしてるぜ」
「え?」
「“解除”さ。先住魔法を無効化するには、“虚無”の“解除”しかねえ」
「解除ね!」
「でもな……あのエルフはどうやらここいらの精霊の力全てを味方につけてるらしい。それを全部
解除するのは、大事だぜ。お前さん、それだけの“解除”をぶっ放すだけの精神力が溜まってるかね」
 ルイズは一瞬不安になったが、ここで逃げ出す訳にはいかない。才人が、自分の前で剣を
構えているからだ。
 ルイズは、才人が敵に立ち向かい、自分を守っている姿を前にすると、ぐんぐんと精神力が
湧き上がるのだ。
「蛮人よ。無駄な抵抗はやめろ。この城を形作る石たちと、我は既に契約している。この城に宿る
全ての精霊の力は我の味方だ。お前たちでは決して勝てぬ」
 再三忠告するビダーシャル。才人はそれに歯を剥き出しにした。
「うるせえ、誰が蛮人だよ。俺はお前みたいな、偉そうに余裕を気取った奴が一番嫌いだ」
 ビダーシャルは首を振ると、再び両手を振り上げる。次は壁の意思がめくれ上がり、巨大な
拳に変化した。
 才人も、ハルケギニア人がエルフを心底恐れるその理由を、肌で感じてきた。
「あれがエルフの“先住”かよ……」
 巨大な石の拳が、ルイズと才人めがけて飛んできた。
 才人は咄嗟にルイズを抱えて飛びすさって拳をかわしたが、石の拳は空中で炸裂して、
またも石礫が降りかかってきた。才人とルイズは次々襲い来る石の猛撃を前にして、
後退を余儀なくされる。
「確かにこりゃ怪獣みたいだ……」
 冷や汗だらけになった才人がうめく。グレンに鍛えられた彼ではあるが、これでは戦いにすら
ならない。人の身で、この城そのものを相手にしているようなものだ。
「サイト! ルイズ!」
 気がつけば、自分の側にギーシュとマリコルヌがいた。キュルケも後ろに控えて、杖を握っている。
「お前ら、どうして……」
「やはり、タバサのところまで行くにはあのエルフを越えないと駄目なことが分かってね」
 冗談めかしたギーシュとマリコルヌは疲弊している才人の前に立った。
「逃げろ! 俺たちで何とかする」
「いいから、黙ってろ」
「やっぱり、任せっきりって訳にはいかなくなったわね」
 マリコルヌが風の呪文で石の礫をそらし、ギーシュが大きな壁を作り上げて盾にする。
キュルケは火の球を放って礫を撃ち落とす。
 しかしビダーシャルは難なく壁を粉砕し、風も火もものともしない石礫を放ってくる。
「くッ!」
 才人はデルフリンガーで石を弾き飛ばしたが、この調子ではすぐに押し切られてしまう。
向こうは、汗一つかいていないのである。
「参ったね……。ぼくたち、まさかこんなところで終わってしまうなんて」
 ギーシュがかなり本気でつぶやいたが……才人が否定した。
「いや、そうじゃないみたいだぜ」
 振り返るギーシュ、マリコルヌ。
「ルイズが呪文を唱えてる」
 いつの間にか、才人の顔から疲労の色が消えてきた。後ろで唱えられる、ルイズの呪文の詠唱が
彼の心に気力をもたらしているのだ。
 ルイズの身体の芯から大きなうねりが起こり、精神力が練り上げられていく。そして呪文の
完成直前に、デルフリンガーが怒鳴った。
「俺にその“解除”を掛けろ!」
 ルイズの杖が振り下ろされ、デルフリンガーの刀身に“虚無魔法”が纏わりついて鈍い光が宿った。
「相棒! 今だ!」
 力が溢れ返った才人は全速力で走り出し、階段の上のビダーシャルへと飛びかかった。
 振り下ろされたデルフリンガーが“反射”の目に見えぬ障壁とぶつかり合い……障壁は
真っ二つに切り分けられた。
 ビダーシャルを守るべき精霊力は四散した。ビダーシャルは驚愕の表情を浮かべた。
「シャイターン……。これが世界を汚した悪魔の力か!」
 一瞬で全て理解したビダーシャルは、右手の指輪に封じ込められた風石を作動させ、宙に飛び上がった。
「悪魔の末裔よ! 警告する! 決してシャイターンの門へ近づくな! その時こそ、我らは
お前たちを打ち滅ぼすだろう!」
 空へと消えていくエルフを見つめながら、才人たちは緊張の糸が切れてへなへなと地面に崩れ落ちた。
ルイズは精神力を使い果たし、倒れかけたのをウェザリーが抱き止めた。
 ギーシュがぽつりとつぶやいた。
「このぼくがエルフに勝った。信じられない」
「別にあんたが負かした訳じゃないでしょ」
 モンモランシーが突っ込んだ。
 ウェザリーからルイズを受け取った才人が、皆に呼びかける。
「ほら行くぞ。仕事はまだ終わってない」
「どこに行くんだい?」
「もう、タバサを捜すに決まってるでしょ」
 呆けたマリコルヌにキュルケが肩をすくめた。
「ああそうだった。そのために来たんだった」
 全員が立ち上がり、天守に向かおうとした……その時。
 アーハンブラ城全体を、突然激しい揺れが襲い始めた!
「な、何だ!?」
「嘘だろう!? やっとの思いでエルフに勝ったのに、まだ何かあるのか!?」
 ギーシュが悲鳴を上げたその瞬間……地面を突き破って、巨大な触手のようなものが飛び出してきた!
「ななななッ!? 何だぁぁぁぁぁぁッ!?」
 更に城が盛り上がる……いや、下から巨大な何かに持ち上げられている! 古城はみるみる内に
崩壊していく!
「嘘!? タバサぁぁぁッ!」
「待ちなさいッ! もう間に合わないわッ!」
 思わず身を乗り出して絶叫したキュルケをウェザリーが慌てて引き止めた。
「に、逃げろ! 城の崩落に巻き込まれるぞぉッ!」
 ギーシュが叫び、ガラガラと降ってくる瓦礫と、下からどんどん突き出てくる触手から
逃れるために才人たちは大急ぎで城外へ向けて走り出す。
 その辺に転がっている兵士たちは、触手に押し潰される……いや、皮膚を通り抜けて触手の
肉の中へ呑まれていった!
「何だ!? 何が起こってるんだ!?」
 城外まで避難して振り返った才人たちの視界に……城を突き破り、姿を現した『それ』の姿が映った。

 才人たちの激戦の音は、タバサの元にも届いていた。しかし確かめたくても扉も窓も“ロック”の呪文で
固く閉ざされており、部屋から外へは一歩も出ることは出来ない。故にその場でじっとして、怯える母を
慰めることしか出来なかった。
 しかし城全体が震動すると、さすがの彼女も平静ではいられなかった。
「な、何……!?」
「パムー!」
 奇妙な黄色い小動物は、慌てふためいて空中をぐるぐる回った。
 直後に、部屋の床が盛り上がって破られる。タバサが悲鳴を上げる間もなく、彼女の目に、
巨大な人の顔のようなものが見えたような気がした。
 そしてこの部屋にいるものは全て、『それ』の中に呑まれていった。

 グラン・トロワの執務室にいるジョゼフの元に、ミョズニトニルンからの通信が入った。
「おお、余のミューズよ。どうしたのだ? ……何、アーハンブラ城の地下に配置しておいた、
『あれ』が動き出したのか。ということは、ビダーシャル卿は敗北したのだな。ふむ、なかなかの
実力があるようだったが、やはり“虚無”の担い手には劣ったということか」
 あっけらかんと述べたジョゼフに、ミョズニトニルンはビダーシャルの安否を確かめるか尋ねた。
「いや、それには及ばん。最早あのエルフには興味をなくした。以前ならばエルフの力を
惜しがったかもしれんが、今やその必要もなくなったからな。生きてようが死のうが、
どちらでも。そんなことより、『あれ』の戦いの行方を余すところなく見届け、余に伝えて
おくれ、ミューズよ。さて、我が姪は『あれ』によって、一体如何様な運命をたどるかな?」
 ジョゼフは喪失感などは全くない、退屈しのぎが出来る楽しみを顔に浮かべ、歪んだ赤い球を見やった。

 アーハンブラ城を突き破って地上に現れ、その巨体で才人たちを見下ろしている大怪物……。
胴体は反り返った芋虫のようで、左右に不規則に生えた触手が不気味にうねっている。そして
真ん丸とした頭部には、人のそれのように見える顔面が張りついていた。怪獣としても異形に
過ぎる、人面の化け物。
 邪悪生命体ゴーデス!


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