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第百七話「ガリア狂奏曲」


ウルトラマンゼロの使い魔
第百七話「ガリア狂奏曲(ラプソディ)」
双脳地獣ブローズ 登場



 仮装舞踏会の夜、突如魔法学院に現れてルイズを誘拐しかけた謎の女、ミョズニトニルン。
しかもタバサが自らの意思でミョズニトニルンの言いなりになり、才人に攻撃してきた。
勝負はタバサが途中で心変わりしたことと、実は生きていたコルベールの救援により勝つことが
出来たが、直後にタバサが学院から忽然と姿をくらましてしまった。タバサはどこへ行って
しまったのか、彼女の身に何が起きているのか……案ずる才人たちオンディーヌの前に突然
現れたのは、というより空から降ってきたのは、「タバサの義妹」を自称する――その割には
タバサよりずっと大きいが――イルククゥという少女が、タバサがガリア王政府に捕まったと
知らせてきた。イルククゥが語るには、ミョズニトニルンはガリア王からの刺客であり、
タバサは母親の命を盾に従わされていたのだ。そしてタバサが反旗を返したことで母親は
拘束され、取り返すために単身乗り込んだタバサは新たなガリア王からの刺客のエルフに敗れ、
捕らえられたのだという。イルククゥは才人たちにタバサの救出を依頼しに来たのだった。
あまりにいきなり現れたイルククゥの素性を疑う者も少なくなかったが、タバサの使い魔の
シルフィードが肯定したことで本当だと証明された。――イルククゥは何故かシルフィードが
いる間はずっと、姿が見えなかったが。
 ともかく、タバサを救い出さねばならぬ。今にも飛び出していきそうな才人だったが、
今では彼もトリステインの貴族。れっきとした王国の政府に正面から喧嘩を売りに行くのは
まずい、と指摘したルイズの提案により、まずはアンリエッタの元へ今回のことの報告と
相談に赴くこととなったのであった。

 王宮に訪問するにはいささか常識知らずな時間帯ではあったが、タバサに万が一のことが
あるかもしれない。時間の猶予がないオンディーヌは、コルベールに頼んで『オストラント』号を
出してもらい、迅速に王宮に到着してアンリエッタに取り次いでもらった。
 そして才人、ルイズ、オンディーヌの隊員たちはアンリエッタに謁見し、事の次第を報告した。
それを受けたアンリエッタの発言は、
「わたくしとしましては、あなたたちが直接ガリアへ向かうことには賛同しかねます」
 その回答に才人たちはショックを受けた。最悪でもガリアへの通行手形を発行してくれるくらいの
協力は得られるものと思っていたからだ。
「まずは向こうの大使を呼びつけて、詳しく事情を聞き、厳重に抗議いたしますわ」
「そんな。俺たちに、黙って見てろって言うんですか?」
 才人が異論を挟むと、アンリエッタは困ったような顔になった。
「タバサ殿は初め、あなたとルイズを襲った連中の一味だったというではありませんか。
そのようなものを助けるために、どうしてあなた方が向かわねばならぬのです?」
「途中で裏切ってくれたから、ルイズを助けることができたんです。彼女は俺たちの、恩人なんです。
ルイズの恩人ということは、トリステインの恩人じゃありませんか」
「では、百歩譲って彼女を我らの恩人ということにいたしましょう。しかし聞けば、タバサ殿は
ガリアのシュヴァリエとのこと。極端なことを言えば、彼女をどうしようが、それはガリアの勝手では
ありませんか。わたくしたちが、それに口出しすることは、内政干渉と取られましょう」
「行くのは俺たちです。トリステイン政府の密使や軍じゃない」
「いいえ。あなたたちはトリステインの貴族、トリステインの騎士隊ですよ。向こうで犯罪人と
されている人物を救出などしたら、最悪開戦の口実になります。あなたはそれでも行くと言われるの?」
 開戦、と言われては、才人も閉口せざるを得なかった。まさかこの身が、トリステインの再びの
戦争のきっかけになる訳にはいかない。
 それでも才人は考えを巡らせて、どうにか食い下がろうとする。
「でも……ガリアからの刺客は、明らかに怪獣を操ってました! あいつらは、怪獣を使って
良からぬことをしたんです! これを放っておいてもいいんでしょうか?」
 攻め方を変えてみるが、アンリエッタの意見を翻す結果にはならなかった。
「残念ながら、状況証拠しかありません。向こうがミョズニトニルンなる女や怪獣のことを
知らぬと言い張れば、それ以上踏み込むことは叶いません」
 才人は奥歯を噛み締めた。言われてみれば、ミョズニトニルンがガリア政府の手の者だという証拠も、
イルククゥとシルフィードの証言だけ。国際的な説得力のある証拠にはなり得ないだろう。
「女王陛下のおっしゃるとおりだよ」
「また戦争になるのはまずい」
 レイナールをはじめとする生徒たちからもそんな声が上がった。才人は彼らにこう返す。
「分かった。お前たちは先に学院に戻れ」
「サイト。ぼくたちは別に怖がっているわけじゃ……」
「分かってるって。別にお前たちを臆病者とか思ってるわけじゃないよ。女王さまの言うことも
もっともだし、お前たちの気持ちも分かる。ただ、もうちょっと話があるんだ」
 才人の気持ちを汲んで、オンディーヌの面々はギーシュとマリコルヌを残し、執務室から辞していった。
 それを確認してから……才人は、ゆっくりと肩に羽織ったマントを脱いだ。
「な、何をするんだきみは」
 ギーシュが慌てた声を出したが、才人はアンリエッタにマントを返す手を止めなかった。
「お返しします。短い間だったけど……、お世話になりました」
「……本気ですか」
 驚愕し切ったアンリエッタの問い返しに、才人は重々しく首肯した。
「姫さまが何とおっしゃっても、タバサは俺たちの恩人で……友達なんです。その命と比べたら、
どんな称号も惜しくはありません」
 それは才人の本心であった。
 実際、才人はタバサが一人でガリアへ行ってしまったことについて、悔しい気持ちだった。
自分たちに迷惑を掛けないようにという考えだったのかもしれないが、自分は彼女に助けて
もらいっぱなしだ。そんな彼女を助けられないで終わりには出来ない。何より……どんな時
だろうと友達を、仲間を見捨てることは出来ない。
 それが、才人がゼロとともに戦う日々の中で見出した信念だ。
 アンリエッタは才人の本気を感じ取っていたが、それでも迷っている様子だった。それを見て、
ルイズも前に進み出た。
「姫さま、わたくしの気持ちもお確かめ下さい」
 ひと言告げて……ルイズまでがマントを脱いだのだ!
「ルイズ!」
 これには才人たちも仰天した。あの誰よりもプライドの高いルイズが……その象徴たる
マントを脱ぐとは!
「ルイズ! あなたまで……何をしているのは分かっているの!? よりによってあなたが……
貴族の位を捨てようだなんて!」
 アンリエッタは開いた口がふさがらなかった。彼女にとっても、それほどに衝撃的なことであった。
 ルイズは己の真意を語る。
「わたしは、今回、ガリアのシュヴァリエ・タバサ殿を救いに行こうと決心いたしました。
同時に、それに姫さまが反対なさるであろうことも知っておりました。それを知りながら
報告に参った理由こそが、今のわたしが見出した貴族としての魂の在り処でございます」
 ルイズはまっすぐにアンリエッタの瞳を見つめた。
「わたしはずっと、姫さまに仕えることが貴族だと信じてまいりました。しかし、いくつもの
冒険を経て、心のどこかがそれは違うと唱えるようになったのでございます。姫さまに仕えることは
もちろん大切なことではありますが、妄信することが真の貴族ではない。地位や名誉すらも必要な
ものではない。――己の信じる“筋”を通すことこそが、真の貴族である。それが、わたしの出した答えです」
 才人は、ギーシュやマリコルヌでさえ声が出ないほどルイズに感服していた。
 トリステインの貴族として、今のルイズの発言はいただけないものかもしれない。だが……
今のルイズの立ち姿は、彼らにはとても輝いて見えるのだ。学院のどこを探しても、こんなに
輝かしい人間はいないと言えるほどに。
 その輝きは、ルイズの内面から生じているものであった。初めは貴族の固定観念にすがりつく
だけのちっぽけな娘であったが、今では見違えるほどの大人物となったからだ。戦いの中で
ゼロたちから大事なものを学び、成長していたのは、才人だけではないのであった。
 ルイズは最後にアンリエッタに頼み込む。
「陛下におかれては、ガリアに向かったわたしたちを、反逆者としてお扱いくださいますよう、
お願い申し上げます。さすれば、まかり間違ってもお国の大事とはなりませぬ」
 どんどんと話が大きくなっていって、ギーシュとマリコルヌはどうしようと顔を見合わせたが、
ここで自分たちは関係ないですなんて言ったら末代までの恥になる気がする。二人はルイズたちと
同じ立場になることを静かに表明した。
 アンリエッタはしばし呆然と立ち尽くしていたが……やがて、ふぅとため息を漏らすと、
ルイズたちへ顔を上げた。
「わたくしの負けです……」
「と、いうことは!」
「ええ。国として公に支援することは出来ませんが、あなた方のガリア行きを黙認します」
 その言葉を聞き、ルイズたちは一気に顔を輝かせた。ギーシュとマリコルヌは女王陛下の
御前ということも忘れて、やったぁ! と諸手を挙げていた。
「ありがとうございます! 姫さま!!」
 感激して礼を言う才人に、アンリエッタは苦笑した。
「国家反逆罪に問われて、お礼を言うのはおかしいですわ」
「それでもです! でも……本当にいいんでしょうか? 今更ですけど、すごい無茶なお願いなのに」
 ちょっとばかり不安になる才人。するとアンリエッタは述べる。
「たくさん反対しましたが、あなた方の何としても友を救いたいお気持ち、わたくしも分からない
訳ではありませんから」
 少し前までのアンリエッタならば、命を捨てに行くと言っても過言ではない無謀な旅に
ルイズたちを送り出すことなど断固として許さなかっただろう。だが彼女もまた、人々の命や
仲間のために死をも恐れず全力を尽くすウルティメイトフォースゼロの姿に、王として、
人として大切なものを感じ取っていたのであった。
「さぁ、わたくしが向こうを向いている間に早くお行きなさい。反逆者はいつまでも王宮に
いるものではないわ」
「かしこまりました」
「あ、最後にもう一つだけ……わたくしにこれだけのことをさせておいて、タバサ殿を助けられずに
むざむざと帰ってくることだけは本当に許しませんからね?」
「はい!」
 背を向けたアンリエッタに深々と頭を下げてから、一行は勇んで執務室を飛び出した。
他の隊員たちはもうオストラントに戻っているだろうか。自分たちも乗り込んだら、直ちに
ガリアへ向けて出発だ。
 そう意気込んでいたその時……王宮の外から、激しい地響きとけたたましい獣の雄叫びが轟いてきた!
「グギュウゥゥゥ!」
「な、何事かね!?」
 四人が慌てて窓から外を覗くと……トリスタニアの街中に、一体の怪獣が出現していた!
「う、うわぁッ! 身体の上下に顔があるぞ! 何て気味の悪い!」
 マリコルヌの叫んだ通り、怪獣はエビ反りした芋虫のような胴体の先端に、それぞれ顔を
持っていた。双脳地獣ブローズだ!
 そしてブローズはあろうことか、オストラント号の方に接近していた!
「ああッ! オストラントが危ない!」
「何、大丈夫だろう。オストラントの機動力があれば」
 悲鳴を上げたマリコルヌに、ギーシュが言った。実際、ブローズの弁髪のような触手の攻撃を
オストラントは素早く旋回することで回避した。
 地を這って進むブローズの移動速度では、到底オストラント号に追いつけるものではない。
ギーシュらはそう考えて楽観視していたが、事態はそう簡単にはいかなかった。
「グギュウゥゥゥ!」
 ブローズの触手がオストラントへ向けて伸ばされると、たちまちオストラントが怪しい色の
光球に覆われ、空中に縫いつけられたかのように動かなくなってしまったのだ!
「な、何だあれは!?」
 それはブローズの特殊能力、金縛りの念動力であった。如何にオストラントの飛行性能が高くとも、
動きを止められてしまっては無意味だ!
 しかもブローズの振り下ろした触手により、主翼の片方が半ばからへし折られてしまった!
「あぁぁぁーッ! まずい、非常にまずいよッ!」
「みんなが危ないッ!」
「あッ、サイト!」
 さすがのギーシュも絶叫し、才人はオストラントに乗り込んでいるコルベールたちを救出
するために駆け出していた。王宮の廊下の角を曲がってギーシュとマリコルヌの目から隠れて、
変身を行う。
 すかさず飛び出していったウルトラマンゼロが、今にもオストラントをバラバラにして
しまいそうだったブローズに背後から組みついて阻止した。
「グギュウゥゥゥ!」
『これ以上やらせるかよッ!』
 そして腕の筋肉をもりもり際立たせ、腰をひねってブローズを背後へ投げ飛ばす!
『せぇぇぇぇーいッ!』
 宙に放り出されたブローズはトリスタニアの外まで投げ出され、平原の上に落下した。
 オストラントの金縛りが解けるが、片側の主翼を失ったことで水平姿勢を保っていられず、
墜落しかかる。しかしゼロが下から支えることで事なきを得て、そのまま街の外に安全に下ろされた。
「グギュウゥゥゥ!」
 そのゼロにブローズが突撃してくる。振り返ったゼロは自ら迎え撃ちに走った。
『来やがれッ!』
 ゼロはブローズの首筋を抑えて突進を止め、連続でチョップを繰り出してダメージを与える。
下の首が足に噛みついてこようとしたが、逆に踏みつけることで返り討ちにした。
「グギュウゥゥゥ!」
 ブローズをあっという間に追いつめるゼロだが、相手からの反撃が来た。ブローズの体表から
毒ガスが噴出され、密着しているゼロを苦しめる!
『うぐッ!』
 即座に距離を取ったゼロ。だがこれしきのことで参ったりなどはしない。すぐさまゼロスラッガーを
頭部から飛ばして、遠隔攻撃を仕掛けた!
「セェヤッ!」
「グギュウゥゥゥ!」
 ふた振りのスラッガーはブローズの両側を斬りつけ、動きを完全に止めた。
『フィニッシュ!』
 ゼロは間髪入れずにとどめのワイドゼロショットを撃ち込んだ。それが見事に決まり、
ブローズは木端微塵に吹っ飛んだ!
 華麗に勝負を決めたゼロだが、すぐには飛び立たずに才人と言葉を交わす。
『ゼロ、今の怪獣は……』
『ああ、偶然現れたんじゃないだろう。恐らくは、ミョズニトニルンが連れてたのと同じ……
ガリアから差し向けられた奴だ』
 ブローズは明らかにオストラント号を狙っていた。そんな偶然があるはずがない。
 しかし本気で自分たちを仕留めようとしていたのでもないだろう。これしきの怪獣が、
ゼロに敵うはずがないことは向こうも分かっていたはずだ。
『警告か、それとも挑発のつもりか……。上等だぜ!』
 どうやらガリア王は、自分たちの行動を察知したかどうかは知らないが、どうしても自分たちと
勝負がしたいらしい。ゼロと才人は、まだ見ぬガリア王のやり口に怒りを覚えるとともに、絶対に
タバサを救わねばならないとの使命感を強めた。
 しかし同時にゼロは警告した。
『だが、気をつけろ才人。相手はどうやら、ただ者じゃねぇみたいだぜ』
『どうしてそう言えるんだ?』
『この前の奴らと、今のを入れた三体……グレート先輩が言ってた、ある生命体の細胞から
生まれた怪獣たちの特徴と一致してる。となると、まだそうと決まった訳じゃないが、
その生命体ってのも……』
 その生命体というものは、並みの宇宙人ではとても御し切れないほどの存在のはずだ。
もしもガリア王がそれすら支配下に置いているとしたら……ガリア王の隠している力は、
自分たちの想像をはるかに超えるということになる。
 何はともあれ、ゼロはこの場を引き上げていった。

「いやはや、一時はもう駄目かと思ったが、全員無事でよかった。ゼロには本当に感謝しなければ
いけないね」
 ブローズの襲撃後、才人たち四人はオストラント号の周りでコルベールや仲間たちと、
この後のことについて相談をしていた。
「先生、オストラント号は修理できるんでしょうか? 派手に翼折られちゃいましたけど……」
 才人が心配して尋ねると、コルベールは顔を曇らせた。
「直せないことはないが、どんなに急いでも七日は掛かるだろう」
「七日も待ってたら、タバサがどうなるか分かりませんよ!」
「全くだ。だから空路でガリアまで向かうことは出来なくなったな。どの道、オストラント号は
目立ちすぎるから今回の作戦には向かなかったが」
 それではどうするか。代案を出すコルベール。
「となると、陸路で行くしかない。足となる馬を調達し、まずはミス・ツェルプストーが
知っているという、ラグドリアン湖畔の旧オルレアン公の屋敷へ向かう。そこがミス・タバサの
実家だそうだ。何か手がかりになるものがあるかもしれない。そしてたとえばここにいる全員が
敵地の中をゾロゾロと移動するのはまずいな。いざという時動きにくい。そういうことで、国境を
越えるのは多くても五、六人まで絞ろう」
 コルベールの提案により、タバサ救出メンバーが選出された。まずはいの一番に名乗り出た
才人とルイズに、キュルケ、ギーシュとマリコルヌ、治療士として名乗り出たモンモランシーと
いう結果となった。
「ミスタ・コルベールはどうするんですか?」
 ルイズが尋ねると、コルベールは心苦しそうに答えた。
「わたしもついていきたいところだが、オストラント号を捨て置くことは出来ない。設計に関して
わたしにしか分からないところも多いから、修理にはわたしの手も必要だからね」
 コルベールが同行しないのはいささか残念ではあるが、元々無理を言って協力してもらっているのだ。
素直に了承するルイズたち。
 だが才人は別のことを案じていた。
「先生、本当にここに留まっていいんでしょうか? トリスタニアの傍にいたら……きっと、
アニエスと出会いますよ」
 アニエスにとって、コルベールは故郷の仇なのであった。その恨みは現在に至っても消えていない。
コルベールが生きていると知ったら、彼女の憎悪が再燃するかもしれない。
 ハッとなったキュルケはコルベールにすがりついた。
「ジャン! いけないわ! あなたが残るなら、あたしも残る!」
 そんな彼女を諭すコルベール。
「それはいかん。ミス・タバサのお屋敷はきみしか知らないのだからね。それに……たとえ結果が
どうなろうとも、わたしは真正面から彼女と向かわねばいけないのだ。ずっと逃げ続けていても、
何の解決にもならないからね……」
「でも、ジャン……」
「いいんだ。わたしに任せてくれ」
 コルベールの毅然とした眼差しに、さすがのキュルケも後ずさった。
「ミス・ツェルプストー、一つ約束してほしい。たとえわたしが命を落とすことになろうとも……
報復など考えないでくれ。もう復讐の応酬は、わたしはこりごりだ。そんなことになったら、
わたしはこれ以上ないほど悲しむからね」
 キュルケは無言でうなずいたが、引き下がった彼女が小さくつぶやいたことを、才人とルイズは
耳にしていた。
「……でも、本当はそんな約束できないわ。あたしのジャンに何かあったら、あたしの炎は
抑えられそうもないもの」
 キュルケの複雑な思いはともかく、コルベールは最後に一つ問題を挙げた。
「さすがにガリアの領土を、そのままの姿で動き回るのはいけない。何かに身を扮する必要が
あるが、それはどうするか……」
「そういうことは、私に任せてもらないかしら。得意なのよ」
 突然、話に加わる者が現れた。才人たちが振り返ると、一人の女性がこちらに近づいてくるところだった。
「何せ、本職の劇団だったからね」
「あなたは……ウェザリーさん!!」
 才人が大きな声を発した。彼女の顔と、頭に生えた獣の耳は忘れるはずもない。かつて才人の
クラスメイト、春奈がこの世界に連れてこられた件で、侵略者に利用されていた人間と獣人のハーフ、
ウェザリーだった。
「もう刑期を終えられたんですか?」
「そうじゃないんだけれど、司法取引があってね。極秘の隠密作戦に協力するのなら、残りの刑期を
帳消しにしてくれると言われたの。私の能力はその作戦に打ってつけだからって。まぁ向こうには、
いざという時に容易に切り捨てられるという思惑もあるのでしょうけど……それで牢屋の外に出る
ことにしたの」
 尋ねたルイズにウェザリーは苦笑を返した。
「あなたたちには大きな迷惑を掛けたけれど、短い間でも劇団の仲間だったわ。それを助けるのも
やぶさかでもないからね」
 恐らくは、アンリエッタが自分たちのために特別に手配してくれたのだろう。才人らは
アンリエッタへの感謝の念で胸がいっぱいとなった。
「助かります、ウェザリーさん! あなたがいてくれたら百人力だ」
 と言う才人。確かにウェザリーの特殊な魔法は、隠密作戦にはもってこいである。
 しかし今度はコルベールが心配する番だった。
「信用できるのかね? 彼女は仮にでも、あのレコン・キスタの仲間だったではないか」
 そんな彼に、才人は力強い目つきで答えた。
「俺は彼女を信じます。きっと、人と人の信頼って、そこに進み出ることから始まると思うんですよ」
 才人の言葉を聞いたコルベールは一瞬目を見開いて、微笑を浮かべた。
「……そうだね。わたしも、アニエスくんのことを信じることにしよう」
「いいかしら? それじゃあ早速、ガリアに向かう人たちは『魅惑の妖精』亭に行きましょう。
そこに衣装と馬車を用意してもらってるわ」
 ウェザリーの呼びかけで、才人たち六人はオストラント号の修理を行うコルベールとオンディーヌの
仲間たちと別れ、妖精亭へと向かっていった。スカロンたちも協力してくれているようだ。
 才人は、自分がこれまで関係を築いたたくさんの人たちに支えられているのだということを実感し、
心の底から勇気が湧き上がってくるのを悟った。そしてその勇気は、タバサを必ず救い出すことへの
誓いを更に強めるのであった。

 ガリア王国の首都、リュティスのヴェルサルテイル宮殿のグラン・トロワの一室に、敗れて
捕らわれたタバサは運び込まれていた。今の彼女は、エルフの魔法により深い眠りに就かされている。
「口元が母親に似ているな……、シャルロット。あのようになってさえ、お前の母は美しい。
美しい母に感謝しろ。お前が飲むはずだった水魔法の薬を代わりにあおいだ母を……」
 そのタバサを玉座に横たえ、あどけない寝顔を見下ろす人物は、現ガリア王のジョゼフ一世。
――彼こそがミョズニトニルンの主の、ルイズ、ティファニアに並ぶ“虚無”の担い手。そして
タバサの仇である。
「ああ! 悲しいことだ! もしあの日のシャルルのあの笑顔がなければ、お前は今頃、
こんな険しい寝顔でなく、眩い笑みを浮かべていただろうに! エルフの魔法などで
苦しむこともなかったろうに!」
 ジョゼフの両の瞳には、人としての輝きというものが全くといっていいほどなかった。
どこまでも暗く、淀んでいる。それは彼の狂気をまざまざと表していた。
 彼には昔、一人の弟がいた。タバサの父親である、オルレアン公シャルル。彼は“虚無”の担い手故、
傍目からは魔法の才能がないように見えたジョゼフとは反対に、魔法の才に溢れていた。それだけでなく
明るい人柄で優しく、美徳も持ち合わせていた。しかしそれこそが、ジョゼフの心を苛んだ原因だった。
彼は天に恵まれた弟をひどく妬んでいた。だが憎んではいなかった。
 その嫉妬が憎悪に転じたのは、先王が臨終の間際、次王にジョゼフを指名した時であった。
その時ジョゼフは、初めてシャルルに勝ったと優越感を抱いた。次王の座が確定していると
思われていたシャルルの端整な顔を歪ませられると思った。
 しかしシャルルはジョゼフの想いとは裏腹に、にっこりと笑って祝福したのだった。その時こそ
ジョゼフは絶望の底に突き落とされ……初めて弟を憎いと感じた。
 だから暗殺したのだ。三年前の、あの日に。
 だが、それからのジョゼフの日々は暗黒であった。シャルルという大きな存在を消して
しまったことで、心にはぽっかりと穴が開いてしまった。その穴は何をしても埋まることがない。
ジョゼフは今も心の欠落を補おうとあがき……シャルルとのチェスよりも面白い対局を、
あの時の後悔を超える痛みを求めて、世界をもてあそんでいるのだ。
 誰が彼のその心情に共感できようか? 『無能王』と呼称されるジョゼフの真の姿は、
恐ろしく頭脳に優れ、恐ろしく残酷で、そして恐ろしく狂ってしまっている『暗王』なのだ!
「シャルル、お前は言ったな。『兄さんは、まだ目覚めていないだけなんだ』と。目覚めたぞ! 
“虚無”だ! 伝説だ! お前の言った通りだ! ああ、お前はこうも言ってくれた! 
『兄さんは、いつかもっとすごいことができるよ』と! やっている! おれは世界を
チェスボードにして、ゲームを楽しんでいる! 全てがお前の言った通りだ! お前は本当に
すごい奴だ! シャルル!」
 壊れたように――実際壊れているのかもしれない――叫んだジョゼフは、部屋のある一点を
暗黒の瞳で見つめる。
「だがまだこんなものではない。おれはもっと大きな世界をこの手の平に乗せて遊んでやる。
おれの遊戯は、世界をも超える! あらゆる力と欲望を利用して、人の美徳と理想に唾を
吐きかけてやる! お前をこの手にかけた時より心が痛む日まで……おれは世界を壊し続ける!」
 その視線の先に鎮座しているものは……痛々しいトゲがびっしりと生えた、歪んだ赤い球であった……。


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