あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-83


お披露目会が大盛況のうちに幕を閉じた、その後。
エレオノールは、くれぐれも『虚無』やなにかのことをみだりに外に漏らさぬようにと指示した上で、ひとまずアカデミーへ帰って行った。

彼女は半ば強制的に合唱に参加させられたことに後から赤面してはいたが、ディーキンやルイズへのお咎めなどはなかった。
最終的には楽しんで活き活きと歌っている姿を見られた手前、怒るわけにもいかなかったというのもあるだろう。
しかしそれ以上に、今日の体験は彼女にとって決して不快なものではなく、むしろ生涯忘れられぬ楽しい思い出になったとさえいえた。
気恥ずかしくてそのことを表立っては認められなかったが、咎めだてなどできようはずもない。

さておき、彼女は実家に連絡を取って両親に事情を伝え、彼らと相談した上で今後の方針を決めるつもりでいた。
それにはどうしても、ある程度の時間がかかる。

よって、それから数日の間、ディーキンは特に大事もなく充実した時間を過ごすことができた。

夜には『魅惑の妖精』亭へ赴き、ジェシカら店の女の子たちや客人たちと楽しい時を過ごしたり、以前の約束通りフーケと共演してみたり。
朝昼にはルイズの授業につきあったり、シエスタと訓練をしたり、キュルケに誘われて彼女やタバサと過ごしたり。
それらの合間には、生徒や教師、使用人や他の使い魔らとの親交を深めたり……。

もちろんガリアの関連の事柄にも対処しなくてはならないのだが、デヴィル絡みとなると準備不足で迂闊に動くわけにはいかない。

ひとまずはフェイルーンの仲間たちと連絡を取り合いながら、今後のために勉強や訓練をしたり、いろいろな調べ物をしたりしておいた。
いよいよという時のために、今のうちに備えを万全にしておくのだ。
無論、デヴィルを相手にして、絶対磐石の備えなどというものはありえないのだが……。



そんな、ある日の朝。

ルイズ、キュルケ、タバサ、ディーキンは、教室で授業が始まるのを待ちながら、仲間内で雑談をしていた。

「……そういえばディーキン。あんたの修行だか勉強だかは、上手くいってるの?」

自分のパートナーに、ふとそんな質問をするルイズ。

ディーキンは最近、オールド・オスマンに頼み込んで、自分の作業をするために学院の一室を借りている。
そこで、サブライム・コード(崇高なる和音)とやらになるための勉強や訓練をしたり、必要な物を作ったりしているらしいのだ。

ディーキンはよくぞ聞いてくれたとばかりに、ドンと胸を叩いた。

「フフン、もちろんなの。ディーキンはもう、ただのディーキンじゃないの!
 今のディーキンは、さしずめ……」

「……ズーパーディーキン?」

タバサが、いつぞやにシルフィードを助けに行った時に小さなドラゴンに変身した彼の名乗りを思い出して、そう聞いた。
そんな呼び名を初めて聞くルイズとキュルケは、揃って首を傾げている。

「エッヘッヘ……」

ディーキンは勿体ぶって、チッチッと指を振って見せた。

「ディーキンはもう、ズーパーディーキンの枠にすらとどまらないの。
 今のディーキンはさしずめ、ズーパーウルトラデラックスパネェディーキンといったところなの!」

自信満々に胸を張りながら、そんな珍妙極まりないネーミングを口にするディーキン。
それを聞いたルイズとキュルケは、何とも言えない表情で顔を見合わせた。

「……は、はあ?」

「そ、そうなの。よかったわね……」

一方、タバサはというと。

「カッコいい……」

そんなことを呟きながら、一人目を輝かせていた。
心なしか、頬まで若干紅潮している。

ルイズとキュルケは、内心でそれにツッコミを入れたり、苦笑いをしたりしていた。

(ディーキンは人間じゃないからってことで納得するとしても……。
 あんたは一体、どんなセンスしてるのよ!)

(この子、こんな感性の子だったっけ?
 まあ、これが惚れた弱みってやつなのかしらねえ……)

ちなみにタバサのネーミングセンスは元々、架空の必殺技に『最強呪文・風棍棒』などと命名したりする程度である。

「ま、まあいいわ。つまりは、上手くいってるってことね?
 それで、一体……」

一体、そのサブライム・コードとやらになって、どんなことができるようになったのよ?

そう聞こうとしたルイズだったが、そこでちょうど教室の扉が開いて教師が入ってきた。
本時の授業は『風』の魔法についてで、教師はミスタ・ギトーである。
長い黒髪に漆黒のマントをまとった不気味な姿と冷たい雰囲気、そして尊大な態度から、まだ若いのに生徒たちには人気がない。

それまでは歓談していた生徒らも、ギトーが入って来るや静まり返って、そそくさと席に着いていく。
ルイズらも、会話を中断せざるを得なかった。

「それでは、授業を始める」

教室中が静まり返った様子を満足げに見つめながら、ギトーは淡々とした調子で授業を始めた。。

「知っての通り、私の二つ名は『疾風』……、『疾風』のギトーだ。
 ところで、最強の系統は何か知っているかね? ミス・ツェルプストー」

質問を振られたキュルケが、首を傾げる。

「それは……、まあ、やっぱり、『虚無』なんじゃないですか?」

ルイズの方を意味ありげにちらりと伺いながら、キュルケはとりあえずそう答えておいた。

大抵のメイジは皆、自分の系統にこそ絶対の自信と誇りを持っているものだ。
だからこそ、四属性の間の最強・最優秀の議論というのは、互いに一歩も譲らない不毛な水掛け論に終わることが多い。
キュルケとてその例外ではなく、個人的には自分の系統である『火』を最強として推したい気持ちはあった。

それに対して、伝説の『虚無』こそが四属性に優越する最強の系統だというのは、メイジの間ではごく一般的な見解である。
だからキュルケの回答は、ごく無難なものだといえた。
それに彼女は、実際に先日その目で『虚無』を見て、確かに最強と呼ぶにふさわしい系統だと実感してもいた。
だからといって、自分の『火』がそれに必ずしも劣っているとは思わないのだが……。

しかし、そのキュルケの回答を聞いたギトーは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

あまりほめられた態度とは言えないだろう。
特に、教師としては。

「ツェルプストー、私は伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているのだ」

それを聞いたキュルケもまた、肩を竦めて小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、小声で密かに呟いた。

「現実的じゃないですって? いやねえ、何も知らない人は……」

それから、顔を上げて真っ直ぐにギトーを見つめ返すと、自信を持って答える。
向こうがそう来るのなら、遠慮する必要もあるまい。

「それなら、『火』に決まっていますわ」

「ほほう? どうして、そう思うのかね?」

「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱だからです。『攻撃は最大の防御』だといいますでしょう?
 最強の破壊力を持つ『火』こそが、それをもっともよく実践できる系統なのですわ」

「残念ながら、その見解は正しくない」

ギトーはそう言うと、悠然と腰に差した杖を引き抜いた。

「それを、今から説明してみせよう。
 試みにこの私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてみたまえ、ツェルプストー」

キュルケは、むっとしてギトーを見据えた。
こう挑発的な言動を取られて黙っていられるほど、彼女は大人しい性質ではなかった。

心配して何か口を挟もうかとしたディーキンを、手で制する。

「火傷じゃ、すみませんことよ。よろしくて?」

「一向にかまわんよ、本気でかかってきたまえ。
 さもなければ、その有名なツェルプストー家の赤毛は飾りかと嗤われることになる」

「…………」

キュルケは真顔になると、胸の谷間から杖を引き抜いて呪文を唱え始めた。

差し出した右手の上に炎の玉が現れ、キュルケが呪文を詠唱するにしたがって膨れ上がっていく。
他の生徒たちが、慌てて机の下に隠れた。

(ウーン?)

ディーキンはその呪文を見て、実戦で使うにはちょっと詠唱に時間がかかり過ぎているな、と思った。

(威力は、ありそうだけど……)

キュルケは詠唱に時間をかけることで威力を高めているわけだが、あまり実戦的だとは思えなかった。
実際の戦闘においては、コンマ一秒でも早く撃つことが多くの場面で重要になる。
時間をかけるほど相手に先を越される可能性も高くなるし、こちらの攻撃に対処する時間の余裕を与えてしまうことにもなるからだ。

もちろん状況にもよるし、これは実戦ではなく授業なのだから、別に構わないのだが……。

そうこう考えている間にも、火球は徐々に膨張し続け、既に直径一メイルほどの大きさにもなっていた。
キュルケは右の手首をくるりとひねって一旦胸元にひきつけると、火球をギトー目がけて勢いよく押し出すようにして撃ち放つ。

しかし、ギトーはそれを避ける様子も見せずに、ただ無造作に杖を振るった。

「……っ!」

たちまち烈風が吹き荒れ、一瞬にして炎の玉を掻き消した上に、その向こうにいたキュルケまでも吹っ飛ばす。

その展開を十分に予想していたタバサは、杖を軽く振って彼女が床に転がるのを防いでやった。
まあ、さすがに生徒に大怪我をさせるような撃ち方はしていないようで、手を出さなくても大事には至らなかっただろうが。

「『攻撃は最大の防御』か、まさにその通りだ。
 もっとも、それを実践できるのは君の『火』ではなく、私の『風』のようだが」

口元に含み笑いを浮かべて自分を見下し、悠然とそう言い放つギトーに対して、キュルケは不満そうに両手を広げてみせた。
ギトーはそれを無視して、講釈を続ける。

「さて諸君、今の実戦を通して、『風』が最強たる所以はわかってもらえたことだろう。
 目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあらば敵を吹き飛ばす矛ともなるのだ。
 すべてを吹き飛ばす『風』の前では、『火』も『水』も『土』も、おそらくは『虚無』でさえも、立つことすらできまい」

自系統の自慢を得々と続けるギトーに、多くの生徒らは目をつけられない程度に真面目な態度を装いながらも、内心うんざりしてきていた。
特に『風』以外の系統の生徒は、少なからぬ反感も抱いている。

一方ディーキンは、興味深く授業を拝聴していた。
確かに尊大であまり好ましい性格の教師ではないようだが、腕は相応にあるようだし、いろいろな呪文の実演も見せてくれる。

もし本当に『虚無』に属する魔法を見せてあげたら、この人はどういう反応をしてくれるのだろうか、などと想像してみたりもした。
たとえば、どんな『風』でも吹っ飛ばない熱のある炎の幻とか、魔法を掻き消してしまう解呪の爆発とか……。

好奇心はあったが、もちろん実際にやってみたりはしない。
そんなことをして人目を引くのも、ギトーの名誉を傷つけて恨みを買うのも、およそ馬鹿げたことだ。良識と品性にももとる。

「さて。もう一つ、『風』が最強たる所以を見せよう」

生徒らの不満そうな様子を気にかけるでもなく、ギトーはなおも話を続けた。
勿体ぶった調子で杖を真っ直ぐに立てると、呪文を詠唱し始める。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

(オオ、『ユビキタス(偏在)』だね?)

ディーキンはその詠唱から、いち早く呪文の正体を察した。

ひとつひとつが意思と力とを持ち、呪文を唱えることもできる自身の分身体を作り出す、『風』系統のスクウェア・スペル……。
同系統の奥義とも呼ぶべき呪文なのだと、本には書かれていた。
確かに読んだ限りでは、フェイルーンでも滅多に見ないような強力な呪文らしく思える。
もちろん消耗は大きいらしいが、それに見合う以上の代物だといえよう。

知識としては本を読んで既に知ってはいるが、実際に目にするのは初めてだ。
特に、使用者の少ない高等な呪文を目にできる機会は貴重である。

ディーキンは期待に目を輝かせて、わくわくしながら呪文の完成を待つ。

しかし、残念ながらそれを見ることは叶わなかった。
間の悪い時に入ってきたハゲのせいである。

「ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」

いつぞやのフーケ騒動の夜と同じようにド派手な格好をしたコルベールが突然教室に入ってくると、そのまま授業を中断させる。
彼はそれから、歓声を上げて沸き立つ生徒らに、その理由を説明し始めた。

なんでも今日、この王国の姫君であるアンリエッタ姫殿下が、ゲルマニア訪問からの帰りにこの魔法学院に行幸なされるのだそうだ。
そのため急遽本日の授業を中止して、歓迎式典の準備にあたるのだという。
それを聞いた生徒たちは、浮かれていたのもどこへやら、にわかにざわめいて緊張した面持ちになった。

「ウー……、」

王族なら以前にもアヴァリエルの王国で有翼エルフの女王様を見たし、フォーミアンの女王に会ったこともあるし。
歓迎といっても、さすがに亜人の自分に演奏とかさせてくれることはないだろうし……。
別にお姫様とかいいからさっきの呪文みせてよ、というのがディーキンの正直な感想であった。

とはいえ、まあ、文句を言っても始まらないのはわかってはいるのだが。

どうせ自分がいてもやることはないのなら、その時間を調査や訓練にあてようか、とも少し考えてみた。
しかしディーキンとしては、サブライム・コードの訓練を始めたからといって、バードであることを捨てる気はさらさらない。
せっかくのパーティに参加しないというのは、バードとしての本分に反する。

よって、ここは気持ちを切り替えて、ルイズらと共に式典とやらに参加してみようと決めた。



魔法学院に続く街道を、聖獣ユニコーンに引かれた王家の馬車が静々と進んでいた。
その四方を、王室直属の近衛隊である、漆黒のマントを身に帯びた魔法衛士隊の面々が固めている。

馬車の中には、トリステインの王女であるアンリエッタが座っていた。
今年で十七歳になる、瑞々しく美しい美少女である。
その可憐な美貌のためもあって国民からの人気は高いが、今のところ政治的な実権はない。

その隣には、王国の政治を一手に握るマザリーニ枢機卿の姿もある。
彼は今年で四十だが、トリステインの内政・外交を一手に引き受ける激務のためにやせ細り、年齢より十も老けて見えた。
国民からはあまり人気がないが、この国の実質的な最高権力者ともいえる人物である。

アンリエッタは水晶の付いた美しい杖を手の中で弄りながら、落ち着かなげにそわそわしている。

「枢機卿、魔法学院にはまだ着かないのかしら?」

尋ねられて、マザリーニは顔をしかめた。

「これでその質問はもう七回目ですな、殿下。
 どうしてもといわれるなら外にいる衛士隊の者に尋ねてみてもよいですが、まだしばらくはかかりましょうな」

それから、目を細めて注意する。

「件の噂話が気になっておられるのであれば、あまり期待をし過ぎぬことですな。
 根も葉もない噂話が流れるのは、よくあることです。
 それに、どんなに気が急かれてもそのことを尋ねに行くことができるのは式典が済んだ後ですからな」

「そのくらい、わたくしだってわかっています」

アンリエッタは、不機嫌そうに眉をひそめて頷いた。

「……ですが、アルビオンの可哀想な王様に害を成そうとする者たちに始祖の罰がくだらないはずがないとも、わたくしは信じています。
 それに、血のつながる王族の人たちを始祖がお守りくださらないはずもありません。
 ええ、そうですとも! ですから……」

「ですから、天使の噂話は本当のことだと?
 アルビオンの阿呆どもに天罰を下し、自分たち始祖の末裔を苦境から救い出してくれるに違いない、というのですな」

マザリーニは、アンリエッタの言葉の先を越すと、首を横に振った。

「そうであれば大変に結構なことですな、私もそうなるようにと始祖に願っております。
 天使とやらに会いに行くときは御一緒もいたしますし、必要ならば平伏して頼み込むこともしましょう。
 ですが、残念ながらそうでなかったときのために、より現実的な事柄に目を向けておくことも王族の務めというものですぞ!」

「現実、ですか……」

アンリエッタは、悲しそうに顔を伏せて溜息をついた。
この溜息も、今日はもう十四回めにもなる。

「さよう。私とて、殿下の心に沿わぬことをお頼みするのは本意ではありませぬ。
 しかし、これも王族の務め。同盟のため、どうあれゲルマニアへ嫁がれることは決まったものと考えておいていただきたい!」

「……夢を見るくらい、よいではないですか」

「街娘ならば。ですが王族たるもの、国民が安らかに眠れぬうちは寝こけている暇などありませぬ」

マザリーニはきっぱりとそう言うと、ふと思いついたように付け足した。

「とはいえ……。天使が枕元を守ってくれるのであれば、それでもよいかもしれませんな?」

皮肉っぽいその物言いに、アンリエッタはつまらなさそうに窓の外を眺めた。

そうした2人のやりとりとはかかわりなく、王女の乗る馬車は民衆の歓声を受けながら、ゆっくりと魔法学院の方へ向かっていく。
そしてそんな馬車を守る一団の中は、怪しげに目を輝かせる青年が一人、混じっていた……。


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