あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アーカードはそこにいる-5

貴族。それは権力の象徴。
貴族。それは財力の象徴。
貴族。それは暴力の象徴。
貴族。それは政治力の象徴。

貴族。それは私達平民にとってありとあらゆる全ての力の象徴だ。
そしてそこには、常に絶対的な恐怖がともにある。

一体何が起こったのか、正直良く解らない。
ハッキリしているのは、私は目の前に居る貴族様のお怒りを買ってしまったということだけ。
絶対に怒らせてはいけない相手。
私のことなんか、気分一つで好きに出来てしまう存在。
貴族様が私に対して怒っている。
それだけで頭の中が真っ白になってしまう。
謝りたい。それで許してもらえるものなら幾らでも。
だが、口を開いても言葉が出てこない。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
私に出来ることは。
ただただ恐怖に震えながら神の御慈悲を祈ることと。
目の前の貴族様の気が変わるのを願うことだけ。
助けが来ることはない。
周りに居るのも貴族であり、仮に平民が居たとしても、そもそも貴族に逆らうことなど出来はしない。

私が居るのは見慣れたあの食堂じゃない。
いま私が居るこの場所は、お腹を空かせたオークやトロルで埋め尽くされた陸の孤島。

私は彼らの餌でしかない。

「はぁ………全く。何みっともない真似してんのよ、ギーシュ。」

絶望に支配されていたシエスタの耳に、やや幼さの残る、聞き覚えのある声が響く。

この声は。この声は今朝会ったあの貴族様の。
ミス・ヴァリエールのものだ。

昨夜。
ルイズを担いだ背の高い男に声を掛けられたシエスタは、部屋への案内、彼女の着替え、そして汚れた衣服の選択を頼まれた。
彼女は平民の間でも有名な存在だし、普段から使用人として女子寮に出入りしているシエスタは、部屋の場所を知っていた。
洗濯等の身の回りの世話は、元々彼女の仕事である。否やは無い。
そして、多くの兄弟を持つシエスタのこと。
些か気恥ずかしいものはあったが、少女一人の着替えなど手馴れたものである。
たとえその少女がお漏らしをしていたところで、そんなことは別に何ら問題ではない。
そう、昨夜のことはシエスタにとって極々日常的な出来事であり、特別なことではない筈だった。

今朝、洗濯物を部屋に届けるまでは。

ところで、何時の時代も、どんな場所でも、女性とはとかくお喋りが好きなものである。
それは此処トリステインにおいても例外ではない。
まして、娯楽の少ない学院の使用人たちにとって、一日の終わりに同僚達と他愛も無いお喋りに興じるのは、数少ない楽しみの一つであった。
話題は様々だ。
巷間で流行っている本や歌。学院内の色恋沙汰。オールド・オスマンによるセクハラの被害報告等。
そんな中、目下一番の話題は、『この学院の中で、もし兄弟姉妹にするなら誰が良いか』というものだった。
貴族の子弟を平民の兄弟姉妹に等と、たとえ空想であっても畏れ多いことこの上ない。
それ故の背徳的な興奮を伴うその話題は、十分過ぎる程の魅力を以ってメイド達を惹き付けたのだった。

ダントツの一番人気は雪風のタバサ嬢である。
まだ幼い外見。極端に少ない口数。そして出された料理を黙々と食べ続けるその愛らしい姿。
どこか野生の小動物を思わせる彼女を何とかして自分に懐かせてみたいと思っているメイドは少なくなかった。

そして、それに続く第二位の人気を誇る人物こそ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢その人だった。

その美しい桃色の髪。整った目鼻立ち。高い誇りと健気に努力するその姿勢。
ルイズの人気も実は相当なものなのだ。

尤も、シエスタ自身は特にその話題に興味を持っていなかった。
彼女は至ってノーマルな嗜好の持主だったし、彼女自身の年齢も生徒達と大差無い。。
なにより、故郷に多くの兄弟がいるシエスタが、わざわざ新たな兄弟の必要性を感じることは無かった。

それが今朝。制服を届けに行った彼女に対してルイズは。
顔を真っ赤にして怒鳴り散らし。どもりながら口止めをし。そして。
少し潤ませた鳶色の瞳を隠すようにそっぽを向き。今にも消えてしまいそうな程小さな声でシエスタに言ったのだ。

『有難う』と。

誤解の無いように、ここでハッキリと言っておきたい。


萌 え た。


来た。正直グッと来た。クリティカルヒットだ。
何かもう反則だ。可愛い。可愛すぎる。
慌ててお辞儀をして部屋を出てきたが、危うく悶え死ぬところだった。
あのまま部屋にいたら、間違いなく彼女を力の限り抱きしめていたことだろう。
美しく、気高く、愛らしく、そして儚げな彼女の姿。
シエスタの中で、ルイズが『妹にしたい生徒ナンバー1』の座についた瞬間だった。

そんなルイズが今、自分の目の前で自分を守ってくれている。
今朝の姿からは想像もつかない程の凛々しさで。

……何故か大分疲れているように見えるが。

シエスタがルイズの姿に目を奪われている間に、いつの間にか話がついたようだ。
二人は決闘することになったらしい。

決闘?
あの、魔法も満足に使えない、私の可愛いルイズ様が?
そんな!勝てる筈がない。止めなきゃ。止めなければ、あの美しい体に傷が。
止めなきゃ。私が痛い思いをするのは構わない。
だが、彼女を傷付けるなどという暴挙を決して許してはならない。というか私が耐えられない。
何とかして思いとどまらせなくては。

「あああっあ、ああのっ、わたわ、わた、わわたし」

もどかしい。口が言うことをきいてくれない。
駄目だ。このままではルイズ様が……。

「はぁ……。ん?いいのよシエスタ。気にしないで。」

溜息を吐いていた彼女が、私に気付いて声を掛ける。なんて素敵な微笑。

「私は貴族として正しい行いをしただけよ。貴方には個人的な恩もあるし。」

で、でも、決闘なんてしたら。

「大丈夫。貴方は心配しなくてもいいわ。これは私の問題。貴族としての私の矜持の問題よ。それに」

彼女の顔から優しい微笑が消え、貴族としてのそれに変わる。

「わたしは誇り高きラ・ヴァリエールの娘!グラモン家の小僧っ子何かには絶対に負けないわ!」

そう言い切った彼女の姿に、最早あの愛くるしくも意地っ張りな子どもの面影を見出すことは出来なかった。
そこにいたのは、誰よりも力強く、誰よりも美しい。
眩いばかりに煌々と輝く一人の貴族だった。

シエスタは感動に打ち震えていた。
この人は。この人は紛れもない貴族。
だけど他の貴族とは違う。この人は私の味方。
ただの平民にしか過ぎない私を。私なんかを。この人は助けてくれた。
もし。もしこの決闘が終わった後で許されるのならば。
私はこの人付きの使用人になろう。この人に仕えよう。
そしてその時は。


お姉様と呼んでも良いですか?


食堂での騒ぎが一段落し、多くの野次馬がヴェストリの広場に向かいつつあった頃。
主のいないルイズの部屋の窓際で、夜空を見上げて笑みを浮かべる一人の男の姿があった。

「いい夜だ。」

誰にともなく呟く。
その視線の先にあるのは、穏やかな光を纏う二つの月。

「本当にいい夜だ。」

やがて男の体は無数の蝙蝠へと変わり、開け放した窓から夜の闇へと融けていく。

「………静かで本当にいい夜だ。」

男がいた場所には、蓋の開いた棺だけが残されていた。


第5話 了

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