あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-77


ディーキン、ルイズ、タバサの3人は、調べた本を手早く元に戻すと、キュルケたちが発見したというものを検分しに向かった。
道中で、お互いが発見したものやそれを見つけるに至った経緯についての情報交換をする。

「ふうん……、タバサのお父様はそんな手の込んだことをしてまで、隠れて遺跡の捜索を?
 それは、確かに妙な話ね……。『虚無』かあ、ありえそうね」

そう言いながら、キュルケが詳しく説明してくれたところによると……。

彼女らのチームが発見したのは、いわゆる“隠し通路”のようなものらしい。



キュルケらがある客間を調べている最中に、トーマスは唐突に留め金を外すようにして、ある戸棚の横の金具をずらした。
そして、キュルケとシルフィードの目の前で、その戸棚を横にスライドさせてみせた。

その奥には、ほとんど空っぽではあったが、小さな隠し部屋があった。
彼は懐かしそうな目をしながら説明してくれた。

「驚かれましたか。このお屋敷には、こういった隠し部屋や秘密の収納スペースがいくつもあるのですよ。
 時代のある建物で、優秀な固定化が施されているがために立て直しの必要もなかったことから、多くは忘れられているようですがね」

腕白な少年だった頃からこの屋敷に住んでいた彼は、あちこちを探検して回っていた時、偶然にこれを発見したのだ。
それからは宝探し気分でわくわくしながら屋敷中を調べて回り、他にもいくつかの隠し部屋や秘密の引き出しなどを見つけ出した。

いずれも使われなくなって久しいらしく、残念ながら宝などは見つからなかったが……。
彼はそれらの存在を自分だけの秘密にしておいて、タバサとの追いかけっこや手品のタネなどに活用していたのだ、という。



「……そんなの、聞いてない」

何回やっても彼に勝てない、タネを見抜けないと、当時はずいぶんと悔しい思いをさせられたものだったが……。
まさか、そんなものを使っていただなんて。

「ずるい」

タバサが少しばかり不機嫌そうな様子でそう呟いたのを聞いて、キュルケは苦笑した。

この小さな友人は、その寡黙で淡泊そうな態度に似合わず、なかなかに負けず嫌いなところがあるのだ。
だからきっと、昔もむきになって彼に勝とうと頑張っていたのだろう。
それが今になって事実を知らされて、そんなインチキで昔の自分は悔しい思いをさせられたのか、と根に持っているに違いない。

しかし、トーマスはトーマスで、優秀なタバサに追いつかれまいとして一生懸命だったという。

『僭越ながら当時の私は、お嬢さまに年下の兄弟に対するような想いを持っておりましたから。
 ずっと尊敬され続ける兄の立場でありたいと、今思えば畏れ多いことを考えて……。
 それで、お嬢様は優秀な方でしたので、少しくらいずるをしてでも絶対に後れは取るまいと、幼稚な意地を張ってしまって……』

彼は、お嬢さまには内緒にしてくださいね、と、少しきまり悪そうに微笑みながら、そうこぼしていた。

平民とはいえ、実に精悍で、かつ可愛らしいところもあるいい男だった。
彼がタバサの兄上なら、婿にすれば自分はタバサのお姉さんになるわけよねー、などと、しばしたわいのない妄想をしたものである。

「まあまあ……、ほんの子どもの頃の話じゃないの。
 それに、あなただってこの屋敷にずっと住んでたけど知らなかったようなものを見つけた、その観察力はすごいじゃない。
 おまけに小さい子がそんな大発見をしたら、普通は自慢して回りたくもなるでしょうに。
 それをずっと秘密にできたってのも、それだけでなかなか大したものよ?」

「……そうかもしれない」

親友に諭されてそう認めながらも、タバサはまだ少しぶすっとした様子だった。

キュルケはそんな親友の頭を撫でながら、しばし感慨に浸った。

(この子が、こんなに素直に感情を表に出して見せるようになるなんてね……)

まだ親しくし始めて間もないルイズあたりから見ると、これまで通りの無表情で大差ないようにしか感じないのだろうが。
彼女を知って長いキュルケから見れば、少し前からは想像もできないほど情動を素直に表に出すようになっている。

父親が思っていたような人物ではないかもしれないと知って落ち込むのではないかとも案じていたのだが、どうやら大丈夫のようだ。
内心複雑なものは当然あるのだろうが、今は孤独に戦っていた以前とは違い、周囲に多くの人がいてくれるからだろう。

「……で、さっきの話に戻るけど。
 そのトーマスの話を聞いて、私はぴんときたわけよ。
 タバサのお父上の秘密が今でもまだこの屋敷内に残ってるとするなら、そういう場所に違いない、ってね」

それらの場所は、おそらく非常時の避難場所や隠し財産の保管庫などとして、過去の屋敷の主たちが用意したものであろう。
シャルル大公は屋敷の正当な継承者であり、トーマスと同様に幼い頃からこの場所に親しんで、隅々まで知り尽くしてもいたはずだ。
ならば、今ではほとんど知る者がいない隠し部屋や秘密の収納場所のことも、把握していた可能性は高い。

トーマスが知っている限りの隠し部屋や収納スペースには、当時からめぼしいものは何もなかった、とのことだが。
それは大公がその場所のことをちゃんと知っていて、価値のあるものはみな他所に移してしまったからだ、とも考えられる。

それに少年時代のトーマスとて、貴族の私室などの一部の場所には、おいそれと立ち入ることはできなかったはずだ。
もしかしたらそういった場所には、トーマスもまだ発見していない更なる秘密の小部屋や物置などが存在しているかも知れない。

「そういうわけで、私たちがまず調べるべきは、そういったものの有無だって思ったのよね。
 それで、シエスタたちのチームと一回合流して。屋敷に詳しいタバサのお母上やペルスランに、何か知らないかを聞いてみたの……」



キュルケに質問された2人は、しばらく考え込んでいたが……。
やがて、ペルスランが答えた。

「もし……、仮に、そういったものがあるのだとすれば。
 それはあるいは、私どもが立ち入りを禁じられていた、旦那様の私室のどれかにあるのではないかと……。
 旦那様は生前、研究中の魔法の実験器具などがあって危ないからと、いくつかの部屋に関しては片付けは無用と命じられていました。
 常に鍵がかかっておりましたので、旦那様の他は、もちろんトーマスも含めて、誰も中には入っていなかったはずです。
 今に至るまで私は、お言いつけを守って、それらの部屋の中には入ってみてはおりません」

「それよ! その場所を調べる許可を頂けるかしら?」

キュルケがそう頼むと、オルレアン公夫人は頷いて許可を出してくれた。
立ち入りを禁じた張本人である大公の亡き今、許可を出す権利はその妻である彼女にある。

そこで、キュルケらは早速、全員でもってその立ち入り禁止だったという場所を調べに向かったのである。

かつてはそれらの部屋は、優秀なメイジであったシャルル大公自身の手による『ロック』の呪文で守られていたという。
だが、大公の死後に立ち入り調査を行った王宮の手の者によって既に解除されていたものか、今では中に入るのに何の障害も無かった。

そこは確かに、魔法の研究用の実験室や、その関係の器具や書類を保管しておく専用の書斎等であったようだった。

しかし、薬品棚にも器具庫にも、書棚にも実験用テーブルにも、今ではほとんど何も物は残っていなかった。
おそらく大公の実験成果や有用な魔法道具類は、すべて王宮側が差し押さえて持ち去ってしまったのだろう。

「無駄足だったかしらね……」

長年人が立ち入っていなかったせいでひどく埃っぽい机の上を指でなぞって跡をつけながら、キュルケは退屈そうにぼやいた。
せっかくいいアイディアが浮かんだと思ったが、この部屋は完全に物色され尽くしているようだ。
これでは、たとえ隠し扉や秘密の引き出しなどがあったとしても、そこもとうに荒らされているかも知れない。

「それでも、一応は調べてみるべきかしら。埃まみれになりそうで、嫌だけど」

キュルケが憂鬱そうに呟いた時、オルレアン公夫人が進み出た。

「いえ、隠れた空間があるかどうかくらいでしたら。あなたたちにご迷惑をかけなくとも、私が……」

夫人はそう言って杖を振ると、部屋の中にほんの微かな、風の流れを巻き起こした。
それから目を閉じて、部屋の中をゆっくりと、壁に沿って歩き始める。

それを見て、キュルケは彼女が何をしようとしているのかを理解した。

隠れた空間がどこかにあれば、その空間につながる微細な隙間に風が入り込み、僅かなりとも不自然な大気の流れが起こるはず。
部屋の中に魔法で風の流れを起こすことで、それを感知しようというのだろう。
また、たとえそのような隙間が完全に密閉されていて、風の流れに変化が起こらないとしても……。
部屋の中を歩いて、その振動の伝わり方、足音の響き方を調べることでも、未知の空間が壁の奥にあるかどうかがわかるはずだ。

もっとも、そんな微妙な空気の流れや、建物を伝わる振動の違和感などを感知するのは、並みのメイジには到底不可能なことだ。
相当に優れた『風』や『土』の使い手だけが、そういったものを捉えられるほどに鋭敏な感覚を備えている。

夫人には、そのいずれをもを捉えられるという、確固たる自信があるのだろう。

(さすがに、タバサの母親だけのことはあるわね……)

キュルケ自身、若くしてトライアングル・クラスとなった、優れた才覚を持つメイジではある。

しかし、彼女には今のところ、『火』以外の呪文を使うことがほとんどできない。
元々彼女は新興国であるゲルマニアの貴族であり、血統という点では王族であるルイズやタバサに劣っている。
そういった先天的な才能の差を埋め、メイジとしてのランクをいち早く上げるために、己の系統一本に絞って訓練してきたことの代償だ。

もっとも、キュルケは自分の系統に確固たる自信を持っており、他系統が扱えないことに劣等感を覚えたことはなかった。
タバサのようにより多芸なメイジと比べても、自分の方が劣っていると感じたことはないのだ。

自分は『火』なら同年代の誰にも負けないし、それだけでどんな相手とでも渡り合ってみせる。
事実、以前にタバサと手合せをした時も、魔力では互角だった。
数多くの修羅場をくぐってきたという彼女にも、自分は少なくとも、得意分野で戦えば引けを取らなかったのだ。
それに、自分にはメイジとしての能力だけではなく、男たちを虜にする色香もあるし、社交面や商業の分野での才能もある。

一方で、タバサにはそういったものはないだろうが、ひたすら本を読んで蓄えた膨大な知識がある。
だから、彼女に勝っているとは思わないが、負けているとも思わない。
ただ得意な分野が異なるだけだ。

(まっ、私にもああいうことができれば便利だとは思うけどね……。
 人間には向き不向きってもんがあるし、無い物ねだりをしても仕方がないわ。お任せしときましょ)

さておき、念入りに部屋の中を検分した夫人は、ひとつの本棚の前で足を止めた。

「……この棚の奥に、何か隠れた空間があるのを感じますわ」



「オオ、そんな風に大勢で協力して見つけ出したんだね?
 やっぱり、みんなを連れてきてよかったよ。
 頼もしい仲間がいないと、冒険ってうまくいかないものなの!」

本当に嬉しそうにそういうディーキンの方を見て、キュルケも微笑んだ。

「そうよね。ディー君が誘ってくれたおかげで、私もタバサの役に立てて嬉しいわ」

自分の得意な分野で仲間たちに貢献して、代わりに苦手な分野では、それが得意な他の仲間に頼ればいい……。
ディーキンと同じく、キュルケも素直にそう考えることのできる人物だった。
少し前までの一人で何でもやろうとしていたタバサとは逆で、冒険者向きな性格だと言えるだろう。

「ふうん……、それで、あんたたちはその研究室で隠し部屋だか隠し倉庫だかを発見した、ってわけね。
 私たちを呼んだのは、一緒に調べてみてくれってこと?」

そんなルイズの問いに、キュルケは肩を竦めた。

「さあ、それが問題なのよね……。
 実を言うと、一緒に調べる前にちょっと問題があって、あなたたちの力を借りたいの。
 場所はわかったけど、まだ中には入れてないのよね」



隠し部屋の位置を特定したキュルケらは、しかしそこを開く方法について頭を悩ませていた。

まずは『ディテクト・マジック』をかけてみたが、反応はなかったので、魔法の仕掛けではないようだ。
おそらくは機械式の仕掛けで、トーマスが見せてくれた隠し部屋と同じく、どこかに扉を開く機構が隠されているのだろう……。

そこまでは予想がついたものの、肝心のその仕掛けが一向に見つからなかった。
隠し部屋があるという本棚の近くを念入りに調べてみたが、何も発見することはできなかったのである。

「もしかしたら、扉を開く仕掛けは用心のために、どこか遠くに離して作ってあるのかも……」

キュルケはそう予想したが、では一体どこかといわれると、何もわからなかった。
一行の中に、そんな複雑な機構に詳しい者は誰もいない。

「場所はわかってるんだし、いっそ奥に入るために、この本棚を壊してしまいましょうか?」

そう提案してもみたが、それには夫人が難色を示した。

「……夫は、慎重な人でした。そんな乱暴な侵入には、なにか対策をしているかも知れません。
 そうでなくても、中にあるのが何かわからないのですから、あまり乱暴な事をしては台無しになってしまうかも……」

「うーん、それもそうか……」

そんな風にみんなで頭を悩ませていたところで、今度はシルフィードとシエスタが声を上げた。

「きゅい、シルフィにはよくわかんないけど、それならお姉さまをお呼びして聞いてみたらいいんじゃないのね?
 お姉さまはこのお屋敷に長いこと暮らしておられたんですもの、何か閃かれるかも知れないわ!」

「その……、先生にもお話してみてはどうでしょうか?
 先生はあちこちを冒険してこられた方ですし、たくさんのことができるみたいですから……。
 もしかしたら、どうにかしてくださるかも」



「……ってことで、あなたたちを呼んだわけよ」

ちょうど事の次第を説明し終えたあたりで問題の研究室に着き、キュルケはディーキンらを、件の本棚の前に案内した。
近くにはトーマスらもいて、部屋のあちこちをまだ調べている最中だった。

ディーキンはその前に、研究室の床に描かれた消えかけた魔方陣の痕のようなものに目を止めて、少し考え込んでいた。
だが、じきに切り上げてキュルケの後に続いた。

「さあ、何かできそうだったら、ちょっと調べてみてくれないかしら?」

「…………」

キュルケに促されて、タバサは部屋のあちこちを見渡しながら考え込んだ。

この部屋には、小さい頃に父に何度か入れてもらった覚えがある。
とはいえ、当然その時は隠し扉など開いてはいなかったわけで、面白い試作の魔法の道具や演示実験を父に見せてもらった程度だ。
扉を開くための手掛かりになりそうなことを知らないか、などと言われても……。

そう思っていたところで、ディーキンがとことこと本棚の前に進み出た。

「ここに、扉があるんだね?
 それだけわかってれば大丈夫なの、ディーキンが開け方を調べてみるよ!」

あっさりとそう言って荷物袋の中から細いワンドを一本取り出すと、皆が見守る中で扉に向けて振り、一言呪文を唱えた。

「《エンタヒック・イフニリー》」

そして、しばらく精神を集中して、じっと本棚の方を見つめる……。
すると《隠し扉の感知(ディテクト・シークレット・ドアーズ)》の効果で、たちどころに隠し扉の開き方が頭の中に浮かんできた。

ディーキンはそれから、おもむろに翼を羽ばたかせて天井の近くに浮き上がると、一本の柱の傍に近づいた。
その柱の上端近くについている目立たない燭台の影に、隠し扉を作動させるためのトリガーとなる金具が取り付けられていた。
この金具はメイジならば『フライ』の呪文で傍に行って簡単に動かせるが、下からでは柱と燭台の影になって見えないようになっている。
存在を知らない者には、まず見つけられないだろう。

ディーキンがその金具に手をかけて左に回すと、本棚が鈍い音を立てて横にスライドしていった。
奥には、地下へと続く暗い階段が伸びている。

「さっすが! ディー君は頼りになるわねー」

ハルケギニアでは未知の呪文であったが、キュルケにはもはやいちいち呪文の原理などを問いただす気も無いようだ。
そういうものだとして受け入れているらしい。

「それじゃ早速、レッツ・ラ・ゴーと行こうじゃないの!」

そういって階段に踏み込もうとするキュルケの腕を、タバサが掴んで引き留めた。

「待って」

「……タバサ? どうかしたの?」

「奥に、まだ何があるかわからない」

タバサには、以前にこの部屋に来た時、ガーゴイルやゴーレムのような魔法生物らしきものを見かけた覚えがあった。
用心深く賢明な父のことだ、それらの守護者を隠し扉のさらに奥に配置しているくらいのことは、いかにもありえそうに思えた。

「あまり大勢で行かない方がいいかもしれない。
 特に、戦う力のない者には、部屋の外に残ってもらった方がいい」



一行は、この中では近接戦闘に最も長けていると思われるディーキンを先頭に、注意深くゆっくりと階段を下りていった。
各自が光源を持ち、周囲に警戒を払っている。

タバサの進言を容れて、シルフィード、ペルスラン、トーマス、それにオルレアン公夫人は、部屋の外に残る事となった。
夫人は娘の身を案じてついていきたがったのだが、タバサ自身が病み上がりの母親の身を案じ、説得して残ってもらうことにしたのである。
それに、夫人はメイジとしての技量は高いが、こういった調査や戦いなどには慣れていない。
トーマスには、彼らの護衛を頼んでおいた。

「……この通路は、なんなのかしらね。ただの隠し部屋用のスペースにしては、あんまり道が長すぎるわ。
 避難用の抜け道と、隠し部屋を兼ねたようなものかしら?
 いえ、随分幅の広い通路だし、もしかしたら兵隊を移動させるために使ったとか……」

曲がりくねった階段を降り、湿っぽい土のにおいがする通路を進みながら、キュルケがそんな意見を呟いた。
暗くてじめじめした通路だが、狭苦しくはなく、むしろ意外なほどに広い。
あの屋敷の地下に、まさかこんなに広い空洞があったなどとは、実に意外だった。

「そうかも……」

タバサが短く応じる。
彼女も、自分の長年暮らしてきた屋敷の地下にこんな秘密の通路があるなどとは露知らなかった。

「……オ、扉があるよ」

先頭を行くディーキンの目に、通路の行き止まりにある大きい重たそうな金属の扉が見えた。
扉にはガリアの紋章である、交差した二本の杖が描かれている。
扉の先は、どこに通じているのだろうか?

早速扉に手をかけて開こうとしたのは、ディーキンにしては不用意な行動だっただろう。

その途端に、どこからともなく重苦しい低い声が響いた。

『――――合言葉は?』

「……えっ?」

ディーキンは、突然そんなことを聞かれてひどく狼狽した。

合言葉? そんなものは知らない。
さすがに、この場で即座にそれを調べられそうな方法なども、思いつかない。
思い切り泡を食ってしまって、咄嗟に答えた。

「アー……、その、合言葉?
 ええと、ディーキンは、その、ちょっと調べに戻っちゃ、ダメ……かな?」

「今のは正しい合言葉じゃないわね」

キュルケがディーキンをじとっとした目で見ながら、胸の谷間から杖を引き抜いて、想定される面倒な事態に備えた。
まあ、自分だって合言葉などわからないのだし、やむを得ないが……。

『――――正しい合言葉が、言えぬのであれば』

重苦しく響く声がそう言うのを聞いて、ディーキンはいっそう焦って言葉を続けた。

「アア、待って、待って!
 ディーキンは思い出したの、ええと、たぶん……」

僅かな間があって。

「……ダ、ダブルゼータはおおまぬけ! ……とかじゃない、かな? きっと……」

「絶対違う」

タバサは淡々とした調子でそう言うと、杖を構えて散開し、周囲を警戒する。
案の定、扉からは無慈悲な答えが返ってきた。

『――――侵入者には、死を!』

「……うう、ディーキンは申し訳ないの……」

ディーキンも駄目そうなのを確認すると、いささかしょんぼりした様子ながら、扉の前から飛び退いてエンセリックを構える。

「し、仕方ないですよ、先生。落ち込まないでください!」

「まあ、合言葉なんて言われてもわかるわけないけど……。
 それにしてももうちょっと、それらしい言葉がありそうなもんじゃないの?」

シエスタとルイズもそれぞれに広がって、周囲を警戒する。

次の瞬間、通路のあちこちの壁面が崩れ、その中に潜んでいた恐ろしい守護者たちが一行に襲い掛かってきた!


新着情報

取得中です。