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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-76


ディーキンの呪文や『虚無』云々に関する話が一区切りつくと、一行は早速手分けをして、本題であるタバサの屋敷の捜索にとりかかった。

調べるのは、主に王の座を狙っていたというシャルル大公の遺した身の回りの品々。
当時の彼やジョゼフ王などの動向を詳しく知る手掛かりとなりそうなものを、くまなく探してまわる予定なのだ。

一行は、ディーキン、ルイズ、タバサの3人組と、シエスタ、オルレアン公夫人、ペルスランの3人組。
そしてキュルケ、トーマス、シルフィードの3人組の、計3チームに分かれて捜索している。
同じ場所を複数の目で3回に渡ってチェックすることで、見落としを防ごうというわけだ。
どのチームにも、屋敷内に詳しい者と、まったく知らないために先入観無く見れる者とを最低1人ずつは組み入れてある。

ディーキンらのチームは今、シャルル大公の私室のひとつを調べているところだった。

「どう、ディーキン。何か見つかった?」

「ンー……、こっちの引き出しには……、古いペンとか、インクの瓶とか、栞とか……。
 あんまり物が入ってないみたい。ルイズの方は?」

「こっちも似たようなものね。ここの棚には、古い絵本とかが並べてあるだけみたいよ。
 これって、タバサが小さい頃に読んでいたものかしら?」

「多分、そう」

荷物入れ用の箱……古い時代の魔法の品で、内部が見た目よりずっと大きい……を調べていたタバサが、短く答えた。
中にめぼしいものが無いのを確認すると、立ち上がってそちらの棚の方へ行き、そこに並んでいる本を懐かしそうに眺める。

棚に並んでいるのは、本当に小さな時に読んでもらっていた絵本ばかりだった。
自分が手に取らなくなった後でも、父は愛娘の思い出の品として、大切に私室に保管しておいてくれていたのだろう。

隅の方に、幼い頃に一度読んだきり手に取ろうとしなかったおばけの絵本が何冊かあるのを見つけて、タバサは内心で苦笑した。
小さい頃の自分は、幽霊や何かが酷く苦手で、ベッドの下やクローゼットの奥から怪物が出てこないかと本気で心配していたものだった。

そんなタバサの懐古の想いをよそに、ディーキンもまた興味深そうにとことこと棚の方に近寄って、そのおばけの絵本を開いてみていた。
子ども向けのものであれ、バードとしてまだ見ぬ異世界の物語に関心を持つのは当然のことである。

「ウン……? 『イーヴァルディの勇者』は、ドラゴンだけじゃなくて幽霊も退治したの?」

「本によって違う。人気がある話だから、いろいろなバリエーションがある」

タバサはそう説明しながら、自分もその本を覗きこんでみた。

この『イーヴァルディの勇者』シリーズは、ハルケギニアでは最もポピュラーな英雄譚だ。
イーヴァルディと呼ばれる勇者が剣と槍を用いて戦い、竜や悪魔、亜人に怪物……、実に様々な敵を打ち倒していく。
せいぜいその程度の基本の骨組みがあるだけで、これといった原典は存在しないため、筋書きも登場人物も、作品形態も、千差万別なのだ。
イーヴァルディにしても、男だったり女だったり、神の息子だったり妻だったり、ただの人だったりと、物によってコロコロ変わる。
そういう実にいい加減な物語群なのだが、そこがまた気楽に楽しめる人気の秘訣なのだろう。
主人公がメイジではないので平民に人気のあるシリーズなのだが、幼い頃は自分も大好きだったものだ。

若い男性のイーヴァルディが、攫われた娘への僅かな恩義を返すために竜に挑む、という物語の絵本が特にお気に入りだった。
おそらくは最も有名で典型的な筋書きのもので、ディーキンが読んだか聞いたかして知ったのも多分それなのだろう。
最初に読書の楽しみを教えてくれたのがその本だったこともあって、今でもよく覚えている。
いつか、自分も竜に囚われた少女になって、素敵な勇者に救い出されたいと、今思えば赤面するようなことを夢想していたものだった。

そんなことを懐かしく思い返しながら、タバサはそっとディーキンの傍に寄り添うようにして、本を眺めつづけていた。

イーヴァルディが古の墓所に潜む悪霊を退治する、という物語だ。
おそらくは自分が好きなイーヴァルディのシリーズだからと思って、両親が買い求めてくれたのだろう。
だが、おばけが出てくる時点で、幼い臆病な少女にはダメだったわけだ。
今見てみると怪談でもなんでもないのだが、一体当時の自分は何を怖がっていたのか……、こうして振り返ってみると、気恥ずかしい。

「オオッ……、イーヴァルディは悪霊に憑りつかれた少女を前にして、あえて剣を捨てたの!
 一体この後、どうするつもりなのかな……?」

おそらくは幼い頃のタバサと同じくらい幼気に目を輝かせながら本をめくる、竜にして勇者である若き亜人の少年。

「うーん……、殴って気絶させるとかかしら?」

彼のパートナーであるところのルイズも、その様子を見て微笑ましく思ったのか。
あるいはタバサと距離が近い睦まじい様子に、少しばかり嫉妬心でも起こしたものか……。
いつの間にか作業を中断して、彼の後ろから本を覗き込んでいた。

ルイズはそこで、ふと何かに気付いたように首を傾げた。

「……あれ? この絵本、ページが片面なのね」

イーヴァルディ(この物語では妙齢の女性だった)と少女が対峙する場面と、ついに悪霊を放逐して2人が抱擁を交わす場面。
それらのページの裏面に、何も書かれていないことに気が付いたのだ。

「ンー、そういえば……」

ディーキンはぱらぱらと本をめくって、前の部分のページも見直してみた。
物語に集中していたのであまり気にしていなかったが、確かにこの本はページの片面しか使っていないようだ。
ずいぶんと珍しい作りの本である。

「もしかして、読みながら何かメモとかを取れるようにわざと開けてあるのかな?」

「……違うと思う」

じっとその空白のページを見つめていたタバサは、ふと思いついて棚から他の絵本も抜き出し、次々に開いてみた。
案の定、すべてではないものの、片面しか使っていない絵本が何冊も見つかる。

小さい頃、それらの絵本の白紙部分に落書きをしようとした覚えがある。
ディーキンが考えたように、自分もこれは書き込みをするためのスペースだろうと解釈したのだ。
だが父は、『本に字を書いてはいけないよ、大切に扱いなさい』と窘めて、空白部分に何かを書くことを禁止した。

当時は同じような作りの絵本を何冊も見ていたので、そういうものなのだと思って特に疑問にも感じなかったが……。
今になって思い返してみると、何だかおかしな話だ。
これまでに数え切れないほどの本を読んできたが、ページの片面しか使ってない本など、他ではまずお目にかかったことがない。

タバサは2人が見守る中で、それらの白紙のページの表面を、穴が開くほど注意深く見つめた。
それから目を閉じて繊細な指先に感覚を集中すると、全体をゆっくりとなぞってみる……。
すると案の定、字を書いた跡のような微細なへこみがあちこちにあるのが感じられた。

「……なにか、書いてある」

タバサは杖を振って、『ディテクト・マジック』でその本を調べてみた。

娘のための本を届けさせるついでに、その中に秘密の文書を仕込ませるというのが父のやり方だったのだとしたら……。
これらの絵本の妙な作りも、白紙のページに字を書かないようにと指示したことも、納得できる。

だが今度は、当てが外れた。
それらの白紙のページからは、怪しい魔力などは感知することができなかったのである。

「ウーン。ひょっとしたら、魔法じゃないのかもね……」

魔法で見えない字を書くことは可能だろうが、これほど魔法がありふれた世界ではそういった手法はむしろ見破られやすいはずだ。
タバサが真っ先にその可能性を想定したことからもわかる。
ならば、メイジである貴族にとっては疎いであろう、魔法を使わない技術を用いる方が安全性が高いかもしれない。

「魔法じゃないって……、魔法を使わないで白紙のページに何かを隠す事なんてできるの?」

ディーキンはルイズの疑問に軽く頷きを返すと、ベルトポーチから火おこし棒とろうそくを取り出した。

「こっちではどうかはわからないけど、フェイルーンではノームの発明家や錬金術師がいろんな道具を作ってるの。
 どんなものが使われてるのかわからないから、いろいろ試してみるね……」

そういいながら、傍にある柱に火おこし棒をこすりつけて発火させると、ろうそくに火をともし。
それを注意深く本に近づけて、引火しないように気をつけながら白紙のページを炙ってみた。

ディーキンは、これらの本にはフェイルーンでいう“消えるインク”のようなものが使われているのではないだろうかと考えたのだ。
書いた後で時間が経過するとひとりでに消えて、熱を加えるとまた見えるようになるという特殊なインクである。

もちろん炙り出し以外にも、日光に晒すとか、水に浸すとか、特殊な薬剤を塗るとか、いろいろな変種が考えられる。
上手くいかなければ、それらを順々に試してみるつもりだったのだが……。
どうやら最初ので正解だったらしく、火で炙り始めるとすぐに、白紙だったページにおぼろげな文字が浮かび上がってきた。

ルイズはその様子を見て、目を丸くしていた。

「これって、魔法じゃないの? 魔法を使わずに、こんなものが作れるのね……」

タバサはいつもの無表情を変えなかったが、興味はあるようでじっと見入っている。

「本で読んだことがある。実際に見るのは、初めて」

なるほど、父はこのようにして誰かから情報を受けとっていたのか。

途中で誰かに見られる心配が少ないし、万が一疑われてもインクは非魔法の品だから魔法感知には引っかからず、露見しにくい。
読み終わった後は、『錬金』でインクを加熱前の状態に戻せば紙は元の白紙になり、ただの絵本として疑われずに保管しておけるわけだ。
紙には一切影響を与えずにインクだけを綺麗に元に戻すことは並のメイジには困難だが、父の技量ならば造作もないことだろう。

「上手くいったみたいだね……。じゃあルイズ、タバサ。
 ディーキンは他の本も調べてみるから、ちょっと手伝ってくれる?」

3人はそれから、棚にある本を手分けして調べ始めた。

ディーキンが《見えざる従者(アンシーン・サーヴァント)》に指示を出し、次々と棚から本を出させて、白紙部分を火で炙らせていく。
そうして浮かび上がってきた文字を、3人は代わる代わる読んで、内容を各自でメモなどに取ってまとめていった。


「……ふう。大体、こんなものかしら?」

あらかたの本を調べ終わって、3人はようやく一息入れることにした。

ディーキンが手近の戸棚からカップを取りだし、手持ちの金属瓶からとっておきの熱い砂糖入りの紅茶を注いで、みんなに配る。
それからお茶請けに、乾し果物やナッツも少し皿に盛って差し出した。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。……甘くて、おいしいわね」

「感謝」

実際には、ルイズらが普段学院で飲んでいるものとは比べるべくもないごく平凡な紅茶と、冒険者用の保存食でしかないのだが。
一仕事終えて体や頭が疲れたところに甘く温かいものを飲み食いすれば、なんであれ満たされるものだ。

そうして人心地がついたところで、3人はゆるゆると調査の結果について話し合いを始めた。

「なんだか、タバサのお父さんはあちこちの遺跡について調べてたみたいだね」

この部屋にあった絵本には、シャルル大公が謀反や陰謀を企てていたと直接的に伺わせるような内容は何も書かれていなかった。
確かに、ここにある情報はタバサがまだ絵本を読んでいた頃のものなのだから、大公が死ぬ何年も前のはず。
その頃はまだ、謀反の企てなどを本格的に取り交わすような段階ではなかっただろう。

書かれていたのは、主として各地の遺跡でこのような発見があった、というような報告らしきもの。
大公はなぜか、ハルケギニアのあちこちにある古い時代の遺跡を密かに調査させ、こんな秘密の方法で連絡を受け取っていたらしい。
おそらくこちらの方からも、報告の結果を受けて、調査団に何らかの手段で指示を送っていたのだろうが……。

「……父さまは勉強熱心で、いろいろな研究に関心をもってはいた。
 でも、どうしてこんな隠すようなことをする必要があったのかは、わからない」

「そうね。それに、伝説の『虚無』に関する情報が見つかった……、とか書かれた本もあったわ」

先程自分が『虚無』かもしれないと聞かされたばかりのルイズには、その部分が特に印象に残っていたのである。

「大公は、失われた『虚無』について調べておられたのかしら?
 だけど、どうして……」

「ウーン……、ねえ、タバサのお父さんって、すごい魔法使いだった人なんでしょ?
 もしかして、自分が『虚無』を使おうと思ってたとかは考えられない?」

ディーキンに意見を求められて、タバサはじっと考え込んだ。

確かに、父は希代の天才と謳われ、若くして四系統すべてに精通したメイジだった。
そして、自分の考えていたよりもずっと野心家で、魔力を高めようと陰で必死に努力を重ねていたという。
それならば、伝説の『虚無』をと望んでいたとしても、不思議ではないかもしれない。

「……それは、ありえるかもしれない。ただ……」

ただ、それをなぜ隠す必要があるのかという点がやはり釈然としない、とタバサは説明した。

何せ父は、希代の天才と謳われていたという点を差し引いても、始祖ブリミルに連なる王族なのだ。
『虚無』の研究を行っても不自然ではないし、非難されるようないわれもないはず。
ロマリアの宗教庁も『虚無』の研究をしているというから、もしかしてそのあたりから何か言ってはくるかもしれないが……。
こんなスパイめいた真似をしてまで、徹底的に情報を隠蔽して隠れて調査をするほどの理由にはならないだろう。

3人が考え込んでいると、唐突にエンセリックが口を挟んだ。

「失礼、意見をよろしいですか?」

「もちろん」

「では……、あなたのお父上が『虚無』とやらを周囲に知らせず密かに研究されていた動機について、ということでしたが。
 あなたの伯父上、つまりはお父上の兄君が、『虚無』なのではないかと疑っていたからである……、というのはどうでしょうか?」

エンセリックにそう指摘されて、3人ははっとして顔を見合わせた。

確かに、ジョゼフ王はその優秀な血筋にもかかわらず魔法がほとんど使えないために、無能王と揶揄されているという。
それは、現に『虚無』ではないかと考えられているルイズにもそっくりそのまま当てはまる特徴だ。
ならば確かに、ジョゼフもまた『虚無』であると考えられないこともないだろう。

そして、シャルル大公は優秀なメイジであり、聡明な人物であり……、何よりも、ジョゼフの実の弟なのだ。
常に身近に接してきた兄が、実は無能なメイジではなくむしろ伝説の系統の担い手なのではないかと、気が付いたとしてもおかしくはない。

そのことは、次の王の座を狙う彼にとってはゆゆしき問題であろう。
兄が自分の系統に気付かぬうちに、自らも『虚無』を習得したいと考えたのか、あるいは『虚無』への対抗策を探ろうと考えたのか……。
いずれにせよ、『虚無』について探る一方で、その探っているという情報さえも兄に伝わらぬよう伏せたいと考えるのは当然だ。

「どうです、あなたとしてはどう思われますか?」

エンセリックにそう問い掛けられたタバサは、俯いてやや顔をしかめた。

「…………」

タバサとしては、父がそのような姑息ともいえる行動をとっていたとは、あまり思いたくはなかった。
だが、そう考えれば一応、話のつじつまが合うのも確かだ。

「……それも、ありえるかもしれない。でも……」

今のところはすべて憶測の域を出ないことで、証拠は何もない。
そう続けようとしたところで、突然キュルケが部屋の中に駆け込んできた。

それを見て、ルイズが顔をしかめる。

「ちょっとキュルケ、そんなに急いでどうしたのよ?」

「やっと見つけたわ! ディー君、タバサ、ルイズ、ちょっと来て。
 そんなに本を散らかして、何をしてるのかは知らないけど。
 こっちでちょっと面白いものを見つけたから、あなたたちにも調べてみてほしいのよ!」


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