あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-72


「あれは……ボスとした最初の冒険が終わって、彼と別れた後だから……。
 まだ、ウォーターディープに着く前のことだね」

ディーキンはルイズらの聞き入る中で、静かに自分の『冒険者としての最初の仕事』の話を語り始めた。

「旅行中に夜になって、小さな人間の村へ着いたの。
 その時、ディーキンはとてもお腹がすいてたから、その村に入ったんだ――――」







「ううう……」

ディーキンは崖の上からその小さな村の灯りを眺めながら、もうずいぶん長いこと躊躇していた。

まるで神経質な鼠のように、不安げに何度も、きょろきょろと周囲を伺っている。
まだ決心が固まらないうちに村の人間に見つからないか、心配なのだ。

少し前までは、こうじゃなかった。
あの“ボス”と共に偉大な冒険を終えて、少しく自信を持っていたものだった。
もう少し堂々と、人間の前に出ていってみたことも何度もある。

けれど、彼と別れて一人で旅をしてみて分かった。
英雄なのは、あくまでもボスだったのだ。
自分は決して英雄でもなければ、強くもなかった。

人間の前に出ていっては追い回される、そんな経験を何度もした。
逃げずにあくまで粘ってみようという根性も、彼らに対抗しようという勇気も、自分には出せはしなかった。
そのせいで、この頃は挑戦してみようとする気持ちからして、すっかり挫けてきていたのだ。

けれど、自分の小さな胃袋がまたグーグーと鳴って、しまいにきりきりと痛んでくるに及んで、ディーキンもついに覚悟を決めた。

「このままじゃ、飢え死にしちゃうし……。
 ディーキンは、行くしかないってことだよね……」

前の夜に、大きなクマに荷物を荒らされて、とっておいた食べ物をみんな食べられてしまったのだ。
レンジャーでもない自分が、この寒い季節に野外での狩りや採集だけで凌ぐのは、土台無理な相談だった。

実際には、本気を出せば自分でも、クマくらいは追い払うことができたかもしれない。
でも竦み上がってしまって、とても立ち向かう勇気はなかったのだ。

食べ物を取られた仕返しくらいで、悪気もないただの動物を傷つけたり殺したりする気が起きなかった、というのもある。
だがどちらかといえば、そのことを言い訳にして自分を正当化していた、というほうがより正しいだろう。

「……アア、ディーキンはどうして、食べ物を作る呪文を覚えておかなかったのかな……」

《お祭りの御馳走(フェスティヴァル・フィースト)》の呪文かなにかを自分が使えれば、こんなことをしなくても済んだのに……。
ふとそう考えて、自分の挑戦心がすっかり萎えてしまっているのを改めて自覚する。
ディーキンは、ひどい自己嫌悪に襲われた。

自分は、ボスやご主人様がいなくてはなんにもできない、まったくの弱虫だ。

とにかくひたすら頭を下げて回って、余り物の一皿でももらえれば恩の字だ。
それが駄目なら、家畜の餌のいなご豆でもなんでもいい。
食べ物さえもらえればすぐに村から出て行くと言おう、馬小屋でもいいから寝かせてくれとまでは求めるまい。

ディーキンは頭の中で何度も頼み方を検討し直しながら、おずおずと村の方へ降りていった……。







「それで……。ディーキンはおそるおそる酒場の扉から中をのぞいて、食べ物をなにかくれないかって聞いたの。
 そしたら、太った人間の女の人が顔を出して、『いいけど、そんな寒いとこにいないで入りなよ』って言ってくれたんだ!」

ディーキンはどこか遠くを見るような目をして、しみじみとその女性のことを話し始めた。

「本当に変だったよ。ディーキンはおかしな気持ちだったの。
 だって、ディーキンを中へ入れてくれて、たくさん食べさせてくれて、部屋まで用意してくれたんだもの。
 たぶん、彼女はコボルドを見たことがなかったし、いろんなお客の相手をしてきたからかな……。
 とにかく、ディーキンのことをあんまり奇妙だとは思わなかったみたい」

「へえ、ディー君は運が良かったのね」

「うん。ディーキンはママみたいな人に会えて、とても運が良かったよ!
 後から酒場に入ってきた人は頭にきてたけど、太った女主人が話して、その場を収めてくれたんだ。
 ママがディーキンのことを、『何言ってんだい、この子は紳士だよ。紳士に失礼じゃないか』って言ったんで、みんな落ち着いたの」

その時の気持ちを思い出して、ディーキンは照れたように頬を掻いた。

「ディーキンは初めてそんな風に言われて、すごくくすぐったい感じだったな……。
 ママは1人で宿を経営してたんで、ディーキンは1週間程泊まって仕事を手伝ったんだ。
 彼女はディーキンに親切にしてくれて……、『息子のことを思い出すよ』って言ってくれたの」

ディーキンが幸せそうに“ママ”の事を話すのを聞いているうちに、ルイズはふと、下の優しい姉のことを思い浮かべた。

「ふうん。いい人に会えて、よかったじゃない」

「うん、とってもね。ディーキンは、そのまま留まって、ママを手伝おうかとさえ思ったよ。
 英雄にはなれなくなるけど、それでもいいかなって……」

そう出来ていたら、自分は今頃、その小さな村の酒場のちょっとした名物にでもおさまっていたかもしれない。
それはそれで悪くない人生だったに違いないと、今でも思う。

嬉しそうに話していたディーキンは、そこで急に、話すのをやめて黙り込んだ。
しばらくして、俯いたままぽつりと呟く。

「……でも……、それは叶わなかった」

ぽろぽろと涙が溢れてディーキンの顔をつたい落ちるのを見て、ルイズらは皆びっくりした。
彼が泣くなんて、想像もできなかったのだ。

「ある晩、オオカミが……、村にやってきたの。
 ママは……、その時、外にいて……。
 オオカミに、殺されちゃった……」

ディーキンは声を絞り出すようにしてそう言うと、ようやく自分が泣いていることに気がついて、ぐしぐしと頬を拭った。

残念ながら当時のディーキンには、女主人を生き返らせる手段は何もなかったのである。
もちろん、蘇生の秘跡を行なえるような司祭も、その小さな村にはいなかった。

「ディーキンは、その時眠ってたの。
 ママが外にいることなんか、ちっとも知らなかった……」

まだ少し震える声で、ディーキンは話を続ける。

「……最初、村の人たちは、ディーキンがママを殺したんじゃないかって思ったの。
 でも近くでよく見たらオオカミのしわざだってわかって、村長は『オオカミを殺しにいった者に金を出そう』って提案したんだ。
 だけど、村人は誰も買って出なかった。オオカミは大きいし危険だってね。……だから、ディーキンが志願したの」

ディーキンの声は、最後の方になるにつれて、次第に強張っていった。

戸惑いながらも、ディーキンを慰めようと彼の頭に手を伸ばしかけていたルイズは、その顔を見て……。
ぎょっとして、凍りついたように動きを止めた。

他の皆もまた、ディーキンの表情に気がつくと、ひどく衝撃を受けた。
その時のディーキンの顔は、まぎれもない怒りと憎悪の感情に歪んでいたのである。

「悲しかったけど、怒りもあったの。ママがあんな死に方をするなんて、許せない!
 だからオオカミの洞窟をみつけて……、一匹残らず、皆殺しにしたんだ!」







――――あそこだ。

ディーキンは、いつになく険しい目で、岩肌にぽっかりと空いた洞窟の入り口を睨んだ。
怒りのあまり、先程ママの遺体を目にした時の胸の潰れそうな悲しみや引き裂かれるような絶望は、すっかり心から消えていた。

「あそこにいるやつらに、ママを殺した報いを受けさせてやる……!」

憎々しげにそう吐き捨てると、真っ直ぐに洞窟へ向かう。
村に入る時に感じていたようなためらいや恐怖は、今は微塵も無かった。

ディーキンは明かりもつけずに、躊躇なく暗い洞窟の奥へと突き進んでいった。
暗視能力を持つコボルドには、そんなものは要らないのだ。

おそらく、夜目が効き、嗅覚も鋭いオオカミたちは、自分の侵入をすぐに察知するだろう。
縄張りへの侵入者を排除しようと、集団でこちらを取り囲んでくるだろう。

だが、それがなんだ?

あちらから向かってくるのなら、皆殺しにするのには好都合ではないか。
ただ、それだけのことだ。

ただの動物であるオオカミには、ものの善悪を判断するような能力はないのだ。
別に悪気があって彼女を殺したわけではないだろう。
この寒い季節で、彼らとて生き延びるために必死だったのに違いない。

だが、だからどうしたというのだ?

奴らが自分の恩人を殺した仇であることにはなんの違いもないではないか。
悪気の有無など、こちらの知った事か!

(……きた……!)

怒りのためかいつになく研ぎ澄まされた五感は、暗視の範囲にオオカミを捕えるよりも先に、その接近を感知した。
いくつもの唸り声、足音、獣の匂いが、洞窟の岩肌の向こうから迫ってくる。

怒りに歯を食いしばり、憎しみに目を吊り上げる。
武器のスピア(槍)を握る手に、力がこもる。

距離を保ってまずは飛び道具で攻撃しようとか、呪文を使おうとか、まきびしを撒いておこうとか……。
そんな理性的な思考は、感情の爆発の前に一切消し飛んでいた。

ややあって、ついに最初のオオカミが曲がり角から姿を現したとき、ディーキンは雄叫びを上げて突進した。

「ウォォオオオオォォッ!!」

まったく隠密性などを考慮しない、その突然の怒号に晒されたオオカミは一瞬怯んで立ち竦んだ。
そして、体勢を整え直して迎え撃つ間も、かわす間もなく、次の瞬間にはもう脳天を串刺しに刺し貫かれて絶命していた。

ディーキンの怒りがそのまま形となったような、まさに会心の一撃だった。

しかし、もちろんオオカミは、その一匹だけではない。
後続のオオカミたちは、先手の一頭がいきなり突き殺されたことに多少は怯んだようだが、さすがに野生の獣である。
すぐに気を取り直して散開し、ディーキンが死体から槍を引き抜くころには、すっかり彼を包囲し終えていた。

先程屠ったのはどうやら一番の下っ端ゆえに先頭を歩かされていた奴らしく、残りのオオカミどもはどいつもこいつもそれより大きかった。
だがそれを見ても、ディーキンの心に恐怖心はいささかも沸き起こってこない。

それどころか、ますます怒りと憎悪で心が煮え滾り、血が沸き立っているかのように体が熱くなってくる。

(この、ちっぽけで下等なケダモノどもめ!)

なぜか、そんな思いが心をよぎった。
少なくとも、ディーキンより小さなオオカミなどは一匹もいないというのに。

オオカミたちの数は、全部で十匹以上。
彼らは唸り声を上げながら包囲の輪をじりじりと狭め……、ついに一斉に飛び掛かってきた。

ディーキンは、すかさず正面から来る一頭の前に槍を突き出し、突進してきたところを串刺しにして迎撃してやった。
肩のあたりを貫かれて苦しんでいるオオカミをそのまま堅い岩の床に叩きつけて槍を捻り、止めを刺す。

その間に四方から、残りのオオカミたちが襲い掛かってきた。

ごく柔らかいコボルドのウロコやなめし革の鎧程度では、オオカミの鋭い牙を完全には防ぎきれない。
体に一頭のオオカミの牙が食い込み、鈍く熱い痛みが走った。

だがその痛みも、今のディーキンを怯ませる役には立たない。
ただ、煮え滾る怒りの炎に油を注いだだけだ。

ディーキンは完全にオオカミの体を貫いた槍を抜くのは諦めて手放し、代わりに腰からショート・ソード(小剣)を引き抜いた。
それで、自分の腰の辺りに噛み付いているオオカミの頭を力任せに突き刺す。

しかし、コボルドの非力ゆえに一撃ではそのオオカミは死なず、痛みに身悶えしながらもさらに激しく食らいついてきた。

「ぎっ……!」

ディーキンは敵に対する憎しみと、自分の非力さに対する苛立ちとで唸った。

そのオオカミの頭から剣を抜き、角度を変えて今度は顔の正面から二度突き込んで止めを刺し、自分から引きはがした。
その間に、また残りのオオカミたちが食いついてくる。
ディーキンはその攻撃を受けて傷つきながらも、一匹ずつ血にぬめる小剣で仕留めていった。

しかし、残りのオオカミの数がついに4匹にまで減った時。
一体のオオカミがディーキンの足に食いつき、そのままバランスを崩させて、地面に引き倒すことに成功した。

起き上がる間もなく、それとはまた別のオオカミがディーキンの上に飛び乗って、押さえつけてくる。
獣の熱い吐息と滴る涎に、ディーキンは顔をしかめた。
そのオオカミの牙が自分の喉笛に食らいつくのを、間一髪小剣を間に差し込んで阻止し、そのまま喉の奥を貫いてやった。

死んだオオカミの重たい屍を押しのけた瞬間、息つく間もなく今度は足を噛んだオオカミが自分の上にのしかかってきた。
しかもその拍子に、オオカミの喉の奥から溢れ出してきた大量の血で手が滑り、小剣を手放してしまう。
新しくダガー(短剣)を抜こうにも、体勢が悪い上にオオカミに押さえ込まれていた。

ディーキンがその時に感じたのは、恐怖でも絶望でもなく、ただより一層の怒りと憎しみだけだった。
そのオオカミの欲望にぎらつく目を、憎しみを込めて真っ向から睨み返してやる。

「グルルウゥ、……!?」

口の端から涎をこぼしながら、興奮して狂ったように唸っていたオオカミは、その途端に怯えたように身じろぎした。
まるで、ドラゴンにでも睨まれたかのように。

慌ててディーキンの上から降りて逃げようとしたが、ディーキンはそいつの首に腕を回して、ぎりぎりと締め上げた。

「……ディーキンは、すごく怒ってるの。
 たぶん、あんたを締め殺してやりたいんだよ……!」

しかし、コボルドの細腕では、なかなか絞め殺すことができない。
ディーキンは口を大きく開くと、そのオオカミの喉笛にくらいつき、力の限り噛みしめて、牙を深く深く埋めてやった。
オオカミはごぼごぼと血の泡を吹きながら、しばらく身悶えしていたが、やがて動かなくなる。

そいつの死体を放り捨てて起き上がると、勝てぬと悟った残る2匹がキャンキャンと情けなく鳴いて踵を返し、逃げ出そうとした。

「逃げるな! このちっぽけな犬コロめ!」

ディーキンは無意識にそう吠えて、懐から短剣を抜くとそのうちの一頭に投げつけた。

「ギャンッ!?」

短剣は狙い違わず、そいつの後ろ脚を捕えて切断した。
不具となったオオカミの哀れな苦鳴が響く。

ディーキンは脚を失って悶え苦しむそのオオカミに歩み寄ると、新しい短剣を引き抜いて止めを刺した。
それから、最後の一頭を追って洞窟の外へ向かった。
戦いの興奮が少しく引いて、麻痺していた痛みが全身を苛み、失血で傷口が冷えてきていたが、足取りはまだしっかりしている。

洞窟から出て周囲を見渡すと、遠くのほうに、慌てて崖を逃げ下ってゆくのが見えた。
ディーキンは冷たい目で、黙ってその無様な負け犬の姿を見据えると、ゆっくりとクロスボウを取り出してボルトを装填し……。







あの時の気持ちを思い出すと、ディーキンは今でも体が震える。

身を引き裂かれるような絶望と悲しみ。
煮え滾るような怒りと憎しみ。
初めて自分一人の力で冒険をやり抜いたという、達成感と喜び。

そして……、そればかりではない。

間違いなくあの時の自分は、獣どもの血と臓腑に塗れて、邪悪な衝動、昏い愉悦と興奮を覚えていた。
その証拠に、あの日を境に自分は赤竜になる夢を見るようになり、ドラゴン・ディサイプルとしての修行を考えるようになった。
体の中に眠っていた、地上で最も邪悪な竜族の血が目覚め始めたのだ。

「あの時のディーキンは、ぜんぜん弱くて。牙がいっぱい体に食い込んで、あやうく死にかかったけど……。
 それでも、ディーキンはオオカミをみんな殺して、気分がよかったよ。
 ママの復讐をして、真の冒険者になったと思ったの。村長も、約束通りに報酬を支払ってくれたもの」

「……っ、」

一瞬、ディーキンの顔が怒り狂う獰猛な火竜か、冷酷な爬虫類のそれのように見えて、タバサは我知らず身を竦ませた。

そんな表情を彼が浮かべていることが、信じられない。
その表情は自分に向けられたものではないとはわかっているのに、なぜかひどく怖かった。
命懸けの任務でさえ、怯える事など滅多にないこの自分が……。

もしもそれが自分に向けられたものだったら、私は絶望のあまり、引き裂かれるより先に死んでしまうのではないか。
そんな愚にもつかないような考えさえ、心をよぎる。

(私も、復讐のことを考えている時は、あんな顔をしているの?)

だとしたら、その顔を彼にも見られていたことになる。
そう考えると、ひどい自己嫌悪に襲われた。

「今思うと、そんなことで偉いことをしたつもりになってたなんて、恥ずかしいけどね……。
 ディーキンは、ルイズたちにだから話したの。みんなには、内緒にしといて」

ディーキンはそう言って、きまり悪そうに頬を掻いた。

幸いにも、その後ほどなくしてディーキンは、ウォーターディープでボスと再会することができた。
そのとき、ディーキンはこの初めての冒険の話を彼にも聞かせた。
少しばかり手柄顔をして、自慢げに。

彼は、自分が復讐の念に駆られて悪でも何でもない動物たちを虐殺したことを少しも責めなかった。
感心しないというような態度さえ見せなかった。
ただ、ママのことを悼み、よく頑張ったなと言って、自分を労ってくれた。

しかし、また彼と旅をして、彼を傍で見るうちに、自然と自分の憎悪に駆られた復讐の行為は誤っていたと悟るようになったのだ。

別に、あのオオカミたちを殺したこと自体が誤っていたとは思わない。
人間を襲って味を占めた彼らは、また別の村人を襲う可能性も高かっただろうから。

だが、ボスなら決して、憎悪に駆られてそれをしはしないだろう。
彼が自分の憎悪ために復讐に走るなど、到底考えられない。
自分は彼に憧れていたはずなのに、殺し合いなど好きではなかったはずなのに、どうしてあんなことをしてしまったのか……。

あの時ほど、自分が英雄の器ではないと痛感したことはなかった。
彼の高潔な生き方に再び接することができなければ、いずれは邪悪な赤竜の血の衝動に飲まれて墜ちてしまっていたかもしれない。

それでもなお、たとえ英雄にはなれなくても、自分は旅を続けたいと思った。
自分は詩人であり、冒険者であるから。
そう思えたあの時に初めて、自分は本当の意味で『冒険者』になったのかも知れないな、とふと思った。

「その……、それで、その後は、どうなったのですか?」

シエスタが、おずおずと質問した。

「うん……。その後、ディーキンは村を出て、ウォーターディープに向かったの。
 オオカミを殺したからって、村人がディーキンのことを本当に信頼してくれるわけじゃないもの。
 それに、もうママもいないしね……」

彼女のいない村は、それまでのように温かくは感じられなかった。
あの村は、既に自分の居場所ではなくなっていたのだ。

「彼女のことで、ディーキンはボスを思い出したの……。ボスがいなくて、あれほど寂しいと思ったことはなかったよ。
 いい仲間が一緒じゃないと、旅はとっても大変なんだってことがわかったの。
 それは、ディーキン自身が努力しないってことじゃないけどね」

だから、今のタバサにもきっといい仲間が傍にいてやることが必要なのだと、ディーキンはそう信じていた。

ただ、それを口には出さなかった。
あの時のボスも、きっとそうだったに違いないから――――。


新着情報

取得中です。