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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-71


オルレアン公夫人の語った話は、タバサにとっては大きなショックだった。
伯父への復讐心を燃やすにあたって、自分がこれまで信じてきた前提には、大きな誤りがあると伝えられたのだ。

ジョゼフは、父であるオルレアン大公に家族を殺すと脅迫することによって、王位を諦めるよう迫った。
そして、優秀で人望の厚い弟に託された王の座を簒奪した。
その後、脅迫が明るみにでることを恐れたジョゼフの手の者によって父は暗殺され、大公家は反逆者の汚名を着せられた……。

これまでタバサはそうに違いないと確信してきたし、シャルル派の貴族たちのほとんどもそれを信じているはずだ。

だが、母によれば、ジョゼフは王位の簒奪などしてはいないのだという。

「葬儀の後にリュティス大司教が読み上げた遺言の中で、先王はジョゼフ殿下を次の国王に指名していました。
 それだけでなく、私はシャルル自身の口からはっきりと聞いたのです。『父上は崩御の間際に、後継者を兄上に決められたよ』と」

「そんな、はず……! 伯父にやましいことがないのなら、どうして父さまが……」

必死の面持ちでそう問い掛けてくる娘の頭を優しく撫ぜながら、夫人はそっと首を横に振った。

「それは、私にもわかりません。
 ジョゼフ殿下……、いえ、ジョゼフ陛下が、本当にシャルルを暗殺したのかどうかということも――――」

夫人は一旦言葉を切ると顔を伏せて、悲しげに溜息を吐いた。

「それに……、反逆者と呼ばれるに値するような咎が、シャルルにまったく無かったかどうかということさえも、です」

「え……?」

タバサは、一瞬意味が分からずに目をしばたたかせ……、次いで、耳を疑った。
父が、あの優しく誰からも認められ慕われていた父が、本当に反逆者なのかもしれないと?

「……どうして!? 父さまには、反逆をするような理由なんて……!」

「あの人は、王の座を欲しがっていました。
 それも以前から、ずっと。渇望しているといってよいほどに……」

「……! そんな……」

タバサは顔を歪めて、いやいやをするように首を振った。
聡い彼女には、この話の先がなんとなく見えてきたのだ。

娘のそんな姿を見て、夫人も辛そうに首を振って少し躊躇ったが、先を続けた。

「……あの人の名誉のためにも黙っておこうと考えていましたが、そうもいかないようです。
 シャルルは王に選ばれたいがために、自分の評価を少しでも高めようと、ひたすらに魔法の腕を磨いていました。
 まっとうな努力をするだけではなく、いろいろと怪しげな薬や儀式にまで手を出したり、古代の魔法具を求めたりもしていたようです。
 それに人脈やお金を使って根回しをして、大臣たちを味方につけたり。
 家臣たちをたきつけて、ジョゼフ殿下の評判を貶めるように画策したり……」

タバサは、俯いて苦痛に耐えるようにぎゅっと目を瞑り、何かを否定するように首を横に振っていた。

彼女ももう、子どもではない。
どんなに非の打ちどころのないように見える人間でも、御伽噺の中の英雄や聖者とは違うのだということくらいはわかっている。
けれど、あの優しい父が、思い出の中でいつまでも清らかだった父が、実は権力の座に執着していたのかと思うと……。

それでも、耳を塞ぐことはしなかった。
自分が聞いておかなければならない話であることはわかっていたから。

「私にも話してはくれませんでしたが、何やらいかがわしい者たちとも、ずいぶんと付き合いがあったようですし……。
 あの人が実際に反乱の相談をしていたとしても、不思議には思いません。
 事実、あの人が亡くなった後、あの人を立てる大勢の貴族たちが早々に私の元へ押しかけて、決起を促してきました。
 シャルルが関知していたかどうかまではわかりませんが、少なくとも彼らは先王の崩御の直後から既に挙兵の準備をしていたのでしょう」

夫人はそこで、困惑したように顔を見合わせているルイズらの方に向けて、少し頭を下げた。
それから、改めて体を震わせている愛娘の方に向きあう。

「シャルロット……。もし、あなたがジョゼフ陛下を討つなどということをすれば、私たちの母国はどうなるのです。
 今のガリアの情勢を、はっきりとは知りませぬ。ですが、国が2つに割れ、多くの血が流れることは間違いないでしょう。
 私は、それを避けるためにあの毒杯をあおいだのですよ?」

タバサは、はっと顔を上げて、母を見つめた。

「私はシャルルにも、平和と、私たち家族皆の安らぎを大切に考えてくれるようにと願いました。
 でも、あの人は王の座を諦めてはくれなかった。
 シャルロット、あなたまであの人の後を追うようなことをしないで。復讐など考えず、私と静かに暮らしましょう」

「母さま……」

静かに泣く母に抱きしめられたまま、タバサはしばらくの間、ただ呆然と立ち尽くしていた……。





酒場での講演を終えたディーキンは、ルイズらの待つ部屋へ戻ると、事の次第を聞かされた。

オルレアン公夫人は席を外し、トーマスやペルスランと別室で話をしている。
忠実な従者たちにも、事の成り行きを自分の口から伝えておかなくては、という考えからだ。

シルフィードはたらふく飲み食いして、暢気に酒場で居眠りしていた。

「うーん……、ディーキンにはあんまり難しいことはよくわからないけど、わかったよ。
 それで、タバサはどうするつもりなの?」

ひととおりの話を聞き終えたディーキンは首を傾げて、俯いて物思いに沈んでいるタバサにそう問い掛けた。

「……私は……」

「タバサ、その、あなたのお父さまの方にも否があったかもしれないっていうのは、私も信じたくないことだけど……。
 復讐は何も生まないし、夫人の言われたとおりだわ。親子2人で、静かに暮らすべきよ」

ルイズが口を挟んで、そう提言する。

「もしもあなたがそれを望むのなら、ゲルマニアの私の屋敷の方に来てくれれば、お母さまもあなたも安全に匿ってあげられるけど……」

キュルケはルイズの提案に沿ってそういいながらも、必ずしも賛成ではない様子だった。

ルイズの言葉は正論かも知れないが、綺麗事だ。
そんな綺麗事で、簡単に復讐の炎が鎮まるものなら世話はないだろう。

確かに夫人の言葉には考えさせられる点はあった。
だが、どんな事情があったにせよ、タバサの父を殺したのがジョゼフなら仇であることには変わりないのだ。
仮にそうでなくとも、タバサの母親に心を壊す薬を飲ませ、姪であるタバサに危険な任務を押し付けたのは間違いない事実ではないか。
向こうに非がないなどと、どうして言える?
なのに大切な親友が、そんな目に遭わされた恨みも晴らせずに、連中の目を怖れてこそこそと隠れ続けながら生きることになるなんて!

夫人の願いを無下にしたくはないものの、その辺りがキュルケにはどうにも納得できなかった。

「その、ミス・タバサが私的な復讐をされるのには賛成できませんけど、悪には報いがあるべきです。
 本当のことを確かめて、罰されるべきところがあるなら、法に則って罰を受けるか、贖罪を果たされるべきだと思います。
 難しいことだとは思いますけど……」

シエスタは遠慮がちに、しかしはっきりした意思を込めてそう提言すると、ディーキンの方を見た。

彼女は、できればタバサには母親と静かに暮らしてもらって、自分たちでそれを成すことはできないか、と考えていた。
ガリアの国王を相手に一介の平民が、なにを夢のようなことをと誰でもいうだろう。
しかしディーキンやラヴォエラが協力してくれるのなら、きっとできるはずだとシエスタは信じている。

よしんばそうでなくても、パラディンにとっては、目標の困難さはそれを成すことを断念する言い訳にはならないのだ。

「私は……、わからない。どうしたらいいのか……」

皆の視線が注がれる中、タバサは珍しく、そんな弱音のような事を口にした。
それから、ちらりとディーキンの方を伺う。

「……あなたは、どう思うの?」

この人は、私が復讐心に駆られて人を殺すところを見たら、どう思うのだろうか。
人に頼って匿ってもらい、ひたすら隠れ続ける安息への逃避の道を選んだら、どう思うのだろうか。

そして、もしこの人に失望され、軽蔑の目で見られでもしたら、私は何を思うのだろうか。

今まで誰も頼らずにやってきた自分が、そんな人の顔色を窺うような気持ちを抱いていることに、タバサは愕然とした。
急に自分がひどく弱く、頼りなくなってしまったように感じる。

ちょうどその時にディーキンと視線が合って、タバサは慌てて目を逸らした。

「ンー……、どうしたらいいかって聞かれても、本当のことがまだよくわかってないから何とも言えないの」

ディーキンはそう答えた後、なぜか少し躊躇してから付け加えた。

「うーん、ただ……。ディーキンも昔、ママの復讐をしたことがあるからね。
 だから、タバサが相手をものすごく憎くて、復讐を諦められないっていう気持ちはよくわかるよ」

ディーキンの口から出た思いがけない言葉に、しばらくの間、皆戸惑ったように顔を見合わせた。
この人懐っこい亜人は、憎しみだの復讐だのとはまったく無縁な、天真爛漫な存在だとばかり思っていたのだ。

「ちょ、ちょっとディーキン。それって本当?
 あんたが昔、母親の復讐をしたなんて話、ぜんぜん聞いてないわよ?」

ルイズが全員を代表してそう質問した。

「本当なの。ディーキンは嘘なんてつかないの。でも、ディーキンのお母さんのことじゃないよ?」

「え、だって……。あんた今、ママって言ったじゃない」

「えーと……、だから、ママはママなの。お母さんじゃないよ。
 ルイズは、耳の調子が悪いの?」

「……?」

「ママはね、ディーキンが昔立ち寄った村の酒場の、太った女主人なの。
 村人が彼女のことを“ママ”って呼んでたから、ディーキンもそう呼んでたんだ」

「あ、ああ……。なんだ、そういうことね」

得心がいって頷くルイズをよそに、ディーキンはしみじみと、その時のことを思い返していた。

クロマティック・ドラゴンの間には、“血のごとき甘み、火炎のごとき手ごたえ、金よりも珍しきこの遊び”という言い回しがある。
ディーキンは長い間その言葉の意味がよくわからなかったが、あの時、初めてわかった。
その言い回しが表わすもの……、噴き上がるように熱く、それでいて冷血で甘い復讐の味というものを、初めて実感したのだ。

「ディーキンはそのとき、実際に冒険をするために雇われたの。初めて、一人だけでね。
 あんまり楽しいお話じゃないけど……、聞いてもらえる?」

ディーキンはそう言うと、珍しくリュートを手に取らず、芝居がかった演出も無しに、話をし始めた。

ボスとの最初の旅は、最終的には世界の危機を救うまでのものになった。
それだけの旅に同行したにもかかわらず、ディーキンは自分がまだ冒険者ではないことを、彼と別れて痛感した。
あの時の自分はまだ、『ボスのお供』にしか過ぎなかった。
一人では、何もできなかったのだ。

比べれば、これからする話はまったく大したものではない。
色々と辛いこともあったし、今思い返せば恥ずかしいこともしていた。
成し遂げたこともごく小さなものでしかなく、自慢げに語れるような手柄話ではない。
だから、リュートの演奏付きの叙事詩形式で語るようなこともしない。

それでも、あれこそが正真正銘、自分の初めての『冒険者』としての仕事だったことは確かだ――――。


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