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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-34a


 第34話
 水妖精騎士団

 海凄人 パラダイ星人 登場!


 『疑わしきと見れば殺し、目ざわりと見れば滅ぼす』のがロマリアの真実だと、人はひそやかにささやく。
 聖戦を狙うロマリアのために暗躍するジュリオは、真実を知って帰国を目指す銃士隊と水精霊騎士隊の一行に吸血鬼エルザを差し向けるが、これは失敗した。
 しかし一方で、ジュリオはトリステインに残る銃士隊と水精霊騎士隊のことも忘れてはいなかった。彼らは個々の戦力ではたいしたことはないが、チームワークでそれを補って、これまで数々の怪獣や宇宙人を倒してきた。さらに現在では東方号を有し、もはやその影響力を軽視することはできない。
 そう、彼らのこれからの動向は、世界をどう動かすかわからない。それを嫌い、ロマリアはジュリオからガリアのシェフィールドを介して刺客を送り込んできた。
 刺客の名は元素の兄弟。兄ドゥドゥーと妹ジャネットのふたり組で、才人たちとほぼ同じ若さの少年少女であるにも関わらず、ただならぬ雰囲気を持つガリアの北花壇騎士の一員だ。
 ターゲットは、東方号のメインエンジニアであるコルベールと、そのパトロンであるベアトリス。このふたりがいなくなれば東方号は鉄くずと化し、水精霊騎士隊と銃士隊は頭数は残っても、最大の戦力を失って大きく弱体化する。
 そうなると、あのMATがバット星人によって全メカニックが破壊されたために、隊員のほとんどが残っていても終に再建できなかった例が再現されることになりかねない。


 危機が迫っている。このままでは世界の未来が危ない。
 しかし、ベアトリスは美少女だからまだいいとして、コッパゲの首に世界の未来がかかっているとなると、なにかアホらしい感じがしてきてしまう。
 いや、毛根の神に愛されているか否かはこの際置いておこう。ハゲていて世の中の役に立っている人もいっぱいいるからして。
 それよりも、本格的に今回の物語に入っていく前に、もう一つ前置きをしておこう。


 異変があったとき、人が後に思い返すと、「あのときは朝から雲行きが怪しかった。あれは前兆だったのかもしれない」というようなことを言う。
 そう感じたのならば何かしらアクションを起こせばよかろうものだが、人は日常に慣れると少しくらいの変化では動じなくなってしまうのだろう。
 コルベールとベアトリスの命を狙った暗殺者が港町にやってきたこの日も、表面上は何事もなく始まった。ただ、暗殺者たちが街に入ったのに前後して、ふと空を見上げたある姉妹が、あるものに気づいたことを除いたら。

「ねえティア、空を見て。なにかが空から降りてくるよ」
「見えてるよティラ。へえ、ドラゴンに乗った騎士たちね。ずいぶん物々しい様子だけど、こんな街になんの用かしら」
「さあ、けどわたしたちには関係ないでしょうね。それよりも急ぎましょう、ティア。皆さんを待たせたら失礼よ」
「むー、ティラが言い出したくせに、ずるいなあ。じゃあさティラ、今日はどっちが早く着けるか? フフ……」
「「競争ね!」」

 街の石畳に、軽快な靴音が響いて遠ざかっていく。彼女たちの少し上には、街に影を下ろしながら降下してくる騎竜の羽音が響いていたが、もう彼女たちがそれに気を向けることはなかった。
 むろん、これですむはずもなく、数時間後に彼女たちは自分たちがなにげなく見過ごしたこのことを思い出すことになる。ただ、神ならぬ身の民にとって、なにげない変化から未来を予見しろというのは無理難題に違いないのだ。

 増してや、ある日突然に見も知らぬ相手から命を狙われているなどということが予見できたら、それはもはや人外の域にいる者と言っていいだろう。
 今日この日も、ベアトリスとコルベールは昨日までの延長として今日を迎えた。むろん、自分の命を狙う者がこの街に入っているなど、思うはずもない。

 さて遅ればせながら、そろそろこのあたりで今回の物語の主道に入ろう。
 時は、ベアトリスが潜水艦伊-403でコルベールと談話してから、ざっと一時間ほどしてからとなる。
 ベアトリスは修理・改修の途中である東方号を視察し、現場責任者であるコルベールと話し合った。そして一旦休憩をとろうと、この街で拠点にしている宿に帰ってきたのだが、そこで彼女は少々落胆することになった。
「ただいま……ん、エーコたちはまだ戻ってないの?」
「はい、エーコ様たちから伝言をお預かりしています。暗くなる前には戻る、とのことですので。それまでのお手伝いは私どもが承らせていただきます」
「はぁ、そう……」
 メイドからの報告を受けて、ベアトリスは「またか」とため息をついた。メイドの、お疲れでしたら熱いお茶を淹れましょうか? という言葉もろくに頭に入ってこない。
 実はこのとき、ベアトリスはある悩みを抱えていた。それは、コルベールにも話したとおりにエーコたちのことなのだが、最近の彼女たちのある行動が悩みのタネだった。
「あの子たち、また特訓に行ってるのね。無茶してないといいけど……」
 ある日突然のことであった。エーコたちが「姫殿下にお世話になってばかりでは申し訳ないです。今度はわたしたちが強くなって姫殿下をお守り申し上げます!」と言い出したのだ。
 そして彼女たちは日々出かけて行っては特訓に励んでいる。それはいい。向上心があるのは大変けっこうなことなので、ベアトリスも最初は喜んでいた。そう、それだけならばよかったのだが……
 ベアトリスは自室に戻ると、もう一度ため息をついて椅子に腰掛けた。もしエーコたちが戻っていたら、四人でティータイムにでもしようと思っていたけれども、ひとりでは食欲も湧いてこない。
「エーコ、ビーコ、シーコ、わたしのために頑張ってくれるのはうれしいけど、わたしにとってあなたたちがいてくれることが何より大事なのよ……」
 ツインテールに伸ばした髪をいじりながら、ベアトリスはあのときのことを思い出した。超獣ユニタングと化したエーコたち姉妹をヤプールの手から救い出したとき、大切な人を失う悲しみと痛みを知った。それから今日まで、彼女たち十姉妹は人間として何事もなく過ごしてきた。ベアトリスとしてはそれだけでもう十分だったのだけれど、あれ以来エーコたちは前にも増してベアトリスに懐いてしまった。自分たちから特訓を言い出したのもその表れだが、忠誠心豊富な彼女たちは最近になってベアトリスの思いもよらないことを考え付いたのだ。
 それは、ベアトリスにとって突拍子もないものだった。最初はすぐにやめさせようと思ったのだが、言われてみると自分にとって将来役立つことにつながるので、現在は黙認していた。ただ、理屈と感情は別である。
「わたしの側近は貴女たちだけで充分と思ってたけど……でも、ねえ……はぁ」
 ベアトリスはつぶやきながら、何度目になるかわからないため息をついた。今頃、エーコたちははりきって”あれ”をやっているのだろう。
 困ったものだ。今後のことで、考えなくてはいけないことは山のようにあるというのに、これでは手が足りない。やはり、エーコたちの言うようにするべきなのか……いや、でも数だけ増やしたところで。
 思い悩むベアトリスは、やけっぱちな気持ちでベッドに飛び込んだ。そして気晴らしにと思って、ベッド脇に積み上げてあった本の一冊を手にとって広げる。それは『召喚されし書物』と呼ばれる希少な種類の書籍で、どこで誰が書いたのかはわからないが、その精巧な絵やハルケギニアのものとは懸け離れた描写からコレクターの間では人気がある。
「『リードランゲージ』……ヤー……マイマスター……うふふふ」
 あらゆる文字を解読できるコモンスペルを唱え、ベアトリスは本に見入った。どうやらそれは絵でつづられる娯楽作品のようで、遠い異国のある伯爵が主人公の物語。ベアトリスはその中に登場する執事がお気に入りのようだった。
 しかし、ベアトリスはこのとき無理にでもエーコたちの下に乗り込んでいかなかったことを後悔することになる。それも、この後ほんの少しして起こるとは、ベアトリスは知るよしもなかった。


 さて一方、ベアトリスが思い悩んでいるとは露知らず、エーコたちはベアトリスの想像したとおり、特訓に汗を流していた。
「よーし、じゃあ今日も姫殿下のために気合入れていくわよーっ!」
 エーコの声が空き地に響き、続いてビーコやシーコの「おーっ」という掛け声が続いた。
 ここは工場街にある資材置き場で、現在は物資がなく空き地となっている。割かし広く、学校のグラウンドほどの広さがあるそこで、エーコたちは姉の指南を受けて戦いの特訓をしていたのだ。
『ブレット!』
「遅いよ! 杖を振るときはとにかく素早く。かっこなんてどうでもいいから相手に向けるんだ!」
 十姉妹の五女ユウリの叱咤する声が響き、エーコたちは汗を流して杖を振り続けた。この街に来る前にはアルビオンで傭兵稼業をしていたというユウリの指導は激しく苛烈で、エーコたちは実の姉妹にも容赦のない指導に、汗をぬぐう間もない。
 それを見て、七女ティーナと四女ディアンナは妹たちに同情したようにつぶやいていた。
「いやあ、ユウリ姉さん気合はいっちゃってるねー。昔っから、体を動かすことだけは得意だったから、エーコたちかわいそー」
「魔法学院に通っていた頃なんか、学院の馬を五頭も乗りつぶして、あげくに修学旅行の馬車を三台も事故らせて、貴族の娘なのにデストロイヤー・ユウリなんてあだ名をもらったくらいですものねぇ」
「うんうん、あれでトリステイン中の騎馬業者から出入り禁止を食らって、お父さまが平謝りに駆け回ったことは忘れられないわぁ。アタシはお腹抱えて笑ってたけど」
 赤毛が目立つユウリの指導は、ティーナやディアンナの入っていく余地もないくらい過激で、ときたま女性とは思えない罵声なんかも混ざっていた。この訓練の厳しさは、銃士隊のそれと比べてもひけはとらなかったろう。
「え、エア・ハンマー!」
「遅いっ! そんなんじゃ実戦じゃ魔法を使う前に蜂の巣だよ。まずは素振り百回、かかれっ!」
「はっ、はいい!」
 エーコたちは姉の怒声に、腕が痛くなりながらも杖を振り続けた。
 が、なぜエーコたちがここまで過酷な訓練を続けてるのであろうか? その理由は、実は水精霊騎士隊にあった。
 知ってのとおり、この港町は東方号の母港である。つまり東方号を使っている水精霊騎士隊の少年たちも、この街には慣れ親しんでいてベアトリスともよく顔を合わせている。
 ロマリア行きが中止して引き返してきた際、水精霊騎士隊の一部はギーシュに率いられてロマリアを目指したが、残りは東方号とともに帰還してきた。その後、東方号の修理をしながら訓練を続けていたのだが、ある日に修理状況を視察に来ていたエーコたちに対して、水精霊騎士隊の少年の一人がこんなことを言ったのだ。

「修理の視察ねえ。ご覧のとおりさ、毎日毎日、少しでも早く直そうとみんな奮闘しているあの音が、一リーグ離れていたって聞こえるだろ? それをわざわざ見に来るなんて君たちも暇だね。ぼくらなんか、今日も厳しい訓練を続けているっていうのに。まあ、しょうがないか、ぼくらの肩にはトリステインの将来がかかってるけど、君たちはクルデンホルフ姫殿下のお茶汲みをしてれば安泰なんだろ? そんなことより、よかったら後でいっしょにお茶でもどうだい」

 そいつは訓練の疲れから来たストレスでか、深いことは考えずに嫌味を言ったのだろうが、これがエーコたちの逆鱗に触れた。
 以前とは違い、一度離反して自分たちを救ってくれたベアトリスに対する彼女たちの忠義は本物だ。その自分たちの忠義を侮辱されたことは、主君であるベアトリスを侮辱されたことに他ならないからだ。
 エーコたちは激怒した。そして軽口を叩いた太っちょなそいつは、茶色の悪魔と黄色の鬼神と緑色の死神によって、豚のような悲鳴をあげてボロ雑巾のようにされたあげくに犬の餌にされた。なお、この件に関して水精霊騎士隊からの抗議などは一切ない。隊長ギーシュの、レディには常に優しくあれ、レディを傷つけるものはすべからく我らの敵だというモットーが正しく履行された結果であった。
 しかし戯れ言をほざいた豚をつぶしても、エーコたちの怒りは収まらなかった。豚に対してではない。そんな侮辱をされて、心の一部ではそれを認めざるを得なかった自分たちの弱さを自覚してしまったがために、自分自身に対して怒っていたのだ。
「わたしたちが弱いままじゃ、また姫殿下の名誉に傷がつけられるかもしれない。ビーコ、シーコ、わたしたちは姫殿下に救われて以来、わたしたちがどうすれば姫殿下のお役に立てるか考えてきた。今、その答えが出たわね!」
「ええ! 下品な男たちなんかに姫殿下は任せられないわ。なら、わたしたちがあいつらより強くなるしかないじゃない!」
「なら特訓ね。貧乏貴族のグラモンの部隊なんか、わたしたちの前を歩かせたりしないわ。姫殿下はいずれクルデンホルフを継いで、世界を統べるお方。その手足は最強じゃなきゃいけないのよ!」
 こういう具合で、エーコたちの中に水精霊騎士隊へのライバル意識が芽生えたのである。
 そして彼女たちは、あちこちで様々な経験を積んできた姉たちに教えを請うことにした。姉たちも、ベアトリスに対してはまだ負い目を感じていたので罪滅ぼしになればとこれに飛びつき、こうしてエーコたちは今日まで自分を磨いてきた。その努力はすばらしいもので、普通なら三日も持たないであろう猛訓練を続けてきている。今では水精霊騎士隊の少年たちともたいした差はないだろう。
 また、姉たちは様々な分野で活動してきたので、エーコたちに与えられるものは戦闘技能以外にも数多くあった。
 例えば、ある日はユウリの都合が付かなくてディアンナが教えることになったのだが、彼女が教えるものはもちろんユウリとは違っていた。
「では、今日は私があなたたちにハルケギニアの交易を教えてあげるわ。よーく聞きなさいよ、それでなくともあなたたち三人は、お勉強の時間になると寝息を立ててたんだから」
「はーい、頑張りまーす。あーあ、次は歩くお小言百科のディアンナ姉さんの番か。長い一日になりそう」
「対話術と言いなさい。一流の貴族には一流の外交能力も必要なの、それにあなたたちもクルデンホルフの一翼を担っていくなら、世界の情勢について知らないと話にならないわ。特に、ゲルマニアの商人たちの狡猾さはトリステインの比じゃないわ。騙されて野良犬同然に落とされた貴族なんて星の数ほどいるんだからね」
 ディアンナはゲルマニアで、とある商業ギルドに潜り込んでいたので世界情勢に詳しかった。また、三女キュメイラは医者見習いをしていたし、ティーナはエーコたちより子供っぽく見えるが、小柄で身が軽いことを生かしてラ・ロシェールで港湾作業員をしていた。平たく言えば、入港してきた船を桟橋に固定したりマストの上げ下げを手伝う係である。こうして、様々な分野で活動することで、ハルケギニアの社会を知りたがっていたヤプールに情報を渡していたわけだが、スパイでなくなったからといって経験まで消えることはない。皮肉なものだが、人生とはどこで何が役に立ってくるかわからないものである。
 エーコたちはこうして、将来ベアトリスの役に立ちそうなことはなんでも吸収していった。人間は目標を見つけると強い。アホぞろいの水精霊騎士隊が強いのも、女王陛下のために尽くそうという一念を持っているからだ。

 ただし、熱意と努力というものは必ずしも正しいほうへ行くとは限らない。

「よーっし、今回はとりあえずここまでだ。水飲んでいいぞお前たち」
「ふぁ、ふぁーい」
 ユウリの特訓がようやく終わり、三人はクタクタになって息をついた。まだ寒い季節なのに滝のように汗が出て気持ちが悪い、三人は魔法で水を作って飲み、頭からかぶって汗を流した。
「し、死ぬかと思ったわ」
「ひゃあん冷たいっ! もうっ、加減してよ、下着までビチョビチョじゃない」
「すぐ乾くよ。姫殿下のところに、汗臭いまま帰るわけにはいかないでしょ。透けて困るものも持ってないことだし」
「ちょっとビーコ、それどういう意味かしら?」
 そんなエーコたちを、姉たちは暖かい目で見守っていた。
 本当に平和だ。世界には危機が迫っているが、今の自分たちのここには平和がある。家を失い、両親を失ったあのときは、まさかまたこんな平穏が来てくれるとは思えなかった。
 それもみんな、ベアトリス・イヴォンヌ・クルデンホルフ、あの小さな体で大きな器のお姫様のおかげだ。自分たち姉妹はあの方に大きすぎる借りがある、借りっぱなしではいけない。恩返し、そう恩返しをせねば貴族の矜持に関わる……
 そのとき、彼女たちのいる広場に複数の足音が響いてきた。
「ちょうど終わったところみたいね。ほら、みんな連れてきたわよ」
「あっ、姉さんたち。もう、遅いよ」
 それは姉妹の次女セトラの声だった。その隣には、キュメイラと六女イーリヤもついている。
 だが、足音はそれだけではない。なんと、姉妹たちに続いて十人近い少女たちがやってきたのだ。
「おはようございます、先輩方。我ら水妖精騎士団総勢十一名、ただいま参上つかまつりましたわ」
「よく来たわ。よーっし! みんな、整列! 傾聴! また新しい顔も見えるわね。ようこそ、そしてよろしく。わたしが団長のエーコよ、わたしたち水妖精騎士団はあなたたちを歓迎するわ。いっしょに、トリステインの淑女の未来のために戦いましょう」
 エーコが肩まで伸びたサイドテールを揺らしながら宣言すると、少女たちも拳をあげて歓声をあげた。
”水妖精騎士団(ウィンディーネ)……”
 これが、彼女たち一団の名前である。そう、これこそがベアトリスが頭を悩ませている真の理由であった。なんと、エーコたちは自ら新しい騎士団を作り出そうとしていたのだ。
 団員はエーコたちの姉妹を除いて、現在総勢十一名。皆エーコたちと同じくらいの少女で、この街に勤めている軍人や役人の娘たちである。もちろん全員がメイジであり、エーコたち姉妹がそれぞれ集めてきて、現在も団員は絶賛募集中だ。
 しかし、なぜエーコたちはこのような無謀なことを始めたのだろうか? そしてなぜ、こんな無謀なことに十人以上の参加者が集まっているのだろうか? その原因は、実はまた水精霊騎士隊にあったのである。
「団長、よろしくお願いします! 団長たちの噂はかねがね、あの破廉恥な水精霊騎士隊の男を成敗なされたとか」
「聞くところによると、空中高く放り上げて街灯上に吊し上げ、木っ端微塵になされたそうですね。それを聞いたとき、胸のすくような気持ちがいたしましたです」
「なにせ、あの水精霊騎士隊の男たちの軽薄さときたら、ひどいものでしたね。でも、エーコさんたちのお話を聞いて勇気が出ました。あの野蛮な水精霊騎士隊をやっつけましょう!」
 水精霊騎士隊への恨み言が機関銃のように少女たちの口から飛び出してくる。実は、水精霊騎士隊の少年たちは時間があると、女の子に声をかけてまわるため、少女たちは彼らのしつこさにうんざりしていたのだ。彼らは年齢的には思春期真っ只中の青少年であり、さらにギーシュの影響で女性に対して大胆になっていた。
「美しいお嬢さん。少しぼくと散歩でもしませんか? お花でも摘みながら、お互いについて語り合いましょう」
 こんな具合に誘ってくるのだがら、女の子のほうとしてはいい迷惑としか言いようがない。ギーシュのモットーが、今度は悪いほうに働いた結果がこれだった。
 さらに隊長ギーシュの不在もこれに追い討ちをかけた。普通ならば行き過ぎる前に、フェミニズムの塊であるギーシュや、常識人でやや奥手のレイナールがブレーキ役となるが、ふたりともロマリアに行っていていない。大人たちも、コルベールは東方号にかかりきりで、アニエスは頻繁にトリスタニアに出かけていて、ミシェルもいない。歯止めがなくなった少年たちは、「どうせ隊長もロマリア美人を相手にいい思いをしてるに違いない。だったらぼくらも隊長に従ってゆこうじゃないか」と、身勝手な解釈をしたのだった。
 つまり一言で言えば、「水精霊騎士隊、被害者の会」である。その気もないのに口説かれて辟易していた少女たちはエーコたちの呼びかけで団結し、今ではついに騎士団を名乗るほどメンバーが増えている。そもそも”水妖精騎士団”という名前も、水精霊騎士隊に当てつけたものであった。
「聞きなさい、男たちは女を下に見ているけど、このトリステインは女王陛下の治める国。白百合の国を、汗臭い男たちなんかに任せておいていいと思うかしら?」
「いいえ! 白百合のごとき女王陛下は、蝶のごとき妖精がお守りするべきです!」
「水精霊騎士隊の隊長、ギーシュ・ド・グラモンは女癖の悪いことで有名なグラモン元帥の息子よ。今はロマリアに行ってるけど、そんなのが帰ってきたらわたしたちの身がどうなるかわかったものじゃないわ。わたしたちの身を守るのは、誰だと思う?」
「はい! わたしたちの身を守るのはわたしたち自身です」
 ギーシュにとってはとんだとばっちりである。
「よく言ったわ。わたしたちの力で、水精霊騎士隊をぎゃふんと言わせてあげましょう。そうすれば、クルデンホルフ姫殿下もお認めになられて、公式な騎士団へ昇格するのも夢じゃないわ。さあ、特訓特訓! 着いてきなさい、あなたたち」
 エーコに続いて、少女たちも掛け声を一斉にあげて答えた。少女たちは、こんな街では友達もろくに作れず、寂しい思いをしていたので同じ志を持つ仲間が増えるのはうれしかったのだ。
 彼女たちは、寄せ集め所帯ながらも本気だった。本気で、水精霊騎士隊と戦って倒して取って代わろうとさえ思っていたのだ。ベアトリスが頭を痛めるのも当然と言えるだろう。しかしベアトリスがそのことをエーコたちに咎めると、将来ハルケギニアを統べようと志している人が自前の騎士団のひとつも持っていなくてどうしますか、と言われると手持ちの人材の少なさを嘆いていたのも事実なのでそれ以上強くも言えないありさまだった。

 と、そこへ、広場の入り口から、やや調子っぱずれな声が響いてきた。



 後半部へ続く


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