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ウルトラ5番目の使い魔、第三部-32b


「もう、行っちゃうの? おねえちゃん」
 村はずれで、休む間もなく旅立とうとしている一行を見送りに来たアリスがミシェルに向けて言った。
 あれからすぐに、戻ってきたティファニアとも合流した一行は、そのまま旅立つことを決めた。なごりは惜しいし疲れも癒したかったが、ここにいてはまたサビエラ村が戦いに巻き込まれるかもしれなかったからだ。
 村の男たちは、まだ気を失ったままでいる。それでも一行の旅立ちを、アリスだけでなく村の娘たちのほとんどが見送りに来てくれた。
 しかし急な別れに、せっかく仲良くなれたのにと、アリスは半泣きになっている。そんなアリスに対して、ミシェルは寂しそうにしながらも優しく笑いかけた。
「ごめんな、おねえちゃんたちは急ぎの旅の途中なんだ。でも、わたしたちは君のことを忘れない。サビエラ村を救うために力いっぱいがんばった、勇者アリスのことをね」
「勇者? わたしが、勇者?」
「そうさ、君だけじゃない。ここにいる者はみんな、勇気を振り絞って力の限り戦った勇者さ。君や、わたしたちみんなが頑張ったから吸血鬼をやっつけられた。紛れもなく、君たちは勇者さ」
 ミシェルの言葉に、アリスだけでなくメイナや村の娘たちも照れくさそうに笑った。
 皆が、勇者。その言葉は、自分たちが吸血鬼に狩られるだけの脆弱な生き物だと思っていた村の少女たちの胸に、新しい熱い炎を灯したのだ。
 ただそれでも、一行がいなくなることで不安を覚えるのも確かだ。重傷の身をおして見送りに来てくれていたメイナが、心細そうに言った。
「皆さん、本当にありがとうございました。けど、あなた方がいなくなった後で、またエルザのような奴がやってきたらと思うと……」
 その一言に、アリスや村の娘たちに戦慄が走った。無理もない、友達だと信じていたエルザに裏切られたアリスやメイナたちの心の傷は大きい。ティファニアは、エルザを救いたいとは思ったけれども、やはりエルザの悪行が残した爪痕の深さを思ってなにも言えず、その前で 村娘たちは顔を見合わせて不安をぶつけあった。
「どうしよう、もう一回あんな妖魔がやってきたら今度こそ村はおしまいだよ」
「これというのも、村長さんがよそ者の子なんかを連れ込んだからよ。やっぱり、身元の知れない奴なんかを入れちゃいけないのよ」
「そうね、男の人たちが起きたら、よそ者は絶対に入れないって決まりを作ってもらいましょう。よそ者なんか信用しちゃダメなのよ」
 村娘たちは不安と恐怖から、まるでカメが甲羅の中に閉じこもるように、冷たい壁を外に向かって張り巡らせようとしていた。
 だが彼女たちの閉鎖的な言葉は、それを聞くギーシュたちの胸にも寒風を吹かせた。気持ちはわかる、多くの犠牲者も出ているのだから、これ以上の犠牲を出さないためにも村の防備を固めたいと思うのは当然だ。しかしそれでは、いずれサビエラ村は外敵によらずとも、本当の意味で駄目になってしまうだろう。ギーシュたちはそのことを経験からなんとなく察したけれども、それをどう伝えればいいのかわからずに、口をもごもごさせることしかできない。
 アリスもまた、エルザから受けた心の傷と恐怖から顔を曇らせている。幼い彼女には、まだどうしていいのかわからなくても、殺気立つ村娘たちに共感しているところはあるようだ。
 そのときである。ミシェルが、アリスの両肩を持つと視線を合わせて、ほかのみんなにも聞こえるようにして穏やかに話しかけていったのだ。

「アリス、わたしたちが村から去る前に、ひとつだけおねえちゃんと約束してほしいことがあるんだ」
「約束……?」

 ミシェルはアリスがうなづいたのを見ると、ゆっくりと言葉をつむぎはじめた。

「優しさを失わないでくれ。弱いものを労わり、互いに助け合い。どこの国の人たちとも仲良くなろうとする気持ちを失わないでくれ……たとえその気持ちが、何百回裏切られようとも」

 ミシェルは語り終わると、アリスの小さな手を自分の両手で包み込むようにして握り締めた。
「優しさを、失わないで……?」
「そう、おねえちゃんの一番大切な人が教えてくれた言葉さ。なあアリス、今回、災いは村の外からやってきた。きっと、これからもやってくるだろう。だけど、わたしたちも外からやってきたんだ。外の世界には災いだけじゃなくて、喜びや、驚きや、新しい友達になれる人もいっぱいいるんだ」
「新しい、お友達? たとえば、おねえちゃんみたいな?」
「ああ、わたしとアリスは友達さ。だからね、村の中にいれば安全かもしれない。だけど、それじゃほら穴に隠れて過ごすアナグマといっしょだ。君たちは人間だろう? だから、どんなときでも人間らしく生きることを忘れないでくれ。そうすれば、また悪い奴が来たときでも、きっと君たちを助けてくれる人がやってくる」
「おねえちゃん……わかった。わたし約束する! どんなときでも、人間らしく生きるって」
 アリスはミシェルに誓い、ミシェルは力強く宣言したアリスを優しく抱きしめた。
 そして、ふたりの誓いは殺気立って村の鎖国化を考えていた村の娘たちの心にも深く刺さり、たった今までの自分たちの言動を恥じさせた。
「そうね、わたしたちは人間だもの。あの吸血鬼みたいに、見た目だけ取り繕った悪魔になっちゃいけないわ」
「ええ、考えてみたら、こんな小さな村で閉じこもっても、遠からず人が絶えて滅んでしまうわ。よそ者をよそつけないんじゃなくて、よそ者が悪い奴かどうかを見分けられるように、わたしたちが賢くならなきゃいけないのね」
「外の世界か、そういえばわたしたちはサビエラ村からほとんど外に出たことはなかったわね。お父様たちが禁止してたからだけど、外にはあなた方みたいな素晴らしい人もいるのね」
 狭い村の中だけではなく、大きな外の世界へと目を向ける。それは若い娘たちにとって新鮮な驚きであり、喜びであった。
 すでにこの中には、家族を説得して村の外に出てみようと考え始めている者も多い。それらはきっと、大変な反対に合うだろうが、いずれ若く強い力が勝つに違いない。
 そうだ、人生は旅であり、旅とはより遠くへ、より多くのところへ行ってこそ価値がある。
 サビエラ村はいつしか歩くのを止め、旅をあきらめてきた。しかし歩かなければ疲れはしないが、食は細り、体は衰えて、やがて滅んで忘れられていく。だがサビエラ村にはまだ、遠くへと歩こうとする若い息吹が残っていた。この息吹が育っていけば、外から新しいものを持ち帰り、サビエラ村が活気を取り戻すことも不可能ではないだろう。

 アリスと村の娘たちの心に光の誓いを残し、とうとう一行が村を後にする時が来た。
 ギーシュたちは先に去っていき、最後にティファニアとミシェルが残って、アリスとメイナに別れを告げる。
「さようならティファニアさん。わたし、あなたに救われた命を大切にしていきますね」
「メイナさん、それはわたしも同じです。さようなら、わたしの新しいお友達。また、会いましょうね」
 ティファニアとメイナは最後に固く握手をかわし、ティファニアは小走りで皆の後を追いかけていった。その懐の中には、コスモスから預かったコスモプラックが静かに眠っている。
 そしてアリスとミシェルも。
「さようならおねえちゃん。また、会えるかな」
「ああ、信じれば叶わない夢なんかないさ。そうだ、これをアリスにあげよう」
 ミシェルはアリスの手をとると、その中にトリステイン王家の紋章をかたどったワッペンを握らせた。
「これって?」
「銃士隊、トリステイン王国軍の王家直属親衛隊の証だ。わたしは、その副長ミシェル。アリス、君の勇敢な働きに敬意を持って、これを預けていこう」
「トリステイン王国の……? お、おねえちゃんって、本当にすごい人だったんだね。ねえ、おねえちゃん……わたしも、おねえちゃんみたいに強くなれるかな?」
「それは、君の努力しだいだな。わたしたちも、最初からすごかったわけじゃない。いろんな戦いで武勲を立てて、それを女王さまが認めてくれるまでは長かった。だけど、今トリステインでは女王陛下が、実力さえあれば平民でも騎士にでも貴族にでもなれるようにしてくれている。実力と、努力しだいでね」
「平民でも、騎士や貴族さまになれるの!」
「ああ、これからは自分がなりたいものを決めるのは自分自身だ。もちろん、困難や挫折も数多い。しかし、夢を見て努力し続ければ、未来は決して人を裏切らない。覚えておけ」
「うん、わかったよ。おねえちゃん!」
 強く目を輝かせたアリスに、ミシェルは優しく微笑んだ。

 そして、ミシェルも踵を返してサビエラ村を去っていく。
 さようなら、小さいが勇敢な人々の住む村よ。ほんのわずかな間だったけれど、この村では多くのことを学ぶことができた。
 後ろ髪を引かれる思いをしながら、振り返るまいと自分に言い聞かせてミシェルは仲間たちを追っていく。
 ところが、ミシェルが村の入り口の門に差し掛かったときである。彼女の背中から、アリスの元気に溢れた声が響いてきたのだ。

「おねえちゃーん! わたし、毎日畑仕事を手伝って力をつける。そして大きくなったらトリステインへ行くから、じゅうしたいの仲間に入れて! わたしは強くなって、村を守れる騎士になりたい!」
 それは、辺境の平民の子に生まれて、決まりきった運命しかないと教えられてきたアリスが初めて自分の”夢”を叫んだ瞬間だった。
 だがミシェルは振り返らない。振り返ってしまえば、目じりから溢れるもので濡れた顔を見られてしまうから。その代わりに、ミシェルはアリスに負けないくらい大きな声で答えた。
「銃士隊の訓練は厳しいぞ! たくさん食べて、早く大きくなれ。待っているぞ、成長した勇者アリスの姿を見られる日をな!」
「はい! 必ず、必ず行くからねーっ!」
 アリスの誓いに見送られ、ミシェルはサビエラ村を後にした。

 村から離れ、街道に出ると、そこには仲間たちがミシェルを待っていた。
「待たせたな、さあ行くか」
 目指すはトリステイン王国トリスタニア。そこを目指す一行の先頭に立って、ミシェルは雄雄しく一歩を踏み出した。
 すでにその目に涙はなく、すがりついて甘える弱さもない。この事件が起きる前とでは別人のようになったミシェルがそこにいた。
 だが、ミシェルは本当に才人のことを振り切ることができたのだろうか? ひとりの銃士隊員が恐る恐るながら尋ねると。
「あの、副長。副長はその、サイトのことを……」
「生きてるさ」
「えっ?」
「サイトが、あいつが簡単にくたばるはずがない。地の果てか、違う世界か……どこにいようと、サイトは必ず帰ってくる」
 確信を込めてミシェルは言い放った。
 しかしどこにそんな根拠が? そう尋ねると、ミシェルは空を見上げて言うのだった。
「帰ってくるさ、だってサイトはウルトラマンなんだから。もし帰ってこないのなら追いかけるまでさ……わたしもウルトラマンになって、星のかなたまででもね!」
 胸を張って言い放ったミシェルの目には、必ずまた会えるという確信の炎が燃えていた。それは妄信? 狂信? いや、ただひたすらな愛だけが彼女の瞳には宿っている。
 皆は、そしてティファニアは、ひとりの人を一途に愛するということが、これほどまで人を強くするのかと思い、自分の胸も熱くした。


 勇者たちの活躍によってロマリアの野望の一端は砕かれた。だが、闇の勢力の手はまだハルケギニアに強くかかっている。急げ、勇敢な若者たちよ、君たちの故郷は君たちの帰りを待っている。


 続く



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