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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-53


「……せ、先生。こ、この生き物は一体、なんなのでしょうか……?」

シエスタは、自分が斬り捨てた小悪魔が悪臭を放ちながら泡立つ汚泥に変わっていくのを見て、口元を押さえた。

やや顔が青ざめているのは、邪悪な生き物とはいえ、初めて知的な生命体を自らの手で斬り殺したというショックからなのだろう。
先程はパラディンとしての正義感とセレスチャルの血に突き動かされていたのだろうが、彼女とてうら若い少女。
一時の興奮が収まれば、自分の行いの結果を見ていささか動揺するのも致し方あるまい。

「インプっていう種類の悪魔だよ。名前まではわからないけどね」

ディーキンは短くそう答えると、インプの唯一の所持品であったらしい、地面に残されていた書簡を拾い上げた。
この悪魔の出自についてなにか手掛かりがあるかも知れないと、広げて読んでみる。

ところが、そこにはハルケギニアの言葉で短く、『出頭せよ』と書かれていただけであった。

それ以外にはなにも……、差出人の名も、宛先さえも書かれていない。
魔法が掛かっていて文章を隠しているとか、炙り出しとか、そんな仕掛けもなさそうだった。

これを運んでいたインプは、少なくとも人間と同程度には知恵のある、狡猾なデヴィルだ。
おそらくは自分の上にいる誰かに運搬を命じられ、直接その相手の元へ届ける予定だったので、宛先などは不要だったのだろう。
あるいは、万が一書簡が誰かの手に渡った時のための用心で、わざと最小限の情報しか書かなかったのかもしれない。

ディーキンは手紙を見て困ったように顔をしかめ、首を傾げる。

「ウーン……?」

それでもなにか手掛かりはないか、推理できることはないかと、一生懸命に頭をひねった。
虫眼鏡まで取り出して、手紙のあちこちを穴が開くほど熱心に調べ回す。

インプがこの学院内にいたということは、おそらく差出人ないしは受取人は、学院内の人物ということだ。
つまり、ここには悪魔となんらかの関わりがある人物がいるのだということになる。

それは決して放置しておくことのできない、重大な問題だ。
地獄で数多くのデヴィルと戦ってきたディーキンには、その事がよく分かっていた。

とはいえ、この手紙をいくら調べてみても、考えてみても、やはり何もわかりそうにはなかった。
なにがしかの呪文を上手く使えば、突き止められるかもしれないが……。

「ン~……、ねえ、シエスタ。
 この手紙を見て、何かわかることはないかな?」

ディーキンはとりあえず、何か他の手を考える前に、シエスタにも手紙を見せてみた。
この世界へ来てからまだ日が浅い自分にはわからないことでも、彼女なら気が付くかもしれないと思ったのだ。

「え? はい、ええと……、」

シエスタは手紙を受け取り、ひっくり返して眺めたり、手触りを確かめたりと、丁寧に調べてみた。

「……そうですね、字は綺麗で学がある感じですから、差し出し人は貴族の方ではないでしょうか。
 紙はすごく上質みたいですけど、この辺で使われているのとは、ちょっと違う感じです。
 もしかしたら、外国からの手紙なのかも……」

貴族の学院で働いてきた経験などを活かして、自分なりに推理したことを伝える。

「ふうん? 外国の、貴族の人……、」

ディーキンはそれを聞いて、タバサにも尋ねてみようと思いついた。
彼女は博識だし、確か外国からの留学生だったはずだ。

「ねえ、タバサ――――」

早速彼女の方を振り向いたディーキンは、しかしその姿を見て、困惑したように途中で言葉を止めた。

いつもは無表情なタバサの顔が、僅かに、しかしはっきりと、苦しげに歪んでいた。
顔は青く、何かに怯えているようにさえ見える。

ディーキンはまるでわけがわからなかったが、とにかくタバサの元へ駆け寄ると、心配そうに、その顔を覗き込んだ。

「どうしたの、タバサ。なんだか、すごく辛そうだけど……」

「……別に、なんでも」

タバサはさっとディーキンから顔を逸らすと、短くそう答えた。

彼女は先程しようとした許されざる行為のこと、自分が抱いていた不当な感情のことを、洗いざらい彼に告白して詫びたいと思った。
けれど、そんな醜い自分のことを、彼には知られたくないとも思った。

それに、ディーキンの顔にはっきりと自分を気遣う思いが表れているのを見るのも、辛かった。
彼に気遣われ、好意を向けられると、余計に自分が惨めになるような思いがした。

もちろん、彼が悪いのではない。

彼の裏表のない善意に対して、こんな身勝手な苛立ちが湧いてくること自体が、己の賤しさの証明のようなものだ。
何もかも、自分が悪いのだ。自分が弱いのが。賤しい人間なのが。ちっぽけな人間なのが……。

タバサは、表情にこそ出さなかったが、泣きたいような気持ちになっていた。

自分ではどうしようもない劣等感や、ジェラシーに苛まれるというのは、こんなにも辛いものだったのか。
本で読むのと実際に経験してみるのとでは、大違いだった。
己の感情をはっきり自覚した今となっては、もはや自分を誤魔化すこともかなわない。

「……そうなの? それなら、いいんだけど……」

ディーキンはそんなタバサの態度に困惑したが、どうやらあまり触れてほしくなさそうな雰囲気だ、とは察した。
さっさと話題を変えることにして、手にした手紙を遠慮がちに差し出す。

「もし今、大丈夫なら、この手紙を見てくれる?
 さっきの悪魔が持ってたんだけど、タバサには何か、わかることはないかな?」

タバサはすぐに話題が変わった事に安堵したような思いで手紙を受け取ると、開いて目を通した。

「…………!」

途端に、それまではどこか怯えたような、弱弱しいものだった彼女の目に、諸々の感情がこもった強い光が宿る。

下から彼女の顔を覗き込んでいたディーキンは、その様子をはっきりと見た。
驚きと困惑とで、目を見開く。

この反応からすると、彼女はこの手紙のことを間違いなく知っている。おそらくは、彼女宛の手紙なのだろう。
だが、それならば彼女は、デヴィルと何か関わりがあるとでもいうのか?
そんなはずはない、とは思うが……。

「……ねえ、それはタバサ宛ての手紙なの?」

「そう」

タバサは短くそう答えると、踵を返して歩き出そうとする。

呼び出された以上、早急に向かわねばならない。
まだ早朝なので、シルフィードのねぐらまで直接足を運ぶつもりだった。

ディーキンはその様子をじばらくじっと見ていたが、やがてとことこと彼女の後を追った。
シエスタも、慌てて後に続く。

「ねえタバサ、出かけるの? さっきの勝負の続きはいいの?」

「今度」

短くそう答える間も足を止めようとせず、2人の方を見ようともせずに、タバサは進んでいく。
先程までとは一変したタバサの態度に、ディーキンは少し考え込む。

「……ン~。もしかして、これから何かお仕事に行くの?」

その言葉に、タバサの足がぴたりと止まった。

「……どうして?」

「ええと。タバサは、自分の国でシュヴァリエとかいう騎士の身分をもらってるんでしょ?
 出頭しろって書いてあったから、そのお仕事かなって……」

タバサはその返事に内心で小さく安堵すると、再び歩き出した。

相変わらず鋭い洞察力だが、自分の素性についてまで知られているわけではなかったようだ。
もちろん話してもいないことが知られようはずもないのだが、彼ならばもしかして、と思ってしまう。

「そう、だから出かける。ついてこないで」

「ウーン……、なんで?
 ディーキンは、タバサについていきたいんだけど……」

ディーキンには、ついていきたい理由がいくらでもあった。

タバサはさっきの自分との戦いで、精神力をだいぶ消耗しているはずだ。
その状態で、もしかすれば大きな危険が伴うものであるかもしれない任務に赴こうとしている。
向こうから挑んできた勝負だとはいえ、消耗の原因が自分にもある以上は、手助けをするのが筋というものだろう。

むろん、そんな話を抜きにしても、友人なのだから手伝いたい。
詩人として彼女に英雄の素質があると見込んだからには、その活躍も見届けたい。
冒険者としても、新しい冒険にはぜひ参加してみたい。

そして何よりも、デヴィルがこの一件に関わっている疑いが濃厚である以上、彼女を一人で行かせるなど絶対にありえない。

その一方で、タバサには、来てほしくない理由がいくらでもあった。

ただ、それをすべてディーキンに説明することは、彼女にはできなかった。
事情的にも、心情的にも。

「……これは、故国から直接頼まれた事だから。
 よその国の無関係な者に、ついてきてもらうのは困る」

「ン~、でもディーキンは、よその国の人じゃないし、人間でもないよ?
 なんだったら、ルイズとかには仕事の内容は話さないって、誓ってもいいの」

先程からルイズに相談もせずに決闘をした上、今度は別の生徒に同行し、しかもその仕事内容も報告はできない……。
それは、使い魔の身としては、主人に対する背信行為だともいえるだろう。

しかしディーキンは、ルイズならば事情を説明すれば必ずわかってくれるはずだと確信していた。
むしろ、危険に向かう友人を助けようともせずに見送るなど、その方が彼女に対して顔向けができないというものだ。
決闘の件に関しては、まだ寝ている彼女を起こすのは気が引けたとはいえ、後で詫びておかねばなるまいが。

「危険な仕事。友人は巻き込めない」

「だったら、友人ならなおさらついていかなくちゃいけないと思うの。
 ディーキンは役に立てるつもりだし、友だちのためならそんなことは恐れないよ。
 この間も、そうだったでしょ?」

タバサはぴたりと足を止めると、軽く俯いた。
ややあって、

「……私には、もうそんな資格がない。
 それに、ついてきても、あなたが期待しているようなものは見せられない」

「……へっ?」

ディーキンは、突然そんなことを言われて、きょとんとする。

タバサは、ディーキンの方へ向き直った。
顔を俯けたままで、少し沈み込んだ様子だった。

「一緒に来て、あなたが見ることになるのは……、英雄の姿なんかじゃない。
 私は、これまでの任務中に、何度も恥を忍ばされたり、躊躇もせずに相手を殺したりしてきた。
 そんな姿を、人に……、友人に見せたいとは、思わない」

タバサとて、年頃の少女なのである。
自分が殺しをする姿や、従姉妹や伯父からの屈辱的な命令に逆らえずに恥辱を耐え忍ぶ姿などを、人に見られたいわけもない。

いや、これまでならば、そんなことはもう今更だと思って、大して気にもしなかっただろう。

しかし、先ほどディーキンのまるで悪意のない眼に向き合ってから、とうに凍り付いたと思った感情がよみがえってきたのだ。
自分がこれまでの日々に酷く汚れてしまったことを悟って、消え入ってしまいたいほど恥ずかしくなった。

もうこれ以上、自分の醜い姿を晒しものにしたくなかった。
特に、ディーキンに対しては……。

「だから、ついて来ないで。お願い」

先ほどは、無条件に自分を信頼してくれる彼を、自分と同じように汚そうとしてしまった。
今のタバサは、そのことに酷い罪悪感を感じ、これ以上少しでもそんなことをするのは許されない、と感じていたのである。

彼には、いつまでも無垢であってほしい。
もう、薄汚れた自分の手で、彼を捕まえようなどとは思うまい。
自分はただ、遠くから見ていることさえできれば、それで……。

タバサはそれきり、困惑した様子のディーキンの返事も待たずに踵を返すと、足早に去って行く。

「……うーん?」

ディーキンはしばらく、困ったように眉根を寄せていた。
が、じきに呆気にとられるシエスタにいくつかの頼みごとをすると、急いでタバサの後を追った。


「ちょっと待って、タバサ」

森の中で叩き起こされてぶつくさ文句を言うシルフィードに、タバサが今まさに乗ろうとしていたところで、ディーキンが追いつく。

「……どうして、ついてきたの」

タバサはしかし、非難がましい声に反して、それほど困惑してはいなかった。
こうなるかもしれないとはある程度、予想はしていたのである。

なんにせよ、彼がどうあってもついてくるつもりなのであれば、もうどうしようもない。
彼には例の、素晴らしい速さで空を駆ける、魔法の馬があるのだから。

シルフィードが全力で彼をまこうとしてくれたならあるいは、と言ったところだが……。

「きゅい! お兄さま、いいところに来てくださったのね。
 お姉さまはこれから大変なお仕事なの、お兄さまにも手伝ってほしいのね!」

……予想通りの反応だった。
先日初めてこの子を任務に連れて行った時も、事情を知るや、友人たちにも話して手伝ってもらうべきだと主張してきたのである。

これでは、彼をまくことなどとても不可能だ。
弁舌優れた彼と議論を続けて、説き伏せられるとも思えない。

ならば、不可能なことにこれ以上時間や体力や、ただでさえ消耗している精神力を費やしている余裕はあるまい。

「……わかった。ついてきて」

自分の願いを無視されたことは腹立たしいし、彼に醜いものを見せなくてはならないのは、悲しい。
だがそれでいて、自分が彼の好意を無下にしたにもかかわらず来てくれたことが、確かに嬉しくもあった。

「乗って」

しかしディーキンはすぐには乗らず、小さく咳払いをすると、懐から巻物を一枚取り出した。

「オホン……、その前に。
 ちょっと、やっておかないといけないことがあるんだよ。アア、すぐに済むから……」





「まったくもう……」

ルイズは、ひどく不機嫌そうにぶつぶつと呟きながら、内心の苛立ちを押さえていた。
彼女は、先程シエスタが扉をノックする音で目が醒め、彼女から今朝起きたことの成り行きを聞いたのだ。

ディーキンが、今朝早くにタバサから勝負を挑まれたこと。
その途中で、彼女に故国から仕事の依頼が来たこと(悪魔云々は話が面倒になるので伏せるようにと、ディーキンが指示した)。
タバサは精神力を消耗していたし、命に関わる仕事だからということで、その手伝いに出かけたこと……。

「先生は、その、主人であるミス・ヴァリエールには大変申し訳ないと、詫びておられました。
 それで、せめて自分がいない間の代役を、後でよこすからと……」

シエスタは、おずおずとそういって、頼まれた言伝を終えた。
それからディーキンの代わりにと、ルイズの着替えなどを手伝い始める。

本当を言えば、シエスタもぜひとも2人についていきたかったのである。
悪魔と戦うことは、パラディンとして、天上の血を引く者としての務めであるから。

だがディーキンは、彼女に学院に残るようにと言った。

学院内に入り込んだ悪魔が、あのインプ一匹だけとは限らない。
それに裏で手を引いている者が、インプが死んだことを悟ったなら、また新手を遣わしてくる可能性もある。
だから、事情を知っていて悪の存在を感知できるシエスタには、自分が不在の間学院に残って注意深く目を光らせていてほしい。
そう、頼んだのである。

それ以上に、状況が分からない以上、現時点でのシエスタの実力では危険が大きすぎる、という思いもディーキンにはあった。
万が一ガリアの上層部全体に既に悪魔の手が回っているなどという最悪の事態になっていたら、今すぐに正面切って戦うというのは無謀だ。
そういった場合、パラディンは嘘がつけず、悪を見逃せないので、彼女がいるとむしろ拙いことになってしまうかもしれない。

もちろん彼女の前では、それを口には出さなかったが。

「……代役って、何よ? 使い魔の代役なんて聞いたこともないわよ?」

「さ、さあ……、先生は、私が見ればわかる、と言わ―――」

シエスタは話しながらふと窓の外を見て、何者かが空を飛んでこちらに近づいてくるのを見た。
そして、急に呆気にとられたような面持ちになって、固まった。

「なによ、シエスタ。急に―――」

彼女の見ている方に目をやったルイズは、ぎょっとして目を見開いた。

「……よ、翼人!?」

「い、いえ、違います。あれは……、」

シエスタは、感極まったような様子で、胸元に手をやった。

「あれは……、あれは、天使様、ですわ。
 間違いありません……!」

窓の外から近づいてきたのは、ディーキンが今し方タバサに待ってもらって再召喚した、アストラル・デーヴァのラヴォエラであった。

自分の留守の間の代役として、また学院側に万一の事態が起きた時のための、備えとして。
彼女に頼み込んで、もう一仕事、してもらうことにしたのである。

本来なら、想定される相手は悪魔であるのだから、天使である彼女の方にこそタバサに同行してもらればいいのかもしれないが……。
純粋なる善の存在であり、かつ世俗での経験の浅いラヴォエラでは、シエスタ以上に拙い事態を招きかねないことをディーキンは危惧した。
下手をすれば、彼我の戦力差も考えずに、悪魔の本拠地に向かって猪突猛進でもしていきかねない。

もちろん彼女の前では、それを口には出さなかったが。

それに、同行できないことで不満を抱いているであろうシエスタも、憧れの天使としばらく一緒に居られるとなれば、喜んでくれるだろう。
ルイズやキュルケらにも後でラヴォエラのことを紹介する予定だったし、しばらくゆっくりしていってもらうのは丁度いい。

ついでにいえば、自分がタバサに同行しないことには、彼女の英雄譚を見届けることができない。
タバサ自身が何と言おうと、彼女には偉大な英雄の素質があることを、ディーキンは疑ってはいなかった。
せっかくの彼女の活躍がまた見られるかもしれない機会を、逃したくはない。

そういった諸々の理由から、ディーキンはラヴォエラを学院に残して、あえて自分がタバサの方についていくことにしたのであった。


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