あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-48


アルヴィースの食堂の上階は、大きなホールになっている。
トリステイン魔法学院の春の恒例行事、女神フリッグの名を冠する舞踏会は、そこで行われていた。

楽士たちの奏でる美しい音色が静かに響く中で、美しく着飾った男女がそこかしこで談笑しては、曲に合わせて手を取り合って踊っている。
2つの月の明かりがバルコニーからホールにまで届き、蝋燭の揺らめく明かりと絡み合って、彼らの姿を照らし出す。

何とも美しく、幻想的な雰囲気であった。

「オオ、いい感じなの。みんなも、すごーく楽しんでるみたいだね」

ディーキンはと言えば、何やらタキシードっぽいもの一式をビシッと着込み、胸元にでっかい蝶ネクタイを飾って、えへんと胸をそらしていた。
本人は紳士っぽくしているつもりなのかもしれないが、なにやら滑稽で愛嬌があってかわいらしい。
楽士たちの演奏には加わらず、一参加者として生徒らに交じっている。
バードとしては参戦したいところなのだが、既に楽士たちがいる以上、無闇に出しゃばるのも彼らに失礼かと自重したのだ。

ちなみに、ディーキンは別に自分の体に合う正装一式を荷物袋に入れて持ち歩いていたわけではなく、魔法で用意したのである。
《洋服店の衣装箱(クロウジャーズ・クロゼット)》という呪文をもってすれば、金額制限の範囲内でなら、どんな衣装でも思いのままに作れるのだ。
別に《変装帽子(ハット・オヴ・ディスガイズ)》による変装で済ませてもいいのだが、ただの幻覚では他人は騙せても自分自身の気が乗らない。
せっかくのお祭り騒ぎなのだからなるべくきちんとやりたいというのが、ディーキンなりのこだわりである。

ディーキンには既に仲の良い教師や生徒らが大勢おり、また今回のフーケ騒動の貢献者でもあるため、特に参加を咎められることもなかった。
いろいろな人と談笑をしたり、食事を給仕らに頼んで取ってもらったり、音楽に合わせた即興の一人用ダンスを披露してみせたりして、大いに楽しむ。
ダンスは専門外とはいえ、たしなみ程度に踊れるだけの教師や生徒らに、感嘆の溜息を吐かせるだけの腕前はあるのだ。

もっとも、背が低すぎるので、誰かとペアで踊ることはなかったが……。



「あなたも食べてばかりいないで、ディー君のところに行ってこればいいのに?」

ディーキンの様子を微笑ましく見つめながら、そういって親友をけしかけているのは、例によってキュルケである。
彼女は艶やかなドレスに身を包み、他のどの女子よりも大勢の男子生徒に取り巻かれていた。まさに今日の主役といった風情である。
もっとも今日に限らず、彼女はこの手のイベントの時は、概ねいつでもこんな感じだったが。

タバサの方はといえば、誰の傍にもよらず、キュルケ以外には先程から話した相手さえもいない。
品の良い黒いパーティドレスに身を包んで、愛用の大きな杖を傍らに置いたまま、一人黙々とテーブルの上の食事を平らげていた。
彼女は小柄で細い体に似合わず非常に食欲旺盛だが、机や服を汚すような食べ方は絶対にしないあたり、見る者が見れば育ちの良さは伺えるだろう。

タバサはキュルケの勧めを聞いて、食事の手を一旦止める。
そして、今はコルベール教師と話し込んでいるディーキンの方を、ちらりと見た。

ミスタ・コルベールは、何を思ったかロールした金髪のカツラや装飾過剰なローブなどでゴテゴテに着飾っており、周囲の失笑を買っていた。
どうも本人は、秘書のミス・ロングビルが目当てでおめかしに気合いを入れたつもりらしい。
そういえば、フーケのゴーレムが宝物庫を襲った晩も確か、似たような恰好でロングビルと一緒にいた気がする。

あいにくと彼女は昼間の仕事で疲れたのか舞踏会に姿を見せておらず、その事で先程まではいささか落ち込んだ様子であったが……。
ディーキンと話しているうちに元気を取り戻したらしく、今は目を輝かせて何やら知的な会話に夢中になっている。
その内容に興味を惹かれたのか、周囲には勉学熱心な数人の生徒らが集まって話に耳を傾けたり、質問を挟んだりしていた。

タバサは一瞬、自分もあの話の輪の中に入って会話に参加してみたい、という衝動に駆られた。
だが、自分はそんな目立つ真似をするべきではないとすぐにそれを振り払い、僅かに首を横に振って、短く返答する。

「後で」

キュルケはその返事を聞くと、目を細めて得心したようにうんうんと頷いた。

「ははあ、後でねえ……。
 そうよね、よく考えたら、今は人が多すぎるものねえ……」

彼女は一人でそう納得すると、親友の肩に腕を回して頬にひとつ接吻をしてから、取り巻きを連れて去っていった。
タバサは心なしかじとっとした目でそれを見送ると、食事を再開する。

自分の用件は、キュルケの考えているようなことではない。
とはいえ、人が多いときでは都合が悪い内容だということは確かだった。



「先生、貴族の方々からも、すごく人気があるんですね……」

パーティ会場の隅の方に控えめに佇むシエスタは、敬慕する亜人の様子を遠くから見つめて、そう嘆息した。
彼女は、本日の功労者の一人なのだから給仕ではなく参加者として出席しろとマルトーやオスマンから強く勧められて、それに従ったのだが……。
先程まではディーキンの傍にくっついて回っていたが、彼があんまり頻繁に大勢の教師や生徒に取り巻かれるので恐縮して、会場の隅に退散したのであった。

なお、その理屈で行くとデルフリンガーも参加した一人だとシエスタは考えているので、場違いなのを承知で背負って来ていた。
よく話し相手になっているエンセリックも今は留守だし、一人で置いてきたらかわいそうだ、という思いもあった。

ゆえに今の彼女は、メイド服を着て背中にはデルフリンガーを背負った、いささか場違いな格好である。
給仕ではなく参加者なのになぜメイド服のままなのかはごく単純な理由で、彼女は貴族の舞踏会に出られるような立派なドレスなど持っていなかったからだ。
もし事前に彼女がディーキンに相談していたら、きっとシエスタの分の衣装も彼が呪文で作っていただろうが、今更どうしようもない。

さっきまで大きな剣を背負ってディーキンの後について回っていた様子は、まるで彼の専属の護衛メイドか何かみたいな感じであった。
大きな剣を持ったメイドさんである。つまりはメイドさんと大きな剣である。
だからどうした、と言われても困るが。

「そうだなあ。まあ、今回の件でも実際になんか仕事したのはあの坊主と、後は秘書の姉ちゃんだけみてえなもんだしな。
 そりゃあ人気もでるだろ……、って、」

内心気に病んでいたことを言われてしょんぼりした様子のシエスタを見て、デルフリンガーは慌てて付け加えた。

「ああ、いや! 別に、おめえを責めてるわけじゃねえんだからな?」

「……そうですよね。せっかく先生からデルフさんを紹介していただいたのに……。
 今日は、何の仕事もできなくて。すみません……」

「いやいや、だから気にすんなって!
 あの亜人の坊主はえらく強えしよ、そりゃあんなのと一緒に行けば、そういうこともあらあな。
 俺はおめえに毎日訓練で使ってもらえて、それなりに満足してるよ。
 最近は鞘に収めたっきり、何ヵ月も使わねえ、手入れもしねえってろくでなしどもが多いみてえだからな!」

「……ええと、ありがとうございます。そう言ってもらえると、嬉しいです」

そう言われて急にぱっと気が晴れるというものでもなかったが、シエスタはとりあえず微笑みを浮かべて、気遣ってもらった礼を言った。

勧められて参加はしたものの、今回の件で自分が何ら貢献できたわけではないことは、よく分かっている。
それなのに、ただ同行しただけで主賓だなどといわれても、何だか申し訳ないような気がするばかり。
所詮は平民ゆえに主賓などとは名ばかりで、使用人仲間も仕事で忙しいために、ほとんど人が寄ってこないのはかえってありがたかった。

彼女は、ディーキンが他の人々との話を一段落させてルイズの元へ向かうのを見ると、自分もそちらの方へ足を運んだ……。



「ずいぶん楽しんでいるみたいね」

ルイズは、ようやく他の生徒や教師らの相手を終えて自分の元へてくてくと寄ってきたディーキンに、つまらなさそうにそう声を掛けた。

彼女は長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、やや胸元の開いた白いパーティドレスに身を包んでいた。
腕は肘まである長い白手袋に包まれており、ルイズの高貴な印象を際立たせている。

「うん。ここは、みんないい人ばかりだからね!」

ディーキンはにっと笑って、大きく頷いた。

いくら功績があったとはいえ、コボルドを同じパーティの席に上げて、こんなにちやほやしてくれるなんて。
ここの人たちはなんと心が広いのだろうかと、改めて感動することしきりである。

「ルイズは、あんまり楽しくないの?
 主役なんだから、キュルケみたいに踊ったり、お話ししたりしたほうが、みんな喜んでくれると思うのに」

ルイズの元へは、当初その美貌に惹かれた男子生徒らが集まって、盛んに彼女にダンスを申し込んでいた。
その中には、マリコルヌという少年などの、普段はルイズをからかったり侮蔑したりしている同級生も数名含まれていた。
だが、ルイズはそれらをすべて、すげなく断ってしまったのである。
どうやら目が無さそうだとわかると、貴族である彼らは体面やプライドを傷つけられるのを嫌って、彼女に申し込むのをやめた。

ならば話から入って親しくなってやろうと考えたのか、盗賊から宝物を奪い返した功績を称えたり、武勇伝を聞かせてくれと頼んだりする者もいた。
しかしルイズは、武勇伝なら私のパートナーに聞いたほうがいいと素っ気なく答えて、それ以上の話を拒絶したのである。
その後は、一人でワインをちびちび傾けたり、食事を摘まんだりしながら、ディーキンの楽しんでいる様子をぼんやりと見守っていたのだ。

「……だって、私は何もしていないじゃない。
 フーケを捕まえられたわけでもないし、あんたが殴られたときだって、何もできなかったのよ。
 それで主役気取りで楽しんでいられるほど、私はあつかましくないわ。
 ツェルプストーは、どうだか知らないけど……」

少し沈んだ様子でそう言いながら、ルイズはキュルケの方をちらりと伺った。
彼女はいつものように女王然として、取り巻きを連れてパーティの主役らしく振る舞っている。

ルイズは鼻白んだような顔をして小さく鼻を鳴らすと、ぷいと顔を背けた。

自分だって何の貢献をしたわけでもないだろうに、臆面もなく主役面をしていられるなんて。
ゲルマニアの成り上がり者は、やっぱり恥知らずだ。

「……その、でも、ミス・ツェルプストーは先日、宝物庫を襲ったゴーレムを倒すのに貢献されましたし。
 ミス・ヴァリエールも、あのゴーレムを攻撃するのに協力されていたじゃないですか。
 それに比べたら、私などは、本当に何もしていませんから……」

いつの間にやら傍にやって来ていたシエスタが、会釈をしておずおずと口を挟んだ。

「ふん……。お世辞なんかいいのよ。私の爆発は、ぜんぜん効いてなかったわ。
 何もしてないのと変わらないじゃない。私なんか居なくたって、あのゴーレムは倒せたんだから」

「い、いえ、そのようなことは……」

自嘲気味に笑ってちょっとやさぐれたような様子を見せるルイズと、なんとかフォローしようとおろおろするシエスタ。

「……ンー、」

ディーキンはそんな2人の様子をじいっと見つめると、少し首を傾げた。

「ルイズもシエスタも、すごく責任感があって立派な人だと思うの。
 でも……、ディーキンは、2人の考えにはいくつか反対したいところがあるの」

怪訝そうな、戸惑ったような目を向ける2人に、ディーキンはぴっと指を立てて見せると、自論を語り始めた。

「ええとね。まず、ディーキンは、キュルケは素敵な人だと思うの。
 それは、この間ゴーレムを倒したとかじゃなくて、今、みんなの期待に応えているからね。
 ほら、みんな楽しそうにしているでしょ?」

ディーキンはそう言って、キュルケの周りにいる人々に注意を向けるよう2人を促した。

なるほど、キュルケの周りにいる者たちは、誰もが皆、楽しげにしている。
ちょっと媚態を向けられてのぼせ上ったり、ダンスに付き合ってもらえて有頂天になったりしている男子生徒たち。
彼女が聴衆にせがまれて語る手柄話は、多分に誇張が混じっており、生真面目なルイズやシエスタにとっては眉をひそめたくなるような代物だった。
しかし周りの者たちは、皆、目を輝かせて聞き入っていた。

「今日、別に大したことをしてないのは、ディーキンも同じなの。だってゴーレムに潰されて、みんなに心配をかけただけでしょ?
 でも、英雄を期待している人たちの前では、もっと楽しい話をするの。
 ディーキンは嘘つきじゃないけど、ただ、みんなに喜んでもらいたいと思うからね」

ディーキンが控えめにそう話すのを聞くと、シエスタは素直なもので、感心したような顔をして頷いた。
しかしルイズは、むっとした様子で腰に手を当てる。

「そりゃ、あんたは詩人だから、そういうものかもしれないけど……。
 キュルケはそんなつもりじゃないわよ。あいつは、いっつも男漁りをしてる色ボケで、そのくせ飽きたら見向きもしないで捨ててるんだから。
 みんなを喜ばせてやろうなんて気のある女じゃないわ。あれはただ、調子に乗って自分の手柄を吹聴してるだけよ!」

確かにディーキンのおかげで彼女とも一緒に出かけたりして、少しは仲良くなったというか、よい部分も見えてはきたのだが……。
先祖代々の敵対関係とこれまでの不仲、それに根本的な性向の違いからくる反感は、そうあっさりと消えるものではない。

ついでに言うなら、ルイズはディーキンが初対面の時からずっと、キュルケの言動を過剰に好意的に解釈しているように思えるのが気に入らなかった。
そんな殊勝な考えなど、あの節操なしにあるはずがないのに。
仮にも自分のパートナーだというのに、どれだけあの女に肩入れするのか。

「ン~……、もしかしたら、ルイズの言う通りなのかもしれないね」

ディーキンは、それについては譲歩した。

確かにキュルケは根は善良だとは思うが、周囲の者を傷つけないようにいつも配慮している、というわけではなさそうだ。
彼女には自分の見たいように物事を見て、都合の悪いことはすぐに忘れるという面もあるように思える。
今だって、自分の楽しみのためにしているだけで、周りの者を楽しませてやろうとしているというわけではないのかもしれない。

しかし、それならそうでもいいじゃないかとディーキンは思う。
人間というのは、百点か零点かというような極端なものではないだろう。

「それでも、キュルケの周りにいる人たちが今、楽しんでるのは間違いないと思うの。
 いつもがどうだろうと、自分も楽しんで周りの人も一緒に楽しめるんだったら、キュルケが今してるのは、いいことだよ」

ルイズはまだ何か言おうとしたが、ディーキンはそれを止めて、彼女に質問した。

「それに、ルイズは、自分は何もしてないっていうけど……。
 でもディーキンが行くって言ったときに、自分から進んで名乗り出てくれたでしょ?
 だったら、たとえ結果的には役に立たなかったとしても、行こうとしなかった人たちよりは自分は偉いって思わない?」

「そ、それは、まあ……」

「でしょ? けど、あの時に名乗り出なかった人たちも、みんな楽しそうにパーティに参加してるよ?」

ディーキンはそう言って、そういった教師の一人であるギトーの方を指で示した。
正確には、一応遅れて名乗り出はしたものの、オスマンから頼りないと駄目出しをされて学校に残ったわけだが。

彼は酒が回った赤い顔で目についた生徒に次々に絡み、いつも以上に滔々と風属性最強説を披露しては、うんざりした顔をされている。
フーケ討伐に二の足を踏んで屈辱を味わったせいで、酒を飲んで管を巻きたい気分なのだろう。
とはいえ、いつもは陰気で冷たい雰囲気のギトーの珍しい一面が見れたためか、生徒らも大概苦笑こそすれど、本気で嫌がっている感じではなかった。

「ディーキンは別に、あの人たちが悪いとか、恥知らずだとは全然思わないの。
 パーティっていうのは特別なお祝いなの、参加している人には誰にだって楽しむ権利があるはずだよ。
 だからルイズにもシエスタにも、あの人たちと同じくらいにいばって今日のパーティを楽しむ権利は、絶対にあるんだよ」

「……その、そうかもしれません。いえ、そうだと思います。でも……、」

おずおずと遠慮がちに何か言おうとするシエスタを遮り、ディーキンは顔をしかめてさらに言葉を続けた。

「それにね、2人とも。何もできなかったから偉くないなんて、そんなのは間違いだよ。
 冒険者っていうのはね、仲間がみんな協力したから成功できたんだって、そう考えるものなの。
 誰が一番活躍したとか、お前は今日は活躍しなかったから取り分なしだとか……、そんなことを言ってたら、いつまでも仲良しでいられないでしょ?
 わかる? ねえ、わかる?」

ディーキンはちょっと据わった目でそう言うと、通りかかった給仕からワイングラスを受け取って、一気に飲み干した。
そして、返事に困った様子で顔を見合わせるルイズとシエスタに向けて、さらに話し続ける。

「ディーキンなんかね、冒険者になったばかりの時にボスにそんなこと言われてたら、とっくの昔に一文無しで冒険者を廃業してるはずだよ。
 ルイズやシエスタは、ディーキンがもし今日、役に立たなかったら、責めてたの? そうじゃないでしょ?」

「おっ、その通りだぜ! 娘っ子、おめえの先生の言うとおりだ。
 おめえはまだまだ駆け出しなんだし、成功するのはこれからだぜ。今日役に立ったとか立たなかったとかで落ち込む必要はねえ。
 さすがに坊主はよくわかってるぜ。強ええだけじゃなく、なかなかどうして経験も豊富らしいな?」

口を挟んだデルフリンガーに、ディーキンはエヘンと胸を張って見せた。

「でしょ? ディーキンは冒険者の中でも最高にベテランなの!
 ……ああ、いや、その、かなり……、割と……、どちらかといえばベテラン、かもしれない可能性はあるってくらいかな……?」

それから、気を取り直すように咳払いをすると、さらにぐぐっと背伸びをして。

「っていうか……、ディーキンは今日は、主役ってことなの!
 オホン、そのディーキンが、2人にもっと楽しんでほしいって言ってるんだよ。
 もし2人が主役なら、堂々と楽しむべきなの。そうじゃないっていうなら、脇役はディーキンの言うことを聞くの。
 なんて言っても、今日のディーキンはとっても偉い役なんだからね!」

びしっ、と自分たちの方に指を突きつけてそう宣言するディーキンを見て、ルイズとシエスタはつい失笑した。

ウロコに覆われているので最初はよくわからなかったが、よく見ると彼はあちこちで酒を勧められたせいか、ほろ酔い加減になっているようだ。
どうりで、さっきからよく人の言葉を遮ってまで弁舌を振るい続けたり、いつもにもまして雄弁だと思った。

「はいはい、わかったわ。あんたの言う通りよ。
 ……けど、ダンスの相手はさっきみんな断っちゃったし、そうでなくてもあいつらとはあんまり、踊りたい気分じゃないのよ。
 私にだって、パーティを楽しむために相手を選ぶ権利はあるんだから。そうでしょ?」

「ン~……、」

ルイズにそう言われて、ディーキンは首を傾けて考え込む。
当のルイズ本人は何か言われるのを待たずに、すっと自分のパートナーに近づいて屈み込み、顔の高さを合わせた。

きょとんとしたディーキンに微笑みかけると、ルイズは両手でスカートの裾を持ち上げて、丁寧に一礼する。
それから、わずかに顔を赤らめて咳払いをすると、すっと手を差した。

「小さなジェントルマン。仲間のよしみで、わたくしと一曲、踊ってくださいませんこと?」

ディーキンはちょっと目をしばたたかせると、困った風に頬をかいた。

「……その、すごくうれしいけど。
 ディーキンはおチビだから、ルイズとペアで踊るのは、難しいかもしれないよ?」

「もう……、あんたは歌も踊りも、得意なんでしょ。
 何かほら、適当な方法を考えなさいよ」

「ウーン、そう言われても……」

ディーキンがちょっと悩んでいると、シエスタも同じように脇から進み出て、ルイズと並ぶように屈んで一礼した。

「その、先生。ミス・ヴァリエールの後で、私とも踊っていただけませんか?
 貴族の方々に申し込むわけにはいきませんし、使用人仲間はみんな仕事で忙しいですから……」

頬を赤らめてそう言うシエスタをルイズは横目でじろっと睨むんだが、文句を言うような不作法はしなかった。

「オオ、シエスタも?
 でも、主役なのに使用人だから貴族と踊れないなんて、ヘンな話だとは思うけど……、」

ディーキンはそこで何か閃いたのか、ちょっと待ってねと断ってから、タバサとキュルケにも声を掛けて引っ張ってきた。

「じゃあね、この全員で、輪になって踊ればいいと思うの!
 みんながずっと、仲良しでいられるようにね。
 この舞踏会で一緒に踊った人たちは、結ばれるって言われてるんでしょ?」

大人と子供のように身長差が大きい組み合わせでは、ペアでのダンスは難しいが、手をつないで輪になって踊るのならば問題はない。
このくらいは今日の主役としての権利だと決めて、さっそく楽士たちに合いそうな音楽をリクエストすると、彼女たちと手をつないで踊り始める。

最初は少し不満そうにしていたルイズや恐縮そうにしていたシエスタも、しばらく踊るうちに楽しげな様子になっていった。
キュルケはもとより、タバサでさえも、相変わらずの無表情ながらどこか楽しげに見える。
不参加のミス・ロングビルを除く今日の主役全員が輪になって楽しげに踊っているのを、他の参加者たちも食事やおしゃべりを止めて見守った。

やがて誘われたように、一人、また一人と願い出て踊りの輪に加わる人数が増えていき、しまいには会場のほぼ全員が輪に加わっていた。

「もっと、もっと。こういうのは、気にしないで大勢でやった方が楽しいよ!」

ディーキンが提案し、責任者のオスマンがそれを快諾したことで、最後には楽士や使用人までもが、一時仕事の手を止めて踊りの輪に加わった。
楽士らの演奏はディーキンが、《動く楽器(アニメイト・インストゥルメント)》などの呪文も駆使して引き継ぐ。
そろそろお開きも近いのだから、このくらいは出しゃばっても罰は当たるまい。

「こいつはおでれーた。てーしたもんだ!
 亜人が仕切って、貴族も平民もみんなを輪になって踊らせるダンスパーティなんざ、初めて見たぜ!」

デルフリンガーがかたかたと鞘を鳴らして、楽しげにはしゃいでいる。
パーティの夜はそうして、楽しく、和やかに更けて行った……。


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